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  • 国会からの検査要請事項に関する報告(検査要請)|
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  • 平成25年10月

公共建築物における耐震化対策等に関する会計検査の結果について


第2 検査の結果

3 医療施設における耐震化対策等の状況

(1) 医療施設における耐震化対策等の概要

ア 厚生労働省における医療施設の耐震化対策

厚生労働省は、前記のとおり災対法等の規定に基づき厚生労働省防災業務計画を定めている。同計画によると、厚生労働省は、医療施設の耐震化対策等に関して、次のことなどを行うこととなっている。

① 独立行政法人国立病院機構、独立行政法人労働者健康福祉機構その他特別の法律に基づいて設置される厚生労働省関係の法人が設置し、又は運営する医療施設等について、耐震性の強化等を通じ、その安全性の確保に努めること。

② 医療施設の管理者が実施する医療施設における耐震性その他の安全性を確保することなどに関し、必要に応じ、助言及びその他の支援を行うこと。

③ 都道府県による災害時医療体制の整備に関し、必要な助言及びその他の支援を行うこと。

そして、厚生労働省は、厚生労働省防災業務計画に定められた事項について、医療提供体制施設整備交付金等により医療施設の開設者が行う病院の耐震性等の確保に対する財政支援(図表3-1参照)を行ったり、病院の耐震改修状況を調査及び公表(直近では24年9月調査、25年3月公表)したり、都道府県に対して耐震化が必要な病院への指導を依頼する通知を発出したり、東日本大震災での対応等を踏まえて24年3月に災害拠点病院の指定に必要な所定の要件(以下「指定要件」という。)を見直したりするなどして、医療施設の耐震化等の促進を図っている。

図表3-1 厚生労働省における医療施設の耐震化に係る財政支援

補助金等名 創設
年度
制度の概要
独立行政法人国立病院機構施設整備費補助
金のうち耐震補強整備分
平成
16
独立行政法人国立病院機構が行う医療施設の耐震補強整備に対
する補助を行うもの。
医療施設運営費等補助金のうち医療施設耐
震化促進事業費
18 都道府県を通じて、救命救急センター等の救急医療等を担って
いる病院及び災害時における医療の提供に必要な医療機関(公立
病院及び公的病院を除く)の耐震診断に対する補助を行うもの。
医療提供体制施設整備交付金のうち医療施
設の耐震整備に係る分
- -
基幹・地域災害拠点病院施設整備事業 8 都道府県を通じて、災害拠点病院(公立病院を除く)の耐震整備
に対する補助を行うもの。(この他に自家発電装置、受水槽等の
整備に対する補助を行う。)
地震防災対策医療施設耐震整備事業 13 都道府県を通じて、都道府県が定める「地震防災緊急事業5箇年
計画」に基づいて耐震化を必要とする医療機関(公立病院を除く)
及び土砂災害危険箇所に所在する医療機関(公立病院を除く)が
実施する耐震整備に対する補助を行うもの。
医療施設耐震整備事業 18 都道府県を通じて、耐震化未実施の救命救急センター等の救急
医療を担っている病院及び災害時における医療の提供に必要な
医療機関(公立病院及び公的病院を除く)並びにIs値が0.3未満の
建物を有する病院(公立病院を除く)が実施する耐震整備に対す
る補助を行うもの。
医療施設耐震化臨時特例交付金 21 都道府県に設置する基金を通じて、災害拠点病院等が実施する
耐震整備に対する補助を行うもの。
医療施設等耐震整備に係る財政投融資資金 21 独立行政法人福祉医療機構を通じて、耐震化未実施の民間の医
療機関が実施する耐震整備に対して低金利かつ長期の貸付を行
うもの。
(注)
本表における公的病院とは、日本赤十字社、社会福祉法人恩賜財団済生会、全国厚生農業協同組合連合会及び社会福祉法人北海道事業協会が開設する病院である。

イ 厚生労働省における医療施設の耐震化に係る財政支援

厚生労働省は、上記のように医療施設の開設者が行う医療施設の耐震化に対する財政支援として、各種の交付金等による事業を実施している。これら医療施設の耐震化に対する財政支援に係る交付金等の額について、19年度以降の推移をみると、図表3-2-1及び図表3-2-2のとおりとなっている。

図表3-2-1 厚生労働省における医療施設の耐震化に係る交付金等の額

(単位:百万円)

補助金等名 平成19年度 20年度 21年度 22年度 23年度 24年度
独立行政法人国立病院機構施設整備費補助金
のうち耐震補強整備分
625 1 110 103
医療施設運営費等補助金のうち医療施設耐震
化促進事業費
10 7 13 4 2 10
医療提供体制施設整備交付金のうち医療施設
の耐震整備に係る分
403 278 755 493 275 284
基幹・地域災害拠点病院施設整備事業 320 194 755 336 122 156
地震防災対策医療施設耐震整備事業 20 12 20
医療施設耐震整備事業 82 84 136 141 107
医療施設耐震化臨時特例交付金 122,210 36,033 15,633 22,029
医療施設等耐震整備に係る財政投融資資金 2,505 56,067 72,685 61,250
1,040 287 125,595 92,702 88,597 83,574
(注)
医療施設等耐震整備に係る財政投融資資金の額は契約額、それ以外の額は交付決定額を示している。

図表3-2-2 厚生労働省における医療施設の耐震化に係る交付金等の額

厚生労働省における医療施設の耐震化に係る交付金等の額

(注)
医療施設等耐震整備に係る財政投融資資金の額は契約額、それ以外の額は交付決定額を示している。

医療施設の耐震化に係る厚生労働省の財政支援について、19年度以降の交付決定額の推移をみると、20年度までは数億円程度であったものが、21年度以降は800億円から1200億円程度と大幅に増加しており、増加額の大半は、各年度の補正予算や予備費で措置された医療施設耐震化臨時特例交付金及び医療施設等耐震整備に係る財政投融資資金となっている。

ウ 医療施設に係る耐震化の目標等

前記のとおり、厚生労働省は、病院の耐震改修状況の調査及び公表を行っている。厚生労働省による調査は、病棟部門、外来診療部門及び手術検査部門があるなど患者が利用する建築物(以下「患者利用建築物」という。)を対象としており、25年3月の公表によると、24年9月1日時点において、全国の病院のうち全ての患者利用建築物が所要の耐震性能を確保している病院の割合は61.4%、災害拠点病院及び救命救急センターのうち全ての患者利用建築物が所要の耐震性能を確保している病院の割合は73.0%となっている。

そして、厚生労働省は、これらの病院のうち災害拠点病院及び救命救急センターについては、災害時に患者受入れの拠点となることから、耐震化の目標を設定しており、同省が21年度に実施した調査において所要の耐震性能を確保していない患者利用建築物があるとされている病院の割合を5年間で半減させ、全ての患者利用建築物が所要の耐震性能を確保している病院の割合を26年度末までに81.2%とするとしている。

このように、厚生労働省による病院の耐震化の目標は、災害拠点病院等の建築物のうち患者利用建築物を対象に病院数ベースで設定しているものであり、多数の者が利用する建築物を対象に棟数ベースで設定している基本方針の目標とは、対象建築物の範囲や目標値の算出方法が異なる。このため、厚生労働省が設定した病院の耐震化の目標に対する達成度等と基本方針の目標に対する達成度等とは直接比較することができないものとなっている。

エ 災害拠点病院の整備

防災基本計画によると、国、地方公共団体等は、地域の実情に応じて、災害時における拠点医療施設となる災害拠点病院等を選定するなど、災害発生時における救急医療体制の整備に努めるものとするとされている。また、厚生労働省防災業務計画によると、都道府県は、地域の医療施設を支援する機能等を有する災害時に拠点となる災害拠点病院を選定し、又は設置することにより、災害時医療体制の整備に努めるなどとされている。このように、災害拠点病院は、災害時の拠点医療施設として位置付けられている。

災害拠点病院は、7年1月に発生した阪神・淡路大震災を契機として、8年から整備が行われている。その整備に当たり厚生労働省は、8年5月に各都道府県知事等宛てに「災害時における初期救急医療体制の充実強化について」(平成8年健政発第451号厚生省健康政策局長通知)を発出しており、これによると、各都道府県は、耐震構造を有する施設であることなどの指定要件を満たす災害拠点病院について、原則として都道府県ごとに基幹災害拠点病院を1か所、二次医療圏ごとに地域災害拠点病院を1か所指定することなどとされている。また、厚生労働省は、指定の際の留意事項として、指定要件の原則によらない場合には、同省の担当部局と協議することなどとしている。

その後、東日本大震災での対応等を踏まえて、厚生労働省は、24年3月に各都道府県知事等宛てに「災害時における医療体制の充実強化について」(平成24年医政発0321第2号厚生労働省医政局長通知)を発出して、災害拠点病院の指定要件を改正しており、改正後における災害拠点病院の主な指定要件は、次のとおりとなっている。

