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  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

(3)木造公営住宅等の建築に当たり、出隅の柱と土台等との接合方法等の確認等に重点を置いたチェックリストを作成するなどして、設計及び施工が適切に行われるよう是正改善の処置を求めたもの


会計名及び科目
一般会計 (組織)国土交通本省 (項)社会資本総合整備事業費
部局等
国土交通本省
補助の根拠
地域における多様な需要に応じた公的賃貸住宅等の整備等に関する特別措置法(平成17年法律第79号)
補助事業者
事業主体
市5、町2、計7市町
補助事業
公営住宅等整備事業、地域優良賃貸住宅整備事業
補助事業の概要
地域における多様な需要に応じた公的賃貸住宅等の整備等を行うもの
所要の安全度が確保されていない木造公営住宅等数
8住宅等
上記の木造公営住宅等に係る交付対象事業費相当額
3億0084万円(平成23、25、27各年度)
上記に対する交付金相当額
1億4365万円

(「公営住宅等の木造施設の設計が適切でなかったもの」及び「公営住宅の施工が設計と相違していたもの」参照)

【是正改善の処置を求めたものの全文】

木造公営住宅等の設計及び施工における事業主体の確認等について

(平成28年10月14日付け 国土交通大臣宛て)

標記について、会計検査院法第34条の規定により、下記のとおり是正改善の処置を求める。

1 事業の概要

(1) 木造公営住宅等の概要

貴省は、社会資本整備総合交付金(以下「交付金」という。)による公営住宅等整備事業等の一環として、住宅に困窮する低額所得者に対して低廉な家賃で賃貸するなどのために、公営住宅等を整備する地方公共団体(以下「事業主体」という。)に対して交付金を交付している。

この公営住宅等の建築工法には、柱、梁(はり)、土台、筋交いなどの部材で骨組みを構成する木造軸組工法が多数採用されている(以下、この木造軸組工法により建築した公営住宅等を「木造公営住宅等」という。)。

木造公営住宅等は、建築基準法(昭和25年法律第201号。以下「基準法」という。)等に基づき、地震や風により生ずる水平力に抵抗するために、柱と柱の間に筋交いなどを設置した軸組(以下、筋交いなどが設置された壁を「耐力壁」という。)を設計計算上必要な長さ以上、釣合い良く配置しなければならないとなっている。そして、耐力壁を構成する柱については、水平力により生ずる引抜力に抵抗するために、基準法等に基づく告示「木造の継手及び仕口の構造方法を定める件」(平成12年建設省告示第1460号。以下「告示」という。)等に基づき、告示に定める表(以下「告示の表」という。)等により耐力壁の種類、柱の位置等に応じて必要な引抜耐力を有する金物等を選定して、梁、土台、筋交いなど(以下「土台等」という。)と接合することとなっている。

木造公営住宅等の建築物については、基準法等により、採光等のために、窓その他の開口部を設ける必要があり、開口部が設けられた壁は耐力壁にはならないことから、耐力壁は、開口部を設けることの少ない出隅の柱(注1)等により構成される壁に配置されることが多い。そして、耐力壁を構成する柱のうち出隅の柱は、その他の柱に比べて水平力により生ずる引抜力が大きくなるため、柱と土台等とを接合するためには引抜耐力の大きい金物を使用して土台等と接合する必要があることなどから、軸組構造上の重要な部分となっている。

(注1)
出隅の柱  建物の外側の隅の柱

(2) 木造公営住宅等に係る設計及び施工における事業主体等の確認等

事業主体は、木造公営住宅等の設計を、主に、建築設計事務所(以下「設計事務所」という。)に委託しており、設計図書等の成果品の内容を確認するなどした上で受領している。また、事業主体は、施工における工事監理については事業主体が自ら行うか、又は設計事務所に委託するなどして行うとともに、発注者として工事完了に伴う確認等も行っている。

上記のほか、木造公営住宅等が基準法等に適合しているかについては、基準法等において、①建築工事に着手する前に建築物の計画を確認する建築確認、②特定の工程に係る工事が終了した段階でその建築物を検査する中間検査及び③建築工事が完了した段階でその建築物を検査する完了検査の実施がそれぞれ規定されている。これらの確認及び検査については、基準法等に基づいて、都道府県等に置かれた建築主事又は民間等の指定確認検査機関(以下、これらを合わせて「建築主事等」という。)が行うこととなっている。

