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  • 平成26年10月

復興木材安定供給等対策の実施状況等について


検査対象
林野庁、22道県
復興木材安定供
給等対策の概要
国が交付した補助金により造成した復興対策基金を活用して、平成27年度までの集中復興期間に、東日本大震災の被災地域だけでは賄いきれない復興に必要な木材を安定供給する体制を構築するために、間伐、林内路網整備等を実施するもの
検査の対象とし
た復興対策基金
に係る国庫補助
金交付額
1399億4550万円(平成23年度)
22道県における
事業実施額
549億5632万余円(平成23年度~25年度)
上記のうち国庫
補助金相当額
332億8957万余円(平成23年度~25年度)

1 検査の背景

(1) 復興木材安定供給等対策等の概要

ア 森林整備加速化・林業再生基金事業の概要

林野庁は、地球温暖化防止に向けた森林吸収目標の達成と木材・木質バイオマスを活用した低炭素社会の実現が求められていることを踏まえ、間伐(注1)等による森林整備の加速化と間伐材等の森林資源を活用した林業・木材産業等の地域産業の再生を図るなどのため、平成21年5月29日に成立した21年度第1次補正予算において、23年度末までを事業実施期間とする森林整備加速化・林業再生事業を創設し、47都道府県に対し、計1238億4410万円の森林整備加速化・林業再生事業費補助金を交付している。

47都道府県は、当該補助金により基金を造成し、「森林整備加速化・林業再生事業費補助金交付要綱」(平成21年21林整計第82号農林水産事務次官依命通知)、「森林整備加速化・林業再生事業費補助金実施要綱」(平成21年21林整計第83号農林水産事務次官依命通知)、「森林整備加速化・林業再生基金事業実施要領」(平成21年21林整計第89号林野庁長官通知)等(以下、これらを合わせて「実施要綱等」という。)に基づき、森林整備加速化・林業再生基金事業(以下「基金事業」という。)を実施している。

実施要綱等においては、基金事業により実施する事業種目を間伐等14事業種目としているほか、都道府県は、基金事業を実施する地域の市町村、森林組合等による地域協議会を設置し、地域協議会が作成した素案を参考に事業実施期間に係る全体事業計画を作成して林野庁(沖縄県にあっては、内閣府沖縄総合事務局)の承認を受けること、毎年度、事業開始前に、事業種目、事業主体等を定めた年度事業計画を作成して林野庁に報告すること、事業実施後、事業実施状況報告書を作成して林野庁に報告することなどが定められている。

このほか、都道府県は、造成された基金を①国債、地方債、その他確実かつ有利な有価証券の取得等、②金融機関への預金、及び③信託業務を営む銀行又は信託銀行への金銭信託(ただし、元本保証のあるものに限る。)として運用し、この運用によって生じた運用益を、基金に繰り入れること、基金事業を実施する場合を除き繰り入れた運用益を含む基金を取り崩してはならないこと、及び基金事業の終了時において基金に残額がある場合はこれを国に納付することなどが定められている。

(注1)
間伐  木材の利用価値の向上と森林の有する諸機能の維持増進を図るため、育成過程の森林で密集化する原木を間引くこと

基金事業の主な流れは、次のとおりである(図1参照)。

① 事業を実施しようとする市町村、森林組合等は、都道府県に対して事業計画を提出し補助金の交付申請を行う。

② 都道府県は、事業計画の内容を確認し、妥当と判断した場合にこれを承認して、補助金の交付決定を行う。

③ 交付決定を受けた市町村等は、事業主体として事業を実施する。

④ 事業主体は、事業実施後、都道府県に事業成果等の実績を報告する。

⑤ 都道府県は、当該事業を検査し、交付決定内容等に適合すると認めた場合は補助金の額を確定させて、これを事業主体に通知する。

⑥ 都道府県は、確定した補助金を一般会計支出予算から事業主体に支払う。

⑦ 都道府県は、基金から複数事業に係る支払額をまとめて取り崩し、一般会計収入予算へ繰り入れる。

図1 基金事業の主な流れ

図1 基金事業の主な流れ画像

そして、林野庁は、基金事業の実施に当たり「多様な森林整備推進のための集約化の促進について」(平成19年18林整整第1250号林野庁長官通知。22年4月改正。以下「集約化通知」という。)に基づき、一定の地域内で複数の施業地を取りまとめて集約的に間伐等を実施する集約化施業を加速するために、森林作業道等の路網(以下「路網」という。)の整備、高性能林業機械の活用等による間伐等の施業の効率化を推進するとしている。

