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  • 平成24年度 |
  • 第4章 国会及び内閣に対する報告並びに国会からの検査要請事項に関する報告等 |
  • 第2節 国会からの検査要請事項に関する報告

第2 三菱電機株式会社等による過大請求事案について


要請を受諾した年月日
平成24年9月4日
検査の対象
内閣官房、総務省、防衛省、独立行政法人情報通信研究機構、独立行政法人宇宙航空研究開発機構
検査の内容
三菱電機株式会社等による過大請求事案についての検査要請事項
報告を行った年月日
平成25年9月25日

1 検査の背景及び実施状況

(1) 検査の要請の内容

会計検査院は、平成24年9月3日、参議院から、国会法第105条の規定に基づき下記事項について会計検査を行いその結果を報告することを求める要請を受けた。これに対し同月4日検査官会議において、会計検査院法第30条の3の規定により検査を実施してその検査の結果を報告することを決定した。

一、会計検査及びその結果の報告を求める事項

(一) 検査の対象

内閣官房、総務省、防衛省、独立行政法人情報通信研究機構、独立行政法人宇宙航空研究開発機構

(二) 検査の内容

三菱電機株式会社等による過大請求事案に関する次の各事項

  • ① 過大請求の経緯、方法、内容等の状況
  • ② 防衛省等における監査等の実施状況
  • ③ 損害賠償の請求、再発防止策の策定等の状況

(2) 24年次の会計検査の実施状況

本院は、上記の要請により、三菱電機株式会社(以下「三菱電機」という。)、その子会社である三菱スペース・ソフトウエア株式会社(以下「MSS」という。)、三菱プレシジョン株式会社(以下「プレシジョン」という。)、三菱電機特機システム株式会社(以下「三電特機」という。)及び関連会社である太洋無線株式会社(以下、「太洋無線株式会社」を「太洋無線」といい、これら4社を「関係4社」という。)並びに住友重機械工業株式会社(以下「住友重機械」という。)及びその子会社である住重特機サービス株式会社(以下、「住重特機サービス株式会社」を「住重特機」といい、両社を合わせて「住友重機械等」という。)による過大請求事案(以下「三菱電機株式会社等による過大請求事案」という。)に関し、内閣官房内閣情報調査室内閣衛星情報センター(以下「衛星センター」という。)、総務省、防衛省、独立行政法人情報通信研究機構(以下「通信機構」という。)、独立行政法人宇宙航空研究開発機構(以下「宇宙機構」という。)等を対象として、24年次に会計検査を実施した。そして、前記の①過大請求の経緯、方法、内容等の状況、及び②防衛省等における監査等の実施状況についての会計検査の結果を、「三菱電機株式会社等による過大請求事案に関する会計検査の結果について」の報告書として取りまとめ、24年10月25日に、会計検査院長から参議院議長に対して報告した(以下、この報告を「24年報告」という。)。

24年報告の検査の結果に対する所見は、本院としては、内閣官房、総務省、防衛省、通信機構及び宇宙機構が今後行うこととしている損害賠償の請求、再発防止策の策定等の状況に係る検証等を中心に引き続き検査を実施して、検査の結果については、取りまとめが出来次第報告することとした。

また、本院は、24年報告において取り上げた防衛省等における監査等の実施状況のうち、早急に改善策を講ずる必要があるものなどについては、予算の執行のより一層の適正化を図るよう、24年10月25日に、内閣総理大臣、総務大臣、防衛大臣、独立行政法人情報通信研究機構理事長及び独立行政法人宇宙航空研究開発機構理事長に対して、それぞれ会計検査院法第36条の規定により意見を表示した(以下、これらの意見表示を「会計検査院の意見表示」という。)。

(3) 25年次の検査の観点、着眼点、対象及び方法

ア 検査の観点及び着眼点

前記のとおり、本院は、24年報告において、内閣官房、総務省、防衛省、通信機構及び宇宙機構が今後行うこととしている損害賠償の請求、再発防止策の策定等の状況に係る検証等を中心に引き続き検査を実施して、検査の結果については、取りまとめが出来次第報告することとしている。

また、海上保安庁が住友重機械等及び三菱電機と締結している巡視船艇に搭載する武器及び武器管制装置(以下「武器等」という。)の製造・定期整備に係る契約は、防衛省が住友重機械等及び三菱電機と契約している防衛装備品の製造、修理等と同じラインにおいて製造・定期整備が行われていることなどから、海上保安庁についても防衛省と同種の事態が生じていないか検査する必要がある。

