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  • 平成25年10月

公共建築物における耐震化対策等に関する会計検査の結果について


第2 検査の結果

2 教育施設における耐震化対策等の状況

(1) 教育施設における耐震化対策等の概要

ア 教育施設の整備に関する基本方針

文部科学省(13年1月5日以前は文部省。以下同じ。)は、児童生徒等の安全を守り、安心で豊かな教育環境を整備するとともに地域住民の安全と安心の確保に資することを目的とした公立の義務教育諸学校(注6)、高等学校、幼稚園等(以下、これらを「義務教育諸学校等」という。)施設の整備を推進するため、公立の義務教育諸学校等施設の整備に関する施設整備基本方針(平成18年文部科学省告示第61号。以下「教育施設整備方針」という。)を「義務教育諸学校等の施設費の国庫負担等に関する法律」(昭和33年法律第81号)に基づき定めている。この教育施設整備方針によると、公立の義務教育諸学校等の耐震化対策については、基本方針を踏まえ、所管する公立の義務教育諸学校等施設の具体的な耐震化の目標を設定した上で、早急に耐震診断を実施し、緊急を要するものから計画的に耐震化を図り、建て替え方式から耐震改修等の方式に重点を移すなどしてより効率的に耐震化を進めることが重要であり、27年度までのできるだけ早い時期に公立の義務教育諸学校等施設の耐震化の完了を目指す必要があるとしている。また、東日本大震災の際に、建築物への被害に加え、建築非構造部材にも多大な被害が生じたことから、建築物の構造体の耐震化だけではなく、建築非構造部材の耐震化も必要であるとしている。さらに、公立の義務教育諸学校等施設は、地震等の災害発生時には避難所としての役割を果たすことから、耐震化のみならず、貯水槽、備蓄倉庫、非常用自家発電設備等を整備することにより、防災機能を強化することが必要であるとしている。

そして、文部科学省は、上記の教育施設整備方針に基づき、公立の義務教育諸学校等施設に係る安全性の向上を図るために必要な改造等について定めた施設整備基本計画(平成18年文部科学省告示第62号)を策定している。また、同省は、同基本計画において、学校施設環境改善交付金等の交付を受けようとする地方公共団体は、同基本計画に即して施設整備計画を作成する必要があるとし、地方公共団体への交付金の交付に当たっては、特に、最大の課題である公立の義務教育諸学校等施設の耐震化を推進する計画に重点的に配分し、また、その中でも、耐震化の進捗状況を勘案し、緊急度及び必要性の高い計画から優先するとしている。

(注6)
義務教育諸学校 学校教育法(昭和22年法律第26号)に規定する小学校、中学校、中等教育学校の前期課程並びに特別支援学校の小学部及び中学部

イ 教育施設の耐震化対策に対する文部科学省等の財政支援

地方公共団体が教育施設の耐震化対策を実施する際に活用できる文部科学省の財政支援のうち、主な交付金等の額の推移をみると、図表2-1のとおりとなっている。

 

図表2-1 地方公共団体が教育施設の耐震化対策に用いることのできる交付金等の決算額の推移

(単位:百万円)
年度
交付金等名
平成19 20 21 22 23 24
公立学校施設整備費負担金 42,215
の内数
41,544
の内数
48,901
の内数
44,502
の内数
43,364
の内数
69,116
の内数
安全・安心な学校づくり交付金 133,311
の内数
164,460
の内数
259,666
の内数
359,696
の内数
128,042
の内数
学校施設環境改善交付金 65,428
の内数
243,849
の内数
(注)
平成19年度から23年度までは決算額、24年度は補正後予算額を示している。

文部科学省は、公立の義務教育諸学校等の施設整備に対し公立学校施設整備費負担金、安全・安心な学校づくり交付金及び学校施設環境改善交付金を交付しており、それぞれの交付対象は次のとおりである。

公立学校施設整備費負担金は、公立の義務教育諸学校において校舎、体育館、武 道場等(以下、体育館、武道場等を「屋内運動場等」という。)を新築し、又は増 築する場合等にその経費の一部を負担金として交付するものである。

安全・安心な学校づくり交付金は、公立の義務教育諸学校等の安全性を確保するなどのため、校舎・屋内運動場等を改修等する場合に、その実施に要する経費や設計・監理委託等に係る経費の一部を交付金として交付する(ただし、高等学校の校舎等の耐震改修等に係るものを除く。)もので、20年度からは建築非構造部材の耐震改修工事を単独で施工する場合も対象とされた。同交付金は23年度に廃止され、交付対象範囲を拡充するなどした学校施設環境改善交付金が同年度に創設された。そして、24年度には備蓄倉庫、非常用自家発電設備等の防災設備の整備も対象に加えられている。

なお、上記の文部科学省の交付する交付金等の対象とならない高等学校の校舎等の耐震改修工事には、国土交通省(13年1月5日以前は建設省。以下同じ。)が交付している社会資本整備総合交付金(住宅・建築物安全ストック形成事業)を利用することができる。

ウ 教育施設の耐震性能の割増し及び耐震診断の方法

文部科学省は、8年に、教育施設の構造体の耐震性能について、地方公共団体等に対して「文教施設の耐震性の向上の推進について」(平成8年文施指第103号文部省大臣官房文教施設部長通知。以下「耐震性推進通知」という。)を発し、校舎等を新築する際には地震発生時の児童生徒等の安全確保、被災直後の避難所としての機能を考慮するなどして、建築基準法で要求される耐震安全性に対して1.25倍程度の耐震安全性を確保した設計とすることが適当と考えられるとしている。また、既存の建築物を改修する際には、上記と同様に、教育施設としての機能特性を考慮して、原則としてIs値を割増ししたより安全なレベル(Is値0.7以上)を耐震改修の目標とすることとしている。

また、同省は、耐震診断の方法について、「公立学校施設に係る大規模地震対策関係法令及び地震防災対策関係法令の運用細目」(昭和55年文管助第217号文部大臣裁定)に規定する耐震診断の方法等に関して必要な事項を定めた「公立学校建物の耐震診断等実施要領」(平成8年文教施第60号)を8年に制定するなどして、建築物の構造及び種別ごとに適用する耐震診断方法を定めている。

エ 教育施設における耐震化の目標

文部科学省は、18年に、教育施設整備方針を策定しているが、策定当初、公立の義務教育諸学校等施設の耐震診断については18年内を目途に完了するための方策を講ずる必要があるとしていたものの、具体的な耐震化の完了時期については明記していなかった。しかし、地震防災対策特別措置法(平成7年法律第111号。以下「特措法」という。)の23年の改正時に、公立の義務教育諸学校等施設の耐震化事業に対する国庫補助率の嵩(かさ)上げ措置が27年度末まで延長されたことなどを踏まえて教育施設整備方針が改正され、27年度までのできるだけ早い時期に耐震化を完了させるとの目標が明記された。

オ 分析の対象とした教育施設の概要

教育施設の分析対象としては、公立の小学校、中学校、高等学校及び中等教育学校の延床面積200㎡を超える(木造は同500㎡を超える)建築物とし、その校種別の設置者数及び棟数は図表2-2のとおりである。

図表2-2 分析対象とした建築物の校種別の設置者数及び棟数

校種 設置者数 対象建築物
(棟)
旧耐震基準に
基づく建築物
(棟)
新耐震基準に
基づく建築物
(棟)
小学校 1,617 70,722 43,608 27,114
中学校 1,637 39,724 20,572 19,152
高等学校 151 25,938 14,905 11,033
中等教育学校 13 154 91 63
1,687 136,538 79,176 57,362
(注)
同一の設置者が小学校、中学校を設置していることがあり、設置者数の計は純計となっている。

1,608市町村及び9市町村学校組合が設置者となっている小学校の建築物70,722棟、16都府県、1,598市町村及び23市町村学校組合が設置者となっている中学校の建築物39,724棟、44都道府県、104市町村及び3市町村学校組合が設置者となっている高等学校の建築物25,938棟、9都道府県及び4市が設置者となっている中等教育学校の建築物154棟、計136,538棟について分析を行った。

なお、棟数で集計分析の際、中等教育学校の建築物については、前期課程を中学校、後期課程を高等学校として集計することとし、1棟の建築物を前期課程及び後期課程の両方で使用している場合には主に利用している課程で集計することとした。

また、教育施設における診断率、耐震化率等の分析については、小学校及び中学校の設置者のほとんどが市町村であるのに対し、高等学校の設置者のほとんどが都道府県であるなど、一般的にその設置者の財政規模が異なっていたり、小中学校と高等学校とでは、耐震化対策に用いることのできる国庫補助事業が異なっていたりするなど、相違する点が多いことから、小中学校と高等学校の校種別に分析することとした。

分析対象とした建築物の構造種別及び旧耐震基準に基づく建築物の建設されてからの経過年数(以下「築年数」という。)をみると、図表2-3のとおりとなっている。

図表2-3 分析対象とした建築物の構造種別と旧耐震基準に基づく建築物の築年数

構造種別 対象建築物
旧耐震基準に
基づく建築物
新耐震基準に
基づく建築物
築年数
40年以上
築年数
40年未満
築年数
50年以上
築年数
40年以上
50年未満
(棟) (棟) (棟) (棟) (棟) (棟) (棟)
鉄筋コンクリート造 109,863 64,753 26,744 4,420 22,324 38,009 45,110
  (構成比) (100%) (58.90%) (24.30%) (4.00%) (20.30%) (34.60%) (41.10%)
鉄骨造 23,727 13,214 4,687 410 4,277 8,527 10,513
  (構成比) (100%) (55.70%) (19.80%) (1.70%) (18.00%) (35.90%) (44.30%)
鉄骨鉄筋コンクリート造 1,385 600 190 21 169 410 785
  (構成比) (100%) (43.30%) (13.70%) (1.50%) (12.20%) (29.60%) (56.70%)
木造 966 249 240 210 30 9 717
  (構成比) (100%) (25.80%) (24.80%) (21.70%) (3.10%) (0.90%) (74.20%)
その他の構造 597 360 157 40 117 203 237
  (構成比) (100%) (60.30%) (26.30%) (6.70%) (19.60%) (34.00%) (39.70%)
136,538 79,176 32,018 5,101 26,917 47,158 57,362
  (構成比) (100%) (58.00%) (23.40%) (3.70%) (19.70%) (34.50%) (42.00%)

