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  • 国会及び内閣に対する報告(随時報告)|
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  • 平成25年9月

東日本大震災等の被災者の居住の安定確保のための災害公営住宅の整備状況等について


3 検査の状況

(1) 災害公営住宅の整備に係る計画の策定状況等

ア 災害公営住宅の整備

(ア) 災害公営住宅の整備手順

市町村等が行う災害公営住宅の整備は、一般的に次のような手順で進められている。

  • ① 県は、管内市町村の区域内における整備計画戸数が多数に上る場合、災害公営住宅の整備期間、整備計画戸数、県と市町村との役割分担、整備手法等に関する基本方針等を策定する(表2参照)。

  • ② 市町村等は、県が策定した基本方針等を踏まえて、被災した住民の意向を調査するなどして、災害公営住宅を整備する地区、整備計画戸数、用地取得から建設等を行うまでの整備方式、整備期間等を定めた基本的な計画を策定する。整備期間については、原則的には応急仮設住宅の退去期限までに整備を完了することが目標とされている。

  • ③ 市町村等は、復興交付金事業計画等の提出等を行い、復興交付金の交付を受ける。

  • ④ 市町村等は、災害公営住宅を整備するとともに、災害公営住宅に係る募集要件を定めて、入居者の募集を行う。応募者が多数の場合は抽選等を行って、入居者を決定する。

表2 基本方針等の策定内容

岩手県 宮城県
名称 岩手県住宅復興の基本方針(平成23年10月策定)災害公営住宅の整備に関する方針(平成24年9月策定。25年4月改定) 宮城県復興住宅計画(平成23年12月策定。24年4月改定)
災害公営住宅の
整備期間
平成23年度から25年度までを基盤復興期間、26年度から28年度を本格復興期間とする。災害復興公営住宅については、できる限り基盤復興期間に完成させて、市町村のまちづくり事業と合わせて行うものについては本格復興期間の早期に完成させる。 平成23年度から27年度までの5年間
整備計画戸数 5,972戸
うち2,823戸は県が整備(うち1,408戸は県が管理)
約15,000戸
うち約5,000戸は県が整備(うち1,000戸程度は県が管理)




高齢者対策 ひとにやさしい住まいづくり 少子高齢社会に対応した住まいづくり
コミュニティ維持 多様なニーズや地域性に配慮した住まいづくり 地域コミュニティの維持を図るための取組
早期整備 標準設計等の活用、設計・施工一括発注方式の導入、敷地提案型買取方式の検討等 直接建設・買取り、借上げを地域の実情にあわせて活用
民間活力の活用 民間のノウハウを活用するため、民間住宅の購入又は借上げやPFI的な手法の導入を検討 借上型や買取(委託)型の提案募集型の整備手法を活用

福島県
名称 特別区域法に基づく「福島県復興推進計画(公営住宅)」(平成25年5月) 第一次福島県復興住宅整備計画(平成25年6月)
災害公営住宅の
整備期間
平成33年3月11日までの入居を目指す。 平成27年度までの入居を目指す。
整備計画戸数 4,092戸 おおむね3,700戸(左記との重複分500戸を含む)




高齢者対策 - 高齢者等に配慮
コミュニティ維持 - コミュニティの維持・形成の拠点となるよう整備
早期整備 - -
民間活力の活用 - -
(注)
福島県は、地震、津波による被災者及び居住制限者に対する災害公営住宅全体に関する基本方針等は策定しておらず、特別区域法に基づく「福島県復興推進計画(公営住宅)」において、被災者向けの災害公営住宅として4,092戸、「第一次福島県復興住宅整備計画」において、居住制限者向けの災害公営住宅として3,700戸を整備することとしている。また、被災者向けの災害公営住宅の整備手法等については、福島県復興ビジョン等において別途定めている。
(イ) 災害公営住宅の整備方式

災害公営住宅の整備方式については、一般の公営住宅と同様に、市町村等の事業主体が自ら建設する方式(以下「直接建設方式」という。)のほか、協定等を締結した上で独立行政法人都市再生機構(以下「UR」という。)が建設した住宅の引渡しを受ける方式(以下「UR建設譲渡方式」という。)、民間会社等が市町村等の定めた規格等に適合するように建設した住宅や既存の住宅を用地も含めて買い取る方式(以下「買取方式」という。)及び民間会社等が共用部分に係る整備費の一部について補助を受けて建設した住宅や既存の賃貸住宅を一定期間借り上げる方式(以下「民間借上方式」という。)がある。

市町村等は、上記の整備方式に応じて、用地の選定、交渉及び取得、造成や住宅建設に係る設計及び工事等を実施したり、URとの間で協定等を締結したり、住宅買取に係る提案の公募等を行ったりする。

特に、津波により被災した地域において地盤をかさ上げしたり高台に移転したりする場合には、災害公営住宅の建設を土地区画整理事業、防災集団移転促進事業等(注3)の面的整備事業(以下「面的整備」という。)と合わせて実施することも多く、地権者や関係省庁等の関係機関との協議や造成工事に一定の期間を必要とすることになる。

(注3)
防災集団移転促進事業 災害が発生した地域又は災害危険区域のうち、住民の居住に適当でないと認められる区域内にある住居を集団的に移転する事業

イ 区域内において災害公営住宅の整備を計画している市町村の状況

災害公営住宅の整備を計画している前記の56市町村の区域内における建物の被災戸数は、表3のとおり、全壊124,675戸、半壊235,750戸、一部破損387,427戸、計747,852戸(25年3月11日現在)となっている。そして、56市町村の区域内における災害公営住宅の整備を計画している事業主体は、災害公営住宅の整備を全て県が実施することとして市としては事業を実施しない4市(会津若松、郡山、水戸、ひたちなか各市)を除いた52市町村と、県自らが事業主体となったり市町村から委託を受けたりして災害公営住宅を整備する4県(岩手、宮城、福島、茨城各県)の計56事業主体となっており、これらの事業主体に係る災害公営住宅の整備計画戸数は、工程表等によれば、25年6月末現在で計25,067戸となっている。

56事業主体のうち岩手、宮城、福島の3県(以下「東北3県」という。)管内の45市町村の区域内における建物の被災戸数は、全壊122,832戸、半壊223,243戸、一部破損335,495戸、計681,570戸と、前記56市町村の区域内の91.1%と大半を占めている。また、上記45市町村の区域内における整備計画戸数は24,677戸と、56事業主体の整備計画戸数25,067戸の98.4%となっており、このうち整備計画戸数が多数に上る市町村は、石巻市4,000戸、仙台市3,000戸、気仙沼市1,998戸の順で、56事業主体の整備計画戸数のそれぞれ15.9%、11.9%、7.9%となっている。

