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米の生産調整対策の実施状況等について


3 検査の状況

(1)生産調整対策の実施状況

生産調整対策の実施による生産調整目標の達成状況については、生産調整対策が本格的に実施されることになった昭和46年度以降について分析した。また、生産調整目標の配分から達成又は不達成の判定に至るまでの生産調整対策の実施状況については、主に改正食糧法施行期の平成16年度以降について分析した。その結果を示すと、それぞれ次のとおりである。

ア 生産調整目標の達成状況

前記のとおり、生産調整対策は、生産調整目標を指標として実施されてきており、15年度以前は転作等面積が削減数量目標又は削減面積目標(以下「削減面積目標等」という。)以上となった場合に、16年度以降は主食用水稲の作付面積が生産数量目標面積換算値以下となった場合に、それぞれ生産調整目標を達成したと判定することとなっていた。

そこで、生産調整目標の達成状況について、国段階、都道府県段階及び市町村段階の各段階別にみると、次のとおりとなっていた。

(ア)国段階

食管法施行期においては、図表7-1及び図表7-2のとおり、ほとんどの年度で生産調整目標が達成されていた。そして、転作等面積から削減面積目標等を差し引いた面積をかい離面積とし、これを削減面積目標等で除して得た割合(以下「削減目標かい離率」という。)をみると、削減目標かい離率が0%を下回っていて生産調整目標が達成されなかった年度のうち、昭和49、51両年度は、他の年度に比べてマイナスの率が特に大きくなっており、それぞれ△3.6%(かい離面積△1.2万ha)及び△9.7%(同△2.1万ha)となっていた。

49年度は、休耕水田が交付金等の助成対象外となり、交付額が前年度より減少していた。また、51年度は、配分対象が削減数量目標から削減面積目標に変更されるとともに、転作に係る交付金等の対象作物が限定され、交付額が更に減少していた。

53年度から平成5年度までの間は、安定的に生産調整目標が達成されていた。この間は、前記のペナルティ措置が採られていた時期であり、また、転作等に係る交付金等の助成単価の上限が引き上げられ、昭和53年度から55年度までにかけて交付額が増加した時期であった。

一方、平成6、7両年度は、生産調整目標が達成されなかった。6年度は、5年度の大不作の影響により米の安定供給に重点が置かれ、7年度は、6年度が一転して大豊作となったことから削減面積目標が大きく設定されていた。

図表7-1 生産調整目標の達成状況及び削減目標かい離率(昭和46年度~平成7年度)

図表7-1 生産調整目標の達成状況及び削減目標かい離率(昭和46年度~平成7年度) 画像

図表7-2 転作等に係る交付金等の交付額及び削減目標かい離率(昭和46年度~平成7年度)

図表7-2 転作等に係る交付金等の交付額及び削減目標かい離率(昭和46年度~平成7年度) 画像

食糧法施行期において、生産調整目標は、図表8-1及び図表8-2のとおり、達成と不達成が繰り返されていて、達成されなかった13年度は、削減目標かい離率が△3.6%(かい離面積△3.7万ha)と比較的大きくなっていたが、その他の年度は比較的削減目標かい離率は小さくなっていた。なお、前記のとおり、同年度から15年度までの間は、配分対象が、削減面積目標から、米の生産数量及び作付面積に関するガイドライン並びに削減面積目標に変更された時期であった。

図表8-1 生産調整目標の達成状況及び削減目標かい離率(平成8年度~15年度)

図表8-1 生産調整目標の達成状況及び削減目標かい離率(平成8年度~15年度) 画像

図表8-2 転作等に係る交付金等の交付額及び削減目標かい離率(平成8年度~15年度)

図表8-2 転作等に係る交付金等の交付額及び削減目標かい離率(平成8年度~15年度) 画像

改正食糧法施行期において、生産調整目標は、前記のとおり、16年度以降は主食用水稲の作付面積が生産数量目標面積換算値以下となった場合に達成したと判定されることとなるが、図表9-1及び図表9-2のとおり、26年度までで達成された年度はなかった。そして、主食用水稲の作付面積から生産数量目標面積換算値を差し引いた面積をかい離面積とし、これを生産数量目標面積換算値で除して得た割合(以下「作付目標かい離率」という。)をみると、全ての年度において、作付目標かい離率が0%を上回っていて、生産調整目標は達成されていないが、このうち、18、19両年度においてプラスの率が比較的大きく、それぞれ4.3%(かい離面積6.8万ha)及び4.5%(同7.1万ha)となっていた。この時期は、米政策改革大綱等に基づく農業者主役の需給調整システムへの移行に向けて、生産調整対策に対する行政の関与が弱められた時期であった。

20、21両年度は、19年度に実施された前記の米緊急対策により、20年度からペナルティ措置が採られるなど再び行政の関与が強められるとともに、21年度は交付金の交付額が増加(20年度比151.5%)した時期であった。しかし、作付目標かい離率は小さくなったものの、依然として生産調整目標の達成には至らなかった。

22年度以降は、前記のとおり、米の直接支払交付金等が交付されるとともに、22年度は米価の下落により米価変動補填交付金等が交付されており、21年度以前と比べると生産調整対策に係る交付金の交付額が増加(21年度比221.7%)していて、作付目標かい離率も小さくなっていた。

なお、農林水産省は、全国の需要見通しに加えて、各産地における販売及び在庫の状況等に関するきめ細やかな情報提供や、水田活用の直接支払交付金による飼料用米等の戦略作物の生産に対する支援を進めており、27年度は、作付目標かい離率が△0.9%に転じて、生産調整目標を達成したとしている。

図表9-1 生産調整目標の達成状況及び作付目標かい離率(平成16年度~26年度)

図表9-1 生産調整目標の達成状況及び作付目標かい離率(平成16年度~26年度) 画像

図表9-2 転作等に係る交付金の交付額及び作付目標かい離率(平成16年度~26年度)

図表9-2 転作等に係る交付金の交付額及び作付目標かい離率(平成16年度~26年度) 画像

以上のように、生産調整目標は、食管法施行期においてはおおむね達成されていたが、食糧法施行期においては達成と不達成が繰り返されており、改正食糧法施行期においては26年度まで達成されていなかった。そして、生産調整目標の達成状況は、ペナルティ措置の有無や交付金等の交付額の多寡のほか、行政の関与の度合い、助成対象や配分対象の変更等の影響を複合的に受けてきたと考えられる。

(イ)都道府県段階

47都道府県について、16年度から26年度までの間に生産調整目標を達成した都道府県(以下「達成都道府県」という。)の割合をみると、図表10のとおり、最大でも約6割(28達成都道府県)にとどまっていた。また、全ての年度で達成都道府県であったものが12都道県(47都道府県の25.5%)あった一方で、いずれの年度も生産調整目標を達成しなかった都道府県が16府県(同34.0%)あった(別表4参照)。

図表10 達成都道府県の割合等の推移(平成16年度~26年度)

図表10 達成都道府県の割合等の推移(平成16年度~26年度) 画像

また、都道府県別に主食用水稲の作付面積と生産数量目標面積換算値のかい離面積の状況をみると、図表11のとおり、毎年度、都道府県間で大きな開差が生じている状況が続いており、かい離面積は、18年度が最大で14,375ha(生産数量目標面積換算値の30%に相当)となっていて、これは国段階のかい離面積(6.8万ha)の約2割を占めていた(都道府県別のかい離面積の詳細については別表5を参照)。

図表11 都道府県別のかい離面積の推移(平成16年度~26年度)

図表11 都道府県別のかい離面積の推移(平成16年度~26年度) 画像

なお、農林水産省は、27年度は、達成都道府県が36道府県(47都道府県の76.5%)となり、16年度から26年度まで生産調整目標を達成しなかった前記16府県の一部において、生産調整目標を達成したとしている。

(ウ)市町村段階

検査の対象とした前記の27道府県協議会に係る27道府県管内の全市町村について、22年度から26年度までの間に生産調整目標を達成した市町村(以下「達成市町村」という。)の割合をみると、図表12のとおり、おおむね7割前後で推移していた。

図表12 達成市町村の割合等の推移(平成22年度~26年度)

