国立大学法人は、国立大学法人法(平成15年法律第112号)に基づき、平成16年4月1日、大学の教育研究に対する国民の要請にこたえるとともに、我が国の高等教育及び学術研究の水準の向上と均衡ある発展を図るために設立された。そして、それまで、国立学校設置法(昭和24年法律第150号。平成16年廃止)に基づき文部科学省に設置されていた各国立大学は、それぞれ独立した国立大学法人に設置されることとなった。
27年度末現在、86国立大学法人のうち42国立大学法人は、大学に附属病院(以下「国立大学附属病院」という。)を設置し、運営している。附属病院は、大学設置基準(昭和31年文部省令第28号)第39条等の規定に基づき、医学又は歯学に関する学部又は附置研究所を置く大学に当該学部等の教育研究に必要な施設として設置されるものであり、国立大学には、表のとおり、計45病院が設置されている。
表 国立大学附属病院一覧(平成27年度末現在)
国立大学法人名 | 国立大学附属病院名 | 国立大学法人名 | 国立大学附属病院名 |
---|---|---|---|
北海道大学 | 北海道大学病院 | 滋賀医科大学 | 滋賀医科大学医学部附属病院 |
旭川医科大学 | 旭川医科大学病院 | 京都大学 | 京都大学医学部附属病院 |
弘前大学 | 弘前大学医学部附属病院 | 大阪大学 | 大阪大学医学部附属病院 |
東北大学 | 東北大学病院 | 大阪大学歯学部附属病院 | |
秋田大学 | 秋田大学医学部附属病院 | 神戸大学 | 神戸大学医学部附属病院 |
山形大学 | 山形大学医学部附属病院 | 鳥取大学 | 鳥取大学医学部附属病院 |
筑波大学 | 筑波大学附属病院 | 島根大学 | 島根大学医学部附属病院 |
群馬大学 | 群馬大学医学部附属病院 | 岡山大学 | 岡山大学病院 |
千葉大学 | 千葉大学医学部附属病院 | 広島大学 | 広島大学病院 |
東京大学 | 東京大学医学部附属病院 | 山口大学 | 山口大学医学部附属病院 |
東京大学医科学研究所附属病院 | 徳島大学 | 徳島大学病院 | |
東京医科歯科大学 | 東京医科歯科大学医学部附属病院 | 香川大学 | 香川大学医学部附属病院 |
東京医科歯科大学歯学部附属病院 | 愛媛大学 | 愛媛大学医学部附属病院 | |
新潟大学 | 新潟大学医歯学総合病院 | 高知大学 | 高知大学医学部附属病院 |
富山大学 | 富山大学附属病院 | 九州大学 | 九州大学病院 |
金沢大学 | 金沢大学附属病院 | 佐賀大学 | 佐賀大学医学部附属病院 |
福井大学 | 福井大学医学部附属病院 | 長崎大学 | 長崎大学病院 |
山梨大学 | 山梨大学医学部附属病院 | 熊本大学 | 熊本大学医学部附属病院 |
信州大学 | 信州大学医学部附属病院 | 大分大学 | 大分大学医学部附属病院 |
岐阜大学 | 岐阜大学医学部附属病院 | 宮崎大学 | 宮崎大学医学部附属病院 |
浜松医科大学 | 浜松医科大学医学部附属病院 | 鹿児島大学 | 鹿児島大学医学部・歯学部附属病院 |
名古屋大学 | 名古屋大学医学部附属病院 | 琉球大学 | 琉球大学医学部附属病院 |
三重大学 | 三重大学医学部附属病院 | 42法人 | 45病院 |
国立大学附属病院は、医学又は歯学に関する学部等の教育研究に必要な施設として設置され、主として、教育機関としての機能、研究機関としての機能及び診療機関としての機能の三つの機能を果たすことが求められている。
そして、国立大学附属病院長会議(注1)が24年3月に提言した「国立大学附属病院の今後のあるべき姿を求めて」(以下「病院長会議提言」という。)では、国立大学附属病院がこれまで果たしてきた教育、診療、研究の三つの使命に地域貢献・社会貢献と国際化の二つの新たな使命を加えた五つの使命が国立大学附属病院の使命として掲げられている。
また、文部科学省は、病院長会議提言等を踏まえ、「今後の国立大学附属病院施設整備に関する検討会・報告書」(以下「検討会・報告書」という。)を26年3月に取りまとめ、この中で、上記五つの使命(機能・役割)を踏まえて、国立大学附属病院の施設整備を行うことが重要であるとしている。
