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  • 国会からの検査要請事項に関する報告(検査要請)|
  • 会計検査院法第30条の3の規定に基づく報告書|
  • 平成24年10月

東日本大震災からの復興等に対する事業の実施状況等に関する会計検査の結果について


第3 検査の結果に対する所見

1 検査の結果の概要

 会計検査院は、東日本大震災からの復興等に対する事業に関する各事項について、効率性、有効性等の観点から、〔1〕 被災の状況はどのようなものとなっているか、また、被災に対して国はどのような施策等の対応を執っているか、〔2〕 復旧・復興に係る予算はどのような経費に配分されているか、また、復興基本方針における復興施策等はどのような事業により実施されているか、〔3〕 復旧・復興予算に係る復旧・復興事業は、支出、繰越しなどの執行状況からみて、円滑かつ迅速に実施されているか、〔4〕 被災した地方公共団体において復興特別区域制度の復興推進計画、復興整備計画及び復興交付金事業計画の作成等の状況はどのようになっているか、また、これらの計画に基づく特例等はどのように適用されているか、〔5〕 被災した地方公共団体において復旧・復興事業の実施状況及び実施体制はどのようになっているかなどに着眼して、23年度に東日本大震災復興関係経費の予算が措置されている国会等16府省庁を対象として検査した。
 検査に当たっては、上記の16府省庁から調書を徴するほか、公表されている資料等を基に在庁して調査分析を行うとともに、16府省庁の内部部局等に対する会計実地検査を実施した。また、被災した地方公共団体のうち58市町村に対して調査票を送付して、その回答を徴するなどして調査分析を行った。
 検査結果の概要は、次のとおりである。

(1) 東日本大震災に伴う被災等の状況

ア 被害の概要

 23年3月11日、東北地方太平洋沖地震が発生し、宮城県北部で震度7を観測したほか東日本を中心に広い範囲で揺れを観測し、また、東北地方から関東地方北部までを中心に太平洋沿岸の広い範囲で津波を観測した。さらに、同日、福島第一原発においては、大量の放射性物質が放出されるという重大な事故が発生した。
 東日本大震災による被害は、以下のとおりである。

(ア) 人的被害

 死者、行方不明者等の人的被害は、いまだ全容の把握に至っていないが、死者15,868人、行方不明者2,848人(24年8月15日現在)等となっている(参照 )。

(イ) 建物への被害

 建物への被害については、津波により水没し壊滅した地域があり、全壊129,319戸、半壊263,925戸、一部破損725,935戸(24年8月15日現在)等となっている(参照 )。

(ウ) その他の被害状況

 海岸や河川の堤防等への被害については、海岸堤防護岸で全壊・半壊、国の直轄管理河川や県・市町村管理河川における堤防決壊や大規模崩落等の被害が確認されている。
 また、交通への被害については、高速道路や国の直轄国道等が被災により通行止めとなったのを始め、新幹線や在来線等の運転が休止となり、空港や港湾の使用が不可能になるなどした。
 さらに、農地、農業用施設、農作物等や林野及び水産関係についても、甚大な被害が発生するとともに、東北の太平洋沿岸における広範囲な地盤沈下による深刻な影響も見受けられた(参照 )。

(エ) 被害額の推計

 内閣府によれば、東日本大震災における建築物、ライフライン施設、社会基盤施設、農林水産関係等への被害額は、約16兆9000億円と推計されている(参照 )。

イ 国の被害応急対応

(ア) 緊急災害対策本部の設置及び被災者の救援・救助

 国は、23年3月11日、災害対策基本法に基づく緊急災害対策本部と原子力災害対策特別措置法に基づく原子力災害対策本部を、いずれも内閣総理大臣を本部長として設置して、翌12日には、今回の震災について激甚災害の指定を行う政令を閣議決定した。
 そして、被災者の救援・救助活動等のため、都道府県警察の広域緊急援助隊等、消防本部の緊急消防援助隊、国土交通省の緊急災害対策派遣隊(TEC-FORCE)、海上保安庁の特殊救難隊等、防衛省の自衛隊、厚生労働省の派遣要請による災害派遣医療チーム(DMAT)等が、被災地に派遣された(参照 )。

