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  • 国会及び内閣に対する報告(随時報告)|
  • 会計検査院法第30条の2の規定に基づく報告書|
  • 平成24年10月

郵便事業株式会社の経営状況について


4 所見

(1) 検査の状況の概要

 事業会社は、郵便事業を担う我が国唯一の事業主体であり、安定的な経営基盤の確立及び効率的な業務運営が求められていたが、22、23両年度決算において営業損益で赤字を発生させたことから、収支の改善が喫緊の課題となっていた。そして、この課題の解決は、局会社と合併して発足する日本郵便においても重要なものになると思料される。
 今回、会計検査院は、事業会社の収支状況を分析して、収支を悪化させていた要因を確認するとともに、事業会社の宅配便事業のJPEXへの承継及びJPEXの宅配便事業の事業会社への承継に係る計画並びに今後の収支改善に係る計画が適切に実施されてきたかなどについて検査したところ、次のような状況が見受けられた。

 事業会社は日通との共同出資によりJPEXを設立したが、事業会社の宅配便事業をJPEXに承継させることができなかったことから、投入した費用が結果的に過大なものとなってJPEXの経営を悪化させ、そのことが21年度における事業会社の損失の発生につながった。

イ 民営分社化以降の事業会社の収支状況をみると、22年度には、JPEXから宅配便事業を承継したことにより換算業務量により算定した業務量が増えたことに伴って費用も増加していたのに対して、事業会社全体の引受物数の減少により収益が減少し、収益性が低下したことから収支が悪化していた。

ウ 費用についてみると、JPEXの宅配便事業を承継した22年7月に発生した宅配荷物の配達遅延による混乱の収拾と、同様の事態を生じさせないために、要員配置を手厚くしたことに加えて、22年7月から23年8月までの間、郵便物と宅配荷物とで送達日数等をそれぞれ確保するために配置される要員が増加していたことにより人件費が増大していた。また、同様にJPEXからの事業承継の際、集配委託業務においては、宅配荷物の引受物数が想定より少ない場合、1個当たりの費用が割高な契約を締結したり、運送業務において、郵便物と宅配荷物等の混載ができなかったりしたため、集配運送委託費が増大していた。

エ 収支改善策の実施状況のうち、人件費に係るものとしては、賞与を1.3か月分削減したほか、要員の配置を改めたことなどにより節減していた。また、集配運送委託費に係るものとしては、郵便物と宅配荷物を23年8月から同一の運送便に積載できるようにしたこと、コンピュータシステムにより地域間便の積載率を把握できるようにしたことなどにより節減を図っていた。

オ 24年度の収支見通しは、収益の減少傾向は続くものの、費用のうち、人件費については、賞与の削減を23年度に引き続き行うとともに、新規社員の採用の抑制等で節減を図るとしていた。また、集配運送委託費については、委託費の節減、運送便のダイヤの見直しで節減を図るとしていた。

カ 事業会社と局会社の合併については、今後、間接部門の共通化による経費節減、情報の共有化等の営業力強化が期待される。また、局会社の郵便窓口とゆうゆう窓口は、窓口営業時間を調整することにより、合併後の経費節減に寄与することが期待される。

キ 事業会社は、収支見通しとして、目的内業務については、引受物数が下げ止まる傾向はまだ見込めない状況であるのに対して、目的外業務のうち宅配荷物及び「ゆうメール」は、依然として成長が続くものとしていた。そして、このような状況において収支の改善を図るため、収益の拡大が見込める顧客の要望に対応した新規サービスの開発を行うなどするとともに、費用の節減を図るために、生産性を向上させる次世代のコンピュータシステムの導入や、運送拠点の見直しを行うとしていた。