病院のうち、高度の医療の提供、高度の医療技術の開発及び評価並びに高度の医療に関する研修を実施する能力を備え、それにふさわしい人員配置、構造設備等を有するものは、医療法(昭和23年法律第205号)第4条の2第1項の規定に基づき、厚生労働大臣の承認を得て、特定機能病院と称することができることとなっている。特定機能病院として承認された病院は、高度の医療の提供等を実施する役割を果たすものとして、診療報酬が加算されるなどの措置を受けている。
27年度末現在、全国で84病院が特定機能病院として承認されていて、このうち、国立大学附属病院は41病院(全特定機能病院の48.8%)、私立大学を設置している学校法人が大学の附属施設として設置している病院は28病院(同33.3%)、公立大学法人が大学の附属施設として設置している病院は8病院(同9.5%)、その他の病院は7病院(同8.3%)となっており、国立大学附属病院が特定機能病院の約半数を占めている。
病院が特定機能病院として承認を受けるためには、医療法、医療法施行規則(昭和23年厚生省令第50号)等において定められている、高度の医療の提供や高度の医療技術の開発及び評価等に関する各種の要件を満たす必要がある。
病院長会議提言によれば、16年度の国立大学の法人化前は、国が全ての国立大学附属病院の病院収入並びに人件費、教育・研究・診療に係る経費及び病院の再開発に伴う経費の支出を一元的に管理していたが、法人化以降は、各国立大学法人が個々に収支管理を行っており、病院収入を経営のベースとしている国立大学附属病院は、診療報酬の影響を強く受けることから、収支の企業的管理が必要となり、国や地域の医療に対して責任を負いながらも、その経営について独自に責任を負うこととなったとされている。
国立大学附属病院を設置している42国立大学法人における授業料等収入、附属病院収入等の自己収入は、25年度は1兆5409億円、26年度は1兆5749億円であり、このうち、附属病院収入はそれぞれ9614億円、9835億円に上り、法人全体の自己収入の62.3%、62.4%となるなど重要な位置を占めており、国立大学附属病院の経営状況が国立大学法人の運営に与える影響は大きいものとなっている。
24年2月に閣議決定された「社会保障・税一体改革大綱」によれば、政府は、急性期をはじめとする医療機能の強化や病院・病床機能の役割分担・連携の推進等を内容とする医療サービス提供体制の制度改革に取り組むこととされている。そして、25年8月に社会保障制度改革国民会議(注2)が取りまとめた報告書によれば、高齢化の進展により、疾病構造の変化を通じて、必要とされる医療の内容は「病院完結型」から、地域全体で治し、支える「地域完結型」に変わらざるを得ないなどとされている。また、検討会・報告書によれば、医療制度改革においては、国立大学附属病院を含む病院の病床を高度急性期機能(注3)から急性期機能(注4)、回復期機能(注5)、慢性期機能(注6)まで機能分化した上で、当該機能に特化した医療の提供や外来医療の役割分担等、医療提供体制を再構築することにより、「病院完結型」医療から「地域完結型」医療への転換を図ることが求められているとされている。
学校法人東京女子医科大学が大学の附属施設として設置する東京女子医科大学病院では、26年2月に小児の集中治療における人工呼吸中の鎮静に使用することが禁忌とされている薬剤を継続投与された小児が死亡した。また、国立大学附属病院の一つである群馬大学医学部附属病院において、22年から26年にかけて肝臓の腹腔(くう)鏡手術で術後4か月以内に患者8人が死亡した。これらを受けて、厚生労働省は、これらの事案に関連した医療安全管理体制等について審議した社会保障審議会医療分科会の意見を踏まえて、27年5月、両病院の特定機能病院の承認を同年6月1日付けで取り消す旨を両病院に通知した。そして、同省は、28年6月に、医療法施行規則を改正するなどして、医療安全を確保する観点から、特定機能病院の承認要件の見直しを行った。
国立大学附属病院を取り巻く環境は大きく変化しており、安心、安全で高度の医療の提供等が急務の課題となっている中、国立大学附属病院は、その機能・役割を果たしていくことが求められている。そして、国立大学附属病院が今後も安定して継続的にその機能・役割を果たしていくためには、医療安全を確保した上で、損失が生じないように適切な運営により健全な財務基盤を構築していくことが重要である。