イ 復興木材安定供給等対策の概要

(ア) 復興対策基金事業の概要

23年7月に、東北6県の知事による共同アピールとして、「被災した住宅や公共施設等の復旧に必要な木材の供給など今後の本格的な復興に向け、(中略)全国規模での支援を進めていくことも必要」であり、「森林整備の加速化や林業再生のために造成されている基金の延長・拡大など、森林・林業・木材産業関連予算の更なる充実を求める」との要望がなされたことを受けて、林野庁は、林業関係政策の最重要事項として、被災地域だけでは賄いきれない木材量を全国規模で支援する事業を実施することとした。

そして、林野庁は、23年11月21日に成立した23年度第3次補正予算により、当初23年度までとしていた基金事業の事業実施期間を26年度まで3か年延長することとして、27年度までの集中復興期間に、東日本大震災の被災地域だけでは賄いきれない復興に必要な木材を安定供給する体制を構築することを政策目標とした復興木材安定供給等対策(以下、復興対策等のために造成する基金を「復興対策基金」、同基金により道府県が行う事業を「復興対策基金事業」という。)を実施することとし、東京都、神奈川県を除く45道府県に対して新たに計1399億4550万 円の森林整備加速化・林業再生事業費補助金を交付した。

また、当該補助金の交付を受けた45道府県は、それまでの基金に新たに復興対策基金としての区分を設けて基金の造成や運用を行うとともに、「東日本大震災からの復興の基本方針」(平成23年7月東日本大震災復興対策本部決定)に基づき、集中復興期間の最終年度となる27年度までに、復興に必要な木材を安定供給する体制を構築することとして、事業実施期間をその前年度の26年度末までとして、全体事業計画を変更し、林野庁の承認を受けている。

(イ) 復興対策基金事業における事業種目の概要

林野庁は、各地域の実情に応じた創意工夫に基づき復興に必要な木材を全国的 に安定供給するなどのために、23年11月に実施要綱等を一部改正し、復興対策基金事業で実施する事業種目を、表1のとおり、従来の間伐等の14事業種目のうち、全国規模での木材の増産に必要な間伐等、森林境界の明確化、流通経費支援等の8事業種目に限定している。

これらの事業種目のうち、間伐等については、戦後の拡大造林期に全国で一斉に植えられた人工林が成長し、間伐により伐倒するなどした原木についても径が太く木材として利用可能なものが多くなってきたことなどから、主に原木を利用する目的で伐採し、搬出する間伐(以下「搬出間伐」という。)により原木の増産を図るものである。