分析対象とした建築物136,538棟のうち、鉄筋コンクリート造が109,863棟となっており、全体の約8割を占めている。そして、旧耐震基準に基づく建築物は79,176棟と全体の58.0%を占めており、そのうち築年数が40年以上の建築物は32,018棟と全体の23.4%を占めている。

また、東北3県については、文部科学省が24年に「公立学校施設の耐震改修状況調査」(以下「文科省調査」という。)を実施していることから、その調査結果に記載された東北3県の教育施設(以下、文科省調査の対象となった東北3県の教育施設を「東北3県調査対象施設」という。なお、文科省調査には宮城県の一部と福島県の一部は含まれていない。)の建築物を分析対象とした。その内訳は、122市町村等が設置者となっている小中学校の校舎等の建築物6,160棟、3県及び3市が設置者となっている高等学校の校舎等の建築物1,689棟、計7,849棟となっている。なお、文科省調査においては、24年4月1日現在の状況を調査しており、また、対象となる建築物を2階建て以上又は延床面積200㎡を超える(木造は3階建て以上又は延床面積500㎡を超える)ものとしているなど会計検査院の検査と異なる部分がある。

カ 耐震化に関する公表状況

(ア) 小中学校の耐震診断結果の公表状況

特措法が20年に改正され、地方公共団体は、その設置する小学校、中学校等の校舎及び屋内運動場等のうち、旧耐震基準に基づく建築物についての耐震診断の実施と耐震診断を行った建築物ごとの結果の公表が義務付けられた。

そこで、特措法に基づく耐震診断結果の公表状況についてみると、小中学校において旧耐震基準に基づく建築物を有していて、24年12月31日現在で耐震化が完了していない878地方公共団体(耐震診断の実績がない33地方公共団体を除く。)の全てにおいて耐震診断結果を公表している。

また、東北3県調査対象施設に関する耐震診断結果の公表状況については、文科省調査の結果によると、東北3県調査対象施設については、これらの施設を有している全ての地方公共団体(2県120市町村)が耐震診断結果を公表しているとされている。

(イ) 高等学校の耐震診断結果の公表状況

高等学校の施設については、小中学校等の施設とは異なり、特措法による耐震診断の実施及びその結果の公表は義務付けられていないが、基本方針によると「国及び地方公共団体は、各施設の耐震診断を速やかに行い、耐震性に係るリストを作成及び公表するとともに、整備目標及び整備プログラムの策定等を行い、計画的かつ重点的な耐震化の促進に積極的に取り組むべきである」とされている。

そこで、高等学校の施設のうち旧耐震基準に基づく建築物を有している128地方公共団体(44都道府県及び84市町村)の公表状況についてみると、耐震性に係るリスト又は耐震診断結果を公表しているのは85.2%に当たる109地方公共団体(42都道府県及び67市町村)となっている。

(2) 教育施設の耐震診断の状況

ア 教育施設の診断率

教育施設の建築物136,538棟における構造体、建築非構造部材及び建築設備の診断率は、図表2-4のとおりである。

図表2-4 構造体、建築非構造部材及び建築設備の診断率
区分 校種 対象建築物 新耐震基準に
基づく建築物
耐震診断の実施状況 診断率
耐震診断実施
済み
耐震診断未実
(A) (B) (C) (C)/(A-B)
(棟) (棟) (棟) (棟) (%)


 対象建築物 小中学校 110,514 46,294 61,403 2,817 95.6
高等学校 26,024 11,068 13,904 1,052 93
136,538 57,362 75,307 3,869 95.1
うち多数の者が
利用する建築物
小中学校 106,863 44,532 59,654 2,677 95.7
高等学校 22,527 9,418 12,187 922 93
129,390 53,950 71,841 3,599 95.2






 対象建築物 小中学校 110,514 46,294 7,700 56,520 12
高等学校 26,024 11,068 3,337 11,619 22.3
136,538 57,362 11,037 68,139 13.9
うち多数の者が
利用する建築物
小中学校 106,863 44,532 7,449 54,882 12
高等学校 22,527 9,418 3,176 9,933 24.2
129,390 53,950 10,625 64,815 14.1



 対象建築物 小中学校 110,514 46,294 6,969 57,251 10.9
高等学校 26,024 11,068 3,351 11,605 22.4
136,538 57,362 10,320 68,856 13
うち多数の者が
利用する建築物
小中学校 106,863 44,532 6,736 55,595 10.8
高等学校 22,527 9,418 3,192 9,917 24.3
129,390 53,950 9,928 65,512 13.2
(注)
都道府県別については別表2-1を参照

構造体の診断率は95.1%となっており、これを校種別にみると、小中学校は95.6%、高等学校は93.0%となっている。このように両者の構造体の診断率に差異は見受けられず、どちらも9割を超える状況となっている。しかし、耐震診断を実施していない建築物はいまだ4,000棟近く残っている状況である。

また、設置者ごとにみると、33地方公共団体が、旧耐震基準に基づく建築物を有しているのに耐震診断を1棟も実施していない状況となっている。

次に、構造体の耐震診断に係る国庫補助金等の活用状況についてみると、国庫補助金等を活用しているものは耐震診断を実施したものの約4割にとどまっている。これは、主として、耐震改修工事を伴わないなどの場合、耐震診断に要した費用が文部科学省の交付する学校施設環境改善交付金等の対象経費とならないことによると考えられる。

また、東北3県調査対象施設の建築物における構造体の診断率は、前記のとおり対象となる建築物の条件等が一部異なることから単純な比較はできないが、文科省調査の結果によると小中学校が97.7%、高等学校が95.0%となっていて、44都道府県の診断率と比べても差異は見受けられない。

なお、文部科学省は、22年に、建築非構造部材等の耐震化に資する対策を推進するために、「学校施設の非構造部材の耐震化ガイドブック」を都道府県教育委員会等に示し、各学校において、児童生徒等の安全を確保するなどの観点から旧耐震基準に基づく建築物だけではなく新耐震基準に基づく建築物についても天井材、外装材、内装材、窓ガラス、設備機器、家具等の耐震点検を学校側及び設置者側がそれぞれ実施して、その点検結果に応じた対策を講ずるよう求めている。そして、文科省調査の結果によると、調査対象の66.0%の小中学校及び79.6%の高等学校において同ガイドブックに沿って学校側又は設置者が耐震点検を行い、この点検が実施された小中学校の48.5%及び高等学校の49.4%において点検結果に応じた対策が講じられたとしている。

イ 構造体の耐震診断結果

構造体の耐震診断を実施している75,307棟のうち、構造耐震指標を示す数値としてIs値が用いられている建築物74,899棟の耐震診断結果を示すと、図表2-5のとおりである。

図表2-5 構造体の耐震診断結果

校種 耐震診断実施済み
所要の耐震性能を確保している建築物 所要の耐震性能を確保していないと診断された建築物
診断結果(Is値) 築年数40年以上の建築物
0.3未満 0.3以上
0.6未満
0.6以上
0.7未満等
不明
(棟) (棟) (A)
(棟)
(棟) (棟) (棟) (棟) (B)
(棟)
(B)/(A)
(%)
小中学校 61,084 12,665 48,419 10,880 30,596 5,542 1,401 21,048 43.5
(構成比) (100%) (22.5%) (63.2%) (11.4%) (2.9%)
高等学校 13,815 2,673 11,142 2,888 6,606 1,234 414 5,893 52.9
(構成比) (100%) (25.9%) (59.3%) (11.1%) (3.7%)
74,899 15,338 59,561 13,768 37,202 6,776 1,815 26,941 45.2
(構成比) (100%) (23.1%) (62.5%) (11.4%) (3.0%)

構造体の耐震診断を実施した74,899棟のうち、Is値が0.7未満であることなどから、耐震性推進通知に基づく耐震性能を確保していないと診断された建築物は59,561棟であり、耐震診断を実施した建築物の約8割となっている。

そして、耐震診断の結果、耐震性能が著しく低く、大規模地震で倒壊等の危険性が高いとされているIs値0.3未満の建築物は13,768棟となっていて、耐震性推進通知に基づく耐震性能を確保していないと診断された建築物59,561棟の23.1%を占めている。また、大規模地震で倒壊等の危険性があるとされているIs値0.3以上0.6未満の建築物は37,202棟となっていて、耐震性推進通知に基づく耐震性能を確保していないと診断された建築物の62.5%と最も多くを占めている。さらに、築年数をみると、昭和46年以前に建築され築年数が40年以上の建築物が、耐震性推進通知に基づく耐震性能を確保していないと診断された建築物の約5割を占める結果となっている。

(3) 教育施設の耐震改修の状況

ア 耐震化の状況

教育施設の耐震化の状況について、構造体、建築非構造部材及び建築設備のそれぞれの耐震化率を分析するとともに、構造体について耐震性推進通知に基づく耐震性能(Is値0.7以上等)を確保している建築物の割合(以下「教育耐震化率」という。)も分析した。対象となる教育施設の建築物は136,538棟であり、このうち、基本方針において耐震化の目標となっている多数の者が利用する建築物は129,390棟と94.8%を占めている。