① 救命救急センター又は第二次救急医療機関であること

② 診療機能を有する施設は耐震構造を有することとし、病院機能を維持するために必要な全ての施設が耐震構造を有することが望ましいこと

③ 通常時の6割程度の発電容量のある自家発電機等を保有し、3日分程度の燃料を確保しておくこと

④ 適切な容量の受水槽の保有、停電時にも利用可能な井戸設備の整備等により、災害時の診療に必要な水を確保すること

⑤ 衛星電話等を有し、広域災害・救急医療情報システム(EMIS)に参加し災害時に情報を入力する体制を整えておくこと

⑥ 災害派遣医療チーム(DMAT)を保有していること

そして、基幹災害拠点病院の場合は、指定要件が一部厳しくなっており、①については救命救急センターであること、②については病院機能を維持するために必要な全ての施設が耐震構造を有すること、⑥については複数の災害派遣医療チーム(DMAT)を保有していることとされている。

さらに、24年の改正では、既に指定している災害拠点病院であって、要件を満たしていない病院の指定に関する経過措置が示されており、⑥については26年3月までに保有することを前提に、①及び②については当面の間、指定の継続を可能とするとされている。

なお、厚生労働省は、指定要件で定めている耐震構造を有する施設については、新耐震基準を満たしている施設を指すとしており、災害発生時の業務継続の観点から耐震安全性の割増し等を考慮したり、求めたりすることはしていないとしている。

このように、厚生労働省は、災害拠点病院の整備に当たり、指定要件を満たす病院を災害拠点病院に指定するよう都道府県に求めている一方で、24年の改正において、指定要件を満たしていない病院についても災害拠点病院に指定されていることを前提に経過措置を定めているなど、必ずしも指定要件を全て満たした病院だけが災害拠点病院に指定されているわけではない。

現に、厚生労働省は、施設の耐震性の確保を災害拠点病院の指定要件とする一方で、災害拠点病院の制度の創設に合わせて8年度に創設した基幹・地域災害拠点病院整備事業により、災害拠点病院に指定されているが施設の耐震性が確保されていない病院の耐震整備事業への財政支援を行っている。また、25年3月に公表された同省の調査では、3割弱の災害拠点病院において、24年9月時点で所要の耐震性能が確保されていない患者利用建築物があるという結果が出ている。そこで、都道府県が行う災害拠点病院の指定状況についてみると、都道府県は、指定要件を厳格に適用すると、地域によっては指定要件を全て満たした病院が存在せず、災害医療体制の整備を図れない場合があることなどから、厚生労働省と協議の上、病院の所在地や規模等を勘案するなど地域の実情に応じて指定要件の項目を極力多く満たしている病院を指定している状況となっている。

すなわち、厚生労働省が定めた災害拠点病院の指定要件は、厳格に適用する運用にはなっておらず、災害拠点病院の体制、施設設備等の整備目標として運用されている側面がある。

オ 分析の対象とした医療施設の概要

医療施設は、災害発生時の救護施設として重要な役割を担う施設であり、その拠点となる災害拠点病院は、前記のとおり、救命救急センター又は第二次救急医療機関であることなどが指定要件となっている。

このような状況を踏まえ、医療施設については、医療法第1条の5第1項に定める病院のうち、災害拠点病院、救命救急センター及び第二次救急医療機関を分析の対象とした。

44都道府県に所在する医療機関については、都道府県等から調書の提出を受けるなどして、また、東北3県に所在する医療機関については、厚生労働省が実施した調査に係る関係資料等の既存資料の提供を受けるなどして、医療機関の建築物ごとの耐震性等の状況、医療機関ごとのライフライン設備及び災害時の医療体制等の状況等について分析を行った。

調書の提出を受けて分析の対象とした医療機関数、建築物の棟数及び築年数は、図表3-3のとおりである。

図表3-3 分析の対象とした医療機関数、建築物の棟数及び築年数

医療機関の区分 分析対象医療機関 分析対象医療機関の建築物 (内訳)分析対象医療機関の建築物の築年数
建築後31年以上
(昭和56年以前の建築)
建築後31年未満
(57年以降の建築)
不明
建築後41年以上 建築後31年以上41年未満 建築後21年以上31年未満 建築後11年以上21年未満 建築後11年未満
(病院) (棟) (棟) (棟) (棟) (棟) (棟) (棟) (棟) (棟)
全体 3,502 10,234 3,269 1,216 2,053 6,939 2,315 2,305 2,319 26
(構成比) (100%) (31.9%) (11.9%) (20.1%) (67.8%) (22.6%) (22.5%) (22.7%) (0.3%)
災害拠点病院 624 2,717 770 290 480 1,943 638 638 667 4
(構成比) (100%) (28.3%) (10.7%) (17.7%) (71.5%) (23.5%) (23.5%) (24.5%) (0.1%)
救命救急センター 247 1,312 381 131 250 928 281 309 338 3
(構成比) (100%) (29.0%) (10.0%) (19.1%) (70.7%) (21.4%) (23.6%) (25.8%) (0.2%)
うち災害拠点病院 228 1,172 334 110 224 835 250 278 307 3
(構成比) (100%) (28.5%) (9.4%) (19.1%) (71.2%) (21.3%) (23.7%) (26.2%) (0.3%)
第二次救急医療機関 3,247 8,878 2,869 1,076 1,793 5,986 2,024 1,992 1,970 23
(構成比) (100%) (32.3%) (12.1%) (20.2%) (67.4%) (22.8%) (22.4%) (22.2%) (0.3%)
うち災害拠点病院 388 1,501 417 171 246 1,083 378 356 349 1
(構成比) (100%) (27.8%) (11.4%) (16.4%) (72.2%) (25.2%) (23.7%) (23.3%) (0.1%)
(注)
分析の対象とした災害拠点病院のうち8病院は救命救急センター及び第二次救急医療機関以外の医療機関である。

調書の提出を受けて分析の対象とした医療機関は、全体で3,502病院、10,234棟であり、これを医療機関別にみると、災害拠点病院が624病院、2,717棟、救命救急センターが247病院、1,312棟(うち災害拠点病院228病院、1,172棟)及び第二次救急医療機関が3,247病院、8,878棟(うち災害拠点病院388病院、1,501棟)である。また、分析対象医療機関の建築物の棟数を築年数別にみると、建築後11年未満、建築後11年以上21年未満及び建築後21年以上31年未満のいずれの建築物もそれぞれ全体の2割強となっていて、建築年数によるばらつきが見受けられないが、建築後41年以上の建築物は全体の1割強しかないことから、建築から一定期間以上が経過した建築物は、逐次建て替えられていると考えられる。

また、東北3県について、既存資料による分析の対象とした医療機関(以下「東北3県の医療機関」という。)は、全体で211病院であり、これを医療機関別にみると、災害拠点病院が34病院、救命救急センターが12病院(うち災害拠点病院12病院)及び第二次救急医療機関が199病院(うち災害拠点病院22病院)である。なお、これらの医療機関については、既存資料に棟ごとの情報がないため、棟ごとの分析は行っていない。

(2) 医療施設の耐震診断の状況

ア 耐震診断の実施状況

医療機関における診断率は、図表3-4-1及び図表3-4-2のとおりである。

図表3-4-1 構造体、建築非構造部材及び建築設備の診断率

医療機関等の区分 分析対象医療機関の建築
左のうち耐震診断が必
要な建築物(旧耐震基
準に基づく建築物)(A)
耐震診断実施済みの建
築物 (B)
診断率
(B)/(A)
うち多
数の者
が利用
する建
築物
うち患
者利用
建築物
うち多
数の者
が利用
する建
築物
うち患
者利用
建築物
うち多
数の者
が利用
する建
築物
うち患
者利用
建築物
うち多
数の者
が利用
する建
築物
うち患
者利用
建築物
(棟) (棟) (棟) (棟) (棟) (棟) (棟) (棟) (棟) (%) (%) (%)


全体 10,234 6,576 8,471 3,323 2,060 2,727 1,597 1,142 1,384 48.1 55.4 50.8
災害拠点病院 2,717 1,745 1,938 789 509 543 511 390 391 64.8 76.6 72
救命救急センター 1,312 879 894 398 283 257 277 218 199 69.6 77 77.4
第二次救急医療機関 8,878 5,670 7,542 2,906 1,767 2,455 1,304 915 1,173 44.9 51.8 47.8






全体 10,234 6,576 8,471 3,323 2,060 2,727 350 257 291 10.5 12.5 10.7
災害拠点病院 2,717 1,745 1,938 789 509 543 111 85 76 14.1 16.7 14
救命救急センター 1,312 879 894 398 283 257 65 51 47 16.3 18 18.3
第二次救急医療機関 8,878 5,670 7,542 2,906 1,767 2,455 283 206 242 9.7 11.7 9.9



