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国立大学法人が大学に設置する附属病院の運営について


3 検査の状況

(1)附属病院の経営状況等

ア 附属病院の診療科目及び病床数

診療科目及び病床数に係る特定機能病院の承認要件は、診療科目については、原則として所定の16診療科名全てを標ぼうすること、病床数については400床以上となっている。そこで、26年度末現在の各附属病院の診療科目及び病床数についてみたところ、図表1-1のとおり、全ての附属病院が特定機能病院の承認要件を満たしており、診療科目は、最多が42診療科、最少が20診療科、病床数は、最多が1,275床、最少が600床となっていた。

図表1-1 診療科目数及び病床数(平成26年度末現在)

(単位:附属病院)
病床数
診療科目数
600以上
699以下
700以上
799以下
800以上
899以下
900以上
999以下
1,000以上
1,199以下
1,200
以上
20以上29以下 13 3 2 0 1 1 20
30以上39以下 8 3 5 2 2 0 20
40以上 0 0 0 0 0 2 2
21 6 7 2 3 3 42
(注)
42附属病院の内訳については別表1参照

イ 国立大学法人本部と附属病院の関係

(ア)国立大学法人本部と附属病院の組織体制
a 国立大学法人本部の組織体制

学長は、国立大学法人法第11条の規定に基づき、国立大学法人を代表して、その業務を総理するとともに、学校教育法(昭和22年法律第26号)第92条の規定に基づき、校務をつかさどり、所属職員を統督することとなっており、法人の長と大学の長とを兼ねている。

そして、学長は、予算の作成、学部等の重要な組織の改廃等の重要事項について決定をしようとするときは、学長及び理事で構成する役員会の議を経なければならないこととなっている。また、国立大学法人法第20条及び第21条の規定に基づき、国立大学法人には、経営に関する重要事項を審議する機関として経営協議会、教育研究に関する重要事項を審議する機関として教育研究評議会をそれぞれ置くこととなっている。

なお、附属病院と連絡を緊密にするために、連絡協議会等を設置している国立大学法人もある。

b 附属病院の組織体制

附属病院には、開設者である国立大学法人を代表する学長の下に、管理者として病院長が置かれ、病院長は、内部規程に基づき附属病院を管理運営するなどしている。

附属病院は、内部規程に基づき、病院長を議長とする病院運営会議等の意思決定機関を設置して、経営方針や予算等の重要事項を合議の上決定している。そして、意思決定機関の下に、薬事委員会等の各種委員会、経営企画等の事務部や各診療科、手術部等の中央診療部門等を設置して、各診療科や中央診療部門等は、業務執行の責任者である病院長や、病院長の業務を補佐する役割を担う副病院長及び病院長補佐の下で、業務を執行している。

なお、意思決定機関とは別に、重要事項について審議する審議機関等を設置している附属病院もある。

国立大学法人本部(以下「法人本部」という。)と附属病院の組織体制の概略は、図表1-2のとおりである。

図表1-2 法人本部と附属病院の組織体制の概略(医学部附属病院の例)

図表1-2 法人本部と附属病院の組織体制の概略(医学部附属病院の例)

(イ)法人本部等への経営状況の報告

前記のとおり、附属病院の経営状況が国立大学法人の運営に与える影響は大きいものとなっていることから、26年度の各附属病院における法人本部等への附属病院の経営等の報告状況についてみたところ、図表1-3のとおり、報告頻度は、月1回程度の報告を行っている附属病院が25病院となっていた一方で、報告を定期的に行っていない附属病院も4病院見受けられた。また、報告先は、役員会へ報告を行っている附属病院が18病院、法人本部財務部等へ報告を行っている附属病院が11病院、学長の出席する役員懇談会等に報告を行っている附属病院が7病院等となっていた。報告内容は、月1回程度の報告では、病床利用率・稼働率、診療単価、患者数、診療報酬請求額等の各種経営指標等、年3回又は4回の報告では、収支の前年度比較等となっていた。

そして、5国立大学法人においては、独自に附属病院の財務運営に関する連絡協議会等を設置して、より緊密に附属病院の経営状況の報告を行っていた。

図表1-3 法人本部等への附属病院の経営等の報告状況(平成26年度)

区分 報告頻度 注(1) 報告先 注(2)
定期 不定期 役員会 本部財務部等 役員懇談会等 学長 経営協議会 連絡協議会等 その他
月1回
程度
年5回
又は
年6回
年3回
又は
年4回
年1回
又は
年2回
附属病院数 25 3 5 5 4 18 11 7 6 5 5 7
注(1)
報告頻度の異なる報告がある場合には、最も報告頻度の多いものを集計している。
注(2)
複数の報告先がある附属病院があるため、附属病院数を合計しても42と一致しない。
注(3)
42附属病院の内訳については別表2参照

ウ 附属病院の患者数等の推移

(ア)患者数の推移

22年度から26年度までの間の附属病院全体における患者数の推移についてみたところ、図表1-4のとおり、外来患者延数は増加傾向にあり、26年度は1739万人、対22年度増加率は4.8%となっていた。また、入院患者延数は、26年度は1014万人、対22年度増加率は横ばいとなっていた。

各附属病院の状況についてみたところ、外来患者延数は、31附属病院において増加しており、11附属病院において減少していた。増加の理由としては、外来化学療法の導入等による診療方針の転換としている附属病院が20病院、病院再開発等の施設及び設備の整備による稼働の増加としている附属病院が18病院等となっている。減少の理由としては、地域医療機関との連携による機能分担の明確化に伴う減少等としている。また、入院患者延数は、22附属病院において増加しており、20附属病院において減少していた。増加の理由としては、病床管理による平均在院日数の短縮及び病床稼働率の上昇等としている附属病院が15病院、手術室の稼働改善等、既存の施設の範囲内での運用改善努力としている附属病院が8病院等となっている。減少の理由としては、病院再開発等の施設及び設備の整備途上による稼働病床数の減少等としている。

図表1-4 患者数

(単位:千人、%)
区分 平成22年度 23年度 24年度 25年度 26年度  
対22年度増加率
外来患者延数 16,587 16,920 17,226 17,416 17,391 4.8
入院患者延数 10,146 10,186 10,128 10,129 10,145 △0.0

図表1-4 患者数 画像

(注)
42附属病院の内訳については別表3参照
(イ)医師数及び看護師数の推移

医師及び看護師は、附属病院の診療行為をする上で中心となる職員であり、職員数においても多数を占めている。

22年度から26年度までの間の附属病院全体における医師数及び看護師数の推移についてみたところ、図表1-5のとおり、医師数、看護師数共に増加しており、26年度の医師数は24,760人、看護師数は32,125人、対22年度増加率はそれぞれ13.0%、14.8%となっていた。

各附属病院の状況についてみたところ、医師数は、36附属病院において増加しており、看護師数は全ての附属病院において増加していた。医師数増加の理由について、28附属病院が、診療体制の充実や改編に伴う人員配置の見直しを実施したためなどとしている。また、看護師数増加の理由について、全ての附属病院が、診療機能の維持等に寄与する施設基準の維持及び取得のための人員を確保したためなどとしている。

図表1-5 医師数及び看護師数

(単位:人、%)
区分 平成22年度 23年度 24年度 25年度 26年度  
対22年度増加率
医師数 21,910 22,502 23,424 24,330 24,760 13.0
看護師数 27,976 29,668 30,219 31,059 32,125 14.8

図表1-5 医師数及び看護師数 画像

(注)
42附属病院の内訳については別表4参照

エ 附属病院の財務状況等

前記のとおり、附属病院が今後も安定して継続的にその機能・役割を果たしていくためには、医療安全を確保した上で、損失が生じないように適切な運営により健全な財務基盤を構築していくことが重要であることから、附属病院の財務状況等についてみたところ、次のとおりとなっていた。

(ア)附属病院セグメント情報における業務損益等と事業報告書上の収支

国立大学法人は、準用通則法第38条の規定により、毎年度、貸借対照表、損益計算書、附属明細書等(以下「財務諸表」という。)を作成することとなっている。

そして、「国立大学法人会計基準及び国立大学法人会計基準注解に関する実務指針」(平成15年7月国立大学法人会計基準等検討会議)によれば、附属明細書に記載されているセグメント情報は、基本的な財務諸表では得られない損益や資産に関する事業の内訳について補足的な情報を提供することによって、財務諸表の利用者に有用な情報を提供することを目的として作成するものとされており、附属病院については、固有かつ多額の診療収入があること、医学部又は歯学部を有する全ての国立大学法人に置かれていることなどから、附属病院を有する全ての国立大学法人において共通に附属病院セグメント情報を開示する取扱いとするとされている。

22年度から26年度までの間の附属病院全体における附属病院セグメント情報の業務損益等の推移についてみたところ、図表1-6のとおり、業務費用、業務収益共に増加しており、26年度の業務費用は1兆1651億円、業務収益は1兆1846億円、対22年度増加率はそれぞれ19.7%、15.2%、22年度から26年度までの5か年度の計はそれぞれ5兆3356億円、5兆5238億円となっていた。また、業務損益は、22年度の547億円から減少傾向にあり、26年度は194億円となっていた。

図表1-6 附属病院セグメント情報における業務損益等

(単位:百万円、%)
区分 平成22年度 23年度 24年度 25年度 26年度  
対22年度増加率
業務費用 972,805 1,022,074 1,062,033 1,113,582 1,165,166 19.7 5,335,663
業務収益 1,027,545 1,066,395 1,102,620 1,142,687 1,184,641 15.2 5,523,891
業務損益 54,739 44,321 40,586 29,104 19,475 △64.4 188,227

図表1-6 附属病院セグメント情報における業務損益等 画像

注(1)
42附属病院のうち東京大学病院については、国立大学法人東京大学の附属病院セグメント情報が、東京大学医科学研究所附属病院と一体になって開示されているため、同研究所附属病院の分が含まれている。以下、図表1-8から図表1-13までにおいて同じ。
注(2)
42附属病院の内訳については別表5参照

各附属病院の業務損益についてみたところ、図表1-7のとおり、業務損益がマイナスとなり損失を計上している附属病院は、22年度は4病院であったが、26年度では14病院に増加していた。14病院における業務損益がマイナスとなった主な理由は、業務収益について、病院再開発に伴い一部の診療機能を縮小したことなどによる附属病院収益の減少によるもの、業務費用について、病院再開発による病棟等の建設のしゅん工に伴う減価償却費の増加、消費増税の影響による医薬品費等の増加、「国家公務員の給与の改定及び臨時特例に関する法律」(平成24年法律第2号)に準じた給与の減額措置が26年3月末に終了したことによる人件費の増加等によるものとしている。

図表1-7 業務損益がマイナスとなっている附属病院

区分 附属病院名 附属病院数
平成22年度 東北、山形、滋賀医科、熊本各大学病院 4
23年度 山形、滋賀医科、島根各大学病院 3
24年度 秋田、山形、筑波、新潟、富山、三重、島根、大分、宮崎、鹿児島各大学病院 10
25年度 秋田、筑波、新潟、富山、三重、神戸、島根、岡山、広島、佐賀、大分、鹿児島各大学病院 12
26年度 旭川医科、弘前、秋田、山形、筑波、千葉、富山、三重、滋賀医科、神戸、島根、広島、長崎、鹿児島各大学病院 14

他方、前記のセグメント情報は国立大学法人会計基準等に基づき発生主義会計により整理されていることなどから、文部科学省は、附属病院における活動区分ごとの資金状況を事業報告書において開示し、附属病院の経営状況をより適切に示す必要があるとしている。そして、23年4月に文部科学省は、セグメント情報をベースに減価償却費等の現金支出を伴わない費用を控除したり、借入金の収入を加算したりするなどの一定の調整を加えた「附属病院セグメントにおける収支の状況」を事業報告書において開示することとし、その作成要領を示した。これを受けて、全ての附属病院は、22年度決算から、セグメント情報による業務損益等とともに、作成要領に基づき収支の状況を事業報告書に記載している。

上記収支の状況は、一会計期間における収支の状況を一定の活動区分別に表示するもので、①主に診療に係る収支を示す業務活動収支、②主に設備投資に係る収支を示す投資活動収支、③主に設備投資に係る借入金及びその償還に係る収支を示す財務活動収支等に区分されている。

22年度から26年度までの間の附属病院全体における事業報告書上の収支についてみたところ、図表1-8のとおり、22年度に359億9100万円であったものが、毎年度減少して、26年度には21億5000万円となっていた。

図表1-8 事業報告書上の収支

(単位:百万円)
区分 平成22年度 23年度 24年度 25年度 26年度
A 業務活動収支 184,744 182,184 182,125 188,908 160,266
B 投資活動収支 △69,591 △95,326 △102,418 △126,702 △99,219
C 財務活動収支 △79,138 △66,542 △63,336 △54,826 △58,889
D 収支合計 35,991 20,304 16,363 7,366 2,150
(注)
42附属病院の内訳については別表6参照

そして、各附属病院がどのような情報に基づいて収支等の管理を行っているかについてみたところ、現金収支に基づいて管理している附属病院が36病院(附属病院全体の85.7%)と多数を占めていた。また、これらの36附属病院の資金繰りについてみたところ、法人本部が、診療収入、診療経費、運営費交付金等を含めた法人全体での収支を踏まえた上で行っていた。

前記の業務損益がマイナスとなっていて、現金収支に基づく収支管理を行っている附属病院を設置する1国立大学法人では、法人本部と附属病院との連絡調整が十分でなかったことなどから収入を上回る支出を行うなどしていた事態が、次のとおり見受けられた。

<事例1>法人本部と附属病院との連絡調整が十分でなかったり、国立大学法人としての収支管理等が適切でなかったりしていたことなどから、収入を上回る支出を行ったり、現金不足が生じたりなどしていたもの

国立大学法人旭川医科大学(以下、この事例において「旭川医科大学」という。)では、国立大学法人評価委員会の平成26年度に係る業務の実績に関する評価結果によれば、26年度決算において当期総損失が発生していることについて、財務改善計画が計画的に履行されていないだけでなく、26年度上半期の収入が当初予定額を下回る状況であったにもかかわらず下半期の支出計画が十分に見直されず、さらには、現金の恒常的な不足による支払能力の低下があったとされている。

そこで、会計検査院が、26年度に収入を上回る支出を行うこととなった原因や資金繰りなどについて検査したところ、次のとおりとなっていた。

旭川医科大学は、26年度に、法人本部と附属病院との連絡調整が十分でなかったことなどから、26年度上半期における収入が当初予定額を下回る状況であったにもかかわらず、看護師に係る人件費について予算額を上回る人件費を支出することなどとなった。

附属病院は、26年度の看護師の必要数を25年度の看護師在籍数664名に増員数22名を見込んだ686名としていた。一方、法人本部は、25年度の予算積算上の看護師数651名に上記の増員数22名を加えた673名に係る人件費を26年度の予算に計上していた。

そして、附属病院は、26年度に必要数である686名を基準として看護師を採用した結果、予算計上された673名ではなく、691名の看護師が在籍することとなった。

このため、旭川医科大学は、当初予算に対して18名分超過した看護師の人件費(4500万円)を支出する必要等が生じ、現金不足のため繰り返し資金の借入れを行う結果となった。

