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  • 国会からの検査要請事項に関する報告(検査要請)|
  • 会計検査院法第30条の3の規定に基づく報告書 |
  • 平成25年10月 |
  • 東京電力株式会社に係る原子力損害の賠償に関する国の支援等の実施状況に関する会計検査の結果について

第3 検査の結果に対する所見


1 検査の結果の概要

東京電力に係る原子力損害の賠償に関する国の支援等の実施状況に関し、正確性、合規性、経済性、効率性、有効性等の観点から、原子力損害の賠償に関する国の支援等の状況、機構による資金援助業務の実施状況等、及び東京電力による特別事業計画の履行状況等について、国の支援等はどのように実施されているか、機構による東京電力への資金交付等はどのように実施されているか、東京電力による賠償は適正かつ迅速に行われているかなどに着眼して検査を実施した。

検査結果の概要は、次のとおりである。

(1) 原子力損害の賠償に関する国の支援等の状況

国が原子力損害の賠償に関する支援等に係る財政上の負担等をした額は、3兆3044億余円となっている(5020参照)。

ア 国による財政上の措置等の状況

(ア) 補償契約による補償等の状況

国は補償契約による補償金として1200億円を東京電力に支払っている。また、補償契約に基づく全ての原子力事業者からの補償料の収納済歳入額は、補償契約制度が発足した昭和36年度から平成23年度までの間で、158億余円となっている(5020-1-1-a参照)。

(イ) 機構を通じた賠償を支援するための措置の実施状況

国の財政上の措置のうち、機構への出資は70億円で、一般会計からの繰入れを財源としてエネルギー対策特別会計原賠勘定から出資している。また、国は、機構に対して、23年11月に2兆円、同年12月に3兆円、計5兆円の国債を交付しており、機構の請求に応じて、25年9月末までに計3兆0483億円を償還し、機構を通じて東京電力に対して同額を交付している。機構は、東京電力が発行する株式の引受けのために1兆円の借入れを行っており、この借入れには政府保証が付されている(50201-1-i参照)。

(ウ) 仮払法による賠償を支援するための措置の実施状況

国は、仮払法に基づき、23年9月から24年3月までの間に、50件、計17億3326万余円の仮払金を支払っている。そして、国はこれに係る損害賠償請求権を行使して、24年3月末までに東京電力から全額の支払を受けている。また、国は、仮払法に基づき、24年3月に福島県に403億8515万余円を交付し、これを受けて、同県は福島県原子力被害応急対策基金を設置した(5020-1-1-u参照)。

(エ) 政投銀による融資の状況

25年3月末現在における政投銀の東京電力に対する貸付金残高は6112億余円となっており、そのうち1717億余円は危機対応業務による貸付けとなっている(5020-1-1-e参照)。

(オ) 福島県民健康管理基金に対する支出の状況

福島県は、23年原発事故による県内の放射能汚染を踏まえて、全県民を対象とした調査等の事業を行うこととして、23年9月に福島県民健康管理基金を設置した。国は、同年10月以降、福島県民健康管理基金の造成のために福島県に781億8241万余円を交付するなどしている(5020-1-1-o参照)。

イ 国による財政上の措置以外の支援等の状況

(ア) 審査会の設置及び各種指針の策定の状況

23年4月11日に、原賠法第18条第1項等の規定に基づき、文部科学省に審査会が設置された。審査会は、原子力損害の賠償に関する紛争について和解の仲介を行ったり、原子力損害の範囲の判定の指針その他紛争の当事者による自主的な解決に資する一般的な指針を定めたりなどして、可能な限り早期の被災者救済を図ることとしている(5020-1-2-a参照)。

(イ) ADRセンターの設置及び和解の仲介の申立てに係る取扱実績

23年8月に、原子力損害の賠償に関する紛争について、円滑、迅速かつ公正に解決することを目的として、審査会にADRセンターが設置された。ADRセンターの総括委員会は、複数の事件に共通する項目について、仲介委員が行う和解の仲介に当たって参照される基準として、総括基準を策定し、公表している。

ADRセンターにおける23年9月から25年6月までの和解の仲介の申立てに係る取扱実績は、申立件数6,922件、処理件数4,279件となっていて、同年6月末現在で2,643件が未処理となっている。

ADRセンターの設置、運営等に係る支出額は、23年度4億1943万余円、24年度14億1402万余円、計18億3346万余円となっている。

25年6月に、原賠ADR時効中断特例法が施行され、和解の仲介の申立人は、和解の仲介の途中での時効期間の経過を懸念することなく、ADRセンターを利用することが可能となった(5020-1-2-i参照)。

(ウ) 経済産業省による賠償基準についての考え方の公表

経済産業省は、関係市町村等と意見交換を行うなどして、24年7月に、「避難指示区域の見直しに伴う賠償基準の考え方について」を取りまとめた。東京電力は、同月24日に、中間指針第二次追補や上記の考え方を踏まえて賠償基準を策定し、公表した(5020-1-2-u参照)。