そして、基準法等によれば、建築確認については、2階建て以下等の木造建築物に係る設計を建築士が行った場合には、耐力壁を設計計算上必要な長さ以上、釣合い良く配置するための軸組構造等に係る項目の審査が省略されることとされている。また、完了検査については、建築士が工事監理者として設計図書どおりに施工されたことを確認した場合には、主要な軸組等に金物等が設置されている写真等を提出すれば、建築確認と同様に上記に係る項目の検査が省略されることとされている。さらに、都道府県等が特に指定している場合を除いて中間検査は不要とされている。

(3) 貴省における周知

本院は、木造公営住宅等の設計及び施工が適切でないため、所要の安全度が確保されていない事態について、平成21年度から26年度までの検査報告に不当事項として計7件を掲記している。そして、貴省は、不当事項として掲記された事態について、同様の事態が生じないよう都道府県等の公営住宅等整備事業等の担当者を対象とした会議において周知を図っている。

2 本院の検査結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

交付金による木造公営住宅等の整備は、毎年度、多数実施されており、本院はこれらを検査して、その結果として、上記のとおり、木造公営住宅等の設計及び施工が適切でない事態を検査報告に不当事項として掲記している。

そこで、本院は、合規性、有効性等の観点から、木造公営住宅等の設計及び施工が適切に行われているか、また、設計及び施工が適切でない木造公営住宅等における耐力壁と柱との関係、設計及び施工における事業主体の確認等の状況並びに貴省における再発防止の取組状況はどのようになっているかなどに着眼して検査した。

検査に当たっては、貴省及び13都道県(注2)管内の95事業主体が23年度から27年度までの間に実施した公営住宅等整備事業等259事業、事業費計163億7151万余円(交付対象事業費計152億4705万余円、交付金計72億4195万余円)を対象として、設計図書等の書類や現地を確認したり、貴省及び事業主体において説明を聴取したりするなどして会計実地検査を行うとともに、過去の検査報告に不当事項として掲記した前記7件の内容等も分析するなどして検査した。

(注2)
13都道県  東京都、北海道、秋田、群馬、神奈川、山梨、兵庫、島根、岡山、徳島、愛媛、高知、福岡各県

(検査の結果)

検査したところ、次のような事態が見受けられた。

(1) 木造公営住宅等の設計及び施工が適切でない事態

7事業主体(注3)が23、25、27各年度に建築した計8件の木造公営住宅等(交付対象事業費相当額計3億0084万余円、交付金相当額計1億4365万余円)については、設計の際に、告示の表の適用等を誤っていたり、施工の際に、設計図書と異なる筋交いなどを誤って設置したりなどしていたため、土台等と接合するために柱に取り付けた金物の引抜耐力が不足しており、これらの柱に取り付けられた金物では柱に生ずる引抜力に抵抗できないなどの状態になっていた。このため、これらの柱等によって構成された壁は耐力壁とは認められず、有効な設計計算上の耐力壁の長さが水平力に対して必要な長さを下回ったり、耐力壁の配置に偏りが生じて釣合いがとれていなかったりしていて、木造公営住宅等の所要の安全度が確保されていない状態になっていた。

(注3)
7事業主体  男鹿、鹿角、北秋田、益田、瀬戸内各市、隠岐郡西ノ島、上浮穴郡久万高原両町

上記の事態について、設計及び施工が適切でない事例を示すとそれぞれ次のとおりである。

<事例1>

北秋田市は、平成27年度に、市営宮前町団地の倉庫2棟(木造平屋建て)の建築等を工事費2373万余円(交付金1068万余円)で実施している。これら2棟(交付対象事業費相当額2363万余円、交付金相当額1063万余円)の出隅の柱については、告示の表に基づき、引抜耐力8.5kNの金物を選定して土台等と接合する必要があるのに、耐力壁を構成する全ての柱において引抜耐力3.4kNの金物を選定して土台等と接合することとして設計し、これにより施工したため、金物等が柱に生ずる引抜力に抵抗できない状態になっていた。このように、土台等との接合方法が適切でない柱で構成された壁は設計計算上耐力壁とは認められないことから、改めて有効な設計計算上の耐力壁の長さを算出すると、水平力に対して必要な耐力壁の長さを大幅に下回っていた。

<事例2>

隠岐郡西ノ島町は、平成23年度に、町営美田住宅1棟(木造2階建て)の建築等を工事費6216万円(交付金2797万余円)で実施している。本件住宅(交付対象事業費相当額4567万余円、交付金相当額2055万余円)の出隅の柱等により構成される4か所の耐力壁については、その長さがそれぞれ1.9mとなるように筋交いを取り付けることとなっていたのに、請負人は、誤って、3か所について、耐力壁の長さをそれぞれ0.95mとして筋交いを取り付けていたため、耐力壁が設計と異なる配置となっており、耐力壁の配置に偏りが生じていて釣合いがとれていない状態になっていた。