そこで、本院は、合規性、経済性、効率性、有効性等の観点から、次の点に着眼して検査した。
ア 国立大学附属病院の経営状況等について、業務損益や収支はどのように推移しているか、医薬品等の調達は会計規程等に基づき適正に実施されているか、医療機器等の更新等は採算性を検討するなどして実施されているか、監査等は適切に実施されているか。
イ 国立大学附属病院は、教育、研究、診療及び地域貢献・社会貢献の機能を十分に果たしているか。
ウ 国立大学附属病院の医療安全管理体制等について、群馬大学医学部附属病院の医療事故は経営等にどのような影響を与えているか、群馬大学医学部附属病院を除く国立大学附属病院の医療安全に対する取組状況はどのようになっているか。
45国立大学附属病院のうち、26年度末現在において特定機能病院として承認されていた42国立大学附属病院(注7)(以下、26年度末現在において特定機能病院として承認されていた国立大学附属病院を単に「附属病院」という。)を設置している42国立大学法人の22年度から26年度までの間(群馬大学医学部附属病院の医療事故に伴う経営等への影響等については27年度までの間)の会計を対象として、37国立大学法人(注8)において附属病院に係る財務関係書類を確認したり関係者から説明を聴取したりなどして会計実地検査を行うとともに、42国立大学法人から、附属病院に係る業務運営、経営等に関する調書等の提出を求めて、その内容を分析するなどして検査を行った。
なお、附属病院の取組状況等の分析に資するために、病院を設置している厚生労働省所管の3独立行政法人(注9)においても会計実地検査を行うとともに、病院を大学の附属施設として設置している2学校法人(注10)において調査を実施した。
診療科目及び病床数に係る特定機能病院の承認要件は、診療科目については、原則として所定の16診療科名全てを標ぼうすること、病床数については400床以上となっている。そこで、26年度末現在の診療科目及び病床数についてみたところ、全ての附属病院が特定機能病院の承認要件を満たしており、診療科目は、最多が42診療科、最少が20診療科、病床数は、最多が1,275床、最少が600床となっていた。
26年度の各附属病院における法人本部等への附属病院の経営等の報告状況についてみたところ、月1回程度の報告を行っている附属病院が25病院となっていた一方で、報告を定期的に行っていない附属病院も4病院見受けられた。
22年度から26年度までの間の患者数の推移についてみたところ、外来患者延数は増加傾向にあり、26年度は1739万人、対22年度増加率は4.8%となっていた。また、入院患者延数は、26年度は1014万人、対22年度増加率は横ばいとなっていた。
22年度から26年度までの間の医師数及び看護師数の推移についてみたところ、医師数、看護師数共に増加しており、26年度の医師数は24,760人、看護師数は32,125人、対22年度増加率はそれぞれ13.0%、14.8%となっていた。
22年度から26年度までの間の附属病院セグメント情報の業務損益等の推移についてみたところ、業務費用、業務収益共に増加しており、26年度の業務費用は1兆1651億円、業務収益は1兆1846億円、対22年度増加率はそれぞれ19.7%、15.2%、22年度から26年度までの5か年度の計はそれぞれ5兆3356億円、5兆5238億円となっていた。業務損益は、22年度の547億円から減少傾向にあり、26年度は194億円となっていた。また、各附属病院の業務損益についてみたところ、業務損益がマイナスとなり損失を計上している附属病院は、22年度は4病院であったが、26年度では14病院に増加していた。
業務損益がマイナスとなっていて、現金収支に基づく収支管理を行っている附属病院を設置する1国立大学法人では、法人本部と附属病院との連絡調整が十分でなかったことなどから収入を上回る支出を行うなどしていた事態が見受けられた。
セグメント情報における業務費用のうち、診療経費及び人件費で全体の9割以上を占めていて、26年度の診療経費は6615億円、人件費は4427億円となっていた。