また、22年度から26年度までの間における旭川医科大学の流動比率と、旭川医科大学と同様に病院収入が大学運営に多大な影響を及ぼすと思料される医科系3国立大学法人(国立大学法人東京医科歯科大学、同浜松医科大学、同滋賀医科大学)との流動比率を比較すると、次のとおりとなっていた。

(単位:百万円)
国立大学法人名 区分 平成22年度 23年度 24年度 25年度 26年度
旭川医科大学 流動資産(A) 4,716 6,613 7,072 5,293 5,171
流動負債(B) 5,472 7,551 8,244 7,437 8,394
流動比率(C)=(A)/(B)×100 86.1% 87.5% 85.7% 71.1% 61.6%
東京医科歯科大学 流動資産(A) 14,958 15,515 16,984 18,185 15,833
流動負債(B) 14,932 14,886 15,997 17,926 16,117
流動比率(C)=(A)/(B)×100 100.1% 104.2% 106.1% 101.4% 98.2%
浜松医科大学 流動資産(A) 7,737 10,366 12,008 10,782 11,054
流動負債(B) 6,032 7,683 9,710 8,652 8,530
流動比率(C)=(A)/(B)×100 128.2% 134.9% 123.6% 124.6% 129.5%
滋賀医科大学 流動資産(A) 9,164 10,780 11,370 11,367 10,515
流動負債(B) 8,034 8,538 8,513 8,480 7,418
流動比率(C)=(A)/(B)×100 114.0% 126.2% 133.5% 134.0% 141.7%

流動比率は、一般に100%以上であれば、1年以内に支払不能になる可能性が低いことを意味しており、旭川医科大学以外の3国立大学法人は、流動比率がおおむね100%以上である一方、旭川医科大学は、22年度の時点で既に90%を下回っていて、支払能力の低下の兆候が見受けられた。

このような状況であるにもかかわらず、旭川医科大学は、25年度まで、法人としての収入及び支出全般を管理するために必要な資金繰り表等を作成しておらず、日次、月次の現金収支の管理等を適切に行っていなかった。そして、26年度に、資金繰り表等により現金収支の管理等を始めたものの、前記のとおり、26年度上半期の収入が当初の予定額を下回る状況であったことなどから、流動比率が61.6%にまで落ち込んでいた。

(イ)業務収益の状況

セグメント情報における業務収益の内訳は、運営費交付金収益、附属病院収益、受託研究等収益、補助金等収益等である。

22年度から26年度までの間の附属病院全体における業務収益の推移についてみたところ、図表1-9のとおり、いずれの年度においても、運営費交付金収益と附属病院収益で業務収益全体の9割以上を占めていた。また、業務収益全体は、毎年度増加しており、26年度は1兆1846億円、対22年度増加率は15.2%となっていた。このうち運営費交付金収益は、25年度までは減少傾向にあったが、26年度は増加して1282億円、対22年度増加率はマイナス6.3%となっていた。一方、附属病院収益は、毎年度増加しており、26年度は9858億円、対22年度増加率は16.9%となっていた。

図表1-9 業務収益

(単位:百万円、%)
区分 平成22年度 23年度 24年度 25年度 26年度  
対22年度増加率
業務収益 1,027,545 1,066,395 1,102,620 1,142,687 1,184,641 15.2
運営費交付金収益 136,872 134,075 120,256 117,878 128,244 △6.3
附属病院収益 842,883 881,886 925,061 958,498 985,880 16.9
その他 47,789 50,433 57,302 66,311 70,517 47.5
(注)
42附属病院の内訳については別表7参照
a 運営費交付金収益

運営費交付金収益の内訳としては、附属病院運営費交付金、特別運営費交付金、特殊要因運営費交付金等があり、その内容は次のとおりとなっている。

(a)附属病院運営費交付金

附属病院運営費交付金は、診療経費と承継債務(注12)等の債務償還経費が附属病院収入で賄えない場合に算定されるものである。前記のとおり、業務損益がマイナスになっている附属病院があるものの、附属病院収入が順調に増加していることなどから、25年度以降の交付実績はない。

(注12)
承継債務  支援機構が独立行政法人化時に承継した債務のうち、国立大学法人法附則第12条の規定に基づき、国立大学法人化前の施設及び設備の整備に要した部分として文部科学大臣が定める債務に相当するものとして各国立大学法人が負担することとなった債務

(b)特別運営費交付金

特別運営費交付金は、新たな政策課題等に対応するために必要となる特別経費について、毎年度の予算編成過程において当該年度における具体的な額が決定されるものであり、各附属病院の新たな教育研究ニーズに対応し、高度専門職業人の養成等の各附属病院の個性や特色に応じた取組等のプロジェクトを支援するための経費として算定されている。

(c)特殊要因運営費交付金

特殊要因運営費交付金は、特別運営費交付金と同様、各国立大学法人の個別事情等を踏まえ、主に教職員の退職手当として算定されている。

(d)その他の運営費交付金

その他の運営費交付金は、学部・大学院教育研究経費等で、主に医学部所属の教員人件費として算定されている。

22年度から26年度までの間の附属病院全体における運営費交付金収益について、上記交付金別の推移についてみたところ、図表1-10のとおり、附属病院運営費交付金が22年度から24年度まで減少して、25年度以降は不交付となっている一方で、特別運営費交付金は25年度まで増加しており、26年度は250億円、対22年度増加率は157.7%となっていた。

図表1-10 附属病院に係る運営費交付金収益の内訳

(単位:百万円、%)
区分 平成22年度 23年度 24年度 25年度 26年度  
対22年度増加率
附属病院運営費交付金 18,623 15,057 6,285 - - -
特別運営費交付金 9,717 20,567 22,022 27,453 25,047 157.7
特殊要因運営費交付金 12,548 13,627 14,435 12,599 11,856 △5.5
その他の運営費交付金 95,983 84,823 77,513 77,825 91,340 △4.8
136,872 134,075 120,256 117,878 128,244 △6.3
(注)
42附属病院の内訳については別表8参照
b 附属病院収益

附属病院収益は、業務収益全体の8割以上を占めている。

22年度から26年度までの間の附属病院全体における附属病院収益の推移についてみたところ、図表1-11のとおり、入院及び外来に係る収益がその大半を占めていた。そして、入院及び外来に係る附属病院収益は共に毎年度増加しており、26年度の入院に係る附属病院収益は7065億円、外来に係る附属病院収益は2664億円、対22年度増加率はそれぞれ13.7%、27.3%となっていた。

各附属病院の状況についてみたところ、26年度の入院及び外来に係る附属病院収益は、附属病院全体と同様に、22年度と比べて全ての附属病院において増加していた。増加の主な理由は、28附属病院が手術室の効率的使用による手術件数の増加、25附属病院が平均在院日数の短縮のための取組の実施によるとしている。

附属病院収益の対22年度増加率が最も高い筑波大学病院は、26年度の附属病院収益が22年度と比べて、入院が28.4%、外来が40.1%、それぞれ増加していた。増加の理由は、診療科に配分する病床を責任病床として自覚を持って有効利用することを義務付けたり、人的資源の配分見直しを行ったりなどすることにより、病床稼働率は維持しつつ、在院日数の短縮を図って早期に退院した患者を外来フォローすることで入院及び外来の患者数が増加したことによるとしている。

図表1-11 附属病院収益

(単位:百万円、%)
区分 平成22年度 23年度 24年度 25年度 26年度  
対22年度増加率
附属病院収益 842,883 881,886 925,061 958,498 985,880 16.9
附属病院収益(入院) 621,330 645,084 673,961 691,506 706,593 13.7
附属病院収益(外来) 209,277 224,030 238,282 253,875 266,492 27.3
その他 12,276 12,771 12,816 13,116 12,794 4.2
(注)
42附属病院の内訳については別表9参照
(ウ)業務費用の状況
a 業務費用

セグメント情報における業務費用の内訳は、診療経費、人件費、研究経費、受託研究費等であるが、このうち、診療経費及び人件費が業務費用全体の9割以上を占めている。

診療経費は、主に医薬品、診療材料の購入費である材料費、施設、医療機器等の減価償却費であり、人件費は、医師、看護師、薬剤師、技師等や事務職員等の給与等である。

22年度から26年度までの間の附属病院全体における業務費用の推移についてみたところ、図表1-12のとおり、前記附属病院収益の増加に伴い、診療経費、人件費共に毎年度増加しており、26年度の診療経費は6615億円、人件費は4427億円、対22年度増加率は、それぞれ21.8%、17.6%となっていた。

各附属病院の状況についてみたところ、26年度の診療経費及び人件費は、附属病院全体と同様に、22年度と比べて、全ての附属病院において増加しており、診療経費は1.9%から50.9%まで、人件費は6.3%から41.1%までの間で増加していた。診療経費増加の理由は、手術件数の増加に伴う高額医薬品の使用量が増加したことや病院再開発等による減価償却費の増加によるとしている。また、人件費増加の理由は、診療体制充実のための医師及び看護師の増員等によるとしている。

図表1-12 業務費用

(単位:百万円、%)
区分 平成22年度 23年度 24年度 25年度 26年度  
対22年度増加率
業務費用 972,805 1,022,074 1,062,033 1,113,582 1,165,166 19.7
診療経費
543,144 573,241 598,734 633,761 661,555 21.8
材料費
308,407 326,025 339,016 358,336 378,508 22.7
減価償却費
103,797 107,517 110,621 115,579 118,359 14.0
その他
130,940 139,698 149,096 159,845 164,686 25.7
人件費
376,347 394,130 407,912 422,450 442,796 17.6
(注)
42附属病院の内訳については別表10参照
b 材料費

診療経費全体の5割以上を占める材料費は、抗がん剤等の医薬品を購入する医薬品費とカテーテル等の診療材料を購入する診療材料費が主なものであり、これらで材料費全体の9割以上を占めている。また、医薬品及び診療材料(以下「医薬品等」という。)は業務を遂行する上で重要な資源であり、医薬品等を調達するための支出も多額となっている。

22年度から26年度までの間の附属病院全体における医薬品費及び診療材料費(以下「医薬品費等」という。)の推移についてみたところ、医薬品費は全ての附属病院において、診療材料費は41附属病院において増加しており、図表1-13のとおり、26年度の医薬品費は2307億円、診療材料費は1406億円、対22年度増加率はそれぞれ22.1%、24.9%となっていた。増加の理由は、高度の医療を提供する特定機能病院として、高額の医薬品を採用する場合があること、外来化学療法件数の増加に伴う高額注射薬剤の購入量が増加したこと及び抗がん剤等の購入量が増加したことなどによるとしている。

図表1-13 医薬品費等

(単位:百万円、%)
区分 平成22年度 23年度 24年度 25年度 26年度  
対22年度増加率
医薬品費 188,897 198,533 207,637 216,651 230,737 22.1
診療材料費 112,506 120,064 123,910 133,999 140,614 24.9
(注)
42附属病院の内訳については別表11参照

(a)医薬品の契約

各国立大学法人は、会計規程等に基づき、附属病院で使用する医薬品の調達業務を実施している。そして、会計規程等によれば、売買、貸借、請負その他の契約を締結する場合、公告して申込みをさせることにより競争に付さなければならないこととされ、予定価格が一定額を超えない財産の買入契約の場合は随意契約とすることができることとされている。また、各国立大学法人は、附属病院で使用する医薬品の調達に当たり、会計規程等に基づき随意契約とすることができる金額、又は、これとは別に医薬品の単価に契約期間内の調達予定数量を乗じた金額(以下、これらを「随意契約基準額」という。)のいずれかにより、一般競争とするか随意契約とするか判断している。

そこで、随意契約基準額の算出に用いる契約期間が3か月、6か月、1年等と各国立大学法人で区々となっていることから、随意契約基準額を基に契約期間を1年間に換算して算出(以下、この算出した額を「年間換算基準額」という。)し、27年度における各国立大学法人の年間換算基準額についてみたところ、国立大学法人間で大きな差異が見受けられたが、500万円を基準としている国立大学法人が14法人と最も多くなっていた。また、調達した全医薬品に占める随意契約により調達した医薬品の割合(以下「随契比率」という。)についてみたところ、金額ベースで90%以上となっている国立大学法人が4法人、品目数ベースで90%以上となっている国立大学法人が30法人となっていた。

品目数ベースでの随契比率が高い一部の国立大学法人では、会計規程等や政府調達に関する協定(平成7年条約第23号)等を実施するために定めた規程等に反して随意契約としていたり、書面による予定価格の作成を省略するなどのために、支出決議に必要な見積書等の金額が一定額以内に収まるように見積書等を業者に作成させるなどしていたりしていた事態が、次のとおり見受けられた。

<事例2>会計規程等に反していたり、政府調達に関する協定等を実施するために定めた規程等に反していたりして、予定価格が一定額を超えているにもかかわらず、一般競争とせずに随意契約としていたもの

国立大学法人旭川医科大学(以下、この事例において「旭川医科大学」という。)では、毎年度、多額の医薬品を調達しており、平成26、27両年度にそれぞれ35億円を支払っている。

そして、国立大学法人旭川医科大学会計規程等によれば、売買、貸借、請負その他の契約を締結する場合においては、公告して申込みをさせることにより一般競争に付さなければならないこととされている。ただし、予定価格が500万円未満の契約をするときなどは随意契約とすることができるとされている。

また、政府調達に関する協定等(以下「協定等」という。)に基づき、国立大学法人は、一定の額(物品等の調達契約の場合は27年度1300万円)以上の調達を行うに当たり、原則として一般競争に付することとなっている。そして、これを受けて、旭川医科大学は、協定等に沿った調達手続を実施するために、上記の会計規程等とは別に、旭川医科大学政府調達細則(以下「細則」という。)を定めており、予定価格が上記の額以上の物品等の調達については、原則として一般競争に付することとなっている。

しかし、医薬品の調達について検査したところ、次のような事態が見受けられた。

ア 随意契約について

旭川医科大学は、27年度の医薬品の調達に当たり、前記の会計規程等に反して、予定価格が500万円以上1300万円未満である延べ91品目(上期44品目、下期47品目)について、随意契約により調達して、これに係る代金7億4272万余円を支払っていた。

イ 政府調達について

旭川医科大学は、27年度の医薬品の調達に当たり、前記の細則等に反して、予定価格が1300万円以上である延べ37品目(上期20品目、下期17品目)について、随意契約により調達して、これに係る代金11億4911万余円を支払っていた。

<事例3>書面による予定価格の作成を省略するなどのために、支出決議に必要な見積書等の金額が一定額以内に収まるように見積書等を業者に作成させるなどしていたもの

国立大学法人高知大学(以下、この事例において「高知大学」という。)は、毎年度、一般競争又は随意契約により多額の医薬品を調達しており、平成26年度は32億円、27年度は38億円を支払っている。

国立大学法人高知大学会計規則等によれば、売買、貸借、請負その他の契約を締結する場合においては、公告して申込みをさせることにより競争に付さなければならないこととされている。ただし、予定価格が500万円を超えない財産の買入契約の場合は随意契約とすることができるとされている。そして、高知大学は、医薬品の調達に当たり、医薬品1品目ごとに、当該医薬品の単価に年間の調達予定数量を乗じた金額が300万円(25年9月までは100万円)を超える場合は一般競争とし、これ以下の場合は随意契約としている。