(エ) 機構法附則の検討条項に係る進捗状況

機構法附則第6条第1項によれば、政府は、機構法の施行後できるだけ早期(1年を目途)に、原賠法の改正等の抜本的な見直しを始めとする必要な措置を講ずることとされている。また、機構法附則第6条第2項によれば、政府は、機構法の施行後早期(2年を目途)に、23年原発事故に係る資金援助に要する費用に係る当該資金援助を受ける原子力事業者と政府及びその他の原子力事業者との間の負担の在り方等を含め、機構法の施行状況について検討を加えて、その結果に基づき、必要な措置を講ずることとされている。

これらについて、政府は、国のエネルギー政策における原子力の位置付けなどの検討状況や現在進行中の賠償の実情等を踏まえながら必要な検討を加えていくこととしている。このように、機構法附則において求められている事項については、政府において、なお検討の途上にあり、その結果に基づく原賠法の改正等の抜本的な見直しなどの必要な措置を講ずるまでには至っていない(5020-1-2-e参照)。

(2) 機構による資金援助業務の実施状況等

ア 機構及び東京電力による特別事業計画の作成並びに支援業務の委託の状況

機構は、23年11月に主務大臣の認定を受けた緊急特別事業計画の内容を全面的に差し替えることとして、24年4月に特別事業計画の変更の認定を申請し、同年5月に主務大臣の認定を受けた。この総合特別事業計画における資金交付額は2兆4262億余円となった。さらに、その後、要賠償額の見通しの増額に伴い、二度にわたる総合特別事業計画の変更の認可を受けて、資金交付額は25年2月に3兆1230億余円、同年6月に3兆7893億余円となった(5052-2-1参照)。

イ 資金援助業務の実施状況

(ア) 東京電力が発行する株式の引受け等の状況

機構は、東京電力に対する資金援助の一環として、24年7月に、東京電力が発行する株式を1兆円で引き受けている。この株式の処分については、東京電力における内部留保の蓄積が進捗しない限り、回収の範囲及び時期は見通せない状況にある(5052-2-2-a参照)。

(イ) 交付国債の償還請求及び賠償資金の交付の状況

機構は、東京電力からの要望に応じて交付国債の償還請求を行い、東京電力が原子力損害の賠償に充てるための資金として交付しており、25年9月末までに、計3兆0483億円を交付している(5052-2-2-i参照)。

 

ウ 機構への負担金の納付及び機構からの国庫納付の状況

(ア) 機構への負担金の納付の状況

23、24両年度の一般負担金年度総額の決定においては、機構法の定める要件のうち、各原子力事業者の収支の状況に照らし、電気の安定供給その他の原子炉の運転等に係る事業の円滑な運営に支障を来し、又は当該事業の利用者に著しい負担を及ぼすおそれのないものであることとの要件については考慮されているものの、機構の業務に要する費用の長期的な見通しに照らし、当該業務を適正かつ確実に実施するために十分なものであることとの要件については、事実上機能していない。

一般負担金の納付義務を課されている原子力事業者11社は、23年度の一般負担金については、24年12月28日までに計815億円を機構に納付しており、24年度の一般負担金については、25年6月28日までに計504億余円を機構に納付しており、同年12月末までに計504億余円を機構に納付することとなっている。

東京電力は、特別事業計画について主務大臣の認定を受けていることから特別負担金を納付すべき原子力事業者に該当するが、機構は、23、24両年度については、東京電力が当期純損失を計上すると見込まれたことから特別負担金を加算しないこととし、主務大臣もこれを承認している(5052-2-3-a参照)。

(イ) 機構からの国庫納付の状況

機構は、東京電力に対して特別事業計画に基づく資金交付を行っているため、機構法第59条の規定により、損益計算で生じた利益の残余の額を国庫に納付をしなければならない。

機構は、23、24両年度の損益計算において当期純利益が799億余円及び973億余円であることから、23年度分については25年1月末までに799億余円を国庫に納付し、24年度分については25年7月末に486億余円を国庫に納付し、26年1月末までに残りの486億余円を国庫に納付する予定としている(5052-2-3-i参照)。

(ウ) 交付した資金の回収に係る試算

会計検査院において、国が機構を通じて東京電力に交付した資金が、今後、どのように実質的に国に回収されるかなどについて、東京電力に対して特別負担金を加算しないこととしたり、総合特別事業計画に記載の収支計画等を基に、税引前当期純利益(特別負担金控除前)の2分の1又は4分の3に相当する額を特別負担金として東京電力に対して加算することとしたりするなどの条件を仮定して機械的に試算した。その結果、資金交付額を3兆7893億3400万円(第3次総特の見込額)とした場合は、特別負担金の納付の有無によって、回収が終わるまでの期間及び時期は、23年後の平成48年度から11年後の36年度までとなった。この場合、回収を終えるまでに国が負担することとなる支払利息は、約474億円から約235億円までとなり、追加的な資金投入等が必要となる試算結果となった。

また、資金交付額を5兆円(機構が受け取った交付国債の額)とした場合は、同様に31年後の平成56年度から14年後の39年度までとなった。この場合、回収を終えるまでに国が負担することとなる支払利息は、約794億円から約374億円までとなり、追加的な資金投入等が必要となる試算結果となった(5052-2-3-u参照)。

