独立行政法人は、効果的かつ効率的な業務運営、国民向けサービスの質の向上及び業務の成果の最大化を実現することが求められている。そして、調査・研究、広報等の技術的要素等を重視する民間委託の契約には、総合評価落札方式が取り入れられており、総合評価落札方式の実施に当たっては、国の場合と同様に、発注者による提案の審査の透明性及び公正性の確保が重要であるなどと考えられる。また、独立行政法人は、公共サービス改革法に基づく官民競争入札等も活用しながら、それぞれの業務の特性に応じて民間委託を実施するなどして、業務の効率化や提供するサービスの質の維持向上等に取り組むこととされている。
そこで、独立行政法人における民間委託の状況について、合規性、経済性、効率性、有効性等の観点から、民間委託の実施状況及び民間委託の実施に係る検討の状況はどのようになっているか、民間委託における総合評価落札方式の業務種別ごとの実施状況はどのようになっているか、総合評価落札方式に関する要領、マニュアル等は整備されているか、透明性及び公正性の確保に資する措置の実施状況はどのようになっているか、加点評価した提案内容の履行は契約上担保されているか、民間委託において、サービスの質の維持向上及び経費削減が図られているか、サービスの質及びモニタリングの方法の設定は適切に行われているかに着眼して検査したところ、次のような状況となっていた。
26年度における独立行政法人97法人の民間委託の業務種別ごとの契約件数及び契約金額は、「施設管理・運営」が最も多く5,151件(民間委託に係る契約件数全体に占める割合19.9%)、1885億余円(民間委託に係る契約金額全体に占める割合22.8%)、「調査・研究」が3,917件(同15.1%)、1196億余円(同14.5%)等となっていた。
民間委託の実施に係る検討の状況については、22年度から26年度までの間に、民間委託の実施に係る検討を行っていたとする法人は55法人、民間委託の実施に係る検討を行っていなかったとする法人は42法人となっていた。民間委託の実施に係る検討を行った結果、民間委託を実施する業務の拡大につながった43法人では、法人の職員が自ら実施している業務について、現状の実施体制等を踏まえ、民間委託を実施することとした方が、法人の職員が自ら実施する場合と比べて経費削減効果があるかなどの点から、また、既に民間委託を実施している業務の縮小につながった19法人では、民間委託を実施した後の人件費単価の変動や業務量の減少等に伴い、法人の職員が自ら実施することとした方が民間委託を実施する場合と比べて経費削減効果があるのではないかなどの点から、それぞれ検討を行っていた。民間委託の実施に係る検討を行っていなかったとする42法人では、現状において民間委託を実施することが可能な業務については既に民間委託を実施しており、民間委託の実施対象とする業務を新たに拡大する余地はないなどしていた(1010_3_1_1リンク参照)。
97法人の25、26両年度における総合評価落札方式等の実施状況については、25年度は契約件数1,670件(民間委託に係る契約件数全体に占める割合6.5%)、契約金額計2213億余円(民間委託に係る契約金額全体に占める割合22.4%)、26年度は契約件数1,245件(同4.8%)、契約金額計1787億余円(同21.6%)となっていた。
会計規程等における総合評価落札方式等に関する規定の整備状況については、全ての法人において、会計規程等に総合評価落札方式等に関する規定を定めており、このうち、22年度から26年度までの間に総合評価落札方式等を実施していたのは74法人、総合評価落札方式等を実施していなかったのは23法人となっていた。
総合評価落札方式等の適用対象となる業務、実施手続、評価項目及び評価基準の設定の例や考え方等を定めた内規である要領、マニュアル等の整備状況についてみたところ、総合評価落札方式等を実施していた74法人のうち、要領、マニュアル等を整備していた法人は64法人、整備していなかった法人は10法人となっている。また、総合評価落札方式等を実施していなかった23法人のうち、要領、マニュアル等を整備していた法人は15法人、整備していなかった法人は8法人となっている。
契約相手方の選定過程における透明性及び公正性の確保に資する措置の実施状況についてみたところ、対象公共サービス以外の業務に係る民間委託において総合評価落札方式等を実施していた73法人のうち、評価項目等が適切に設定されているかについて調達要求部門や契約担当部門以外の部門が事前に審査を行ったとする法人が51法人、評価項目等を事前に入札説明書等で公表したとする法人が73法人、入札参加者の名称等をマスキングするなどして判別できないようにして審査を行ったとする法人が28法人、法人外部からの審査員を含めて審査を行ったとする法人が42法人、加点を行った理由等を評価書等に記述させたとする法人が36法人、評価点の採点結果を入札参加者に通知等していたとする法人が60法人となっていた。また、上記のいずれの措置の適用条件についても要領、マニュアル等に記載していない法人は2法人となっていた。