図表12 達成市町村の割合等の推移(平成22年度~26年度) 画像

また、検査の対象とした前記の160地域協議会に係る160市町村のうち、22年度から26年度までの間における生産数量目標面積換算値に対する主食用水稲の作付面積の割合(以下「対目標作付率」という。)を把握できた市町村について、市町村別の対目標作付率の推移をみると、図表13のとおり、上位25%以上を占める市町村については、対目標作付率が100%を超えていて、生産調整目標を達成しておらず、22年度には対目標作付率が150%を超えている市町村も見受けられた。このように、対目標作付率は、毎年度、市町村間で大きな開差が生じており、対目標作付率の開差は最大で77.3ポイント(22年度)、最小でも60.7ポイント(24年度)となっていた。

図表13 市町村別の対目標作付率の推移(平成22年度~26年度)

図表13 市町村別の対目標作付率の推移(平成22年度~26年度) 画像

検査の対象とした前記160地域協議会のうち、22年度から26年度までの各年度において生産調整目標を達成した農業者(非参加農業者を含む。以下「達成農業者」という。)の数を把握できた地域協議会全体について、全農業者に占める達成農業者の割合(以下「達成者率」という。)の推移をみると、図表14のとおり、各年度とも7割弱で推移していた。また、達成者率が100%となっていた地域協議会が毎年度2割程度あった一方で、達成者率が10%未満となっていた地域協議会が約4%から約8%までの間で推移しており、各年度とも、地域協議会間で達成状況に大きな差が生じていた。

図表14 地域協議会ごとの達成者率等の推移(平成22年度~26年度)

図表14 地域協議会ごとの達成者率等の推移(平成22年度~26年度) 画像

26年度に生産調整目標を達成しなかった農業者(非参加農業者を含む。以下「不達成農業者」という。)がいる地域協議会のうち、不達成農業者が生産調整目標を達成しなかった理由を聴取できた121地域協議会について、その主な理由をみたところ(複数回答あり)、図表15のとおり、生産調整目標を達成して米の直接支払交付金の交付を受けるよりも、独自の米の販路で米をより多く販売する方がメリットが大きいためとしていたのが72地域協議会(121地域協議会の59.5%)、自家消費用の米の確保を優先したいためとしていたのが60地域協議会(同49.5%)等となっていた。

特に、約6割の地域協議会が独自の米の販路で米をより多く販売する方がメリットが大きいとする理由を挙げていたことからみると、生産調整目標以上の主食用米を需要に応じて販売できるなどの意欲ある農業者は、主食用水稲の作付面積を生産調整目標以下にするメリットは乏しいと認識していることがうかがえる。また、農林水産省は、生産調整目標と実際の販売実績及び販売力との間に差が生じており、販売実績等を生産調整目標以内に収めようとすると取引先からの生産拡大の要請に応えられない場合があるなど、農業者にとって経営の発展が阻害される側面があったとしている。

このように、行政による生産調整目標の配分を前提としたこれまでの生産調整対策においては、意欲ある農業者にとって、需要に応じた米の生産が阻害されている面もあったと考えられる。

図表15 生産調整目標を達成しなかった主な理由(平成26年度)

図表15 生産調整目標を達成しなかった主な理由(平成26年度) 画像

26年度における160地域協議会全体の農業者について、経営規模別に達成者率をみると、図表16のとおり、10ha以上は97.3%、5ha以上10ha未満は92.0%、3ha以上5ha未満は86.2%となっており、おおむね経営規模が小さくなるほど達成者率が低くなる傾向がみられた。

図表16 経営規模別の達成者率(平成26年度)

図表16 経営規模別の達成者率(平成26年度) 画像

次に、上記の農業者について、経営形態別に達成者率をみると、図表17のとおり、集落営農が98.7%と最も高く、次いで法人が91.4%、個人(認定農業者)が87.7%、個人(認定農業者以外)が66.1%となっていた。

図表17 経営形態別の達成者率(平成26年度)

図表17 経営形態別の達成者率(平成26年度) 画像

イ 生産数量目標の配分等の実施状況

改正食糧法において、政府は、地域の特性に応じて生産調整の円滑な推進に関する施策を講ずるよう努めなければならない旨が規定されている。16年度以降の生産調整対策の実施方法について定めた「米の数量調整実施要綱」(平成16年15総食第825号農林水産事務次官依命通知)等(以下「生産調整要領」という。)によれば、16年度以降、都道府県段階及び市町村段階ともに、改正食糧法の趣旨を踏まえて、需要に応じた米づくりの観点から生産数量目標を決定することとされ、このうち市町村段階においては、農業者の経営動向、地域の米の作付状況等の地域の実情に応ずるなどして、参加農業者別の生産数量目標を決定することとされていた。そして、22年度以降は、上記の決定方法に代えて、地域協議会において「公正な議論の上で、配分ルールを決定」することとされた。

前記のとおり、農林水産省は、30年度を目途に、行政による生産数量目標の配分に頼らずとも、需要に応じた米の生産が行われることを目指すこととしており、行政による生産数量目標の配分等がこれまでどのように行われてきたかを把握しておくことは、今後、農業者等が中心となって円滑に需要に応じた米の生産が行えるよう推進していく上で重要であると考えられる。

そこで、16年度以降における生産数量目標の配分等について、国段階、都道府県段階及び市町村段階の各段階別にみると、次のとおりとなっていた。

(ア)国段階

各都道府県の生産数量目標は、全国の生産数量目標(注13)に都道府県別に算定した過去4か年の平均販売実績シェア(注14)を乗じて算定されていた。そして、当該平均販売実績シェアの算定に用いる各年度の販売実績は、都道府県ごとに次の算定式に基づいて算定されていた。

(各年度の販売実績の算定式)

各年度の販売実績 = 生産量 ± 6月末在庫の増減数量 + 配慮事項

注(1)
生産量は、主食用米の生産量を豊凶の影響により補正するなどした数量から生産数量目標に対する過剰作付分を控除した数量
注(2)
配慮事項は、生産数量目標を達成したことにより作付面積が生産数量目標(生産数量目標面積換算値)を下回った場合や都道府県間調整を行ったことにより生産数量目標が減少した場合等において、減少した数量の2分の1の数量

上記のとおり、各都道府県の生産数量目標は、過去の販売実績を考慮して算定されているが、各年度の販売実績は、当該各年度の生産数量目標の影響を受けていることから、一旦、生産数量目標が低く設定されると、これに伴って販売実績も低くなる傾向がみられ、将来にわたって、その影響が及ぶことになる。このため、配慮事項として生産量が生産数量目標を下回った分について販売実績に一定の加算をするなどの補正が行われていたが、生産数量目標を下回って生産した都道府県については、その翌年度の生産数量目標が依然として低下する仕組みとなっていた。

なお、農林水産省は、27年度の生産数量目標の配分に当たり、生産数量目標に加えて、各産地が自主的な判断により需要に応じた生産を促進することを図ることを目的として、生産数量目標を下回る数値である自主的取組参考値を併記するとともに、上記の仕組みに対応するため、28年度においては、都道府県間の不公平が生じないよう、27年度における都道府県別のシェアを固定し、28年度における全国の生産数量目標及び自主的取組参考値を当該シェアで案分することにより都道府県別の生産数量目標を設定しており、29年度においても同様に27年度における都道府県別のシェアを固定して設定する方針を公表している。

(注13)
全国の生産数量目標  前年度の主食用米等の供給量や民間流通米の在庫量の変動状況を考慮するなどして推計した全国における主食用米等の需要量を基に算定される米の生産量の目標値
(注14)
過去4か年の平均販売実績シェア  各都道府県の直近6か年の販売実績のうち最大値及び最小値を除く4か年における平均販売実績の同4か年における全国の平均販売実績に対する割合

生産数量目標面積換算値(都道府県別)の水田面積(同)に対する割合(以下「配分率」という。)について、16年度以降の推移をみると、図表18のとおり、最高で82.1%(17年度東京都)、最低で48.9%(26年度北海道)となっていた。そして、毎年度、最高と最低の配分率には26ポイント以上の開差が生じており、都道府県間で大きな差が生じていた。

図表18 配分率の推移(平成16年度~26年度)

