(前掲の「刑事施設等の整備に係る歳出予算及び国庫債務負担行為の執行が会計法令及び予算に違反していたもの」参照)
【是正改善の処置を求めたものの全文】(平成25年10月31日付け 法務大臣宛て)
標記について、会計検査院法第34条の規定により、下記のとおり是正改善の処置を求める。
記
貴省は、刑務所、拘置所等の刑事施設等における過剰収容状態を解消するなどのため、平成21年度から24年度までの間に、20刑事施設等の新営工事等の契約を歳出予算又は国庫債務負担行為に基づいて締結している。
歳出予算には、財政法(昭和22年法律第34号)第2条及び第15条第1項の規定により、支出権限及び債務負担権限が付与されていることとなっており、その債務負担権限は、同法第42条の規定により、1会計年度に支出が終わる債務を負担する権限(以下「単年度債務負担権限」という。)となっている。
一方、国庫債務負担行為は、同法第15条第1項又は第2項の規定により債務を負担する行為であり、その債務負担権限は、歳出予算に付与されている単年度債務負担権限とは異なり、次年度以降にも効力が継続する債務を負担する権限(以下「複数年度債務負担権限」という。)となっている。また、国庫債務負担行為は、同法第26条の規定により、事項ごとに、その必要の理由、行為をなす年度及び債務負担の限度額を明らかにしなければならないとされている。そして、国庫債務負担行為には支出権限が付与されていないため、国庫債務負担行為に基づいて経費の支出を行うには、当該経費を毎年度の歳出予算に改めて計上する必要がある。
支出負担行為(国の支出の原因となる契約その他の行為をいう。以下同じ。)は、会計法(昭和22年法律第35号)第11条の規定により、法令又は予算の定めるところに従い、これをしなければならないとされている。
予算決算及び会計令(昭和22年勅令第165号。以下「予決令」という。)第39条の2第1項の規定により、支出負担行為担当官は、支出負担行為をなすには、各省各庁の長から示達された支出負担行為の計画の金額を超えてはならないとされている。また、同条第2項の規定によれば、支出負担行為担当官は、会計法第13条の2の規定による支出官の確認又は同法第13条の4の規定による支出負担行為認証官の認証を受けるなどした後でなければ、支出負担行為をなすことができないとされている。そして、予決令第39条の4の規定により、支出負担行為認証官は、支出負担行為が法令又は予算に違反することがないかなどについて審査した上で適当ではないと認めたときは、認証を拒否しなければならないとされている。
歳出予算については、財政法等において、一定の条件の下に、1会計年度内に使用し終わらなかった歳出予算の経費の金額を翌年度に繰り越して使用することができるとする繰越制度が定められており、繰越制度には、財政法第14条の3の規定による明許繰越し及び同法第42条ただし書きの規定による事故繰越し(以下、これらを合わせて単に「繰越し」という。)がある。そして、歳出予算の繰越しに当たり、財政法第43条第1項の規定により、各省各庁の長は、繰越計算書を作製して、事項ごとに、その事由及び金額を明らかにして、財務大臣の承認を経なければならないとされている。
歳出予算の繰越申請等に関する事務の具体的な内容については、22年1月に財務省主計局司計課長が各省各庁会計課長等に対して発した「繰越(翌債)事務手続について」(以下「事務連絡」という。)などに定められており、事務連絡によれば、繰越計算書における申請及び承認の単位となる事項の立て方については、一つの契約、工事箇所等を単位とするなどとして、繰越しを行おうとする経費に係る事務又は事業が分かるように、場所、事業内容等を取り入れた具体的な名称を付すこととされている。そして、申請者は、事項の立て方(名称等)は適当かどうかなどについて自ら審査を行うこととされている。
本院は、合規性、有効性等の観点から、刑事施設等の整備に係る支出負担行為、繰越し等が会計法令、予算等に従って適正に行われているか、予算の執行段階における統制が機能しているかなどに着眼して検査した。
検査に当たっては、21年度から24年度までの間において、貴省本省の支出負担行為担当官(大臣官房施設課長)が、歳出予算又は国庫債務負担行為に基づいて行った計187件(当初契約74件及び契約額を増額変更した契約113回)の支出負担行為計676億9979万余円及び貴省が繰り越した計67事項の歳出予算計477億4889万余円を対象として、貴省本省において、工事等の契約、繰越計算書等の内容を確認するなどして会計実地検査を行った。また、貴省の地方官署並びに国土交通省の本省及び地方官署(以下、これらを合わせて「地方官署等」という。)における歳出予算又は国庫債務負担行為に基づく支出負担行為の金額について、契約額に関する資料の提出を求めるなどして検査を行った。
