会計検査院は、平成26年6月9日、参議院から、国会法第105条の規定に基づき下記事項について会計検査を行いその結果を報告することを求める要請を受けた。これに対し同月10日検査官会議において、会計検査院法第30条の3の規定により検査を実施してその検査の結果を報告することを決定した。
一、会計検査及びその結果の報告を求める事項
総務省、厚生労働省、日本年金機構
年金記録問題に関する日本年金機構等の取組に関する次の各事項
9年1月から各年金制度間で共通に使用する基礎年金番号が導入され、年金記録(氏名、性別、生年月日、被保険者期間、保険料の納付等の記録)は基礎年金番号により管理されることとなった。
そして、18年以降、社会保険庁における社会保険オンラインシステム上の年金記録(以下「オンライン記録」という。)に、基礎年金番号に統合されていないものや内容に誤りがあるものがあることが大きな社会問題となったことから、19年度以降、社会保険庁は年金記録問題に関する各種取組を進めた。
その後、社会保険庁は22年1月1日に廃止されたことから、厚生労働省は、厚生年金保険事業等に関する事務の一部を、日本年金機構(以下「機構」という。)に委任又は委託し、機構は、同省の監督の下に、当該委任又は委託された業務を実施している。
年金記録問題への対応について、機構は、22年度から25年度までの4年間を実施期間とする「年金記録問題への対応の実施計画(工程表)」を定め、社会保険庁が行っていた取組を引き継いで実施してきている。
また、国は、年金記録が訂正されるなどした年金受給者等を特例的に救済するなどのために、関係法令の整備を行うなどしている。
本院は、これまで、年金記録問題に係る検査を実施しており、その検査結果を意見を表示し又は処置を要求した事項等として検査報告に掲記するなどしている。
本院は、年金記録問題に関する日本年金機構等の取組に関する各事項について、合規性、経済性、効率性、有効性等の観点から、次のような着眼点により検査を実施した。
ア 機構における基礎年金番号に統合されていないオンライン記録(以下「未統合記録」という。)を基礎年金番号に統合するための取組等は適切に実施されているか、その進捗状況はどのようになっているか、年金受給者等に対する特例的救済施策への取組はどのようになっているか。
イ 年金記録の回復による年金回復額はどのようになっているか。
ウ 機構の内部統制システムは適切に整備されて、機能しているか、事務処理誤りへの対応は適切になされて、再発防止策が講じられているか。
そして、年金記録問題への取組状況全般を対象として、総務本省、厚生労働本省、機構本部、8ブロック本部、18事務センター、142年金事務所、1業務委託先において、計351.0人日を要して会計実地検査を行った。検査に当たっては、各種資料等の内容を精査、分析するとともに、担当者から説明を聴取するなどした。
社会保険庁は、未統合記録の解明等のために年金受給者や被保険者等に対して、各種便を送付していたが、機構も引き続き「ねんきん定期便」を送付するなどしていた。そして、回答を求める必要がある各種便の回答状況をみると、25年4月末現在で、平均して送付した者の約4分の1からは回答がない状況となっていた。また、「ねんきん特別便(名寄せ便)」の未回答者等に対するフォローアップ照会は、同月末までに、その処理を終えていた。
既に基礎年金番号に結び付いている約2.5億件のオンライン記録等について、電子画像化された約9.5億件の紙台帳等と突合せを行うこととして、紙台帳検索システムが構築され、機構の記録突合センター29か所で5事業者に委託するなどして22年10月から突合せが開始された。この突合せ業務は、25年12月までに終了し、委託事業者に支払った金額は1278億余円となっていた。
その進捗状況についてみると、26年3月末現在で突合せ審査対象者約8123万人のうち、機構職員による審査まで終了したものは約8122万人、紙台帳等とオンライン記録が不一致となったものは約324万人となっていた。
