(「地域子育て支援拠点事業の対象経費に、補助の対象とならない経費を含めていたもの」及び「子育て支援対策臨時特例交付金により造成した基金を活用して実施した事業(地域子育て支援拠点事業に係る分)において基金が過大に使用されるなどしていたもの」参照)
【適宜の処置を要求し及び是正改善の処置を求めたものの全文】
地域子育て支援拠点事業に係る国庫補助金の算定について
(平成28年10月28日付け
内閣総理大臣
厚生労働大臣
宛て)
標記について、会計検査院法第34条の規定により、下記のとおり是正の処置を要求し及び是正改善の処置を求める。
記
地域子育て支援拠点事業(以下「拠点事業」という。)は、児童福祉法(昭和22年法律第164号)等に基づき、市町村(特別区を含む。以下同じ。)が実施主体となり、乳幼児及びその保護者が相互の交流を行う場所(以下「拠点施設」という。)を開設して、子育てについての相談、情報の提供、助言その他の援助を行う事業である。
国は、平成25年度に、拠点事業を実施する市町村等を助成するために都道府県に造成された基金に対して子育て支援対策臨時特例交付金(以下「特例交付金」という。)を交付し、また、26年度には、拠点事業を実施する市町村に対して保育緊急確保事業費補助金(以下「補助金」という。)を交付して、拠点事業の実施に要する費用の一部について助成している。そして、拠点事業は、25年度は6,233か所、26年度は6,538か所の拠点施設で実施されている。
なお、拠点事業については、従来、厚生労働省所管となっているが、子ども・子育て支援法(平成24年法律第65号)等の制定に伴い、26年度以降、拠点事業に係る補助金等の交付事務は内閣府が行うこととなっている。
特例交付金は、「平成20年度子育て支援対策臨時特例交付金(安心こども基金)の交付について」(平成21年厚生労働省発雇児第0305005号)等に基づき、保育所の整備等を実施することなどにより、子どもを安心して育てることができるような体制整備を行うことを目的として、都道府県が行う基金(以下「安心こども基金」という。)の造成に必要な経費として国が交付するものである。
都道府県は、「平成20年度子育て支援対策臨時特例交付金(安心こども基金)の運営について」(平成21年雇児発第0305005号。以下「管理運営要領」という。)等に基づき、安心こども基金の管理、運用、取崩し等に係る事業(以下「基金事業」という。)を実施することとなっており、基金事業に係る計画の範囲内で、市町村等が行う拠点事業を含む特別対策事業に必要な経費を安心こども基金から取り崩して市町村に助成金を交付することとしている(以下、基金から取り崩して交付したものを「助成金」という。)。
管理運営要領等によれば、拠点事業に係る助成金の交付額は、①対象経費の実支出額の合計額と総事業費から寄附金その他の収入額を控除した額とを比較して少ない方の額を選定して、②その選定額と基準額(拠点施設の開設日数等の区分により定められているものを合計した額)とを比較して少ない方の額に、補助率(2分の1)を乗じて得た額の範囲内とすることとされている。そして、助成金の交付を受けようとする市町村は、特別対策事業が終了したときは、都道府県に対して事業報告書を提出することとされており、都道府県は、これに基づき基金から必要な額を取り崩して助成金を交付することとされている。
補助金は、「平成26年度保育緊急確保事業費補助金の国庫補助について」(平成26年府政共生第383号。以下「交付要綱」という。)等に基づき、市町村が、子ども・子育て支援法に基づき実施する拠点事業を含む保育緊急確保事業の実施に要する経費を補助するために、国が当該市町村に対して交付するものである。
交付要綱等によれば、拠点事業に係る補助金の交付額は、①基準額(拠点施設の開設日数等の区分により定められているものを合計した額)と対象経費の実支出額とを比較して少ない方の額と、総事業費から寄附金その他の収入額を控除した額とを比較して少ない方の額を選定して、②その選定額に、補助率(3分の1)を乗じて得た額とすることとされている。そして、補助金の交付を受けようとする市町村は、保育緊急確保事業が終了したときは、都道府県に対して事業実績報告書(以下「実績報告書」という。)を提出して、都道府県は、市町村から実績報告書の提出があったときは、必要な審査を行った上で、これを国に提出することとされている。
管理運営要領及び「地域子育て支援拠点事業の実施について」(平成26年雇児発0529第18号。以下「実施要綱」という。)によれば、市町村又は市町村が適当と認めて拠点事業の実施を委託した者等は、拠点施設を設置して、拠点事業の基本事業として、①子育て親子の交流の場の提供と交流の促進、②子育て等に関する相談、援助の実施、③地域の子育て関連情報の提供、④月1回以上の子育て及び子育て支援に関する講習等を全て実施することとされている。また、拠点施設では、基本事業に加えて、地域の子育て拠点として地域の子育て支援活動の展開を図るための取組(以下「子育て支援展開取組」という。)等を実施することができることとされている。
このうち子育て支援展開取組は、拠点施設の開設場所(近接施設を含む。)を活用して行う一時預かり事業等を実施するとともに、関係機関や子育て支援活動を行っているグループ等とネットワーク化を図るなどして、地域の子育て家庭に対して、よりきめ細かな支援を実施するものである。
基本事業の基準額(以下「基本分」という。)は、交付要綱等において、各拠点施設に配置する常勤又は非常勤職員の区分と、週当たりの開設日数の区分により定められている。