(2) 所見

 事業会社は、19年10月の民営分社化以降、郵便法に基づき、「郵便の役務をなるべく安い料金で、あまねく、公平に提供すること」を目的として郵便事業を実施しており、ユニバーサルサービスである郵便事業を行う郵便ネットワークの水準を維持しつつサービスを引き続き提供していくことが国民の利便の向上に役立つとしていた。そして、事業会社は、目的内業務である郵便事業を適切に運営する必要があるため、郵便事業の下支えを行う事業として、郵便事業の遂行に支障のない範囲内で目的外業務である宅配便事業等を、設立時点に受けた大臣認可により実施してきた。
 しかし、前記4(1)ア のとおり、目的外業務である宅配便事業において、日通との共同出資でJPEXを設立し、その後、JPEXから宅配便事業を承継したことにより、宅配便事業の収支が悪化したことが、現在の事業会社全体の収支悪化の主な要因となっていることから、目的外業務である宅配便事業で赤字を計上する状況が継続することは、前記3(4) のとおり、目的内業務でありユニバーサルサービスを義務付けられている郵便事業を維持していく上で支障を来すおそれがあり、郵便事業株式会社法の趣旨を損ないかねない状態となっていた。
 事業会社は、24年度事業計画等において、宅配便事業を「ゆうメール」事業と並ぶ、郵便のユニバーサルサービスを支える収益源となるよう、事業会社の強みを生かした商品を収益性や成長性の高い市場に集中的に投入するなどして収支改善に取り組み、27年度の営業損益の黒字化を目指すとしていた。
 しかし、宅配便事業は、郵便事業株式会社法の趣旨を損ないかねない状態となっていたことから、事業会社及び事業会社の事業を承継させた日本郵便が今後とも宅配便事業を実施するに当たっては、事業会社の計画を着実に遂行するなどして収益を向上させるとともに、費用の節減を図ることで、できる限り早く収支を改善する必要があると認められる。
 また、郵便事業は、過去に継続的に赤字になった場合には、費用の節減のほか、郵便料金を値上げすることによってその改善を図ってきたが、郵便物の引受物数が長期的に減少している現状を鑑みると、郵便料金の値上げを行うことにより、一層の引受物数の減少を招く可能性があることなどから、以前のように収支の改善を図ることは難しい状況である。
 事業会社は、上記の状況を踏まえ、23年度決算において、目的内業務の営業収益が引き続き減少してきている中で、目的外業務も含めて営業原価と販売費及び一般管理費のうち6割を占めている人件費及び経費の節減努力等により営業損失を前年度の1034億円から223億円へと811億円減少させており、そのうち348億円は、前記のとおり、賞与の削減によるものであったが、残りの463億円は翌年度以降も削減効果が継続する費用であったことから、24年度の事業計画においては営業収支を黒字化することを見込む状況にまで改善するとの見通しを立てていた。
 しかし、宅配便事業については、27年度までに黒字化を目指すとされていたものの、短期間に収支を黒字化することは困難な状況であることに加えて、目的内業務に係る毎年500億円程度の収益の減少傾向に歯止めがかかっていないことから、局会社との合併という収支の改善要因があるものの、賞与の削減による収支改善策を取り止めた場合には、継続的に収支を健全に保つことができるかについては予断を許さない状況である。
 会計検査院は、事業会社から郵便事業等を承継させた日本郵便の今後の経営に当たって、前記4(1)の、事業会社と局会社の合併による間接部門の共通化による経費節減、情報の共有化等の営業力強化による収益の向上、郵便窓口業務の分担整理による経費節減等、事業会社が掲げた収支改善策の実施状況や局会社との合併の効果について検査していくこととする。
 そして、事業会社から郵便事業等を承継させた日本郵便においては、郵便事業株式会社法と同じ事業目的の規定を置く日本郵便株式会社法(平成17年法律第100号)の趣旨を損なうことなく目的内業務を今後とも維持していくためには、宅配便事業の収支を改善し、その収支を今後とも健全に保つ必要があることから、JPEXから宅配便事業を承継した場合などのように送達日数等のサービス内容を変更する際はその収支に与える影響を十分に検討することはもとより、次のような取組を行うなどして、経営状況の改善に向けた一層の努力が必要である。

ア 収益面では、自ら定めた配達日数や条件などのサービス内容を適切に維持して顧客の信頼を得るとともに、目的内業務及び目的外業務のいずれにおいても顧客の需要に対応したサービスを開発すること、また、局会社と合併した効果を生かして一層の営業努力を行って、収益の拡大を図ること

イ 費用面では、目的内業務の郵便物の引受物数の減少に応じた要員の適切な配置を常に検討して生産性の向上を図るほか、多額に上る集配運送委託費の節減に努めること、また、局会社との合併によって業務の重複を解消することで費用の節減を図ること

 会計検査院としては、事業会社における郵便事業等の運営に対して行ってきた検査と同様の視点から、日本郵便に国が投じた資本金が毀損していないか、また、ユニバーサルサービスとしての郵便事業が適切に実施できるように郵便事業等が健全に経営されているかなどについて、引き続き注視していくこととする。