(イ) 避難の状況

 東日本大震災の発生により、多くの被災者は自宅等を離れ、避難所、親族・知人宅等へ避難することとなった。復興庁等によれば、避難者数は震災発生直後のピーク時において約47万人とされ、震災から1週間を経過した時点では、約38万人が避難所2,182か所に避難していたとされている。
 そして、24年7月末においても避難者は全国に約34万3000人いることが把握されている。このうち、原子力発電所の事故等により、長期避難を余儀なくされた福島県から県外への避難者は、約6万人と多数に上っている(参照 )。

(ウ) 仮設住宅等の状況

 国は、被災者に対する当面の住宅を提供するため、応急仮設住宅の設置を推進した。応急仮設住宅は、東北3県において53,951戸、その他4県を含めて計54,266戸の設置が必要とされ、24年8月1日時点で必要戸数の97.8%が完成している(参照 )。

(エ) 災害廃棄物等の処理

 大規模な地震及び津波により、大量の災害廃棄物等(がれき)が発生した。その量は、災害廃棄物として2162万t、津波堆積物として959万t、計3121万tに上ると推計されている。
 このうち処理・処分が行われたものは、災害廃棄物に係るものが598万t、津波堆積物に係るものが43万t、計641万tとなっている。なお、災害廃棄物等の推計量については、処分が進むにつれて、より正確な数値へと見直しが行われている(参照 )。

(オ) 原子力発電所の事故発生に伴う警戒区域等の設定

 国は、23年4月21日、福島第一原発から半径20km圏内を警戒区域に設定するとともに、同月22日、計画的避難区域、緊急時避難準備区域を設定した。
 また、国は、24年3月末まで警戒区域等としていた地域について、避難指示解除準備区域、居住制限区域、帰還困難区域として、2市1町2村、1市2村、1市1村にそれぞれ見直し、4町1村を警戒区域として、2町1村を計画的避難区域として引き続き設定している(参照 )。

ウ 国の復旧・復興への取組

(ア) 東日本大震災復興構想会議

 国は、甚大な被害を受けた被災地の復旧・復興のため、東日本大震災復興構想会議を開催し、同会議により「復興への提言〜悲惨のなかの希望〜」が取りまとめられた。
 この中で、必要な各種の支援措置を具体的に検討し、区域・期間を限定した上で、これらの措置を一元的かつ迅速に行える「特区」手法を活用することが有効であること、復興の主体である地方公共団体が、自ら策定する復興プランの下、効率性や透明性を確保しながら真に復興に役立つ事業を進めることが求められることから、使い勝手のよい自由度の高い交付金の仕組みが必要であること、現行制度の隙間を埋めて必要な事業の柔軟な実施を可能とする基金の設立を検討すべきことなどが提言された(参照 )。

(イ) 復興基本法

 復興基本法は、23年6月24日に施行され、東日本大震災からの復興の基本理念、復興のための資金の確保、復興特別区域制度の整備等に併せて、東日本大震災復興対策本部の設置及び復興庁の設置に関する基本方針が定められた(参照 )。

(ウ) 復興基本方針

 東日本大震災復興対策本部は、復興基本法に基づく国による復興のための取組の基本方針として、復興基本方針を決定した。
 復興基本方針においては、復興期間は10年間とし、当初の5年間を「集中復興期間」と位置付けている。また、国は被災者及び被災した地方公共団体の意向等を踏まえつつ、各府省一体となって、被災地域の復旧・復興及び被災者の暮らしの再生のための施策等を実施したり、復興特区制度を創設したりして、必要な支援を実施するとされている。
 そして、これらの施策を実施するため、国は、「集中復興期間」に実施する施策・事業の事業規模については、国と地方(公費分)とを合わせて、少なくとも19兆円程度と見込んでおり、10年間の復旧・復興対策の規模については、少なくとも23兆円程度を見込んでいる(参照 )。

(エ) 復興庁の設置

 復興庁は、復興庁設置法に基づき、内閣に設置され、24年2月10日に開庁した。同庁は、復興基本法の基本理念にのっとり、復興に関する内閣の事務を内閣官房と共に助けること及び主体的かつ一体的に行うべき東日本大震災からの復興に関する行政事務の円滑かつ迅速な遂行を図ることを任務としている。
 復興庁は、その任務を達成するため、関係地方公共団体が行う復興事業への国の支援その他関係行政機関が講ずる復興のための施策の実施の推進及び総合調整に係る事務を行うこととされている。また、復興に関する行政各部の事業を統括して監理することとし、関係地方公共団体の要望を一元的に受理するとともに、対応方針を定め、これに基づき事業の改善又は推進等の措置を講ずることとされている。そして、復興に関する事業に必要な予算を一括して要求し確保するとともに、実施計画を定めた上で、当該事業を自ら執行するか、又は関係行政機関に予算を配分して、対応方針及び実施計画等を通知することにより、支出負担行為の実施計画に関する書類の作製を含め、当該事業を執行させることとされている。さらに、関係地方公共団体の求めに応じて、政府全体の見地から、情報提供、助言その他必要な協力を行うこととされている(参照 )。

