29件 不当と認める国庫補助金 770,860,000円
国民健康保険(「国民健康保険の療養給付費負担金が過大に交付されていたもの」参照)については各種の国庫助成が行われており、その一つとして、市町村(特別区、一部事務組合及び広域連合を含む。以下同じ。)が行う国民健康保険について財政調整交付金が交付されている。財政調整交付金は、市町村間で医療費の水準や住民の所得水準の差異により生じている国民健康保険の財政力の不均衡を調整するために、国民健康保険法(昭和33年法律第192号)に基づいて交付されるもので、普通調整交付金と特別調整交付金がある。
普通調整交付金は、被保険者の所得等から一定の基準により算定される収入額(以下「調整対象収入額」という。)が、医療費等から一定の基準により算定される支出額(以下「調整対象需要額」という。)に満たない市町村に対して、その不足を公平に補うことを目途として交付されるもので、医療費等に係るもの(以下「医療分」という。)、後期高齢者支援金等(注1)に係るもの(以下「後期分」という。)及び介護納付金(注2)に係るもの(以下「介護分」という。)の合計額が交付されている。そして、普通調整交付金の額は、「国民健康保険の調整交付金の交付額の算定に関する省令」(昭和38年厚生省令第10号)等に基づき、医療分、後期分及び介護分のいずれも、それぞれ当該市町村の調整対象需要額から調整対象収入額を控除した額に基づいて算定することとなっている。
特別調整交付金は、市町村について特別の事情がある場合に、その事情を考慮して交付されるもので、非自発的失業者に係る保険料(税)軽減措置による財政負担が多額である場合に交付される交付金(以下「非自発的失業財政負担増特別交付金」という。)等がある。
財政調整交付金の交付手続については、①交付を受けようとする市町村は、都道府県に交付申請書及び事業実績報告書を提出し、②これを受理した都道府県は、その内容を添付書類により、また、必要に応じて現地調査を行うことにより審査し確認した上で厚生労働省に提出し、③厚生労働省は、これに基づき交付決定及び交付額の確定を行うこととなっている。
本院は、29都道府県の286市区町村及び1広域連合において、平成23年度から27年度までの間に交付された財政調整交付金について、会計実地検査を行った。その結果、16都道府県の29市区町村において、普通調整交付金の調整対象需要額を過大に算定したり、調整対象収入額を過小に算定したり、特別調整交付金のうち非自発的失業財政負担増特別交付金等を過大に算定したりするなどしていたため、財政調整交付金の交付額計40,838,727,000円のうち計770,860,000円が過大に交付されていて、不当と認められる。
このような事態が生じていたのは、29市区町村において財政調整交付金の交付額の算定に当たり、制度の理解が十分でなかったり、確認が十分でなかったりしていたこと、16都道府県において事業実績報告書の審査及び確認が十分でなかったことなどによると認められる。
前記の事態について、態様別に示すと次のとおりである。
普通調整交付金の調整対象需要額は、本来保険料で賄うべきとされている額であり、そのうち医療分に係る調整対象需要額は、一般被保険者(退職被保険者及びその被扶養者以外の被保険者をいう。以下同じ。)に係る医療給付費等の合計額から療養給付費負担金等の国庫補助金等を控除した額となっている。
このうち、一般被保険者に係る医療給付費は、療養の給付に要する費用の額から当該給付に係る被保険者の一部負担金に相当する額を控除した額と、入院時食事療養費、高額療養費等の支給に要する費用の額との合計額とすることとなっている。
また、都道府県又は市町村が、国の負担金等の交付を受けずに自らの財政負担で、年齢その他の事由により、被保険者の全部又は一部について、その一部負担金に相当する額の全部又は一部を当該被保険者に代わり医療機関等に支払う措置(以下「負担軽減措置」という。)を講じている場合がある。そして、負担軽減措置の対象者の延べ人数の被保険者数に占める割合が一定の割合を超える市町村については、負担軽減措置の対象者に係る療養の給付に要する費用の額、高額療養費の支給に要する費用の額等に、被保険者の負担の軽減の度合いに応じた所定の率を乗じて減額調整(注3)を行うこととなっている。
後期分に係る調整対象需要額は、後期高齢者支援金等の納付に要した費用の額から後期高齢者医療費支援金負担金等の国庫補助金等を控除した額となっている。
10道府県の12市村は、普通調整交付金の実績報告に当たり、一般被保険者に係る医療給付費等を過大に算定しており、調整対象需要額を過大に算定していた。このため、交付金計106,015,000円が過大に交付されていた。
上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例1>
神奈川県大和市は、心身障害者の福祉の増進に寄与することなどを目的として、心身障害者等に対して一部負担金に相当する額の全部を助成する負担軽減措置を講じている。しかし、平成27年度の普通調整交付金の実績報告に当たり、負担軽減措置の対象者の延べ人数の一般被保険者数に占める割合が一定の割合を超えているのに、誤って同市の電算システムに負担軽減措置の対象者数を入力しなかったため、負担軽減措置の対象者に係る医療給付費に所定の率を乗じておらず、減額調整を行っていなかった。このため、一般被保険者に係る医療給付費を過大に算定しており、調整対象需要額を過大に算定していた。