また、同会計規則等によれば、予定価格が300万円を超えないと見込まれる随意契約については、書面による予定価格の作成を省略することができるとされている。そして、国立大学法人高知大学契約事務取扱要領によれば、予定価格が300万円以下の随意契約の場合には、見積書、納品書及び請求書を、また、300万円を超える場合には、それらのほかに請書や契約書等の書類を支出決議書に添付することとされている。

医薬品の調達について検査したところ、次のような事態が見受けられた。

高知大学は、1業者ごとの1件当たりの契約金額が300万円を超える随意契約の場合には、書面による予定価格を作成したり、請書や契約書等を支出決議書に添付したりしなければならなくなるとして、1業者ごとの1件当たりの契約金額が300万円以下になるように、納品データを基に業者ごとに小分けした内訳を作成して、これにより支出決議に必要な見積書等を業者に作成させるなど適切とは認められない会計手続をとっていた。

(b)医薬品等の共同価格交渉

附属病院を設置している国立大学法人は、法人化以降、附属病院における医薬品費等の節減のための取組として、納入業者との価格交渉を実施している。さらに、価格交渉に当たって、他病院の調達実績やコンサルティング契約を締結している会社から得た医薬品等の価格情報を病院間で共有するなどして、値下げ交渉を実施すること(以下、このような値下げ交渉を「共同価格交渉」という。)も、医薬品費等の節減を図るための一つの手段となっている。

共同価格交渉の実施状況は、図表1-14のとおりとなっており、医薬品については5国立大学法人、診療材料については13国立大学法人が共同価格交渉を実施していた。

図表1-14 共同価格交渉の実施状況(平成27年度)

区分 国立大学法人名 共同価格交渉の実施病院名
医薬品 島根、岡山、愛媛、高知各大学 島根、岡山、愛媛、高知各大学病院
徳島大学 徳島大学病院、徳島市内の1病院
診療材料 千葉大学 千葉大学病院、千葉市内の2病院
新潟大学 新潟大学病院、新潟市内の2病院
岐阜、名古屋両大学 岐阜、名古屋両大学病院、名古屋市内の1病院
京都大学 京都大学病院、大阪市内の3病院
鳥取、島根、岡山、山口、徳島、香川、愛媛、高知各大学 鳥取、島根、岡山、山口、徳島、香川、愛媛、高知各大学病院

共同価格交渉の具体的な取組について、参考事例を示すと次のとおりである。

<参考事例>徳島大学病院と徳島県立中央病院との間において、共通で取り扱っている医薬品の一部について、共同価格交渉を実施しているもの

国立大学法人徳島大学は、平成21年10月に徳島県との間で「総合メディカルゾーンにおける地域医療再生等に関する合意書」(以下「合意書」という。)を締結している。

合意書によれば、徳島大学病院と徳島県立中央病院は、両病院の「効率的な運営」を図るために、医薬品及び診療材料の共同交渉による調達等を段階的に進めることとされている。

そして、両病院は、25年度から、合意書に基づき、共通で取り扱っている医薬品の中で、他の品目に比べて値引きが少額である医薬品について病院間で調整を行い、合意に達した医薬品32品目を選定して共同価格交渉を実施している。

共同価格交渉は、国立大学附属病院長会議において、附属病院全体での共同価格交渉の導入に向けた事務レベルでの検討が進められているところであるが、一方で採用品目の違いや事務負担が煩雑になるなどの理由から消極的な附属病院も見受けられている。共同価格交渉は、医薬品費等の節減を図るための一つの手段であることから、附属病院を設置している各国立大学法人において導入に向けた検討を一層進めることが望ましい。

(c)医薬品等の共同購入

医薬品等の共同購入は、契約事務の軽減・合理化及びスケールメリットを活かした医薬品費等の節減を図るための手段として、民間病院等において採用されている。また、国立病院機構においても、16年度から機構本部による共同購入を実施しており、24年度から6国立高度専門医療研究センター(注13)及び労健機構の34労災病院が加わっている。

一方、附属病院を設置している国立大学法人は、上記国立病院機構の組織体制と異なり、それぞれが独立した法人として運営されており、機構本部に相当する組織がなく、規則面、契約事務手続の差異や採用品目の調整等の事務負担等から、共同購入を導入していなかった。

共同購入は、医薬品費等の節減を図るための一つの手段であり、厚生労働省所管の独立行政法人は法人の枠を超えて導入を進めている。したがって、前記の共同価格交渉に加えて、共同購入の導入も視野に入れた検討を進めることが望ましい。

(注13)
6国立高度専門医療研究センター  国立研究開発法人国立がん研究センター、国立研究開発法人国立循環器病研究センター、国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター、国立研究開発法人国立国際医療研究センター、国立研究開発法人国立成育医療研究センター、国立研究開発法人国立長寿医療研究センター

(d)後発医薬品の採用状況

厚生労働省が25年4月に策定した「後発医薬品のさらなる使用促進のためのロードマップ」によれば、後発医薬品は、先発医薬品の特許終了後に、先発医薬品と品質・有効性・安全性が同等であるものとして厚生労働大臣が製造販売の承認を行っている医薬品であるとされている。そして、一般的に開発費用が安く抑えられることから薬価が低くなっている。後発医薬品を普及させることは、患者負担の軽減や医療保険財政の改善に資するが、普及の本来的意義は、医療費の効率化を通じて限られた医療費資源の有効活用を図り、国民医療を守ることにあるとされている。また、使用促進のための目標として、後発医薬品に置き換えられる先発医薬品及び後発医薬品の使用をベースとした数量シェア(注14)を設定することとして、これを30年3月末までに60%以上とするとされている。

また、27年6月に閣議決定した「経済財政運営と改革の基本方針2015」によれば、数量シェアを29年央に70%以上にするとともに、30年度から32年度末までの間のなるべく早い時期に80%以上とする新たな数量シェア目標が定められている。

(注14)
後発医薬品に置き換えられる先発医薬品及び後発医薬品の使用をベースとした数量シェア  数量シェアは次の数式で定義されている。

(d)後発医薬品の採用状況 画像

附属病院は、診療報酬の算定に当たり、「診断群分類に基づく1日当たり定額報酬算定制度」(以下「DPC制度」という。)を採用している。DPC制度においては、図表1-15のとおり、入院期間中に医療資源を最も投入した傷病名と、提供される手術、処置、化学療法等の診療行為の組合せにより分類された診断群分類ごとに1日当たりの診療報酬点数が定められており、その中には「投薬」分が含まれている。このため、DPC制度の対象となる診療を行う際に、後発医薬品を使用しても先発医薬品と診療報酬点数が変わらないことから、より安価な後発医薬品を採用することで診療に係る支出を削減することが可能となり、収支改善の観点から有効な手段となっている。

図表1-15 DPC制度

図表1-15 DPC制度 画像

そして、附属病院全体の後発医薬品の数量シェアの平均値についてみたところ、26年度に45.2%であったものが、27年度には63.3%となっていて、大幅に上昇していた。

(エ)医療機器の設置に係る採算性の検討及び検証

附属病院は、診療等に必要な各種の医療機器を設置している。高度の医療の提供等、特定機能病院としての役割を果たすためには、最新の医療機器の導入や適時の更新が望ましいが、国立大学法人の事業報告書では、附属病院の医療機器の更新が十分に行われていないとの記述が見受けられる。

そして、限られた財源の中で、医療機器の更新等を行うに当たり、取得時に採算性を十分に確保できるかを検討すること、また、導入した医療機器の稼働状況等を確認するなど、取得後に採算性を検証することも十分な投資効果が得られているかを測る上で有効な手段となる。

そこで、附属病院において取得した医療機器について、取得時にどのように採算性を検討しているか、また、取得後にどのように検証しているかについてみたところ、図表1-16のとおり、取得時の採算性の検討について、1附属病院を除く41附属病院が実施しており、収入見込額について、医療機器の稼働による検査1件当たりの診療報酬上の点数に利用見込件数を乗ずるなどして算定していた。また、支出見込額について、27附属病院は、導入経費、保守経費の両経費、又はいずれかの経費を見積もっていたが、両経費に加えて人件費を見積もっている附属病院は14病院であった。

取得後の採算性の検証について、23附属病院が実施しており、収入額について、上記診療報酬上の点数に利用件数を乗ずるなどして算定していた。また、支出額について、13附属病院は、導入経費、保守経費の両経費、又はいずれかの経費を計上していたが、両経費に加えて人件費を計上している附属病院は6病院にとどまっていた。なお、19附属病院は、検証のための人員不足や個々の医療機器に係る診療報酬データのひも付けが困難であるなどとして、取得後の採算性の検証を実施していなかった。

一方、国立病院機構東京医療センターでは、国立病院機構本部が定めた「建物、医療機器及びITへの投資要綱」(24年6月以前は「医療機器等及び建物への投資要綱」)に基づき、取得時の採算性の検討を実施しており、収入見込額について、診療報酬点数に利用見込件数を乗ずるなどしたものを、支出見込額について、材料費、電気代等のランニングコスト、保守料、人件費等の合計を、それぞれ見積もることとしている。また、取得後の採算性の検証について、年1回、CT、MRI等の高額医療機器を対象として実施しており、患者数、診療点数等の収入に係る項目や、材料費、保守料等の支出に係る項目について、年間の実績を把握している。

前記のとおり、高度の医療の提供等、特定機能病院としての役割を果たすためには、最新の医療機器の導入や適時の更新が望ましいものである。そして、限られた財源の中で医療機器の更新等を行うに当たっては、取得時に医療機器の稼働に必要な人件費を見込むなどしてより精度の高い採算性の検討を実施するとともに、取得後の採算性の検証を十分に実施することにより、効率的な医療機器の設備投資に努めることが望まれる。

図表1-16 医療機器の採算性の検討及び検証状況

取得時の採算性の検討 取得後の採算性の検証
検討項目 附属病院数 附属病院名 検証項目 附属病院数 附属病院名
収入:診療報酬点数×利用見込件数支出:導入経費、保守経費、人件費等 14 北海道、東北、山形、筑波、千葉、新潟、富山、岐阜、名古屋、滋賀医科、広島、山口、大分、琉球各大学病院 収入:診療報酬点数×利用件数支出:導入経費、保守経費、人件費等 6 東北、筑波、富山、滋賀医科、広島、大分各大学病院
収入:診療報酬点数×利用見込件数支出:導入経費、保守経費等 20 旭川医科、秋田、群馬、東京、東京医科歯科、金沢、福井、山梨、三重、京都、神戸、島根、岡山、徳島、香川、愛媛、高知、九州、宮崎、鹿児島各大学病院 収入:診療報酬点数×利用件数支出:導入経費、保守経費等 8 群馬、東京医科歯科、新潟、神戸、徳島、高知、九州、宮崎各大学病院
収入:診療報酬点数×利用見込件数支出:導入経費等 4 弘前、信州、浜松医科、佐賀各大学病院 収入:診療報酬点数×利用件数支出:導入経費等 2 山形、浜松医科両大学病院
収入:診療報酬点数×利用見込件数支出:保守経費等 3 大阪、長崎、熊本各大学病院 収入:診療報酬点数×利用件数支出:保守経費等 3 岐阜、大阪、山口各大学病院
収入:診療報酬点数×利用見込件数支出:考慮しない 0 収入:診療報酬点数×利用件数支出:考慮しない 4 千葉、東京、長崎、熊本各大学病院
未実施 1 鳥取大学病院 未実施 19 北海道、旭川医科、弘前、秋田、金沢、福井、山梨、信州、名古屋、三重、京都、鳥取、島根、岡山、香川、愛媛、佐賀、鹿児島、琉球各大学病院

オ 経営分析等

附属病院は、病床利用率・稼働率、診療単価等の経営指標を設けている。そして、毎年度、附属病院全体や部門別の目標値を設定したり、前年度の実績値を目標値としたりして周知し、月次、四半期等で進捗状況等を把握し、達成できていない場合には原因分析を行って対策を講じ、次年度の目標値に反映させるなどしている。

26年度において附属病院が経営管理のために目標値を設定し、実績を管理している主な経営指標についてみたところ、図表1-17のとおり、収入増を図るなどのために、病床利用率・稼働率を経営指標としている附属病院が38病院、入院患者一人当たりの診療単価を経営指標としている附属病院が27病院、外来患者一人当たりの診療単価を経営指標としている附属病院が26病院、平均在院日数(一般病床)を経営指標としている附属病院が22病院となっていた。

図表1-17 主な経営指標(平成26年度)

経営指標 左記の経営指標について目標値を設けている附属病院数 注(1)
病床利用率・稼働率 38
入院患者一人当たり診療単価 注(2) 27
外来患者一人当たり診療単価 注(2) 26
平均在院日数(一般病床) 22
注(1)
複数の経営指標を設定している附属病院があるため、附属病院数を合計しても42と一致しない。
注(2)
入院患者又は外来患者に係る診療収益の総額をそれぞれの患者延数で除して算出している。

このうち、病床利用率及び平均在院日数についてみたところ、図表1-18のとおり、病床利用率の附属病院平均値は80.8%、平均在院日数(一般病床)の附属病院平均値は14.8日となっており、全国の病院の平均値と比べると、病床利用率は高く、平均在院日数(一般病床)は短くなっていた。なお、500床以上の公立病院の平均値と比べると、病床利用率、平均在院日数(一般病床)共に同程度となっていた。

図表1-18 病床数別にみた病床利用率、平均在院日数(平成26年度)

区分 附属病院数
病床利用率
(%)
平均在院日数
(一般病床)(日)
平均値 42 80.8 14.8
附属病院 1,000床以上 6 80.6 15.0
800床以上1,000床未満 9 83.3 15.5
600床以上800床未満 27 79.9 14.6
<参考>全国の病院の平均値(一般病床)注(1) 74.8 16.8
<参考>500床以上の公立病院の平均値(一般病床)注(2) 81.4 13.7
注(1)
全国の病院の平均値(一般病床)は、「平成26年病院報告」(厚生労働省大臣官房統計情報部)に基づく全国の病院の平均値である。
注(2)
500床以上の公立病院の平均値(一般病床)は、「地方公営企業年鑑(平成26年4月1日~27年3月31日)」(総務省自治財政局編)に記載されている病院事業(総括表)に基づく経営規模別・一般病院500床以上の平均値である。

各附属病院における上記経営指標の周知等の状況についてみたところ、図表1-19のとおり、経営指標で設定した目標値について、病院長、副病院長等の幹部職員並びに各診療科及び部門の責任者に周知している附属病院は27病院、全職員に周知している附属病院は15病院となっていた。目標値の達成状況について、月1回程度把握している附属病院が35病院、週1回程度把握している附属病院が5病院等となっていた。そして、幹部職員並びに各診療科及び部門の責任者に周知している附属病院が29病院、全職員に周知している附属病院が9病院、幹部職員のみに周知している附属病院が4病院となっていた。

目標値を下回っている場合の対応としては、ヒアリングを行い、原因を把握して改善に努めるなどしており、幹部職員が個別に診療科に改善の指示をしている附属病院が23病院、会議等で改善の指示をしている附属病院が21病院等となっていた。一方、診療科、部門の努力に委ねている附属病院も4病院見受けられた。

図表1-19 経営指標の周知等の状況(平成26年度)