(検査の結果)検査したところ、次のような事態が見受けられた。
貴省は、刑事施設等の新営工事等の契約を締結するに当たり、施設ごとに計上された歳出予算及び国庫債務負担行為のうち、まず、国庫債務負担行為を使用した上で、契約額と国庫債務負担行為の使用額との差額に歳出予算を使用するなどしていた。
そして、検査の対象とした187件の支出負担行為のうち、64件は単年度契約(当該契約を締結した年度内に最終の履行期限が到来する契約をいう。以下同じ。)となっており、107件は複数年度契約(当該契約を締結した年度の翌年度以降に最終の履行期限が到来する契約をいう。以下同じ。)となっていた。また、残りの16件は、契約書において、履行期限を当該契約を締結した年度内と翌年度以降とに分けているものの、それぞれの履行期限に対応した契約額を設定していない契約(以下「区分不能契約」という。)となっていた。
上記の単年度契約、複数年度契約及び区分不能契約は、それぞれ歳出予算又は国庫債務負担行為に基づいて締結されており、21年度から24年度までの間における予算の執行額は、表のとおりとなっている。
表 歳出予算及び国庫債務負担行為の執行状況(平成21年度〜24年度)(単位:円)
契約区分 | 支出負担行為 | 執行した予算 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
歳出予算 | 国庫債務負担行為 | |||||
件数 | 金額 | 件数 | 金額 | 件数 | 金額 | |
単年度 | 64 | 1,576,985,848 | 64 | (1,576,985,848) 1,415,497,848 |
1 | (451,500,000) 161,488,000 |
複数年度 | 107 | 63,432,549,185 | 76 | (58,514,731,385) 31,333,191,685 |
72 | (54,083,287,450) 32,099,357,500 |
区分不能 | 16 | 2,690,257,500 | 16 | (2,690,257,500) 1,103,895,500 |
6 | (2,167,725,000) 1,586,362,000 |
計 | 187 | 67,699,792,533 | 156 | (62,781,974,733) 33,852,585,033 |
79 | (56,702,512,450) 33,847,207,500 |
貴省は、107件の複数年度契約のうち76件(契約額計585億1473万余円)及び16件の区分不能契約全て(同計26億9025万余円)に、それぞれ歳出予算(計313億3319万余円及び計11億0389万余円)を使用していた。
しかし、歳出予算には、債務負担権限として単年度債務負担権限しか付与されていないため、歳出予算に基づいて締結できる契約は単年度契約に限られることとなり、歳出予算により複数年度契約及び区分不能契約を締結することはできない。
したがって、歳出予算計324億3708万余円の執行は、会計法令及び予算に違反していたと認められる。
貴省は、64件の単年度契約のうち1件(契約額4億5150万円)及び16件の区分不能契約のうち6件(同計21億6772万余円)に、それぞれ国庫債務負担行為(1億6148万余円及び計15億8636万余円)を使用していた。
しかし、国庫債務負担行為には、債務負担権限として複数年度債務負担権限しか付与されていないため、国庫債務負担行為に基づいて締結できる契約は複数年度契約に限られることとなり、国庫債務負担行為により単年度契約及び区分不能契約を締結することはできない。
したがって、国庫債務負担行為計17億4785万円の執行は、会計法令及び予算に違反していたと認められる。
貴省は、21年度から24年度までの4か年度において、1会計年度内に支出が終わらなかったとして、計67事項の歳出予算の繰越し(計477億4889万余円)を行っていた。
これらの67事項のうち61事項の歳出予算の繰越し(計460億7702万余円)の対象となる契約については、契約を締結するに当たり、前記のとおり、国庫債務負担行為の額を使用した上で、契約額と国庫債務負担行為の使用額との差額に歳出予算を使用するなどしていたことから、各契約において、国庫債務負担行為と歳出予算が、それぞれ契約のどの部分に係る予算なのか不明となっているなどしていて、歳出予算の繰越しに当たり、繰越しの対象となる事務又は事業が判別できる契約とはなっていなかった。