そして、紙台帳検索システムにより、約9.5億件の紙台帳等の画像データを各年金事務所でも確認できることになったことから、機構は、各年金事務所で年金受給者等から年金記録の確認の申出があった場合等において紙台帳検索システムを活用して年金記録の調査を行うことができるように統一的調査手順の構築を図り、25年1月から実施している。
その他の年金記録問題への取組として、厚生年金保険の被保険者等の年金記録と厚生年金基金記録との突合せ、総務大臣のあっせん等による処理、厚生年金保険の標準報酬等の遡及訂正に係る処理及び国民年金の特殊台帳とオンライン記録との突合せにより、年金記録の回復が行われていた。
厚生労働省は、未統合記録約5095万件の状況について、26年3月末時点で、基礎年金番号に統合済み又は一定の解明がなされた年金記録約3012万件を「解明された記録」として、ねんきん特別便等を送付したものの未回答となっているなどの年金記録約2083万件を「解明作業中又はなお解明を要する記録」として整理している。このうち、「解明された記録」には、「死亡者に関連する記録」約689万件(未統合記録のうちの13.5%)が含まれているが、この記録には、遺族からの年金記録確認の照会等があれば、今後の年金受給に結び付く可能性があるものも含まれていると認められる。
そして、「公的年金制度の財政基盤及び最低保障機能の強化等のための国民年金法等の一部を改正する法律」(平成24年法律第62号)が成立し、27年10月から、年金受給資格期間を現在の25年から10年に短縮することが予定されていること、「解明作業中又はなお解明を要する記録」は年金加入期間が25年未満の年金記録の割合が高くなっていることなどから、厚生労働省及び機構においては、短期間の年金記録等であっても引き続き未統合記録の解明を進める必要があると認められる。
機構は、厚生年金保険の保険給付及び国民年金の給付に係る時効の特例等に関する法律(平成19年法律第111号。以下「年金時効特例法」という。)に基づき支給される消滅時効が完成した年金(時効特例給付)の事務処理において、一部に不統一・不公平が生じたことが判明したため、25年4月以降、これまでに処理した時効特例給付の全件(約349万件)を対象に検証を行った。その結果、追加支給が必要となったものは26年3月末時点で1,164件(約8.5億円)となっており、このうち1,135件(約8.2億円)の支給が同時点で完了していた。
そして、再発防止策として、機構は、25年10月に、実務に当たっての具体例を示すなどした事務処理基準を定めて関係部署に周知徹底するとともに、疑義照会の方法の明確化及び審査体制の改善を図るなどしていた。
厚生年金保険の保険給付及び保険料の納付の特例等に関する法律(平成19年法律第131号。以下「厚生年金特例法」という。)には、被保険者から被保険者が負担すべき厚生年金保険料を源泉控除していたにもかかわらず、当該保険料を納付する義務を履行したことが明らかでない事業主等に対して、未納の厚生年金保険料に相当する額に所定額を加算した額である特例納付保険料の納付勧奨を行うことなどが規定されている。
厚生年金特例法の運用について検査したところ、199年金事務所において、事業主等に対する特例納付保険料の納付勧奨が厚生年金特例法業務処理マニュアル(以下「マニュアル」という。)等に定められた所定の回数行われていないなどしている事態が見受けられた。
上記の事態に関して、本院は、26年10月30日に厚生労働大臣及び機構理事長に対して、会計検査院法第34条の規定により、機構において事業主等に対する特例納付保険料の納付勧奨等をマニュアル等に従って適切に行っていなかったものについて、マニュアル等に定められた処理を完結させるよう是正の処置を要求するとともに、厚生年金特例法の運用が適切に行われるよう、次のとおり、是正改善の処置を求めた(前掲意見を表示し又は処置を要求した事項 2か所参照 リンク 13章1節第9意(2)、23章2節第18意(1))。
また、厚生労働省は、厚生年金特例法に基づき国が取得する請求権の内容、消滅時効等の取扱いが不明確であるなどの問題があるなどとして、厚生年金特例法の施行から6年以上が経過しているのに請求権の取扱いを定めていなかった。このため、同省は、請求権を取得しているにもかかわらず、その行使等ができていない状況となっていた。
