我が国の財政状況は、近年厳しさを増し、予算の執行結果等の厳格な評価及び検証、国民への説明責任を果たしていくことなどが重視される中で、各府省等における政策評価の実施に当たっては、できる限り定量的な手法を用いて、また、これが困難な場合でも、できる限り客観的なデータや事実に基づく定性的な手法を用いるなどして、政策効果を適切に把握し、必要性、効率性又は有効性の観点その他当該政策の特性等に応じて必要な観点から、適切に政策評価を実施することとなっている。
そして、各府省等において、政策の特性等に応じた評価方法、評価基準等を客観的かつ厳格に運用して政策評価を実施し、その評価結果や政策の効果を的確に把握して政策や次年度以降の予算に一層適切に反映することは、政策の実施や予算の執行における効率性、有効性等の向上につながるものと考えられる。
そこで、会計検査院は、効率性、有効性等の観点から、内閣府等21府省等における政策評価の実施状況等について、各府省等が所掌する政策(狭義)、施策及び事務事業に係る政策評価の実施状況等はどのようになっているか、政策(狭義)、施策及び事務事業の効果の把握をできる限り定量的に行うなどして政策評価が実施されているか、定性的な把握のみを行っているものについては、合理的な理由があるか、具体的な効果を測定できるように指標を設定するなどして客観的な把握が行われているか、事前評価が実施された当該府省等が所掌する政策(狭義)、施策及び事務事業について、その後、事後評価又は検証が適時適切に行われているかなどについて着眼して検査したところ、次のような状況となっていた。
21府省等は、22年度から26年度までの間に、政策(狭義)、施策及び事務事業の3区分に係る政策評価を計10,850件実施していた(リンク参照)。
そして、宮内庁を除く20府省等の個別施策に係る決算額の合計額2219兆9277億余円(21年度から25年度までの計)に対する事後評価が実施された施策に係る決算額1714兆1741億余円の割合は77.2%と高いものとなっていた。また、20府省等の実施施策に係る決算額の合計額468兆9932億余円(25年度)に対する、24年度までに事務事業に係る事前評価が実施されていて、かつ、25年度に実施された事務事業に係る決算額4兆7106億余円の割合は1.0%と低いものとなっていた一方、事務事業については、各府省等において、政策評価とは別に、原則として、予算の概算要求を伴う全ての事務事業を対象として、行政事業レビューが実施されていた(リンク参照)。
26年度に目標管理型の政策評価を実施した17府省等及びモニタリングを実施していた国土交通省の計18府省等の計479件の評価対象施策について、測定指標の設定状況をみると、定性的な目標等が設定された593指標のうち391指標は、測定指標が目標を達成したか否かを判定するための目標を達成すべき時期及び目標とする対象並びに実現すべき内容の水準が、あらかじめ事前分析表に具体的に定められていなかった。また、事後評価が実施された施策に係る419指標のうち103指標は、測定指標が目標等を達成したか否かを判定するための目標を達成すべき時期及び目標とする対象並びに実現すべき内容の水準が具体的に定められていなかった。そして、評価対象の施策単位でみると、施策479件のうち18件は測定指標が設定されていなかった。さらに、定量的な測定指標が設定されていた835指標のうち127指標は「判定不能」と判定されていた(リンク参照)。
次に、目標管理型の政策評価が実施された296件のうち、事前分析表に行政事業レビューの対象となる事務事業が達成手段として記載されていた251件について、26年度の行政事業レビューに係る情報の事後評価時の活用状況をみると、目標達成度合いの測定結果、施策の分析等が記載された評価書の「評価結果」欄に行政事業レビューに係る情報を活用した旨が記載されていたものは2件のみとなっており、この2件以外の249件は、行政事業レビューに係る情報が、事後評価の評価結果に至るまでの過程でどのように活用されたのか、評価書上、不明確なものとなっていた(リンク参照)。
さらに、25年度の予算額及び執行額が明示された上で事後評価が実施されているかをみると、12府省等の90件は、25年度の予算額が評価書に明示されているものの、執行額が明示されないまま事後評価が実施されていた。また、25年度の予算額及び執行額が明示されていた176件のうち66件は、施策に係る決算額とは異なる額が評価書に記載されていた(リンク参照)。
