日本年金機構(以下「機構」という。)は、厚生労働大臣から権限の委任及び事務の委託を受けて、偽りその他不正の手段により年金の給付を受けた不正受給者等からの徴収金等について発生する債権(以下「徴収金等債権」という。)に係る事務処理を行っている。しかし、不正受給の疑いのある事案(以下「不正受給疑い事案」という。)について、徴収金等債権の確定等が行われていなかったり、徴収金等債権の確定等は行われていたものの、その事務処理が遅延したりしていたことから、徴収金等債権の一部が時効により消滅し返還請求することができなくなっている事態が見受けられた。
したがって、厚生労働省及び機構において、不正受給疑い事案のうち徴収金等債権の確定等が行われていないものについて速やかに事務処理を行い、また、機構において、厚生労働省と連携して不正受給疑い事案の進捗管理を適切に行うなどして、不正受給疑い事案に係る事務処理の円滑な実施に向けてより一層の体制整備を図るとともに、厚生労働省において、機構における不正受給疑い事案の処理状況を適切に把握して、必要に応じて指導を行うことなどにより、今後の徴収金等債権に係る事務処理を適切かつ迅速に実施するよう、厚生労働大臣及び日本年金機構理事長に対して平成25年10月に、会計検査院法第34条の規定により是正の処置を要求し及び是正改善の処置を求めた。
本院は、厚生労働本省及び機構本部において、その後の処置状況について会計実地検査を行った。
検査の結果、厚生労働省及び機構は、本院指摘の趣旨に沿い、不正受給疑い事案のうち徴収金等債権の確定等が行われていないものについて徴収金等債権の確定等の事務処理を行うとともに、次のような処置を講じていた。
ア 機構は、25年10月から機構本部において不正受給疑い事案の進捗状況等の確認を定期的に行ったり、26年4月から不正受給疑い事案に係る事務処理の状況を機構本部から厚生労働本省に毎月報告したりすることとし、これに伴い、25年10月に年金事務所の業務を支援するために設置されている9ブロック本部において不正受給疑い事案の担当者を明確に定め、26年4月に機構本部及びブロック本部における担当者の増員を行うとともに、同年2月に厚生労働省と連携してブロック本部及び年金事務所の担当者を対象とした説明会を実施したり、同年8月に年金給付費を不正に受給した者に関する対応について定めた手引の改訂を行ったりして、不正受給疑い事案に係る事務処理の円滑な実施に向けた体制整備を図った。
イ 厚生労働省は、機構からアの報告を受けて機構における不正受給疑い事案の処理状況を把握した上で、必要に応じて機構に対して指導を行うこととした。