エ 機構による情報提供業務その他の業務等の状況

機構は、23、24両年度に、相談業務として、弁護士等の専門家を福島県内外の避難先等に派遣して、損害賠償の請求及び和解の仲介の申立てに関する対面による個別相談を行ったり、電話による無料の情報提供を行ったりなどしている。

また、機構は、文部科学省から、仮払金支払請求の受付の事務等を受託している(5052-2-4参照)。

(3) 東京電力による原子力損害の賠償その他の特別事業計画の履行状況等

ア 原子力損害の賠償の状況

(ア) 原子力損害の概要
a 損害項目及び賠償基準

東京電力は、23年8月30日に、同月5日に公表された審査会の中間指針で示された損害項目の一部について賠償基準を定め、同年10月に、当該基準に基づく賠償金の支払を開始した。東京電力は、その後も、中間指針等を踏まえて、新たな賠償基準の策定や既存の賠償基準の見直しを行うなどして、順次、賠償金の支払を進めている(5079-3-1-a参照)。

b 要賠償額の見通し

機構は、東京電力と共同して、これまで数次にわたり特別事業計画の作成又は変更を行い、主務大臣に対して当該計画の認定の申請を行い、認定を受けている。各計画における要賠償額の見通しは、賠償基準上の項目の追加等により、23年11月に認定を受けた計画における1兆0109億余円から25年6月に認定を受けた計画における3兆9093億余円へと増加が続いている(5079-3-1-a参照)。

 

(イ) 東京電力による賠償金の支払状況等
a 賠償金の支払に係る体制の状況

東京電力は、現在、福島原子力補償相談室が中心となって、被害者に対する賠償対応業務を実施している。また、東京電力は、賠償を迅速かつ適切に進めるために、専門的な知識を必要とする業務や大量一括処理を必要とする業務については外部に委託している。賠償対応業務を実施するに当たっては、仕様等を適時適切に見直すことなどにより、価格の競争性を求める余地のある契約にするなどして賠償対応業務に係る費用を低減させる必要がある(5079-3-1-i参照)。

b 仮払補償金及び本賠償金の支払の開始

東京電力は、23年4月に個人向け、5月に農林漁業者向け、6月に中小企業者向け仮払補償金の支払をそれぞれ開始した。そして、審査会による中間指針の公表を受けて、本格的な賠償の支払を10月以降順次開始しており、仮払補償金については、その支払の際に精算されることとなっている(5079-3-1-i参照)。

c 賠償金の支払等の状況

23年4月から25年3月までの東京電力の賠償金の支払額は、2兆0427億余円である。

23、24両年度を通じた本賠償金の1件当たりの平均支払額をみると、「個人」179万余円、「個人(自主的避難)」27万余円、「法人等」488万余円、「団体」3億4169万余円となっている。

ADRセンターの仲介による和解の成立により賠償金の支払に至る場合もあるが、当該支払件数の賠償金の支払総件数に占める割合は、「個人」(自主的避難に係る賠償の対象者を含む。)、「法人等」共に1%未満となっている。また、当該支払額の賠償金の支払総額に占める割合は、「個人」(同)0.8%、「法人等」2.4%となっており、賠償金の支払は、直接、東京電力に請求をすることにより行われる案件が大半を占めている。

賠償金の月別の支払額等をみると、24年3月に「個人(自主的避難)」に係る賠償が開始されたこともあり、23年4月から25年3月までの月別では24年4月の支払額(2561億余円)が最も多くなっていて、支払累計額も同年3月から4月にかけて5000億円台から8000億円台に急増している。そして、支払累計額は、同年7月に1兆円、25年3月に2兆円を超えている(5079-3-1-i参照)。

d 支払対象別の賠償金の支払の状況

東京電力は、賠償金の請求受付から支払の合意に至るまでの進捗について、賠償システムを利用して管理している。「個人」に係る賠償金の支払について、9件、計533万余円の重複が見受けられたほか、「個人」及び「法人等」に係る賠償金について、受付から支払まで1年以上の長期間を要した支払が見受けられた(5079-3-1-i-2参照)。

e 福島県民健康管理基金に対する支出

東京電力は、福島県の県民健康管理事業の総事業費1031億余円と国の交付金781億余円との差額250億円について、24年1月に賠償金として支払っている(5079-3-1-i参照)。

f 国の仮払金支払に関する事務の受託

東京電力は、文部科学省から、仮払金の支払請求に関する事務のうち、請求書及び添付書類の確認、補正の依頼等の事務を受託している(3-1-i-3参照)。

イ 総合特別事業計画に基づく東京電力の事業運営の状況

(ア) 経営の合理化のための諸方策の実施状況
a コスト削減の状況

東京電力は、総合特別事業計画において、24年度から「10年間で3兆3650億円を超えるコスト削減を実現する」としている。機構は東京電力が取り組むコスト削減の進捗をモニタリングする体制を執ることで、コスト削減の確実な履行を確保することとしている。

24年度のコスト削減についてみると、目標額3518億円に対して、東京電力が算定して公表している実績額は4969億円となっている。

会計検査院が、24年度のコスト削減実績額について検査したところ、一部設備の運転開始の遅れなどによるものなど、東京電力の努力による削減額として算定することについて、今後留意する必要のある事態が見受けられた。