(ア) 教育施設の耐震化率

構造体の教育耐震化率並びに建築非構造部材及び建築設備の耐震化率は、図表2-6のとおりである。なお、後述のとおり、新耐震基準に基づく建築物において、建築非構造部材等の部材等によっては地震動により多数の被害が見受けられているが、新耐震基準は大規模地震に対して人命に危害を及ぼすような被害が生じないことを目標とする最低限遵守すべき基準とされていることから、今回の検査における耐震化率の算定に当たっては、新耐震基準に基づく建築物は耐震性能を確保しているものとして整理し、前記の耐震化率の算定式を用いて算出している。

図表2-6 構造体の教育耐震化率並びに建築非構造部材及び建築設備の耐震化率

区分 校種 対象建築物
(A)
所要の耐震性能を確保している建築物 耐震化率
(B)/(A)
新耐震基準に
基づく建築物
耐震診断によ
り所要の耐震
性能を確保し
ていることが
確認された建
築物
耐震改修によ
り所要の耐震
性能を確保す
るなどしてい
る建築物

(B)
(棟) (棟) (棟) (棟) (棟) (%)


対象建築物 小中学校 110,514 46,294 12,370 36,339 95,003 86
高等学校 26,024 11,068 2,578 6,437 20,083 77.2
136,538 57,362 14,948 42,776 115,086 84.3
うち多数の者が
利用する建築物
小中学校 106,863 44,532 11,921 35,414 91,867 86
高等学校 22,527 9,418 2,069 5,934 17,421 77.3
129,390 53,950 13,990 41,348 109,288 84.5






対象建築物 小中学校 110,514 46,294 2,165 1,449 49,908 45.2
高等学校 26,024 11,068 1,187 414 12,669 48.7
136,538 57,362 3,352 1,863 62,577 45.8
うち多数の者が
利用する建築物
小中学校 106,863 44,532 2,147 1,416 48,095 45
高等学校 22,527 9,418 1,178 409 11,005 48.9
129,390 53,950 3,325 1,825 59,100 45.7



対象建築物 小中学校 110,514 46,294 2,183 1,539 50,016 45.3
高等学校 26,024 11,068 1,519 399 12,986 49.9
136,538 57,362 3,702 1,938 63,002 46.1
うち多数の者が
利用する建築物
小中学校 106,863 44,532 2,177 1,504 48,213 45.1
高等学校 22,527 9,418 1,427 394 11,239 49.9
129,390 53,950 3,604 1,898 59,452 45.9
(注)
都道府県別については別表2-2別表2-3及び別表2-4を参照。

構造体の教育耐震化率は84.3%となっており、教育施設整備方針の目標である100%と比較すると15.7ポイント下回っている。この教育耐震化率を校種別にみると小中学校は86.0%、高等学校は77.2%となっており、小中学校は高等学校に比べて8.8ポイント高くなっている。また、多数の者が利用する建築物の構造体の教育耐震化率は84.5%となっている。

また、構造体の耐震改修工事に係る国庫補助金等の利用状況についてみると、81.3%が国庫補助金等を利用しており、これを校種別にみると小中学校は93.1%、高等学校は14.4%となっている。小中学校での利用が9割を超える高率であるのに対し、高等学校での利用が低率となっているのは、前記のとおり、高等学校における校舎等の耐震改修工事等は一部を除いて文部科学省の交付金等の交付対象とはならないことから、国庫補助金等を利用しようとする場合、国土交通省が交付する社会資本整備総合交付金を利用することが多いが、同交付金の補助率が文部科学省の交付金等に比べて低いことなどによると考えられる。

建築非構造部材及び建築設備についての耐震化率は、それぞれ45.8%、46.1%となっている。そして、建築非構造部材又は建築設備について耐震性能を確保している建築物をみると、新耐震基準に基づく建築物が約9割を占めることから、耐震改修等による耐震化が進んでいない状況となっている。

また、東北3県についてみると、東北3県調査対象施設の建築物における構造体の教育耐震化率は、前記のとおり単純な比較はできないが、文科省調査の結果によると、小中学校が85.2%、高等学校が80.5%となっていて、44都道府県の構造体の教育耐震化率と差異は見受けられない。

 

(イ) 構造体の耐震化の状況

小中学校及び高等学校の構造体の教育耐震化率をグラフで示すと図表2-7のとおりである。

図表2-7 小中学校及び高等学校の構造体の教育耐震化率

小中学校及び高等学校の構造体の教育耐震化率

 

イ 地域の分類及び設置者の分類ごとの構造体の教育耐震化率

強化地域及び推進地域(Ⅰ)に指定された市町村に所在する教育施設の構造体の教育耐震化率は、図表2-8のとおりである。

図表2-8 強化地域及び推進地域(Ⅰ)に所在する教育施設の構造体の教育耐震化率

区分 校種 対象建築物 所要の耐震性能を確保している建築物 教育耐震化率
(A) うち
強化地域
うち
推進地域(Ⅰ)

(B)
うち
強化地域
うち
推進地域(Ⅰ)
(B)/(A) うち
強化地域
うち
推進地域(Ⅰ)
(棟) (棟) (棟) (棟) (棟) (棟) (%) (%) (%)
 対象建築物 小中学校 110,514 11,606 36,876 95,003 11,349 32,346 86 97.8 87.7
高等学校 26,024 2,699 8,515 20,083 2,198 6,350 77.2 81.4 74.6
136,538 14,305 45,391 115,086 13,547 38,696 84.3 94.7 85.3
うち多数の者が
利用する建築物
小中学校 106,863 11,086 35,894 91,867 10,855 31,547 86 97.9 87.9
高等学校 22,527 2,087 7,308 17,421 1,649 5,394 77.3 79 73.8
129,390 13,173 43,202 109,288 12,504 36,941 84.5 94.9 85.5

強化地域に所在する小中学校の建築物は11,606棟、高等学校は2,699棟の計14,305棟である。その構造体の教育耐震化率は94.7%となっており、全体の教育耐震化率に比べて10.4ポイント高くなっている。そして、校種別では小中学校は97.8%、高等学校は81.4%となっている。

推進地域(Ⅰ)に所在する建築物の構造体の教育耐震化率は85.3%となっており、全体の教育耐震化率に比べても差異は見受けられない。

このように強化地域の教育耐震化率が推進地域(Ⅰ)に比べても高いのは、強化地域においては、昭和53年に制定された大震法等による耐震化対策の取組が比較的早くから実施されてきたこと、地震財特法により国庫補助金等の補助率等に優遇措置が設けられてきたことなどによると考えられる。

なお、推進地域(Ⅱ)については、指定されている117市町村のうち58市町村が東北3県の管内であることから、分析を行っていない(以下、他の分析においても同じ。)。

また、設置者を都道府県、市及び町村等(市町村学校組合を含む。)に分類し、その分類ごとの構造体の教育耐震化率の分布状況をみると図表2-9のとおりである。

図表2-9 設置者の分類ごとの構造体の教育耐震化率の分布状況

教育耐震化率
設置者
50%未満 50%以上
80%未満
80%以上
100%未満
100%
所要の耐震性能を確保していない建築物 所要の耐震性能を確保していない建築物 所要の耐震性能を確保していない建築物 所要の耐震性能を確保していない建築物
(設置者数) (棟) (設置者数) (棟) (設置者数) (棟) (設置者数) (設置者数) (棟)
都道府県 2 950 19 3,240 23 1,407 0 44 5,597
16 1,071 218 8,515 360 4,427 178 772 14,013
町村等 49 469 156 938 193 435 473 871 1,842
67 2,490 393 12,693 576 6,269 651 1,687 21,452

構造体の教育耐震化率をみると、651地方公共団体については100%となっていて、構造体の耐震化を全て完了している設置者が多数見受けられる一方で、67地方公共団体については50%未満となっている。

なお、文部科学省は、文科省調査の結果、教育耐震化率が50%未満となっているなど耐震化の進捗が遅れている地方公共団体に対して、平成24年8月に耐震化の加速を促す書簡を大臣名で発するなどしている。

地方公共団体において耐震化が遅れている事例のうち、耐震化の計画が具体的ではなく耐震化が遅れているもの又は耐震化対策への取組を開始した時期等が遅れているものの事例を示すと次のとおりである。

<事例-教育1>

A市は、平成20年3月に耐震改修促進計画を作成し、27年度までに学校を含む全ての市有建築物の耐震化率を90%とする目標を定め、同市教育委員会は、20年3月に小中学校の耐震化を計画的に促進するためのA市立小・中学校耐震化推進計画を作成した。

しかし、同計画では、20年3月時点で94棟の教育施設が耐震改修を必要とするとしていたものの、耐震化の目標年度や対象とする学校名は明記せず、23年度までの期間は、財政状況の改善を図るため、単に年間の耐震改修棟数を3棟とすることとしていたことから、23年度までに実施した教育施設の耐震改修は24棟にとどまり、24年12月31日現在の教育耐震化率は35.8%と低い率になっている。

<事例-教育2>

A市立の小中高等学校は小学校91校、中学校37校、高等学校1校の計129校であり、その教育耐震化率は平成24年12月31日現在で66.6%となっている。

同市においては耐震化への取組が遅く、特措法に基づく耐震診断の実施と診断結果の公表が義務付けられたことにより、21年度から教育施設の耐震診断に取り組み始めており、耐震診断は24年度中に完了したものの、耐震化については教育施設整備方針において目標となっている27年度に完了せず、27年度における教育耐震化率が約85%にとどまる計画となっている。

ウ 構造体の耐震化対策が完了していない建築物の状況

構造耐震指標を示す数値としてIs値が用いられている建築物における構造体の耐震診断の結果、耐震性推進通知に基づく耐震性能を確保していないとされた建築物59,561棟の耐震診断結果別の耐震化状況をみると、図表2-10のとおりとなっている。