国民年金の第3号被保険者について、オンライン記録と実態に不整合が生じている事案が多数あることが明らかとなり、この第3号被保険者の年金記録不整合問題に対して、機構は、「国民年金及び企業年金等による高齢期における所得の確保を支援するための国民年金法等の一部を改正する法律」(平成23年法律第93号)を踏まえるなどして、不整合が生じている者について第3号被保険者から第1号被保険者に資格を切り替える処理(以下「種別変更の処理」という。)を行うなどしている。
その処理状況等について検査したところ、不整合が生じている者のうち、オンライン記録上の現住所から転出している者については、転出元の年金事務所が転出先の年金事務所に種別変更の処理を引き継ぐこととされているのに引き継いでいなかったり、引き継いだものの転出先の年金事務所が種別変更の処理を行っていなかったりしている事態が見受けられた。
上記の事態に関して、本院は、26年10月30日に厚生労働大臣及び機構理事長に対して、会計検査院法第34条の規定により、種別変更の処理が適切に行われるよう、次のとおり、是正改善の処置を求めた(前掲意見を表示し又は処置を要求した事項 2か所参照 リンク 13章1節第9意(6)、23章2節第18意(2))。
また、機構において、国家公務員共済組合等の短期組合員に係る情報等がないため、真に不整合期間を有する者であることを確認し、適切に種別変更の処理を行うことができない状況となっていた。その後、「公的年金制度の健全性及び信頼性の確保のための厚生年金保険法等の一部を改正する法律」(平成25年法律第63号。以下「年金健全化法」という。)による国民年金法(昭和34年法律第141号)の改正により、機構は25年7月から共済組合又は健康保険組合に対して必要な資料の提供を求めることができるようになったが、機構は、同法に基づきその提供を求めていなかった。
機構は、現在、健康保険等の被扶養配偶者情報の提供を受けられるよう、共済組合及び健康保険組合と協議を続けているとしている。しかし、これらの協議がまとまらず、健康保険等の被扶養配偶者情報の提供を十分に受けられない場合には、不整合期間を有する者と他の被保険者との不公平等が今後も解消されないこととなるおそれがある。
機構は、被保険者等からの年金記録に関する相談等に対応する年金相談業務を年金事務所、コールセンター等において自ら又は委託により実施している。そして、自らが行う年金相談業務の体制については26年度当初までに中核部分は正規職員等で対応する体制の構築に取り組んでいたり、「ねんきんダイヤル」等の電話相談においてコール数に応じて設置席数を増加させたりなどしていて、年金相談業務の改善に向けた取組を行っていた。
しかし、15年金事務所において、年金相談業務の中核部分を正規職員等で対応する体制が十分に確保されていないなどの状況となっていた
「ねんきんネット」は、機構のホームページを通じ被保険者等の側から容易に年金記録を確認できる仕組みとして徐々にその機能を拡充して、利用の増大が図られており、ユーザーID発行件数は25年度末現在で計約280.4万件となっていた。
また、市区町村と連携した市区町村窓口による「ねんきんネット」の利用は全市区町村の56.8%の989市区町村の実施にとどまっており、26年3月の1市区町村当たりの照会件数は5.9件となっていた。
機構は、25年1月から26年3月までの間、「気になる年金記録、再確認キャンペーン」を実施し、被保険者等に年金記録の自主点検を促していた。
また、機構は、年金記録回復事例のうち年金の増加金額が大きい1,000事例を公表しており、これによれば、年金相談を契機として回復したものが全体の27.2%とされており、年金受給者等からの申出が年金記録の回復のために有効であることがうかがえる。
機構が22年1月1日から26年3月31日までの間に年金記録問題への取組のために支払を行った契約は、契約件数計462件及び支出済額計1444億0537万余円となっていた。