図表18 配分率の推移(平成16年度~26年度) 画像

(イ)都道府県段階

生産調整要領によれば、都道府県は、農林水産省から提供された都道府県別の生産数量目標以下に収まるように、市町村別の生産数量目標を配分することなどとされている。

前記の27道府県について、16年度以降における市町村別の生産数量目標の配分方法の推移をみると、図表19のとおり、担い手となる農業者の割合が高い市町村に対して重点配分するなど何らかの要素を考慮して算定した生産数量目標を配分する方式(以下、何らかの要素を考慮して算定した生産数量目標を配分する方式を「要素配分方式」という。)を採用する道府県が毎年度多くを占めていたが、22年度には、各市町村の水田面積等に配分率等を一律に乗じて算定した生産数量目標を配分する方式(以下、一律に算定した生産数量目標を配分する方式を「一律配分方式」という。)を採用する県が増加した。これは、同年度に、米戸別所得補償モデル事業において、新たに主食用水稲の作付面積が交付金の助成対象となったことに伴い、農林水産省から都道府県等に対して留意文書が配布されており、同文書において生産数量目標の配分方法は「従来以上に公平・公正、透明性のある手続によることが必要」とされていたことが影響したと考えられる。

図表19 道府県による市町村別の生産数量目標の配分方法の推移(平成16年度~26年度)

図表19 道府県による市町村別の生産数量目標の配分方法の推移(平成16年度~26年度) 画像

さらに、27道府県のうち、26年度に要素配分方式を採用していた21道府県が、生産数量目標の算定に当たり、どのような要素を考慮していたかをみると、担い手農業者の割合等を考慮していたのが7府県(21道府県の33.3%)、有機米又は特別栽培米の生産量を考慮していたのが4道県(同19.0%)となっていた。

また、27道府県のうち15道県(要素配分方式を採用している21道府県のうち12道県、一律配分方式を採用している6県のうち3県)が、市町村間で生産数量目標の授受を行い、市町村の生産数量目標の補正を行う市町村間調整を行っていた。

(ウ)市町村段階

生産調整要領によれば、地域協議会は、市町村が都道府県から提供された市町村別の生産数量目標以下で、認定方針作成者に係る生産数量目標を算定し、これを認定方針作成者に提供することなどとされている。そして、認定方針作成者は、参加農業者別の生産数量目標及び生産数量目標面積換算値を算定し、これらを参加農業者に配分することとされている。

なお、非参加農業者については、21年度以前は、一部の都道府県において、生産数量目標を配分せず、その分を参加農業者の生産数量目標に上乗せすることが行われていたが、22年度以降は、前記のとおり、地域協議会から非参加農業者に対して、生産数量目標を配分するとともに、認定方針への参加を促すこととなっている。

検査の対象とした前記160地域協議会のうち、16年度から26年度までの各年度における農業者別の生産数量目標の配分方法を把握できた地域協議会について、その配分方法の推移をみると、図表20のとおり、19年度から21年度までを除き、過半数の地域協議会が、生産数量目標面積換算値(市町村別)の水田面積(同)に対する割合を各農業者の水田台帳上の水田面積に乗ずるなどして算定した生産数量目標を配分する一律配分方式を採用していた。

特に、22年度の戸別所得補償モデル対策以降、一律配分方式を採用する地域協議会が増加傾向となっている。これは、農林水産省の地方支分部局であった地域センター等が、生産数量目標を達成しなかった県における一部の地域協議会に対して、前記の留意文書を踏まえ、農業者間の公平を期するために、一律配分方式を採用することが望ましいとの指導をしていたことが影響したと考えられる。

図表20 地域協議会による農業者別の生産数量目標の配分方法の推移(平成16年度~26年度)

図表20 地域協議会による農業者別の生産数量目標の配分方法の推移(平成16年度~26年度) 画像

26年度に要素配分方式を採用していた69地域協議会について、生産数量目標の算定に当たり、どのような要素を考慮していたのかをみると、図表21のとおり、作付希望調査の結果を考慮していたのが25地域協議会(69地域協議会の36.2%)、担い手農業者を考慮していたのが18地域協議会(同26.0%)、有機米・特別栽培米を生産する農業者を考慮していたのが17地域協議会(同24.6%)となっていた。

図表21 農業者別の生産数量目標の算定における配分要素(平成26年度)

図表21 農業者別の生産数量目標の算定における配分要素(平成26年度) 画像

また、水田面積が10a未満の農業者に係る生産数量目標の配分方法について、26年度の状況をみると、10a未満の農業者は、その多くが自家消費用の米のみを生産している小規模な農家であることや、米の直接支払交付金の交付対象者とならないことから、生産調整の実施を求めるのが難しいなどとして、当該農業者の水田面積を生産数量目標面積換算値として配分し、実質上、生産調整の実施を求めないことにしていた地域協議会が21地域協議会(160地域協議会の13.1%)見受けられた。

生産調整要領によれば、認定方針作成者又は地域協議会の代表者(以下「認定方針作成者等」という。)は、他の認定方針作成者等との間で生産数量目標の授受を行うことにより、生産数量目標の補正を行うことができることとされており、また、従前から、地域協議会内の農業者間においても生産数量目標の補正(以下、農業者間の生産数量目標の授受による補正を「農業者間調整」という。)が行われている。26年度における農業者間調整の実施状況についてみると、農業者間調整を実施していたのは、95地域協議会(160地域協議会の59.3%)、実施していなかったのは65地域協議会(同40.6%)となっていた。

農業者間調整を実施していない理由について、上記の65地域協議会に聴取したところ(複数回答あり)、図表22のとおり、「農業者間調整が必要となる状況が生じていない」としていたのが41地域協議会(65地域協議会の63.0%)、「公平を期するために一律配分方式を採用しているので配分後に農業者間調整を行うのは適切でない」としていたのが14地域協議会(同21.5%)、「地域協議会において決定したルールに従って配分しているので配分後に農業者間調整を行うのは適切でない」としていたのが9地域協議会(同13.8%)となっていた。

図表22 農業者間調整を実施していない理由(平成26年度)

図表22 農業者間調整を実施していない理由(平成26年度) 画像

このように、生産数量目標の配分方法は、一律配分方式を採用していたり、要素配分方式を採用していたり、要素配分方式の配分要素が異なっていたりしていて、都道府県ごと及び地域協議会ごとに区々となっていた。これは、改正食糧法において、政府が生産調整の円滑な推進に関する施策を講ずるに当たっては、地域の特性に応じて行うよう努めなければならないこととなっており、生産数量目標の具体的な配分方法については、地域の裁量に委ねられていることによるものである。

一方、生産数量目標は、主食用水稲を作付けする全農業者を対象とした米の直接支払交付金の交付判定にも用いられており、生産数量目標の配分方法が都道府県ごと及び地域協議会ごとに区々となっていることによって、農業者ごとの生産数量目標の配分率に高低が生ずる場合には、水田面積の規模が同じ農業者であっても、主食用水稲を作付けすることができる面積に差が生じ、米の直接支払交付金の交付額にも差が生ずることになる。

ウ 生産数量目標の達成又は不達成の判定方法等

検査の対象とした前記の160地域協議会による26年度の生産数量目標の達成又は不達成の判定方法をみると、次の三つの方法のうちのいずれかの方法によって行われていた。

① 農業者間調整を実施しており、農業者別に農業者間調整後の生産数量目標面積換算値と主食用水稲の作付面積とを比較し、生産数量目標の達成又は不達成を判定する。

② 農業者間調整を実施しておらず、農業者別に認定方針作成者等が当初配分した生産数量目標面積換算値と主食用水稲の作付面積とを比較し、生産数量目標の達成又は不達成を判定する。

③ 地域協議会又は集落に配分された生産数量目標面積換算値と、当該地域協議会管内又は当該集落内の農業者の主食用水稲の作付面積の合計とを比較し、後者の作付面積の合計が前者の生産数量目標面積換算値以下である場合は、各農業者の主食用水稲の作付面積を農業者別の生産数量目標面積換算値とみなして、地域協議会管内又は集落内の全農業者を生産数量目標達成と判定する。

そして、上記①、②及び③の判定方法別に、地域協議会数等をみると、図表23のとおりとなっていた。

図表23 地域協議会による達成又は不達成の判定方法(平成26年度)