診療経費全体の5割以上を占める材料費は、医薬品費と診療材料費で9割以上を占めており、医薬品費は全ての附属病院、診療材料費は41附属病院において増加していた。そして、医薬品の契約における随意契約基準額(注11)を基に契約期間を1年間に換算して算出した年間換算基準額についてみたところ、国立大学法人間で大きな差異が見受けられたが、500万円を基準としている国立大学法人が14法人と最も多くなっており、調達した全医薬品に占める随意契約により調達した医薬品の割合(以下「随契比率」という。)についてみたところ、金額ベースで90%以上となっている国立大学法人が4法人、品目数ベースで90%以上となっている国立大学法人が30法人となっていた。なお、品目数ベースでの随契比率が高い一部の国立大学法人では、会計規程等や政府調達に関する協定(平成7年条約第23号)等を実施するために定めた規程等に反して随意契約としていたり(不当事項参照)、書面による予定価格の作成を省略するなどのために、支出決議に必要な見積書等の金額が一定額以内に収まるように見積書等を業者に作成させるなどしていたりしていた事態が見受けられた。
医薬品等の共同価格交渉は、医薬品について5国立大学法人が、診療材料について13国立大学法人がそれぞれ実施していた。また、医薬品等の共同購入について、いずれの国立大学法人においても導入していなかった。
医療機器の採算性について、取得時の採算性の検討は、1附属病院を除く41附属病院が実施しており、支出見込額について、27附属病院は、導入経費、保守経費の両経費、又はいずれかの経費を見積もっていたが、両経費に加えて人件費を見積もっている附属病院は14病院であった。また、取得後の採算性の検証は、23附属病院が実施しており、支出額について、13附属病院は、導入経費、保守経費の両経費、又はいずれかの経費を計上していたが、両経費に加えて人件費を計上している附属病院は6病院にとどまっていた。なお、19附属病院は、検証のための人員不足や個々の医療機器に係る診療報酬データのひも付けが困難であるなどとして、取得後の採算性の検証を実施していなかった。
附属病院は、病床利用率・稼働率、診療単価等の経営指標を設けている。経営指標で設定した目標値について、幹部職員等を含む全職員に周知している附属病院は15病院等となっており、目標値の達成状況について、全職員に周知している附属病院が9病院等となっていた。また、目標値を下回っている場合の対応として、診療科、部門の努力に委ねている附属病院が4病院見受けられた。
22年度から26年度までの間の附属病院の経営・運営等に関する監査の実施状況についてみたところ、監事監査について、附属病院の経営・運営等に関する監査を37国立大学法人が実施している一方で、5国立大学法人は実施していなかった。
内部監査について、附属病院の経営・運営等に関する監査を8国立大学法人が実施している一方で、34国立大学法人は実施していなかった。
22年度から26年度までの間の臨床研修医の内定者数等の推移についてみたところ、募集定員、内定者数共に減少傾向にあり、募集定員に対する内定者数の割合(以下「マッチング率」という。)は、22年度70.2%から26年度65.1%へと低下していた。また、22年度から一定規模以上の病院に対して設置が義務付けられた小児科研修プログラム・産科研修プログラムに係るマッチング率の推移についてみたところ、小児科研修プログラムは22年度57.1%から26年度29.4%へ、産科研修プログラムは44.5%から21.8%へ、主に小児科研修又は産科研修のいずれかのコースを選択することになる周産期研修プログラムは43.3%から32.5%へ、それぞれ大きく低下していた。
このような中で、臨床研修医を増やすための取組として、研修プログラムの改善に係る取組を行っている附属病院が40病院、臨床研修医の活動を支援する部署等の設置や強化に係る取組を行っている附属病院が27病院等となっていた。
そして、臨床研修医の減少が与える影響についてみたところ、地域医療・社会貢献に最も影響があるとしている附属病院が17病院等となっていた。
また、22年度から26年度までの間の高度の医療に関する研修医等の数の推移についてみたところ、22年度3,810人から26年度5,010人となっていた。