(単位:附属病院)
目標値の周知 目標値の達成状況の把握頻度 目標値の達成状況の周知先 改善の指示(注)
幹部職員のみ 0 月1回程度 35 幹部職員のみ 4 幹部職員が診療科に指示 23
診療科、部門 27 週1回程度 5 診療科、部門 29 会議等で改善を指示 21
全職員 15 その他 2 全職員 9 診療科、部門に委ねる 4
その他 4
(注)
複数の方法で改善の指示をしている附属病院があるため、附属病院数を合計しても42と一致しない。

これらのほか、附属病院は各種の経営分析を行っており、その手法、周知等の状況についてみたところ、図表1-20のとおり、分析手法について、DPC制度と出来高払方式との差額を分析している附属病院が23病院、部門別、診療科別原価計算を実施している附属病院が17病院等となっていた。分析頻度について、月1回程度実施している附属病院が24病院、年1回程度実施している附属病院が6病院等となっていた。そして、分析結果について、幹部職員並びに各診療科及び部門の責任者に会議資料等で周知している附属病院が33病院、全職員に院内ホームページ等で周知している附属病院が4病院等となっていた。なお、データを精査中であったり、担当部署内の参考資料と位置づけたりして、職員に周知していない附属病院も2病院見受けられた。分析結果についての原因究明や対処は、幹部職員が個別に診療科に改善の指示を行っている附属病院が26病院、会議等において改善を指示している附属病院が13病院となっていた。一方、診療科、部門の努力に委ねている附属病院は8病院、特に指示していない附属病院は2病院となっていた。

図表1-20 経営分析の手法、周知等の状況(平成26年度)

(単位:附属病院)
分析手法(注) 分析頻度 分析結果の周知 改善の指示(注)
DPC出来高差額分析 23 月1回程度 24 幹部職員のみ 3 幹部職員が診療科に指示 26
部門別、診療科別原価計算 17 年1回程度 6 診療科、部門 33 会議等で改善を指示 13
DPC別原価計算 8 年2回程度 5 全職員 4 診療科、部門に委ねる 8
患者別原価計算 5 その他 7 周知していない 2 特に指示していない 2
その他 21  /  /  /
(注)
複数の分析手法を用いていたり複数の方法で改善の指示をしていたりする附属病院があるため、附属病院数を合計しても42と一致しない。

カ 監査等

(ア)監事監査

文部科学大臣が任命した国立大学法人の監事は、国立大学法人法第11条等の規定に基づき、国立大学法人の業務を監査することとなっており、監事監査は、中期計画、年度計画の実施状況等、法人の業務全般について監査計画等に従い実施されている。

そして、監事監査は、国立大学法人の全部局が対象となっていて、附属病院もその対象となっており、また、その範囲は、収入、支出、債権管理及び外部資金の管理等を対象としたものから、附属病院の経営、運営全般や経営管理手法等に関するもの(以下「経営・運営等」という。)まで多岐にわたっている。

22年度から26年度までの間の42国立大学法人における附属病院の経営・運営等に関する監事監査の実施状況についてみたところ、図表1-21のとおり、37国立大学法人が実施している一方で、5国立大学法人は実施していなかった。実施していた37国立大学法人のうち、監事意見として附属病院の経営・運営等に関する指摘事項があった法人は、7法人となっていた。監事意見としては、「病院の効率的経営と運営体制の整備について、病院の経営に関する大学執行部と病院執行部の意思統合が必要である」とするものなどがあった。

なお、27年4月に国立大学法人法が改正され、監査報告書の作成義務、役職員や子法人への調査権限、法人から文部科学大臣へ提出される書類の調査義務等が定められるなど、監事機能の強化が図られている。

図表1-21 附属病院に対する監事監査の状況(平成22年度~26年度)

区分 附属病院の経営・運営等に関する監事監査を実施していた大学法人(A) 附属病院の経営・運営等に関する監事監査を実施していなかった大学法人 (A)のうち附属病院の経営・運営等に関する指摘があった大学法人
国立大学法人数 37 5 7
(イ)内部監査

国立大学法人の監査室等は、内部規程等に基づき、国立大学法人の業務運営が法令等にのっとって適正に執行されているかなどの業務監査等(以下「内部監査」という。)を監査計画等に従い実施している。

内部監査も、監事監査と同様に、国立大学法人の全部局が対象となっていて、附属病院もその対象となっており、その範囲は多岐にわたっている。

22年度から26年度までの間の42国立大学法人における附属病院の経営・運営等に関する内部監査の実施状況についてみたところ、図表1-22のとおり、8国立大学法人が実施している一方で、34国立大学法人は実施していなかった。実施していた8国立大学法人のうち、報告事項として附属病院の経営・運営等に関する指摘事項があった法人は、1法人となっていた。

そして、附属病院の経営・運営等に関する監事監査を実施していなかった5国立大学法人は、22年度から26年度までの5年間に附属病院の経営・運営等に関する内部監査も実施していなかった。

図表1-22 附属病院に対する内部監査の状況(平成22年度~26年度)

区分 附属病院の経営・運営等に関する内部監査を実施していた大学法人(A) 附属病院の経営・運営等に関する内部監査を実施していなかった大学法人 (A)のうち附属病院の経営・運営等に関する指摘があった大学法人
国立大学法人数 8 34 1
(ウ)会計監査人監査

国立大学法人は、準用通則法第39条等の規定に基づき、財務諸表、事業報告書(会計に関する部分に限る。)及び決算報告書について、文部科学大臣が選任した会計監査人の監査を受けなければならないこととなっている。

そして、26年度の42国立大学法人の会計監査人の監査報告書における監査意見についてみたところ、いずれも無限定適正意見が付けられており、特に附属病院について記述しているものは見受けられなかった。

(2)附属病院の各機能

附属病院が教育、研究、診療、地域貢献・社会貢献等の機能を果たすに当たっては、国から運営費交付金が交付されたり、特定機能病院として診療報酬が加算されたりするなどしている。また、病棟等の施設整備に対しても、国から施設整備費補助金が交付されている。そこで、附属病院における教育、研究、診療及び地域貢献・社会貢献の各機能に関する取組状況についてみたところ、次のとおりとなっていた。

ア 教育機能

附属病院は、優れた医療従事者を養成するために、医学部学生等の臨床実習や卒後の医師の初期・専門研修等を行う、教育機関としての機能を果たすことが求められている。すなわち、16年に改正された医師法(昭和23年法律第201号)第16条の2第1項の規定に基づき、診療に従事しようとする医師は、2年以上の臨床研修を受けなければならず、附属病院は、この臨床研修を受ける医師(以下「臨床研修医」という。)を受け入れる病院として臨床研修を実施するほか、医療法第16条の3第1項第3号の規定に基づき、特定機能病院として高度の医療に関する研修を実施することとなっており、具体的には、臨床研修を修了した医師等に対して専門的な研修を実施している。このほか、看護師、薬剤師等の多岐にわたる医療従事者の養成も実施している。

(ア)臨床研修医の養成
a 臨床研修医の養成実績

附属病院は、上記のとおり、臨床研修を実施している。また、16年の医師法の改正による臨床研修の義務化に併せて、臨床研修医を受け入れる病院があらかじめ研修プログラムを公開して、研修希望者と臨床研修医を受け入れる病院とが相互に選択する仕組みであるマッチングシステムが導入されている。そして、21年度に研修プログラムの弾力化等の臨床研修制度の見直しが行われており、その一環として、医師が特に不足している小児科及び産科について、22年度から、附属病院を含む一定規模以上の病院に対して小児科医及び産科医を養成するための研修プログラムを設置することが義務付けられている。

22年度から26年度までの間の附属病院全体における臨床研修医の内定者数等の推移についてみたところ、図表2-1のとおり、募集定員、内定者数共に減少傾向にあり、募集定員に対する内定者数の割合(以下「マッチング率」という。)は、22年度70.2%から26年度65.1%へと低下していた。また、22年度から一定規模以上の病院に対して設置が義務付けられた小児科研修プログラム・産科研修プログラムに係るマッチング率の推移についてみたところ、小児科研修プログラムは22年度57.1%から26年度29.4%へ、産科研修プログラムは44.5%から21.8%へ、主に小児科研修又は産科研修のいずれかのコースを選択することになる周産期研修プログラムは43.3%から32.5%へ、それぞれ大きく低下していた。

図表2-1 臨床研修医の内定者数等

(単位:人、%)
区分 平成
22年度
23年度 24年度 25年度 26年度  
対22年度増加率
 募集定員   2,430 2,490 2,433 2,372 2,334 △3.9
うち小児科研修プログラム 74 85 81 77 70 △5.4
うち産科研修プログラム 68 78 79 73 66 △2.9
うち周産期研修プログラム 33 27 27 30 40 21.2
 内定者数   1,773 1,674 1,735 1,611 1,609 △9.2
うち小児科研修プログラム 45 36 25 27 21 △53.3
うち産科研修プログラム 34 27 19 11 16 △52.9
うち周産期研修プログラム 16 7 12 7 13 △18.7
マッチング率   70.2 64.1 67.8 64.5 65.1
うち小児科研修プログラム 57.1 39.8 27.7 28.5 29.4
うち産科研修プログラム 44.5 32.6 25.0 12.3 21.8
うち周産期研修プログラム 43.3 25.0 44.2 21.8 32.5
注(1)
図表中の年度は、臨床研修医の採用年度である。
注(2)
マッチング率は、各附属病院のマッチング率の計を附属病院数で除した平均値である。

そして、22年度から26年度までの間で小児科研修プログラム及び産科研修プログラムについて内定者の実績がない附属病院が、図表2-2のとおり、それぞれ3病院、7病院見受けられた。

図表2-2 小児科研修プログラム等について内定者の実績がない附属病院

小児科研修プログラム 弘前、高知、鹿児島各大学病院
産科研修プログラム 弘前、福井、山梨、浜松医科、島根、愛媛、長崎各大学病院
(注)
愛媛大学病院は、平成22年度において周産期研修プログラムとしての内定者の実績がない。また、長崎大学病院は、26年度において周産期研修プログラムとしての内定者の実績がない。

上記について、事例を示すと次のとおりである。

<事例4>臨床研修医のマッチング率が低調となっていたもの

弘前大学病院における臨床研修医の募集定員に対する内定者数は、平成22年度募集定員40名に対して内定者数13名(マッチング率32.5%)、23年度募集定員44名に対して内定者数6名(同13.6%)、24年度募集定員43名に対して内定者数11名(同25.5%)、25年度募集定員43名に対して内定者数7名(同16.2%)、26年度募集定員43名に対して内定者数10名(同23.2%)となっており、県内全体のマッチング率54.1%(26年度採用分)と比較しても低調となっていた。また、22年度から設置することが義務化された小児科研修プログラム及び産科研修プログラムのいずれにおいても応募者がなく、当該プログラムに基づく研修実績がない状態であった。

附属病院は、臨床研修医を増やすための取組を行っている。その取組内容についてみたところ、図表2-3のとおり、広報活動に係る取組を行っている附属病院が40病院、臨床研修医の待遇・環境改善に係る取組を行っている附属病院が38病院あるほか、臨床研修医のニーズに応じたプログラム内容の見直しやプログラムの集約化等の研修プログラムの改善に係る取組を行っている附属病院が40病院あり、その中には、外部評価機関から研修プログラム等について評価を受け、その評価結果を基にプログラム内容を改善している附属病院も見受けられた。また、卒前・卒後教育の連携を図るなど臨床研修医の活動を支援する部署等の設置や強化に係る取組を行っている附属病院が27病院等となっていた。

図表2-3 臨床研修医を増やすための取組内容

取組内容 附属病院数
広報活動 40
研修プログラムの改善 40
臨床研修医の待遇・環境改善 38
臨床研修医の活動を支援する部署等の設置・強化 27
その他 10
(注)
複数の取組を実施している附属病院があるため、附属病院数を合計しても42と一致しない。

臨床研修医の減少が与える影響についてみたところ、図表2-4のとおり、地域医療・社会貢献に最も影響があるとしている附属病院が17病院、教育の質に最も影響があるとしている附属病院が8病院、医療の質に最も影響があるとしている附属病院が6病院等となっていた。

図表2-4 臨床研修医の減少が与える影響

図表2-4 臨床研修医の減少が与える影響 画像

(注)
各附属病院が、最も影響があると回答した事項を計上している。
b 臨床研修に係る特別運営費交付金の交付実績

国立大学法人は、23年度から、臨床研修センターの体制整備等の充実を図るための人材養成機能充実支援経費として、附属病院における臨床研修医の受入人数及び臨床研修センター等の運営経費に応じて算定された特別運営費交付金の交付を受けている。

23年度から26年度までの間の上記特別運営費交付金の国立大学法人全体における交付実績は、図表2-5のとおり、計79億0280万円となっていた。また、24年度以降は、マッチング率が65%以上の附属病院を対象として交付されることになったことから、交付を受けた国立大学法人数は減少しており、26年度に交付を受けた国立大学法人は14法人となっていた。

図表2-5 臨床研修に係る特別運営費交付金の交付実績

区分 平成23年度 24年度 25年度 26年度
交付額(千円) 3,327,800 1,827,000 1,484,800 1,263,200 7,902,800
国立大学法人数 42 21 16 14
(注)
42国立大学法人の内訳については別表12参照
(イ)高度の医療に関する研修医等の養成

特定機能病院である附属病院は、高度の医療に関する研修として、臨床研修を修了した医師等に対して専門的な研修を実施している。この研修に係る特定機能病院の承認要件は、専門的な研修を受ける医師等の数が、年間平均30人以上であることなどとなっている。

22年度から26年度までの間の附属病院全体における高度の医療に関する研修医等の数の推移についてみたところ、図表2-6のとおり、22年度3,810人から26年度5,010人となり、22年度と26年度が比較可能な41附属病院における増加率は33.7%であった。

図表2-6 高度の医療に関する研修医等の数

(単位:人、%)
平成22年度 23年度 24年度 25年度 26年度  
対22年度増加率
3,810 3,838 4,486 5,221 5,010 33.7
(注)
医療法第12条の3の規定に基づき特定機能病院の開設者が厚生労働大臣に提出する業務に関する報告書に記載されている常勤換算での数値を計 上している。なお、群馬大学病院については、特定機能病院として報告を行っていた平成22年度から25年度までの間の数値を計上しているため、対22年度増加率の算定に当たっては、同大学病院を除いている。
(ウ)看護師等の研修等

病院等の開設者等は、看護師等の人材確保の促進に関する法律(平成4年法律第86号)第5条第1項の規定に基づき、新たに業務に従事する保健師、助産師、看護師及び准看護師(以下「新人看護師等」という。)に対して臨床研修等を実施するよう努めなければならないこととなっている。

22年度から26年度までの間の附属病院全体における新人看護師等の研修等の状況の推移についてみたところ、図表2-7のとおり、看護師不足による看護師の需要の増大等に合わせて、新人看護師等研修の受講者は、22年度3,097人から26年度3,794人へと22.5%増加しており、新人看護師等指導者育成研修の受講者は、22年度1,748人から26年度2,066人となり、比較可能な41附属病院において15.5%増加していた。

また、他の医療機関に所属する新人看護師等を受け入れて上記の研修を実施していた附属病院は22病院、他の医療機関に所属する新人看護師等指導者を受け入れて上記の研修を実施していた附属病院は5病院あり、共に受講者数は増加傾向にあった。