東京電力は、総合特別事業計画におけるコスト削減の目標額に加えて、更に年1000億円規模のコスト削減を実施するため、24年11月19日に調達委員会を設置した。調達委員会は25年9月末までの間に8回開催されている。

東京電力は、総合特別事業計画において、「子会社・関連会社との随意契約による取引については、(中略)3年間で現状の倍となる30%まで競争入札による取引に切り替えることにより、子会社・関連会社との随意契約による取引を3割削減する」としている。これについて、東京電力は、24年度における競争入札の比率の実績は、件数で29.1%、金額で22.5%となったとしている(5079-3-2-a-1参照)。

b 設備投資計画の見直しの実施状況

東京電力は、総合特別事業計画において、設備投資について、緊急特別事業計画の策定時と比較して「10年間で9349億円を超える投資削減」を行うこととしている。東京電力は、24年度の投資削減目標額821億円に対して、実績額は1870億円としているが、目標を超える削減額は、24年度に計画していた設備投資の後年度への繰延べや仕様の見直しなどの更なる計画の見直しによるものである(5079-3-2-a-2参照)。

c 収支計画と東京電力の24年度決算との比較

24年度においては、総合特別事業計画における収支計画を41億円下回った決算となっている。総合特別事業計画では、25年度から経常利益及び税引前当期純利益共に黒字化する計画となっているが、柏崎刈羽原発の稼働が不透明となっているなどの状況下で計画を達成するには、より一層のコスト削減が求められる(5079-3-2-a-1参照)。

d 不動産、有価証券及び子会社・関連会社に係る資産売却の実施状況

東京電力は、23年5月に合理化方針を策定して、東京電力グループが保有する不動産等の資産を、電気事業の遂行に必要不可欠なものを除いて売却して、6000億円以上の資金確保を目指すとした。その後、同年10月に、調査委員会が資産売却の方針を示し、この方針による売却見込額を7074億円とした。これを受け、同年11月に主務大臣の認定を受けた緊急特別事業計画及び24年5月に認定を受けた総合特別事業計画においては、売却の目標額は7074億円とされた。

不動産については、2472億円の不動産を、23年度から原則として3年以内に、このうちの8割以上は24年度までに売却するなどとされている。25年3月末までの売却額は2136億円で、進捗率は86%となっている。

変電所が併設されている不動産であるとして総合特別事業計画で売却の対象としていない不動産の中に、別に進入路があるなど、変電所と一体不可分とはいえず、今後の売却可能性について検討する必要がある不動産が見受けられた。

有価証券については、電気事業の遂行に必要不可欠なものを除き、原則売却することとされ、総合特別事業計画においては、23年度から原則3年以内に、東京電力グループ全体で3301億円相当を売却することとされている。25年3月末までの売却額は3248億円で、進捗率は98%となっている。

子会社・関連会社については、総合特別事業計画において、第Ⅰフェーズとして23年度から原則3年以内に45社、1301億円を売却することとされ、第Ⅱフェーズにおいては、存続及び再編とされた会社について経営合理化を進めることとされている。25年3月末までの売却実績は1225億円で、進捗率は94%となっている。

存続・合理化とされた会社のうち新興国のIPPが実施する事業への出資を行っている子会社においては、東京電力の置かれた状況に鑑み、当該子会社における内部留保を有効に活用する必要がある事例が見受けられた(5079-3-2-a参照)。

(イ) 事業改革の実施状況

東京電力は、総合特別事業計画において、「事業改革」として、財務面での制約を踏まえつつ、構造的な経営課題の解決に取り組むとしている。そして、具体的には、①他の事業者との連携等を通じた燃料調達の安定・低廉化、火力電源の高効率化、②送配電部門の中立化・透明化、③小売部門における新たな事業展開、の三つの課題に取り組むとしている。

これらに係る取組状況としては、①については、ビジネス・アライアンス委員会の設置、②については、国の指針等に基づく情報開示の徹底、③については、「電力デマンドサイドにおけるビジネス・シナジー・プロポーザル」の実施等が行われている(5079-3-2-i参照)。

(ウ) 財務基盤の強化
a 金融機関による与信の状況等

東京電力は、23年原発事故が発生した時点で、政投銀を含む78金融機関から計1兆9765億余円を借り入れていた。そして、23年原発事故に伴い増加する燃料費、社債償還、復旧費用等に充てるために、政投銀を含む9金融機関から計1兆9650億円の緊急融資を受けた。この緊急融資等により、23年4月末の借入金残高は、78金融機関計3兆9269億余円となった。

東京電力は、緊急特別事業計画に基づき、23年9月末において借入金残高があった66金融機関に対して与信維持、政投銀に対して短期融資枠設定、緊急融資を受けている9金融機関に対して資金使途追加の協力要請をそれぞれ行い、融資等が実施された。

東京電力は、総合特別事業計画に基づき、77金融機関に対して与信維持、11金融機関に対して4999億余円の新規融資実行及び3999億余円の短期融資枠設定、30金融機関に対して1699億余円の資金供与の協力要請をそれぞれ行い、融資等が実施された。これらにより、25年3月末において東京電力の借入金残高は3兆4593億余円、私募債の発行残高は7264億余円となっている。