22年度から26年度までの間の新人看護師等の研修等の状況の推移についてみたところ、新人看護師等研修の受講者数及び新人看護師等指導者育成研修の受講者数は共に増加しており、他の医療機関に所属する新人看護師等を受け入れて研修を実施していた附属病院は22病院、他の医療機関に所属する新人看護師等指導者を受け入れて研修を実施していた附属病院は5病院あり、共に受講者数は増加傾向にあった。
22年度から26年度までの間の医薬品に係る治験の新規受入実績の推移についてみたところ、受入件数は、年間1,000件前後で推移しており、26年度は895件で22年度と比べて6.0%増加していた。また、治験の実施に伴う治験費用受入額は、23年度の34億7128万円をピークに減少しており、26年度は19億2672万円で22年度と比べて32.9%減少していた。
治験費用は、治験内容に応じた業務量に基づいて算定すべきものであり、実施実績に基づいて医療機関に支払うことを原則とするとされている。治験費用は、臨床試験研究費、治験に携わる治験コーディネーター(以下「CRC」という。)等の人件費、治験内容の倫理的な審査を行う倫理審査委員会の運営に係る費用等に分類することができ、これらのうちの主な費用の算定状況は、次のとおりとなっていた。
臨床試験研究費について、附属病院は、国立大学法人化前に発出された「国立大学附属病院における医薬品等の臨床研究等の受託について」(平成11年文部省高等教育局医学教育課長通知。以下「医学教育課長通知」という。)を参考とするなどして、疾患の重篤度や入院・外来別、治験薬の投与期間、患者の観察頻度等の要素ごとに設定されたポイント数等を基に、実施する治験内容の難易度等を数値換算した表(以下「ポイント算出表」という。)を使用し、ポイント算出表により得られた総ポイント数に一定の単価を乗ずるなどして臨床試験研究費の算定を行っている。
ポイント算出表について、治験薬の投与期間が長期となる場合等に高いポイントを設定するなどして業務実績に基づく費用に近づける取組をしている附属病院が38病院となっていた一方、医学教育課長通知のポイント算出表をそのまま利用している附属病院が4病院となっていた。
また、CRCの人件費について、32附属病院は、業務内容を区分し、その区分ごとに要する標準的な作業時間を算出し、標準的な治験作業に要する費用を算定するなどして、業務実績に基づく費用に近づける取組を行っていた一方、9附属病院は、業務実績に近づける取組が必ずしも十分でないと思料される状況となっていた。
22年度から26年度までの間の外部資金による研究費等の受入実績の推移についてみたところ、外部資金の額は増加傾向にあり、受入額は計2034億1146万円となっていた。このうち、外部資金の大半を占める奨学寄附金の受入額は、計1506億9462万円となっており、26年度の受入件数は30,800件、受入額は275億2454万円で22年度と比べてそれぞれ7.0%、7.2%減少していた。
医師の研究従事時間についてみたところ、国立大学法人化前と比較して減少しているとする附属病院が18病院となっており、研究従事時間が減少した理由として、診療従事時間の増加によるとしている附属病院が15病院等となっていた。このような中で、研究推進のための取組として、研究者である医師の負担を軽減するために、医師の業務補助を行う者の増員により医師の診療従事時間の減少を図っているとしている附属病院が29病院、研究を推進するための委員会等を設置しているとしている附属病院が18病院等となっていた。
がん診療について、群馬大学医学部附属病院を除く41附属病院が拠点病院の指定を受けていた。他方、救急医療について救命救急センター等の指定を受けている附属病院は23病院(附属病院全体の54.7%)となっているなど、政策的医療機関としての指定等の状況は異なっていた。
また、22年度から26年度までの間の先進医療の新規承認件数の推移についてみたところ、22年度33件から26年度52件となり、57.5%増加していた。