図表23 地域協議会による達成又は不達成の判定方法(平成26年度) 画像

これらの方法のうち①の方法による場合、農業者別の生産数量目標は、前記の「公平・公正、透明性のある手続」により定められた配分ルールに基づいて地域協議会から農業者に配分された後に、農業者間において農業者間調整が行われて決定されることになる。そして、当初配分された生産数量目標を超えて主食用水稲の作付けを希望するなどして他の農業者から生産数量目標の供出を受けた農業者は、より多くの主食用水稲の作付けが可能となるだけでなく、生産数量目標を達成した場合には、より多くの米の直接支払交付金の交付を受けられることになる。農業者間調整により他の農業者から生産数量目標の供出を受けた農業者のうち、米の直接支払交付金の交付を受けた者の中には、農業者間調整後の生産数量目標面積換算値と水田台帳上の水田面積とが同一となり、さらに、当該水田面積と実際に作付けした主食用水稲の作付面積とが同一となっていて、主食用米の生産量が全く抑制されていない者も見受けられた。

上記の農業者は、いずれも農業者別の生産数量目標を達成していて、米の直接支払交付金の交付要件を満たしており、制度上認められないものではないものの、個々の農業者に係る農業者間調整後の生産数量目標面積換算値が水田台帳上の水田面積及び主食用水稲の作付面積と同一となっていて、主食用米の生産量の実質的な抑制に結び付いていない場合においても、当該農業者に対して米の直接支払交付金が交付される仕組みとなっている。

農業者間調整後の生産数量目標面積換算値が主食用水稲の作付面積等と同一となっているものについて事例を示すと、次のとおりである。

<事例1> 個々の農業者に係る農業者間調整後の生産数量目標面積換算値が主食用水稲の作付面積等と同一となっていて、米の生産量の抑制に結び付いていないもの

山形県鶴岡市農業振興協議会は、平成26年度に山形県から生産数量目標面積換算値9,935haの配分を受けた後、市町村間調整を行った結果、同協議会における26年度の生産数量目標面積換算値を9,986haとした。そして、同協議会は、管内の農業者6,537人に対して計9,974haの生産数量目標面積換算値の配分を行っていた。

同協議会管内の農業者6,537人のうち、6,330人(管内の農業者の96.8%)は、農業者間調整を実施して生産数量目標面積換算値の変更を行っており、その結果、3,500人の農業者(同53.5%)が、主食用水稲の作付面積(以下「作付面積」という。)計9,834ha(管内の作付面積の98.5%)について米の直接支払交付金の交付を受けていた。

同交付金の交付を受けた農業者のうち2,111人(作付面積計6,423ha)は、農業者間調整で他の農業者から供出を受けたことにより、同協議会から当初配分された生産数量目標面積換算値を上回る生産数量目標面積換算値に基づいて主食用水稲の作付けを行っていた。そして、このうちの73人(作付面積計91ha)については、個々の農業者に係る農業者間調整後の生産数量目標面積換算値が水田台帳上の水田面積及び作付面積と同一となっていて、主食用米の生産量が全く抑制されていなかった。

また、③の方法については、生産調整対策が主食用米の生産量の抑制を目的としていることからみて、生産数量目標の達成又は不達成について、農業者ごとではなく地域協議会や地域協議会から配分を受けた集落を単位として判定したとしても、当該地域協議会又は集落全体の生産数量目標の範囲内で主食用水稲を作付けしている限り、必ずしもその目的に反するものではない。

一方、米の直接支払交付金は、地域協議会や集落ではなく個々の農業者に対して交付されるものであり、生産数量目標の達成又は不達成については、農業者ごとの生産数量目標に基づいて判定することが適当であると考えられる。

しかし、一部の地域協議会において、集落単位で生産数量目標を達成した場合は、当該集落内の全農業者を達成農業者とする一方で、集落単位で生産数量目標を達成しなかった場合は、当該集落内の全農業者を不達成農業者とはせず農業者ごとに達成又は不達成を判定するなど、判定方法が統一されていないものが見受けられた。

上記について事例を示すと、次のとおりである。

<事例2> 生産数量目標の達成又は不達成について、集落単位で達成となる場合は集落単位、集落単位で不達成となる場合は農業者ごとに判定するなどしていて判定方法が統一されていないもの

岐阜県岐阜市農業再生協議会は、平成26年度の生産調整対策の実施に向けて、管内31地区の主食用水稲の作付希望面積(以下「希望面積」という。)を調査し、31地区の希望面積の合計と同協議会に配分された生産数量目標面積換算値(以下「協議会目標面積」という。)とを比較して、31地区の希望面積の合計が協議会目標面積以下であれば管内の全農業者を達成農業者と判定することとしていた。

しかし、同協議会は上記の比較の結果、31地区の希望面積の合計が協議会目標面積を上回ったことから地区ごとに比較することとし、26地区を達成、5地区を不達成とした上で、26地区については地区内の全農業者を達成農業者と判定していた。一方、5地区については地区内の全農業者1,528人を不達成農業者と判定するのではなく農業者ごとに判定することとして、このうちの425人を不達成農業者と判定し、残りの1,103人を達成農業者と判定していた。

エ 認定方針への参加状況等

改正食糧法及び生産調整方針認定要領(平成16年15総食第852号農林水産省総合食料局長通知)によれば、生産数量目標を確実に達成するために適切なものであることなどが生産調整方針の認定の要件とされており、参加農業者は生産調整方針に従って米の生産を行うこととされている。そして、認定方針作成者は、生産調整要領に基づいて参加農業者に対して生産数量目標及び生産数量目標面積換算値を配分することとなっているため、参加農業者を把握することが必要となる。

そこで、検査の対象とした前記160地域協議会のうち、参加農業者の全農業者に対する割合(以下「参加率」という。)を把握できた地域協議会について、22年度から26年度までの各年度における地域協議会全体の参加率の推移をみると、図表24のとおり、毎年度約9割となっていた。また、参加率が100%となっている地域協議会が7割弱で推移している一方で、参加率が最低で1.4%(22年度)にとどまっているなど著しく低い地域協議会も見受けられた。

図表24 地域協議会ごとの参加率の推移(平成22年度~26年度)

図表24 地域協議会ごとの参加率の推移(平成22年度~26年度)

また、26年度において参加率を把握できた160地域協議会について、地域協議会ごとの参加率と生産数量目標を達成した農業者に係る達成者率を対比すると、図表25のとおり、達成者率が参加率を下回っていて、参加農業者であるのに不達成農業者がいた地域協議会が113地域協議会(160地域協議会の70.6%)あり、この中には参加率が100%となっていたのに達成者率が1.0%と著しく低い地域協議会も見受けられた。

図表25 地域協議会ごとの参加率と達成者率の対比(平成26年度)

図表25 地域協議会ごとの参加率と達成者率の対比(平成26年度) 画像

上記を踏まえて、160地域協議会において、主にどのような農業者を参加農業者としているかについてみると、図表26のとおり、31地域協議会(160地域協議会の19.3%)では農業者に参加の意思を確認していたが、68地域協議会(同42.5%)では生産数量目標を配分した農業者を全て参加農業者としていたり、9地域協議会(同5.6%)では米の作付実績又は出荷実績がある農業者を全て参加農業者としていたりしていて、農業者が認定方針に参加する意思があるかどうかを確認していなかったと認められる地域協議会が計77地域協議会(同48.1%)見受けられた。

図表26 地域協議会ごとの参加農業者の把握方法

図表26 地域協議会ごとの参加農業者の把握方法 画像

以上のとおり、参加農業者であるのに不達成農業者がいたり、生産数量目標を配分した農業者を全て参加農業者としていたりしていて、生産調整要領において求められる運用が行われていないと認められる地域協議会が見受けられた。

地域協議会管内の参加農業者のほとんどが不達成農業者となっていたなどのものについて事例を示すと、次のとおりである。

<事例3> 参加農業者のほとんどが不達成農業者となっていたり、生産数量目標を配分した農業者を全て参加農業者としたりしているもの

千葉県佐倉市地域農業再生協議会は、平成26年度に、管内の全農業者2,336人を参加農業者としていた。

しかし、同年度の達成者率をみると、1.7%となっており、参加農業者のほとんどが不達成農業者となっていた。また、同協議会は、生産数量目標を配分した農業者を全て参加農業者としており、認定方針への参加の意思を個々の農業者に確認していなかった。

オ 水稲生産実施計画書の提出状況

生産調整要領によれば、農業者が生産数量目標の配分を受けた場合、当年度の主食用水稲の作付面積等を記載した水稲生産実施計画書(以下「計画書」という。)を認定方針作成者等へ提出することとされている(以下、計画書を提出した農業者を「提出農業者」、計画書を提出していない農業者を「未提出農業者」という。)。