研究開発に係る政策評価をみると、コメントによる評価121件及び評点による評価39件の計160件は、費用及び効果に関する評価について、6府省等は、必要性、効率性、有効性等の観点に関して設定したいずれかの評価項目の評価と併せて評価したとしているものの、費用及び効果に関する具体的な評価内容は評価書に記載されておらず、どのような評価が行われたのかが評価書上分からない状況となっていた。また、事前評価において設定された定性的な202指標のうち2指標は、目標とする対象や実現すべき内容の水準が具体的に定められておらず事後に判定することが困難なものとなっていた。さらに、事後評価において設定された測定指標161指標のうち27指標は、判定基準が設定できず判定されていなかった(リンク参照)。
公共事業に係る政策評価をみると、6府省等が費用便益比を算出する方法により費用便益分析を行って評価した854件のうち、農林水産省の2事業4件は、発生が見込まれる維持管理費が費用に計上されていなかった。また、事後評価を実施した総務、農林水産、国土交通各省の9事業43件は、物価変動の取扱いが実施要領等に具体的に定められていないなどとして、物価変動の影響を除かないまま現在価値に換算されていた。さらに、5府省等が事前評価又は再評価を実施した725件のうち273件は感度分析が実施されておらず、このうち236件は、実施要領等に感度分析の実施について定めがなかった。一方、実施要領等に感度分析の実施について定めがあるものの、国土交通省の河川・ダム事業9件は、補助事業の事業主体である地方公共団体の協力が得られなかったため、また、農林水産、経済産業、国土交通各省の計8件は、実施要領等に感度分析を実施する際の明確な基準がないため、それぞれ実施されていなかった(リンク参照)。
政府開発援助に係る政策評価をみると、測定指標の定量化が進んでおり、また、定性的な指標のみを設定して有効性に関する評価が実施された無償資金協力事業2件において設定された8指標は、事後に客観的かつ具体的な効果を測定でき、かつ、その達成度合いを客観的に判定するための関連指標が設定されるなどしていた(リンク参照)。
規制に係る政策評価をみると、国において行政費用の発生等が見込まれて、事前評価が実施された46件は、費用及び便益について全て定性的に分析されていた。このうち36件は、行政費用の分析において、発生等が見込まれた行政費用の要素を列挙するのみで、その規模が全く示されておらず、また、12件は代替案が設定されていなかった(リンク参照)。
租税特別措置等に係る政策評価のうち国税に係る政策評価をみると、事前評価110件のうち2件は目標が設定されておらず、6件は目標は設定されているものの測定指標が設定されていなかった。また、拡充延長事前評価及び事後評価84件のうち3件は測定指標が設定されておらず、19件は設定された測定指標により目標の達成状況が測定されていなかった。さらに、目標が「未達成」と判定された拡充延長事前評価39件のうち18件は、その原因が分析されていなかった(リンク参照)。
5分野の事務事業以外の事務事業に係る政策評価をみると、国家公安委員会・警察庁及び厚生労働省が実施した事後評価計8件において、当該事務事業の執行額が評価書に明示されないまま事後評価が実施されていた(リンク参照)。
21府省等が25年度までに事前評価を実施した政策評価について、22年度から26年度までの間に実施した事後評価又は検証の実施状況をみると、総事業費の見込額又は実績額が10億円以上の公共事業688件のうち72件は、補助事業の事業主体である地方公共団体から完了後評価に関する資料が得られなかったり、同事業の事業主体である独立行政法人が評価対象として選定していなかったり、実施要領等で完了後評価の実施時期等を具体的に定めていなかったりなどして、完了後評価が実施されていなかった(リンク参照)。
また、国において行政費用の発生等が見込まれた規制に係る事前評価後に実際に規制が施行された14府省等の238件は、事前評価後に規制に係るレビューが実施されたことがなく、このうち8件は事前評価時において規制に係るレビューの実施時期又は条件が設定されておらず、79件は設定されているものの明確に設定されていなかった。さらに、金融庁及び総務、文部科学、厚生労働各省の4府省等の計7件は、設定された規制に係るレビューの時期が到来してから1年以上経過しているにもかかわらず実施されていなかった(リンク参照)。