さらに、高度急性期医療等の提供状況に関して、22年度から26年度までの間の手術件数等の推移についてみたところ、毎年度増加している中で、高度急性期医療等に関連する全身麻酔や人工心肺を用いた手術等の件数も、26年度は22年度と比べて増加していた。そして、高度急性期医療等を必要とする患者に対する手術件数等の増加に伴い、入院患者一人当たりの診療単価(平均値)は、22年度61,070円から26年度69,412円へ、外来患者一人当たりの診療単価(平均値)は、22年度12,866円から26年度15,744円へと推移しており、共に増加していたが、入院患者一人当たりの診療単価の散らばりの度合い(標準偏差(注12))は、22年度に比べて26年度が大きくなっていた。また、外来患者一人当たりの診療単価の散らばりの度合い(標準偏差)も22年度に比べて26年度が大きくなっていた。このように、入院及び外来患者一人当たりの診療単価は共に、附属病院間で差が広がっていた。また、最高診療単価と最低診療単価とをみても、その差が広がっていた。
22年度から26年度までの間の紹介率等の推移についてみたところ、紹介患者数、逆紹介患者数共に増加しており、26年度は22年度と比べてそれぞれ8.2%、16.8%増加していた。また、紹介率は、外来患者の抑制等により初診患者数が減少したことなどから、22年度の71.2%から26年度の81.5%となり、比較可能な40附属病院において26年度の紹介率は、22年度に比べて10.1ポイント増加していた。逆紹介率は、22年度の49.5%から26年度の60.3%となり、比較可能な41附属病院において26年度の逆紹介率は、22年度に比べて10.9ポイント増加していた。紹介率の向上による影響について、外来診療単価の上昇に寄与するとしている附属病院が17病院等となっており、逆紹介率の向上による影響について、平均在院日数の短縮に寄与するとしている附属病院が21病院等となっていた。
また、22年度から26年度までの間の医師派遣数の推移についてみたところ、毎年度4,000人前後で推移していたが、比較可能な39附属病院の状況についてみたところ、26年度末における医師派遣数が22年度と比べて増加している附属病院が17病院ある一方で、減少している附属病院は22病院となっていた。
群馬大学医学部附属病院の医療事故に伴う収入減等の経営等への影響についてみたところ、医療事故の発生等による稼働額(注13)等への影響は、特定機能病院の承認取消しに伴う影響額計2億4476万円、がん診療連携拠点病院の非更新に伴う影響額計8602万円、補助金に係る交付申請の取下げなどによる影響額計7億2725万円、合計10億5804万円となっていた。
また、27年度の患者数及び稼働額について、26年度と比較すると、患者数は、入院・外来合わせて、計32,270人減少しており、稼働額は、入院・外来合わせて、計8億0600万円減少していた。
群馬大学医学部附属病院で発生した医療事故による各機能への影響についてみたところ、教育機能への影響として、医療事故の報道の前後での臨床研修に係るマッチング率(内定者数は採用年度の前年度の10月頃に決定)について比較したところ、28年度は24.5%で、医療事故の報道前である27年度の47.4%から大きく減少していた。また、医療事故の報道の前後での専門医等の資格を取得するための専門的な研修に係る受入人数等について比較したところ、27年度の募集定員に対する受入人数の割合である充足率は25.2%で、医療事故の報道前である26年度の25.9%と大きな変化はなかったが、医療事故の原因となった外科専門分野では、27年度は4.0%で、医療事故の報道前の26年度の28.0%と比べて大きく減少していた。
診療機能への影響として、医療事故の報道の前後での群馬大学医学部附属病院における先進医療に係る取扱患者数について比較したところ、27年度の取扱患者数は373人で、医療事故の報道前である26年度の510人と比べて大きく減少していた。