表3 区域内において災害公営住宅の整備を計画している市町村

県名 整備が計画され
ている市町村名
事業主体 整備計画戸数(平成25年6月30日現在)
(戸)
建物の被災戸数(25年3月11日現在)
(戸)


県が事業主
体又は市町
村から県が
受託
市町村が
事業主体
不明 全壊 半壊 一部
破損


3
岩手県 1 宮古市 303 490 0 793 2,677 1,328 444 4,449
2 大船渡市 563 265 0 828 2,787 1,147 1,600 5,534
3 久慈市 0 11 0 11 65 213 318 596
4 陸前高田市 709 300 0 1,009 3,159 182 27 3,368
5 釜石市 198 1,220 0 1,418 2,957 698 1,049 4,704
6 大槌町 500 480 0 980 3,092 625 161 3,878
7 山田町 547 284 0 831 2,762 405 202 3,369
8 岩泉町 0 51 0 51 177 23 8 208
9 田野畑村 0 69 0 69 225 45 11 281
10 野田村 26 77 0 103 311 168 35 514
11 洋野町 0 4 0 4 10 16 35 61
小計 1 11 2,846 3,251 0 6,097 18,222 4,850 3,890 26,962
宮城県 1 仙台市 0 2,996 4 3,000 30,005 109,476 115,986 255,467
2 石巻市 868 1,984 1,148 4,000 22,357 11,021 20,364 53,742
3 塩竈市 0 380 0 380 655 3,188 6,798 10,641
4 気仙沼市 0 1,988 10 1,998 8,483 2,570 4,689 15,742
5 名取市 0 722 0 722 2,801 1,129 10,061 13,991
6 多賀城市 0 532 0 532 1,746 3,730 6,039 11,515
7 岩沼市 223 0 0 223 736 1,606 3,086 5,428
8 登米市 0 60 0 60 201 1,798 3,362 5,361
9 栗原市 0 15 0 15 58 372 4,552 4,982
10 東松島市 83 827 85 995 5,506 5,560 3,506 14,572
11 大崎市 0 170 0 170 596 2,434 9,139 12,169
12 亘理町 350 146 0 496 2,389 1,150 2,048 5,587
13 山元町 75 525 0 600 2,217 1,085 1,138 4,440
14 松島町 40 0 0 40 221 1,784 1,559 3,564
15 七ヶ浜町 217 0 0 217 674 649 2,601 3,924
16 利府町 0 25 0 25 56 900 3,549 4,505
17 大郷町 0 4 0 4 50 274 781 1,105
18 涌谷町 0 48 0 48 144 734 1,030 1,908
19 美里町 0 40 0 40 129 627 3,130 3,886
20 女川町 0 947 0 947 2,924 347 663 3,934
21 南三陸町 280 650 0 930 3,143 177 1,205 4,525
小計 1 21 2,136 12,059 1,247 15,442 85,091 150,611 205,286 440,988
福島県 1 会津若松市 90 0 0 90 4 87 5,720 5,811
2 郡山市 160 0 0 160 2,447 21,615 33,996 58,058
3 いわき市 250 1,515 0 1,765 7,916 32,521 50,074 90,511
4 白河市 0 16 0 16 240 1,818 6,790 8,848
5 須賀川市 0 40 0 40 1,249 3,503 10,557 15,309
6 相馬市 0 405 0 405 1,002 817 3,370 5,189
7 南相馬市 0 350 0 350 5,741 2,347 5,766 13,854
8 桑折町 0 47 0 47 55 187 1,175 1,417
9 鏡石町 0 24 0 24 172 768 1,654 2,594
10 広野町 0 48 0 48 不明 不明 不明 0
11 楢葉町 0 37 0 37 50 不明 不明 50
12 新地町 0 103 30 133 439 138 669 1,246
13 福島市(飯舘村) 0 23 0 23 204 3,981 6,548 10,733
小計 1 11 500 2,608 30 3,138 19,519 67,782 126,319 213,620
45市町村 3 43 5,482 17,918 1,277 24,677 122,832 223,243 335,495 681,570
県名 整備が計画され
ている市町村名
事業主体 整備計画戸数(平成25年6月30日現在)
(戸)
建物の被災戸数(25年3月11日現在)
(戸)


県が事業主
体又は市町
村から県が
受託
市町村が
事業主体
不明 全壊 半壊 一部
破損




青森県 1 八戸市 0 62 0 62 254 624 851 1,729
2 おいらせ町 0 5 0 5 23 46 76 145
小計 0 2 0 67 0 67 277 670 927 1,874
茨城県 1 水戸市 64 0 0 64 164 1,903 27,577 29,644
2 高萩市 0 26 0 26 140 1,035 3,840 5,015
3 北茨城市 0 110 0 110 188 1,325 4,729 6,242
4 ひたちなか市 24 0 0 24 86 801 6,095 6,982
5 鹿嶋市 0 16 0 16 510 3,351 3,281 7,142
小計 1 3 88 152 0 240 1,088 8,415 45,522 55,025
千葉県 1 旭市 0 33 0 33 318 847 2,143 3,308
2 香取市 0 16 0 16 96 2,213 1,748 4,057
小計 0 2 0 49 0 49 414 3,060 3,891 7,365
新潟県 1 十日町市 0 6 0 6 31 193 1,100 1,324
小計 0 1 0 6 0 6 31 193 1,100 1,324
長野県 1 栄村 0 28 0 28 33 169 492 694
小計 0 1 0 28 0 28 33 169 492 694
11市町村 1 9 88 302 0 390 1,843 12,507 51,932 66,282
合計 56市町村 4 52 5,570 18,220 1,277 25,067 124,675 235,750 387,427 747,852
注(1)
事業主体欄における○は県が事業主体となって事業が行われていること、●は市町村が事業主体となって事業が行われていること、△は市町が県に委託して事業が行われていること、★は福島市内で飯舘村が事業主体となって飯舘村の住民向けの災害公営住宅を整備することをそれぞれ示している。
注(2)
会津若松市、郡山市及び福島市には、平成25年6月30日現在では他の市町村から受け入れた居住制限者向けの災害公営住宅だけが整備される予定であり、その整備計画戸数にはこれらの市において被災した住民向けの災害公営住宅の戸数が含まれていない。
注(3)
いわき市には、同市において被災した住民向けの災害公営住宅のほか、他の市町村から受け入れた居住制限者向けの災害公営住宅も整備される予定となっているため、いわき市の整備計画戸数はこれらの災害公営住宅の計を示している。
注(4)
建物の被災戸数は、消防庁等のデータによる。

