米の生産調整対策は、その内容を変えながら45年以上にわたり実施され、昭和44年度から平成26年度までの間に実施された計15の生産調整対策に対して計約9兆0576億円もの交付金等が投入されてきている。そして、16年度以降は、米政策改革大綱等により、農業者主役の需給調整システムの構築に向けた改革が行われてきており、当該農業者主役の需給調整システムについては、19年度に一旦は移行したものの、20年度以降は、再び行政が強力に指導していく体制に改められたことなどにより、現在まで完全な移行には至っていない。
25年12月に決定された農林水産業・地域の活力創造プランにおいては、米政策は、需要に応じた米の生産を推進するために、きめ細かい需給・価格情報、販売進捗情報及び在庫情報の提供等の環境整備を進めることなどとされ、30年度を目途に、行政による生産数量目標の配分に頼らずとも、生産者等が中心となって円滑に需要に応じた米の生産が行われることを目指した生産調整の見直しを含む米政策の改革が進められている。
このような状況の中で、これまで実施されてきた生産調整対策の内容、成果、課題等を分析して検証することは、今後の改革の着実な実施に向けて有益であると考えられる。
そこで、会計検査院は、生産調整対策は関係法令等の趣旨に沿って適切に行われていたか、生産調整目標の達成状況はどのようになっていたか、生産調整対策に係る事後評価は適切に行われてきたか、生産調整対策の実施により米の生産コストや転作等の水田活用状況等にどのような影響が生じていたか、生産調整の見直しに向けてどのような取組が行われているかなどに着眼して検査したところ、次のような状況が見受けられた。
国段階における生産調整目標は、食管法施行期においてはおおむね達成されていたが、食糧法施行期においては達成と不達成が繰り返されており、改正食糧法施行期においては26年度まで達成されていなかった。
都道府県段階及び市町村段階においては、16年度から26年度までの間は、達成都道府県の割合が最大で約6割、達成市町村の割合が22年度以降約7割にとどまっていた。また、都道府県別の主食用水稲の作付面積と生産数量目標面積換算値とのかい離面積や市町村別の対目標作付率は、毎年度、都道府県間及び市町村間で大きな開差が生じていた。
地域協議会においては、22年度から26年度までの間は、達成者率が100%となっていた地域協議会が毎年度2割程度あった一方で、10%未満となっていた地域協議会が約4%から約8%までの間で推移しており、地域協議会間で達成状況に大きな差が生じていた(7019_3_1_1リンク参照)。
生産数量目標の配分方法は、地域の裁量に委ねられており、都道府県ごと及び地域協議会ごとに区々となっていた。
一方、生産数量目標は、米の直接支払交付金の交付判定にも用いられていて、その配分方法が都道府県ごと及び地域協議会ごとに区々となっていることにより、農業者ごとの生産数量目標の配分率に高低が生ずる場合には、水田面積の規模が同じ農業者であっても、主食用水稲を作付けすることができる面積に差が生じ、米の直接支払交付金の交付額にも差が生ずることになる(7019_3_1_2リンク参照)。
個々の農業者に係る農業者間調整後の生産数量目標面積換算値が主食用水稲の作付面積等と同一となっていて、主食用米の生産量の実質的な抑制に結び付いていなかったり、集落単位で生産数量目標を達成した場合は全農業者を達成農業者とし、達成しなかった場合は農業者ごとに達成又は不達成を判定していて判定方法が統一されていなかったりしている地域協議会が見受けられた(7019_3_1_3リンク参照)。
22年度以降、毎年度、認定方針への参加率は全体で約9割となっているものの、地域協議会ごとにみると、参加率が著しく低くなっていたり、参加率が100%となっていたのに達成者率が著しく低くなっていたり、参加農業者が認定方針に参加する意思があるかを確認していなかったりしていて、生産調整要領において求められる運用が行われていないと認められる地域協議会が見受けられた(7019_3_1_4リンク参照)。
22年度以降、毎年度、計画書の提出率は約8割となっているものの、地域協議会ごとにみると、提出率が著しく低くなっていたり、提出率が参加率を下回っていたり、参加率が100%となっていても提出率が著しく低くなっていたりしていて、生産調整要領において求められる運用が行われていないと認められる地域協議会が見受けられた(7019_3_1_5リンク参照)。
多くの地域協議会において、未提出農業者に係る主食用水稲の作付面積を確認するに当たり、過去の主食用水稲の作付面積や水田台帳上の水田面積等を当年度の主食用水稲の作付面積とみなすなどしていて、主食用水稲の作付面積を現地確認等により確認していなかった。このため、市町村全体の主食用水稲の作付面積を正確には把握していなかった(7019_3_1_6リンク参照)。
生産調整対策は、新基本法上、「農産物の価格の形成と経営の安定」のための施策の一つとして位置付けられており、「国は、消費者の需要に即した農業生産を推進するため、農産物の価格が需給事情及び品質評価を適切に反映して形成されるよう、必要な施策を講ずるものとする。」とされている(7019_3_2_1リンク参照)。