全体 10,234 6,576 8,471 3,323 2,060 2,727 335 248 287 10.1 12 10.5
災害拠点病院 2,717 1,745 1,938 789 509 543 98 77 75 12.4 15.1 13.8
救命救急センター 1,312 879 894 398 283 257 67 48 54 16.8 17 21
第二次救急医療機関 8,878 5,670 7,542 2,906 1,767 2,455 265 199 230 9.1 11.3 9.4
(注)
都道府県別については別表3-1を参照

図表3-4-2 構造体の診断率

構造体の診断率

耐震診断が必要な旧耐震基準に基づく建築物は、全体で3,323棟となっており、構造体の診断率は48.1%となっている。これを医療機関別にみると、災害拠点病院では64.8%、救命救急センターでは69.6%となっていて、災害拠点病院及び救命救急センターの診断率は、それ以外の医療機関の診断率より高くなっている。

建築非構造部材及び建築設備の診断率は、全体でそれぞれ10.5%及び10.1%となっている。そして、構造体で診断率が比較的高い災害拠点病院の多数の者が利用する建築物でみてもそれぞれ16.7%及び15.1%となっていて、構造体の診断率76.6%と比べてそれぞれ59.9ポイント及び61.5ポイント低くなっている。

また、東北3県の医療機関211病院における耐震診断の実施状況についてみると、24年9月1日時点において、耐震診断を実施していないなどのため、患者利用建築物の構造体の耐震性が不明な医療機関は、全て第二次救急医療機関で21病院(うち災害拠点病院1病院)となっている。なお、分析に使用した資料では、所要の耐震性能を確保していない患者利用建築物がある医療機関に分類されている医療機関の中に、耐震診断を実施していない患者利用建築物がある医療機関が一部含まれているため、上記の21病院以外にも耐震診断を実施していない患者利用建築物がある医療機関があると考えられる。

イ 構造体の耐震診断結果

医療機関における構造体の耐震診断結果は、図表3-5のとおりである。

図表3-5 構造体の耐震診断結果

医療機関の区分 耐震診断実
施済みの建
築物
構造体の耐震診断結果
所要の耐震性能を確保していない建築物(耐震改修等が必要) 所要の耐震
性能を確保
している建
築物
Is値0.3未満 Is値0.3以上
0.6未満
Is値不明 Is値0.6以上
うち多数の
者が利用す
る建築物
うち患者利
用建築物
(棟) (棟) (棟) (棟) (棟) (棟) (棟) (棟)
全体 1,597 1,035 312 268 291 683 40 562
災害拠点病院 511 297 82 76 71 207 8 214
救命救急センター 277 153 32 30 27 110 11 124
第二次救急医療機関 1,304 878 279 237 263 570 29 426

構造体の耐震診断を実施した1,597棟のうち、新耐震基準に基づく耐震性能が確保されておらず耐震改修等が必要と診断された建築物は1,035棟であり、耐震診断を実施した建築物の6割以上となっている。これを医療機関別にみると、災害拠点病院は511棟中297棟が、救命救急センターは277棟中153棟が、第二次救急医療機関は1,304棟中878棟が耐震改修等が必要と診断されている。

そして、耐震診断の結果、耐震改修等が必要とされた1,035棟の建築物のうち、約3割の312棟は、大規模地震で倒壊等の危険性が高いとされるIs値が0.3未満の建築物となっている。

次に、医療機関の建築物における築年数別の構造体の耐震診断結果をみると、図表3-6のとおりとなっている。

図表3-6 築年数別の構造体の耐震診断結果

当該建築物の築年数 耐震診断実
施済みの建
築物
構造体の耐震診断結果
所要の耐震性能を確保していない建築物
(耐震改修等が必要)
所要の耐震性
能を確保して
いる建築物
Is値0.3未満 Is値0.3以上
0.6未満
Is値不明 Is値0.6以上
(棟) (棟) (棟) (棟) (棟) (棟)
築36年未満
(昭和52年以降建築)
661 351 63 277 11 310
(構成比) (100%) (53.1%) (9.5%) (41.9%) (1.7%) (46.9%)
築36年以上41年未満
(47年以降51年以前建築)
390 259 74 172 13 131
(構成比) (100%) (66.4%) (19.0%) (44.1%) (3.3%) (33.6%)
築41年以上
(46年以前建築)
540 423 175 233 15 117
(構成比) (100%) (78.3%) (32.4%) (43.1%) (2.8%) (21.7%)
不明 6 2 0 1 1 4
(構成比) (100%) (33.3%) (0%) (16.7%) (16.7%) (66.7%)
1,597 1,035 312 683 40 562
(構成比) (100%) (64.8%) (19.5%) (42.8%) (2.5%) (35.2%)

築年数別に構造体の耐震診断結果をみると、耐震診断を実施した建築物のうち、大規模地震で倒壊等の危険性が高いとされるIs値が0.3未満の建築物の割合は、築36年未満では9.5%、築36年以上41年未満では19.0%、築41年以上では32.4%となっていて、築年数が経過するほど大規模地震で倒壊等の危険性が高いとされる建築物の割合が増加する傾向が見受けられる。

(3) 医療施設の耐震改修の状況

ア 耐震化の状況

医療機関における耐震化率は、図表3-7のとおりである。

図表3-7 構造体、建築非構造部材及び建築設備の耐震化率

医療機関等の区分 分析対象医療機関の建築
物 (A)
所要の耐震性能を確保している建築物 (B) 耐震化率
(B)/(A)
うち新耐震基準に基づ
く建築物
うち多
数の者
が利用
する建
築物
うち患
者利用
建築物
うち多
数の者
が利用
する建
築物
うち患
者利用
建築物
うち多
数の者
が利用
する建
築物
うち患
者利用
建築物
うち多
数の者
が利用
する建
築物
うち患
者利用
建築物
(棟) (棟) (棟) (棟) (棟) (棟) (棟) (棟) (棟) (%) (%) (%)


全体 10,234 6,576 8,471 7,790 5,076 6,477 6,911 4,516 5,744 76.1 77.2 76.5
災害拠点病院 2,717 1,745 1,938 2,225 1,441 1,610 1,928 1,236 1,395 81.9 82.6 83.1
救命救急センター 1,312 879 894 1,080 718 745 914 596 637 82.3 81.7 83.3
第二次救急医療機関 8,878 5,670 7,542 6,673 4,336 5,704 5,972 3,903 5,087 75.2 76.5 75.6






全体 10,234 6,576 8,471 7,184 4,709 5,974 6,911 4,516 5,744 70.2 71.6 70.5
災害拠点病院 2,717 1,745 1,938 2,025 1,309 1,468 1,928 1,236 1,395 74.5 75 75.7
救命救急センター 1,312 879 894 977 645 684 914 596 637 74.5 73.4 76.5
第二次救急医療機関 8,878 5,670 7,542 6,180 4,047 5,268 5,972 3,903 5,087 69.6 71.4 69.8



全体 10,234 6,576 8,471 7,143 4,680 5,947 6,911 4,516 5,744 69.8 71.2 70.2
災害拠点病院 2,717 1,745 1,938 1,997 1,287 1,453 1,928 1,236 1,395 73.5 73.8 75
救命救急センター 1,312 879 894 959 630 675 914 596 637 73.1 71.7 75.5
第二次救急医療機関 8,878 5,670 7,542 6,156 4,032 5,249 5,972 3,903 5,087 69.3 71.1 69.6
(注)
都道府県別については別表3-2別表3-3及び別表3-4を参照。

構造体の耐震化率は、全体では76.1%となっており、このうち多数の者が利用する建築物では77.2%、患者利用建築物では76.5%となっていて、建築物の区分による大きな差異は見受けられない。そして、多数の者が利用する建築物の耐震化率は上記のとおりであり、27年までに耐震化率9割とする基本方針の目標とは12.8ポイントの開きがある。同様に、医療機関別に多数の者が利用する建築物の耐震化率をみると、災害拠点病院及び救命救急センターは80%以上となっていて、分析対象医療機関全体の耐震化率よりも高くなっている。

建築非構造部材及び建築設備の耐震化率は、全体ではそれぞれ70.2%及び69.8%となっており、このうち多数の者が利用する建築物ではそれぞれ71.6%及び71.2%、患者利用建築物ではそれぞれ70.5%及び70.2%となっている。これらの耐震化率は、構造体の耐震化率をそれぞれ6ポイント前後下回ったものとなっており、構造体の耐震化率と同様に建築物の区分による大きな差異は見受けられない。医療機関別にみると、災害拠点病院及び救命救急センターの耐震化率が全体及び第二次救急医療機関の耐震化率より高くなっている傾向が見受けられる。