機構は、中期計画等で、事業運営の効率化の取組の一つとして、契約の競争性の確保等を徹底することとしており、22年1月から26年3月までの第1期中期計画期間で、競争入札の割合について80%以上の水準を確保することを目指すこととしている。
その状況について検査したところ、契約全体の競争入札の割合は63.7%となっているのに対し、年金記録問題への取組のための契約の競争入札の割合は、22年度に総合評価方式で契約した紙台帳等とオンライン記録との突合せ業務委託について、23年度以降も同じ契約相手方に随意契約により業務を委託したことなどにより、33.8%となっていた。
機構における年金記録問題への取組に当たっては、正規職員を増員することなく、有期雇用職員の定員数を増加させることにより対応していた。また、多くの正規職員が年金記録問題に従事したため、これを補充するための有期雇用職員も配置されていた。
そして、機構は、25年度までに年金記録問題への取組の主要部分を終了させるために、各部署の長が職員の能力・適性や業務の状況を総合的に勘案して、専門的知識や経験を有していて指導的役割を果たすことができる正規職員を年金記録問題を専門に担当する部署に配置したり、各担当部署の年金記録問題への取組の進捗状況に応じて職員を異動させたり、年度の中途で有期雇用職員の増員を行ったりするなどしていた。
25年3月に厚生労働省に設置された「年金記録問題に関する特別委員会」(以下「特別委員会」という。)の報告書等によると、年金記録問題発生以降、厚生労働省及び機構が支出した対策経費は3873億余円となっており、最も支出額が多いものは「紙台帳とコンピュータ記録の突合せ関係」の1891億余円となっている。
上記の対策経費には、①総務省の一般会計から支出した年金記録確認第三者委員会(以下「第三者委員会」という。)の経費(常勤職員の人件費を除く。)等の年金特別会計の業務勘定からの支出でない経費、②年金記録問題対策として予算措置されていない機構の正規職員の人件費、③年金記録問題対策に従事した割合が不明な厚生労働省の職員の人件費等及び④このほか、①、③のいずれにも整理できる第三者委員会事務室の常勤職員の人件費の計764億余円が計上されていなかった。
しかし、これらの経費も整理次第で年金記録問題対策に関する経費として計上する余地はあったと思料される。
第三者委員会は、年金記録に係る確認の申立てについて、第三者的な立場から客観的かつ公正な判断を示すことを任務として、19年6月、総務省に設置された。
そして、年金事務所等からの転送件数は22年度をピークに減少傾向にあるものの、近年の申立ての大部分は厚生年金に関するものとなっていた。
年金記録に係る確認の申立てに関する多数の具体的な調査等を行う第三者委員会の地方委員会における事務室の職員数の見直しについてみたところ、職員1人当たりの処理件数の24年度の数値は、それまでの数値と比べて半分以下となっており、同年度は処理件数の減少に応じた人員体制となっていなかったか、又は特別な事情があった可能性がある。しかし、24年度以降地方委員会の体制の見直しの検討を行うなどしており、25年度の職員1人当たりの処理件数が増加していることから、業務量を踏まえた人員体制とすることに努めてきていることがうかがえる。
また、「政府管掌年金事業等の運営の改善のための国民年金法等の一部を改正する法律」(平成26年法律第64号。以下「年金事業改善法」という。)の施行により、27年3月以降、年金個人情報について、厚生労働大臣(地方厚生局長等)による訂正手続が整備されることから、第三者委員会は廃止する予定となっている。そして、第三者委員会で蓄積したノウハウや第三者委員会に転送された処理中の案件を厚生労働省に円滑に引き継ぐなどするための具体的な方法等について、現在、総務省及び厚生労働省において検討を進めているとしている。
特別委員会の報告書等によれば、25年度末で未統合記録約5095万件のうち約1771万件が基礎年金番号に統合され、また、25年度末現在で年金記録の訂正により年金額が回復した人数は、延べ約324万人、年金回復額は、年間の年金額で約1081億円、生涯受給額で約2.2兆円とされている。