ウ 整備方式別の整備計画戸数等

(ア) 災害公営住宅の整備方式別の特徴

災害公営住宅の整備方式については、前記のとおり、直接建設方式、UR建設譲渡方式、買取方式及び民間借上方式があるが、それぞれ以下のような特徴がある。

  • ① 直接建設方式は、事業主体の意向を細部まで反映できるが、用地の選定及び取得、設計、建設工事発注等の業務に係る職員の負担が大きい。

  • ② UR建設譲渡方式は、設計、建設工事発注等の業務に係る職員の負担は軽減されるが、URに対して事務費を負担する必要がある。

  • ③ 買取方式は、用地の選定及び取得、設計、建設工事発注等の業務に係る職員の負担が軽減され、用地の選定及び取得に係る時間が短縮できるが、買取りに係る業者を公募により選定する場合、総合評価落札方式によることとなり、募集要綱等の作成、評価等の業務が必要となる。

  • ④ 民間借上方式は、設計、建設工事発注等の業務に係る職員の負担が少なく、建設費等の初期投資が大幅に少なくて済むが、後年度も借上住宅の所有者に対する賃料を負担し続けることになるほか、借上住宅の所有者との契約期間満了時には入居者に他の公営住宅等への移転を求める必要が生ずる。
(イ) 整備方式別の整備計画戸数の状況等

25年6月末現在の整備方式別の整備計画戸数については、表4のとおりとなっている(市町村ごとの整備方式別の整備計画戸数等の状況は巻末別表1参照)。

表4 整備方式別の整備計画戸数等の状況

(単位:戸)
整備方式 直接建設方式 UR建設
譲渡方式
買取方式 民間借上
方式
未定 合計
県名\事業主体 市町村 市町村 市町村 市町村 市町村 不明


3
岩手県 2,746 1,581 (10) 4,327 997 (5) 100 673 (5) 773 0 (0) 0 (0) 0 (0) 0 (0) 6,907
宮城県 2,136 2,635 (12) 4,771 4,428 (8) 0 2,647 (5) 2,647 149 (1) 2,200 (2) 1,247 (4) 3,447 (5) 15,442
福島県 500 2,494 (9) 2,994 77 (2) 0 0 (0) 0 0 (0) 37 (1) 30 (1) 67 (2) 3,138
5,382 6,710 (31) 12,092 5,502 (15) 100 3,320 (10) 3,420 149 (1) 2,237 (3) 1,277 (5) 3,514 (7) 24,677




青森県 0 67 (2) 67 0 (0) 0 0 (0) 0 0 (0) 0 (0) 0 (0) 0 (0) 67
茨城県 88 152 (3) 240 0 (0) 0 0 (0) 0 0 (0) 0 (0) 0 (0) 0 (0) 240
千葉県 0 49 (2) 49 0 (0) 0 0 (0) 0 0 (0) 0 (0) 0 (0) 0 (0) 49
新潟県 0 6 (1) 6 0 (0) 0 0 (0) 0 0 (0) 0 (0) 0 (0) 0 (0) 6
長野県 0 0 (0) 0 0 (0) 0 28 (1) 28 0 (0) 0 (0) 0 (0) 0 (0) 28
88 274 (8) 362 0 (0) 0 28 (1) 28 0 (0) 0 (0) 0 (0) 0 (0) 390
合計 5,470 6,984 (39) 12,454 5,502 (15) 100 3,348 (11) 3,448 149 (1) 2,237 (3) 1,277 (5) 3,514 (7) 25,067
注(1)
括弧書きは、市町村数である。
注(2)
UR建設譲渡方式及び民間借上方式を採用した事業主体はいずれも市町村である。
注(3)
整備方式が未定のうち、不明とは県が事業主体か市町村が事業主体か不明なものである。
注(4)
未定のうち、市町村が事業主体の欄の市町村数と不明の欄の市町村数とで重複しているため、両欄の合計と計の欄の数とは一致しない。

直接建設方式による整備は、東北3県及び茨城県(宮城県においては管内市町から受託した分のみ)が5,470戸について、長野県を除く7県管内の39市町村が6,984戸についてそれぞれ採用を計画している。

UR建設譲渡方式による整備は、東北3県の15市町が5,502戸について採用を計画しており、買取方式による整備は、岩手県が100戸について、岩手、宮城、長野各県管内の11市町村が3,348戸についてそれぞれ採用を計画している。

また、民間借上方式による整備は、宮城県管内の1市が149戸について採用を計画している。

さらに、56事業主体の整備計画戸数25,067戸のうち7市町に係る3,514戸(14.0%)については、整備方式が未定となっている。

前記のように、民間借上方式の採用数が少ないのは、事業主体において、他の整備方式に比べて後年度における事業主体の負担が大きいことや借上期間満了時に入居者に他の公営住宅等への移転を求める必要が生ずるなど対応に難しい面があることを考慮したこと、事業主体が募集しても住宅の借上げに応じる民間会社等が少ないことなどによると考えられるが、民間借上方式を採用する際には、契約期間満了時の対応に支障が生じないよう事業主体においてあらかじめ十分検討しておく必要がある。

なお、阪神淡路大震災の際には、神戸市は、市街地でまとまった土地を取得することが困難であることから、民間借上方式を採用して災害公営住宅を1,596戸(25年3月31日現在の借上戸数1,495戸)整備しているが、所有者からの借上期間は20年となっているため、退去期限まであと約2年となっており、同市は、原則的には退去期限到来時に入居者に対して一般の市営住宅の空家への移転を求めることとしている。同市は、高齢者、障害者等については、入居の継続が図れるようにする方針としているが、借上住宅の所有者によっては、同市が求める借上期間の延長に同意しない者もあることから、入居の継続を希望する高齢者、障害者等への対応が今後の課題となっている。


(ウ) 事業主体の人的体制等の状況に対応した整備方式の採用

東日本大震災等の発生前の18年度から22年度までの5年間に、47都道府県で整備された公営住宅(新潟県中越地震等に伴い整備された災害公営住宅を含む。)は計83,799戸であり、このうち、東北3県の区域内で整備された公営住宅は、表5のとおり計1,698戸となっている。