図表2-10 耐震診断結果別の耐震化状況

校種  対象建築物(A+C+E+G)
診断結果(Is値)
0.3未満 0.3以上0.6未満 0.6以上0.7未満等 不明
耐震診断の
結果、所要
の耐震性能
を確保して
いないとさ
れた建築物
耐震改修に
より所要の
耐震性能を
確保してい
る建築物
所要の耐震
性能を確保
していない
建築物
耐震診断の
結果、所要
の耐震性能
を確保して
いないとさ
れた建築物
耐震改修に
より所要の
耐震性能を
確保してい
る建築物
所要の耐震
性能を確保
していない
建築物
耐震診断の
結果、所要
の耐震性能
を確保して
いないとさ
れた建築物
耐震改修に
より所要の
耐震性能を
確保してい
る建築物
所要の耐震
性能を確保
していない
建築物
耐震診断の
結果、所要
の耐震性能
を確保して
いないとさ
れた建築物
耐震改修に
より所要の
耐震性能を
確保してい
る建築物
所要の耐震
性能を確保
していない
建築物
(A) (B) (A)-(B) (C) (D) (C)-(D) (E) (F) (E)-(F) (G) (H) (G)-(H)
(棟) (棟) (棟) (棟) (棟) (棟) (棟) (棟) (棟) (棟) (棟) (棟) (棟)
小中学校 48,419 10,880 8,752 2,128 30,596 23,211 7,385 5,542 3,616 1,926 1,401 273 1,128
高等学校 11,142 2,888 1,934 954 6,606 3,615 2,991 1,234 508 726 414 248 166
59,561 13,768 10,686 3,082 37,202 26,826 10,376 6,776 4,124 2,652 1,815 521 1,294

耐震診断の結果、大規模地震で倒壊等の危険性が高いとされるIs値が0.3未満と診断された建築物は13,768棟であり、このうち77.6%に当たる10,686棟が耐震改修により耐震性推進通知に基づく耐震性能を確保しているが、22.4%に当たる3,082棟は耐震改修等を行っていないなどのため、耐震性推進通知に基づく耐震性能を確保していない。また、大規模地震で倒壊等の危険性があるとされるIs値が0.3以上0.6未満と診断された建築物は37,202棟であり、このうち72.1%に当たる26,826棟が耐震改修により耐震性推進通知に基づく耐震性能を確保しているが、27.9%に当たる10,376棟は耐震改修等を行っていないなどのため、耐震性推進通知に基づく耐震性能を確保していない。Is値が0.3未満と診断された建築物が耐震改修を行っている割合が高いのは、大規模地震で倒壊等の危険性が高いとされているために、優先的に耐震改修を実施していることによると考えられる。

エ 耐震化対策が完了していない理由

前記のとおり、構造体については、診断率が95.1%、教育耐震化率が84.3%となっていて、設置者による構造体の耐震化への取組が比較的進んでいることから、耐震診断を実施していなかったり、耐震診断の結果、耐震性能が確保されておらず耐震改修等が必要とされたのに耐震改修を実施していなかったりするなど耐震化対策が完了していない建築物について、その理由を調査した。また、建築非構造部材や建築設備については、診断率と耐震化率が構造体に比べて非常に低く、設置者による建築非構造部材等の耐震化への取組自体が遅れていると考えられることから、建築非構造部材や建築設備の耐震化対策を完了した建築物が1棟もない設置者について、実績がない理由を調査した。

(ア) 構造体

構造体について耐震化対策が完了していない理由は、図表2-11のとおりである。

図表2-11 耐震化対策が完了していない理由

校種 耐震化対策が完了していない理由(複数回答)
統廃合計画等
により、今後
廃止が確定し
ているため
既に予算に計
上しているが
耐震改修工事
等を実施して
いないなどの
ため
予算化されて
いないため
老朽化によ
り、改築を優
先しているた
統廃合計画等
が策定されて
おらず、今後
の見通しが白
紙のため
建築技師がい
ない又は業務
多忙のため
施設の構造等
の理由により
耐震改修が困
難なため
耐震性能を確
保するための
措置を執る必
要性がないと
判断したため
その他
(件) (件) (件) (件) (件) (件) (件) (件) (件)
小中学校 1,239 5,317 3,397 1,326 628 1,095 148 31 3,954
うちIs値が0.3未満の
建築物
144 1,038 282 144 76 96 40 4 511
うち教育耐震化率が50%
未満の地方公共団体
199 452 288 101 168 119 13 6 432
高等学校 332 1,761 1,480 210 39 78 55 117 920
うちIs値が0.3未満の
建築物
74 349 131 40 5 16 20 0 120
うち教育耐震化率が50%
未満の地方公共団体
2 103 339 0 0 62 5 0 67
1,571 7,078 4,877 1,536 667 1,173 203 148 4,874
うちIs値が0.3未満の
建築物
218 1,387 413 184 81 112 60 4 631
うち教育耐震化率が50%
未満の地方公共団体
201 555 627 101 168 181 18 6 499

構造体について耐震化対策が完了していない理由として最も多い理由は、「既に予算に計上しているが耐震改修工事等を実施していないなどのため」が7,078件となっている。次に多い理由は、「予算化されていないため」が4,877件となっている。また、耐震診断結果でIs値が0.3未満の建築物における耐震化対策が完了していない理由についても同様となっている。

教育耐震化率が50%未満の地方公共団体における耐震化対策が完了していない理由をみると、小中学校については同様となっているが、高等学校については、「予算化されていないため」が339件と最も多くなっており、次に多い理由は、「既に予算に計上しているが耐震改修工事等を実施していないなどのため」が103件となっている。

構造体の耐震化対策が完了していない事例を示すと次のとおりである。

<事例-教育3>

A市立B小学校の西校舎は昭和45年、屋内運動場は48年にそれぞれ建築されていて、いずれも旧耐震基準に基づく建築物である。同市は校舎の耐震化を優先していたことから西校舎の耐震診断を平成15年度に実施しており、耐震診断の結果、Is値は0.41と大規模地震で倒壊等の危険性があると評価されていた。また、屋内運動場の耐震診断を23年度に実施しており、耐震診断の結果、Is値は0.01と大規模地震で倒壊等の危険性が高いと評価されていた。このため、西校舎及び屋内運動場については共に耐震化の措置を講ずる必要があるが、耐震改修工事等の耐震化の措置は講じられていなかった。なお、同市は25年度予算で同校の耐震改修工事を実施する予定であるとしている。

(イ) 建築非構造部材及び建築設備

建築非構造部材や建築設備の耐震化対策を完了した建築物が1棟もない地方公共団体について、耐震化対策を実施していない理由をみると、図表2-12のとおりである。

図表2-12 耐震化対策を実施していない理由

区分 耐震化対策を実施していない理由(複数回答)
公立学校施設
以外の施設の
耐震化を優先
しているため
全て新耐震設
計の建築物で
あり、耐震化
対策を行う必
要性がないた
大規模改修に
伴い部分的に
耐震化対策を
行っており、
耐震化対策を
行う必要性が
ないため
構造体の耐震
化が優先され
ているため
国庫補助金等
による財政支
援がなかった
ため
ガイドブック
による点検を
行っているの
で耐震化対策
を行う必要性
がないため
建築技師がい
ない又は業務
多忙のため
耐震化対策に
関する基準が
不明であるた
耐震性能を確
保するための
措置を執る必
要性がないと
判断したため
その他
(件) (件) (件) (件) (件) (件) (件) (件) (件) (件)
都道府県 3 0 2 28 9 3 0 17 0 4
84 0 54 545 86 30 79 285 2 43
町村 101 36 72 434 129 57 199 237 26 68
188 36 128 1,007 224 90 278 539 28 115

建築非構造部材及び建築設備について耐震化対策を実施していない理由は、「構造体の耐震化が優先されているため」が1,007件と最も多く、これは、地方公共団体においては構造体の耐震化を目標としているものがほとんどであることによるものである。そして、地方公共団体が耐震化の目標を構造体の耐震化としている一つの要因は、文部科学省が公立学校施設の耐震化の目標を構造体の耐震化としていることが挙げられる。次に多い理由は「耐震化対策に関する基準が不明であるため」で539件となっている。

オ 廃校施設の有効活用による耐震化

近年は児童生徒数の減少から学校を統廃合する動きも全国各地で見受けられており、耐震性能を確保している校舎等を有する学校を統廃合により廃止する場合には、耐震性能を確保している校舎等を有効活用することなどについて十分に検討する必要がある。

複数の学校を統廃合した結果、廃校となった学校の校舎等を他の地方公共団体が校舎等として有効活用するなどの事例が見受けられており、経済的・効率的に教育施設の耐震化を進めるには有効な方法であると認められる。

廃校となる学校の校舎等を有効活用している事例を示すと次のとおりである。

<参考事例-教育1>

北海道名寄市立風連中学校の校舎は、昭和39年に建設された鉄筋コンクリート造、地上2階建の建築物であり、平成10年度に実施された耐力度調査において、改築を要するとの判定を受け、名寄市教育委員会は、名寄市立小中学校耐震化計画において、同中学校校舎の改築を計画していた。一方、北海道教育委員会は、18年8月に策定した公立高等学校適正配置計画等において、同中学校の近隣にある北海道立風連高等学校を21年度で閉校することとしていた。同高等学校の施設は、昭和60年に建設された校舎を始め、屋内運動場等全ての建築物について耐震性能が確保されていた。このような状況を受け、平成19年3月に名寄市議会において、同高等学校の今後のあり方について、校舎利用も含めた検討の必要性が示された。そして、20年3月に名寄市教育委員会会議において、風連高等学校校舎等を風連中学校として転用する方向性を決定し、北海道教育委員会と協議を開始した。

そして、名寄市教育委員会は、PTA役員等の地域関係者と協議等を行い了承を得た上で、北海道教育委員会より閉校後の風連高等学校の校舎等を23年1月に譲り受け、風連中学校に転用して、改築を実施することなく耐震化を図っている。