また、東北3県の医療機関における耐震化率についてみると、24年9月1日時点において、患者利用建築物の全てが構造体について所要の耐震性能を確保している医療機関は、東北3県の医療機関の68.7%に当たる145病院となっている。これを医療機関別にみると、災害拠点病院では76.5%に当たる26病院、救命救急センターでは50.0%に当たる6病院、第二次救急医療機関では69.9%に当たる139病院となっている。

イ 地域の分類ごとの構造体の耐震化率

強化地域及び推進地域(Ⅰ)に所在する医療機関の構造体の耐震化率は、図表3-8のとおりである。

図表3-8 強化地域及び推進地域(Ⅰ)に所在する医療機関の構造体の耐震化率

建築物の区分 分析対象医療機関の建築物
(A)
所要の耐震性能を確保してい
る建築物 (B)
耐震化率
(B)/(A)
強化地域 推進地域
(Ⅰ)
強化地域 推進地域
(Ⅰ)
強化地域 推進地域
(Ⅰ)
(棟) (棟) (棟) (棟) (棟) (棟) (%) (%) (%)
分析対象の建築物 10,234 788 3,454 7,790 675 2,591 76.1 85.7 75
うち多数の者が利用する建築物 6,576 508 2,304 5,076 444 1,722 77.2 87.4 74.7
うち患者利用建築物 8,471 656 2,898 6,477 559 2,171 76.5 85.2 74.9

医療機関が所在する地域別にみた構造体の耐震化率は、強化地域が85.7%、推進地域(Ⅰ)が75.0%となっていて、強化地域の耐震化率は全体の耐震化率76.1%より9.6ポイント高くなっているが、推進地域(Ⅰ)の耐震化率は全体の耐震化率と大きな差異は見受けられない。

ウ 構造体の耐震化対策が完了していない建築物の状況

医療機関のうち耐震改修工事を実施していないなどのため、構造体について所要の耐震性能が確保されておらず、耐震改修等が必要な建築物は、図表3-9のとおりである。

図表3-9 構造体について耐震改修等が必要な建築物の状況

医療機関の区分 分析対象
医療機関
の建築物
(A)
所要の耐
震性能を
確保して
いる建築
物 (B)
耐震改修等が必要な建築物 (A)-(B)
(内訳)構造体の耐震診断結果
Is値0.3未満 Is値
0.3以上
0.6未満
Is値不明 耐震診断
未実施
うち多数
の者が利
用する建
築物
うち患者
利用建築
(棟) (棟) (棟) (棟) (棟) (棟) (棟) (棟) (棟)
全体 10,234 7,790 2,444 268 230 250 447 3 1,726
災害拠点病院 2,717 2,225 492 77 71 67 137 0 278
救命救急センター 1,312 1,080 232 28 27 24 83 0 121
第二次救急医療機関 8,878 6,673 2,205 239 202 225 361 3 1,602

構造体について耐震改修等が必要な建築物は、全体で2,444棟となっており、このうち1,726棟は耐震診断を実施しておらず耐震性能が不明な建築物となっている。そして、耐震診断の結果、構造体について耐震改修等が必要とされた建築物であって耐震改修工事や建替えを行っていないため、Is値が0.3未満のままとなっている建築物は268棟となっており、この中には多数の者が利用する建築物が230棟、患者利用建築物が250棟含まれている。

また、東北3県の医療機関についてみると、24年9月1日時点において、構造体について耐震改修等が必要な患者利用建築物がある医療機関は44病院となっており、このうち7病院はIs値が0.3未満の患者利用建築物がある医療機関となっている。

このように、大規模地震で倒壊等の危険性が高いとされるIs値が0.3未満の建築物の中には、患者利用建築物も含まれているなど、早急な耐震化が望まれる状況となっている。

エ 耐震化対策が完了していない理由

医療機関における構造体の耐震化率は、災害拠点病院の多数の者が利用する建築物でも82.6%(図表3-7参照)となっていて、27年までに耐震化率9割とする基本方針の目標には達しておらず、引き続き耐震化の促進が必要な状況となっている。また、前記のとおり、建築非構造部材及び建築設備の耐震化率は、構造体の耐震化率を下回っているが、その差は6ポイント程度しかない。

そこで、これらの医療機関のうち、構造体について耐震化対策が必要であるにもかかわらず、耐震化対策が完了していない医療機関について、その理由を調査した。

これらの医療機関における構造体の耐震化対策が完了していない理由は、図表3-10のとおりである。

図表3-10 耐震化対策が完了していない理由

医療機関の区分 耐震化対策が完了していない理由(複数回答)
1年以内(平
成25年中)
に実施する
計画がある
ため
建替え又は
廃止の予定
があるため
費用の確保
が困難なた
建替え用地
の確保や地
元調整が難
航している
ため
医療行為を
継続しなが
らの耐震化
の方法が決
まらないた
今後の施設
整備等の予
定が未定の
ため
耐震化をす
るつもりが
ないため
その他
(件) (件) (件) (件) (件) (件) (件) (件)
全体 185 1,230 579 141 406 697 81 92
災害拠点病院 45 355 31 11 43 57 9 27
救命救急センター 21 135 12 12 27 41 13 19
第二次救急医療機関 164 1,090 567 129 379 654 68 71

耐震化対策が完了していない理由は、回答数が多い順に「建替え又は廃止の予定があるため」が1,230件、「今後の施設整備等の予定が未定のため」が697件、「費用の確保が困難なため」が579件、「医療行為を継続しながらの耐震化の方法が決まらないため」が406件などとなっている。なお、「その他」の中には、土地の利用に係る条例等の関係で関係機関との協議等が必要なためとする回答のほか、病院を運営及び管理する組織が改組されることとなったなどのためとする回答があるなど、外的要因を理由に挙げた回答も見受けられる。

このように、耐震化対策が完了していない理由として「建替え又は廃止の予定があるため」が最も多くなっているのは、工事期間中の騒音や施設の利用制限等による患者の診療環境等への影響、近年の医療機器の高度化、医療ニーズの多様化等に対応するため、既存施設の改修よりも建替えを選択する医療機関が多いことが要因と考えられる。

また、「今後の施設整備等の予定が未定のため」や「医療行為を継続しながらの耐震化の方法が決まらないため」など、耐震化の方針や予定が決まっていないとする理由を選択しているものも多く見受けられる。これは、耐震化方法等の決定やその実行には、入院患者や救急医療への対応等に必要な医療環境の条件を満たすため、工事費のほか耐震化対策実施後の施設規模や病院機能の在り方についても検討を要するなど、検討課題が多岐にわたり、その解決に相当の時間を要する場合が多いことなどが要因と考えられる。

耐震化に当たっての検討課題が多岐にわたり、その解決に相当の時間を要することなどが、耐震化が進まない要因の一つであると考えられる事例を示すと次のとおりである。

<事例-医療1>

A県の災害拠点病院である県立B病院は、1棟を除き所要の耐震性能が確保されていない。そして、B病院は、平成25年5月現在、25年度中の完成予定で新病院を移転新築中であり、移転により施設の耐震化が終了する予定となっている。その経緯等は次のとおりである。

B病院の施設は、昭和44年から55年に逐次建築されたもので、耐震性のほか、老朽化により最新の医療機器への対応が困難であるなどの課題を抱えていた。このため、A県は、平成15年4月に外部有識者からなる県立B病院のあり方検討委員会を設置し、B病院の施設規模や機能を含む整備方針等について検討を開始した。そして、A県は、工事期間中も病院機能を維持する必要があるなどの制約を踏まえて、既存施設の改修若しくは現在地建替え又は移転新築とするかなどの検討を進め、19年3月に移転新築方針を決定した。その後、移転場所の決定、新病院の基本設計の作成、詳細設計の作成を経て、23年1月に工事に着手している。

このように、B病院の耐震化は、整備方針等の検討開始から移転新築方針の決定までに4年間、実際の工事着手までは更に約4年間を要している。

このことから、医療機関については、耐震工事中も病院機能を維持する必要があるなどの制約が多く、病院の規模等にもよるが、整備方針の検討に時間を要し、また、移転新築の場合の用地確保等の解決が必要であることが、耐震化が進まない要因の一つであると考えられる。

また、病院を運営及び管理する組織が改組されることとなったなどの外的要因により、耐震化対策が完了していない事例を示すと次のとおりである。

<事例-医療2>

A県の災害拠点病院である社会保険B病院は、独立行政法人年金・健康保険福祉施設整理機構(以下「機構」という。)が保有し、機構から委託を受けた社団法人全国社会保険協会連合会(以下「全社連」という。)が運営する病院であり、平成20年8月に実施した耐震診断の結果によると、4棟について所要の耐震性能が確保されておらず、うち1棟は大規模地震で倒壊等の危険性が高いとされるIs値が0.3未満の建築物となっている。そして、B病院は、この耐震診断結果を受け、耐震化方法等の検討を行い、耐震改修を基本とした耐震整備計画をまとめ、耐震整備計画の実施について全社連本部と協議を行うなどして、耐震化の準備を進めていた。