表5 東北3県において東日本大震災等の発生前の5年間に整備された公営住宅の戸数と災害公営住宅の整備計画戸数

(単位:戸)
各年度に整備された公営住宅の戸数 災害公営住宅の整備計画戸数
平成18 19 20 21 22
岩手県 115 141 101 120 54 531 6,097
宮城県 128 64 219 34 137 582 15,442
福島県 122 115 95 207 46 585 3,138
365 320 415 361 237 1,698 24,677

これに対して、今回東北3県における災害公営住宅の整備計画戸数はその14.5倍に当たる24,677戸に上っており、従前の人的体制のままで円滑に整備を進めるには困難な状況にあると考えられる。

そこで、東北3県の事業主体のうち、43市町村における建築部門の24年4月1日現在の職員数(臨時の職員で勤務した日が1年を超える職員を含む。)をみると、図1のとおりとなっており、中には建築部門の職員が不在の事業主体が5町村あった。

図1 43市町村における建築部門の職員数(平成24年4月1日現在)

43市町村における建築部門の職員数(平成24年4月1日現在)

このような状況の下、各事業主体は、職員の負担を軽減するために、他の地方公共団体等から応援の職員を受け入れたり、建築部門に職員が比較的多数配置されている県に災害公営住宅の整備を委託したり、直接建設方式に加えてUR建設譲渡方式等を採用したりして対応している。

整備方式別の整備計画戸数をみると、災害公営住宅の整備を全て県に委託したり、直接建設方式による整備を実施せずUR建設譲渡方式等による整備を採用したりしている市町村は東北3県管内で9市町(整備方式が全部又は一部未定となっている市町村を除く。)あり、これらの市町に係る整備計画戸数は計4,100戸となっていた。

一方、直接建設方式による整備計画戸数が525戸と整備計画戸数全体600戸の87.5%を占めている事業主体も1町あるなど、直接建設方式による整備計画戸数の割合が高い事業主体もあり、このような事業主体では、職員の負担が大きくなっていると考えられる。

災害公営住宅の整備の事業主体となる市町村等は、整備計画の策定又はその見直しに際して、建築部門の人的体制、整備期間等を勘案するとともに、それぞれの特徴を踏まえて適切な整備方式を選択することが重要である。

エ 意向調査等

事業主体となっている市町村等は、被災者に対して、自力で再建する場合の支援策や災害公営住宅の家賃、間取等住宅再建に関する説明会を行うとともに、住宅の再建方法に関するアンケートや個別訪問等による調査を実施して、災害公営住宅に対する住民の意向を把握している。そして、56事業主体のうち管内市町村と同じ区域で整備を実施することとしているため意向調査の必要がない岩手、宮城両県を除く54事業主体における意向調査の実施状況は、図2のとおりとなっており、意向調査を1回も実施していない事業主体が2事業主体ある一方で、2回以上実施して住民の意向の変化を把握するよう努めている事業主体もあった。また、アンケート等による意向調査実施後に、災害公営住宅の入居意思を確認するなどのために、再度、個別訪問を行い整備計画の精度を高めている事業主体も見受けられた。

図2 事業主体による意向調査の実施回数

事業主体による意向調査の実施回数

上記54事業主体のうち、アンケート等による意向調査の調査内容を把握できた51事業主体における調査項目をみると、その主なものは、自力再建の予定の有無、災害公営住宅への入居希望の有無、入居を希望する地区、世帯の人数及び年齢等となっていた。また、51事業主体のうち、災害公営住宅への入居希望の有無だけでなく、整備計画を策定する上で必要と考えられる入居を希望する地区を調査項目としているのは、図3のとおり、32事業主体となっており、世帯の人数を調査項目としているのは14事業主体となっている。

図3 意向調査の調査項目の状況

意向調査の調査項目の状況

東日本大震災復興基本法(平成23年法律第76号)では、復興の基本理念の一つとして被災地域の住民の意向を尊重することとされている。そして、宮城県が定めた宮城県復興住宅計画では、地域コミュニティの維持を図るための取組の一つとして、きめ細かな住民に対する調査等により住民の意向を把握するとしており、岩手県においても多様な住民の意向や地域性に配慮した住まいづくりをすることとしている。また、福島県では、居住制限者向けの災害公営住宅の整備について、コミュニティが維持されるよう、住民に対する意向調査等を踏まえて実施することとしている(表2参照)。

このため、前記のように意向調査を実施しないまま、また、実施しても調査項目が住民の意向を把握するために十分でないまま基本的な計画を策定して災害公営住宅を整備すると、入居希望地区の偏りや整備計画戸数の過不足が発生したり、従前の地域コミュニティの維持等に十分配慮されなかったりするなどの事態が発生するおそれがあることから、意向調査の実施に際しては、必要な項目を網羅して適時適切に実施することが重要である。

整備計画の策定に当たって意向調査を実施していない事例を示すと次のとおりである。

<事例1>

A県B市は、応急仮設住宅の退去期限を目安に災害公営住宅を整備することとして、整備を計画していた公営住宅のうち、既に用地取得や基本設計が終わっているなどしていて早急に整備可能な団地を一般の公営住宅から災害公営住宅に変更することとしていた。そして、B市は、整備計画戸数を算定する際に被災者への意向調査等を行うことなく、平成25年度以降に建設する計画であった公営住宅を災害公営住宅として建設することとして、24年度に実施設計を行い、25年度に建設工事に着手している。このため、災害公営住宅は26年度に完成予定となっているが、B市では、完成後、入居募集の結果応募者が多数であった場合には既存の公営住宅の空家を活用するなどとしていた。

しかし、従前の居住地と異なる地区に災害公営住宅が建設されるため、被災者が入居を希望するか否かは不明であり、災害公営住宅が完成しても入居希望者が少なく空家が生ずるおそれや、逆に希望者が多い場合には、B市内の既存の公営住宅では被災者以外の入居希望者が多く空家の発生戸数が少ない状況であるため被災者が入居できないおそれがある。

なお、B市は、建設工事の契約直前に、応急仮設住宅の入居者を対象に入居希望の有無について意向調査を実施しているが、同市内で被災して応急仮設住宅に入居している者以外の被災者を対象としていないため、整備計画戸数の適否の検証には至っていない。