さらに、株式会社島津製作所(以下「島津製作所」という。)は、25年1月25日に、防衛省と締結した契約に係る工数を過大に申告して過大請求を行っていたことを認めて公表しており、このことはマスコミにおいても報道されている。

そこで、本院は、三菱電機株式会社等による過大請求事案に関し、前記の③内閣官房、総務省、防衛省、通信機構及び宇宙機構が行った損害賠償の請求、再発防止策の策定等の状況を中心として、合規性、経済性、有効性等の観点から検査を実施するとともに、これらと併せて海上保安庁が住友重機械等及び三菱電機と締結している巡視船艇に搭載する武器等の製造・定期整備に係る契約並びに防衛省が島津製作所と締結している防衛装備品等の調達に関する契約についても、前記①、②及び③に準じて検査を実施した。

検査の着眼点については、以下のとおりである。

(ア) 損害賠償の請求の状況

防衛省、宇宙機構、衛星センター、通信機構及び総務省における過大請求額(過払額)、違約金及び遅延損害金(延滞金)の算定方法は適切なものとなっているのか、過払額等は当該算定方法に基づいて適正に算定されているのか、また、過払額等の請求は適切に行われているのか。

(イ) 再発防止策の策定等の状況

防衛省、宇宙機構、衛星センター、通信機構及び総務省は、過大請求の発生原因等に対応した適切な再発防止策を策定しているのか、また、三菱電機、関係4社及び住友重機械等における内部統制、各種の法令遵守等の施策等は適切に改善されているのか。

(ウ) 海上保安庁が住友重機械等及び三菱電機と締結している契約

予定価格の算定基礎となっている見積書は製造・定期整備の実態を反映した適切なものとなっているのか、特に見積工数と実績工数がかい離していないのか、また、かい離している場合、海上保安庁はどのような対応を執っていたのか。

(エ) 島津製作所による過大請求の経緯、方法、内容等の状況

過大請求はどのような経緯及び方法で行われていたのか、特に工数の水増し等はどのような方法で行われていたのか、また、過大請求の目的、動機及び背景はどのようなものか。

イ 検査の対象及び方法

本院は、24年報告において、防衛装備品等の調達については、防衛省が19年度から23年度までの間に三菱電機、関係4社及び住友重機械等と締結した防衛装備品等の調達に関する請負契約等を対象として、人工衛星等の研究、開発等については、宇宙機構、衛星センター、通信機構及び総務省が三菱電機又は関係4社と締結した情報収集衛星の研究、開発等に係る委託契約等のうち、19年度から23年度までの間に履行の全部又は一部を完了した契約を対象として検査を行った。

今回は、24年報告において検査対象としたこれらの契約に加えて、防衛省等が過払額の算定対象とした契約のうち24年報告において検査対象となっていなかった18年度以前の契約及び24年1月以降に締結された指名停止中の契約を対象にするとともに、海上保安庁が19年度から24年度までの間に住友重機械等及び三菱電機と締結した巡視船艇に搭載する武器等の製造・定期整備に係る契約並びに防衛省が19年度から24年度までの間に島津製作所と締結した防衛装備品等の調達に関する請負契約等を対象として検査を行った。

検査に当たっては、防衛省内部部局、同省情報本部、同省装備施設本部、航空自衛隊第4補給処、宇宙機構筑波宇宙センター、衛星センター、通信機構本部、総務本省、海上保安庁本庁等において、過払額、違約金及び延滞金を算定した過払額算定シート等の関係書類を徴したり、再発防止策の内容等を確認したりするなどの方法により、会計実地検査を行った。さらに、三菱電機鎌倉製作所及び同社通信機製作所、関係4社、住友重機械等、島津製作所等の各製造拠点に赴いて、過払額の算定対象となった契約等の一部を抽出して、関係資料や社内の調査資料を確認したり、関係者に説明を求めたり、製造現場を確認したりなどの方法により、会計実地検査を行った。これらの会計実地検査には、防衛省、宇宙機構、衛星センター、通信機構、総務省及び海上保安庁に対して125.6人日、三菱電機、関係4社、住友重機械等、島津製作所等に対して240.3人日、計365.9人日を要した。また、これらのほか、在庁して会計実地検査で収集した関係書類等の分析、検討等の検査を行った。

2 検査の結果

(1) 損害賠償の請求、再発防止策の策定等の状況

ア 損害賠償の請求の状況

(ア) 三菱電機

防衛省、宇宙機構、衛星センター、通信機構及び総務省の三菱電機に対する過払額、違約金、延滞金等の算定対象期間、算定対象となる契約の範囲、算定方法及び算定額については、表1のとおりである。