そこで、検査の対象とした前記160地域協議会のうち、提出農業者の全農業者に対する割合(以下「提出率」という。)を把握できた地域協議会について、22年度から26年度までの各年度における地域協議会全体の提出率の推移をみると、図表27のとおり、毎年度約8割前後で推移していた。また、提出率が100%の地域協議会の割合は2割から3割までの間で推移しており、26年度は38地域協議会で23.7%となっていた(未提出農業者がいた地域協議会は計122地域協議会)。一方、提出率が50%未満の地域協議会の割合は約1割で推移しており、この中には、提出率が最低で0.1%(22年度)と著しく低い地域協議会も見受けられた。

図表27 地域協議会ごとの提出率の推移(平成22年度~26年度)

図表27 地域協議会ごとの提出率の推移(平成22年度~26年度) 画像

また、26年度において提出率を把握できた160地域協議会について、地域協議会ごとの参加率と提出率を対比すると、図表28のとおり、提出率が参加率を下回っていて、参加農業者であるのに未提出農業者がいた地域協議会が96地域協議会(160地域協議会の60.0%)あり、この中には参加率が100%となっていたのに提出率が1.2%と著しく低くなっていて、生産調整要領において求められる運用が行われていないと認められる地域協議会が見受けられた。

図表28 地域協議会ごとの参加率と提出率の対比(平成26年度)

図表28 地域協議会ごとの参加率と提出率の対比(平成26年度) 画像

未提出農業者がいた理由について地域協議会に聴取したところ、未提出農業者は、米の直接支払交付金の交付対象に該当していなかったり、交付対象に該当していても交付金の交付を受けるつもりがなかったりしていることから計画書を提出する意味がないためとする地域協議会が多かった。また、このほか、前記のとおり、半数近い地域協議会が、認定方針への参加意思の有無にかかわらず生産数量目標を配分した農業者を全て参加農業者とするなどしていることも影響していると考えられる。

提出率を把握できた前記の160地域協議会全体の農業者について、さらに、経営規模別及び経営形態別の提出率をみると、図表29及び図表30のとおり、経営規模が小さいほど低くなり、個人(認定農業者以外)が他の経営形態に比べて最も低くなっていた。

図表29 経営規模別の計画書の提出率(平成26年度)

図表29 経営規模別の計画書の提出率(平成26年度)

図表30 経営形態別の計画書の提出率(平成26年度)

図表30 経営形態別の計画書の提出率(平成26年度)

カ 主食用水稲の作付面積の確認状況

地域協議会は、生産調整要領に基づき、現地確認等により当年度における当該地域全体の主食用水稲の作付面積の適正な把握に努めることとなっており、計画書に記載された主食用水稲の作付面積について現地を確認するなどして確認を行っている。

そこで、検査の対象とした前記160地域協議会のうち、26年度において未提出農業者がいた122地域協議会について、未提出農業者に係る主食用水稲の作付面積の確認をどのように行っているかをみたところ、図表31のとおり、31地域協議会は現地確認等により確認していたが、81地域協議会は、過去の主食用水稲の作付面積をそのまま当年度の作付面積とみなしたり、水田台帳上の水田面積や生産数量目標面積換算値をそのまま主食用水稲の作付面積とみなしたりしていて、主食用水稲の作付面積を現地確認等により確認していなかった。

図表31 未提出農業者に係る主食用水稲の作付面積の確認方法

図表31 未提出農業者に係る主食用水稲の作付面積の確認方法 画像

上記の81地域協議会は、未提出農業者に係る主食用水稲の作付面積について現地確認等による確認を行っていないことから、市町村全体の主食用水稲の作付面積を正確には把握していなかった。これについて事例を示すと、次のとおりである。

<事例4> 未提出農業者に係る主食用水稲の作付面積について現地確認等により確認していなかったもの

鹿児島県霧島市農業再生協議会は、水田台帳上の水田面積が10a以下の農業者に対しては、水田面積を生産数量目標面積換算値として配分し、水田面積が10aを超える農業者に対しては、担い手となる農業者に重点配分するなどの要素配分方式により配分を行っている。そして、平成26年度において、同協議会全体の生産数量目標面積換算値1,907haに対して、主食用水稲の作付面積が計1,729haになったとして、生産数量目標を達成したとしていた。

しかし、同協議会が生産数量目標面積換算値を配分した農業者14,555人のうち14,101人は未提出農業者であり、同協議会は、これらの農業者に係る作付面積を現地確認等により確認することなく生産数量目標面積換算値をそのまま主食用水稲の作付面積とみなしていた。

このため、同協議会においては、管内の主食用水稲の作付面積を正確に把握していない状況となっていた。

(2)生産調整対策に係る事後評価の状況

生産調整対策は新基本法上どのように位置付けられているか、また、農林水産省において、改正食糧法施行期の16年度以降、新基本法の目的等を踏まえて事後評価が適時適切に行われ、その評価結果がその後の生産調整対策にどのように活用されてきたかなどについてみると、次のとおりとなっていた。

ア 生産調整対策の新基本法における位置付け等

新基本法は、図表32のとおり、その目的とされている「国民生活の安定向上及び国民経済の健全な発展」(第1条)を達成するために、「食料の安定供給の確保」(第2条)及び「多面的機能の発揮」(第3条)を図り、食料の安定供給の確保及び多面的機能の発揮の実現のために、「農業の持続的発展」(第4条)を図り、農業の持続的発展の実現のために、「農村の振興」(第5条)を図るといった理念構造となっている。そして、生産調整対策は、上記の「農業の持続的発展」に関する施策のうち、「農産物の価格の形成と経営の安定」(第30条)のための施策の一つとして位置付けられている。また、「農産物の価格の形成と経営の安定」について、新基本法第30条第1項では、「国は、消費者の需要に即した農業生産を推進するため、農産物の価格が需給事情及び品質評価を適切に反映して形成されるよう、必要な施策を講ずるものとする。」と規定されている。

図表32 生産調整対策の新基本法における位置付け

図表32 生産調整対策の新基本法における位置付け 画像

また、新基本法に掲げられた基本理念及び施策の基本方向を具体化し、それを的確に実施していくために、「食料・農業・農村基本計画」(以下「基本計画」という。)が策定されて、おおむね5年ごとに所要の変更を行うこととなった。そして、12年度の基本計画(平成12年3月閣議決定)によれば、「農業の持続的発展」の上位の理念に位置付けられている「食料の安定供給の確保」については、「食料の安定供給の確保は、消費者が良質な食料を合理的な価格で安定的に得られるようにすることを意味するものであり、消費者ニーズにこたえ得る農産物を提供していくことが農業生産の基本である。」などとされていた。

イ 農林水産省における生産調整対策に係る事後評価の状況

前記生産調整対策の新基本法における位置付け等を踏まえると、16年度以降の生産調整対策については、消費者の需要に即した米の生産が行われているか、米価が需給事情及び品質評価を適切に反映した価格になっているかなどについての評価が行われることが重要と考えられる。

そこで、農林水産省における生産調整対策に係る評価の考え方及び事後評価の実施状況についてみると、次のとおりとなっていた。

(ア)農林水産省における生産調整対策に係る評価の考え方

米価に対する評価について、農林水産省の見解を聴取したところ、同省は、生産調整対策を評価する指標として価格を設定することは困難であるとしており、その理由は、米価は需給動向等を踏まえて民間取引の中で決定されるものであることから、行政が適切な米価を設定することは適切ではなく、適切な米価の水準を設定することも困難であるとしている。

農林水産省は、生産調整対策の基本的な考え方は、主食用米の需要が減少傾向にあり潜在的に生産力が過剰な構造となっている中で、需要に応じた主食用米の生産を進めることであるとしていることから、生産調整対策は、需要に応じた主食用米の生産が行われたか、すなわち毎年度の主食用米の生産量が生産数量目標を達成したかを確認することにより評価できるとしている。