図表2-7 新人看護師等の研修等の状況

(単位:人、%)
区分 平成
22年度
23年度 24年度 25年度 26年度  
対22年度増加率
新人看護師等研修の受講者 3,097 3,315 3,284 3,469 3,794 22.5
  附属病院に所属する者 2,862 3,013 3,007 3,006 3,298 15.2
他の医療機関に所属する者 235 302 277 463 496 111.0
新人看護師等指導者育成研修の受講者 1,748 1,883 1,853 1,869 2,066 15.5
  附属病院に所属する者 1,741 1,842 1,843 1,857 2,046 14.8
他の医療機関に所属する者 7 41 10 12 20 185.7
(注)
平成22年度の新人看護師等指導者育成研修の受講者のうち、附属病院に所属する者の数が不明である愛媛大学病院のデータは含まない。また、対22年度増加率を算出するに当たっては、新人看護師等指導者育成研修の受講者及びその受講者のうち附属病院に所属する者は、同大学病院を除いている。

以上のように、附属病院は、医師法に基づく臨床研修や特定機能病院としての高度の医療に関する研修を実施するなどの教育機能を果たしている。そして、医療従事者の養成は、地域医療に多大な影響を及ぼすことなどから、附属病院は、地域で不足している小児科医や産科医を含めた臨床研修医の養成について、臨床研修医のニーズを的確に把握するなどして研修プログラムを改善したり、卒前・卒後教育との連携を図ったりするなど、臨床研修医の内定者数を増加するための取組等を推進していくことが重要である。

イ 研究機能

附属病院は、新しい医薬品、医療機器等を開発したり、難治性患者の病態を解明したりするための研究等を行う、研究機関としての機能を果たすことが求められている。そして、附属病院は、特定機能病院として、特定機能病院以外の病院では通常提供することが難しい診療に係る技術の研究及び開発を行うこととなっており、これらに係る特定機能病院の承認要件は、病院に所属する医師等の行う研究が、国等から補助金の交付又は委託を受けたものであることなどとなっている。

(ア)臨床研究の実施状況
a 治験の実施状況

治験とは、新しい医薬品、医療機器等の製造販売の承認を国に得るために実施される医薬品等の臨床試験によるその効果及び副作用の研究等であり、医師が主導して治験を実施する医師主導型治験と、企業からの依頼に基づき治験を実施する企業依頼型治験とに区分される。また、新薬の世界規模での開発・承認を目指し、一つの治験に複数の国又は地域の医療機関が参加し、共通の治験実施計画書に基づき、同時並行的に治験を進行する国際共同治験がある。

附属病院は、治験を実施するに当たり、治験の実施に要する費用(以下「治験費用」という。)を治験を依頼する企業等から受け入れている。

22年度から26年度までの間の附属病院全体における医薬品に係る治験の新規受入実績の推移についてみたところ、図表2-8のとおり、受入件数は、年間1,000件前後で推移しており、26年度は895件で22年度と比べて6.0%増加していた。また、治験の実施に伴う治験費用受入額は、23年度の34億7128万円をピークに減少しており、26年度は19億2672万円で22年度と比べて32.9%減少していた。このような中で、医師主導型治験は増加傾向にあり、26年度の受入件数は59件、治験費用受入額は3949万円で22年度と比べてそれぞれ247.0%、659.2%増加していた。

図表2-8 医薬品に係る治験の新規受入実績

(単位:件、千円、%)
区分 平成22年度 23年度 24年度 25年度 26年度  
対22年度増加率
医薬品に係る治験 件数 844 997 1,086 1,188 895 6.0 5,010
治験費用受入額 2,872,930 3,471,283 2,916,062 2,824,143 1,926,726 △32.9 14,011,145
  うち医師主導型治験 件数 17 40 34 38 59 247.0 188
治験費用受入額 5,202 122,494 60,884 35,737 39,497 659.2 263,815
うち国際共同治験 件数 215 229 259 370 297 38.1 1,370
治験費用受入額 649,586 705,923 558,990 889,328 554,520 △14.6 3,358,348

22年度から26年度までの間の各附属病院における医薬品に係る治験の新規受入実績の推移についてみたところ、図表2-9のとおり、受入件数は、東北大学病院の計291件が、治験費用受入額は、九州大学病院の計7億7115万円がそれぞれ最多となっていた。このうち、医師主導型治験について、受入件数は、北海道大学病院の計18件が、治験費用受入額は、山口大学病院の計9042万円が、それぞれ最多となっていた。一方、6附属病院は、受入件数、治験費用受入額共に実績がなかった。国際共同治験について、受入件数は、東北大学病院の計111件が、治験費用受入額は、九州大学病院の計3億0396万円が、それぞれ最多となっていた。

図表2-9 各附属病院における医薬品に係る治験の新規受入実績

治験(全体) (単位:件)   (単位:千円)
件数 附属病院名 平成
22年度
23年度 24年度 25年度 26年度 金額 附属病院名 平成
22年度
23年度 24年度 25年度 26年度
上位 東北大学病院 42 65 51 71 62 291 上位 九州大学病院 99,341 122,779 129,865 224,248 194,919 771,153
九州大学病院 47 63 41 69 63 283 浜松医科大学病院 234,625 243,966 165,373 17,402 41,476 702,844
大分大学病院 61 51 53 65 30 260 大阪大学病院 162,741 92,652 69,446 179,033 157,406 661,281
大阪大学病院 37 37 50 65 69 258 岡山大学病院 149,818 117,139 104,513 155,771 110,358 637,601
北海道大学病院 54 44 59 51 42 250 名古屋大学病院 94,874 166,943 105,595 128,527 90,981 586,920
下位 弘前大学病院 7 7 11 13 8 46 下位 高知大学病院 19,485 41,051 28,167 29,310 14,372 132,386
秋田大学病院 8 5 9 14 10 46 福井大学病院 20,600 4,817 28,379 32,046 6,143 91,987
宮崎大学病院 4 13 14 10 1 42 琉球大学病院 3,942 15,019 47,810 9,093 6,845 82,712
福井大学病院 6 3 9 11 4 33 秋田大学病院 14,701 3,849 10,311 27,346 24,320 80,529
琉球大学病院 1 5 10 9 6 31 宮崎大学病院 8,717 27,850 9,284 29,873 1,794 77,521
 
医師主導型治験 (単位:件)   (単位:千円)
件数 附属病院名 平成
22年度
23年度 24年度 25年度 26年度 金額 附属病院名 平成
22年度
23年度 24年度 25年度 26年度
上位 北海道大学病院 1 2 3 2 10 18 上位 山口大学病院 1,000 87,722 500 1,200 90,422
大阪大学病院 0 1 5 4 7 17 浜松医科大学病院 23,400 33,000 28,270 84,670
東北大学病院 2 4 1 3 4 14 大阪大学病院 90 3,100 19,152 2,955 25,297
九州大学病院 1 2 1 4 6 14 旭川医科大学病院 6,168 6,545 2,111 14,826
名古屋大学病院 1 3 0 1 7 12 神戸大学病院 6,408 2,300 8,708
 
受入件数、治験費用受入額共に実績がない附属病院 秋田、富山、山梨、島根、佐賀、大分各大学病院
 
国際共同治験 (単位:件)   (単位:千円)
件数 附属病院名 平成
22年度
23年度 24年度 25年度 26年度 金額 附属病院名 平成
22年度
23年度 24年度 25年度 26年度
上位 東北大学病院 22 20 17 27 25 111 上位 九州大学病院 32,437 31,917 33,565 91,522 114,517 303,960
北海道大学病院 18 13 23 29 19 102 北海道大学病院 89,670 61,480 16,953 21,375 14,405 203,884
九州大学病院 15 20 10 26 30 101 岡山大学病院 44,445 28,512 16,359 61,606 52,003 202,927
名古屋大学病院 15 21 11 18 13 78 熊本大学病院 29,183 32,312 28,491 62,080 38,356 190,423
大阪大学病院 6 7 10 25 23 71 東北大学病院 31,514 50,516 27,243 48,623 32,081 189,979
下位 富山大学病院 2 1 0 3 2 8 下位 鳥取大学病院 6,817 3,351 7,274 758 18,201
山梨大学病院 0 3 2 2 1 8 佐賀大学病院 5,320 2,267 3,184 4,826 1,660 17,259
鳥取大学病院 3 1 2 0 2 8 福井大学病院 1,429 2,599 8,468 1,019 13,516
大分大学病院 0 0 1 1 5 7 大分大学病院 360 360 4,294 5,015
福井大学病院 1 0 1 3 1 6 琉球大学病院 1,000 2,265 539 3,804
琉球大学病院 0 1 0 3 1 5  
宮崎大学病院 0 1 2 1 0 4
b 治験費用の算定方法

治験費用は、厚生労働省が23年5月に周知した「治験等の効率化に関する報告書」によれば、治験内容に応じた業務量に基づいて算定すべきものであり、実施実績に基づいて医療機関に支払うことを原則とするとされている。

治験費用は、臨床試験研究費、治験に携わる治験コーディネーター(以下「CRC」という。)等の人件費、治験内容の倫理的な審査を行う倫理審査委員会の運営に係る費用等に分類することができ、これらのうちの主な費用の算定状況は、次のとおりとなっていた。

(a)臨床試験研究費の算定

附属病院は、国立大学法人化前に発出された「国立大学附属病院における医薬品等の臨床研究等の受託について」(平成11年文部省高等教育局医学教育課長通知。以下「医学教育課長通知」という。)を参考とするなどして、疾患の重篤度や入院・外来別、治験薬の投与期間、患者の観察頻度等の要素ごとに設定されたポイント数等を基に、実施する治験内容の難易度等を数値換算した表(以下「ポイント算出表」という。)を使用し、ポイント算出表により得られた総ポイント数に一定の単価を乗ずるなどして臨床試験研究費の算定を行っている。

各附属病院のポイント算出表における要素ごとのポイントの設定状況等についてみたところ、前記の「治験等の効率化に関する報告書」を踏まえて、治験の長期化、多様化等に合わせて、治験薬の投与期間が長期となる場合や治験薬の投与経路について難易度の高い動脈注射等を用いる場合等は高いポイントを設定するなどして、臨床試験研究費を業務実績に基づく費用に近づける取組をしている附属病院が38病院となっていた。一方、医学教育課長通知のポイント算出表をそのまま利用している附属病院が4病院となっていた。

(b)CRCの人件費の算定

CRCは、企業からの治験の依頼に応じて、事前調査、実施計画内容の把握、対象患者への同意説明文書の作成補助、対象患者・研究者との調整等の業務を行っている。

治験を依頼する企業がCRCに対して人件費を直接支払っている1附属病院を除く41附属病院が、CRCの人件費を業務実績に基づいて算定しているかについてみたところ、32附属病院は、業務内容を区分し、その区分ごとに要する標準的な作業時間を算出し、標準的な治験作業に要する費用を算定するなどして、業務実績に基づく費用に近づける取組を行っていた。一方、9附属病院は、他の大学等におけるCRCの人件費のみを参考に算定するなどしていて、業務実績に近づける取組が必ずしも十分でないと思料される状況となっていた。

c 治験実施体制の強化に係る特別運営費交付金の交付実績

国立大学法人は、23年度から治験実施体制の強化を図るための「メディカル・イノベーションを担う国立大学附属病院の教育研究の充実強化経費」等のうち治験実施体制の強化分として、附属病院における治験実施計画書数を勘案したCRC等のスタッフ数に応じて算定された特別運営費交付金の交付を受けている。

23年度から26年度までの間の上記特別運営費交付金の国立大学法人全体における交付実績は、図表2-10のとおり、計112億6120万円となっていた。

図表2-10 治験実施体制の強化に係る特別運営費交付金の交付実績

区分 平成23年度 24年度 25年度 26年度
交付額(千円) 2,628,800 2,623,600 2,742,400 3,266,400 11,261,200
国立大学法人数 42 42 42 42
(注)
42国立大学法人の内訳については別表13参照
d 外部資金による研究費等の受入実績

附属病院は、診療収入を獲得したり、治験費用を受け入れたりなどするほか、企業等からの教育研究の奨励を目的とする寄附金(以下「奨学寄附金」という。)、受託研究(治験を除く。以下同じ。)、共同研究等の外部資金による研究資金の獲得に努めている。

22年度から26年度までの間の附属病院全体における外部資金による研究費等の受入実績の推移についてみたところ、図表2-11のとおり、外部資金の額は増加傾向にあり、22年度から26年度までの間の受入額は計2034億1146万円となっていた。

このうち、外部資金の大半を占める奨学寄附金の受入額は、計1506億9462万円となっていた。また、奨学寄附金の受入件数は23年度、受入額は24年度をピークにそれぞれ減少に転じており、26年度の受入件数は30,800件、受入額は275億2454万円で22年度と比べてそれぞれ7.0%、7.2%減少していた。

図表2-11 外部資金による研究費等の受入実績

(単位:件、千円、%)
区分 平成22年度 23年度 24年度 25年度 26年度  
対22年度増加率
奨学寄附金 件数 33,153 34,648 34,116 33,697 30,800 △7.0 166,414
受入額 29,685,680 30,839,445 32,045,396 30,599,550 27,524,549 △7.2 150,694,621
受託研究 件数 4,107 4,302 4,338 4,523 4,944 20.3 22,214
受入額 5,024,445 4,378,853 4,300,450 5,390,262 9,306,619 85.2 28,400,630
共同研究 件数 554 600 647 710 777 40.2 3,288
受入額 1,567,799 2,008,847 1,959,808 3,319,592 2,531,205 61.4 11,387,252
受託事業 件数 2,959 2,948 3,207 3,270 3,388 14.4 15,772
受入額 1,445,752 1,921,043 2,604,420 2,964,591 3,993,153 176.1 12,928,962
件数 40,773 42,498 42,308 42,200 39,909 △2.1 207,688
受入額 37,723,678 39,148,189 40,910,075 42,273,996 43,355,527 14.9 203,411,467
注(1)
奨学寄附金については、附属病院の診療科・部門で受け入れているもののほか、附属病院の診療科・部門で勤務する職員が所属する医学部講座及び研究部門で受け入れているものも含めている。
注(2)
奨学寄附金に係る42附属病院の内訳については別表14参照

また、図表2-12のとおり、22年度から26年度までの間の奨学寄附金の受入額の合計が50億円を超える附属病院は10病院あり、これら10病院で附属病院全体の受入額の47.0%を占めていた。

図表2-12 奨学寄附金の受入額の合計が50億円を超える附属病院

東京大学病院 (123.3億円) 九州大学病院 (83.9億円)
名古屋大学病院 (79.7億円) 熊本大学病院 (73.5億円)
大阪大学病院 (64.9億円) 京都大学病院 (63.1億円)
岡山大学病院 (60.0億円) 神戸大学病院 (58.4億円)
筑波大学病院 (51.0億円) 鹿児島大学病院 (50.7億円)
(イ)医師の研究従事時間等
a 医師の研究従事時間

附属病院は、教育、研究、診療等について様々な取組を行っているが、文部科学省によると、16年度に国立大学が法人化された以降、附属病院自らが病院経営の効率化を図るため診療業務に注力したことや、地域の医師不足等による地域医療機関の小児科・産科等の診療科の縮小、閉鎖等に伴い附属病院に患者が集中したことなどから、医師の診療従事時間が増加して、教育及び研究従事時間が減少したとしている。