表1 過払額等の算定対象期間、算定対象となる契約の範囲、算定方法等(三菱電機)

(単位:件(上段)、千円(下段))
調達機関 防衛省 宇宙機構 衛星センター 通信機構 総務省
算定対象期間 平成15〜23年度 6〜22年度 16〜22年度 17〜22年度 18〜20年度
原則として17年度から23年度までの間に契約の履行が完了して代金を支払った契約(それ以前でも、過払額の算定が可能な関係書類が保存されていた契約も対象) 算定可能な関係書類等が保存されている場合は可能な限り過去に遡る 算定可能な関係書類等が保存されている場合は可能な限り過去に遡る 17年度以降に締結した契約のうち、原価監査等を完了し、額が確定した契約
算定対象となる契約の範囲 準確定契約、概算契約、超過利益返納条項付契約、一般確定契約、間接調達、社供 上限付概算契約 概算契約 上限付概算契約 概算契約
個別方式 1,075 44 9 11
670,690,731 363,961,005 551,934 20,440,967
決算書方式 7か年度
257,727,700
算定方法 個別方式 ・バックアップデータ等を使用する方法準TSを設定する方法
・負荷工数を使用する方法
・コスト・ドライバーにより配分する方法
・工数発生パターンを標準モデル化する方法
・バックアップデータ等を使用する方法
・負荷工数を使用する方法
・補完率を乗ずる方法
・直作率の比率を乗ずる方法
・負荷工数を使用する方法
・再積算した負荷工数を使用する方法
・バックアップデータ等を使用する方法
・負荷工数を使用する方法
・補完率を乗ずる方法
・バックアップデータ等を使用する方法
決算書方式 ・個別方式で算定困難なもの
・間接調達で下請承認を受けていないもの
算定額 過払額 個別方式 464 18 4 10 3
21,945,802 6,174,664 24,496 724,802 17,977
決算書方式 5か年度
2,824,347
小計 24,770,150 6,174,664 24,496 724,802 17,977
違約金 322 18 3
19,767,887 5,547,193 616,025
延滞金 4,973,871 2,019,941 4,787 112,738 8,103
旅費等 206,006 5,915
49,511,910 13,947,805 29,284 1,459,481 26,081
合計 64,974,563
注(1)
過払額等は単位未満を切り捨てているため、合計しても計欄の金額と一致しないものがある。以下、表2及び表3において同じ。
注(2)
間接調達とは、三菱電機等が下請先となっている契約である。以下、表2及び表3において同じ。
注(3)
社供とは、一方の製作所が製造等の業務の一部を実施して、他方の製作所に成果物等を供給することである。
注(4)
個別方式とは、個別の契約ごとに過払額を算定する方式であり、決算書方式とは、防衛省売上高から適正な売上金額を差し引いて算定する方式である。以下、表2及び表3において同じ。
注(5)
準TSとは、標準作業時間(TS)に準じて設定した作業時間である。
注(6)
負荷工数とは、事業別・機種別の損益管理や人員計画の基礎データとして用いられる、設計・試験作業のために機種別に必要な人員数を見積もった負荷計画に計上された工数である。
注(7)
コスト・ドライバーとは、原価計算において、製品別にコストを配賦するための配賦基準である。以下、表2において同じ。
注(8)
直作率とは、工数の在場時間(業務始業から終業までの時間から休憩時間を引いた時間)に対する割合である。
注(9)
旅費等とは、特別調査等に係る職員旅費、弁護士・公認会計士等への報酬等の費用の補填請求等のことである。以下、表2及び表3において同じ。
注(10)
表中の金額は、消費税及び地方消費税抜きの金額である。以下、表2及び表3において同じ。

防衛省、宇宙機構、衛星センター、通信機構及び総務省は、過払額等について請求を行い、三菱電機は、25年2月13日までに、全額を納付していた。

上記の過払額等の算定等について検証した結果、防衛省、宇宙機構、衛星センター及び通信機構において過払額が過小又は過大に算定されている事態が見受けられた。また、違約金について、防衛省において、資料の信頼性確保に関する特約条項(以下「信頼性特約」という。)が付されておらず、違約金を2件、計551万余円請求できなかった事態が見受けられた。

また、防衛省等がそれぞれの判断に基づき対応した結果、過払額の算定方法、違約金の算定対象期間、特別調査等に係る費用負担について、区々となっている事態が見受けられた。