(4) 避難所として使用が予定されている教育施設の状況

ア 避難所の指定状況

防災基本計画において、地方公共団体は、都市公園、公民館、学校等の公共的施設等を対象に、地域の人口、災害等に対する安全性等及び想定される地震等の諸元に応じ、その管理者の同意を得た上で、必要な数、規模の避難所をあらかじめ指定し、住民への周知に努めることとされている。

各地方公共団体が、地震等災害時の避難所として指定している小中学校は26,494校、高等学校は2,306校の計28,800校となっている。そして、これらの小中学校において避難所として使用予定の建築物は73,444棟、また、高等学校においては7,790棟の計81,234棟となっている。

イ 避難所の耐震化の状況

(ア) 避難所の耐震化の状況

避難所に指定されている28,800校において、避難所として使用予定の建築物81,234棟の耐震化の状況は、図表2-13のとおりである。

図表2-13 避難所の耐震化の状況

校種 避難所に指
定されてい
る学校
避難所とし
て使用予定
としている
建築物
耐震化率等
構造体 建築非構造部材 建築設備
所要の耐震
性能を確保
している建
築物
教育耐震化率 所要の耐震
性能を確保
しているこ
とが確認さ
れていない
建築物
所要の耐震
性能を確保
している建
築物
耐震化率 所要の耐震
性能を確保
しているこ
とが確認さ
れていない
建築物
所要の耐震
性能を確保
している建
築物
耐震化率 所要の耐震
性能を確保
しているこ
とが確認さ
れていない
建築物
うち
耐震診断
未実施
(A) (B) (B)/(A) (C) (C)/(A) (D) (D)/(A)
(校) (棟) (棟) (%) (棟) (棟) (棟) (%) (棟) (棟) (%) (棟)
小中学校 26,494 73,444 63,464 86.4 9,980 1,655 33,632 45.8 39,812 33,832 46.1 39,612
高等学校 2,306 7,790 5,999 77 1,791 311 3,716 47.7 4,074 3,875 49.7 3,915
28,800 81,234 69,463 85.5 11,771 1,966 37,348 46 43,886 37,707 46.4 43,527
(注)
都道府県別については別表2-2別表2-3及び別表2-4を参照。

 

避難所として使用予定の81,234棟の構造体の教育耐震化率は85.5%となっており、これを校種別にみると小中学校は86.4%、高等学校は77.0%となっている。また、建築非構造部材及び建築設備の耐震化率はそれぞれ46.0%、46.4%となっている。避難所として使用予定の建築物の耐震化率は構造体、建築非構造部材及び建築設備のいずれにおいても前記の図表2-6に示している耐震化率と差異は見受けられない。

また、耐震性推進通知に基づく構造体の耐震性能を確保していることが確認されていない建築物11,771棟のうち1,966棟については耐震診断さえ実施していなかった。

避難所として使用予定となっている建築物が所要の耐震性能を確保していない事例を示すと次のとおりである。

<事例-教育4>

A市立B高等学校の校舎2棟はそれぞれ昭和31年、33年に建築され、屋内運動場は48年に建築されている旧耐震基準に基づく建築物であり、同校は地震災害時の避難所にも指定されている。しかし、同市は小中学校の耐震化を優先していることから、同校の避難所として使用予定の校舎及び屋内運動場については耐震診断を実施していない。

(イ) 耐震化対策が完了していない理由

避難所として使用予定の建築物のうち、構造体において所要の耐震性能が確保されていない建築物について、耐震化対策が完了していない理由は、図表2-14のとおりである。

図表2-14 避難所について耐震化対策が完了していない理由

校種 避難所について耐震化対策が完了していない理由(複数回答)
優先度調査に
よって耐震化
を実施する施
設の順位を決
めているため
統廃合計画等
が策定されて
おらず、今後
の見通しが白
紙のため
統廃合計画等
により、今後
廃止が確定し
ているため
避難所の指定
の有無が耐震
化を実施する
優先順位に関
係ないため
対象施設が多
く、耐震化が
遅れているた
避難所の指定
が最近のた
め、耐震化を
実施する期間
が短かったた
耐震改修促進
計画におい
て、耐震化を
図る期限が平
成27年度まで
となっている
ため
老朽化による
改築を優先し
ているため
耐震性能を確
保するための
措置を執る必
要性がないと
判断したため
その他
(件) (件) (件) (件) (件) (件) (件) (件) (件) (件)
小中学校 839 527 704 1,497 2,914 21 3,592 230 9 1,659
高等学校 61 23 80 533 328 1 623 43 23 213
900 550 784 2,030 3,242 22 4,215 273 32 1,872

避難所として使用予定となっているのに耐震化対策が完了していない理由は、「耐震改修促進計画において、耐震化を図る期限が平成27年度までとなっているため」が4,215件と最も多く、次に多い理由は「対象施設が多く、耐震化が遅れているため」で3,242件となっている。また、「避難所の指定の有無が耐震化を実施する優先順位に関係ないため」も2,030件と数多く見受けられている。

ウ 避難所の防災設備の整備状況

避難所における防災設備としての備蓄倉庫、非常用通信設備、非常用自家発電設 備及び貯水槽の整備状況は、図表2-15のとおりである。

図表2-15 防災設備の整備状況

校種 防災設備の種類 防災設備の整備状況
うち強化地域 うち推進地域(Ⅰ)
対象の学校 整備済みの
学校
整備率 対象の学校 整備済みの
学校
整備率 対象の学校 整備済みの
学校
整備率
(A) (B) (B)/(A) (C) (D) (D)/(C) (E) (F) (F)/(E)
(校) (校) (%) (校) (校) (%) (校) (校) (%)
小中学校 備蓄倉庫 26,494 10,846 40.9 2,619 2,022 77.2 8,212 4,263 51.9
非常用通信設備 15,623 59 2,197 83.9 5,264 64.1
非常用自家発電設備 7,569 28.6 1,391 53.1 2,660 32.4
貯水槽 10,422 39.3 1,248 47.7 3,114 37.9
高等学校 備蓄倉庫 2,306 505 21.9 242 166 68.6 791 241 30.5
非常用通信設備 912 39.5 132 54.5 278 35.1
非常用自家発電設備 722 31.3 126 52.1 223 28.2
貯水槽 1,101 47.7 181 74.8 326 41.2
備蓄倉庫 28,800 11,351 39.4 2,861 2,188 76.5 9,003 4,504 50
非常用通信設備 16,535 57.4 2,329 81.4 5,542 61.6
非常用自家発電設備 8,291 28.8 1,517 53 2,883 32
貯水槽 11,523 40 1,429 49.9 3,440 38.2

備蓄倉庫が施設内に整備されているのは11,351校で避難所に指定されている教育施設の39.4%である。また、非常用通信設備が整備されているのは16,535校で57.4%、非常用自家発電設備が整備されているのは8,291校で28.8%、貯水槽が整備されているのは11,523校で40.0%となっている。

強化地域に所在している避難所においては備蓄倉庫が施設内に整備されているのは2,188校で避難所に指定されている教育施設の76.5%である。また、非常用通信設備が整備されているのは2,329校で81.4%、非常用自家発電設備が整備されているのは1,517校で53.0%、貯水槽が整備されているのは1,429校で49.9%となっている。強化地域においては全体に比べて備蓄倉庫、非常用通信設備及び非常用自家発電設備が整備されている割合が24.0ポイントから37.1ポイント上回っていて、貯水槽が整備されている割合は9.9ポイント上回っている。

推進地域(Ⅰ)において、防災設備が整備されている割合は全体と比較しても差異は見受けられない。

エ 学校防災マニュアル等の整備状況

(ア) 学校防災マニュアル等の概要

各学校は、20年の学校保健安全法(昭和33年法律第56号)の改正により、児童生徒等の安全の確保を図るため、危険等発生時に職員が講ずるべき措置の内容や手順を定めた危険等発生時対処要領を作成することが義務付けられた。これにより、各学校は、不審者の侵入事件や防災を始め各学校の実情に応じた危険等発生時対処要領を作成することとなっている。危険等発生時対処要領のうち、地震・津波災害を想定した危機管理について、文部科学省は、東日本大震災時の学校における避難行動等の課題が明らかになった教訓を踏まえ、地震・津波が発生した場合の具体的な対応について参考となるような共通的な留意事項を取りまとめた「学校防災マニュアル(地震・津波災害)作成の手引き」(以下「学校防災マニュアル作成の手引」という。)を作成し、24年に都道府県教育委員会等に示している。学校防災マニュアル作成の手引によると、避難所の運営について、本来的には市町村の防災担当部局が責任を有するが、東日本大震災の際、避難所となった学校では防災担当部局の担当者に引き継ぐまでに時間を要し、教職員が避難所運営の中心的な役割を担うこととなった事例が多数あったことなどから、事前に学校は防災担当部局や地域住民等の関係者・団体と避難所運営等の体制整備を図ることなどが重要であるとしている。

(イ) 学校防災マニュアル等の作成状況

避難所に指定されている28,800校における危険等発生時対処要領のうち、地震又は津波災害に関するもの(以下「学校防災マニュアル等」という。)の作成状況は、図表2-16のとおりである。

図表2-16 学校防災マニュアル等の作成状況

校種 避難所に指定
されている学
左記の学校における学校防災マニュアル等の作成状況
作成済み 未作成
学校防災マ
ニュアル作成
の手引を踏ま
えて作成
学校防災マ
ニュアル作成
の手引が示さ
れる以前に作
(校) (校) (校) (校) (校)
小中学校 26,494 25,743 14,729 11,014 751
(構成比) (100%) (97.20%) (55.60%) (41.60%) (2.80%)
高等学校 2,306 2,194 1,396 798 112
(構成比) (100%) (95.10%) (60.50%) (34.60%) (4.90%)
28,800 27,937 16,125 11,812 863
(構成比) (100%) (97.00%) (56.00%) (41.00%) (3.00%)
(注)
都道府県別については別表2-6を参照