表1 復興対策基金事業で実施する8事業種目

事業種目名 内容
①地域協議会の運営、調査・調整、計画作成、普及等  各地域における復興対策基金事業の効果的な実施のため、木材の安定供給体制の確立や林業・木材産業再生に向けた課題解決、間伐材等の供給と需要の調整、事業の円滑な実施のための調整等を行うことを目的とする地域協議会の運営等を行う。
 事業を実施する事業者については、地域協議会の構成員となることを要件としている。
②間伐等  不用木の除去、不良木の淘汰、支障木やあばれ木等の伐倒、搬出集積等を実施する。
 間伐等が効率的な施業を実施するために別途定めた集約化推進区域において計画されていること、搬出する伐採木の総材積量の合計を施業地の総面積で除した値が1ha当たり平均20㎥以上であることなどを要件としている。
③林内路網整備  間伐等により生産された原木を搬出するなどのための、林業専用道や森林作業道の整備等を行う。
④森林境界の明確化  施業地を集約化して効率的な間伐等を進めるために、所有者や境界が不明であるなど間伐等の実施の前提条件が整わない森林において境界の明確化を行う。
⑤高性能林業機械等の導入  従来のチェーンソーや刈払機等の機械に比べて、施業の効率化、身体への負担の軽減等、性能が著しく高い林業機械を導入し、立木の伐倒、枝払・玉切(造材)、林道端や土場への搬出(集材)等に使用する。
⑥木材加工流通施設等整備  製材施設、集成材加工施設、プレカット加工施設、チップ加工施設、木材集出荷販売施設等の施設整備を行う。
⑦木質バイオマス利用施設等整備  未利用間伐材等活用機材(移動式チッパー等)、木質バイオマス供給施設(チップサイロ、原料貯蔵庫等及び関連機械等)及び木質バイオマスエネルギー利用施設(木質資源利用ボイラー等及び関連装置)の整備を行う。
⑧流通経費支援(間伐材等運搬) ①被災工場に原木等を出荷していた地域が非被災工場に振り替えて原木等を輸送する場合、②震災により原木確保が困難になった被災地域の工場が他の地域から原木を輸送する場合、③林業事業体等と地域材を利用する法人等が間伐材の取引協定を締結して原木を輸送する場合などに、これらの輸送費を負担する原木供給者又は受入者のために間伐材等の運搬経費の支援を行う。

林野庁は、上記の8事業種目については、復興に必要な木材を全国的に安定供給するために、木材流通の川上(原木の生産)から川下(木材製品の加工・消費)に至るまでの各段階で必要と見込まれるものであるとしている。

表1の事業種目のうち、①「地域協議会の運営、調査・調整、計画作成、普及等」(以下「地域協議会の運営等」という。)は、地域協議会が事業計画の素案の作成等を行うものであり、道府県は、地域協議会の素案を参考に事業計画を作成し、事業主体は、道府県が作成した事業計画に基づき、②から⑧までの事業種目を実施するとされているが、これ以外にも「指導等事業」として、道府県による事業主体に対する指導等を実施できることとされている。

復興対策基金事業で実施する事業種目のうち、木材流通の川上の対策として実施する事業種目は、②搬出間伐等を実施し原木の増産を図る「間伐等」、③搬出間伐を実施するのに必要な林内路網を整備する「林内路網整備」、④施業の実施に支障がある場合に山林所有者立会いの下で境界を確認し、搬出間伐の前提となる森林の境界を明確にすることで対象森林を確定させる「森林境界の明確化」、及び⑤林業機械を整備し、施業の効率化等を図る「高性能林業機械等の導入」である。

また、木材流通の川下の対策として実施する事業種目は、⑥製材所の加工施設等や市場施設の選木機、木材置場等を整備する「木材加工流通施設等整備」、⑦原木から建築用材、合板用材、集成材用材を生産する際に発生する端材等を発電用燃料等に有効利用することにより、間伐等の更なる推進が図られるようチップ生産機械や利用施設を整備する「木質バイオマス利用施設等整備」、及び⑧被災に伴う取引先、流通経路等の変更に対応するとともに、増産される原木を加工施設に運搬する経費を支援する「流通経費支援」である。

(ウ) 復興木材の安定供給についての取組

原木は、森林組合等の素材生産事業体が主伐(注2)や間伐等により伐採した後、製材所等の木材加工事業体等が角材、板材等の木材製品に加工し、製品市場や木材販売業者等を経由するなどして、木造建築等を手掛ける大工・工務店等へ引き渡されるが、このような一般的な木材流通の概念については、図2のとおりである。

(注2)
主伐  利用できる時期に達した原木を伐採すること

図2 一般的な木材流通の概念

図2 一般的な木材流通の概念画像

素材生産事業体から木材加工事業体等への原木の流通は、市売りと直接的取引に大別される。市売りは、素材生産事業体が伐採した原木を原木市場に運搬し、原木市場の定期的な競りや入札によって製材所等の木材加工事業体等と取引されるものである。また、直接的取引は、競りや入札によらずに、直接、素材生産事業体と木材加工事業体等との間で原木の樹種、規格、協定量、協定期間等を約定することにより原木を安定的に供給する旨の取引協定を締結するなどして取引されるものである。