また、農林水産省は、前記のとおり、改正食糧法に基づき、米穀の需給及び価格の安定を図るため、毎年、基本指針を定めることとしている。基本指針の策定に当たっては、食料・農業・農村政策審議会の意見を聴取し、当年6月末の民間在庫数量、当年度の主食用米等の生産量(当年度10月15日現在の予想収穫量。以下同じ。)及び翌年度の需要見通しを踏まえて、翌年度の生産数量目標を算定している。そして、上記のとおり、生産調整対策の基本的な考え方は、需要に応じた主食用米の生産を進めることであるとしていることから、豊凶変動の影響はあるものの、毎年度の生産調整対策の効果は、当年度の主食用米等の生産量に反映されることになるとしている。

以上のことから、農林水産省における生産調整対策に係る評価の考え方によると、生産調整対策は生産数量目標を達成したかにより評価され、また、翌年度の生産数量目標の算定の際には、当年度の生産調整対策の効果が反映された当年度の主食用米等の生産量が活用されるというサイクルが毎年繰り返されることになる。

(イ)農林水産省における生産調整対策に係る事後評価の実施状況

農林水産省は、「行政機関が行う政策の評価に関する法律」(平成13年法律第86号)に基づき、基本計画等を踏まえて政策分野及び目標を設定し、政策評価を実施している。そこで、16年度から26年度までの間を対象に同省が実施した生産調整対策に係る事後評価について、12、17、22各年度の基本計画(計画期間は、それぞれ12年度から16年度まで、17年度から21年度まで、22年度から26年度までとなっている。)の別に、政策評価を中心として、生産調整対策に係る事後評価の実施状況をみると、次のとおりとなっていた(別表7参照)。

a 16年度の事後評価の実施状況

16年度における生産調整対策は、12年度の基本計画等を踏まえて設定された政策分野のうち、米の需給政策分野の施策の一つとして位置付けられており、米の安定供給が図られたかについて評価することを意図した評価指標により評価が行われ、目標を達成したと評価されていた。

農林水産省は、生産調整対策については、政策評価のほか、国段階及び都道府県段階における生産数量目標の達成状況を確認することにより評価したとしているが、16年度において国段階の生産数量目標の達成に至っていなかったことについての直接の評価や所見は明示されておらず、また、評価結果がどのように活用されたのかが必ずしも明らかではなかった。

b 17年度から21年度までの事後評価の実施状況

17年度から21年度までの間における生産調整対策は、図表33のとおり、17年度の基本計画を踏まえて設定された政策分野のうち、主要食糧の需給の安定を図るとともに、食品産業の健全な発展を図り、食料の安定供給を確保することを目標とする「主要食糧の需給の安定の確保」のための施策の一つとして位置付けられていた。

そして、生産調整対策については、農業者及び農業者団体が主体的に地域の販売戦略により需要に応じた米の生産を行っているかなどを評価することを意図した評価指標により評価が行われ、いずれの年度も「所期の目標は達成している」又は「おおむね有効」と評価されていた。

図表33 平成17年度から21年度までの政策分野等

図表33 平成17年度から21年度までの政策分野等 画像

ただし、18年度の政策評価においては、改善・見直しの方向性として、市町村段階で一律的な配分を採用している市町村の割合がいまだ高く、地域の創意工夫を凝らした配分要素の設定をしている市町村の割合が低いこと、JA等による地域レベルでの農業者への情報提供の内容について、産地ごとの米の販売価格、販売数量及び販売先情報等、農業者の米づくりに資する内容への充実を図ることが重要であることなどが指摘されていた。また、19年度の政策評価においては、米価が大幅に下落したことを受けて実施された米緊急対策に関して、政策評価会委員からは、これまで生産調整に協力してきた生産者が、協力しないと意を翻すなど、生産者の生産調整への意識に影響を与えていることなどが指摘されていた。

このようなことから、農林水産省は、20年度の政策評価において、計画書の提出状況を評価指標とするなど生産調整対策の実効性の確保について評価することを意図した評価指標に変更することとし、これらの評価指標による評価結果については、20、21両年度とも実効性が確保されていたとしていた。しかし、20、21両年度における主食用水稲の作付面積が生産数量目標面積換算値を超過した面積は19年度よりも縮小していたものの、主食用米の生産量は生産数量目標を上回っていた。

また、農林水産省は、21年度は、これまでの大豆、麦等の生産と併せて、水田で米粉用米や飼料用米の生産を本格的に開始する「水田フル活用への転換元年」として位置付けられたとしており、21年度の政策評価においては、「主要食糧の需給の安定の確保」の評価指標の一つとして「米穀の新用途への利用の促進」を新たに設定し、当該指標の具体的数値である新規需要米(米粉・飼料用米)の作付面積は前年度より拡大していると評価していた。

なお、生産調整対策については、17年度から21年度までの間においても、国段階及び都道府県段階における生産数量目標の達成状況を確認することにより評価したとしているが、いずれの年度においても、国段階の生産数量目標の達成に至っていなかったことについての直接の評価や所見は明示されておらず、また、評価結果がどのように活用されたのかが必ずしも明らかではなかった。

c 22年度から26年度までの事後評価の実施状況

22年度から26年度までの間における政策評価においては、図表34のとおり、新基本法の理念に対応した「食料の安定供給の確保」や「農業の持続的な発展」が中目標として掲げられていたが、これらの中目標に係る政策分野の評価において、16年度から21年度までの間における政策評価において設定されていた「米の需給政策」、「主要食糧の需給の安定の確保」といった米政策に重点を置いた政策分野及びこれに係る評価指標は設定されていなかった。

なお、農林水産省は、21年度の政策評価において評価指標の一つとして設定していた「米穀の新用途への利用の促進」という面からみると、新規需要米(米粉・飼料用米)の作付面積は、20年度の約2,000haから27年度の約84,000haまで拡大しているとしている。また、同省は、25年2月以降、生産調整対策について検証を進める中で、米については、麦、大豆等と違い、十分な国境措置があり、諸外国との生産条件の格差から生ずる価格面での不利はないこと、全ての販売農家を対象とすることは農地流動化のペースを遅らせる面があること、米の潜在的生産力が需要を上回っている状況にあることなどの政策的な課題があることから、前記のとおり米の直接支払交付金について経過期間を設けた上で廃止するとともに、飼料用米及び米粉用米の作付けに当たり従来の作付面積に応じた金額の交付から実際の収量に応じた金額の交付へ変更すること並びに麦及び大豆を含む産地づくりに向けた助成を充実することを決定したとしている。

なお、生産調整対策については、22年度から26年度までの間においても、国段階及び都道府県段階における生産数量目標の達成状況を確認することにより評価したとしているが、いずれの年度においても、国段階の生産数量目標の達成に至っていなかったことについての直接の評価や所見は明示されておらず、また、評価結果がどのように活用されたのかが必ずしも明らかではなかった。

図表34 平成22年度から26年度までの政策分野等

図表34 平成22年度から26年度までの政策分野等 画像

以上のとおり、農林水産省は、生産調整対策について、一部の年度を除き、政策評価の中で米政策に重点を置いた評価指標を設定して評価を行っていた。政策評価以外では、同省は、国段階及び都道府県段階の生産数量目標の達成状況を確認することにより評価した上で、その効果を翌年度の米の需給見通しや支援体系の定期的な見直しの検討に反映してきたとしているが、生産調整対策の直接の評価や所見は明示されていないことから成果目標や評価指標の設定内容が明らかではなく、また、評価結果がどのように活用されたのかが必ずしも明らかではなかった。

今後の米政策に係る事後評価については、これまで実施されてきた政策評価における評価指標の設定内容を踏まえるとともに、政策評価以外では生産調整対策の直接の評価等が明示されてこなかったことなどに鑑み、分かりやすい成果目標及び評価指標を設定するなどの工夫が望まれる。

(3)生産調整対策による影響

ア 作付規模別の米の生産コスト及び単収の状況

26年度の米の生産コスト及び単収(10a当たりの収穫量)の状況について、水稲の作付規模別にみると、図表35のとおり、作付規模が大きいほど生産コストは低くなり、また、作付規模が1ha以上の経営体では1ha未満の経営体よりも単収が高くなる傾向が見受けられた。

図表35 作付規模別の生産コスト及び平均単収の状況(平成26年度)

図表35 作付規模別の生産コスト及び平均単収の状況(平成26年度) 画像

米の生産コストについては、15年度の政策評価における政策分野の一つとして設定された「米麦等の生産対策」において「過去最大規模の生産調整が実施されたことなどから、大規模層への作付けの集中や土地の流動化が進んでおらず、水田作付面積の大きい農業者の増加割合が鈍化した」との評価が行われていた。