(オ) 福島復興再生特別措置法

 原子力災害からの福島の復興及び再生の推進を図り、東日本大震災からの復興の円滑かつ迅速な推進と活力ある日本の再生に資することを目的として、福島復興再生特別措置法が24年3月30日に成立した。この法律では、原子力災害からの福島の復興及び再生の基本となる福島復興再生基本方針の策定、避難解除等区域の復興及び再生のための特別の措置、原子力災害からの産業の復興及び再生のための特別の措置、原子力災害からの福島復興再生協議会等について定めている。
 国は、同年7月13日に、福島復興再生基本方針を閣議決定し、今後、同方針に即して、避難解除等区域復興再生計画、産業復興再生計画等の作成・認定等が実施され、復興再生のための措置が実行されるとともに、放射線による健康上の不安の解消その他の安心して暮らすことのできる生活環境の実現のための措置が実行されることとなっている(参照 )。

(2) 復興等の各種施策及び支援事業の実施状況

ア 東日本大震災の復旧・復興に係る予算及びその財源の状況

 当面の復旧事業を中心に、がれき処理、仮設住宅の建設、道路・港湾の復旧等に係る経費として財政措置された4兆0153億余円を計上した1次補正が23年5月2日に、原子力損害賠償、被災者支援等に係る経費として財政措置された1兆9106億余円を計上した2次補正が7月25日に、東日本大震災からの復旧・復興に係る経費9兆2438億余円(年金臨時財源の補填分2兆4896億余円を除く。)を計上した3次補正が11月21日にそれぞれ成立した。
 財源についてみると、1次補正は既定経費の減額等として4兆0153億余円、2次補正は前年度剰余金受入として1兆9106億余円、3次補正は復興債等として9兆2438億余円が充てられている(参照 )。

イ 東日本大震災復旧・復興事業の実施状況

(ア) 経費項目別の執行状況

 各府省庁所管の復旧・復興事業の実施状況について、23年度の予備費及び1次補正から3次補正までの経費項目別に、予算現額、支出済額、繰越額及び不用額を調査するとともに、執行状況について分析した。

a 一般会計における執行状況

 一般会計における23年度の執行状況についてみると、予算現額14兆9243億余円、支出済額9兆0513億余円、繰越額4兆7694億余円、不用額1兆1035億余円となっている。
 そして、各補正予算の一般会計における執行率についてみると、予備費100%、1次補正61.8%、2次補正75.1%、3次補正57.3%、計60.6%となっている。これらを経費項目別にみると全て執行されている経費項目が多くある一方で、年度内に全く執行されないままその大半が翌年度に繰り越されている経費や執行率が20%程度と低くなっている経費項目も見受けられ、経費項目別の執行率が区々となっている(参照 )。

b 一般会計及び特別会計における執行状況

 補正予算に計上した経費は、一般会計から特別会計に繰り入れて、復旧・復興事業を行っているものが含まれていることから、特別会計における執行状況を反映した支出率をみると、予備費100%、1次補正61.6%、2次補正69.0%、3次補正48.1%、計54.2%と、一般会計における執行率の計60.6%と比較して低くなっている(参照 )。

(イ) 事業別の執行状況(1次補正から3次補正まで)

a 支出率の状況

 各府省庁において実施されている921件の復旧・復興事業の執行状況についてみると、支出率が80%以上となっている事業は、1次補正108件(45.5%)、2次補正30件(53.5%)、3次補正209件(33.2%)、計347件(37.6%)となっており、いずれも高い割合となっている。また、支出率が20%未満となっている事業は、1次補正33件(13.9%)、2次補正7件(12.5%)、3次補正297件(47.2%)、計337件(36.5%)となっており、3次補正が1次補正及び2次補正に比べて高い割合となっている。これは、3次補正が23年11月に成立したことから、事業執行期間が約5か月となっていることなどによる。さらに、1次補正の事業であるにもかかわらず支出率が0%となっている事業がある一方で、3次補正の事業でも支出率が100%となっている事業も見受けられる(参照 )。