一般的に、市売りは、素材生産事業体において優良な原木が高値で取引される面があり、木材加工事業体等において現物確認により原木の優劣についての客観的な評価ができることで安心・安全な取引が可能となる反面、求める樹種、規格等に応じた原木を安定的に確保することが困難となる面がある。これに対し、直接的取引は、価格の動向によっては素材生産事業体又は木材加工事業体等において市売りと比較して利益が少なくなることがあるが、素材生産事業体、木材加工事業体等共に品質、数量等を満たす安定的な取引が可能となる面がある(市売りと直接的取引のそれぞれの特性については巻末別表1参照)。

林野庁は、復興対策基金事業の実施によって、原木の増産を図る一方、小規模、零細で不安定な原木供給体制のまま市場に原木があふれれば、需要と供給の均衡が崩れ、原木価格の下落等を招くおそれがあることから、原木市場を介さない直接的取引を推進することで安定的な取引を目指すためなどとして、24年3月に「森林整備加速化・林業再生事業の運用改善について」(平成21年21林整計第210号林野庁長官通知。24年3月改正。以下「運用改善通知」という。)を発出した。運用改善通知によれば、地域協議会の下に、主に森林組合等の素材生産事業体で構成する部会組織(以下「供給部会」という。)を設置するとともに、供給部会は、24年度から26年度までの間を対象として、原木供給計画量や締結しようとする取引協定、被災地の復興に貢献するための方策等を記載した原木安定供給プランを作成することとされている。また、供給部会は、24年12月末までに原木安定供給プランを作成し道府県に提出することとされており、提出を受けた道府県は、妥当と判断できる場合はこれを承認し速やかに林野庁に報告することとされている。

(2) 復興対策基金事業の政策目標とその考え方

ア 復興対策基金事業の政策目標

林野庁は、前記のとおり復興対策基金事業について、27年度までの集中復興期間に、東日本大震災の被災地域だけでは賄いきれない復興に必要な木材を安定供給する体制を構築することを政策目標としている。

そして、復興対策基金事業により、林内路網整備や木材加工流通施設等整備等が行われ、復興に必要な木材を全国規模で安定供給する体制が構築でき、木材の増産が図られるとしている。

イ 林野庁における復興に必要な木材量等の試算

林野庁は、被災地域の住宅・建築物の復興のためには、仮設住宅及び災害公営住宅の建築や被害状況に応じた民間住宅の新築・修繕等に要する木材製品の供給が急務であるとして、復興対策基金事業の実施に当たり、復興に必要な木材量等を試算しており、復興に必要な木材量等の想定に当たり、警察庁が公表した「平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震の被害状況と警察措置」(表2参照)等を参考にしている。

表2 建築物被害の状況(平成23年7月4日時点)

被害状況 全壊 半壊等 一部破損・床上浸水
戸数 106,833戸 111,043戸 428,334戸
注(1)
未確認情報を含む。
注(2)
平成23年4月7日に発生した宮城県沖を震源とする地震等の被害を含む。

そして、林野庁は、被災地域の住宅・建築物の復興に関して、復興に必要な木材の需要を、仮設住宅31万㎥。災害公営住宅2万㎥、民間住宅899万㎥、公共施設等のその他建築物等43万㎥、計975万㎥と想定し、このうち、輸入材等による供給を想定した計308万㎥を差し引いた667万㎥を復興に必要な木材量として試算している。さらに、林野庁は、表3のとおり、上記の667万㎥のうち被災地域で賄いきれないと見込まれる木材量392万㎥については、復興対策基金事業等により全国規模で安定供給を図る必要があると試算している(試算の詳細については、巻末別表2参照)。

表3 林野庁が試算した復興に必要な木材量等

復興に必要な木材量累計 (A) 667万㎥ 被害建築物の数に木造率を乗ずるなどして積算
被災地域で賄うことが可能と見込まれる木材量 (B) 275万㎥ 東北地方6県の生産量で積算
被災地域だけでは賄いきれないと見込まれる木材量 (C)=(A)-(B) 392万㎥ 全国規模で安定供給の必要あり
(注)
林野庁提出資料による。