(イ) 関係4社

防衛省、宇宙機構、衛星センター、通信機構及び総務省の三菱電機に対する過払額、違約金、延滞金等の算定対象期間、算定対象となる契約の範囲、算定方法及び算定額については、表1のとおりである。

表2 過払額等の算定対象期間、算定対象となる契約の範囲、算定方法等(関係4社)

(単位:件(上段)、千円(下段))
調達機関 防衛省
会社 MSS プレシジョン 三電特機 太洋無線
算定対象期間 平成16〜23年度 13〜23年度 15〜23年度 14〜23年度
原則として17年度から23年度までの間に契約の履行が完了して代金を支払った契約(それ以前でも、過払額の算定が可能な関係書類が保存されていた契約も対象)
算定対象となる契約の範囲 準確定契約、概算契約、超過利益返納条項付契約、一般確定契約、間接調達
個別方式 207 1,660 1,889 636
3,406,642 34,835,439 59,254,133 2,405,052
決算書方式 7か年度 7か年度 7か年度 9か年度
7,086,948 20,837,863 35,258,098 5,465,120
算定方法 個別方式 ・バックアップデータ等を使用する方法 ・バックアップデータ等を使用する方法等 ・コスト・ドライバーにより配分する方法 ・バックアップデータ等を使用する方法等
決算書方式 ・システム開発における生産性指標の範囲内の確定契約等 ・個別方式で算定が困難なものなど ・コスト・ドライバーの性質上作業実態等とかけ離れた配分結果となるものなど ・個別方式で算定が困難なものなど
算定額 過払額 個別方式 103 261 1,011 415
601,172 914,802 2,956,826 936,845
決算書方式 4か年度 4か年度 3か年度
303,772 608,804 554,728
小計 904,945 914,802 3,565,631 1,491,574
違約金 38 113 594 195
511,907 826,728 2,972,254 1,156,138
延滞金 169,988 185,056 716,999 320,806
旅費等
1,586,840 1,926,586 7,254,885 2,968,519

防衛省は、過払額等について請求を行い、関係4社は、25年2月13日に、全額を納付していた。

上記の過払額等の算定等について検証した結果、違約金について、MSSとの契約及び三電特機との契約において、本来、過払額の2倍の額の違約金とする信頼性特約を付すべきであるのに、誤って過払額と同一額としていたため、違約金をそれぞれ1件、973万余円及び5件、計1814万余円請求できなかった事態が見受けられた。

また、宇宙機構、通信機構及び総務省は、関係4社に対して過大請求を認定しておらず、さらに、衛星センターは関係4社との契約がないことから、過払額等の請求を行っていない。

(ウ) 住友重機械等

防衛省の住友重機械等に対する過払額、違約金、延滞金等の算定対象期間、算定対象となる契約の範囲、算定方法及び算定額については、表3のとおりである。

表3 過払額等の算定対象期間、算定対象となる契約の範囲、算定方法等(住友重機械等)

(単位:件(上段)、千円(下段))
調達機関 防衛省
会社 住友重機械 住重特機
算定対象期間 平成14〜23年度 16〜23年度
原則として17年度から23年度までの間に契約の履行が完了して代金を支払った契約(それ以前でも、過払額の算定が可能な関係書類が保存されていた契約も対象)
算定対象となる契約の範囲 準確定契約、概算契約、超過利益返納条項付契約、一般確定契約、間接調達
個別方式 1,427 445
29,007,033 6,635,095
決算書方式 7か年度
5,593,579
算定方法 個別方式 ・バックアップデータ等を使用する方法 ・バックアップデータ等を使用する方法等
決算書方式 ・個別方式で算定が困難なものなど
算定額 過払額 個別方式 449 285
1,196,157 1,183,654
決算書方式 3か年度
33,842
小計 1,229,999 1,183,654
違約金 260 179
735,779 1,241,551
延滞金 329,994 265,358
旅費等
2,295,774 2,690,565

防衛省は、過払額等について請求を行い、住友重機械等は25年2月13日までに、全額を納付していた。

上記の過払額等の算定等について検証したところ、検証した範囲では、特に報告すべき事態は見受けられなかった。

なお、前記のとおり、防衛省が三菱電機、MSS及び三電特機と締結した防衛装備品等の調達に関する契約において、信頼性特約を付すべきであるのに誤って付していなかったなどのため、違約金を請求できなかったなどの事態が見受けられたことから、現在履行中の契約のうち信頼性特約が付されていないなどの契約については、特約条項を付すことができるよう契約相手方と協議するなど是正の処置を講ずることとするとともに、防衛省の各調達機関に対して特約条項の的確な履行が確保されるよう、25年9月25日、防衛大臣に対し、会計検査院法第34条の規定により是正及び是正改善の処置を求めた(0577前掲意見を表示し又は処置を要求した事項参照)。