一方、意向調査を複数回実施してその結果により災害公営住宅の整備計画戸数等を見直した事例を示すと次のとおりである。

<参考事例1>

長野県下水内郡栄村は、基本計画や実施設計の段階である平成23年6月に意向調査を実施するなどして、整備計画戸数を31戸と決定して23年12月に住宅供給公社と買取りに係る協定を締結した。その後、24年2月に住民に対して、再度、災害公営住宅への入居の意思を個別訪問により確認して、その結果に基づいて整備計画戸数を28戸に変更しており、戸数の過不足を生ずることなく整備が行われていた。

災害公営住宅の整備に当たっては、意向調査等を適時適切に実施して住民の意向の変化を的確に把握して、これに基づいて整備計画戸数を見直していくことが重要である。

オ 国土交通省による支援

国土交通省は、事業主体に対する支援の一環として、人的体制等が必ずしも整っていない東北3県の管内市町村における災害公営住宅の計画・供給手法に係る検討業務(以下「直轄調査」という。)を、表6のとおり、23、24両年度に契約金額計3億0871万余円で委託して実施している。直轄調査では、各市町村の地域特性や居住者等の住宅に対する意向等を踏まえた整備計画等の策定支援、意向調査を実施していない市町村における意向調査の実施支援等を行っており、同省は、直轄調査の報告書を調査対象の市町村等に配布しているほか、25年度も直轄調査を実施することとしている。

そして、調査の対象となった市町村等においては、直轄調査の成果について、意向調査の実施、災害公営住宅の整備地区の選定、整備計画戸数の算定等整備計画の策定等に活用している。

今後、市町村等における直轄調査の成果の活用状況に留意しながら、必要に応じて、直轄調査により事業主体を支援していくことが重要である。

表6 国土交通省による直轄調査の契約及び対象市町村

県名 平成23年度 24年度
契約名 対象市町村 契約名 対象市町村
市町
村数
市町村名 市町
村数
市町村名
岩手県 岩手県(北部)等における災害公営住宅の計画・供給手法に係る検討業務 5 宮古市山田町、岩泉町、田野畑村、野田村 岩手県等における災害公営住宅の供給を推進するための計画に係る検討業務 7 宮古市山田町大船渡市陸前高田市釜石市大槌町、一関市
岩手県(南部)等における災害公営住宅の計画・供給手法に係る検討業務 4 大船渡市陸前高田市釜石市大槌町
宮城県 宮城県(北部)等における災害公営住宅の計画・供給手法に係る検討業務 9 気仙沼市南三陸町、石巻市、女川町、東松島市松島町塩竈市、大崎市、登米市 宮城県等における災害公営住宅の供給を推進するための計画に係る検討業務 11 気仙沼市南三陸町東松島市松島町塩竈市名取市岩沼市多賀城市亘理町山元町七ヶ浜町
宮城県(南部)等における災害公営住宅の計画・供給手法に係る検討業務 7 仙台市、名取市岩沼市多賀城市亘理町山元町七ヶ浜町
福島県 福島県(北部)等における災害公営住宅の計画・供給手法に係る検討業務 4 福島市、相馬市、南相馬市、新地町 福島県等における災害公営住宅の供給を推進するための計画に係る検討業務 10 南相馬市いわき市、白河市、楢葉町、須賀川市、桑折町、鏡石町、矢吹町、川俣町、飯舘村
福島県(南部)等における災害公営住宅の計画・供給手法に係る検討業務 3 いわき市、郡山市、広野町
(注)
市町村名のうち下線があるものは、平成23、24両年度に調査対象となっている市町である。

(2) 災害公営住宅整備の進捗状況等

ア 復興交付金等の交付状況

市町村等は、意向調査等を踏まえて災害公営住宅の整備に係る基本的な計画を策定するとともに、復興交付金事業計画等を提出して復興交付金等の交付を受けているが、それらの交付状況は次のとおりとなっている。

(ア) 23年度第1次補正予算による補助金の交付状況

23年度第1次補正予算による補助金の交付状況23年度第1次補正予算では、一般会計(組織)国土交通省(項)住宅対策事業費(目)公営住宅整備費等補助に、災害対応公共事業関係費の一部として災害公営住宅整備事業等に係る予算が計上されており、歳出予算額1115億8500万円に対する支出済歳出額は1億7343万円、翌年度繰越額は2億0978万余円、不用額は1112億0178万余円となっている。翌年度繰越額2億0978万余円のうち1億8369万余円は24年度に執行されており、23年度支出済歳出額1億7343万円と合わせた執行額計3億5712万余円は、全て災害公営住宅整備事業等に係る補助金(公営住宅整備費等補助)として、5事業主体に係る補助対象事業費計5億2730万余円に対して交付されている。

このように不用額が多額に上っているのは、第1次補正予算の成立時(23年5月)には応急仮設住宅の建設に重点を置かざるを得なかったこと、災害公営住宅の整備計画の検討に時間を要したことなどのため、災害公営住宅整備事業等の事業の執行ができなかったことに加えて、第3次補正予算において復興交付金制度が創設されたことから、多くの事業主体が補助率がより高い復興交付金により、災害公営住宅の整備を実施することとしたことによるものである。

(イ) 復興交付金の交付状況

25年6月末現在、23年度第3次補正予算及び24年度予算による第1回から第6回までの復興交付金として、計1兆6228億余円が市町村等に交付されているが、このうち災害公営住宅整備事業等に係る交付額(管内市町村分を含む。)についてみると、56事業主体のうち管内市町村の受託事業のみを実施している宮城県を除いた55事業主体に対して、25年度第2四半期までに事業着手を予定している17,302戸を対象として、復興交付金4130億9103万余円(交付対象事業費4726億9481万余円)が交付されている(市町村ごとの災害公営住宅整備事業等に係る復興交付金の年度別計上額は巻末別表2参照)。そして、上記55事業主体のうち54事業主体は復興交付金を財源に基金を造成しており、1事業主体は単年度事業により災害公営住宅の整備を実施している。また、工程表等における56事業主体の整備計画戸数25,067戸のうち、上記の17,302戸を除いた7,765戸(25年6月末現在の整備計画戸数に対する割合30.9%)については、事業着手を25年度第3四半期以降としている。