その結果、適正な一般被保険者に係る医療給付費により算定した調整対象需要額に基づいて普通調整交付金の額を算定すると、36,350,000円が過大に交付されていた。
普通調整交付金の調整対象収入額は、医療分、後期分及び介護分それぞれについて、一般被保険者又は介護納付金賦課被保険者の数を基に算定される応益保険料額と、それら被保険者の所得を基に算定される応能保険料額との合計額となっており、本来徴収すべきとされている保険料の額である。
このうち、医療分及び後期分の応能保険料額は、一般被保険者の所得(以下「算定基礎所得金額」という。)に一定の方法により計算された率を乗じて算定することとなっている。そして、算定基礎所得金額は、保険料の賦課期日(毎年4月1日)現在において一般被保険者である者の前年における所得金額の合計額を基に算定することとなっている。ただし、同一世帯に属する被保険者の所得金額の合計額が別に計算される金額(以下「所得限度額」という。)を超えて高額である世帯(以下「所得限度額超過世帯」という。)がある場合には、当該世帯の所得金額のうち所得限度額を超える部分の額に一定の方法により計算した率を乗じて得た額を上記一般被保険者の所得金額の合計額から控除して、算定基礎所得金額とすることとなっている。
また、介護分の応能保険料額は、介護納付金賦課被保険者について上記と同様に算定することとなっている。
5県の6市村は、普通調整交付金の実績報告に当たり、算定基礎所得金額を過小に算定するなどしており、調整対象収入額を過小に算定していた。このため、交付金計330,004,000円が過大に交付されていた。
上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例2>
千葉県浦安市は、平成25、26両年度の普通調整交付金の実績報告に当たり、誤った計数が記載された同市の電算システムの帳票を基に集計を行っていたため、所得限度額超過世帯の所得金額のうち所得限度額を超える部分の額が過大となり、算定基礎所得金額を過小に算定しており、調整対象収入額を過小に算定していた。
その結果、適正な算定基礎所得金額により算定した調整対象収入額に基づいて普通調整交付金の額を算定すると、計280,518,000円が過大に交付されていた。
非自発的失業財政負担増特別交付金は、賦課期日の翌日以降の非自発的失業者に係る保険料(税)軽減措置による財政負担が多額になっている場合に交付するものである。
そして、この非自発的失業財政負担増特別交付金の額は、一般被保険者数、非自発的失業による上記の保険料(税)軽減世帯に係る一般被保険者数等から一定の計算式により調整基準額を算定し、これに基づいて算定することとなっている。
7都県の7市区町は、非自発的失業財政負担増特別交付金の実績報告に当たり、非自発的失業による保険料(税)軽減世帯に係る一般被保険者数に算定の対象とならない者を含めるなどしており、調整基準額を過大に算定していた。このため、交付金計122,753,000円が過大に交付されていた。
上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例3>
東京都江東区は、平成25、26両年度の非自発的失業財政負担増特別交付金の実績報告に当たり、非自発的失業による保険料軽減世帯に係る一般被保険者数に、一定額を超える所得を有していたことにより保険料軽減措置の対象とならない世帯に係る者を含めるなどしており、調整基準額を過大に算定していた。
その結果、適正な調整基準額に基づいて非自発的失業財政負担増特別交付金の額を算定すると、計88,452,000円が過大に交付されていた。
上記のほか、6府県の9市村は、特別調整交付金の実績報告に当たり、対象となる保険料(税)調定総額や一般被保険者数を誤るなどしていた。このため、非自発的失業軽減特別交付金(注4)121,372,000円、結核・精神病特別交付金(注5)85,150,000円、被扶養者減免特別交付金(注6)2,623,000円、20歳未満被保険者財政負担増特別交付金(注7)1,555,000円、東日本大震災財政負担増特別交付金(注8)1,388,000円、計212,088,000円が過大に算定されていた。
なお、前記29市区町村のうち4市については事態の態様が重複している。
以上を部局等別・交付先(保険者)別に示すと、次のとおりである。
部局等 | 交付先 (保険者) |
交付金の種類 | 年度 | 交付金交付額 | 左のうち不当と認める額 | 摘要 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|
千円 | 千円 | ||||||
(133) | 北海道 | 岩見沢市 | 普通調整交付金 | 25、26 | 1,129,511 | 2,061 | 調整対象需要額を過大に算定していたもの |
(134) | 同 | 苫小牧市 | 同 | 23~26 | 4,493,864 | 26,511 | 同 |