ウ 復興対策基金事業等による木材の生産能力向上の目標値

イの試算を踏まえて、林野庁は、24年度から26年度までの間に、公共事業として実施する森林整備事業に加えて復興対策基金事業を実施することにより、図3のように、毎年74万㎥の木材の生産能力向上を図るとしており、行政事業レビューシートにおいて3年間における復興に必要な木材の生産能力向上の目標値を計222万㎥と設定している。

そして、林野庁は、毎年74万㎥の木材の生産能力向上を図ることで、集中復興期間の最終年度となる27年度までに、累積で復興に必要と見込まれる木材量計667万㎥の生産能力を確保することとしている。

図3 復興対策基金事業の目標値の考え方

図3 復興対策基金事業の目標値の考え方画像

また、林野庁は、木材の生産能力向上について、復興に必要な木材を安定供給する体制を構築する中で増産された木材によって全国の木材需要を満たすことにより、いわば「玉突き」的に被災地の木材需要を満たすことで事業効果が得られるとしている。具体的には、木材の流通は、原木から木材製品まで形を変えながら需要に応じ広く行われるものであり、ある地域(東北地方等)で需要が生じた場合には、当該地域で不足する分が周辺地域(関東地方等)から供給され、周辺地域(関東地方等)には更にその周辺(中部地方、近畿地方等)から供給されるという流れが、民間の流通業者等により構築されて、間接的に被災地の需要が満たされる(以下、このような供給を「間接的供給」という。)ことになるとしている。

このように、林野庁は、木材流通においてこの間接的供給を見込み、事業主体が復興対策基金事業により生産した木材を自ら使用するなど、市場等の流通に乗せなかったとしても、本来、市場から調達する木材を自ら生産することにより、結果的に市場に流通する木材を増加させる、又は減少させないことで、木材流通全体の中で間接的供給が生じることから、道府県が木材を増産するための取組を行うことが重要であるとして、復興対策基金事業により生産する木材の需要先、用途等を特に定めていない。

なお、間接的供給以外にも、復興対策基金事業では、⑧「流通経費支援」により直接被災地域に木材を供給することも想定されている。

(3) 復興対策基金事業の使途厳格化

ア 復興関連予算の執行

政府は、復興関連予算について、被災地の復旧・復興が最優先との認識の下、緊急性や速効性の観点から真に必要な事業に厳しく絞り込んでいく必要があるとの復興推進会議での議論等を踏まえ、「今後の復興関連予算に関する基本的な考え方」(平成24年11月27日付け復興推進会議決定)により、23年度第3次補正予算、24年度当初予算において措置された各府省の復興関連予算に係る事業の一部について、その執行を見合わせることとした。一方、上記の基本的な考え方においては国から支出済みのものを対象外としたため、復興関連予算において日本経済の再生という緊急性の観点から全国向け事業を実施するために造成した基金についてはその対象外とされた。

しかし、国会等において、復興関連予算の使途に関して、被災地の復旧・復興に直接資するものを基本とするという考え方に基づき、被災地との関連が明確でないものについて使途を厳格化すべきではないかなどの議論がなされたことなどを踏まえ、25年7月に、復興、財務両大臣から各基金の所管大臣に対して、復興関連予算で造成した基金により実施している全国向けの事業について、「復興関連予算で造成された全国向け事業に係る基金への対応について」(平成25年復本第957号復興大臣、財計第1690号財務大臣連名通知)が通知された。

この通知を受けて、農林水産大臣は、45道府県知事に対して「復興関連予算で造成された全国向け事業に係る基金への対応について」(平成25年25林整計第407号農林水産大臣通知)を通知したが、これによれば、「今後の対応方針」として、復興対策基金事業については「被災地に対する事業に使途を限定した上で、それ以外の事業のうち、執行済み及び執行済みと認められるものを除いた残額について速やかな返還を要請する」などとされている。

イ 林野庁の使途厳格化への対応

林野庁は、農林水産大臣の通知を踏まえ、25年7月に、45道府県知事に対して「森林整備加速化・林業再生事業の使途厳格化について」(平成25年25林整計第408号林野庁長官通知。以下「使途厳格化通知」という。)を通知した。