また、復興交付金を財源に基金を造成する場合、年度間の融通は可能であるが、復興交付金事業計画は、執行予定年度別に区分して交付対象事業費及び復興交付金の執行予定額を計上することとなっており、これらの執行予定額を年度別にみると、表7のとおり、東北3県以外では復興交付金の執行予定額の計上が25年度までとなっているが、東北3県では、被災規模及び事業規模が大きいことから事業に要する期間が長くなっており、26年度までの交付対象事業費及び復興交付金の執行予定額が計上されている。

表7 災害公営住宅整備事業等に係る年度別の復興交付金の執行予定額

(単位:百万円)
区分 交付対象事業費 復興交付金(国費)
県名\年度 平成
23年度
24年度 25年度 26年度 27年度 23年度 24年度 25年度 26年度 27年度


3
岩手県 2,202 44,593 47,224 48,815 - 142,836 1,926 39,016 41,311 42,713 - 124,969
宮城県 3,409 50,068 118,484 74,082 - 246,044 2,982 43,315 103,671 64,822 - 214,791
福島県 2,129 23,006 43,512 7,010 - 75,659 1,863 20,130 38,073 6,134 - 66,201
7,741 117,668 209,221 129,908 - 464,540 6,733 102,462 183,056 113,669 - 405,962




青森県 132 1,454 - - - 1,586 115 1,269 - - - 1,385
茨城県 104 1,131 3,668 - - 4,904 91 990 3,210 - - 4,291
千葉県 - 522 337 - - 860 - 457 295 - - 752
新潟県 - 92 - - - 92 - 77 - - - 77
長野県 - 711 - - - 711 - 622 - - - 622
236 3,912 4,006 - - 8,154 206 3,416 3,505 - - 7,128
合計 7,977 121,581 213,227 129,908 - 472,694 6,980 105,879 186,561 113,669 - 413,091
(注)
各県の交付対象事業費及び復興交付金の額は管内市町村分を含む。

イ 整備の進捗状況等

東北3県における災害公営住宅の整備計画戸数、完成予定年度等については、前記のとおり、工程表等が公表されていることから、その内容を分析するとともに、その他5県についても合わせて、災害公営住宅の整備の進捗状況等を把握し分析した。

(ア) 完成予定年度別の戸数

8県の56事業主体における災害公営住宅について、災害公営住宅を単独で整備する(以下「単独整備」という。)場合と面的整備を伴う場合とに区分して、完成予定年度別の整備計画戸数をみると、表8及び図4のとおりとなっている(市町村ごとの完成予定年度別の整備計画戸数は巻末別表3参照)。

表8 完成予定年度別の整備計画戸数

(単位:戸)
区分 単独整備 面的整備を伴うもの
県名\年度 平成
24年度
25年度 26年度 27年度 28年度 調整中 24年度 25年度 26年度 27年度 28年度
以降
調整中


3
岩手県 118 715 2,745 398 0 0 3,976 0 85 1,139 618 279 0 2,121
宮城県 50 1,176 4,254 1,393 0 0 6,873 0 600 1,461 2,783 0 3,725 8,569
福島県 0 156 1,472 438 0 87 2,153 80 372 503 0 0 30 985
168 2,047 8,471 2,229 0 87 13,002 80 1,057 3,103 3,401 279 3,755 11,675




青森県 60 7 0 0 0 0 67 0 0 0 0 0 0 0
茨城県 0 214 26 0 0 0 240 0 0 0 0 0 0 0
千葉県 0 49 0 0 0 0 49 0 0 0 0 0 0 0
新潟県 6 0 0 0 0 0 6 0 0 0 0 0 0 0
長野県 28 0 0 0 0 0 28 0 0 0 0 0 0 0
94 270 26 0 0 0 390 0 0 0 0 0 0 0
合計 262 2,317 8,497 2,229 0 87 13,392 80 1,057 3,103 3,401 279 3,755 11,675
累計 262 2,579 11,076 13,305 13,305 80 1,137 4,240 7,641 7,920
進捗率(%) 1.9 19.2 82.7 99.3 99.3 100.0 0.6 9.7 36.3 65.4 67.8 100.0
(単位:戸)
区分 単独整備と面的整備を伴うものとの計
県名\年度 24年度 25年度 26年度 27年度 28年度
以降
調整中 合計


3
岩手県 118 800 3,884 1,016 279 0 6,097
宮城県 50 1,776 5,715 4,176 0 3,725 15,442
福島県 80 528 1,975 438 0 117 3,138
248 3,104 11,574 5,630 279 3,842 24,677




青森県 60 7 0 0 0 0 67
茨城県 0 214 26 0 0 0 240
千葉県 0 49 0 0 0 0 49
新潟県 6 0 0 0 0 0 6
長野県 28 0 0 0 0 0 28
94 270 26 0 0 0 390
合計 342 3,374 11,600 5,630 279 3,842 25,067
累計 342 3,716 15,316 20,946 21,225
進捗率(%) 1.3 14.8 61.1 83.5 84.6 100.0 -
注(1)
各県の整備計画戸数は管内市町村の分を含む。
注(2)
「調整中」には、用地交渉中であったり、整備計画の策定中であったりしていて、現段階では完成予定時期が確定していないものを計上している。

図4 完成予定年度別の整備計画戸数の推移

完成予定年度別の整備計画戸数の推移
(注)
調整中の3,842戸については、整備計画戸数に含めていない。

災害公営住宅の整備の進捗状況については、以下のような問題点が見受けられた。

  • ① 用地交渉中であったり、整備計画の策定中であったりしていて25年6月末時点では完成予定時期が確定していない災害公営住宅が3,842戸と整備計画戸数25,067戸の15.3%を占めている。これについては、早期に完成させるために、関係者と協議するなどして早急に完成予定時期を確定する必要がある。

  • ② 応急仮設住宅の供与期間がほぼ3年となる25年度末でみると、完成予定の災害公営住宅は3,716戸と整備計画戸数25,067戸の14.8%にとどまっており、多数の被災者は、自力再建によらない限り3年を超える期間にわたって応急仮設住宅への入居を余儀なくされる見込みである。建設された仮設住宅は、基礎等が恒久的な住宅とは異なる構造であることから耐久性等も懸念される。

    一方、阪神淡路大震災における災害公営住宅の整備状況についてみると、震災から3年を経過した9年度末における災害公営住宅の完成戸数は9,476戸と全整備計画戸数25,421戸の37.2%となっていた。