実施要綱等によれば、拠点事業の実施に当たり、市町村からの委託等により子育て支援展開取組を実施する場合には、拠点施設の業務を円滑に実施するために、当該市町村における助成金又は補助金の交付額の算定に当たり、基本分に加算する額(以下「加算分」という。)を算定できることとされている。そして、厚生労働省は、市町村が子育て支援展開取組を第三者に対する委託又は補助(以下「委託等」という。)により事業を実施する場合には、受託者等との連絡調整等を円滑に実施することが必要となることから加算分を算定できるとしており、市町村が自ら子育て支援展開取組を実施する場合には、加算分を算定することはできないとしている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、合規性等の観点から、助成金又は補助金の交付額は適切に算定されているかなどに着眼して、25、26両年度に、市町村が設置した拠点施設において子育て支援展開取組を実施していた17都府県管内の87市区町村(13都府県管内の60市区町、助成金の額計8億2259万余円及び16都府県管内の58市区町村、補助金の額計5億7975万余円)を対象として、14都府県管内の25市区町において実績報告書等の関係書類により会計実地検査を行うとともに、14都府県管内の62市区町村から関係書類の提出を受けるなどして検査した。
(検査の結果)
前記のとおり、厚生労働省は、拠点事業の実施に関する助成金又は補助金の交付額の算定に当たり加算分を算定することができるのは、市町村以外の第三者が当該市町村からの委託等を受けて子育て支援展開取組を実施する場合であるとしている。
しかし、検査したところ、11府県管内の15市町において、拠点事業の実施に関する助成金又は補助金の交付額の算定に当たり、第三者に委託等を行うことなく自ら子育て支援展開取組を実施しているのに加算分を算定するなどしている事態が見受けられた。このため、表のとおり、25年度は6府県管内の9市町(助成金の額計1億5076万余円)、26年度は8府県管内の10市町(補助金の額計8944万余円)が、子育て支援展開取組に係る加算分を誤って算定するなどしており、25年度助成金の額計1538万余円、26年度補助金の額計909万余円が過大に交付されていた。
表 拠点事業に係る助成金又は補助金が過大に交付されていたもの
府県名 | 年度 | 市町名 注(1) |
助成金又は補助金の額 | 過大に交付されていた助成金又は補助金の額 |
---|---|---|---|---|
茨城県 | 平成26 | 取手市 | 12,592 | 1,023 |
群馬県 | 25 | 明和町 | 4,516 | 806 |
26 | 3,227 | 335 | ||
新潟県 | 25 | 津南町 | 5,245 | 1,535 |
26 | 3,507 | 1,023 | ||
富山県 | 26 | 高岡市 | 6,053 | 920 |
福井県 | 26 | 美浜町 | 3,977 | 920 |
大阪府 | 25 | 豊中市 | 80,671 | 5,371 |
河内長野市 | 13,060 | 1,380 | ||
四條畷市 | 17,512 | 1,134 | ||
26 | 八尾市 | 24,157 | 1,148 | |
河内長野市 | 8,754 | 920 | ||
四條畷市 | 12,108 | 1,023 | ||
兵庫県 | 25 | 加東市 | 13,260 | 1,380 |
市川町 | 5,245 | 1,535 | ||
和歌山県 | 26 | 有田市 | 4,420 | 805 |
鳥取県 | 25 | 智頭町 | 5,245 | 1,535 |
岡山県 注(2) |
26 | 玉野市 | 10,654 | 979 |
福岡県 | 25 | 糸島市 | 6,010 | 710 |
25年度計 | 9 | 150,764 | 15,386 | |
26年度計 | 10 | 89,449 | 9,096 | |
合計 | 15 | 240,213 | 24,482 |
(是正及び是正改善を必要とする事態)
助成金又は補助金の交付額の算定に当たり、第三者に委託等を行うことなく自ら子育て支援展開取組を実施しているのに、加算分を算定していて助成金又は補助金が過大に交付されている事態は適切ではなく、是正及び是正改善を図る要があると認められる。
(発生原因)
このような事態が生じているのは、次のことなどによると認められる。
内閣府は、少子化社会対策大綱(平成27年3月閣議決定)において、家庭や地域における子育て機能の低下、子育て中の親の孤独感や不安感の増大等に対応するために、31年度末までに全国で8,000か所の拠点施設を設置することを目標としており、27年度以降、従来の拠点事業については、子ども・子育て支援法に基づく子ども・子育て支援交付金の交付対象事業として実施している。
ついては、厚生労働省及び内閣府において、助成金又は補助金の過大な交付を受けていた11府県管内の15市町に対して過大に交付されていた助成金又は補助金の返還等の手続を行わせるよう是正の処置を要求するとともに、厚生労働省において、拠点事業の子育て支援展開取組に係る加算分の算定が適正に行われるようにするために、実施要綱等に加算分を算定できる場合についてより明確に規定するなどした上で、加算分の算定の趣旨について、都道府県及び都道府県を通じて市町村に対して周知徹底するよう、是正改善の処置を求める。