しかし、23年6月に公布された「独立行政法人年金・健康保険福祉施設整理機構法の一部を改正する法律」(平成23年法律第73号。)において、機構が26年4月に独立行政法人地域医療機能推進機構(以下「新機構」という。)に改組されるとともに、全国の社会保険病院等を新機構が直接運営することとなったことなどを受け、機構及び全社連は、新機構への移行準備作業等を最優先させることになり、多額の資金を必要とする大規模な施設整備を実施できる状況ではなくなった。

このため、B病院は、耐震整備計画をまとめたものの、その実施は、機構が改組される26年4月以降になる見通しとなり、耐震化対策が完了しないままの状態となっている。

一方、地元自治体の協力を得て、移転新築用地の確保が進んだことなどにより、耐震化対策を進めることが可能となった医療機関もあった。

地元自治体の協力を得るなどして、耐震化対策を進めることが可能となった事例を示すと次のとおりである。

<参考事例-医療1>

栃木県の第二次救急医療機関である石橋総合病院は、本館病棟及び給食棟が昭和46年に建築されて以降、施設が逐次増築されており、施設の老朽化、敷地の狭あい化等の課題を抱えていたが、同病院を経営する栃木県厚生農業協同組合連合会は、耐震診断等の耐震化対策を実施していなかった。

このような状況の下、同病院は、経営難に陥った栃木県厚生農業協同組合連合会から民間の医療法人へ平成25年4月に経営譲渡されることとなった。

これを受け、地元自治体である栃木県及び下野市は、地域医療、救急医療等の政策医療の維持、向上を図るなどの観点から、施設の耐震化対策を実施しておらず、老朽化等の課題を抱えている同病院に対し、移転新築に対する財政支援や移転用地の確保等について協力することとなり、25年5月、下野市と同病院は「石橋総合病院の移転・新築に関する細目協定」を締結し、同病院の近隣にある旧石橋中学校跡地と現在の同病院敷地を交換することとなった。

この結果、同病院は、地元自治体の協力を得て移転新築用地を確保できることとなり、耐震化対策を進めることが可能になった。

このように、医療施設の耐震化に当たっては、医療機関だけでは解決が困難な課題も含め解決すべき課題が多く、このことが、医療施設の耐震化が進まない要因の一つとなっている。このため、18年の耐震促進法の改正や東日本大震災を契機に耐震化対策の検討を始めた医療機関では、耐震化工事に着手するまで、相応の時間を要する場合があるものと考えられる。

したがって、医療施設の耐震化を今後一層促進するためには、厚生労働省において、これまでのような工事費用に対する財政支援だけではなく、医療機関による耐震化対策の検討及び課題解決に資するため、関係機関と連携して様々な課題の解決事例等をまとめて公表するなどのソフト面からの支援策を充実させる必要があると考えられる。

オ 業務継続の観点からみた施設の状況

(ア) 構造体の耐震安全性

官庁施設の耐震安全性については、国土交通省が8年10月に定めた「官庁施設の総合耐震計画基準」によると、特に災害対策の指揮及び情報伝達、救護、消火活動等の災害応急対策活動に必要な施設等については、他の施設に比べ、大地震動に対しても耐震性能に余裕を持たせることを目標とするとされている。そして、「官庁施設の総合耐震計画基準及び同解説」(建設大臣官房官庁営繕部監修、以下「計画基準解説」という。)によると、構造体の耐震安全性について、病院施設のうち災害時に拠点として機能すべき施設は施設機能の確保を求める水準として新耐震基準の1.5倍、それ以外の病院施設は新耐震基準の1.25倍の耐震安全性を確保することを目標とするとされている。

「官庁施設の総合耐震計画基準」や計画基準解説の適用範囲は、国家機関の建築物等とされているため、今回の分析対象とした医療施設に直接適用できない場合が多い。また、前記のとおり、厚生労働省は、災害拠点病院の指定要件において、災害発生時の業務継続の観点から、構造体の耐震安全性の割増し等を考慮したり、求めたりすることはしていないとしている。

しかし、医療施設は、災害時の救護活動の拠点となる重要な施設として、大地震動後もその業務を継続することが求められていることから、大地震動等の不測の事態に対する施設の信頼性を向上させ、大地震動後の施設機能の確保を図るため、一般施設より構造体の耐震安全性を一定程度割増しすることの検討も必要であると考えられる。

新築又は耐震改修工事の設計において、構造体の耐震安全性を割増ししている医療機関846病院における構造体の耐震安全性の割増しの状況は、図表3-11のとおりである。

医療機関の区分 構造体の耐
震安全性を
割増してい
る医療機関
構造体の耐震安全性を割増ししている建築物
(内訳)新耐震基準に対する割増率
1倍を超えて
1.25倍未満
1.25倍以上
1.25倍以上
1.5倍未満
1.5倍以上 免震構造
(病院) (棟) (棟) (棟) (棟) (棟) (棟)
全体 846 1,680 146 1,534 968 292 274
災害拠点病院 356 854 61 793 433 192 168
救命救急センター 169 493 39 454 268 94 92
第二次救急医療機関 674 1,178 107 1,071 694 198 179

新築又は耐震改修工事の設計において、構造体の耐震安全性を割増ししている建築物は1,680棟となっている。このうち1,534棟は1.25倍以上の割増率となっており、その2割弱の274棟は免震構造を採用している。そして、耐震安全性の割増しに当たり免震構造を採用した医療機関に対して、その理由を確認したところ、災害拠点病院として、構造体だけではなく、病院機能の維持に必要な高度な医療機器等の重要機器を含む建物内の設備や備品類を大地震動から守ることを重視したためなどとしている。

このように、一部の医療機関では、大地震動後の病院機能の維持を目標として構造体の耐震安全性を検討し、建物自体の揺れを軽減させる免震構造を採用するなど、災害時における救護活動の拠点として期待される役割を果たすことを目指した耐震化対策を実施している。

(イ) 災害拠点病院等の電力設備の状況

前記のとおり、厚生労働省が定めた災害拠点病院の指定要件では、災害拠点病院に対し、電力設備について、通常時の6割程度の発電容量のある自家発電機等の保有と3日分程度の燃料の確保を求めている。

また、厚生労働省は、災害拠点病院及び救命救急センターが、災害時に患者受入れの拠点となる病院であることから、耐震化の目標を設定し、重点的に耐震化を進めてきている。

以上を踏まえ、災害拠点病院及び救命救急センターを対象に、業務継続の観点から必要な対策が講じられているかに着眼して、自家発電設備の状況についてみると、次のとおりとなっている。

災害拠点病院及び救命救急センターの計643病院における自家発電設備の保有状況及び発電容量の状況は、図表3-12のとおりである。

図表3-12 災害拠点病院及び救命救急センターにおける自家発電設備の状況

医療機関の区分 分析対象
医療機関
自家発電設備を保有している医療機関 自家発電
設備を保
有してい
ない医療
機関
通常時に対する自家発電設備の発電容量の割合
3割未満 3割以上
5割未満
5割以上
6割未満
6割以上 不明
(病院) (病院) (病院) (病院) (病院) (病院) (病院) (病院)
災害拠点病院及び
救命救急センター
643 643 36 142 101 359 5 0
(構成比) (0%) (100%) (5.6%) (22.1%) (15.7%) (55.8%) (0.8%) (0%)
災害拠点病院 624 624 34 139 98 348 5 0
(構成比) (0%) (100%) (5.4%) (22.3%) (15.7%) (55.8%) (0.8%) (0%)
救命救急センター 247 247 11 53 36 145 2 0
(構成比) (0%) (100% (4.5%) (21.5%) (14.6%) (58.7%) (0.8%) (0%)

自家発電設備は、分析対象とした全ての災害拠点病院及び救命救急センターで保有している。しかし、災害拠点病院の指定要件である通常時の6割以上の発電容量のある自家発電設備を保有している医療機関の割合は、災害拠点病院で55.8%、救命救急センターで58.7%となっており、約4割の医療機関は、発電容量について災害拠点病院の指定要件を満たしていない。