群馬大学医学部附属病院では、医療事故に伴い、経営や附属病院としての機能に影響が出ている。また、群馬大学医学部附属病院は、特定機能病院の管理者が確保することとされている医療安全管理体制等について、死亡症例検討会等における原因分析や管理者への報告を実施できていなかったこと、死亡事例が発生した際に、院内報告制度が機能しておらず、速やかな原因分析や改善策の立案及び職員への周知が行われていなかったことなどの問題点が認められるとして、厚生労働大臣から特定機能病院の承認を取り消された。そこで、医療安全管理部門における医療安全情報の職員への周知確認方法等についてみたところ、医療安全情報を共有するために、医療安全管理者であるゼネラルリスクマネージャーや、各部署における医療安全管理を担当するリスクマネージャー等で構成されるリスクマネージャー会議を開催しているが、出席率が30%程度の附属病院が1病院見受けられ、各部署における職員への周知を確認していない附属病院が3病院見受けられた。
また、死亡症例の報告及び検証体制について、27年度末時点の各附属病院の医療安全管理部門等における状況をみたところ、8附属病院は全死亡症例を報告又は把握する体制となっておらず、11附属病院はインシデント(注14)報告があった事例等の一部の死亡症例を検証するのみとなっていた。
附属病院の経営等の法人本部等への報告について、報告を定期的に行っていない附属病院が見受けられた。一部の国立大学法人では、収入を上回る支出を行うなどしていた事態や会計規程等に反して随意契約としていたり、支出決議に必要な見積書等の金額が一定額以内に収まるように見積書等を業者に作成させるなどしていたりしていた事態が見受けられた。医薬品等の共同価格交渉は一部の国立大学法人にとどまっており、共同購入はいずれの国立大学法人においても導入していなかった。医療機器等の採算性について、取得時に、導入経費及び保守経費に加えて人件費を見積もっている附属病院は一部の病院にとどまっていた。経営指標で設定した目標値を下回っている場合の対応として、診療科、部門の努力に委ねている附属病院が見受けられた。監査等について、附属病院の経営・運営等に関する監査を実施していなかった国立大学法人が見受けられた。
教育機能について、臨床研修医に係るマッチング率が低下しており、小児科医及び産科医を養成するための研修プログラムのマッチング率は大きく低下していた。研究機能について、一部の附属病院は、治験費用を業務実績に近づける取組が必ずしも十分でないと思料される状況となっていた。医師の研究従事時間は、国立大学法人化前と比較して減少しているとする附属病院が18病院となっていた。診療機能について、手術件数等が増加する中にあって、入院及び外来患者一人当たりの診療単価(平均値)は共に増加していたが、附属病院間で差が広がっていた。地域貢献・社会貢献機能について、紹介率及び逆紹介率は共に増加しており、紹介率の向上による影響は、外来診療単価の上昇に寄与するとしている附属病院が17病院等、逆紹介率の向上による影響は、平均在院日数の短縮に寄与するとしている附属病院が21病院等となっていた。
群馬大学医学部附属病院の医療事故に伴う稼働額等への影響は、特定機能病院の承認取消しに伴う影響額計2億4476万円、がん診療連携拠点病院の非更新に伴う影響額計8602万円、補助金に係る交付申請の取下げなどによる影響額計7億2725万円、合計10億5804万円となっていた。また、27年度の患者数及び稼働額について、26年度と比較すると、患者数は、入院・外来合わせて、計32,270人、稼働額は、入院・外来合わせて、計8億0600万円減少していた。
教育機能への影響としては、臨床研修に係るマッチング率は、28年度24.5%で、医療事故の報道前である27年度47.4%から大きく減少するなどし、また、診療機能への影響としては、27年度の先進医療に係る取扱患者数は373人で、26年度の510人と比べて大きく減少していた。
各国立大学法人において、今回の本院の検査により明らかになった状況を踏まえて、附属病院の運営がより適切に行われるよう、次の点に留意することが必要である。
群馬大学医学部附属病院における医療事故が、安心、安全で高度の医療の提供に対する信頼を傷つけるだけでなく、特定機能病院の承認取消しなどにより附属病院の経営や機能に影響を与えていることに鑑み、各附属病院においては、特定機能病院の管理者が確保することとされている医療安全管理体制等のより一層の充実に努めること
本院としては、附属病院の運営について、今後とも多角的な観点から引き続き検査していくこととする。