b 繰越しの状況

 繰越額についてみると、1次補正8142億余円、2次補正4222億余円、3次補正4兆4838億余円、計5兆7203億余円となっていて、全体の38.3%が翌年度に繰り越されている。
 そして、繰越率が100%となっている事業は、1次補正2件(0.8%)、2次補正1件(1.7%)、3次補正83件(13.2%)となっていて、3次補正が件数、割合ともに高く、628件の事業のうち240件(38.2%)が予算現額の80%以上を翌年度に繰り越している。一方、繰越率が0%となっている事業についてみると、1次補正145件(61.1%)、2次補正43件(76.7%)、3次補正279件(44.4%)となっていて、1次補正、2次補正ともに割合が高くなっているが、3次補正は他の補正予算と比べて低い割合となっている。
 繰越事由のうち、最も多くなっているのは、1次補正、2次補正、3次補正ともに「計画に関する諸条件」で全体で350件(繰越しがある事業計454件の77.0%)となっている。
 そして、「計画に関する諸条件」のうち、1次補正、2次補正及び3次補正の合計で、最も事業数が多い繰越事由は「基本計画の策定・変更」の127件(27.9%)であり、その具体的な内容は、実施事業を精査したところ、事業実施期間を十分に確保する必要があったこと、基本計画の策定に当たり、所有者同士の合意形成に時間を要したことなどのためであるとしている。また、繰越事由の「その他」の具体的な内容は、復興計画等との調整を要したこと、外部有識者からの指摘に基づき事業期間を見直したことなどのためであるとしている(参照 )。

c 不用の状況

 不用額についてみると、1次補正7038億余円、2次補正972億余円、3次補正3122億余円、計1兆1132億余円となっていて、全体の7.4%が不用となっている。
 そして、不用率が100%となっている事業は、1次補正0件(0%)、2次補正1件(1.7%)、3次補正4件(0.6%)となっている。一方、不用率が0%となっている事業についてみると、1次補正57件(24.0%)、2次補正22件(39.2%)、3次補正261件(41.5%)となっていて、補正予算別の顕著な差異は見受けられない。
 不用額及び不用が生じた事業数を不用事由別及び補正予算別に区分してみると、不用額は、予定より実績が下回ったものが最も多くなっていて、1次補正4099億余円、2次補正154億余円、3次補正1841億余円、計6095億余円となっている。また、事業数は、契約価格が予定を下回ったものが最も多くなっていて、1次補正67件、2次補正11件、3次補正200件、計278件となっている。
 復旧・復興事業に係る予算に不用額が生じていたのは、東日本大震災は過去の災害等と比べて、規模、範囲ともに被害が甚大で、被害状況等の現況把握や復旧対象工事の数量や単価の算出が困難であったこと、早期の復旧や被災者支援の観点から、予算が不足することがないよう積算していたことなどによると認められる(参照 )。

(ウ) 所管別の執行状況(1次補正から3次補正まで)

 所管別の1次補正から3次補正までの計で予算現額が1兆円以上となっている府省庁は、国土交通省2兆4186億余円、総務省2兆3747億余円、経済産業省1兆7352億余円、農林水産省1兆5217億余円、厚生労働省1兆4211億余円、復興庁1兆3141億余円及び環境省1兆1766億余円である。そして、支出率が90%以上となっている府省庁が見受けられる一方、10%以下と著しく低くなっている府省庁も見受けられた。また、所管別の事業数は、農林水産省177件、国土交通省169件、経済産業省147件、文部科学省125件等となっている(参照 )。

(エ) 実施方法別の執行状況(1次補正から3次補正まで)

 実施方法別の支出率についてみると、直轄は、1次補正62.0%、2次補正81.2%、3次補正33.5%、計50.5%、補助は、1次補正49.9%、2次補正45.4%、3次補正8.4%、計29.2%となっていて、3次補正に比べ1次補正の支出率が高くなっている。また、補助に比べて直轄の支出率が高い傾向が見受けられた。
 1次補正から3次補正までの計の支出済額及び支出率についてみると、直轄が7178億余円、50.5%、補助が1兆7488億余円、29.2%、直轄、補助等が2126億余円、20.0%、基金等が5兆3610億余円、83.6%となっていて、基金等が支出済額及び支出率ともに突出している(参照 )。

(オ) 復興施策等別の執行状況(3次補正)