1件当たりの年金額(年間)の増額分等は、20年以降、減少を続けており、これは、年金額の増額が大きなものから処理が進んでいることなどが要因と考えられる。そして、年金記録問題への対応の集中処理期間が終了し、26年度以降は、回復件数の減少が見込まれる。
また、前記の年金記録回復事例のうち年金の増加金額が大きい1,000事例をみると、増加総額が1000万円以上のものが計867件となるなどしていて、個人ごとにみれば年金受給者の生活に大きな影響を与える事例があったことがうかがえる。
年金記録を訂正すると既に受給している年金額の減額が見込まれるなどのケースについては、国の年金記録が正しいかどうかは最終的には本人しか判断できないことなどから、本人からの再裁定の請求がなければ、一部の例外を除き記録訂正及び再裁定は行わないことにしており、相当数の者がその対象となっていると思料される。
機構は、19年6月に総務省に設置された年金記録問題検証委員会において指摘された事項等を踏まえ、「コンプライアンス確保」、「業務運営における適切なリスク管理」等の7つの方針を柱とした「内部統制システムの構築の取組方針」等を定め、これに基づき、内部統制システムを構築している。
年金記録問題は、一部の本人側の事情によるケースを除けば、事務処理誤りの問題と考えられるため、これを早期に把握して改善を図るとともに、その拡大と再発を防止するための内部統制システムが有効に機能することが重要である。
機構は、「事務処理誤り総合再発防止策」を策定するなどし、事務処理誤りの再発防止に取り組んでいるが、機構設立後に発生した事務処理誤りの件数が、機構の取組に応じて減少しているという傾向は確認できなかった。
事務処理誤りのうち、未処理・処理遅延については、未処理や処理遅延とする期間の目安がなく、被保険者等からの問い合わせがあったときに初めて事務処理誤りとして取り扱う場合があったため、未処理等が生じていても被保険者等からの問い合わせがほとんどない厚生年金特例法の納付勧奨の手続等については、その多くを事務処理誤りとして取り扱っていなかった。
事務処理誤りのうち、過払いについては、5年の消滅時効が完成した場合には、その返還請求ができない。そこで、機構が25年度に公表した事務処理誤りによる過払い23事案の状況をみると、要返還額2億1287万余円のうち1億3115万余円が時効により消滅していた。また、過払いが明らかになった場合には、納入告知等の処理を行って時効を中断する必要があるが、機構が原則としている処理期間内に所定の処理が完了していないものも多数見受けられた。
さらに、リスクアセスメント調査の「リスク発生による影響度」の評価指標には、機構が公表している事務処理誤りの影響金額の平均値が活用されているが、影響金額には時効消滅額が含まれておらず、リスクが適切に評価等されていなかった。
監事監査は、厚生労働大臣が任命した監事2人と直属の監事室の職員4人の計6人体制で実施しており、21年度から25年度までの間の監査実績は延べ537人日で、これまで監査報告書において指摘された事項はない。
また、内部監査は、理事長直属の監査部が103人体制で一般監査、特別監査等を実施しており、21年度から25年度までの間の監査実績は延べ18,868人日で、指摘項目数は19,554件となっていた。
そして、前記の厚生年金特例法の運用における未処理・処理遅延については、内部監査において指摘されているものもあるが、その件数が少なかったことから、本部関連部署等に対する改善提言が行われず、また、職員に対して監査結果を適切に周知するための取組が十分でなかったことから、事態の拡大を防止することができなかった。
前記の時効特例給付の事務処理において、不統一や不公平が生じたことについて、厚生労働省年金局は、年金行政を担う組織運営の在り方を検討し、年金局の事業部門の業務体制の見直し、厚生労働省と機構との間の業務分担及び連携等に関する各種の対策を報告に取りまとめ、これを推進している。
また、厚生労働省及び機構は、市区町村や共済組合等と連携して、年金記録問題の解決等に取り組んでおり、近年は、第3号被保険者の年金記録不整合問題の解消のため、共済組合等に対して、健康保険の被扶養配偶者情報の提供を受けるための協議を続けるなどしている。