このため、貴省が作製した繰越計算書において設定された全ての事項について、繰越しの対象となる具体的な事務又は事業を判別できない状況となっていた。
このような事態は、各省各庁の長が、繰越計算書を作製して、事項ごとに、その事由及び金額を明らかにして、財務大臣の承認を経なければならないなどとする繰越制度の趣旨に照らして適正を欠いていたと認められる。
貴省は、前記のとおり、複数年度契約について、国庫債務負担行為のほかに、歳出予算に基づいて締結していたことから、毎年度、貴省本省の支出負担行為担当官が締結した複数年度契約の契約額が、当該支出負担行為担当官に示達された国庫債務負担行為についての支出負担行為の計画の金額(以下「国庫債務負担行為計画示達額」という。)を超えていた。そして、21年度から24年度までの4年間において、貴省本省における複数年度契約の契約額計634億3254万余円は、国庫債務負担行為計画示達額計371億6468万円を262億6786万余円超えていた。
複数年度契約は、本来、国庫債務負担行為に基づく支出負担行為によるものであることから、貴省本省の支出負担行為担当官は、前記予決令第39条の2の規定に違反して支出負担行為を行っていたと認められる。
さらに、貴省における複数年度契約の契約額は、貴省本省の支出負担行為担当官が締結した複数年度契約の契約額と地方官署等における複数年度契約の契約額とを合計した額となり、この貴省における複数年度契約の契約額は、毎年度、国会の議決を経た刑事施設等の整備に係る債務負担の限度額を超えていた。そして、21年度から24年度までの4年間において、貴省における複数年度契約の契約額計778億0938万余円(本省分634億3254万余円、地方官署等分143億7683万余円)は、債務負担の限度額計574億6047万余円を203億4890万余円超えていた。
このような事態は、予算に違反していたと認められる。
貴省は、貴省本省の支出負担行為担当官が行う支出負担行為について、予算執行の適正を期するため必要があるとして、貴省本省の支出負担行為認証官(大臣官房施設課企画調査官)に認証を行わせている。
しかし、支出負担行為認証官は、前記のとおり、歳出予算計324億3708万余円に基づく92件の支出負担行為(複数年度契約76件、区分不能契約16件)、及び国庫債務負担行為計17億4785万円に基づく7件の支出負担行為(単年度契約1件、区分不能契約6件。ただし、区分不能契約については、件数の重複がある。)について、契約書等の支出負担行為の内容を示す書類の審査を十分に行っておらず、これらが会計法令及び予算に違反しているのに、認証を拒否していなかった。
このような事態は、支出負担行為の段階における支出負担行為認証官による統制が十分に機能していなかったと認められる。
以上のとおり、歳出予算及び国庫債務負担行為のそれぞれにより付与された権限を超えた支出負担行為が行われていたり、支出負担行為の額が示達額及び予算を超えていたりしていて、会計法令及び予算に違反している事態、繰越しが繰越制度の趣旨にのっとって行われていない事態及び支出負担行為認証官による統制が十分に機能していない事態は、いずれも適切とは認められず、是正改善を図る要があると認められる。
(発生原因)このような事態が生じていたのは、貴省において、次のことなどによると認められる。
歳出予算及び国庫債務負担行為は、国会において審議を受け議決を経ており、予算の執行等に当たっては、会計法令、予算等に基づいて行われる必要がある。また、その際には、予算執行の適正を期するために必要であるとして設置された支出負担行為認証官による統制を十分に機能させる必要がある。
ついては、貴省において、会計事務担当者に対して、研修を実施するなどして、歳出予算及び国庫債務負担行為に付与された権限の内容、繰越制度の趣旨等の予算執行等を適正に行うために必要な会計法令等における基本的事項について周知徹底を図るとともに、歳出予算及び国庫債務負担行為のそれぞれに対応する内容を記載することとする契約書のひな形、予算の執行等を行う上での留意点や執行段階における支出負担行為認証官による統制を十分に機能させる上での留意点をまとめたマニュアル等を作成して、これらを十分に周知することにより、予算の執行等が適正に行われるよう是正改善の処置を求める。