独立行政法人日本学術振興会(以下「振興会」という。)は、独立行政法人日本学術振興会法(平成14年法律第159号)等に基づき、文部科学省が所掌する科学研究費補助金の交付対象となる一部の研究種目等について、平成11年度から国の補助金を財源として、科学研究費補助金(以下「補助金」という。)を交付している。
補助金は、我が国の学術を振興するために、人文・社会科学から自然科学まであらゆる分野における優れた独創的・先駆的な研究を格段に発展させることを目的として交付するものであり、交付の対象となる研究種目等には基盤研究等がある。
補助金の交付の申請をすることができる者は、「独立行政法人日本学術振興会科学研究費補助金(基盤研究等)取扱要領」(平成15年規程第17号。以下「取扱要領」という。)等により、大学、大学共同利用機関等の学術研究を行う機関(以下「研究機関」という。)に所属する研究者が科学研究を行う場合は、当該科学研究を行う研究者の代表者(以下「研究代表者」という。)等とされている。
補助の対象となる経費は、「科学研究費補助金(科学研究費及び学術創成研究費)の取扱いについて」(平成15年文科振第92号文部科学省研究振興局長通知。以下「局長通知」という。)等により、研究で使用する消耗品等(以下「研究用物品」という。)の購入費等の研究計画の遂行等に必要な経費(直接経費)のほか、一部の研究種目については、研究の実施に伴い研究機関において必要となる管理等に係る経費(間接経費)とされており、間接経費の額は原則として直接経費の30%とされている。
交付された補助金の管理方法については、局長通知等により、研究代表者等は、所属する研究機関に補助金の管理を行わせることとされている。
本院は、合規性等の観点から、交付された補助金が研究機関において取扱要領、局長通知等に従って適切に管理されているかなどに着眼して、振興会及び37研究機関において会計実地検査を行った。そして、上記の研究機関に係る346事業主体(346研究代表者等)が行っている498研究課題について納品書、請求書等の書類により検査するとともに、補助金の管理が適切でないと思われる事態があった場合には、研究機関に報告を求めて、その報告内容を確認するなどの方法により検査した。
検査したところ、次のとおり不適正な経理処理を行っている事態が見受けられた。
振興会は、学校法人千葉工業大学(以下「千葉工業大学」という。)に所属する研究者を研究代表者とする研究課題を対象として、19、20両年度に補助金計10,270,000円(直接経費7,900,000円、間接経費2,370,000円)を交付しており、千葉工業大学が補助金の管理を行っていた。
しかし、上記の研究代表者は、交付された補助金の一部を配分して執行させることが取扱要領等により認められていない研究協力者(20年度は連携研究者(注1))であった研究者A(注2)が補助金の一部を任意に使用することを認めていた。そして、研究者Aは、業者に架空の取引等を指示して虚偽の納品書、請求書等を作成させ、これにより千葉工業大学に購入代金計1,459,582円を支払わせて、納品書、請求書等に記載された内容とは異なる研究用物品の購入代金に充てるなどしていた。
したがって、上記の購入代金計1,459,582円は、補助の対象となる経費とは認められず、国庫補助金計1,897,456円(直接経費計1,459,582円、間接経費計437,874円)が過大に交付されていて不当と認められる。
このような事態が生じていたのは、研究者Aにおいて、補助金の原資は税金等であるにもかかわらず事実に基づく適正な会計経理を行うという基本的な認識が欠けていたこと、研究代表者において、補助金の執行における管理等が十分でなかったこと、千葉工業大学において、研究用物品の納品検査等が十分でなかったこと、振興会において、研究機関等に対する補助金の不正使用の防止についての実施基準等の導入や指導を行っていたものの、その周知徹底が十分でなかったことによると認められる。