機構は、年金記録問題の再発を防止等するためには、恒常的に本人が自身の年金記録を確認するなどの仕組みの構築が重要であることから、「ねんきん定期便」及び「ねんきんネット」の充実に努めているとしている。
年金記録問題については、厚生労働省及び機構は25年度を集中処理の最終年度として各種の取組を実施するなどしてきたところである。
そして、機構の26年度からの中期目標及び中期計画によれば、26年度以降も、厚生労働省の監督の下、「年金記録の正確な管理と年金記録問題の再発防止のための対応」として各種取組を実施することとされているが、被保険者等からの申出等に対する適切な対応が中心となるなど、その内容は変化している。また、集中処理期間が終了したことを踏まえて年金記録問題対策の経費は縮減され、機構は年金記録問題への対応に係る体制の変更を行っている。さらに、年金記録訂正手続の仕組みが創設されることとなっている。
以上のような状況を踏まえて、今後、年金記録問題への取組を行うに当たっては、次の点に留意しつつ、適切かつ効果的に行うよう努める必要がある。
厚生労働省等はこれまでに各種便の送付等の取組を実施してきた。これらの取組においては、各種便の未送達の者に対して再送付したり、業務の効率化に向けた対応を執ったりなどしていて、各種取組の効果がより発現するよう努力をしていた。
引き続き、これまでの年金記録問題に対応するための各種取組の実施状況を踏まえた上で、厚生労働省と機構が連携するなどして次の事項を実施することにより、年金記録問題の解決に取り組む必要がある。
(ア) 現在も約2083万件の解明作業中等の年金記録等があり、これらの中には年金記録が回復する可能性のある記録等が含まれている。こうしたことなどを踏まえ、効果的な取組について検討した上で、引き続きその解明に当たること
(イ) 年金記録の解明に当たっては裁定時主義の考え方ではなく、解明に向けた働きかけを積極的に行うことが重要であるという認識を持つとともに、機構に対して、これを徹底させること
(ウ) 必要に応じて関係機関等と協議するなどして、厚生年金特例法に基づき国が取得する請求権の取扱いに係る問題の検討を進め、請求権の行使等ができていない状況の改善を図ること
(エ) 年金事業改善法の施行により年金記録訂正手続の仕組みの創設が予定されているが、その経緯等を踏まえて、年金記録の正確性確保に資するために必要な体制整備等を着実に行うこと
(ア) 「ねんきん定期便」等により、被保険者等の本人に年金記録を確認してもらい、記録の漏れや誤りを申し出てもらうことは、年金記録問題の解決のための有効な手段の一つであることから、これを引き続き実施するとともに、これまでに発送した各種便の未回答者に対しては、「ねんきん定期便」においてその回答を促すなどの方策を検討すること
(イ) 紙台帳検索システムの構築により紙台帳等の電子画像を各年金事務所等で瞬時に確認することができるようになっている。これが年金記録の確認において有効に機能するよう、その統一的調査手順の更なる浸透、定着に努めること
(ウ) 未統合記録の解明に当たっては、年金制度に対する国民の信頼の回復を図るため、責任と自覚を十分にもって引き続きその解明に当たること。その際、未統合記録で「解明された記録」の中には遺族からの申出により年金記録が回復する可能性がある記録が含まれていることなどを踏まえて、国民に対する十分な働きかけを行うこと
(エ) 年金時効特例法等の特例的救済施策の実施においては、実施部署間での業務処理の不統一・不公平が生ずることなどがないよう、再発防止の取組を行うなどして適切な事務処理を行うこと
(オ) 第3号被保険者の年金記録不整合問題を効率的に解消するためには、共済組合等の協力を得て、共済組合等から必要な情報の提供を受けることが重要であること、また、年金健全化法により国民年金法が改正されたことなどを踏まえ、各共済組合等との協議をより一層推進して、できるだけ早期に必要な情報の提供を受けるとともに当該情報を活用して第3号被保険者の年金記録不整合問題を効率的に解消するための取組を行うこと