政府は、25年6月に、デフレからの早期脱却と持続的な経済成長を実現させるなどのために閣議決定した「経済財政運営と改革の基本方針~脱デフレ・経済再生~」の中で、「政策評価は、政策の効果と質を高めるための政策インフラである。」として、客観的なデータ等に基づく政策評価を確立することなどにより、実効性のあるPDCA(Plan(計画)-Do(実行)-Check(評価)-Action(改善))サイクルを確立し、行政サービスのコスト削減、質の向上等を図るとともに、政策目的に照らして効果の高い政策に重点的に資源を配分することとしていることなどから、各府省等において、政策評価を客観的かつ厳格に実施することがより一層求められている。
一方、「3 検査の状況」において記述したとおり、今回の検査で、各府省等における政策評価の実施状況等について留意しなければならない状況等が見受けられた。
したがって、各府省等においては、政策評価の実施に当たって、次の点に留意して、政策評価の対象等を適切に定めて適時に実施するとともに、有識者等の知見も活用した上で、できる限り定量的な測定指標を設定するなどして政策効果の客観的な把握に努め、評価結果を政策や次年度以降の予算に適切に反映させていくことが必要である。
(ア)施策の効果を客観的に把握するため、測定指標を設定する際には、定量的な測定指標をできる限り設定し、定量的な測定指標の設定が困難であるため定性的な測定指標を設定する場合であっても、目標を達成すべき時期及び目標とする対象並びに実現すべき内容の水準を、あらかじめ事前分析表に具体的に定めておくことなどにより、事後に、その達成度合いを検証できる測定指標を十分に検討した上で設定するよう努めること
(イ)施策の達成手段である事務事業が効率的かつ効果的に実施されたかについて、行政事業レビューに係る情報を活用して施策の分析を行うなど、事後評価の際に行政事業レビューに係る情報をできる限り活用して、その内容を評価書に明示するよう努めること
(ウ)効率性、有効性等の観点から評価するため、評価対象となる施策の予算の執行状況や当該施策の執行額を適切に把握するとともに、その額を評価書にできる限り明示した上で、事後評価を実施するよう努めること
(ア)研究開発に係る政策評価において、費用及び効果に関する独立した評価項目を設定するなどして、費用及び効果に関する評価をより明確なものとするよう努めること。また、定量的な測定指標の設定が困難であるため定性的な測定指標を設定する場合であっても、目標とする対象や実現すべき内容の水準を具体的に定めるなどして、事後に効果の測定結果を客観的に判定できる測定指標を設定するよう努めること
(イ)公共事業に係る政策評価において、費用便益分析に当たっては、発生が見込まれる維持管理費を適切に計上し、物価変動の影響を除いた上で現在価値に換算して、費用及び便益を適切に算定したり、社会経済情勢等の変化を考慮して感度分析を行ったりするなど、費用便益分析をより適切に行うよう努めること
(ウ)政府開発援助に係る政策評価において、定量的な測定指標の設定が困難であるため定性的な測定指標を設定する場合であっても、事後に客観的かつ具体的な効果を測定でき、かつ、その達成度合いを客観的に判定するための測定指標を設定するよう引き続き努めること
(エ)規制に係る政策評価において、費用及び便益の定量的な分析が困難であるため定性的な分析を行う場合であっても、費用及び便益の要素の規模を評価書に記載するなど、できる限り具体的な分析を行い、また、できる限り代替案を設定して分析するよう努めること
(オ)租税特別措置等に係る政策評価において、事前評価時には目標及び測定指標の設定を、事後評価時等には測定指標に基づく測定を、それぞれ適切に実施するなどして、目標の達成状況をより明らかにするよう努めること。そして、事後評価時等に目標が未達成と判定されたものについては、その原因をより適切に分析するよう努めること
(カ)5分野の事務事業以外の事務事業に係る政策評価において、評価対象となる事務事業の執行額を適切に把握して、それを評価書にできる限り明示した上で、事後評価を実施するよう努めること
(ア)公共事業において、基本計画等で定められた完了後評価の実施時期が到来したものについては実施要領等にその実施時期等を具体的に定めたり、補助事業については交付要綱等にその実施を定めたりするなどして、できる限り適時適切に行うよう努めること
(イ)規制において、事前評価を実施する際に、規制に係るレビューの具体的な実施時期又は条件をできる限り具体的に設定して、適時適切な実施をより確実なものにするよう努めるとともに、設定した実施時期又は条件に達した場合は、速やかに規制に係るレビューを実施するよう努めること
会計検査院としては、今後とも、各府省等における政策評価の実施状況等について引き続き注視していくこととする。