(2) 木造公営住宅等の設計及び施工が適切でない事態の発生原因の分析等

ア 耐力壁として認められない壁と柱との関係

前記の8件及び過去の検査報告に不当事項として掲記した前記の7件における耐力壁として認められない壁と柱との関係をみると、前記8件の全てにおいて壁の構成要素として出隅の柱が含まれており、このうち5件については、耐力壁として認められない壁の全てが出隅の柱等により構成されていた。また、過去の検査報告に不当事項として掲記した前記の7件も全てにおいて壁の構成要素として出隅の柱が含まれており、このうち5件については、耐力壁として認められない壁の全てが出隅の柱等により構成されていた。このように、計15件のいずれにおいても軸組構造上重要である出隅の柱等により構成される壁に係る設計及び施工が適切に行われていなかった。

イ 設計及び施工における事業主体等の確認等の状況

7事業主体が建築した8件の木造公営住宅等の設計及び工事監理は、設計事務所に委託するなどして行われていた。

しかし、発注者として設計図書等の成果品の受領や工事完了に伴う確認等が十分に行われていなかった。これは、公営住宅等整備事業等に従事する職員の中に建築技術系の専門知識を有した職員がいない事業主体が3事業主体あり、このことが上記の一つの大きな要因となっていた。

また、専門知識を有した第三者である建築主事等による建築確認等を受けているかについてみたところ、7件においては、設計事務所の建築士が設計及び工事監理を行っていたことから、基準法等に基づく前記の項目に係る建築確認及び完了検査が省略されており、中間検査についても、県等の指定がないことから実施されていなかった。

ウ 貴省における再発防止の取組状況

貴省は、これまで都道府県等の公営住宅等整備事業等の担当者を対象とした会議を各地方整備局ごとに、毎年度1回程度開催しており、検査報告に不当事項として掲記された事態について、22年度以降、同様の事態が生じないよう周知してきたとしている。

しかし、事業主体に対する周知の内容は、各年度における検査報告の内容の紹介にとどまっており、再発防止策を具体的に示していないことなどから、適切でない事態の発生を十分に防止できていなかった。

このように、木造公営住宅等の設計及び施工が適切に行われるためには、金物、筋交いなどに係る設計及び施工についての確認等を適切に行うことが重要であり、特に、建築物の安全を確保する上で重要な出隅の柱と土台等との接合方法等の確認等を重点的に行えば、効果的に事態の発生を防止できると認められた。また、事業主体の中には、建築技術系の専門知識を有した職員がおらず、木造公営住宅等の中には、基準法等に基づき専門知識を有した第三者である建築主事等による建築確認等が省略されるなどしているものがあることから、これらを踏まえた、実効性のある再発防止策を検討する必要があると認められた。

(是正改善を必要とする事態)

木造公営住宅等の設計及び施工が適切でない事態が継続して見受けられているにもかかわらず、貴省において、建築技術系の専門知識を有した職員がいない事業主体の実態等を踏まえた実効性のある再発防止策を講じていないことなどは適切ではなく、是正改善を図る要があると認められる。

(発生原因)

このような事態が生じているのは、事業主体において設計における成果品の検収や工事監理における確認等が十分でなかったことにもよるが、貴省において事業主体の実態等を踏まえた実効性のある再発防止策を講ずる必要性についての理解が十分でないことなどによると認められる。

3 本院が求める是正改善の処置

貴省においては、今後も引き続き住宅に困窮する低額所得者等のために木造公営住宅等の整備を推進していくことが見込まれることから、事業主体に対して、柱と土台等とを接合する金物、筋交いなどの設計及び施工が適切に行われているかについて確認等を十分に行うよう周知徹底するとともに、これを支援していくことが重要である。

ついては、貴省において、木造公営住宅等の建築に当たり、出隅の柱と土台等とを接合する金物等の設計や施工が適切に行われているかなどの確認等に重点を置いたチェックリストを作成して、事業主体がチェックリストを活用した工事監理等の状況を設計事務所等に報告させてその内容の確認等を行うことができるようにするなど、実効性のある再発防止策を検討して、事業主体に対してこれを周知することにより木造公営住宅等の設計及び施工が適切に行われるよう是正改善の処置を求める。