また、災害拠点病院及び救命救急センターにおける自家発電設備の燃料の確保状況は、図表3-13のとおりである。

図表3-13 災害拠点病院及び救命救急センターにおける自家発電設備の燃料確保状況

医療機関の区分 分析対象
医療機関
自家発電設備を保有している医療機関 自家発電
設備を保
有してい
ない医療
機関
通常時に対する自家発電設備の発電容量の割合
1日分未満 1日分以上
2日分未満
2日分以上
3日分未満
3日分以上
(病院) (病院) (病院) (病院) (病院) (病院) (病院)
災害拠点病院及び
救命救急センター
643 643 125 70 129 319 0
(構成比) (0%) (100%) (19.4%) (10.9%) (20.1%) (49.6%) (0%)
災害拠点病院 624 624 122 69 128 305 0
(構成比) (0%) (100%) (19.6%) (11.1%) (20.5%) (48.9%) (0%)
救命救急センター 247 247 34 23 53 137 0
(構成比) (0%) (100% (13.8%) (9.3%) (21.5%) (55.5%) (0%)

災害拠点病院の指定要件である3日分以上の自家発電設備の燃料を確保している医療機関の割合は、災害拠点病院で48.9%、救命救急センターで55.5%となっていて、約半数の医療機関は、燃料の確保量について災害拠点病院の指定要件を満たしておらず、特に約2割の医療機関は1日分未満の燃料しか確保していない。このため、これらの医療機関は、業務継続の観点から、災害時に停電が復旧するまでに要する時間を考慮するなどして、燃料の備蓄量を増やすなどの対策が必要であると考えられる。

また、自家発電設備の冷却方式は、空冷式と水冷式に大きく分けられ、水冷式の場合は、自家発電設備の運転時に冷却水の補給が必要となるものがある。そして、運転時に冷却水の補給が必要な自家発電設備は、断水すると、燃料が十分にあっても冷却水不足により、運転ができなくなることがある。自家発電設備の冷却方式については、災害拠点病院の指定要件に示されていないが、計画基準解説によると、災害時に救護活動を行う病院施設は、電力供給設備の信頼性の向上を図るため、原則として、自家発電設備の冷却方式に空冷式を採用することとされている。

自家発電設備の冷却方式及び燃料の確保量を含めた断水時の連続運転可能時間の状況は、図表3-14のとおりである。

図表3-14 災害拠点病院及び救命救急センターにおける自家発電設備の冷却方式等の状況

医療機関の区分 分析対象
医療機関
自家発電設備を保有している医療機関
冷却方式 断水時の連続運転可能時間
空冷式 水冷式 1日未満 1日以上
2日未満
2日以上
3日未満
3日以上
(病院) (病院) (病院) (病院) (病院) (病院) (病院) (病院)
災害拠点病院及び
救命救急センター
643 643 358 285 190 73 115 265
(構成比) (0%) (100%) (55.7%) (44.3%) (29.5%) (11.4%) (17.9%) (41.2%)
災害拠点病院 624 624 349 275 186 72 113 253
(構成比) (0%) (100%) (55.9%) (44.1%) (29.8%) (11.5%) (18.1%) (40.5%)
救命救急センター 247 247 132 115 64 24 49 110
(構成比) (0%) (100%) (53.4%) (46.6%) (25.9%) (9.7%) (19.8%) (44.5%)

計画基準解説のとおり空冷式の自家発電設備を採用している医療機関の割合は、災害拠点病院で55.9%、救命救急センターで53.4%となっている。そして、燃料の確保量を考慮した上で、断水して冷却水の補給ができなくても3日間以上の連続運転が可能な自家発電設備を保有する医療機関の割合は、災害拠点病院で40.5%、救命救急センターで44.5%となっている。このように、断水時には、燃料の確保量だけでみた場合に比べて、3日間以上の連続運転が可能な自家発電設備を保有する医療機関の割合が、災害拠点病院で8.4ポイント、救命救急センターで11.0ポイント低下することとなる。そして、約3割の医療機関は、断水時には、自家発電設備を1日未満しか連続運転できないこととなり、これらの医療機関の数は、燃料の確保量だけでみた場合に比べて約1.5倍となっている。

このように、大地震動等により停電と断水が同時に発生すると、燃料が十分にあっても冷却水不足により自家発電設備の運転ができなくなることが想定される医療機関も見受けられる。このため、これらの医療機関は、災害時における業務継続の観点から、断水にも対応できる自家発電設備を導入するなどの対策が必要と考えられる。

停電と断水が同時に発生した場合、燃料が十分にあっても冷却水不足により自家発電設備の連続運転可能時間が短くなることから、災害拠点病院として災害発生時に期待される機能を十分に果たすため、自家発電設備の空冷化等の対策が必要な事例を示すと次のとおりである。

<事例-医療3>

A県の災害拠点病院である県立B病院は、厚生労働省が定める災害拠点病院の指定要件である3日分程度の燃料が確保された自家発電設備を整備している。

そして、B病院は、上水道からの給水が停止した場合に備え、A県生コンクリート工業組合と県との協定に基づく水輸送の支援を受けるなどの体制を整えたり、高度診療棟用として冷却水の補給が不要な自家発電設備を別途設置したりしている。しかし、病院本館棟に電力を供給する自家発電設備は、運転時に冷却水の補給が必要であり、運転時に必要な冷却水は約23時間分程度しか確保されていない。

このため、B病院の病院本館棟用の自家発電設備は、大地震動等により停電と断水が同時に発生した場合、外部からの給水支援を受けないと、燃料が十分にあっても冷却水不足により、23時間程度しか運転できないものとなっており、B病院は、災害拠点病院として災害発生時に期待される機能を十分に果たすため、冷却水の補給が不要な自家発電設備を導入するなどの対策が必要となっている。

(ウ) 災害拠点病院等の給水設備の状況

医療施設は、診療等のために一般の施設よりも大量の水が必要な施設であり、厚生労働省は、災害拠点病院の指定要件において、災害拠点病院に対し、適切な容量の受水槽の保有、停電時にも利用可能な井戸設備の整備等により、災害時の診療に必要な水を確保することを求めている。

そこで、災害拠点病院及び救命救急センターにおける給水設備の状況についてみると、次のとおりとなっている。

災害拠点病院及び救命救急センターにおける、受水槽及び井戸設備の状況は、 図表3-15のとおりである。

図表3-15 災害拠点病院及び救命救急センターにおける受水槽及び井戸設備の状況

医療機関の区分 分析対象
医療機関
1日当たりの平均使用水量に対する受水槽の容量 井戸設備の有無
0.5日分未満 0.5日分以上
1.0日分未満
1.0日分以上
1.5日分未満
1.5日分以上
2.0日分未満
2.0日分以上 受水槽
なし
井戸設備
を保有し
ている医
療機関
井戸設備
を保有し
ていない
医療機関
(病院) (病院) (病院) (病院) (病院) (病院) (病院) (病院) (病院)
災害拠点病院及び
救命救急センター
643 56 223 196 73 93 2 357 286
(構成比) (100%) (8.7%) (34.7%) (30.5%) (11.4%) (14.5%) (0.3%) (55.5%) (44.5%)
災害拠点病院 624 54 215 190 73 90 2 344 280
(構成比) (100%) (8.7%) (34.5%) (30.4%) (11.7%) (14.4%) (0.3%) (55.1%) (44.9%)
救命救急センター 247 22 88 70 33 34 0 151 96
(構成比) (100%) (8.9%) (35.6%) (28.3%) (13.4%) (13.8%) (0%) (61.1%) (38.9%)

受水槽の容量について、1日当たりの平均使用水量に対する割合でみると、受水槽の容量が0.5日分以上1日分未満の医療機関及び1日分以上1.5日分未満の医療機関が多く、それぞれ223病院及び196病院となっており、合わせると災害拠点病院及び救命救急センターの約7割を占めている。

なお、厚生労働省によると、災害拠点病院の指定要件で示されている受水槽の適切な容量とは、当該病院が診療を行う上で必要となる水の量を想定したもので、自家発電設備のように、具体的な数値による明確な定義はないとしている。このため、受水槽容量について、業務継続の観点から必要な対策が講じられているかを直ちに判断するのは困難である。

また、井戸設備を保有している災害拠点病院及び救命救急センターの割合は55.5%となっており、半数以上の医療機関が井戸設備の保有により災害時の水の確保を図っている。

(エ) 災害時の通信体制等の状況

災害時の救護活動を担う災害拠点病院は、業務継続の観点から、災害発生時における情報収集や連絡のための通信手段、応急活動体制の確保が重要である。

厚生労働省は、災害拠点病院の指定要件において、災害拠点病院に対し、衛星電話等を有し、広域災害・救急医療情報システム(EMIS)に参加し災害時に情報を入力する体制を整えるとともに災害派遣医療チーム(DMAT)を保有することを求めており、特に災害派遣医療チーム(DMAT)については、25年度中に保有することを求めている。