そこで、附属病院における医師の研究従事時間についてみたところ、図表2-13のとおり、国立大学法人化前と比較して減少しているとする附属病院が18病院となっていた。

また、研究従事時間が減少した理由として、診療従事時間の増加によるとしている附属病院が15病院、教育従事時間の増加によるとしている附属病院、診療従事時間と教育従事時間の増加によるとしている附属病院、診療従事時間とその他の院内事務等の従事時間の増加によるとしている附属病院がそれぞれ1病院となっていた。

図表2-13 医師の研究従事時間

図表2-13 医師の研究従事時間 画像

b 研究推進のための取組

前記のとおり、多くの附属病院において医師の研究従事時間が減少したとしている中で、40附属病院は、研究推進のための取組を実施しているとしている。その取組内容についてみたところ、図表2-14のとおり、研究者である医師の負担を軽減するために、医師の業務補助を行う者の増員により医師の診療従事時間の減少を図っているとしている附属病院が29病院、研究を推進するための委員会等を設置しているとしている附属病院が18病院、研究実績を業績評価として重視するとしている附属病院が11病院等となっていた。

図表2-14 研究推進のための取組の実施状況

取組内容 附属病院数
医師の業務補助を行う者の増員による診療従事時間の減少 29
研究を推進するための委員会等の設置 18
研究実績を業績評価として重視 11
特任教授等のポストの増設 10
医師の増員による診療従事時間の減少 8
その他 12
(注)
複数の取組を実施している附属病院があるため、附属病院数を合計しても40と一致しない。

以上のように、附属病院は、特定機能病院として、特定機能病院以外の病院では通常提供することが難しい診療に係る技術の研究及び開発を行うなど、研究機能を果たしており、こうした研究及び開発を通じて自己収入を確保していくことが必要となっている。そのため、治験費用について治験内容の業務実績に基づいて算定する取組を推進して、治験に係る収支管理を適切に実施することが重要である。また、医師の診療従事時間が増加し、研究従事時間が減少したとしている附属病院が数多くあることから、今後、自己収入の確保を図りながら、医師の負担を軽減するために、医師の業務補助を行う者の増員について検討を行ったり、研究を推進するための委員会等を設置したりなどすることにより、研究を推進するための取組を行う必要がある。

ウ 診療機能

附属病院は、医療法上の病院として、医師等が公衆又は特定多数人のために医業等を行う、診療機関としての機能を果たすことが求められている。そして、政策医療の一翼を担っているほか、特定機能病院として高度の医療の提供や地域医療の最後の砦として高度急性期医療等の提供を行っている。

(ア)政策的医療機関としての指定等

附属病院は、特定機能病院としての承認を受けているほか、がん対策基本法(平成18年法律第98号)、消防法(昭和23年法律第186号)、災害対策基本法(昭和36年法律第223号)等の関連法令により策定される計画等に基づき、がん診療、救急医療、災害医療等の分野において、国、都道府県等から各種の政策的医療機関としての指定を受けるなどして、政策医療の一翼を担っている。

そして、附属病院を含む各医療機関は、政策的医療機関としての指定等を受けることにより、診療報酬が加算されたり、補助金の交付等による財政支援がなされたりすることとなっている。

附属病院に対する政策的医療機関としての指定等の状況についてみたところ、図表2-15のとおり、がん診療について、群馬大学病院を除く41附属病院が拠点病院の指定を受けていた。他方、救急医療について救命救急センター等の指定を受けている附属病院は23病院(附属病院全体の54.7%)、災害医療について拠点病院の指定を受けている附属病院は34病院(同80.9%)となっているなど、附属病院に対する政策的医療機関としての指定等の状況は異なっていた。

図表2-15 政策的医療機関としての指定等の状況(平成27年4月1日現在)

区分 がん診療 救急医療 災害医療 へき地医療 周産期保健医療 エイズ診療 被ばく医療 臓器移植登録病院 難病医療
指定等病院名 都道府県がん診療連携拠点病院 地域がん診療連携拠点病院 小児がん拠点病院 救命救急センター 高度救命救急センター 小児救命救急センター 基幹災害拠点病院 地域災害拠点病院 へき地医療拠点病院 総合周産期母子医療センター 地域周産期母子医療センター エイズ治療地方ブロック拠点病院 エイズ治療中核拠点病院 エイズ治療拠点病院 初期被ばく医療機関 二次被ばく医療機関 三次被ばく医療機関 対象臓器 難病医療拠点病院 難病医療協力病院
心臓 肝臓 腎臓 膵臓 小腸
附属病院数 23 18 7 11 11 2 8 27 4 16 19 3 21 24 1 12 2 6 7 17 36 9 9 25 10
注(1)
各区分において、重複して指定を受けている附属病院があるため、図表の附属病院数と本文中の指定等を受けている附属病院数は一致しない。
注(2)
42附属病院の内訳については別表15参照
(イ)高度の医療の提供

附属病院は、前記のとおり、高度の医療を提供する能力を有するものとして特定機能病院の承認を受けており、高度の医療の提供に係る特定機能病院の承認要件は、先進医療について2件以上の厚生労働大臣の承認を受けていることなどとなっている。

a 先進医療に対する取組

22年度から26年度までの間の附属病院全体における先進医療の新規承認件数の推移についてみたところ、図表2-16のとおり、22年度33件から26年度52件となり、57.5%増加していた。

図表2-16 先進医療の新規承認件数

(単位:件、%)
区分 平成22年度 23年度 24年度 25年度 26年度  
対22年度増加率
件数 33 84 71 78 52 57.5
(注)
各年度の件数は、前年度の7月1日から当該年度の6月30日までに承認を受けた先進医療の件数を計上している。

また、22年度から26年度までの間の各附属病院における先進医療の新規承認件数についてみたところ、図表2-17のとおり、新規承認件数は、東北大学病院の計20件が最多となっており、5附属病院の計2件が最少となっていた。

図表2-17 各附属病院における先進医療の新規承認件数

(単位:件)
附属病院名 平成22年度 23年度 24年度 25年度 26年度
上位 東北大学病院 1 10 4 2 3 20
京都大学病院 1 8 3 1 2 15
群馬大学病院 3 5 1 3 1 13
信州大学病院 3 4 0 4 2 13
広島大学病院 3 3 3 1 3 13
下位 秋田大学病院 0 1 1 0 0 2
山梨大学病院 0 0 0 2 0 2
香川大学病院 0 0 1 1 0 2
高知大学病院 1 0 0 1 0 2
佐賀大学病院 0 2 0 0 0 2
b 先進医療に係る特別運営費交付金の交付実績

国立大学法人は、23年度から先進医療の実施等に伴う臨床研究機能強化経費として、附属病院における先進医療を対象とした特別運営費交付金の交付を受けている。

23年度から26年度までの間の上記特別運営費交付金の国立大学法人全体における交付実績についてみたところ、図表2-18のとおり、各附属病院における国等から補助金の交付又は委託を受けた研究実績や発表した論文数に応じて算定された「先進医療技術の開発及び評価の実績分」に係る24年度から26年度までの間の交付実績は、計54億3790万円、各附属病院における先進医療技術の承認数に応じて算定された「先進医療実施体制の強化分」に係る23年度から26年度までの間の交付実績は、計134億2800万円、各附属病院における病床数を勘案した先進医療取扱患者数に応じて算定された「先進医療提供の実績分」に係る24年度から26年度までの間の交付実績は、計21億0580万円となっていた。

図表2-18 先進医療に係る特別運営費交付金の交付実績

区分 平成23年度 24年度 25年度 26年度
先進医療技術の開発及び評価の実績分 交付額(千円) 1,912,900 2,124,400 1,400,600 5,437,900
国立大学法人数 34 33 25
先進医療実施体制の強化分 交付額(千円) 3,012,000 4,020,000 2,820,000 3,576,000 13,428,000
国立大学法人数 42 42 42 42
先進医療提供の実績分 交付額(千円) 826,800 592,500 686,500 2,105,800
国立大学法人数 42 42 42
(注)
42国立大学法人の内訳については別表16参照
(ウ)急性期医療の提供
a 病床機能報告

前記のとおり、26年に医療法が改正され、病床機能報告制度が創設された。病床機能報告制度において、各医療機関は、病床の有する医療機能を、病棟単位を基本として高度急性期機能、急性期機能、回復期機能及び慢性期機能に区分して、これらの区分について都道府県に報告することとなっている。

附属病院は、特定機能病院として、特定機能病院以外の病院では通常提供することが難しい診療の提供を行うこととなっていることから、26年度の病床機能報告では、図表2-19のとおり、病棟の約98%について高度急性期機能を有すると報告していた。

図表2-19 病床機能報告の状況(平成26年度報告分)

区分 高度急性期 急性期 回復期 慢性期 未報告
病棟数 819 13 0 2 2
(%) 97.9 1.5 0.2 0.2
b 手術件数等

上記のとおり、附属病院は、高度急性期医療等を提供する役割を担っている。

高度急性期医療等の提供状況に関して、22年度から26年度までの間の附属病院全体における手術件数等の推移についてみたところ、図表2-20のとおり、手術件数は、毎年度増加しており、また、高度急性期医療等に関連する全身麻酔や人工心肺を用いた手術等の件数も、26年度は22年度と比べて増加していた。

図表2-20 手術件数等

(単位:件、%)
区分 平成
22年度
23年度 24年度 25年度 26年度  
対22年度増加率
手術件数 257,012 263,565 270,012 281,477 291,109 13.2
全身麻酔による手術件数 162,779 169,998 176,199 182,558 183,196 12.5
人工心肺を用いた手術件数 5,726 6,153 6,444 6,577 6,545 14.3
悪性腫瘍手術件数 45,977 47,017 51,241 53,812 56,053 21.9
放射線治療(体外照射法)件数 499,703 546,204 531,477 537,560 534,129 6.8
化学療法件数 270,352 300,945 312,798 333,403 324,311 19.9

そして、高度急性期医療等を必要とする患者に対する手術件数等の増加に伴い、図表2-21のとおり、附属病院全体における入院患者一人当たりの診療単価(平均値)は、22年度61,070円から26年度69,412円へ、外来患者一人当たりの診療単価(平均値)は、22年度12,866円から26年度15,744円へと推移しており、それぞれ13.6%、22.3%増加していた。

上記のとおり、附属病院全体における入院及び外来患者一人当たりの診療単価(平均値)は、共に増加しているが、42附属病院における入院及び外来患者一人当たりの診療単価についてみたところ、入院患者一人当たりの診療単価の散らばりの度合い(標準偏差(注15))は22年度に比べて26年度が大きくなっていた。また、外来患者一人当たりの診療単価の散らばりの度合い(標準偏差)も22年度に比べて26年度が大きくなっていた。このように、入院及び外来患者一人当たりの診療単価は共に、附属病院間で差が広がっていた。また、最高診療単価と最低診療単価とをみても、その差が広がっていた。

(注15)
標準偏差  統計処理の対象とするデータの散らばりの度合いを表す数値であり、標準偏差が大きいほどデータの散らばりの度合いが大きいことを示す。このため、入院及び外来患者一人当たりの診療単価の標準偏差の値が大きいほど、各附属病院の入院及び外来患者一人当たりの診療単価の散らばりの度合いが大きいことを示している。

図表2-21 患者一人当たりの診療単価

(単位:円、%)
区分 平成
22年度
23年度 24年度 25年度 26年度  
対22年度増加率
入院患者一人当たり診療単価(平均値) 61,070 63,186 66,435 68,190 69,412 13.6
  最高診療単価(a) 69,185 72,086 77,463 81,188 82,258 18.8
最低診療単価(b) 51,780 56,478 58,779 59,899 60,440 16.7
診療単価の差(a)-(b) 17,405 15,608 18,684 21,289 21,818 25.3
標準偏差 4,016 3,924 4,353 4,738 5,063 26.0
外来患者一人当たり診療単価(平均値) 12,866 13,505 14,135 14,901 15,744 22.3
  最高診療単価(a) 16,482 17,734 18,381 18,804 19,603 18.9
最低診療単価(b) 7,836 8,261 8,393 8,869 9,553 21.9
診療単価の差(a)-(b) 8,646 9,473 9,988 9,935 10,050 16.2
標準偏差 1,750 1,801 1,854 1,936 2,054 17.3
(注)
入院患者一人当たり診療単価(平均値)及び外来患者一人当たり診療単価(平均値)は、各附属病院の入院患者一人当たり診療単価及び外来患者一人当たり診療単価の計を附属病院数で除した値である。

以上のように、附属病院は、特定機能病院として先進医療等の高度の医療の提供を行ったり、高度急性期医療等の提供を行ったりするなど、診療機能を果たしている。しかし、近年、附属病院間で診療単価の差が広がっていることから、診療単価の低い病院は、診療単価が低くなっている原因を把握し、その対策を講ずるなどして、地域の実情に合った効率的な病院運営を行うよう努めるとともに、高度急性期医療等を必要とする患者を中心に受け入れる取組を推進するなどして、地域における機能分化の促進により寄与していくことが重要である。

エ 地域貢献・社会貢献機能

附属病院は、地域の中核的な医療機関として、また、特定機能病院として、一般医療機関では実施困難な高難易度手術の実施等を通じて、高度で質の高い医療の提供を行うことが求められている。そして、附属病院は、地域の医療従事者も含め、優れた医療従事者を養成する教育機関として、また、養成された医療従事者を地域の他の医療機関へ輩出する人材供給機関として、地域医療への貢献という社会的な使命・役割を担うことが求められている。

(ア)地域医療機関との連携
a 紹介率等の実績の推移

附属病院は、地域の中核的な医療機関として、また、特定機能病院として、地域の他の医療機関から紹介を受けるなどして、一般医療機関では治療を行うことのできない重症患者の診療を行い、診療後、回復期になった患者を他の医療機関に逆紹介することなどにより、医療連携体制に基づく地域完結型医療の中心的役割を担うことが求められている。

従来、紹介率が30%以上であることが特定機能病院の承認要件の一つとされていたが、医療法施行規則が26年に改正され、これが50%以上に引き上げられるとともに、逆紹介率が40%以上であることが新たな承認要件として追加されるなど、紹介率及び逆紹介率は特定機能病院が高度急性期医療等を提供する上での重要な要件となっている。

そこで、22年度から26年度までの間の附属病院全体における紹介率等の推移についてみたところ、図表2-22のとおり、紹介患者数、逆紹介患者数共に、附属病院と地域医療機関による機能分化に係る取組等により増加しており、26年度は22年度と比べてそれぞれ8.2%、16.8%増加していた。また、紹介率は、外来患者の抑制等により初診患者数が減少したことなどから、22年度の71.2%から26年度の81.5%となり、比較可能な40附属病院において26年度の紹介率は、22年度に比べて10.1ポイント増加していた。逆紹介率は、22年度の49.5%から26年度の60.3%となり、比較可能な41附属病院において26年度の逆紹介率は、22年度に比べて10.9ポイント増加していた。