 国は、復興基本方針に基づき、「災害に強い地域づくり」、「地域における暮らしの再生」、「地域経済活動の再生」及び「大震災の教訓を踏まえた国づくり」の4項目の復興施策を総合的かつ計画的に実施するとともに、原子力災害からの復興として、「応急対策、復旧対策」、「復興対策」及び「政府系研究機関の関連部門等の福島県への設置等の促進」の3項目について迅速な対応を図るとされ、府省庁では各種事業を実施している。
 そこで、3次補正で実施している628事業のうち、復興基本方針における復興施策等との関連が明確である562事業に着目して、上記7項目の復興施策等がどのように実施されているかについて検査したところ、復興基本方針の「5復興施策」に関連する事業は延べ633件、「6原子力災害からの復興」に関連する事業は延べ60件、合計693件であった。
 各府省庁が復興事業を実施する際に掲げた復興施策についてみると、「大震災の教訓を踏まえた国づくり」の252件と「地域経済活動の再生」の217件が多く、次いで「地域における暮らしの再生」の101件などとなっている。また、「6原子力災害からの復興」の60件のうち、「応急対策、復旧対策」の58件が大半を占めている。復興施策等の項目別の内訳項目についてみると、「今後の災害への備え」の169件、次いで「企業、産業・技術等」の67件が多くなっている。
 復興施策等の執行状況については、「5復興施策」は、予算現額6兆2672億余円、支出済額3兆7045億余円、支出率59.1%となっている。また、「6原子力災害からの復興」は、予算現額3994億余円、支出済額1881億余円、支出率47.0%となっている。
 復興施策等項目の内訳別の支出率についてみると、「5復興施策」は、「地域における暮らしの再生」の75.0%、「地域経済活動の再生」の70.4%の順となっている。また、「6原子力災害からの復興」は、「復興対策」の99.9%、「応急対策、復旧対策」の41.2%の順となっている。
 基金等を除いた復興施策等の執行状況についてみると、「5復興施策」は、予算現額3兆2547億余円、支出済額7142億余円、支出率21.9%となっている。「6原子力災害からの復興」では、予算現額2957億余円、支出済額844億余円、支出率28.5%となっており、基金を含めた場合と比べて大きな差異が見受けられた。
 基金等を除いた支出率の高い項目についてみると、「5復興施策」は、「地域における暮らしの再生」の42.2%、「大震災の教訓を踏まえた国づくり」の26.7%、また、「6原子力災害からの復興」では、「復興対策」の71.6%、「応急対策、復旧対策」の28.5%の順となっている(参照 )。

ウ 復興特別区域制度における各種計画の実施状況等

(ア) 特定被災区域の市町村における復興計画の策定状況等

 復興計画は、特定被災区域に指定されている227市町村のうち、24年7月末現在で37.0%に当たる84市町村において策定されていた。これを沿岸部の59市町村と内陸部等の168市町村別にみると、沿岸部の市町村では46市町村(77.9%)、内陸部等の市町村では38市町村(22.6%)が策定していた。
 また、84市町村が復興計画において掲げている施策を復興基本方針が示した施策の項目別に分類したところ、多くの市町村が取り組むこととしている施策は、「災害に強い地域づくり」については、「「減災」の考え方に基づくソフト・ハード施策の総動員」(83市町村)、「地域における暮らしの再生」については、保健、医療、介護、福祉、住まい等の住民の暮らしに関する多様な支援に係る「地域の支え合い」(83市町村)、「地域経済活動の再生」については、産業の振興、企業の支援等に係る「企業、産業・技術等」(71市町村)を記述する市町村が多く見受けられた。
 さらに、沿岸部の市町村では、内陸部等の市町村と比べて、「土地利用の再編等を速やかに実現できる仕組み等」、「水産業」、「震災に関する学術調査、災害の記録と伝承」に関する施策を掲げている割合が相対的に高くなっている(参照 )。

(イ) 復興推進計画の認定状況

 復興推進計画は、20の復興推進計画における28分類の特例が認定されている(24年8月3日現在)。また、多くの地方公共団体の区域で認定されている特例がある一方、これまでに認定の実績がない特例もある(参照 )。