イ 再発防止策の策定等の状況

防衛省、宇宙機構、衛星センター、通信機構及び総務省は、24年報告及び会計検査院の意見表示を踏まえるなどして、表4のとおり、再発防止策を策定するなどしている。

表4 防衛省等における再発防止策の策定の状況

調達機関 防衛省 宇宙機構 衛星センター 通信機構 総務省
資料の信頼性確保 帳票類の保存義務期間 1年 上限付概算契約:5年
確定契約:1年
5年 上限付概算契約:原則7年
確定契約:1年
5年
違約金の額(過払額の倍率) 1〜4倍 2倍 2倍 2倍 1倍
契約に内在する課題 競争性、透明性等の確保 ・一般競争入札から除外する契約の条件の明確化の検討
・落札判定書及び商議記録の作成
実績コストの把握、蓄積による見積査定精度の向上等を図ることを目的に、検討チームを設置
契約相手方に対するコスト削減へのインセンティブ ・リスク料を利益率に付加
・インセンティブ契約制度について、新たな適用方式等の設定や、インセンティブ料率を55%から100%まで段階化等
原則確定契約化 原則確定契約化 確定契約化を含め契約相手方にインセンティブが働くような契約手法を検討 確定契約化を検討
ペナルティの実効性 ・違約金の賦課により対応
・指名停止措置の基準を制定
真にやむを得ない場合の判断基準の明確化(随意契約基準) 指名停止措置の基準を検討 指名停止措置の基準を検討
制度調査 ・事前通告なしの抜き打ち調査の実施の明確化
・フロアチェックの充実・強化
・実施項目、実施方法の制定等
・事前通告なしの抜き打ち調査の実施の明確化
・フロアチェックの充実・強化
・実施内容の明確化等
・事前通告なしの抜き打ち調査の実施の明確化
・実施要領等の整備等
・事前通告なしの抜き打ち調査の実施の明確化
・実施要領等の整備等
原価計算方式で予定価格を算定していないため制度調査を実施する予定はない。
原価監査等 ・事前通告なしの抜き打ち監査の実施の明確化
・フロアチェックの充実・強化
・実施項目、実施方法の制定
・地方調達機関による実施要領の整備等
・事前通告なしの抜き打ち監査の実施の明確化
・実施内容の明確化
・宇宙機構の技術部門等との連携による実施等
・事前通告なしの抜き打ち調査の実施の明確化
・実施要領等の整備
・事前通告なしの抜き打ち調査の実施の明確化等
・実施要領等の整備
・事前通告なしの抜き打ち調査の実施の明確化
・実施項目、実施方法等の制定等
内部統制、各種の法令遵守等 ・企業からのコンプライアンス要求事項確認書の提出
・コンプライアンス要求事項の実施状況の確認、是正措置要求
・企業内の牽制機能の活用
・内部統制、各種の法令遵守等に係る施策等の状況確認
・内部統制、各種の法令遵守等に係る施策等の状況確認等 ・内部統制、各種の法令遵守等に係る施策等の状況確認 ・内部統制、各種の法令遵守等に係る施策等の状況確認
(注)
フロアチェックとは、作業現場に赴いて作業の実態、工数計上の手続等を実地に確認するための調査のことである。

主な再発防止策について具体的に記述すると、次のとおりである。

(ア) 資料の信頼性確保に関する措置

違約金について、①防衛省は、25年3月に新たに「資料の信頼性確保及び制度調査の実施に関する特約条項」(以下「新信頼性特約」という。)を定めて、違約金の額を、契約相手方の対応により過払額の1倍、2倍又は4倍とする段階的な違約金の賦課を定めた。②宇宙機構及び通信機構は、24年1月以降、違約金の額を過払額と同一額から2倍の額に引き上げた。③衛星センターは、同年3月以降、過払額の2倍の額の違約金の賦課を定めた。④総務省は、25年4月以降、過払額と同一額の違約金を課す契約条項を追加することとした。

また、関係資料の保存義務について、防衛省は、現行の1年で支障はないとして保存期間の延長を検討していない。これに対して、宇宙機構は、25年7月に上限付概算契約について保存期間を1年から5年に延長するなどしたり、衛星センターは、同年4月に5年に延長するなどしたり、通信機構は、同年6月に原則7年に延長するなどしたりしていた。また、総務省は、従来、保存期間を5年としている。