図表2-22 紹介率等

(単位:人、%)
区分 平成22年度 23年度 24年度 25年度 26年度  
対22年度増加率
紹介患者数 540,393 548,610 569,540 579,927 584,883 8.2
逆紹介患者数 407,454 410,788 418,991 449,368 476,168 16.8
救急搬送患者数 51,693 57,346 59,759 58,152 59,283 11.8
初診患者数 810,071 816,895 824,463 807,546 785,174 △5.0
紹介率 71.2 73.9 75.9 78.5 81.5
逆紹介率 49.5 50.6 51.3 55.2 60.3
注(1)
初診患者数は、紹介率等の算出に用いるため休日夜間初診患者数を除いた数である。
注(2)
平成25年度以前の紹介率及び逆紹介率は、26年の改正後の医療法施行規則の数式により算出している。
注(3)
紹介率又は逆紹介率は、各附属病院の紹介率又は逆紹介率の計を附属病院数で除した平均値である。
注(4)
平成22年度の救急搬送患者数が不明である東北大学病院のデータ、22年度の初診患者数が不明である琉球大学病院のデータは含まない。また、対22年度増加率を算出するに当たっては、救急搬送患者数は、東北大学病院を除き、初診患者数は、琉球大学病院を除いている。
注(5)
42附属病院の内訳については別表17参照

22年度から26年度までの間の各附属病院の紹介率等の推移についてみたところ、図表2-23のとおり、26年度の紹介率は、浜松医科大学病院が97.0%と最も高く、福井大学病院が65.5%と最も低くなっていた。また、26年度の逆紹介率は、東京大学病院が88.3%と最も高く、山梨大学病院が42.9%と最も低くなっていた。そして、22年度と比べて26年度の逆紹介率が減少している附属病院が8病院となっていた。

図表2-23 各附属病院における紹介率等

(単位:%)
区分 平成22年度 23年度 24年度 25年度 26年度
紹介率 上位 浜松医科大学病院 60.8 65.4 67.4 97.1 97.0
東京医科歯科大学病院 84.1 89.4 89.5 89.9 96.5
東北大学病院 93.9 92.2 92.8 96.0
下位 信州大学病院 67.1 74.4 79.0 79.7 69.8
富山大学病院 57.4 57.6 61.0 62.8 69.3
福井大学病院 63.2 61.7 61.0 62.8 65.5
逆紹介率 上位 東京大学病院 26.5 29.4 31.8 77.7 88.3
群馬大学病院 53.6 59.9 75.4 68.0 81.0
弘前大学病院 73.4 70.0 75.9 76.9 80.2
下位 金沢大学病院 49.8 44.2 47.0 44.4 47.7
岐阜大学病院 56.9 48.1 46.1 43.6 46.2
山梨大学病院 34.4 36.5 38.9 38.8 42.9
注(1)
区分欄の上位及び下位の附属病院は、平成26年度の紹介率及び逆紹介率の上位及び下位の順位に基づいて記載している。
注(2)
平成25年度以前の紹介率及び逆紹介率は、26年の改正後の医療法施行規則の数式により算出している。
注(3)
東北大学病院の平成22年度の紹介率は、救急搬送患者数が不明であるため、算出することができない。
b 紹介率等の向上の取組及び影響

附属病院は、紹介率及び逆紹介率の向上のための取組を行っている。その取組内容についてみたところ、図表2-24のとおり紹介率について、定例会議での診療科別等の紹介率の報告を行っている附属病院が39病院、専門部署等による優先予約を行っている附属病院が30病院、地域医療機関への訪問を行っている附属病院が19病院等となっていた。また、逆紹介率について、定例会議での診療科別等の逆紹介率の報告を行っている附属病院が37病院、逆紹介状作成事務の効率化を行っている附属病院が19病院、地域医療機関への訪問を行っている附属病院が17病院等となっていた。

図表2-24 紹介率等の向上のための取組内容

紹介率の向上のための取組内容 附属病院数 逆紹介率の向上のための取組内容 附属病院数
定例会議での紹介率の報告 39 定例会議での逆紹介率の報告 37
専門部署等による優先予約 30 逆紹介状作成事務の効率化 19
地域医療機関への訪問 19 地域医療機関への訪問 17
紹介率の目標設定 12 逆紹介率の目標設定 14
紹介状作成事務の効率化 10 診療機関データベースの整備 13
その他 11 その他 10
(注)
複数の取組を実施している附属病院があるため、附属病院数を合計しても42と一致しない。

そして、紹介率及び逆紹介率が向上することによる影響についてみたところ、図表2-25のとおり、紹介率の向上による影響について、直接的な影響は判断できないとしている附属病院が半数近くを占めているものの、外来診療単価の上昇に寄与するとしている附属病院が17病院見受けられた。また、逆紹介率の向上による影響についても同様に、直接的な影響は判断できないとしている附属病院が半数近くを占めているものの、平均在院日数の短縮に寄与するとしている附属病院が21病院、紹介率の増加に寄与するとしている附属病院が15病院見受けられた。

紹介率の向上による影響としては、地域医療機関から紹介された患者には高度急性期医療等を必要とする患者が多く、附属病院がこれらの患者に高度急性期医療等を提供することにより、外来診療単価の上昇に寄与していると思料され、紹介状により地域医療機関から患者の診療情報の提供を受けることで効率的な診療が可能になると思料される。また、逆紹介率の向上による影響としては、特定機能病院以外の病院では通常提供することが難しい診療を終えた患者を地域医療機関に紹介することにより、附属病院における平均在院日数の短縮等に寄与していると思料される。

図表2-25 紹介率等の向上による影響

紹介率の向上による影響 附属病院数 逆紹介率の向上による影響 附属病院数
外来診療単価の上昇 17 平均在院日数の短縮 21
外来患者一人当たりの診療従事時間の減少 6 紹介率の増加 15
その他 9 その他 5
直接的な影響は判断できない 20 直接的な影響は判断できない 18
(注)
影響が複数あると回答している附属病院があるため、附属病院数を合計しても42と一致しない。
(イ)医師派遣

前記のとおり、附属病院は、養成された医療従事者を地域の他の医療機関へ輩出する人材供給機関として、地域医療への貢献という社会的な使命・役割を果たすことが求められている。しかし、16年の医師法の改正による臨床研修制度の見直しにより、附属病院に定着する医師数が減少し、それまで担ってきた地域医療の状況に配慮した医師派遣機能の低下が懸念されたことから、19年に医療法が改正され、都道府県は、特定機能病院を含む地域医療機関の管理者等との協議の場を設け、救急医療等確保事業に係る医療従事者の確保に必要な施策を定めることとなっている。そして、地域医療機関の管理者等は、都道府県が行う協議に参画するよう求めがある場合には、これに協力するよう努めなければならないこととなっている。さらに、26年に医療法が改正され、従前、法的位置付けがなかった都道府県知事による地域医療機関の管理者等に対する医師派遣の要請が明確化されている。

22年度から26年度までの間の附属病院全体における医師派遣数の推移についてみたところ、図表2-26のとおり、毎年度4,000人前後で推移していたが、22年度と26年度が比較可能な39附属病院の状況をみると、26年度末における医師派遣数が22年度と比べて増加している附属病院が17病院ある一方で、減少している附属病院は22病院となっていた。

図表2-26 医師派遣数

(単位:人)
区分 平成22年度 23年度 24年度 25年度 26年度
医師派遣数 4,147 3,943 3,810 4,155 4,183
注(1)
医師派遣数は、臨床研修医の募集定員の設定に際し、募集定員の加算を行うための基礎資料となる「医師派遣等加算の算出基礎資料」等に記載されている数値を計上している。そのため、臨床研修医の募集定員の加算が必要ないなどの理由により、秋田大学病院は平成22年度の実績が、群馬大学病院は22年度から26年度までの実績が、香川大学病院は23、26両年度の実績が医師派遣数に含まれていない。
注(2)
各年度の医師派遣数は、年度末時点での数値を計上している。

以上のように、附属病院は、地域医療機関との連携を行ったり、人材供給機関として医師派遣を行ったりして、地域貢献・社会貢献の機能を果たしている。そして、紹介率や逆紹介率を向上させることにより、効率的な診療を可能にし、平均在院日数の短縮等による附属病院の経営改善につながると思料されることから、今後更に紹介率等の向上のための取組を進めていくことが重要である。

(3)附属病院の医療安全管理体制等

前記のとおり、医療事故等を契機として、附属病院における医療安全管理体制等に対する国民の関心がより一層高くなっている。そして、附属病院において重大な医療事故が発生すると、安心、安全で高度の医療の提供に対する信頼を傷つけるだけでなく、附属病院の経営等に影響を及ぼすことが予想される。

そこで、群馬大学病院の医療事故に伴う経営等への影響や、群馬大学病院を除く各附属病院の医療安全管理体制等についてみたところ、次のとおりとなっている。

ア 群馬大学病院の医療事故に伴う経営等への影響

(ア)群馬大学病院における医療事故問題の経緯等

群馬大学病院における医療事故問題の経緯等を時系列順にまとめると、図表3-1のとおりである。

図表3-1 群馬大学病院における医療事故問題の経緯等

年月 事項
平成26年6月 院内調査の開始
8月 群馬大学医学部附属病院腹腔鏡下肝切除術事故調査委員会(以下「事故調査委員会」という。)による調査の開始
11月 新聞報道(22年から26年までの間、肝臓の腹腔鏡手術で術後4か月以内に患者8人が死亡)
12月 事故調査委員会による中間報告
27年3月 事故調査委員会による最終報告・改善報告
4月 群馬大学医学部附属病院改革委員会(以下「改革委員会」という。)設置
群馬大学病院の特定機能病院としての取扱いなどについて、厚生労働省の社会保障審議会医療分科会が意見
6月 厚生労働大臣による特定機能病院の承認取消し
7月 群馬大学医学部附属病院医療事故調査委員会(以下「医療事故調査委員会」という。)設置
10月 改革委員会による提言(中間まとめ)
28年7月 医療事故調査委員会による報告
8月 改革委員会による提言(最終)

群馬大学病院は、肝臓の腹腔鏡手術で複数の死亡例があることが判明したことから、26年6月に院内調査を開始した。そして、低侵襲(注16)とされる腹腔鏡手術において複数の死亡例が認められた事実を重視し、事故調査委員会による調査を開始して、同年12月に中間報告、27年3月に最終報告・改善報告を公表した。

(注16)
低侵襲  切開をできる限り小さくするなどして、身体の負担を抑えること

最終報告によれば、死亡例の発生後に診療科からの報告がなく、病院として問題事例の把握が遅れたことなどが問題とされ、全診療科に報告を徹底できるような仕組みを確立するなどの再発防止策が必要であるとされた。また、改善報告によれば、報告対象とすべき具体事例をマニュアルに追加して、問題事例を確実に収集したり、院内の全死亡症例の収集と検証を行ったりするなどして医療安全管理体制の強化等を行うこととされた。

しかし、事故調査委員会の調査における外部委員の関わり方、死亡例が多数発生した中で手術が続けられた背景等の検証が不十分であったとされたことから、別途、27年4月に改革委員会、同年7月に医療事故調査委員会が設置された。

改革委員会は、医療事故に関連した諸問題を踏まえ、再発防止のための病院体制等の検証と改善策の提言を行うことを目的として、学長の下に設置され、27年10月に提言(中間まとめ)を公表した。

上記の提言によれば、医療事故発生の背景として、臓器別診療体制が構築された後も旧第一外科と旧第二外科が独立に運営され、協力体制が構築されていなかったことや、インシデント(注17)やバリアンス(注18)を確実に把握できるシステムが十分に機能していなかったことなどが挙げられ、医療事故調査委員会による調査を踏まえつつ、引き続き検討を行っていくこととされた。

(注17)
インシデント  患者の診療・ケアにおいて、本来のあるべき姿からはずれた事態・行為の発生
(注18)
バリアンス  あらゆる医療の過程において、予想外に生じてしまった悪い結果

医療事故調査委員会は、28年7月に報告書を公表し、その報告書では、全死亡例の中にどれだけ重大な医療事故が含まれるかを把握して、対策や改善の効果を測定し、内外に発信することや、各部署における医療安全管理を担当するリスクマネージャー(以下「RM」という。)の権限を明確にした要綱を新たに策定することなどが提言された。

そして、改革委員会は、上記の医療事故調査委員会の調査結果や群馬大学病院で取り組んでいる改革の状況を踏まえて、28年8月に提言(最終)を公表した。

一方、27年4月に厚生労働省社会保障審議会医療分科会は、特定機能病院の管理者が確保することとされている医療安全管理体制等について、死亡症例検討会等における原因分析や管理者への報告を実施できていなかったこと、死亡事案が発生した際に、院内報告制度が機能しておらず、速やかな原因分析や改善策の立案及び職員への周知が行われていなかったことなどの問題点が認められるとした上で、群馬大学病院に対しては、特定機能病院の承認の取消しが相当であるとの意見を厚生労働大臣に提出した。これを受けて、27年6月に厚生労働大臣は、群馬大学病院の特定機能病院の承認を取り消した。

(イ)医療安全対策

群馬大学病院は、事故調査委員会による最終報告・改善報告等を踏まえ、27年4月に、外科及び内科の各診療科を外科診療センター及び内科診療センターにそれぞれ統合したり、バリアンス報告の対象を客観的な指標を設けて具体化するなどしてインシデント報告体制の充実を図ったり、死亡症例検証委員会を設置して、全死亡症例について詳細に検討し、その結果を病院長に報告したりするなどの対策を講じている。また、大学院医学系研究科の講座と附属病院の診療科との整合性を図るための教育研究組織の再編等については、今後の改善事項としており、29年4月から、外科専門分野を外科学講座として一本化することなどを予定している。

(ウ)医療事故に伴う経営等への影響

群馬大学病院の医療事故に伴う収入減等の経営等への影響についてみたところ、次のような状況となっていた。

a 稼働額等への影響

(a)特定機能病院の承認取消しに伴う影響

27年6月の特定機能病院の承認取消しに伴う稼働額(注19)への影響を試算したところ、図表3-2のとおり、①厚生労働大臣が定めた診療報酬の施設基準である「特定機能病院入院基本料(一般病棟7対1入院基本料)」から「一般病棟入院基本料(7対1入院基本料)」に変更されたことにより、入院基本料や入院患者の入院期間に応じて加算される所定の点数がそれぞれ下がること、②DPC制度における医療機関別係数のうち「機能評価係数Ⅰ」が下がることなどにより、27年度の稼働額は、承認の取消しがなかったと仮定した場合と比較して計2億4476万円減少していた。

(注19)
稼働額  病院において行われた診療行為を診療報酬点数表等の点数等により算出した額

図表3-2 特定機能病院の承認取消しに伴う影響額(試算)