(ウ) 復興整備計画の作成状況

 復興整備協議会は、28市町村において組織され、そのうち21市町村が復興整備計画を公表している(24年8月10日現在)。28市町村は全て沿岸部の市町村であり、内陸部等の市町村において復興整備協議会が組織されている市町村はない。
 また、復興整備計画に記載された復興整備事業についてみると、計13事業のうち、集団移転促進事業、市街地開発事業、都市施設の整備に関する事業が多くの市町村で計画されていた。一方、復興整備計画に全く記載されていない復興整備事業は、復興一体事業ほか7事業であった(参照 )。

(エ) 復興交付金事業計画の申請、交付状況等

 復興庁は、市町村より24年7月までに計3回の復興交付金事業計画の提出を受け、第1回復興交付金については市町村からの当面の要望事業費計4939億余円に対して3054億余円を対象事業費として計2510億余円、第2回復興交付金については同2139億余円に対して、これを上回る3165億余円を対象事業費として計2611億余円、それぞれ交付可能額として通知している。

a 復興交付金の市町村別及び事業別の交付可能額

 復興交付金が配分されている市町村を県別、沿岸部・内陸部等の市町村別にみると、第1回交付可能額及び第2回交付可能額は、そのほとんどが東北3県の市町村、沿岸部の市町村に配分されている。しかし、第2回交付可能額では第1回交付可能額に比べて、東北3県以外の市町村、内陸部等の市町村に対する交付可能額の割合が増えている。
 また、復興交付金の交付可能額に係る交付対象事業費6220億余円を基幹事業別にみると、交付対象事業費の上位3事業は、防災集団移転促進事業、災害公営住宅整備事業(災害公営住宅整備事業、災害公営住宅用地取得造成費等補助事業等)、都市再生区画整理事業(被災市街地復興土地区画整理事業等)であり、これに漁業集落防災機能強化事業(漁業集落地盤嵩上げ、生活基盤整備等)及び津波復興拠点整備事業を加えた5事業の交付対象事業費は、交付対象事業費6220億余円のうち4528億余円となっていた。一方、復興交付金の交付可能額に係る交付対象事業費が全くない事業は、医療施設耐震化事業ほか4事業であった。 
 さらに、沿岸部の市町村では、防災集団移転促進事業、災害公営住宅整備事業(災害公営住宅整備事業、災害公営住宅用地取得造成費等補助事業等)、都市再生区画整理事業(被災市街地復興土地区画整理事業等)が、内陸部等の市町村では、災害公営住宅整備事業(災害公営住宅整備事業、災害公営住宅用地取得造成費等補助事業等)、道路事業(市街地相互の接続道路等)、造成宅地滑動崩落緊急対策事業が、それぞれ交付対象事業費の上位を占めていた(参照 )。

b 復興交付金事業計画の当面の要望事業費と交付可能額

 復興交付金事業計画の当面の要望事業費と交付可能額に係る交付対象事業費を、年度別に比較したところ、23、24両年度は、当面の要望事業費に対して交付可能額が大幅に下回っている一方で、25年度以降は、当面の要望事業費に含められていないが交付可能額に含まれているものがある(参照 )。

c 復興交付金に係る交付決定、基金の造成状況等

 第1回交付可能額について、市町村ごとに、市町村分、道県分及び間接補助分の内訳並びに単年度型又は基金型の種別についてみると、単年度型を選択したのは1県3市町であり、これらに係る復興交付金計2億余円が交付決定されている。また、基金型を選択したのは4県55市町村であり、これらに係る復興交付金計2506億余円が交付決定され、23年度中に同額が基金として造成されている(参照 )。

エ 被災市町村における復興事業等の実施状況

 第1回復興交付金事業計画に基づく復興交付金交付可能額の通知を受けた58市町村の23年度の各種復旧・復興事業に対する国庫補助金や復興交付金等の交付状況及びその実施状況について検査した結果、58市町村平均の国庫補助金執行率は49.5%、復興交付金執行率は22.1%、市町村事業執行率は48.8%となっていて、このうち市町村事業執行率は最小で5.6%、最大で99.1%と市町村によって大きな差が見受けられた。
 58市町村に対する復興交付金等合計額等を復旧・復興事業の規模として、震災前の歳出決算額等と比較してみると、復興交付金等合計額等が震災前の歳出決算額等の複数年分に相当している市町村も見受けられ、また、職員1人当たりの復興交付金等合計額等からみて、これらの市町村における復旧・復興事業の実施に当たる職員に大きな事務負担が生じている。現に、会計検査院が実施したアンケートにおいて、一部の市町村は、復興事業の増加に伴う各種業務に対応するための人的支援やそのための体制整備等を要望している(参照 )。