(カ) 年金相談業務において、その中核部分については正規職員等による対応を強化したり、電話相談業務においてコール数に応じて設置席数を増加させたりして、その効率化に向けた取組を行っているものの、十分な対応ができていない事態が見受けられている。このため、その改善に向けた取組を着実に進めていくこと
(キ) 「ねんきんネット」は、被保険者等が自らの年金記録等をいつでも閲覧できるものであり、年金記録の正確性と年金業務の効率化等に資するものであることから、情報の正確性を確保しつつ、広報活動や利用者の意向を踏まえた改修を行うなどして、より一層の活用とそれによる年金業務の効率化を計画的に推進するよう努めること
(ク) 年金記録問題への対応のために必要となる契約の締結に当たっては、中期計画等に沿って、業務運営の効率化のため、契約の競争性及び透明性の確保並びにコストの削減を図ることを徹底すること
(ケ) 集中処理期間の終了に伴う体制の変更後も年金記録問題に係る被保険者等への対応に支障が生じないよう、機動的な組織体制の構築に努めること
(ア) 第三者委員会が設立された経緯等を踏まえ、また、年金記録に係る確認の申立てのうち厚生年金に関するものは、今後も一定数の申立てがある可能性があることを踏まえ、引き続き、年金記録に係る確認の申立てに対する調査審議を適切に行うこと
(イ) 年金記録に係る確認の申立てが第三者委員会に転送される件数は第三者委員会が設置された当初に比べて近年は低減していることなどから、業務量を踏まえた人員体制にすることに努めてきているが、国民年金法又は厚生年金保険法(昭和29年法律第115号)に基づき新たに訂正手続を担う地方厚生局長等に対する第三者委員会で蓄積したノウハウ等の引継ぎなどが完了するまで、今後も人員体制を適切に見直すこと。その際、適切かつ迅速な処理を確保しつつ、人員配置を機動的に見直すなど適切な体制とすること
(ウ) 第三者委員会で蓄積したノウハウや第三者委員会に転送された処理中の案件の引継ぎなどに当たっては、厚生労働省で、第三者委員会で処理中の案件及び新たな訂正手続により厚生労働省が受け付けた申立案件を迅速かつ効率的に処理することができるよう、これを行うこと
厚生労働省等の各種取組により、未統合記録約5095万件のうち、約1771万件が基礎年金番号に統合されるなど、年金記録問題の解決に一定の効果があったと認められる。
引き続き、厚生労働省及び機構において、年金記録問題への取組が年金制度に対する国民の信頼の回復を図る上で重要なものであること、その財源が租税収入等であることを踏まえた上で、1件当たりの年金回復額が減少傾向にあることなどを考慮し、効率的かつ効果的な取組の実施により、より一層の効果の発現に努めること
年金記録問題は、一部の本人側の事情によるケースを除けば、事務処理誤りの問題と考えられるため、これを早期に把握して改善を図るとともに、その拡大と再発を防止するための内部統制システムが有効に機能することが重要である。
機構において、内部統制システムを構築するなどしているが、事務処理誤りが継続して発生するなどしていて、年金記録問題の再発防止に向けた更なる体制整備等を必要とする事態が見受けられている。
こうしたことを踏まえ、次の事項を実施することにより、年金記録問題の再発を防止する必要がある。
ア 機構において、内部統制システム等の仕組みが有効に機能するための取組を推進することにより、より一層、適正でない事態等を早期に把握し、情報を適切に共有し、リスクを適切に分析し評価するなどして、事態の是正だけでなく、その拡大と再発の防止に努めること
イ 厚生労働省及び機構において、制度改正に当たり、年金制度の企画立案部門である年金局とその実施部門である機構との連絡調整等を十分行い、また、他の関係機関との連携をより一層推進するなどして年金記録問題の再発防止に努めること
本院としては、年金制度に対する国民の信頼の回復を図ることが重要であることなどに鑑み、今後、厚生労働省、機構等において実施される年金記録問題に係る各種取組が適切に実施されているかなどについて、多角的な観点から引き続き検査していくこととする。