使途厳格化通知によれば、①被災地は「東日本大震災に対処するための特別の財政援助及び助成に関する法律」(平成23年法律第40号)第2条第2項に規定する特定被災地方公共団体の区域とすること、②復興対策基金事業は、被災地における取組及び被災地以外において直接被災地に木材を供給する取組に限定して実施すること、及び③復興対策基金事業のうち「既に交付決定済みのもの、契約済みのもの又は事業の実施について地方議会の議決がなされているもの(平成25年度予算既計上分及び平成26年度分の債務負担行為分)」は「執行済みと認められるもの」と取り扱うこと、などとされ、地方議会の議決がなされていない26年度事業に係る予算から使途厳格化が図られている。

また、使途厳格化通知によれば、被災地以外から直接被災地に木材を供給する取組は、森林組合、素材生産事業体、木材加工事業体等が被災地の工務店等と連携し、取引協定等に基づき木材を直接被災地に供給する取組など直接被災地に木材が供給され利用されることが立証できるものに限定することとされている。そして、林野庁は、被災地以外において直接被災地に木材を供給する取組として、事業種目ごとに、対象となる事業内容及び確認事項を示しており、これを整理すると表4のとおりとなる。

表4 被災地以外において直接被災地に木材を供給する取組

事業種目 事業内容 確認事項
間伐等 協定等に基づき被災地向けに木材を供給するために行う搬出間伐 協定等による供給先と取扱量、間伐予定森林の生産見込み量
林内路網整備 上記の搬出間伐を行うに当たって直接必要な森林作業道等の路網整備 間伐予定森林の路網整備の現況と予定路線との関係
高性能林業機械等の導入 協定等に基づき被災地向けの木材を供給するために、事業実施主体の生産能力からして導入が必要不可欠な場合における高性能林業機械の導入 導入を予定する事業体の生産能力、協定等による被災地向けの生産量と導入予定機械との関係
木材加工流通施設等整備 協定等に基づき被災地向けの木材を供給するために、事業実施主体の生産能力からして整備が必要不可欠な場合における製材ラインの増設等の木材加工流通施設整備 整備を予定する事業体の生産能力、協定等による被災地向けの生産量と整備予定施設との関係
木質バイオマス利用施設等整備 被災地向けに燃料用ペレット等を供給するために、事業体の生産能力からして整備が必要不可欠な場合における施設整備 整備を予定する事業体の生産能力、被災地向けの生産量と整備予定施設との関係
流通経費支援 協定等に基づき、被災地向けの木材の円滑な流通に必要な流通コスト支援 協定等による供給先と取扱量
地域協議会 協定締結等に必要な間伐・路網整備及び間伐材の供給・需要に係る調整 協議会の開催目的、参加メンバー
森林境界の明確化 (事業種目から除外)
(注)
「使途厳格化通知」に基づき作成

前記のとおり、25年7月の使途厳格化通知の発出前の復興対策基金事業については、木材流通の川上から川下に至るまでの各段階で必要と見込まれる8事業種目を対象としていた。しかし、林野庁は、使途厳格化通知の発出後に対象とされた取組において「森林境界の明確化」の事業種目について、「直接被災地に木材を供給する取組である間伐等の前提となるものではあるが、その実施が直接被災地に木材を供給する取組には該当しないものである」と判断したことから、被災地以外では事業の対象種目から除外している。

さらに、使途厳格化通知においては、直接被災地に木材が供給され利用されることが立証できないものは、これを国庫への返還要請の対象にするとしており、返還の時期については、直接被災地に木材を供給する取組に必要な予算額が明らかとなり、執行済み及び執行済みと認められるものを除いた残額が確定した時点が、速やかな返還の時期であるなどとしている。

以上のように、復興対策基金事業については、使途厳格化通知が発出されたことにより、被災地の復旧・復興を最優先に推進するとの認識の下、被災地における取組及び被災地以外において直接被災地に木材を供給する取組に使途が限定されることとなった。