避難所に指定されている28,800校のうち、97.0%に当たる27,937校が学校防災マニュアル等を作成しているが、3.0%に当たる863校ではいまだ作成していない状況となっていた。また、学校防災マニュアル等を作成している27,937校のうち、学校防災マニュアル作成の手引を踏まえて作成したとしているのは16,125校となっている。

また、各学校が学校防災マニュアル等を作成する際、避難所の開設等について市町村の防災担当部局との間で行った事前調整の状況は、図表2-17のとおりである。

図表2-17 市町村の防災担当部局との間で行った事前調整の状況

事前調整の状況
校種
学校防災マニュアル等を作成済み 調整済み 未調整 その他
学校防災マニュアル作成の手引を踏まえて作成 学校防災マニュアル作成の手引が示される以前に作成 学校防災マニュアル作成の手引を踏まえて作成したとしているが防災担当部局と調整を図っていない 学校防災マニュアル作成の手引が示される以前に作成
(校) (校) (校) (校) (校) (校) (校) (校)
小中学校 25,743 14,228 9,466 4,762 6,910 3,234 3,676 4,605
(構成比) (100%) (55.3%) (36.8%) (18.5%) (26.8%) (12.6%) (14.3%) (17.9%)
高等学校 2,194 1,141 819 322 553 316 237 500
(構成比) (100%) (52.0%) (37.3%) (14.7%) (25.2%) (14.4%) (10.8%) (22.8%)
27,937 15,369 10,285 5,084 7,463 3,550 3,913 5,105
(構成比) (100%) (55.0%) (36.8%) (18.2%) (26.7%) (12.7%) (14.0%) (18.3%)

学校防災マニュアル等を作成している27,937校のうち、市町村の防災担当部局との事前調整を図っているものが55.0%に当たる15,369校と過半を占めているものの、26.7%に当たる7,463校は調整を図っていない状況となっていた。このうち、学校防災マニュアル作成の手引を踏まえて作成したとしているにもかかわらず、防災担当部局との調整が図られていない学校が3,550校見受けられた。

学校防災マニュアル等が作成されていない事例を示すと次のとおりである。

<事例-教育5>

A市では市立の小中学校が20校あり、そのうち小学校11校、中学校6校、小中一貫校2校の計19校が避難所に指定されている。そして、避難所に指定されている全ての学校が危険等発生時対処要領を作成しているものの、その内容は、不測の事故、食中毒、光化学スモッグ等の対応となっており、地震等に関するものについては作成していなかった。

なお、A市教育委員会では、25年2月に「A市学校防災指針」等を作成し、各学校では、これに基づき地震災害を想定した具体的な内容を危険等発生時対処要領に記述することとしている。

(ウ) 津波等ハザードマップ

地方公共団体は、自然災害による被害の軽減や防災対策に使用する目的で、被災想定区域や避難場所の位置、避難経路等を表示した地図(以下「ハザードマップ」という。)を作成している。

そして、学校防災マニュアル作成の手引によると、学校防災マニュアル等を作成する際には、学校が立地している自然環境について総合的に把握することとされている。

学校防災マニュアル等を作成している27,937校における津波による浸水域を想定したハザードマップ(以下「津波ハザードマップ」という。)や液状化の危険地域を想定したハザードマップ(以下、津波ハザードマップと液状化の危険地域を想定したハザードマップを合わせて「津波等ハザードマップ」という。)の把握状況は、図表2-18のとおりとなっている。

図表2-18 津波等ハザードマップの把握状況

把握状況等
校種
学校防災マニュアル等を作成済み 津波等ハザードマップの有無を把握している 津波等ハザードマップの有無を把握していない
津波浸水域又は液状化想定の危険地域に該当するかについて
把握している 把握していない
(校) (校) (校) (校) (校)
小中学校 25,743 24,458 22,567 1,891 1,285
(構成比) (100%) (95.0%) (87.7%) (7.3%) (5.0%)
高等学校 2,194 1,861 1,674 187 333
(構成比) (100%) (84.8%) (76.3%) (8.5%) (15.2%)
27,937 26,319 24,241 2,078 1,618
(構成比) (100%) (94.2%) (86.8%) (7.4%) (5.8%)

学校防災マニュアル等を作成している27,937校のうち、津波等ハザードマップの有無を把握していないのは、5.8%に当たる1,618校となっている。また、津波等ハザードマップの有無は把握しているものの、津波浸水域又は液状化の危険地域に該当するか把握していないのは学校防災マニュアル等を作成している学校の7.4%に当たる2,078校となっている。

そして、津波浸水域内に所在しているものの、学校防災マニュアル等に津波浸水に対する避難方法を定めていないなどの事例を示すと次のとおりである。

<事例-教育6>

A市は、同市立小中学校14校の全てを地域防災計画において避難所に指定している。上記14校について学校防災マニュアル等の作成状況を検査したところ、全ての学校で学校防災マニュアル作成の手引を踏まえて作成し、津波ハザードマップにより、津波浸水域に該当するか確認していた。

しかし、同市の津波ハザードマップで、津波浸水域に該当している4校のうち、1校については、学校防災マニュアル等に津波浸水に対する避難場所や避難経路図等を記述していないなど具体的な避難方法等を定めておらず、3校については、避難場所は記述していたものの避難経路図等を記述していなかった。

(5) 東日本大震災に伴う被災等の状況

ア 東北3県の被災の状況

東北3県及び同管内の103市町村が文部科学省に提出した災害報告書等によると、東日本大震災によって1,628校の教育施設の建築物が被災しており、校種別では小中学校1,413校、中等教育学校1校、高等学校214校となっている。そして、その被災内容は、校舎や屋内運動場等の建築物の全部又は一部の倒壊(以下「全半壊」という。)、天井や照明器具の落下、給排水管の損傷等となっている。

建築物が被災した1,628校の被災状況について、上記の災害報告書等では被災の要因が不明なため、津波による浸水があった市町村に所在する学校と津波による浸水がなかった市町村に所在する学校とに分けて分析すると、津波による浸水があった地域では639校が被災し、このうち全半壊の被害が生じたのは62校となっている。一方、津波による浸水がなかった地域では989校が被災し、このうち全半壊の被害が生じたのは31校となっている。さらに、津波による浸水がなかった地域で被災した989校について、気象庁の計測震度に基づく東北地方太平洋沖地震による地震の大きさによって分析すると、震度7の地震が観測された地域においては42校、震度6強の地域においては165校、震度6弱の地域においては511校、震度5強の地域においては221校が被災している。このうち、全半壊の被害が生じたのは、震度6強の地域における13校及び震度6弱の地域における18校となっている。

なお、東京電力株式会社福島第一原子力発電所の事故発生に伴う警戒区域等に設定されていた区域に所在する建築物については、調査不能となっていることなどから、前記の災害報告書等には含まれていない。

イ 44都道府県の被災等の状況

(ア) 被災の概要

東日本大震災において被災した教育施設の建築物は15都道県(注7)における7,041棟であり、校種別では小中学校が5,686棟、高等学校が1,355棟となっている。

そして、これらの建築物の東日本大震災における主な被災の要因は、図表2-19のとおりである。

図表2-19 東日本大震災における主な被災の要因

校種 被災した
建築物
主な被災の要因 教育施設に被害のあった都道県
地震動 津波 液状化 火災
(棟) (棟) (棟) (棟) (棟)
小中学校 5,686 5,584 3 98 1 東京都、北海道、青森、秋田、山形、茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉、神奈川、新潟、山梨、長野、静岡各県 計15都道県
(構成比) (100%) (98.2%) (0.1%) (1.7%) (0.0%)
高等学校 1,355 1,349 1 5 0 東京都、青森、秋田、山形、茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉、神奈川、新潟、長野、静岡各県 計13都県
(構成比) (100%) (99.6%) (0.1%) (0.4%) (0%)
7,041 6,933 4 103 1 東京都、北海道、青森、秋田、山形、茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉、神奈川、新潟、山梨、長野、静岡各県 計15都道県
(構成比) (100%) (98.5%) (0.1%) (1.5%) (0.0%)
注(1)
「被災した建築物」の欄には、東日本大震災後に解体されるなどして平成24年12月31日現在では存在していない建築物(80棟)も含めている。図表2-20、図表2-21、図表2-22、図表2-23、図表2-24及び図表2-25についても同様に含めている。
注(2)
都道府県別については別表5を参照

被災の主な要因として一番多いのは地震動によるもので6,933棟、全体の98.5 %を占めている。次に多いのが液状化によるもので103棟、全体の1.5%を占めて いる。また、津波によるものは4棟、火災によるものは1棟となっている。

(注7)
15都道県  東京都、北海道、青森、秋田、山形、茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉、神奈川、新潟、山梨、長野、静岡各県
(イ) 建築物の構造体、建築非構造部材及び建築設備の被災の状況

被災の主な要因として地震動によるものが上記のとおり全体の98.5%を占めていることから、地震動による被災状況について建築物の耐震化の状況と被災状況とを比較分析することとし、その対象を前記の被災した教育施設が所在する15都道県293市町村における建築物38,839棟とした。また、被災状況については本震の後の余震により被害が拡大した建築物もあるが、震度については気象庁の計測震度に基づく東北地方太平洋沖地震(23年3月11日)に加え、同時期に発生した長野県北部の地震(同年3月12日)及び静岡県東部の地震(同年3月15日)による地震の揺れの大きさ(注8)によって比較することとした。

(注8)
地震の揺れの大きさ  計測震度は観測された市町村内全体が全て同じ震度であったことを示すものではないが、今回の分析においては同一市町村内においては観測された最も大きい震度を採用することとした。
a 構造体の被災の状況