23年原発事故時点では、公募社債による資金調達が7割以上を占めていた。23年原発事故後は、公募社債による調達に代わって金融機関からの資金調達が増加し、その割合も5割以上になっており、資金調達面において、金融機関の協力が非常に重要になってきている。

東京電力が発行する社債及び政投銀からの借入金には、損害賠償債務等の他の債務に優先して弁済される一般担保が付されており、25年3月末の残高は5兆0149億余円となっている。

信託スキームを利用して金融機関が実質的に引き受けた私募債及び政投銀からの借入金の一部には、24年7月の与信時に締結した契約において、東京電力及び東京電力グループの経営成績、財政状態等に係る財務制限条項が付されている。財務制限条項に抵触して資金調達が困難になった場合には、一般負担金や特別負担金の納付に影響を及ぼす事態も考えられる(5079-3-2-u参照)。

b 機構が引き受けた株式の状況等

機構は、総合特別事業計画において東京電力が発行する株式を払込総額1兆円で引き受けることとされており、24年7月31日に議決権付種類株式16億株を3200億円(1株当たり200円)で、無議決権種類株式3億4000万株を6800億円(1株当たり2,000円)でそれぞれ引き受けている。これにより、24年3月末に3.5%であった東京電力の自己資本比率は、機構による出資後の24年9月末には8.1%に改善した。しかし、25年3月末には、6943億余円の当期純損失を計上したことにより、自己資本比率は5.7%に低下している(5079-3-2-u-2参照)。

c 電気料金の値上げの状況

電気料金は、電気事業法に基づき、規制部門については、規制料金が適用される。規制部門の電気料金は、いわゆる総括原価方式によって定められている。

電気料金の改定が値上げとなる場合には、電気事業法の規定に基づき、経済産業大臣は、公聴会を開き、審査基準に適合していると認めるときは、認可することとなっている。一方、値下げとなる場合には、届出で足りることとなっている。

なお、一般電気事業者等に発生した費用のうち、電気料金で賄う原価に算入されない費用については、料金算定上は利潤とされていた額及び更なるコスト削減額をもって支弁されており、利潤とされていた額で支弁される場合に電気料金で賄う原価に算入されない費用は一般電気事業者等の利益を減少させる要因となる。

東京電力は、20年9月に改定した直近の電気料金の水準のままでは、総合特別事業計画に示されている円滑な賠償、着実な廃止措置及び電気の安定供給が不可能となるおそれがあるとして、総合特別事業計画の認定後の24年5月11日に、電気料金の値上げの申請を行った。申請の内容は、規制部門において平均10.28%の値上げを同年7月1日に実施することなどとなっていたが、審査を経て同月25日に認可された内容は、総原価の減額(833億円)により平均8.46%の値上げを同年9月1日に実施することなどとなった(5079-3-2-u-3参照)。

(エ) 福島第一原発に係る廃止措置の進捗状況

東京電力は、23年4月17日に、「東京電力株式会社福島第一原子力発電所・事故の収束に向けた道筋」を取りまとめた。同道筋は政府・東京電力統合対策室によって進捗が管理され、同対策室は、設定された目標のうち、同年7月19日に「ステップ1」が、同年12月16日に「ステップ2」がそれぞれ達成され、原子炉は「冷温停止状態」に到達したとしている。

ステップ2の完了に伴い、同対策室は廃止され、新たに設置された中長期対策会議が、30年から40年までを目標とした廃止措置終了までの取組計画等を定めた中長期ロードマップを同月21日に決定し、これに基づき、福島第一原発の事故現場を清浄化するための取組が進められてきている。25年2月8日には、中長期対策会議が廃止され、廃炉の加速、研究開発体制の強化、現場の作業と研究開発の一体的な進捗管理を目的として新たに設置された廃炉対策推進会議が中長期ロードマップの進捗管理等を行っている。なお、中長期ロードマップは同年6月27日に改訂され、政府が前面に立って廃止措置等に向けた中長期の取組を進めていくことが基本原則に追加された。

中長期的安全確保の取組としては、規制委員会が、24年11月7日に、原子炉等規制法に基づき、福島第一原発に設置される原子炉施設を原子炉等規制法に定める特定原子力施設に指定し、東京電力に対して「措置を講ずべき事項」を示した。これを受けて、東京電力は、同年12月7日に実施計画を規制委員会に提出し、規制委員会は25年8月14日にこれを認可した。

廃止措置の進捗状況をみると、順調に目標を達成しているものもあるが、その過程では、地下貯水槽及び地上タンク等からの汚染水の漏えい、汚染水を含む地下水の発電所港湾内への流出等の事故も発生している。これに対応するため、政府は、同年9月3日の原子力災害対策本部において、汚染水問題の根本的な解決に向けて「汚染水問題に関する基本方針」を決定した。同方針において、国は、汚染水問題に関して技術的難易度が高く、国が前面に立って取り組む必要があるものについて、財政措置を進めていくこととした。

廃止措置終了までの費用のうち、東京電力が24年度決算までに計上しているものは総額9469億円となっている。このうち「燃料デブリ取出し費用等」2500億円は、TMIの事故における費用実績に基づき算出したものとされているが、福島第一原発は、TMIと異なり、原子炉容器の気密性が失われるなどしていることから、この金額は不確実性の高い概算額であり、今後変動する可能性がある。