そこで、災害拠点病院における通信体制及び災害派遣医療チーム(DMAT)の保有状況をみると、次のとおりとなっている。

災害拠点病院624病院における、通信体制の状況は、図表3-16のとおりである。

図表3-16 災害拠点病院における通信体制の状況

医療機関の区分 分析対象
医療機関
(A)
衛星固定電話、衛星携帯電話、衛星回線インターネットのいずれ
か一つ以上保有している医療機関
EMISに参加して
いる医療機関
通信手段別の保有内訳
衛星固定電話を
保有している医
療機関
衛星携帯電話を
保有している医
療機関
衛星回線イン
ターネットを保
有している医療
機関
機関数 保有率 機関数 保有率 機関数 保有率 機関数 保有率 機関数 参加率
(B) (B)/(A) (C) (C)/(A) (D) (D)/(A) (E) (E)/(A) (F) (F)/(A)
(病院) (病院) (%) (病院) (%) (病院) (%) (病院) (%) (病院) (%)
災害拠点病院 624 543 87.0 253 40.5 513 82.2 310 49.7 595 95.4

災害拠点病院における通信体制については、災害拠点病院の87.0%に当たる543病院が衛星固定電話、衛星携帯電話又は衛星回線インターネットのいずれか一つ以上の通信手段を保有しており、災害による地上回線の断絶等への対策を講じている。そして、災害拠点病院の95.4%に当たる595病院が広域災害・救急医療情報システム(EMIS)に参加している。

また、災害派遣医療チーム(DMAT)の保有状況は、図表3-17のとおりである。

図表3-17 災害拠点病院における災害派遣医療チーム(DMAT)の保有状況

災害拠点
病院の区
許可病床数の区分 分析対象医療
機関
DMATを保有している医療機関 DMATを保有して
いない医療機関
(内訳)保有チーム数
1チーム 2チーム以上
(病院) (病院) (病院) (病院) (病院)
基幹災害
拠点病院
全体 56 56 5 51 0
(構成比) (100%) (100%) (8.9%) (91.1%) (0%)
500床以上 46 46 3 43 0
(構成比) (100%) (100%) (6.5%) (93.5%) (0%)
300床以上
500床未満
9 9 2 7 0
(構成比) (100%) (100%) (22.2%) (77.8%) (0%)
300床未満 1 1 0 1 0
(構成比) (100%) (100%) (0%) (100%) (0%)
地域災害
拠点病院
全体 568 419 206 213 149
(構成比) (100%) (73.8%) (36.3%) (37.5%) (26.2%)
500床以上 206 173 58 115 33
(構成比) (100%) (84.0%) (28.2%) (55.8%) (16.0%)
300床以上
500床未満
219 161 86 75 58
(構成比) (100%) (73.5%) (39.3%) (34.2%) (26.5%)
300床未満 143 85 62 23 58
(構成比) (100%) (59.4%) (43.4%) (16.1%) (40.6%)

災害派遣医療チーム(DMAT)を1チーム以上保有している災害拠点病院の割合は、基幹災害拠点病院で100%、地域災害拠点病院で73.8%となっている。基幹災害拠点病院は、全ての医療機関で災害派遣医療チーム(DMAT)を保有しているが、このうち、基幹災害拠点病院の指定要件である2チーム以上の災害派遣医療チーム(DMAT)を保有しているのは約9割に当たる51病院となっている。

また、地域災害拠点病院について、医療機関の規模を許可病床数で分類して災害派遣医療チーム(DMAT)の保有状況をみると、災害派遣医療チーム(DMAT)を保有している医療機関の割合は、許可病床数が500床以上の医療機関では84.0%となっている一方で、許可病床数が300床未満の医療機関では59.4%にとどまっており、医療機関の規模が大きいほど、災害派遣医療チーム(DMAT)を保有する医療機関の割合が高くなる傾向が見受けられる。

このように、医療機関の規模が大きいほど災害派遣医療チーム(DMAT)を保有する医療機関の割合が高くなるのは、災害派遣医療チーム(DMAT)を保有するためには、厚生労働省が認める講習会への参加や人事異動等による欠員の補充等により、一定数以上の人材を常に確保、維持する必要があり、医療機関の規模に関係なく一定の負担が生じることなどが要因の一つと考えられる。

(オ) 津波被害への対策状況

耐震改修等により、大地震動による建築物の倒壊等への対策を実施していても、大地震動後に発生した津波による浸水被害が想定される地域があり、災害救護活動の拠点として、津波による浸水被害への対応策の検討等が必要となる災害拠点病院等がある。

そこで、災害拠点病院及び救命救急センターにおける津波による浸水被害対策等の状況をみると、次のとおりとなっている。

災害拠点病院及び救命救急センターにおける津波による浸水被害対策等の状況は、図表3-18のとおりである。

図表3-18 災害拠点病院及び救命救急センターにおける津波による浸水被害対策等の状況

医療機関の区分 分析対象
医療機関
津波浸水域に該当の有無
津波浸水域に該当する医療機関 津波浸水域に
該当しない医
療機関
津波浸水域に
該当するか不
明の医療機関
うち津波浸水
被害への対策
を検討又は実
施している医
療機関
うち津波浸水
被害により病
院機能の維持
に影響がある
と想定してい
る医療機関
(病院) (病院) (病院) (病院) (病院) (病院)
災害拠点病院及び救命救急センター 643 63 37 40 471 109
災害拠点病院 624 61 37 40 460 103
救命救急センター 247 27 20 17 178 42

地方公共団体が公表している津波ハザードマップで津波浸水域に該当する災害拠点病院及び救命救急センターは63病院となっており、そのうち、津波による浸水被害に何らかの対策を検討し、又は実施している医療機関は37病院となっている。そして、浸水被害への対策内容を確認したところ、非常用発電設備や災害用の備蓄倉庫を上層階に設置したり、重要機器がある部屋の入口に止水扉を設置したりするなどの対策を検討し、又は実施している医療機関が多数見受けられた。

津波浸水域に該当する災害拠点病院及び救命救急センターのうち、津波浸水被害により病院機能の維持に影響があると想定している医療機関が40病院となっており、これらの医療機関の中には、津波による浸水被害対策の検討等に時間を要するなどとして、対策が遅れている医療機関も見受けられる。

津波浸水被害への対策等に時間を要するなどして、施設の耐震化が遅れている事例を示すと次のとおりである。

<事例-医療4>

A県の災害拠点病院であるB病院は、手術室等がある本館棟等4棟が所要の耐震性能を確保していないことなどから、これらの本館棟等の耐震化について、平成25年度末完成を目途に、新耐震基準に基づいて建設された健康管理センター棟等を活用し、現在地建替えを基本とする新病院建設計画を22年5月から進めていた。

しかし、B病院は、建設場所が海抜1mであることなどから、23年3月に発生した東日本大震災を契機に津波対策に関して上記の計画内容を見直したところ、高度医療機器等が1階にある健康管理センター棟等をそのまま活用する現行の計画では、津波対策等の面で十分でないと判断した。

そして、同年7月に計画を中断するとともに建設場所を含めた計画内容の再度の見直しを行ったが、適当な建設場所が市内に見つからなかったり、日常の診療行為が継続可能な条件で診察室等の重要機能を3階以上に移設する工程等の検討に時間を要したりなどした。

このため、B病院の耐震化の完了時期は26年度以降に遅れる状況となっている。

また、津波ハザードマップが公表されていない又は公表されているかが分からないため、津波浸水域に該当するか不明であるとする災害拠点病院及び救命救急センターは109病院となっており、その中には沿岸部の市町村に所在する医療機関も見受けられる。

(4) 東日本大震災に伴う被災等の状況

ア 東北3県の被災の状況

東北3県の医療機関における被災状況については、東日本大震災後に厚生労働省が各県を通じて調査した資料等により分析を行った。分析に使用した資料によると、被害の程度については、当該施設の再利用が不可能な場合は全壊とし、それ以外で何らかの被害があった場合は一部損壊と整理している。

東北3県にある災害拠点病院、救命救急センター及び第二次救急医療機関の被災状況は、全壊が4病院、一部損壊が174病院となっており、全壊の原因は、全て津波によるものとなっている。

そして、一部損壊の医療機関における被害内容をみると、津波による浸水被害のほか、建築非構造部材では、地震動を原因とする天井材や壁面タイルの崩落、扉、窓等の建具類の変形等が、建築設備では、地震動を原因とするエレベーターの故障、ボイラーやポンプ類の破損、各種配管類の破損等がそれぞれ多く見受けられる。

イ 44都道府県の被災等の状況

(ア) 被災の概要

44都道府県の医療機関のうち、東日本大震災において被災した災害拠点病院、救命救急センター及び第二次救急医療機関の建築物は、東京都等11都県(注9)に所在する461棟となっており、その主な被害要因は図表3-19のとおりである。