そして、現在実施されている生産調整対策において、米の生産コストとの関係についてみると、特に、農業者に対する生産数量目標の配分が一律配分方式によって行われ、かつ、大規模農業者に生産数量目標を供出する農業者間調整が行われなかった場合、農業者ごとに同一の比率で主食用水稲の作付面積が削減されることになるため、大規模農業者は作付規模を更に拡大できず、生産コストの削減を図ることができない。このような場合、生産調整対策には、作付規模の拡大による米の生産コストの低減に寄与しない側面があると考えられる。

一方、前記の農林水産業・地域の活力創造プラン及び日本再興戦略(平成25年6月閣議決定)によれば、今後10年間で担い手の米の生産コストを現状(23年度時点)全国平均60㎏当たり16,000円から4割削減することが目標として掲げられている。したがって、今後の米の生産調整対策の推進に当たっては、生産コストの低減との整合性も十分に考慮に入れることが肝要である。

なお、前記のとおり、農業者間調整が行われなかった場合には、米の生産コストの低減に寄与しない側面があると考えられる一方、農業者間調整が行われた場合には、主食用米の生産量の実質的な抑制に結び付いていない場合においても当該農業者に対して米の直接支払交付金が交付されることになる。

イ 需給ギャップと米価の関係

一般的には、主食用米等の供給量が需要量を上回ると米価は下落すると考えられている。

そこで、主食用米等の供給量と需要量の開差数量(以下「需給ギャップ」という。)の需要量に対する割合と60㎏当たりの全国の平均米価との関係について、18年度から25年度までの状況をみると、図表36のとおり、25年度までは需給ギャップの需要量に対する割合が大きいほど平均米価が下がる傾向があるなど需給ギャップと平均米価との間に関連性が見受けられた。ただし、26年度については、供給量が需要量を下回ったにもかかわらず、同年度の平均米価は、供給量が需要量を上回った年度(19、21、22、23、25各年度)の平均米価よりも低くなっていた。

このことから、米価は、需給ギャップと一定の関連性があると考えられるものの、需給ギャップ以外の影響も大きく受ける場合があることがうかがえる。農林水産省は、需給ギャップ以外の影響として、例えば、農業者が米を出荷する際にJA等の集荷業者が農業者に支払う概算金等の影響を受けることがあるとしている。

図表36 需給ギャップの需要量に対する割合と平均米価の関係(平成18年度~26年度)

図表36 需給ギャップの需要量に対する割合と平均米価の関係(平成18年度~26年度) 画像

ウ 転作作物に係る農業者収入の状況

農業者が農作物の生産を行った場合の収入(以下「農業者収入」という。)は、主に交付金による収入と生産物の販売収入とに分けられる。そして、交付金による収入のうち生産調整対策に係る交付金についてみると、農業者が麦又は大豆への転作を行った場合における10a当たりの交付金の交付単価は、通常の単価(以下「基本単価」という。)、とも補償(注15)による単価(以下「とも補償単価」という。)、加算措置が適用された場合の単価(以下「加算単価」という。また、基本単価、とも補償単価及び加算単価を合わせて「全体単価」という。)に分けられる。一定の条件の下で、これらの交付単価について昭和44年度から平成26年度までの推移をみると、図表37のとおり、年度によって大きく増減を繰り返していた。特に、基本単価及び加算単価は、昭和51年度から53年度までにかけて大きく増加していた一方で、56年度から平成8年度までにかけては大きく減少していた。また、10年度は、とも補償が導入されて、全体単価も増加することとなったが、16年度以降は、とも補償が廃止されたことに伴い、全体単価も減少することとなった。そして、戸別所得補償モデル対策が実施された22年度以降は基本単価のみの35,000円となっている。

(注15)
とも補償 全国農業協同組合連合会が、農業者の拠出と国の助成により資金(全国とも補償資金)を造成し、当該資金から米の生産調整を実施した農業者に対して、補償金を交付する事業。農業者から拠出された拠出金額は、平成10、11両年度は10a当たり3,000円、12年度から15年度までの間は同4,000円となっていた。

図表37 麦又は大豆への転作を行った場合の交付金等の交付単価の推移(昭和44年度~平成26年度)

図表37 麦又は大豆への転作を行った場合の交付金等の交付単価の推移(昭和44年度~平成26年度) 画像

また、検査の対象とした前記の160地域協議会ごとに、25年度における水田活用の直接支払交付金の交付対象面積が大きかった順に上位20名の農業者を上限として、麦については計1,407人、大豆については計1,501人を抽出して、それぞれ農業者ごとの10a当たりの販売金額(以下「単位販売金額」という。)を算出したところ、図表38のとおり、農業者ごとで大きく異なっていた。また、単位販売金額と水田活用の直接支払交付金の全体単価とを比較すると、麦で9割超、大豆で8割超の農業者において単位販売金額が全体単価の35,000円を下回っていた。水田活用の直接支払交付金については、水田において麦、大豆等の作物を生産した場合に、主食用米を生産した場合との所得差が生じないようにすることを基本として面積当たりの単価を設定しており、大部分の農業者においては、交付金による収入が転作作物の麦又は大豆に係る農業者収入において大きな割合を占めており、転作に係る交付金は、農業者による転作の実施に大きな影響を与えていたと考えられる。

図表38 農業者ごとの麦及び大豆の単位販売金額(平成25年度)

図表38 農業者ごとの麦及び大豆の単位販売金額(平成25年度) 画像

エ 水田の活用状況

生産調整対策の実施を通じて、水田において主食用米から麦、大豆、飼料作物等の作物への転換が進められている。水田における転作等の状況についてみると、次のとおりとなっていた。

(ア)国全体における転作の状況

生産調整対策が開始された昭和44年度以降における主食用米(平成19年度以前は主食用以外の米(注16)を含む。)以外の作物への転作の状況をみると、図表39-1及び図表39-2のとおり、昭和53年度に転作面積が急増(52年度比178.2%)していた。同年度には、水田総合利用対策から水田利用再編対策になり、生産調整対策に係る交付金等の交付額が前年度の約2.8倍に増加していた。その後、転作面積は57年度まで増加した後、58年度から60年度にかけて減少していたが、これらの動きは交付金等の交付額の増減に連動していた。

62年度は、水田利用再編対策から水田農業確立対策になり、交付金等の交付額が前年度の約8割に減少していたものの、転作面積は、一旦増加し、平成元年から6年度までの間は減少し続けていたが、これらの動きは交付金等の交付額の大きさに連動していた。

7年度からは、転作面積及び交付金等の交付額ともに再び増加に転じ、10年度は、新生産調整推進対策から緊急生産調整推進対策になり、交付金等の交付額が前年度の約15%減となっていたものの、転作面積は増加していた。なお、前記のとおり、10年度は、とも補償が導入された時期でもあった。

12年度から15年度までは、転作面積が増加していたが、この時期も交付金等の交付額の増加と連動していた。

16年度以降は、一転して転作面積が減少し、その後横ばいとなり、水田農業経営確立対策から水田農業構造改革対策になり、交付金等の交付額が前年度の約7割に減少し、その後横ばいとなっていた。

26年度は、転作面積が前年度の約7%増となり、交付金等の交付額も前年度の約15%増となっていた。

(注16)
主食用以外の米  稲発酵粗飼料用稲、加工用米、飼料用米、米粉用米及び備蓄用米

以上のとおり、全体的な傾向として、転作面積と交付金等の交付額は、連動して増減が繰り返されていた。主食用米の需要は依然として減少傾向にあり、今後においても、転作の重要性が見込まれることから、転作に係る交付金等が転作の実施に効果的、効率的に結び付いているかなど、転作に係る交付金等の交付額の動向についても留意する必要があると考えられる。

図表39-1 転作面積等の推移(昭和44年度~平成26年度)

図表39-1 転作面積等の推移(昭和44年度~平成26年度) 画像

図表39-2 転作面積と交付金等の交付額の推移(昭和44年度~平成26年度)