教育施設の建築物における構造体の被災状況を震度分布により示すと、図表 2-20のとおりである。

図表2-20 構造体の被災状況

東北地方太平
洋沖地震等に
よる計測震度
耐震化対策の状況
(東日本大震災時点)
対象市町村に所在する
建築物
全半壊 損傷 一部損傷
棟数 教育耐震化率 棟数 棟数 棟数 棟数 被災率
(A) (a)/(b) (B) (B)/(A)
(棟) (%) (棟) (棟) (棟) (棟) (%)
震度5強以下 所要の耐震性能を確保している(a) 27,655 80.2 0 4 766 770 2.8
(構成比) (0%) (0.5%) (99.5%) (100%)
所要の耐震性能を確保していない 6,811 0 7 261 268 3.9
(構成比) (0%) (2.6%) (97.4%) (100%)
計(b) 34,466 0 11 1,027 1,038 3.0
(構成比) (0%) (1.1%) (98.9%) (100%)
震度6弱 所要の耐震性能を確保している(a) 1,848 68.1 0 12 242 254 13.7
(構成比) (0%) (4.7%) (95.3%) (100%)
所要の耐震性能を確保していない 864 3 25 90 118 13.7
(構成比) (2.5%) (21.2%) (76.3%) (100%)
計(b) 2,712 3 37 332 372 13.7
(構成比) (0.8%) (9.9%) (89.2%) (100%)
震度6強 所要の耐震性能を確保している(a) 1,121 67.5 3 21 309 333 29.7
(構成比) (0.9%) (6.3%) (92.8%) (100%)
所要の耐震性能を確保していない 540 2 12 187 201 37.2
(構成比) (1.0%) (6.0%) (93.0%) (100%)
計(b) 1,661 5 33 496 534 32.1
(構成比) (0.9%) (6.2%) (92.9%) (100%)
所要の耐震性能を確保している(a) 30,624 78.8 3 37 1,317 1,357 4.4
(構成比) (0.2%) (2.7%) (97.1%) (100%)
所要の耐震性能を確保していない 8,215 5 44 538 587 7.1
(構成比) (0.9%) (7.5%) (91.7%) (100%)
合計(b) 38,839 8 81 1,855 1,944 5
(構成比) (0.4%) (4.2%) (95.4%) (100%)
(注)
「所要の耐震性能を確保していない」の欄には耐震診断を実施していないため、所要の耐震性能が確保されているか不明な建築物も含まれる。図表2-22及び図表2-24も同じ。

耐震設計で想定している中規模地震に相当するのは震度5強程度とされている。そこで、震度5強以下の地震が観測された地域における被災状況をみると、対象市町村に所在する34,466棟のうち、1,038棟が被害を受けており、対象市町村に所在する建築物に対する被害を受けた建築物の割合(以下「被災率」という。)は3.0%となっている。その被災状況は構造体の補修を必要とするが人命の安全確保が図られており、建築物が使用できる状況(以下「一部損傷」という。)が98.9%を占めている。

また、震度6弱の地震が観測された地域においては、2,712棟のうち372棟が被害を受けており、被災率は13.7%となっている。その被災状況は一部損傷が89.2%を占めているが、建築物全体の耐力が低下し、人命の安全確保が図られていない状態(以下「損傷」という。)が37棟において見受けられている。また、全半壊も3棟見受けられているが、これらはいずれも耐震性推進通知に基づく耐震性能を確保していない建築物であった。

耐震設計で想定している大規模地震に相当するのは震度6強程度とされている。そこで、震度6強の地震が観測された地域における被災状況をみると、1,661棟のうち534棟が被害を受け、被災率は32.1%となっている。その被害状況は一部損傷が92.9%を占めているが、損傷が33棟、全半壊も5棟見受けられている。

次に、被災した1,944棟の耐震化の状況と被災状況を分析すると、このうち東日本大震災の時点で既に耐震性推進通知に基づく耐震性能を確保していた建築物は1,357棟であり、これらの建築物についても被害を受けているが、その97.1%は一部損傷までとなっており、ほとんどがその後に簡単な補修等を実施することで建物を使用することができるものであった。耐震性推進通知に基づく耐震性能を確保していなかった建築物587棟については全半壊したものが5棟、損傷となっていたものが44棟、一部損傷は538棟となっている。

耐震性推進通知に基づく耐震性能を確保していない建築物において全半壊又は損傷といった大きな被害が多く生じている。

地震動によって建築物の構造体に被害のあった事例を示すと次のとおりである。

<事例-教育7>

A市は、同市立B中学校の昭和44年に建設された鉄筋コンクリート地上3階建ての校舎(3,555㎡)について、平成21年に耐震診断を実施した。その結果、同校舎は、Is値が0.14となっており大規模地震で倒壊等の危険性が高いと診断されていた。

そして、東北地方太平洋沖地震(市内にある震度計で最大震度6弱)及びその後の余震により、同校舎は、複数の柱にせん断破壊が生じたり、壁面に亀裂が生じたりするなどして、半壊の被害が生じた。

同市では、同校舎を復旧するに当たり、損傷を受けた柱及び壁に対して大規模な補修及び補強が必要となることから、現在、取り壊して新たな校舎を建設しているところである。

さらに、地震動によって建築物の構造体に被害があった1,944棟のうち、構造耐震指標を示す数値としてIs値が用いられている建築物1,925棟について、構造体に被害のあった建築物の耐震診断結果と被災状況との関係をみると、図表2-21のとおりである。

図表2-21 構造体に被害があった建築物の耐震診断結果と被災状況との関係

東北地方太平
洋沖地震等に
よる計測震度
被災状況 被害を受けた建築物
所要の耐震
性能を確保
している建
築物
耐震診断は実施しているが耐震改修等が完了していないため、
所要の耐震性能を確保していない建築物
耐震診断未
実施
診断結果(Is値)
0.3未満 0.3以上
0.6未満
0.6以上
0.7未満等
不明
(棟) (棟) (棟) (棟) (棟) (棟) (棟) (棟)
震度5強以下 全半壊 0 0 0 0 0 0 0 0
損傷 10 4 3 0 2 1 0 3
一部損傷 1,016 759 210 28 126 45 11 47
1,026 763 213 28 128 46 11 50
震度6弱 全半壊 3 0 1 1 0 0 0 2
損傷 37 12 14 5 9 0 0 11
一部損傷 332 242 75 22 48 5 0 15
372 254 90 28 57 5 0 28
震度6強 全半壊 5 3 1 0 1 0 0 1
損傷 32 20 10 4 5 1 0 2
一部損傷 490 304 139 28 106 3 2 47
527 327 150 32 112 4 2 50
損傷以上(A) 87 39 29 10 17 2 0 19
(割合)
(A)/(B)
(4.50%) (2.90%) (6.40%) (11.40%) (5.70%) (3.60%) (0%) (14.80%)
一部損傷 1,838 1,305 424 78 280 53 13 109
合計(B) 1,925 1,344 453 88 297 55 13 128
(注)
「診断結果」には耐震改修後のIs値が0.6以上0.7未満等の建築物を含んでいる。

地震動によって建築物の構造体に被害があった1,925棟のうち、耐震性推進通知に基づく耐震性能を確保している建築物は1,344棟、耐震診断を実施しているが耐震改修等が完了していないため、耐震性推進通知に基づく耐震性能を確保していない建築物は453棟となっており、128棟については耐震診断を実施していなかった。

また、耐震診断を実施しているが耐震改修等が完了していないため、耐震性推進通知に基づく耐震性能を確保していない建築物453棟の耐震診断の結果別の被災状況は次のとおりとなっている。

耐震診断結果でIs値が0.3未満であった88棟については、震度6弱で5棟、震度6強で4棟の計9棟が損傷、震度6弱で1棟が全半壊となっており、計10棟とIs値が0.3未満で被害を受けた建築物の11.4%が損傷以上の被害を受けている。

耐震診断結果でIs値が0.3以上0.6未満であった297棟については、震度5強以下で2棟、震度6弱で9棟、震度6強で5棟の計16棟が損傷、震度6強で1棟が全半壊となっており、計17棟とIs値が0.3以上0.6未満で被害を受けた建築物の5.7%が損傷以上の被害を受けている。

耐震診断結果でIs値が0.6以上0.7未満等であった55棟については、震度5強以下で1棟、震度6強で1棟の計2棟が損傷となっており、Is値が0.6以上0.7未満等で被害を受けた建築物の3.6%が損傷以上の被害を受けている。

b 建築非構造部材の被災の状況

教育施設の建築物について、その建築非構造部材である外装材、建具及び天 井材の被災状況は、図表2-22のとおりである。

図表2-22 外装材等の建築非構造部材の被災状況

東北地方太
平洋沖地震
等による計
測震度
耐震化対策の状況 対象市町村に所在
する建築物
被災状況
外装材 建具 天井材 建築非構
造部材に
被害の
あった建
築物
棟数
(A)
耐震化率
(a)/(b)
損傷 一部損傷
(B)
被災率
(B)/(A)
損傷 一部損傷
(C)
被災率
(C)/(A)
損傷 一部損傷
(D)
被災率
(D)/(A)
(棟) (%) (棟) (棟) (棟) (%) (棟) (棟) (棟) (%) (棟) (棟) (棟) (%) (棟)
震度5強以下 所要の耐震性能を確保
している(a)
14,343 41.6 3 532 535 3.7 2 343 345 2.4 4 435 439 3.1 1,040
所要の耐震性能を確保
していない
20,123 4 1,179 1,183 5.9 7 713 720 3.6 1 630 631 3.1 2,070