廃止措置に関連する費用のうち、一部の研究開発に係るものは、国が予算措置を講じている。会計検査院が、経済産業省及びJNESが実施している研究について検査したところ、両者が同一の財団法人に別々に発注した研究開発業務において、その目的は異なるものの、業務の内容が同様で、同種の作業が業務に含まれているのに、両者が互いの研究について関知していない事態等が見受けられた(5079-3-2-e参照)。

ウ 総合特別事業計画の作成後の状況の変化とこれに対する東京電力の対応

(ア) 「再生への経営方針」及び「改革集中実施アクション・プラン」の策定

原子力発電所の再稼働の見通しについて不透明感が強まるなど総合特別事業計画では前提とされていない事業環境の変化等を受けて、東京電力は、24年11月7日に「再生への経営方針」及び「改革集中実施アクション・プラン」を策定して公表している。そして、同方針では、除染費用の増加等現行法の枠組みによる対応可能額を上回る財務リスク等について、国による新たな支援の枠組みを早急に検討することを要請している(5079-3-3-a-1参照)。

(イ) 電気料金の値上幅の圧縮への対応

東京電力は24年5月に電気料金の値上げの申請を行ったが、審査を経て、値上幅が圧縮された。これを踏まえて、東京電力は、「改革集中実施アクション・プラン」において年1000億円のコスト削減策を示している。その内容は、総合特別事業計画で示されたコスト削減策を深掘りする形で値上幅の圧縮の影響に対応することとしている(参照)。

(ウ) 柏崎刈羽原発の稼働見込み等

東京電力は、総合特別事業計画における収支見通し及び電気料金の値上げの申請において、柏崎刈羽原発を、25年4月以降順次稼働する予定としていた。

規制委員会が制定した新規制基準については、既設の原子力発電所も適用対象となる。そのため、東京電力は柏崎刈羽原発の稼働に向けて新規制基準に適合するための各種の対策を実施している。

会計検査院が検査したところ、柏崎刈羽原発が新規制基準に適合するために必要となる各種の対策に係る契約の一部に、契約期間の終期が稼働予定時期より後になっている契約も見受けられた。

また、規制委員会は、原子力事業者が新規制基準に適合するための対策を執っているかについて審査等を実施することとなっている。25年9月末現在、東京電力を含む原子力事業者5社が14機を対象として審査の申請を行っているが、審査後には使用前検査及び定期検査が求められていることなどから、審査等を通じて稼働に至るまでの期間が長期化する可能性もある。

会計検査院において、原価算定期間中に柏崎刈羽原発が稼働しない場合に25、26両年度にコストがどの程度増加するかについて、石炭火力が最大限活用されているとの前提の下、LNG火力及び石油火力により代替するなどの条件を仮定して機械的に試算したところ、25年度は約2823億円から約4015億円、26年度は約4864億円から約6904億円コストがそれぞれ増加することになる結果となった(5079-3-3-u参照)。

エ 電気事業会計及び電気料金制度に関連する事項

東京電力の会計経理の基盤となる電気事業会計及び関連する電気事業制度に関連して、次のような事態が見受けられた。

(ア) 原子力発電施設解体引当金の引当て

原子力発電施設の廃止措置に係る費用のうち、原子力発電施設の解体等に要する費用は、解体引当金省令に基づき、解体引当金を引き当てることとなっている。

東京電力の解体費用の引当ての状況について検査したところ、稼働していない原子力発電施設については、再稼働が大幅に遅れるなどした場合、一部の原子炉については廃炉を決定する時点で解体引当金の引当不足が生じ、一度に多額の損失が計上される可能性がある。また、廃止が決定した原子力発電施設に係る資産除去債務には、廃止措置の過程で、その都度追加的に生じている廃棄物の解体に要する費用が個別には見積もられていなかった。23年原発事故への対応によって追加的に発生する廃棄物の解体に要する費用は、将来確実に発生する費用であることを考慮すると、これに係る引当ての合理的な見積方法等については、更に検討する必要があると考えられる(5079-3-4参照)。

(イ) 電気料金制度における事業報酬の算定

電気料金における事業報酬の算定式に用いられるβは、過去の電力会社の株価等のサンプルデータから算定されるものであるが、その具体的な採録の間隔及び採録期間の選択方法等までは示されていない。このため、東京電力が過去に行った事業報酬の算定について、例えば、採録の間隔を変えて算定したり、採録期間から23年原発事故直後の株価が乱高下した期間を除外して算定したりなどすると、事業報酬が下がることになる事例が見受けられた。このように事業報酬が変動する可能性がある点については、今後留意する必要がある(5079-3-4-i参照)。

(4) 機構及び東京電力の決算の状況

ア 23年度決算

23年度決算において、機構の損益計算書に計上されている資金交付費1兆5803億余円と東京電力の損益計算書に計上されている原子力損害賠償支援機構資金交付金2兆4262億余円の間に8459億余円の開差があるのは、東京電力が24年3月29日に申し込んだ追加の資金交付の額について、資金援助の決定が行われていないとして機構が資金交付費に計上していないことによるものである。