(イ) 人工衛星等の研究、開発等に関する契約に内在する課題等

宇宙機構が採用する上限付概算契約は、防衛省の準確定契約、超過利益返納条項付契約又は概算契約(以下、これらを「準確定契約等」と総称する。)と同様に、契約相手方において、コスト削減へのインセンティブが働きにくい制度となっている。

これに対して宇宙機構は、技術提案方式を採用するなど競争性の確保に努めている契約については、従来、確定契約で締結することとしており、現時点での上限付概算契約は、受託に基づく支出契約のみであるとしている。そして、確定契約に当たっては、他の人工衛星等の研究開発において、過去の研究開発によって培った経験を踏まえつつ、複雑かつ高度なものであっても仕様要求が明確になった部分をその都度契約し、契約変更を重ねることで不確定性の排除に努めてきたとしている。そこで、受託元である衛星センターにおいては、企画競争が可能な衛星開発等について原則として確定契約に変更するとの意向であることを受け、宇宙機構は、25年6月に衛星センターと合意書を締結して、上限付概算契約から原則として確定契約に変更することとした。また、衛星センターは、上記のとおり概算契約から原則確定契約に変更する意向であり、通信機構は、上限付概算契約からの確定契約化を含め、契約相手方にインセンティブが働くような契約手法を検討することとしている。さらに、総務省は、概算契約を採用していた調達案件について競争性のある確定契約に移行できるものはないか検討するとしている。

しかし、情報収集衛星の開発等については、仕様が複雑かつ高度であるなどのため、契約締結時に長期にわたる開発等の予定価格を適切に算定することができない場合があることから、そのような場合には上限付概算契約又は概算契約(以下、これらと準確定契約等と合わせて「概算契約等」と総称する。)により契約を締結してきているものもある。宇宙機構等は、開発コストの実績内訳を把握し蓄積して活用し、精度の高い見積査定を行うことなどにより、予定価格をより適切に算定していくことを検討していくなどとしているが、これらの体制が十分に整備されておらずその効果も発現していない現段階においては、概算契約等としていた契約を一律に確定契約に変更することついて、慎重に判断していくことが必要である。

表4のほか、財務省は、三菱電機株式会社等による過大請求事案を受け、25年4月に、各省各庁に対し、防衛省において講ずることとした措置の基本的考え方に倣い、契約手続の一層厳正な執行に努めるよう事務連絡を発している。

(2) その後判明した事案

ア 海上保安庁が住友重機械等及び三菱電機と締結していた契約

(ア) 海上保安庁における契約の概要

海上保安庁は、海上保安庁法(昭和23年法律第28号)等に基づき、巡視船艇、武器等、船舶需品等の調達を実施しており、このうち20㎜機関砲等の製造及び40㎜機関砲の製造・定期整備を住友重機械と、20㎜機関砲等の定期整備を住重特機と、武器管制装置の製造を三菱電機とそれぞれ請負契約により実施している。これらの契約については、防衛省の防衛装備品の製造、修理等と同じラインで製造・定期整備が行われており、19年度から24年度までの間の契約実績は、表5のとおりとなっている。

海上保安庁は、武器等の製造・定期整備に係る予定価格の算定に当たり原価計算方式を採用しており、住友重機械等及び三菱電機から材料費、労務費、直接経費等を記載した見積書を徴している。このうち製造・定期整備に係る労務費は、見積工数等に海上保安庁が労務費単価の基準として毎年度作成している住友重機械等及び三菱電機の労務費単価を乗じて算定している。

表5 海上保安庁と住友重機械等及び三菱電機との契約の概要

(単位:件(上段)、千円(下段))
調達機関 海上保安庁
会社 住友重機械 住重特機 三菱電機
主な製造拠点 田無製造所 田無製造所(本社) 鎌倉製作所
契約実績 15
7,649,800
152
675,336
5
2,719,617
(注)
契約実績は、消費税及び地方消費税込みの金額である。
(イ) 見積工数と実績工数とのかい離の状況等

本院が海上保安庁と住友重機械等及び三菱電機との契約における見積工数と実績工数とのかい離の状況等について検査したところ、次のような事態が見受けられた。

a 住友重機械等

住友重機械等は、20㎜機関砲等の製造・定期整備に当たり、当該機種の最初の製造等の時期に定めた見積工数を、仕様書等が変更されない限りそのまま次の契約の見積工数として提出していた。このため、19年度から24年度までの間に海上保安庁が住友重機械等と契約を締結して履行が完了した84件(製造契約4件、定期整備80件)について、見積工数と実績工数を比較したところ、住重特機の1件を除き、実績工数が見積工数を下回っていた。