計(b)
34,466 7 1,711 1,718 5 9 1,056 1,065 3.1 5 1,065 1,070 3.1 3,110
震度6弱以上 所要の耐震性能を確保
している(a)
1,949 44.6 6 524 530 27.2 4 410 414 21.2 30 397 427 21.9 781
所要の耐震性能を確保
していない
2,424 14 842 856 35.3 7 778 785 32.4 16 618 634 26.2 1,256

計(b)
4,373 20 1,366 1,386 31.7 11 1,188 1,199 27.4 46 1,015 1,061 24.3 2,037
所要の耐震性能を確保
している(a)
16,292 41.9 9 1,056 1,065 6.5 6 753 759 4.7 34 832 866 5.3 1,821
所要の耐震性能を確保
していない
22,547 18 2,021 2,039 9 14 1,491 1,505 6.7 17 1,248 1,265 5.6 3,326

計(b)
38,839 27 3,077 3,104 8 20 2,244 2,264 5.8 51 2,080 2,131 5.5 5,147
注(1)
「損傷」は設備等の被害が大きく、補修が困難な状況であり、復旧するためには全て取り替える必要があるものである。図表2-23、図表2-24、図表3-21及び図表3-22も同じ。
注(2)
「一部損傷」は設備等に被害があり、復旧するためには専門技術者による補修が必要なものである。図表2-23、図表2-24、図表3-21及び図表3-22も同じ。

被災状況を外装材、建具及び天井材の部位ごとにみると外装材は3,104棟、建具は2,264棟、天井材は2,131棟で被害を受けていた。このうち震度が6弱以上であった地域においては、4,373棟のうち、外装材で1,386棟(被災率31.7%)、建具で1,199棟(被災率27.4%)、天井材で1,061棟(被災率24.3%)が被害を受けている。このうち新耐震基準に基づく耐震性能を確保していなかった建築物における被害は外装材で856棟(被災率35.3%)、建具で785棟(被災率32.4%)、天井材で634棟(被災率26.2%)である。また、これらの建築物のほとんどは建築非構造部材についての耐震診断も実施されていなかった。震度が5強以下の地域においては、34,466棟のうち、外装材で1,718棟(被災率5.0%)、建具で1,065棟(被災率3.1%)、天井材で1,070棟(被災率3.1%)が被害を受けており、被災率は総じて低いものであった。

建築非構造部材のうち、東日本大震災において特に被害の大きかったものとして、大空間を有する屋内運動場等の天井材の脱落が報告されている。そこで大空間を有する屋内運動場等の天井材に着目し、屋内運動場等の天井材に被害のあった建築物の耐震診断及び耐震改修の実施状況をみると、図表2-23のとおりとなっている。

図表2-23 屋内運動場等の天井材に被害のあった建築物の耐震化状況と被災状況


東北地方太平
洋沖地震等に
よる計測震度
被災状況 天井材に被害が
あった建築物
 
所要の耐震性能を確保している建築物 耐震診断は実施
しているが耐震
改修等が完了し
ていないため、
所要の耐震性能
を確保していな
い建築物
耐震診断未実施
新耐震基準に基
づく建築物
所要の耐震性能
を確保している
と確認された建
築物
耐震改修により
所要の耐震性能
を確保するなど
している建築物
(棟) (棟) (棟) (棟) (棟) (棟)


震度5強以下 損傷 3 2 0 0 0 1
(構成比) (100%) (66.7%) (0%) (0%) (0%) (33.3%)
一部損傷 343 176 5 5 6 151
(構成比) (100%) (51.3%) (1.5%) (1.5%) (1.7%) (44.0%)
346 178 5 5 6 152
(構成比) (100%) (51.4%) (1.4%) (1.4%) (1.7%) (43.9%)
震度6弱以上 損傷 31 25 0 0 0 6
(構成比) (100%) (80.6%) (0%) (0%) (0%) (19.4%)
一部損傷 358 172 1 3 1 181
(構成比) (100%) (48.0%) (0.3%) (0.8%) (0.3%) (50.6%)
389 197 1 3 1 187
(構成比) (100%) (50.6%) (0.3%) (0.8%) (0.3%) (48.1%)
合計 735 375 6 8 7 339
(構成比) (100%) (51.0%) (0.8%) (1.1%) (1.0%) (46.1%)

地震動により天井材に被害があった建築物は735棟であり、このうち耐震診断を実施していない建築物は339棟と46.1%を占めている。

また、天井材に被害があった建築物のうち新耐震基準に基づく建築物は375棟と51.0%を占めており、新耐震基準に基づく建築物においても多数の被害が見受けられている。

c 建築設備の被災の状況

教育施設の建築物について、その建築設備である電力供給設備、照明設備及び給排水・衛生設備の被災状況は、図表2-24のとおりである。

図表2-24 電力供給設備等の建築設備の被災状況

東北地方太
平洋沖地震
等による計
測震度
耐震化対策の状況 対象市町村に所在
する建築物
被災状況
電力供給設備 照明設備 給排水・衛生設備 建築非構
造部材に
被害の
あった建
築物
棟数
(A)
耐震化率
(a)/(b)
損傷 一部損傷
(B)
被災率
(B)/(A)
損傷 一部損傷
(C)
被災率
(C)/(A)
損傷 一部損傷
(D)
被災率
(D)/(A)
(棟) (%) (棟) (棟) (棟) (%) (棟) (棟) (棟) (%) (棟) (棟) (棟) (%) (棟)
震度5強以下 所要の耐震性能を確保
している(a)
14,384 41.7 3 25 28 0.2 1 136 137 1 22 283 305 2.1 451
所要の耐震性能を確保
していない
20,082 3 41 44 0.2 1 188 189 0.9 16 531 547 2.7 734

計(b)
34,466 6 66 72 0 2 324 326 1 38 814 852 3 1,185
震度6弱以上 所要の耐震性能を確保
している(a)
1,953 44.7 1 140 141 7.2 12 293 305 15.6 14 313 327 16.7 464
所要の耐震性能を確保
していない
2,420 4 236 240 9.9 8 448 456 18.8 28 606 634 26.2 807

計(b)
4,373 5 376 381 9 20 741 761 17 42 919 961 22 1,271
所要の耐震性能を確保
している(a)
16,337 42.1 4 165 169 1 13 429 442 2.7 36 596 632 3.9 915
所要の耐震性能を確保
していない
22,502 7 277 284 1 9 636 645 3 44 1,137 1,181 5 1,541
計(b) 38,839 11 442 453 1 22 1,065 1,087 3 80 1,733 1,813 5 2,456

被災状況を電力供給設備、照明設備及び給排水・衛生設備の設備ごとにみると電力供給設備は453棟、照明設備は1,087棟、給排水・衛生設備は1,813棟で被害を受けていた。このうち震度が6弱以上であった地域においては、4,373棟のうち、電力供給設備で381棟(被災率8.7%)、照明設備で761棟(被災率17.4%)、給排水・衛生設備で961棟(被災率22.0%)が被害を受けている。このうち新耐震基準に基づく耐震性能を確保していなかった建築物の被害は電力供給設備で240棟(被災率9.9%)、照明設備で456棟(被災率18.8%)、給排水・衛生設備で634棟(被災率26.2%)である。震度が5強以下の地域においては、34,466棟のうち、電力供給設備で72棟(被災率0.2%)、照明設備で326棟(被災率0.9%)、給排水・衛生設備で852棟(被災率2.5%)となっており、被災率は総じて低いものであった。

(ウ) 被災した避難所の状況

地震動により被災した避難所として使用予定となっていた建築物4,000棟につ いて、避難所としての開設状況及び被災状況をみると図表2-25のとおりである。

図表2-25 被災した避難所の東日本大震災発生後の開設状況等

東北地方太平
洋沖地震等に
よる計測震度
15都道県の
271市町村
において避
難所として
使用する予
定としてい
た建築物
地震動によ
り被害を受
けた建築物
地震被害に
より避難所
として使用
できなかっ
た建築物
地震動によ
る被害が
あったもの
の避難所と
して使用し
た建築物
避難所を開
設する必要
がなかった
建築物
避難所として使用できなかった要因(複数回答)
構造体 建具 天井材 電力供給
設備
給排水・
衛生設備
ライフ
ライン
その他
(棟) (棟) (棟) (件) (件) (件) (件) (件) (件) (件) (棟) (棟)
震度5強以下 20,018 2,431 13 2 4 4 0 2 0 3 654 1,764
震度6弱 1,788 940 90 11 15 55 9 17 3 10 229 621
震度6強 786 629 10 2 2 3 0 2 2 4 71 548
22,592 4,000 113 15 21 62 9 21 5 17 954 2,933

地震動により被災した4,000棟のうち113棟は避難所として使用できなかった。また、954棟については被災したものの被害が比較的小規模であったことなどにより避難所として使用され、2,933棟については避難所を開設する必要がなかった。

避難所として使用できなかった113棟について、その要因をみると、天井材が脱落するなど天井材に被害を受けたことによるものが62件と最も多くなっている。次に多いのは、窓ガラスが破損するなど建具に被害を受けたことによるもの及び給排水・衛生設備に被害を受けたことによるものがそれぞれ21件となっている。また、構造体に被害を受けたことによるものが15件となっている。

構造体が被害を受けたことにより避難所としての使用に支障が生じた事例を示すと次のとおりである。

<事例-教育8>

A町立B小学校屋内運動場は、昭和54年に建設された鉄筋コンクリート造、鉄骨造地上2階建ての建築物であり、地域防災計画で避難所として指定されていた。しかし、平成20年に策定された小学校校舎整備計画でB小学校が統廃合の対象学校とされたことなどから耐震診断は実施されていなかった。

東日本大震災時において、A町は23年3月11日15時に同屋内運動場を避難所として開設したが、東北地方太平洋沖地震(町内にある震度計で最大震度5強)及びその後の余震により2階にある梁の一部が損傷していることが13日11時に町役場職員により確認されたことなどから13日14時に同屋内運動場の避難所としての利用を中止している。