農林水産省は、生産調整対策について、毎年度の主食用米の生産量が生産数量目標を達成したかを確認することにより評価できるとしている。16年度から26年度までの間の生産調整対策を対象として同省が実施した事後評価の状況をみると、一部の年度を除き、政策評価の中で米政策に重点を置いた評価指標を設定して評価を行っていた。同省は、政策評価以外に、国段階及び都道府県段階の生産数量目標の達成状況を評価した上で、その効果を翌年度の米の需給見通しや、支援体系の定期的な見直しの検討に反映したとしているが、生産調整対策の直接の評価や所見は明示されておらず、また、評価結果がどのように活用されてきたのかが必ずしも明らかではなかった(7019_3_2_2リンク参照)。
米の生産コストは、水稲の作付規模が大きいほど低くなる傾向があり、単収は、作付規模が1ha以上になると多くなる傾向が見受けられた。
そして、特に、農業者に対する生産数量目標の配分が一律配分方式によって行われ、かつ、大規模農業者に生産数量目標を供出する農業者間調整が行われなかった場合、大規模農業者は作付規模を更に拡大できないため、生産調整対策には、作付規模の拡大による米の生産コストの低減に寄与しない側面があると考えられる(7019_3_3_1リンク参照)。
米価は、需給ギャップと一定の関連性があると考えられるものの、需給ギャップ以外の影響も大きく受ける場合があることがうかがえる(7019_3_3_2リンク参照)。
転作作物のうち麦及び大豆についてみると、大部分の農業者の単位販売金額が転作に係る交付金の交付単価を下回っていて、交付金による収入が農業者収入の多くを占めていた(7019_3_3_3リンク参照)。
転作面積と交付金等の交付額は、連動して増減が繰り返されていた。主食用米の需要は依然として減少傾向にあり、今後も転作の重要性が見込まれることから、転作に係る交付金等の交付額の動向についても留意する必要があると考えられる。
転作率は、都道府県間で各年度大きな差が生じていた。また、転作率が低い地域協議会の中には荒廃水田等の面積の割合が高くなっている地域協議会が見受けられた(7019_3_3_4リンク参照)。
これまで実施された生産調整対策について、「米価が安定し、農業者の収入の安定につながっている」「転作が奨励されることで水田の有効活用につながっている」など一定のメリットがあったとしている地域協議会が見受けられた一方で、「制度が複雑で、頻繁に変更されたことが、農業者の不信感につながっている」「米を作れないことが非作付地の拡大につながっている」「米を作れないことで転作に適さない水田にも転作を行わざるを得ない」など一定のデメリットもあったとしている地域協議会も見受けられた(7019_3_3_5リンク参照)。
農林水産省は、従前から公表しているマンスリーレポートにおいて、26年4月から、各生産者の経営判断等に資する需給情報の拡充を図っている。また、27年度においては、米の産地の自主的な生産の判断を促すために、生産数量目標を配分する際にこれを下回る数値である自主的取組参考値を付記して、幅を持った配分が行われるようにするとともに、27年5月15日時点の飼料用米の中間的な取組状況を公表するなどの新たな取組を行っている。
27年8月末現在における30年度に向けた取組の状況についてみると、マンスリーレポートの活用や主食用米のブランド化の推進等の具体的な取組を進めている地域協議会が見受けられた一方で、意識的には30年度に向けた取組を行っていない地域協議会が見受けられるなど、地域協議会ごとにその取組状況は区々となっていた。また、マンスリーレポートの具体的な活用方法が分からないとしているなどの地域協議会も見受けられた(7019_3_4リンク参照)。
我が国の農業は、農業者の高齢化の進展、荒廃農地の増加等を背景として、攻めの農業に向けた取組や生産調整の見直しを含む米政策の改革等の各種改革を着実に進めていくことが急務となっている。そして、45年以上にわたって実施されてきた生産調整対策については、30年度を目途に、行政による生産数量目標の配分に頼らずとも、生産者等が中心となって円滑に需要に応じた米の生産が行われることを目指した改革の実施に向けて、大きな節目を迎えている。また、28年2月に、環太平洋パートナーシップ(TPP)協定が参加国の代表により署名されるなど、米政策を取り巻く環境は大きく変化している。
このような状況の中で、農林水産省は、飼料用米等の作付けに対する助成を今後も引き続き行うこととしているほか、農林水産業・地域の活力創造プランや日本再興戦略等において、米の生産コストを今後10年間で現在の4割削減することなどを目標として掲げている。
16年度から施行された改正食糧法において、政府は、生産調整の円滑な推進に関する施策を講ずるに当たっては、生産者の自主的な努力を支援することを旨とするとともに、地域の特性に応じて行うよう努めなければならないとされており、行政による生産数量目標の配分に頼らずに各産地において需要に応じた米の生産が行われることを推進するに当たっては、各産地における生産数量目標の達成状況、配分方法、認定方針への参加状況等の生産調整対策の実施状況を踏まえて推進を図っていくことが重要であると考えられる。
ついては、農林水産省において、米の生産調整の見直しを含む米政策の改革を確実に実行するために、改正食糧法の趣旨を踏まえつつ、次の点に留意して30年度に向けた取組を推進していくことが肝要である。
会計検査院としては、これまでの生産調整対策の実施状況等を踏まえつつ、30年度を目途とした米の生産調整の見直しを含む米政策の改革の実施状況について、引き続き注視していくこととする。