そこで、本院は、上記の84件を対象として実績工数等に基づく試算額を算定した。その結果、住友重機械の製造契約1件及び定期整備3件においては、試算額が契約金額を下回っており、これらの開差額は計7807万余円となっていた。また、住重特機の定期整備50件においては、試算額が契約金額を下回っており、これらの開差額は計5032万余円となっていた。

なお、海上保安庁は、住友重機械等における見積工数と実績工数のかい離が大きかった契約に係る開差額の自主返還を求めたところ、住重特機は、21年度の「巡視船しきしま20ミリ機関砲(改型)年次整備」契約等4件については、他の契約案件よりも利益水準が高いことが判明したので、その超過利益相当額計1631万余円を25年8月21日に自主返還した。

b 三菱電機

海上保安庁は、19年度から24年度までの間に三菱電機と武器管制装置の製造契約を計5件締結しているが、このうち、履行が完了しているものは19年度の契約1件のみであった。

当該契約に当たり、三菱電機は、海上保安庁に見積書を提出する際に、18年度に受注した武器管制装置と仕様が変更されていないことから、18年度に海上保安庁に提出した見積書の見積工数をそのまま19年度の見積工数として提出していた結果、適正と推定される工数が見積工数を下回っていた。

なお、前記のとおり、海上保安庁が住友重機械等及び三菱電機と締結した確定契約について、見積工数と実績工数等が大幅にかい離しているなどの事態が見受けられたことから、住友重機械等及び三菱電機との契約を含む武器等の製造・定期整備契約について、製造等原価の実績等に基づいて契約代金の額を確定する契約方法に見直すことなどにより、契約方法等の適正化を図るよう、25年9月25日に、海上保安庁長官に対し、会計検査院法第36条の規定により処置を求めた(0531前掲意見を表示し又は処置を要求した事項参照)。

イ 島津製作所等による過大請求事案

島津製作所は、航空機用維持部品の製造請負契約等を防衛省と締結しており、主な製造拠点は三条工場、19年度から24年度までの間の契約実績は、1,568件、契約金額計812億0106万余円(税込)となっている。

島津製作所は、防衛省と締結した一部の準確定契約等において、実際原価報告書の実績工数を水増し等して防衛省に提出したり、原価監査の際に、工数を水増し等した実際原価報告書の基礎資料として虚偽の原価元帳や作業日報を作成して提示したりなどしていたとしている。また、島津製作所は、防衛省と締結した一部の確定契約においても、制度調査等において実績工数の確認を求められた際に、工数を水増し等した虚偽の原価元帳や作業日報を作成して提示するなどしていたとしている。

さらに、島津製作所は、防衛省に提出した加工費率の算出資料において加工費率の算定式の分母である総工数を目標として、間接作業時間の一部を工数に振り替えるなどしていたとしている。

防衛装備品等の調達に関する契約については、島津製作所による過大請求事案が発覚して以降、株式会社鶴見精機及び株式会社ネットコムセック(以下、両社を合わせて「鶴見精機等」という。)が、防衛省と締結した契約において工数を過大に申告して過大請求を行っていたことが明らかになっており、防衛省は、現在、鶴見精機等に対して過払額の算定を行うための特別調査を実施している。

3 検査の結果に対する所見

防衛省、宇宙機構、衛星センター及び通信機構は、前記の過払額が過小又は過大に算定されていた事態について三菱電機等と協議を行うなど、必要な処置を執るとともに、防衛省は、島津製作所、鶴見精機等による過大請求事案に対する特別調査を引き続き実施して、事態の全容の解明、過払額等の算定、返還の請求等を行うなどの必要がある。さらに、防衛省、宇宙機構、衛星センター、通信機構、総務省及び海上保安庁は、24年報告に掲記した指名停止等の措置のペナルティとしての実効性等の課題等を十分に考慮しつつ、防衛装備品等及び武器等の調達並びに人工衛星等の研究、開発等に関する契約に係る過大請求事案等について策定した再発防止策等を着実に実施し、その実施に当たっては、より一層の実効性の向上に資するよう、次の点に留意する必要がある。

ア 過払額の算定方法、違約金の算定対象期間及び特別調査等に係る費用負担

今回の過大請求事案については、防衛省等がそれぞれの判断に基づき対応した結果、過払額の算定方法、違約金の算定対象期間及び特別調査等に係る費用負担が区々となっている。しかし、これらの中には、特別調査等に係る費用負担のように、今後、防衛省等の間で共通の基準に沿って対応することが合理的であると思料されるものが一部見受けられる。したがって、防衛省等においては、今後同様な事態が生じた場合にはどのように対応することがより適切かについて、相互に連携をとりつつ検討すること