会計検査院が検査したところ、資金交付に係る資金援助の費用及び収益の認識及び計上に関して次のような状況となっていた。

機構は、機構法の規定を踏まえて、23年度の損益計算書に、23年度中に資金援助の決定を行った1兆5803億余円の範囲で資金援助事業費を計上したとしている。

東京電力は、資金交付に係る資金援助の申込みを行い、資金援助の申込みを行った日に資金交付の申込額に相当する収益が実現したものとして、23年9月30日以降24年3月29日までの23年度中に行った資金交付に係る資金援助の申込額2兆4262億余円を原子力損害賠償支援機構資金交付金として特別利益に計上する会計処理を行っている。

そして、東京電力は、初めて資金交付に係る資金援助の申込みを行った際に、「原子力損害賠償支援機構資金交付金の収益認識についての東京電力の考え方」を基に会計監査人と協議し、申込みを行った日に収益が実現したとする会計方針を採用することとしていた。また、東京電力は、「援助には上限を設けず、必要があれば何度でも援助し、(中略)原子力事業者を債務超過にさせない」との23年5月13日の関係閣僚会合決定の具体的な支援の枠組みが、機構法の法的枠組みとなっているとしている。

しかし、資金援助の決定が行われていないのに、「交付金を受け取る起因が発生していた」ことをもって「実現主義の原則」の範囲で収益の認識を行うこと、また、資金援助の決定が11月4日に行われていたことをもって第2四半期末の9月30日までに収益が実現していたと判断することについては、疑問があるとする見方もある。

そして、資金交付に係る資金援助の申込みを行った日に申込額をもって収益を認識し、計上することは、機構法において、機構が資金援助の決定をしようとする場合には機構と原子力事業者が共同で特別事業計画を作成し、主務大臣の認定を受けなければならないなどの手続を定めている趣旨と整合しないと考えられる(5079-4-1-参照)。

イ 24年度決算

前記23年度の損益計算書上の開差が24年度の損益計算書にも影響を与え、24年度の機構の損益計算書に計上されている資金交付費1兆5427億余円と東京電力の損益計算書に計上されている原子力損害賠償支援機構資金交付金6968億余円の間には8459億余円の開差がある(5079-4-2参照)。

 

2 所見

23年原発事故は、大規模かつ長期間にわたる未曽有の災害となり、事故の発生前に我が国有数の大規模な企業であった東京電力においても、被害を受けた者に対する賠償を単独で実施することは困難な状況となった。

東京電力に係る原子力損害の賠償に関する国の支援は、このような状況の中で、我が国の原子力損害賠償制度について基本的な事項を定めている原賠法の枠組みの下で、新たに機構法を制定し、国民負担の極小化を図ることを基本として、機構が東京電力に対して出資したり、原子力損害の賠償のための資金を交付したりなどすることにより、多額の財政資金を投じて実施されている。

この支援に当たり、政府は、東京電力が、迅速かつ適切な賠償を確実に実施すること、福島第一原発の状態の安定化に全力を尽くすこと、電力の安定供給、設備等の安全性を確保するために必要な経費を確保すること、最大限の経営合理化と経費削減を行うことなどを確認している。

会計検査院は、今回、内閣府、文部科学省、経済産業省及び機構による23年原発事故に係る原子力損害の賠償に関する支援並びに東京電力による特別事業計画の履行のうち、原則として24年度までに実施された支援等を対象に検査を実施した。

機構の出資により東京電力の財務体質は一定の改善が図られており、機構から東京電力に対しては、原子力損害の賠償に支障のないよう資金が交付されている。一方で、文部科学省に設置された審査会から既に指針等が提示されている項目であっても、東京電力において合理性をもって確実に見込まれる額の算定ができないなどとして賠償基準が定められておらず、賠償が進捗していない事態が見受けられたほか、損害の項目によっては、今後、審査会から新たな指針等が提示される可能性もあり、これを受けて賠償が行われることとなれば、機構の資金交付にも影響する。

東京電力に対する機構の出資は、東京電力が社債市場において自律的に資金調達を実施していると判断されるなどした後の早期に回収することを目指すとされている。また、国から機構を通じて東京電力に交付された資金は、東京電力を含む原子力事業者から機構に納付される一般負担金及び東京電力から機構に納付される特別負担金により、機構の損益計算の結果生じた利益が国庫に納付されるという仕組みで実質的に回収されることになっている。そして、機構法の本来の仕組み、すなわち、原子力事業者から納付される一般負担金により機構に積立てを行い、原子力事故が発生した後の資金援助の財源にするという仕組みは、国から交付された資金の回収が完了して初めて機能することになり、機構の出資や国から交付された資金の回収が長期に及んだ場合には、国の財政負担を含めた国民負担が増こうする。このため、これらの資金等の回収は、できる限り早期に、かつ、確実に実施されることが肝要である。

したがって、今後、文部科学省は次の(1)アの点に、経済産業省は次の(1)イの点にそれぞれ留意して原子力損害の賠償に関する支援等を実施し、機構は次の(2)の点に留意して資金援助業務等を実施し、また、東京電力は次の(3)の点に留意して原子力損害の賠償その他の特別事業計画を履行していく必要がある。