図表39-2 転作面積と交付金等の交付額の推移(昭和44年度~平成26年度) 画像

(イ)都道府県別の米以外の作物への転作の状況

16年度から26年度までの間における都道府県別の米以外の作物への転作の状況について、水田面積に対する転作面積の割合(以下「転作率」という。)の推移をみると、図表40のとおり、毎年度、半数の都道府県が1割から2割までの間で推移していたが、各年度における転作率の最高値と最低値をみると、都道府県間で40ポイント前後の大きな差が生じていた。

図表40 都道府県別の米以外の作物への転作率の推移(平成16年度~26年度)

図表40 都道府県別の米以外の作物への転作率の推移(平成16年度~26年度) 画像

(ウ)市町村別の転作の状況

検査の対象とした前記の160地域協議会のうち、作物別の転作率を把握できた地域協議会全体について、16年度から26年度までの各年度における全ての転作作物に係る作物別の転作率の推移をみたところ、図表41のとおり、麦、飼料作物、そば及び野菜については大きな変動はないものの、主食用以外の米については、22年度以降、著しい伸びが見受けられた。

図表41 全転作作物の作物別の転作率の推移(平成16年度~26年度)

図表41 全転作作物の作物別の転作率の推移(平成16年度~26年度) 画像

(エ)経営規模別及び経営形態別の転作等の状況

検査の対象とした前記の160地域協議会全体の農業者について、経営規模別に26年度の転作率をみると、図表42のとおり、最も高いのは10ha以上の大規模農業者で39.1%、最も低いのは0.1ha以上0.5ha未満の農業者で17.4%となっており、0.1ha以上の農業者については、経営規模が大きいほど転作率が高くなる傾向がみられた。

また、同様に経営形態別にみると、図表43のとおり、転作率が最も高いのは法人の39.1%、次いで個人(認定農業者)の37.6%であり、最も低いのは個人(認定農業者以外)の19.7%となっていた。

さらに、二毛作を含めた場合の主食用水稲以外の作付面積の水田面積に対する割合(以下「作付率」という。)をみると、経営規模が大きいほど作付率が高くなる傾向がみられるとともに、経営形態別では集落営農及び法人の作付率が高くなっていた。

図表42 経営規模別の転作率等の状況(平成26年度)

図表42 経営規模別の転作率等の状況(平成26年度) 画像

図表43 経営形態別の転作率等の状況(平成26年度)

図表43 経営形態別の転作率等の状況(平成26年度) 画像

(オ)非作付地等の状況

検査の対象とした前記の160地域協議会における26年度の水田台帳上の水田のうち、主食用水稲及び転作作物のいずれも作付けされていない水田(以下「非作付地」という。)について、地域協議会ごとの状況をみると、図表44のとおり、水田面積全体に占める非作付地の面積の割合は、0%から46.9%までとなっており、平均では14.9%となっていた。

図表44 非作付地の状況(平成26年度)

図表44 非作付地の状況(平成26年度) 画像

また、非作付地の中には荒廃化している水田があり、20年度から、農業委員会によって荒廃農地調査が実施されている。この調査結果を基に荒廃農地に該当していたり、林地や養魚池等に転換されていたりしていて、事実上、作物を作付けすることができない水田(以下「荒廃水田等」という。)について、地域協議会ごとの状況をみると、図表45のとおり、非作付地の面積全体に占める荒廃水田等の面積の割合は、0%から99.9%までとなっており、平均では21.1%となっていた。

図表45 荒廃水田等の状況(平成26年度)

図表45 荒廃水田等の状況(平成26年度) 画像

さらに、地域協議会ごとに転作率と水田面積全体に占める荒廃水田等の面積の割合を対比してみると、図表46のとおり、転作率が低い地域協議会の中には、荒廃水田等の面積の割合が高くなっている地域協議会も見受けられた。一般的に、荒廃農地等の発生は、農業者の高齢化や減少が主たる要因であると考えられるものの、一部の地域協議会においては、「米を作れないことが非作付地の拡大につながっている」との意見も見受けられた。

図表46 地域協議会ごとの転作率と水田面積全体に占める荒廃水田等の面積の割合の対比(平成26年度)

図表46 地域協議会ごとの転作率と水田面積全体に占める荒廃水田等の面積の割合の対比(平成26年度) 画像

オ 生産調整対策のメリット及びデメリット

これまで実施されてきた生産調整対策のメリット及びデメリットについて、検査の対象とした前記の160地域協議会に聴取したところ、図表47のとおり、104地域協議会(160地域協議会の65.0%)が「米価が安定し、農業者の収入の安定につながっている」としたり、87地域協議会(同54.3%)が「転作が奨励されることで水田の有効活用につながっている」としたりするなど、多くの地域協議会において一定のメリットがあったと考えていた。一方、131地域協議会(同81.8%)が「制度が複雑で、頻繁に変更されたことが、農業者の不信感につながっている」としたり、72地域協議会(同45.0%)が「米を作れないことが非作付地の拡大につながっている」としたり、56地域協議会(同35.0%)が「米を作れないことで転作に適さない水田にも転作を行わざるを得ない」としたり、35地域協議会(同21.8%)が「出荷団体や農業者が主体的に判断する機会が失われてきた」としたりするなど、多くの地域協議会が一定のデメリットもあったと考えていた。

なお、農林水産省は、従来、麦や大豆等の米以外の転作作物の作付けに適さないとされてきた産地においても、近年は、飼料用米が転作の選択肢として認識されるようになり、主食用以外の米を軸にした生産調整対策に取り組むことができるようになっているとしている。

図表47 生産調整対策のメリット及びデメリット(地域協議会に対する聴取結果)

図表47 生産調整対策のメリット及びデメリット(地域協議会に対する聴取結果) 画像

(4)生産調整の見直しに向けた取組の状況等

農林水産省は、30年度を目途とした生産調整の見直しに向けての環境整備として、生産者や集荷業者・団体自らの経営判断や販売戦略による作付判断に資するよう、きめ細やかな情報を提供するなどの取組(以下「30年度に向けた取組」という。)を進めており、マンスリーレポートにおいて、米穀等に関する需給情報を毎月公表するなどしている。具体的には、26年4月から、産地別及び主要銘柄別の集荷、契約及び販売状況に関する情報並びに産地別の民間在庫量を公表し、同年12月から、飼料用米、麦及び大豆の需要情報を公表するなど、各生産者の経営判断等に資する需給情報の拡充を図っている。同省は、今後も必要に応じて、提供する情報を拡充したり、生産者にとってより理解しやすい内容・構成にする工夫を行ったりすることとしている。また、27年度においては、米の産地の自主的な生産の判断を促すために、生産数量目標を配分する際に前記の自主的取組参考値を付記して、幅を持った配分が行われるようにするとともに、各産地が他の産地の作付動向を参考にできるように、27年5月15日時点の飼料用米の中間的な取組状況を公表し、さらに、28年度においては、中間的な取組状況の公表対象に麦、大豆等を追加するなど、新たな30年度に向けた取組を行っている。

そこで、27年8月末時点における30年度に向けた取組の状況について、検査の対象とした前記の160地域協議会に聴取したところ、農林水産省が公表しているマンスリーレポートを活用したり、主食用米のブランド化を推進したりするなど具体的な取組を進めている地域協議会がある一方で、30年度以降の具体的な方向性が示されていないなどの理由により、30年度に向けた取組を意識的には行っていない地域協議会も多く見受けられるなど、地域協議会ごとにその取組状況は区々となっていた。また、マンスリーレポートを活用していなかった地域協議会にその理由を聴取したところ、具体的な活用方法が分からないとしたり、マンスリーレポートの存在自体を知らないとしたりしている地域協議会もあった。

また、行政による生産数量目標の配分に頼らずに需要に応じた米の生産を行うために、今後どのようなことが重要になると考えるかについて聴取したところ、図表48のとおり、110地域協議会(160地域協議会の68.7%)が「農業者のより高度な経営判断」とし、66地域協議会(同41.2%)が「行政による具体的な実施方法の説明」とするなどしていて、農業者等のより高度な経営判断が求められるとする一方で、行政による説明や情報提供を求めている状況が見受けられた。

図表48 今後重要となると考えられる事項(地域協議会に対する聴取結果)

図表48 今後重要となると考えられる事項(地域協議会に対する聴取結果) 画像

以上のとおり、農林水産省は、30年度に向けた取組を進めているところであるが、地域協議会等における上記の取組状況等を踏まえてマンスリーレポートの活用方法について具体的に示すなどの取組を行っていくことが肝要である。