    東日本大震災等における面的整備の実施地区は、表9のとおり、阪神淡路大震災等と比較して多くなっているが、これは、特に、津波により被災した地域において既存の住宅用地をそのまま利用することが困難であることから、地盤のかさ上げや高台への移転等が伴う防災集団移転促進事業等の実施地区が多いことによるものであり、このように地盤のかさ上げを実施する地区や集団移転先の地区の土地利用の決定に期間を要していることなどが、災害公営住宅の整備に時間を要している一因となっていると考えられる。

表9 東日本大震災等、阪神淡路大震災及び新潟県中越地震における面的整備の実施地区数

東日本大震災等
(平成25年6月末現在)
阪神淡路大震災 新潟県中越地震
土地区画整理事業 51地区
(事業認可を得た地区数)
20地区
防災集団移転促進事業 334地区
(工程表に基づく面整備事業
を行う地区数)
3地区
  • ③ 東日本大震災等における災害公営住宅の整備に関しては、上記のとおり、既存の住宅用地を利用することが困難な地区が多いことなどから、面的整備を伴うものが11,675戸と整備計画戸数25,067戸の46.5%を占めている。そして、単独整備と面的整備を伴う場合とを比較すると、25年度末までに完成予定の災害公営住宅は、単独整備は2,579戸(単独整備の整備計画戸数13,392戸の19.2%)、面的整備を伴う場合は1,137戸(面的整備を伴う場合の整備計画戸数11,675戸の9.7%)となっていて、面的整備を伴う場合はほとんど完成予定年度が26年度以降となっている。
(イ) 24年度末の進捗状況

24年度末現在における災害公営住宅の整備の進捗状況を、調書等から県別、整備方式別にみると、表10のとおりとなっていて、着工戸数、完成戸数はそれぞれ2,287戸、342戸と整備計画戸数25,067戸のそれぞれ9.1%、1.3%となっている。

表10 平成24年度末現在における災害公営住宅の完成戸数等の実績

(単位:百万円)
県名 整備方式 計画戸数
(戸)
着工戸数
(戸)
完成戸数
(戸)
復興交付金
交付対象事業
費(千円)
復興交付金等
充当額(千円)


3
岩手県 直接建設 4,327 231 20 680,682 595,593
UR建設譲渡 997 104 0 - -
買取 773 98 98 1,217,039 1,064,909
未定 0 0 0 - -
小計 6,097 433 118 1,897,721 1,660,502
宮城県 直接建設 4,771 681 30 993,001 849,129
UR建設譲渡 4,428 341 0 - -
買取 2,647 308 0 - -
民間借上 149 149 20 31,536 27,594
未定 3,447 0 0 - -
小計 15,442 1,479 50 1,024,537 876,723
福島県 直接建設 2,994 124 80 1,183,736 1,035,767
UR建設譲渡 77 30 0 - -
未定 67 0 0 - -
小計 3,138 154 80 1,183,736 1,035,767
24,677 2,066 248 4,105,996 3,572,992




青森県 直接建設 67 67 60 1,016,616 886,413
茨城県 直接建設 240 120 0 - -
千葉県 直接建設 49 0 0 - -
新潟県 直接建設 6 6 6 71,461 59,550
長野県 直接建設 28 28 28 592,398 518,348
390 221 94 1,680,476 1,464,311
合計 25,067 2,287 342 5,786,472 5,037,304
注(1)
着工戸数は、建設工事に着手した戸数である。
注(2)
複数の工期に分けて災害公営住宅を整備する場合があるため、復興交付金には完成していない災害公営住宅に係る分も含まれている。

24年度末現在の完成戸数342戸のうち262戸(76.6%)は単独整備によるものであり、面的整備を伴うものは80戸となっているが、これは相馬市がほぼ整地されている市有地等に1m程度の地盤のかさ上げを実施して災害公営住宅を建設したものであり、面的整備を伴う場合に通常必要とされる大規模な造成工事が必要でなかったことから、早期に完成できたものである。

(ウ) 整備が進捗していない背景

前記のとおり、東日本大震災等における災害公営住宅の整備においては、面的整備を伴う場合が多くなっているが、整備が進捗していない背景としては、用地取得の遅れが大きな要因と考えられることから、8県から徴した調書により用地取得が難航している理由を確認した。その結果、用地取得が難航しているため、災害公営住宅の整備が進捗していないとしていたのは、東北3県の17事業主体となっており、その理由の主なものは、表11のとおり、地権者の特定、境界確定、登記等に時間を要している(9事業主体)、地権者の合意が得られない(8事業主体)、応急仮設住宅の用地として使用されているなどのため適地が少ない(8事業主体)などとなっていた。

表11 用地取得が難航している理由

理由 事業主体数
地権者の特定、境界確定、登記等に時間を要している 9
地権者の合意が得られない 8
応急仮設住宅の用地として使用されているなどのため適地が少ない 8
売却額が折り合わない 6
他事業との調整に時間を要しているなど 4
(注)
事業主体により理由が複数ある場合があるため、事業主体数を合計しても上記の17事業主体にはならない。

このように、用地取得については様々な理由から難航しているが、民間会社が所有する土地を活用することなどにより、用地取得に要する時間が短縮でき早期に完成することができた事例を示すと次のとおりである。

<参考事例2>

岩手県釜石市は、災害公営住宅を計1,418戸整備する計画であり、県に198戸の整備を委託するほか、210戸については、地元の民間会社が同社の所有地に建設する住宅を買い取るとする買取方式を採用することとした。

そして、買取方式の採用により、用地の選定、建設工事等に係る業者選定等の期間の短縮ができたほか、直接建設方式に比べて建設工事発注等の業務に係る職員の負担を軽減することができたことから、210戸のうち第1期分の54戸は、平成24年度中に完成している。

ウ 整備の加速化に向けた国の取組状況

25年2月に、復興庁及び関係各省(総務省、法務省、文部科学省、農林水産省及び国土交通省)で組織される「住宅再建・復興まちづくりの加速化のためのタスクフォース」が設置され、住宅再建やまちづくり等の復興事業の加速化に向けて迅速かつ適切な対応を早期に実現するため、①用地取得の迅速化、②埋蔵文化財発掘調査の簡素化・迅速化、③人員不足対策(技術者・技能者の確保)、④資材不足対策(生コンクリート及び砂)、⑤発注者支援、⑥適正な契約価格等の各種課題に対する具体的な取組を取りまとめている。復興庁は、25年2月から6月までに、その具体的な取組を公表しており、前記の工程表もこの取組の一環として公表しているものである。