(1) 原子力損害の賠償に関する国の支援等の状況

ア 文部科学省において、

(ア) 審査会が指針等を定めると賠償が一定程度進捗するという現状を踏まえて、東京電力が迅速かつ適切な賠償を実施するために、必要が生じた場合には審査会が早期に指針等を定めることができるよう体制の維持及び整備に努める。

(イ) 時効を中断するために和解の仲介の申立てが増加することも考えられることから、ADRセンターの体制整備に努める。

イ 経済産業省において、

(ア) 23年原発事故に係る原子力損害の賠償に関する政府の対応等についての被害者の理解が更に深まるよう引き続き取り組む。また、東京電力が賠償基準を定める際には、迅速かつ適正な賠償が行われるよう必要な助言等を行う。

(イ) 一般負担金年度総額や東京電力の特別負担金額の認可に当たっては、国が機構を通じて交付した資金を確実に回収していくことが、機構法の本来の仕組みをできる限り早期に機能させることにつながるということにも十分に配慮する。

(ウ) 廃炉費用に係る電気事業会計制度について必要な検討を行うとともに、一般負担金等が電気料金の総原価に含まれることに鑑み、認可の対象とした電気料金について関係者の理解を得るよう努める。

(エ) 安全確保を前提として長期の実施が見込まれる福島第一原発の廃止措置に係る研究開発は、原子力事業者を規制する側と支援する側が緊張関係を保った上で、国の支援として効率的に実施する。

(2) 機構による資金援助業務の実施状況等

機構において、

ア 東京電力におけるコスト削減等の経営合理化や原子力損害の賠償の実施に関するモニタリングを引き続き的確に実施するなどして、東京電力による特別事業計画の確実な履行を支援する。

イ 一般負担金年度総額や東京電力の特別負担金額の検討に当たっては、国から交付された資金を確実に回収していくことが、機構法の本来の仕組みをできる限り早期に機能させることにつながるということにも十分に配慮する。

(3) 東京電力による原子力損害の賠償その他の特別事業計画の履行状況等

東京電力において、

ア 賠償金支払の一部において、賠償の受付から支払までの期間が最長で1年を超えている事例も見受けられるので、事務手続の改善等により迅速な賠償に努める。また、賠償金が同一の被害者に重複して支払われていた事態が見受けられたことなどに鑑み、同種事態の再発を防ぎ、適切な賠償の実施に努める。

イ 国から機構を通じて東京電力に交付した資金の一般負担金及び特別負担金による実質的な回収が長期化した場合、国の財政負担状態が長期化し、かつ、財政負担が増こうすることから、機構法の本来の仕組みをできる限り早期に機能させるためにも、早急に特別負担金の納付が可能となるよう財務状況の改善に努める。

ウ 総合特別事業計画の想定を超える費用の発生等により、東京電力の財務の健全性や経営状況に影響が生ずること、ひいては特別負担金の納付を遅延させる要因となることに鑑み、更なるコスト削減に努める。また、コスト削減の実績を算定し、公表するに当たっては、自らの努力によるものと外的要因によるものとを的確に区別し、利害関係者の理解が得られるよう努める。

エ 国民負担の極小化に向けて、総合特別事業計画で売却の対象とされていない不動産についても、保有の必要性を不断に見直し、売却を着実に進めるとともに、海外事業については、東京電力の置かれた状況に鑑み、子会社の内部留保の活用方法等についても十分に検討する。

オ 原子力損害賠償支援機構資金交付金について、資金交付に係る資金援助の申込みをもって収益を認識し、計上することとする会計方針が、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠し、また、機構法が資金援助の申込みから決定までの手続を定めている趣旨とも整合するとしていることについて十分な説明を行う。

23年原発事故に係る原子力損害については、25年9月27日までに計2兆9100億余円の賠償金が被害者に支払われているものの、個々の事態に即して被害者との交渉を経て金額が確定するという賠償の性格上、賠償金の総額についての十分な見通しはいまだ得られておらず、また、除染に係る費用が本格的に賠償の対象として加わることになった場合には、賠償の規模は更に増大する。一方、原子力損害の賠償に関する国の支援は、今後とも継続することが見込まれ、機構を通じた資金交付の規模は更に増加することも予想される。このため、賠償の総額及び時期について確度の高い見通しをできるだけ早期に立てた上で、財政負担の規模と時期について的確な見通しを明らかにすることが、東京電力に対する国の支援について国民の理解を得る前提となる。そして、このような前提を整えることと併せて、23年原発事故に係る原子力損害の賠償に関する政府の対応ばかりでなく、機構法の本来の仕組みについて関係者が十分な説明を行うことにより、東京電力に対する支援に係る国民負担について理解を得ていく必要がある。

 

会計検査院としては、除染に係る費用の見通しとその負担が不透明であることや、柏崎刈羽原発が25年9月末現在稼働していないなど、東京電力の業務運営が総合特別事業計画における見込みとは異なるものとなっていることなどのために、総合特別事業計画の大幅な改定が見込まれるなどの状況を踏まえた上で、25年度以降に実施された支援等について引き続き検査を実施して、検査の結果については取りまとめが出来次第報告することとする。