オ 原子力災害からの復興再生

(ア) 原子力災害からの復興再生に向けた国の取組

 福島復興再生基本方針の記述は、福島県復興計画の主要施策である「原子力災害の克服」に記述されている具体的な取組に対応した記述となっていて、国、福島県及び関係市町村等は、今後、福島復興再生基本方針及び福島県復興計画に掲げられた施策に沿って具体化された各種事業を進めていくことにより、福島の復興再生の実現を推進することになっている(参照 )。

(イ) 福島県内の市町村の復興施策

 福島県内の市町村では、福島県以外の県の市町村と大きく異なり、復興計画に「原子力災害からの復興」に関する各種施策を掲げた市町村が多く、これが必須の施策となっている(参照 )。

(ウ) 福島の復興再生に関連した主な事業と平成23年度予算額

 福島復興再生基本方針等で掲げられた施策の中には、既に平成23年度補正予算において事業実施のための予算が措置されているものがある。その主な事業には、「東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質の除染事業等に必要な経費」、「重点分野雇用創造事業の拡充」、「がんばろうふくしま産業復興企業立地支援事業」等がある(参照 )。

2 所見

 国は、復旧・復興に当たり、被災地の地方公共団体に対して、既存の制度にとらわれない行政手続の簡素化や財政面及び人材面からの支援を実施し、被災地の地方公共団体が行う復興の取組を総力を挙げて支援することとしている。そして、この復旧・復興は、被災地の単なる災害復旧にとどまらない活力ある日本の再生を視野に入れた抜本的な対策及び一人一人の人間が災害を乗り越えて豊かな人生を送ることができるようにすることを旨として行われる施策の推進により実施されるべきとされていることから、復興の成果は、国民全体が感じ取れるものとするとともに、将来の世代にわたって誇ることができるものにする必要がある。
 会計検査院は、今回、東日本大震災からの復旧・復興に対する事業について検査を実施した。国及び地方公共団体は、現在全力を挙げて復旧・復興に取り組んでいるところであるが、復旧・復興のための施策は、総合的かつ中長期的な視点を有し、被災地に暮らす国民の声やその迅速性にも配慮して実施することが不可欠であり、復興庁及び関係府省等は連携して、国及び地方公共団体が行う施策が基本理念に即したものとなるよう、今後、以下の点に留意して、復興施策の推進及び支援に適切に取り組む必要がある。

(1) 被災した地方公共団体の意向や要望、取り組んでいる復興施策等を踏まえた経費の配分や事業費の積算を行うこと

(2) 東日本大震災復旧・復興関係経費の執行に当たっては、計画に基づき円滑かつ迅速に事業が実施されるよう、関係行政機関等が実施する事業の進捗状況を的確に把握するとともに、施策の実施の推進及び総合調整を行いつつ、関係行政機関等との連絡調整を速やかに行うなどして、適切、有効かつ効率的な執行に努めること

(3) 復興特別区域制度の運用に当たっては、各被災地域の被害及び復興の実情に応じて柔軟に対応するとともに、地方公共団体と十分な意見交換を行いつつ、復興推進計画の特例や復興交付金事業を活用した取組等について把握した上で、情報提供、助言その他必要な協力を行い、地方公共団体の迅速かつ着実な復興の支援に努めること

(4) 被災地の地方公共団体等は、限られた人員で震災前と比較して膨大な事業を実施して復旧・復興に取り組んでいることから、その復旧・復興事業の人的な実施体制及び制度の運用状況について現状を把握して、必要な支援に努めること

 会計検査院としては、東日本大震災の被害が甚大で、大規模なものであるとともに、地震、津波及び原子力発電所の事故による複合的なものであることなどに鑑み、要請後、できる限り速やかに、まず、被害の状況について整理した後、各府省庁や地方公共団体等が被災地を始め全国において、長期にわたり継続して実施する東日本大震災からの復旧・復興事業の実施状況等について、特に、平成23年度予算を中心に、その経費項目別、事業別等の執行状況や復興を担う市町村の復旧・復興事業の執行状況等を分析して報告することとした。そして、今後、効率性、有効性等の観点から、各種事業が、円滑かつ迅速に実施されているか、復興基本方針や復興計画に掲げられた施策に沿ったものとなっているか引き続き検査を実施するとともに、原子力災害からの復興再生についても着目して検査を実施することとし、検査の結果については、取りまとめが出来次第報告することとする。