(単位:円、人)
区分 特定機能病院の承認取消し前の基本料等(a) 特定機能病院の承認取消し後の基本料等(b) 特定機能病院の承認取消しによる基本料等の差額(c)=(b)-(a) 算定数(d) 特定機能病院の承認取消しにより減少した稼働額(e)=(c)×(d)
入院基本料 一般病棟入院基本料(7対1入院基本料)注(1) 15,990 15,910 △80 37,275 △2,982,000
14日以内加算 7,120 4,500 △2,620 9,062 △23,742,440
30日以内加算 2,070 1,920 △150 6,528 △979,200
精神病棟入院基本料(13対1入院基本料)注(2) 9,510 9,460 △50 7,591 △379,550
14日以内加算 5,050 4,650 △400 874 △349,600
180日以内加算 300 100 △200 1,452 △290,400
1年以内加算 150 30 △120 1,082 △129,840
医療機関別係数 機能評価係数I
(一般病棟入院基本料(7対1入院基本料))注(3)
0.1734 0.1007 △0.0727 3,250,360,620 △236,301,217
特定入院料 特定集中治療室管理料4(7日以内) 73,170 75,790 2,620 2,012 5,271,440
特定集中治療室管理料4(14日以内) 57,930 60,550 2,620 492 1,289,040
新生児特定集中治療室管理料2(14日以内) 60,650 63,270 2,620 730 1,912,600
新生児特定集中治療室管理料2(30日以内) 65,700 65,850 150 517 77,550
小児入院医療管理料3(14日以内) 16,260 18,880 2,620 2,582 6,764,840
小児入院医療管理料3(30日以内) 21,310 21,460 150 737 110,550
新生児治療回復室入院医療管理料(14日以内) 34,550 37,170 2,620 462 1,210,440
新生児治療回復室入院医療管理料(30日以内) 39,600 39,750 150 297 44,550
脳卒中ケアユニット入院医療管理料 37,600 40,220 2,620 1,417 3,712,540
△244,760,697
注(1)
「一般病棟入院基本料(7対1入院基本料)」は特定機能病院の承認取消し後の入院基本料で、承認取消し前は「特定機能病院入院基本料(一般病棟7対1入院基本料)」である。
注(2)
「精神病棟入院基本料(13対1入院基本料)」は特定機能病院の承認取消し後の入院基本料で、承認取消し前は「特定機能病院入院基本料(精神病棟13対1入院基本料)」である。
注(3)
「機能評価係数I(一般病棟入院基本料(7対1入院基本料))」は特定機能病院の承認取消し後の医療機関別係数で、承認取消し前は「機能評価係数I(特定機能病院入院基本料(一般病棟7対1入院基本料))」である。

(b)がん診療連携拠点病院の非更新に伴う影響

群馬大学病院は、医療事故が発生したことにより、厚生労働省から、質の高いがん医療の提供ができていないとして、27年4月以降、がん診療連携拠点病院の指定を更新しないこととされた。

そこで、指定が更新されなかったことによる稼働額への影響を試算したところ、がん診療連携拠点病院加算等が算定されなくなることなどにより、27年度の稼働額は、指定が更新されていたと仮定した場合と比較して計8602万円減少していた。

(c)補助金に係る交付申請の取下げなどによる影響

群馬大学病院は、医療事故が発生したことにより、図表3-3のとおり、「疾病予防対策事業費等補助金(がん診療連携拠点病院機能強化事業)」等の厚生労働省所管補助金の3事業について、26年度交付申請額計4億3282万円、27年度交付申請予定額計2億9443万円、合計7億2725万円の交付申請を取り下げるなどしていた。

なお、群馬大学病院は、上記の3事業について、附属病院収入等を財源とした自己負担により、26年度計4億1552万円、27年度計1億9364万円、合計6億0917万円を支出して、補助金の交付を受けずに事業を継続していた。

図表3-3 補助金に係る交付申請の取下げ額等

(単位:円)
補助金名 交付申請取下げ額等 支出額
平成26年度 27年度 26年度 27年度
疾病予防対策事業費等補助金(がん診療連携拠点病院機能強化事業) 19,338,000 24,835,000 44,173,000 20,271,093 19,446,645 39,717,738
疾病予防対策事業費等補助金(感染症対策特別促進事業) 13,483,000 13,680,000 27,163,000 14,143,570 13,090,981 27,234,551
医療施設運営費等補助金 400,000,000 255,922,984 655,922,984 381,109,120 161,112,336 542,221,456
432,821,000 294,437,984 727,258,984 415,523,783 193,649,962 609,173,745

以上のとおり、医療事故の発生等による稼働額等への影響は、特定機能病院の承認取消しに伴う影響額計2億4476万円、がん診療連携拠点病院の非更新に伴う影響額計8602万円、補助金に係る交付申請の取下げなどによる影響額計7億2725万円、合計10億5804万円となっていた。

b 患者数等への影響

群馬大学病院の27年度の患者数及び稼働額について、26年度と比較すると、患者数は、図表3-4のとおり、入院では6,801人、外来では25,469人、計32,270人減少しており、稼働額は、図表3-5のとおり、入院・外来合わせて、計8億0600万円減少していた。

このうち、医療事故の報道前の26年4月から10月までの間の患者数及び稼働額と報道後の27年4月から10月までの間の患者数及び稼働額とを比較したところ、患者数は、入院では6,420人、外来では18,855人、計25,275人減少しており、稼働額は、入院・外来合わせて、計6億7600万円減少していた。

図表3-4 患者数の増減

(単位:人)
区分 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 1月 2月 3月
入院患者数 平成26年度(a) 18,122 18,730 18,731 19,643 19,383 18,360 19,511 19,080 18,920 17,669 17,575 18,992 224,716
27年度(b) 17,305 17,504 18,324 18,652 18,828 17,318 18,129 18,180 18,330 17,725 18,458 19,162 217,915
増減(c)=(b)-(a) △817 △1,226 △407 △991 △555 △1,042 △1,382 △900 △590 56 883 170 △6,801
外来患者数 26年度(a) 42,835 42,751 43,411 46,027 43,097 43,258 46,754 38,691 42,841 41,353 39,870 45,688 516,576
27年度(b) 42,395 38,338 42,250 43,618 41,152 39,239 42,286 38,714 40,667 38,311 40,112 44,025 491,107
増減(c)=(b)-(a) △440 △4,413 △1,161 △2,409 △1,945 △4,019 △4,468 23 △2,174 △3,042 242 △1,663 △25,469

26年度(a) 60,957 61,481 62,142 65,670 62,480 61,618 66,265 57,771 61,761 59,022 57,445 64,680 741,292
27年度(b) 59,700 55,842 60,574 62,270 59,980 56,557 60,415 56,894 58,997 56,036 58,570 63,187 709,022
増減(c)=(b)-(a) △1,257 △5,639 △1,568 △3,400 △2,500 △5,061 △5,850 △877 △2,764 △2,986 1,125 △1,493 △32,270

図表3-4 患者数の増減 画像

図表3-5 稼働額の増減

(単位:百万円)
区分 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 1月 2月 3月
入院稼働額 平成26年度(a) 1,199 1,209 1,253 1,368 1,306 1,210 1,409 1,255 1,284 1,228 1,149 1,280 15,155
27年度(b) 1,144 1,092 1,260 1,217 1,197 1,101 1,206 1,192 1,194 1,142 1,221 1,266 14,238
増減(c)=(b)-(a) △54 △116 7 △151 △109 △108 △202 △63 △90 △85 71 △14 △917
外来稼働額 26年度(a) 780 786 796 835 796 797 910 764 843 816 799 844 9,772
27年度(b) 855 777 830 855 815 767 859 789 787 805 828 909 9,883
増減(c)=(b)-(a) 75 △8 34 20 18 △29 △50 24 △55 △10 28 65 110
26年度(a) 1,979 1,995 2,050 2,203 2,103 2,007 2,319 2,020 2,127 2,044 1,949 2,125 24,928
27年度(b) 2,000 1,870 2,091 2,072 2,012 1,869 2,066 1,981 1,981 1,948 2,049 2,176 24,121
増減(c)=(b)-(a) 20 △125 41 △131 △90 △138 △253 △39 △145 △96 100 51 △806

図表3-5 稼働額の増減 画像

c 医療事故による各機能への影響

群馬大学病院で発生した医療事故による各機能への影響についてみたところ、次のような状況となっていた。

(a)教育機能への影響

前記のとおり、附属病院は、臨床研修医を受け入れる病院として臨床研修を実施している。そこで、医療事故の報道の前後での群馬大学病院の臨床研修に係るマッチング率等について比較したところ、図表3-6のとおり、28年度は、募集定員57人に対して内定者数は14人でマッチング率24.5%となり、医療事故の報道前である27年度のマッチング率47.4%から大きく減少していた。なお、27年11月に群馬大学病院が、群馬大学医学部医学科6年生を対象として、医療事故に関する報道等により臨床研修先の病院を選択する際に影響があったかについてアンケートを行ったところ、アンケートの回答者105人のうち、報道等により大きな影響があったと回答した者が11人、少しは影響があったと回答した者が32人となっており、全体の40.9%の者が影響があったと回答している。

図表3-6 臨床研修に係るマッチング率等

(単位:人、%)
区分 平成27年度 28年度
募集定員 59 57
内定者数 28 14
マッチング率 47.4 24.5
(注)
図表中の年度は、臨床研修医の採用年度である。
なお、内定者は、採用年度の前年度の10月頃に決定されている。

また、群馬大学病院は、他の附属病院と同様に、臨床研修を修了した医師等に対して、専門医等の資格を取得するための専門的な研修を行っている。

そこで、医療事故の報道の前後での群馬大学病院が設定した専門的な研修に係る受入人数等について比較したところ、図表3-7のとおり、27年度の募集定員313人に対する受入人数は79人で、募集定員に対する受入人数の割合(以下「充足率」という。)は25.2%となっており、医療事故の報道前である26年度の充足率25.9%と大きな変化はなかった。しかし、医療事故の原因となった外科専門分野では、27年度の募集定員25人に対する受入人数は1人で、充足率は4.0%となっており、医療事故の報道前である26年度の充足率28.0%と比べて大きく減少していた。

図表3-7 専門的な研修に係る受入人数等

(単位:人、%)
区分 平成26年度 27年度
募集定員 266 313
  うち外科専門分野における募集定員 25 25
受入人数 69 79
  うち外科専門分野における受入人数 7 1
充足率 25.9 25.2
  うち外科専門分野における充足率 28.0 4.0

(b)診療機能への影響

前記のとおり、附属病院は、診療機能として先進医療を実施している。そこで、医療事故の報道の前後での群馬大学病院における先進医療に係る取扱患者数について比較したところ、図表3-8のとおり、27年度の取扱患者数は373人と、医療事故の報道前である26年度の510人と比べて大きく減少していた。これは、27年5月11日に厚生労働省から群馬大学病院に対して、先進医療技術の実施状況に関する自主点検等の実施及びその結果報告を求める通知が出され、これに伴い、群馬大学病院は、同月13日から自主点検等の結果を報告した7月までの間、先進医療に係る取扱患者の新規受入れを原則として停止したことが大きな要因として挙げられる。とりわけ、群馬大学病院が先進医療として実施している重粒子線治療に係る取扱患者数について、新規受入れを原則として停止した5月は19人、完全に受入れを停止した6月は0人と、前年5、6月の取扱患者数計81人を大きく下回る結果となっていた。

なお、重粒子線治療においては、治療を行うための施設を維持するために毎年度多額の業務委託経費、人件費、光熱水量経費等がかかっており、取扱患者の新規受入れを完全に停止した状態であっても、保守等に係るこれらの費用が必要となる。そこで、27年度に計上された施設の維持経費から各業務委託経費等を月別に割り戻すなどして試算したところ、取扱患者数が0人であった27年6月においても、9459万円の費用が発生していたものと思料される。

図表3-8 先進医療に係る取扱患者数

(単位:人)
区分 平成26年度 27年度
取扱患者数 510 373
  うち重粒子治療に係る分 496 367

このように、群馬大学病院における医療事故は、安心、安全で高度の医療の提供に対する信頼を傷つけるだけでなく、特定機能病院の承認取消しなどにより、施設基準の変更等による収入減や各種補助金の交付申請の取下げなど、経営にも影響を与えている。また、臨床研修医数の減少や先進医療に係る取扱患者数の減少等、教育機能や診療機能にも影響が出ている。

イ 医療安全に対する取組状況

上記のとおり、群馬大学病院では、医療事故に伴い、経営や附属病院としての機能に影響が出ている。また、前記のとおり、群馬大学病院において、特定機能病院の管理者が確保することとされている医療安全管理体制等について、死亡症例検討会等における原因分析や管理者への報告を実施できていなかったこと、死亡事例が発生した際に、院内報告制度が機能しておらず、速やかな原因分析や改善策の立案及び職員への周知が行われていなかったことなどの問題点が認められるとして、厚生労働大臣から特定機能病院の承認を取り消された。

そこで、群馬大学病院を除く41附属病院の医療安全に対する取組状況についてみたところ、次のとおりとなっていた。

(ア)医療安全情報の周知

附属病院は、インシデントが発生した場合に報告を行うこととしており、その目的は、医療現場で起こる様々なインシデントを収集し、これを把握・分析して、再発防止のための改善策を講じ、組織全体で情報を共有することにより、医療に係る安全を確保することであるとされている。

そして、附属病院は、インシデント報告の内容や、それを受けて医療安全管理部門が立案した再発防止策その他の医療安全情報を病院内で共有するために、医療安全管理者であるゼネラルリスクマネージャーや、RM等で構成される会議(以下「RM会議」という。)を開催している。RM会議に出席したRMは、担当部署の職員に医療安全情報を周知することとしている。

そこで、27年度の附属病院の医療安全管理部門における医療安全情報の周知確認方法等についてみたところ、図表3-9のとおり、RM会議について、毎月開催している附属病院が31病院、その他が10病院となっていた。また、代理出席も含めた出席状況について、出席率が70%以上の附属病院が32病院となっていたが、一方で、出席率が30%程度の附属病院も1病院見受けられた。医療安全情報の職員への周知確認方法について、会議資料を回覧して職員に署名させることなどにより確認している附属病院が16病院、RMに周知状況を報告させることなどにより確認している附属病院が15病院、巡回での現場確認により確認している附属病院が7病院となっていた。一方、各部署における職員への周知を確認していない附属病院が3病院見受けられた。

なお、群馬大学病院は、毎月RM会議を開催しており、出席率は75.3%となっていたが、医療安全管理部門において確認を開始したのは、28年1月からとなっていた。

図表3-9 医療安全情報の周知確認方法等(平成27年度)

(単位:附属病院)
RM会議の状況 医療安全情報の周知確認
開催状況 出席率 確認方法
毎月 その他 50%未満 50%以上70%未満 70%以上90%未満 90%以上 回覧資料への職員の署名等 RMの報告書等 巡回で現場確認 確認していない
31 10 1 8 22 10 16 15 7 3
(イ)死亡症例の報告及び検証体制

群馬大学病院の医療事故では、死亡症例の報告及び検証体制が必ずしも適切ではなかったことが指摘されていることから、27年度末時点の各附属病院の医療安全管理部門等における死亡症例の報告及び検証体制についてみたところ、図表3-10のとおり、33附属病院は全死亡症例を報告又は把握することとしていたが、一方で、8附属病院は全死亡症例を報告又は把握する体制となっていなかった。また、30附属病院は全死亡症例を検証することとしていた。一方、11附属病院はインシデント報告があった事例等の一部の死亡症例を検証するのみとなっていた。

なお、群馬大学病院は、27年1月から医療安全管理部門において全死亡症例を把握しており、同年4月から死亡症例検証委員会において全死亡症例を検証することとしていた。

図表3-10 死亡症例の報告及び検証体制(平成27年度末現在)

区分 附属病院数
報告体制 全死亡症例を報告又は把握している附属病院 33
全死亡症例を報告又は把握していない附属病院 8
検証体制 全死亡症例を検証している附属病院 30
一部死亡症例を検証している附属病院 11