図表3-19 東日本大震災において被災した医療機関の主な被害要因

医療機関の区分 東日本大震災において被災した医療機関の建築物 左の建築物が所在する都道府県名 左のうち24年
12月31日現
在、取り壊さ
れるなどして
使用されてい
ない建築物
主な被害要因
地震動 津波 液状化
(棟) (棟) (棟) (棟) (棟)
全体 461 454 0 7 東京都、青森、秋田、茨城、栃木、群馬、埼玉、
千葉、神奈川、新潟、静岡各県
10
(構成比) (100%) (98.5%) (0%) (1.5%)
災害拠点病院 156 151 0 5 東京都、青森、秋田、茨城、栃木、群馬、埼玉、
千葉、神奈川、静岡各県
9
(構成比) (100%) (96.8%) (0%) (3.2%)
救命救急センター 95 90 0 5 東京都、茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉、神奈
川各県
9
(構成比) (100%) (94.7%) (0%) (5.3%)
第二次救急医療機関 366 364 0 2 東京都、青森、秋田、茨城、栃木、群馬、埼玉、
千葉、神奈川、新潟、静岡各県
1
(構成比) (100%) (99.5%) (0%) (0.5%)
(注)
都道府県別については別表5を参照。

東日本大震災において被災した医療機関の建築物461棟のうち、地震動を主な要因とする被害があった建築物は454棟、液状化を主な要因とする被害があった建築物は7棟となっている。なお、これらの被害があった建築物のうち10棟は、24年12月31日現在、取り壊されるなどして使用されていない。

(注9)
東京都等11都県 東京都、青森、秋田、茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉、神奈川、新潟、静岡各県
(イ) 建築物の構造体、建築非構造部材及び建築設備の被災の状況

東日本大震災において被災した医療機関の建築物461棟のうち、構造体について被害があった建築物は221棟となっており、その被災状況は図表3-20のとおりである。

図表3-20 構造体の被災状況

主な被害要因 構造体の被害の程度
全半壊 損傷 一部損傷
うちIs値が
0.6未満又
はIs値が不
明な建築物
うちIs値が
0.6未満又
はIs値が不
明な建築物
うちIs値が
0.6未満又
はIs値が不
明な建築物
うちIs値が
0.6未満又
はIs値が不
明な建築物
(棟) (棟) (棟) (棟) (棟) (棟) (棟) (棟)
地震動 2 1 4 3 214 50 220 54
液状化 0 0 0 0 1 0 1 0
2 1 4 3 215 50 221 54

東日本大震災において構造体に被害があった建築物221棟の被害の程度は、全半壊が2棟、損傷が4棟、一部損傷が215棟となっている。そして、地震動を主な被害要因とする建築物について、被害の程度と構造体の耐震性能との関係をみると、特に全半壊又は損傷という大きな被害があった建築物6棟のうち4棟は、Is値が0.6未満又はIs値が不明な建築物となっている。

建築非構造部材である外装材、建具及び天井材について被害があった医療機関 の建築物における建築非構造部材の被災状況は、図表3-21のとおりである。

図表3-21 建築非構造部材の被災状況

主な被
害要因
建築非構造部材の被害の程度
外装材 建具 天井材
損傷 一部損傷 損傷 一部損傷 損傷 一部損傷
うち構
造体に
被害が
あった
建築物
うち構
造体に
被害が
あった
建築物
うち構
造体に
被害が
あった
建築物
うち構
造体に
被害が
あった
建築物
うち構
造体に
被害が
あった
建築物
うち構
造体に
被害が
あった
建築物
うち構
造体に
被害が
あった
建築物
うち構
造体に
被害が
あった
建築物
うち構
造体に
被害が
あった
建築物
(棟) (棟) (棟) (棟) (棟) (棟) (棟) (棟) (棟) (棟) (棟) (棟) (棟) (棟) (棟) (棟) (棟) (棟)
地震動 4 4 237 127 241 131 6 6 213 119 219 125 3 3 206 112 209 115
液状化 0 0 3 1 3 1 0 0 3 0 3 0 0 0 1 0 1 0
4 4 240 128 244 132 6 6 216 119 222 125 3 3 207 112 210 115

被災状況を外装材、建具及び天井材の部位ごとにみると、被害があった建築物は、外装材で244棟、建具で222棟、天井材で210棟となっており、建築非構造部材では、外装材に被害があった建築物が最も多くなっている。

建築設備である電力供給設備、照明設備及び給排水・衛生設備に被害があった医療機関の建築物における建築設備の被災状況は、図表3-22のとおりである。

図表3-22 建築設備の被災状況

主な被
害要因
建築設備の被害の程度
電力供給設備 照明設備 給排水・衛生設備
損傷 一部損傷 損傷 一部損傷 損傷 一部損傷
うち構
造体に
被害が
あった
建築物
うち構
造体に
被害が
あった
建築物
うち構
造体に
被害が
あった
建築物
うち構
造体に
被害が
あった
建築物
うち構
造体に
被害が
あった
建築物
うち構
造体に
被害が
あった
建築物
うち構
造体に
被害が
あった
建築物
うち構
造体に
被害が
あった
建築物
うち構
造体に
被害が
あった
建築物
(棟) (棟) (棟) (棟) (棟) (棟) (棟) (棟) (棟) (棟) (棟) (棟) (棟) (棟) (棟) (棟) (棟) (棟)
地震動 5 2 25 19 30 21 2 1 82 51 84 52 21 6 169 88 190 94
液状化 0 0 0 0 0 0 0 0 2 1 2 1 0 0 7 1 7 1
5 2 25 19 30 21 2 1 84 52 86 53 21 6 176 89 197 95

被災状況を電力供給設備、照明設備及び給排水・衛生設備の設備ごとにみると、被害があった建築物は、電力供給設備で30棟、照明設備で86棟、給排水・衛生設備で197棟となっており、建築設備では、給排水・衛生設備に被害があった建築物が最も多くなっている。

(ウ) 病院機能への影響

東日本大震災により病院機能に影響が生じて、入院患者を他の医療機関へ移送した医療機関は、19病院となっている。そして、入院患者を他の医療機関へ移送した理由は、大きく二つに分類され、建物の損傷を理由とするものと、ライフラインの途絶に伴う電力や水不足を理由とするものとなっている。

このように、ライフラインの途絶も病院機能に影響を与えることから、東日本大震災による停電及び断水対応の状況等についてみたところ、次のとおりとなっている。

東日本大震災により停電した医療機関における停電対応の状況は、図表3-23のとおりである。

図表3-23 東日本大震災による停電への対応状況

東日本大震災により
停電した日数
東日本大震災により停電した医療機関
自家発電設備を保有している医療機関 自家発電設備
を保有してい
ない医療機関
(内訳)停電中の自家発電設備の稼働状況
正常稼働 途中停止 始動せず
(病院) (病院) (病院) (病院) (病院) (病院)
0.5日未満 27 25 25 0 0 2
0.5日以上1日未満 72 70 65 3 2 2
1日以上2日未満 87 84 76 4 4 3
2日以上 52 47 43 2 2 5
238 226 209 9 8 12

東日本大震災により停電した医療機関は238病院となっており、このうち1日以上2日未満停電した医療機関が87病院と最も多いが、2日以上停電した医療機関も52病院あり、最大で7日間停電していた医療機関も見受けられる。

そして、停電した医療機関のうち自家発電設備を保有している医療機関は226病院となっており、このうち停電終了まで自家発電設備が正常に稼働した医療機関は209病院となっている。また、自家発電設備を保有していても停電終了まで自家発電設備が稼働できなかった医療機関は17病院となっており、その理由としては、発電機の始動や制御に必要なシステムの故障及び燃料配管の破損等による燃料系の不具合が多く見受けられる。

東日本大震災により断水した医療機関における断水対応の状況は、図表3-24のとおりである。

図表3-24 東日本大震災による断水への対応状況

東日本大震災により
断水した日数
東日本大震災により断水した医療機関
受水槽を保有している医療機関 受水槽を保有して
いない医療機関
(内訳)断水中の受水槽からの給水状況
断水終了まで給水
することができた
医療機関
断水終了まで給水
することができな
かった医療機関
(病院) (病院) (病院) (病院) (病院)
1日未満 21 21 16 5 0
1日以上2日未満 21 21 11 10 0
2日以上3日未満 14 13 3 10 1
3日以上 49 49 16 33 0
105 104 46 58 1

東日本大震災により断水した医療機関は105病院となっており、このうち3日間以上断水した医療機関が49病院と最も多く、最大で150日間断水した医療機関も見受けられる。

そして、断水した医療機関のうち受水槽を保有している医療機関は104病院となっており、このうち断水終了まで受水槽から給水することができた医療機関は46病院となっている。また、受水槽を保有していても断水終了まで受水槽から給水することができなかった医療機関は58病院となっており、その理由としては、受水槽内の水量不足及びポンプ等の電気設備の不具合によるものが多く見受けられる。