イ 信頼性特約等の特約条項の取扱い

防衛省が三菱電機、MSS及び三電特機と締結した防衛装備品等の調達に関する契約において、信頼性特約を付すべきであるのに誤って付していなかったなどのため、違約金を三菱電機等に請求できなかった事態については、現在履行中の契約のうち信頼性特約が付されていないなどの契約について、新信頼性特約を付すことができるよう契約相手方と協議するなど是正の処置を講ずることとすること。また、防衛省の各調達機関において、現在履行中の契約について信頼性特約又は新信頼性特約が適正に付されているか調査を行い、信頼性特約等が付されていないなどの事態が明らかになった場合は、上記と同様に、新信頼性特約を付すことができるよう契約相手方と協議するなどすること。さらに、防衛省の各調達機関において新信頼性特約の的確な履行を確保するために、新信頼性特約を付すことを定めた通達の趣旨及びその遵守の重要性を周知徹底したり、上司による決裁書類の確認を的確に行うため決裁書類の書式を見直したり、契約上適切でない事態が明らかになった場合の迅速かつ的確な対応を講ずるため、必要に応じて教育や指導を行うなどしたりして、会計経理に関する内部統制が十分機能するようにしたりなどすること

ウ 資料の信頼性確保に関する措置

防衛省が三菱電機、MSS及び三電特機と締結した防衛装備品等の調達に関する契約において、信頼性特約を付すべきであるのに誤って付していなかったなどのため、違約金を三菱電機等に請求できなかった事態については、現在履行中の契約のうち信頼性特約が付されていないなどの契約について、新信頼性特約を付すことができるよう契約相手方と協議するなど是正の処置を講ずることとすること。また、防衛省の各調達機関において、現在履行中の契約について信頼性特約又は新信頼性特約が適正に付されているか調査を行い、信頼性特約等が付されていないなどの事態が明らかになった場合は、上記と同様に、新信頼性特約を付すことができるよう契約相手方と協議するなどすること。さらに、防衛省の各調達機関において新信頼性特約の的確な履行を確保するために、新信頼性特約を付すことを定めた通達の趣旨及びその遵守の重要性を周知徹底したり、上司による決裁書類の確認を的確に行うため決裁書類の書式を見直したり、契約上適切でない事態が明らかになった場合の迅速かつ的確な対応を講ずるため、必要に応じて教育や指導を行うなどしたりして、会計経理に関する内部統制が十分機能するようにしたりなどすること

  • (ア) 再発防止策として賦課することとした違約金の額(過払額に対する倍率)が、防衛省、宇宙機構、衛星センター、通信機構及び総務省の間で区々となっていることについては、防衛省等を含めた同種契約を締結する各調達機関が統一的な違約金の額の設定の可能性について検討すること
  • (イ) 関係資料等の保存義務について、防衛省は保存期間を延長することの必要性について検討すること

エ 海上保安庁が締結する武器等の製造・定期整備に係る契約

海上保安庁は、住友重機械等及び三菱電機との契約を含む武器等の製造・定期整備契約について、製造等原価の実績等に基づいて契約代金の額を確定する契約方法に見直すとともに、製造等原価を確認するための調査の実施や虚偽の資料を提出又は提示した場合の違約金の賦課を定めた条項を付すなどして契約方法等の適正化を図ること

また、次の点については、中長期的観点から、引き続き検討を行っていく必要がある。

ア 人工衛星等の研究、開発等に関する契約に内在する課題等

宇宙機構、衛星センター、通信機構及び総務省は、コスト削減へのインセンティブを働かせるため、概算契約等を一律に確定契約に変更することについては、慎重に判断していく必要があることから、現在進めている概算契約等の確定契約化や、そのために必要とされる適切な予定価格の算定方法等の確保等について、可能な限り相互に連携を図りつつ、幅広い観点から十分に検討すること

イ 府省等間における連携の在り方等

今回の過大請求事案が防衛省等の複数府省等とそれぞれ契約を締結している特定企業で発生しているという状況を考慮して、防衛省等においてこのような同一特定企業と契約を締結している府省等間における連携の在り方等について検討すること

本院としては、今後とも、防衛省等における防衛装備品等及び武器等の調達並びに人工衛星等の研究、開発等が適正、適切に実施されているかなどについて、多角的な観点から引き続き検査していくこととする。