上記の具体的な取組として、総務省は全国の地方公共団体に対して職員の派遣要請を行うなどしている。また、国土交通省においても、用地取得が困難な土地がある防災集団移転促進事業について事業計画の柔軟な変更を可能にしたり、土地収用手続に関する研修を実施したり、複数地区の設計業務と工事を一括して発注し工期の短縮を図るコンストラクト・マネージメント方式(以下「CM方式」という。)を導入する方針を定めたりなどしている。

さらに、国土交通省においては、25年度の直轄調査として、面的整備を伴う地区において早期に災害公営住宅の整備を図る方策や工程又は完成予定時期が未確定の地区の解消に向けた検討等を行い、今後の事業化の促進及び的確な進行管理の実現を図ることとしている。

今後、国土交通省においては、前記のとおり整備が必ずしも進捗していないことを踏まえ、関係省庁と協力するなどして、整備の加速化に向けた取組を着実に実施していくことが重要である。


(3) 入居者の募集状況等

災害公営住宅を整備して、25年4月末までに完成して入居者の募集を行っているのは18地区349戸であり、入居者の募集状況及び入居戸数は、表12のとおり、8地区142戸では入居率が100%となっているが、全体では入居戸数は291戸、平均入居率は83.3%となっている。

表12 入居者の募集状況及び入居戸数(平成25年7月1日現在)

県名 市町村名 地区名 整備方式 整備状況 募集状況 入居戸数
(B)

(戸)
入居戸率
(B/A)

(戸)
戸数

(戸)
完成日 募集開始日 募集戸数
(A)
(戸)
応募戸数

(戸)


3
岩手県 大船渡市 買取 44 平成
24年12月3日
24年10月22日 44 24 24 54.5
大船渡 直接建設 12 25年3月21日 25年3月25日 12 40 12 100.0
釜石市 上中島 買取 54 25年3月27日 25年3月21日 54 134 54 100.0
野田村 門前小路 直接建設 8 25年3月25日 25年4月1日 8 7 7 87.5
宮城県 仙台市 北六番丁 直接建設 12 25年3月21日 24年12月21日 12 12 12 100.0
石巻市 根上り松 民間借上 20 25年3月19日 25年2月4日 20 30 19 95.0
山元町 新山下駅周辺 直接建設 18 25年3月25日 25年2月6日 18 18 18 100.0
福島県 相馬市 馬場野山田 直接建設 12 24年8月8日 24年7月15日 12 7 7 58.3
程田明神前 直接建設 46 25年3月25日 24年7月6日 46 46 45 97.8
南戸崎 直接建設 10 25年3月25日 24年7月6日 10 6 6 60.0
狐穴 直接建設 12 25年3月25日 24年7月6日 12 10 9 75.0
- 248 - - 248 334 213 85.8




青森県 八戸市 白山台 直接建設 12 25年3月25日 24年10月1日 12 7 5 41.6
多賀台 直接建設 26 25年3月19日 24年10月1日 26 13 11 42.3
直接建設 17 25年3月25日 24年10月1日 17 22 16 94.1
白銀 直接建設 7 25年4月26日 24年10月1日 7 9 7 100.0
おいらせ町 苗平谷地 直接建設 5 25年3月13日 24年11月5日 5 7 5 100.0
新潟県 十日町市 松之山 直接建設 6 25年3月25日 25年2月14日 6 6 6 100.0
長野県 栄町 青倉他 買取 28 24年11月26日 24年8月3日 28 28 28 100.0
- 101 - - 101 92 78 77.2
合計 - 349 - - 349 426 291 83.3
(注)
平成25年4月1日以降に完成している災害公営住宅が含まれているため、表10の完成戸数の合計とは一致しない。

上記18地区のうち4地区については、表12のとおり、入居率が41.6%から58.3%となっており、応募戸数が募集戸数を大幅に下回っている。その要因としては、意向調査実施時には募集戸数を上回る希望があったが、応急仮設住宅の退去期限になっていないので応募を見合わせていたり、時間の経過と共に被災者の意向が変わったりするなどやむを得ない面もあるが、入居予定戸数に自力再建を予定している者が含まれているなど意向調査の方法に問題が見受けられたり、既存の建物の買取りに際して、エレベータが設置されていないなど入居者の利便性への配慮が必ずしも十分でなかったりするなどの事態も見受けられた。

また、当初の応募戸数が少なかったため、入居対象者を当該事業主体の区域外に拡大するなど募集要件を見直すことにより入居希望者が増加したものも見受けられた。募集戸数に対して入居戸数が下回った事例を示すと、次のとおりである。

<事例2>

C県D市は、2回実施した意向調査を基に災害公営住宅を建設しており、市内に居住している被災者を対象として入居募集を行って、募集要件に合致した世帯を入居内定者としたが、その数は募集戸数を下回っていた。その後、募集要件を災害公営住宅の入居資格を有する全ての被災者とすることとしたことから新たな応募があったものの、入居内定者の一部が入居を辞退したため、平成25年7月1日現在の入居者(内定者含む。)は募集戸数を相当程度下回ったままとなっている。

D市の説明によると、意向調査実施後に自力再建した者、応急仮設住宅(雇用促進住宅、県営住宅等)への入居期間の延長により様子を見ている者等が続出したため、意向調査の結果と募集状況とにかい離が生じたとしているが、意向調査実施時点において既に自力再建していた者を入居希望者に含めているなど意向調査の方法にも問題が見受けられた。

事業主体は、被災者の意向の変化を可能な限り適時適切に把握するなどして、必要に応じて整備計画、整備内容等も弾力的に見直していく必要がある。そして、募集の結果入居率が悪い場合には、他の市町村等の取組状況も参考にして適切に募集要件を見直すなど入居率の改善に努める必要がある。

また、先行して整備される地区の入居状況等を踏まえて、今後整備していく災害公営住宅に係る整備計画、整備内容等について継続的に見直していく必要がある。さらに、災害発生後3年(東日本大震災等の場合は26年3月)が経過した後は、災害公営住宅に空家が生じた場合、被災者に限らず入居が可能となることから、被災者以外の者を入居させて空家を解消することが可能となるが、前記のとおり災害公営住宅の整備には一般の公営住宅より高い補助率により復興交付金等が交付され整備されることなどを十分勘案して、入居希望者の意向を適時適切に把握した上で災害公営住宅を整備するなど、空家が生じないような取組を行っていくことが重要である。