加点評価した提案内容の履行の担保の状況についてみたところ、総合評価落札方式等を実施していた74法人のうち、加点評価した提案内容の履行を契約上担保しているとする法人は62法人となっていた。一方、12法人は、受託者が仕様書、提案書等に基づき業務を実施することとするなどの旨を契約書に記載するなどの措置を執っておらず、加点評価した提案内容の履行を契約上担保していなかった(1010_3_2_1リンク参照)。
19年度から26年度までの間に事業が開始された対象公共サービスは、35法人の104事業(契約件数151件)、契約金額の合計は493億余円となっており、業務種別ごとにみたところ、「施設管理・運営」が54事業、「システム」が14事業等となっていた。
対象公共サービスにおけるサービスの質及びモニタリングの方法の設定状況についてみたところ、対象公共サービスの質については、「業務の継続性の確保」及び「利用者の快適性の確保」が共通的に設定されていた。モニタリングの方法については、「業務の継続性の確保」に関する指標に対しては、全ての事業で業務日報等の業務実施報告書等による確認が共通的に定められ、「利用者の快適性の確保」に関する指標に対しては、全ての事業でアンケートの実施による確認が共通的に定められていた。そして、サービスの質の設定が適切なものとなっていなかったものも見受けられた。
契約金額の増減措置等の設定状況については、増額措置を設けていたのは7事業、減額措置を設けていたのは17事業、増減措置を設けていたのは17事業、計41事業となっていた。
対象公共サービス以外の業務に係る民間委託における主なサービスの質及びモニタリングの方法の設定状況についてみたところ、対象公共サービスにおいて設定されているものと類似のものが多くなっていたが、各法人の独自のものもあり、サービスの質が確保されていなかったものも見受けられた。また、「施設管理・運営(美術館及び博物館)」及び「システム」については、対象公共サービスにおける類似業務の内容からみて、サービスの質を設定する余地が認められるのに、積極的な検討がなされていない状況が見受けられた。
対象公共サービスの評価結果からみた経費削減等の状況については、27年度までに内閣総理大臣による評価を受けた81事業における1年当たりの従来経費と実施経費を比較すると、経費が増加したのは13事業で、計4億余円の増加となっており、経費が削減されたのは68事業で、計13億余円の削減となっていた。
経費が削減された68事業における包括化及び複数年化の取組状況についてみたところ、包括化のみを行っていた事業は2事業、複数年化のみを行っていた事業は31事業、包括化及び複数年化を行っていた事業は33事業となっている。そして、包括化及び複数年化を行っていた33事業のうち、「施設管理・運営」が27事業となっていた。
経費が増加した13事業についてその理由をみると、このうち、包括化に伴い統括責任者を設置したことにより経費が増加したものが4事業となっていた。また、入札参加者が減少、すなわち競争性が低下したことにより、経費が増加したものもあった(1010_3_3リンク参照)。
独立行政法人は、個別法等に定められた業務を効果的かつ効率的に実施するため、業務を自ら実施することが効率的でないと認められる場合等に、法人ごとに定める業務方法書及び会計規程に基づくなどして、業務の全部又は一部を民間委託して実施しており、効果的かつ効率的な業務運営を行うとともに、国民向けサービスの質の向上、業務の成果の最大化を実現することが求められている。そして、独立行政法人は、調査・研究、広報等の技術的要素等を重視する業務の民間委託の契約には、総合評価落札方式を取り入れており、総合評価落札方式の実施に当たっては、国の場合と同様に、発注者による提案の審査の透明性及び公正性の確保が重要であるなどと考えられる。また、各独立行政法人は、公共サービス改革法に基づく官民競争入札等も活用しながら、それぞれの業務の特性に応じて、民間委託を実施するなどして、業務の効率化や提供するサービスの質の維持向上等に取り組むこととされている。
したがって、各独立行政法人においては、民間委託の実施に際して、次の点に留意する必要がある。
会計検査院としては、独立行政法人における民間委託の状況について、今後とも多角的な観点から引き続き注視していくこととする。