(135) | 岩手県 | 花巻市 | 特別調整交付金(非自発的失業財政負担増特別交付金) | 24~26 | 9,359 | 9,359 | 非自発的失業による保険税軽減世帯に係る一般被保険者数に算定の対象とならない者を含めていたため調整基準額を過大に算定していたもの |
(136) | 茨城県 | 土浦市 | 普通調整交付金 | 26 | 609,799 | 2,245 | 調整対象需要額を過大に算定していたもの |
(137) | 群馬県 | 伊勢崎市 | 同 | 26、27 | 2,116,807 | 2,676 | 同 |
(138) | 埼玉県 | 川口市 | 同 | 26 | 1,764,471 | 1,085 | 同 |
(139) | 同 | 富士見市 | 特別調整交付金(非自発的失業財政負担増特別交付金) | 26 | 1,652 | 1,652 | 非自発的失業による保険税軽減世帯に係る一般被保険者数に算定の対象とならない者を含めていたため調整基準額を過大に算定していたもの |
(140) | 千葉県 | 木更津市 | 同 | 23、24 | 249,379 | 22,270 | 同 |
(141) | 同 | 浦安市 | 普通調整交付金 | 25、26 | 358,625 | 280,518 | 調整対象収入額を過小に算定していたもの |
(142) | 同 | 匝瑳市 | 普通調整交付金、特別調整交付金(東日本大震災財政負担増特別交付金) | 25、26 | 530,271 | 3,382 | 調整対象需要額を過大に算定していたものなど |
(143) | 東京都 | 江東区 | 特別調整交付金(非自発的失業財政負担増特別交付金) | 25、26 | 92,023 | 88,452 | 非自発的失業による保険料軽減世帯に係る一般被保険者数に算定の対象とならない者を含めていたため調整基準額を過大に算定していたもの |
(144) | 神奈川県 | 大和市 | 普通調整交付金 | 27 | 500,621 | 36,350 | 調整対象需要額を過大に算定していたもの |
(145) | 同 | 座間市 | 普通調整交付金、特別調整交付金(非自発的失業軽減特別交付金等) | 24~27 | 484,882 | 14,960 | 調整対象収入額を過小に算定していたものなど |
(146) | 新潟県 | 長岡市 | 普通調整交付金 | 27 | 1,264,712 | 1,475 | 調整対象収入額を過小に算定していたもの |
(147) | 同 | 新発田市 | 同 | 24~27 | 2,320,666 | 8,170 | 同 |
(148) | 岐阜県 | 大垣市 | 同 | 24~26 | 1,701,832 | 2,965 | 調整対象需要額を過大に算定していたもの |
(149) | 愛知県 | 碧南市 | 特別調整交付金(被扶養者減免特別交付金等) | 25、26 | 8,957 | 2,188 | 被用者保険の被保険者の被扶養者であった者に係る保険税の減免額を過大に算定していたため調整基準額を過大に算定していたものなど |
(150) | 同 | 安城市 | 特別調整交付金(非自発的失業軽減特別交付金) | 24、25 | 30,392 | 9,094 | 非自発的失業による保険税軽減世帯に係る一般被保険者数を過大に算定していたもの |
(151) | 大阪府 | 大阪市 | 同 | 27 | 144,911 | 101,981 | 非自発的失業による保険料軽減世帯に係る保険料調定総額を過小に算定していたもの |
(152) | 同 | 富田林市 | 普通調整交付金、特別調整交付金(非自発的失業軽減特別交付金) | 25~27 | 2,249,404 | 12,797 | 調整対象需要額を過大に算定していたものなど |
(153) | 香川県 | さぬき市 | 普通調整交付金 | 26 | 334,827 | 3,026 | 調整対象収入額を過小に算定していたもの |
(154) | 福岡県 | 久留米市 | 同 | 26 | 2,718,190 | 11,561 | 調整対象需要額を過大に算定していたもの |
(155) | 同 | 柳川市 | 同 | 26、27 | 1,691,551 | 5,170 | 同 |
(156) | 長崎県 | 長崎市 | 特別調整交付金(結核・精神病特別交付金) | 23~26 | 14,681,926 | 59,917 | 結核性疾病及び精神病に係る医療給付費を過大に算定していたもの |
(157) | 同 | 大村市 | 同 | 26 | 673,362 | 25,233 | 同 |
(158) | 沖縄県 | 中頭郡 読谷村 |
普通調整交付金 | 24 | 605,670 | 29,831 | 調整対象収入額を過小に算定していたもの |
(159) | 同 | 中頭郡 北中城村 |
特別調整交付金(20歳未満被保険者財政負担増特別交付金) | 27 | 24,718 | 1,555 | 20歳未満の一般被保険者数の集計を誤っていたため調整基準額を過大に算定していたもの |
(160) | 同 | 島尻郡 南大東村 |
普通調整交付金 | 25、26 | 44,649 | 3,029 | 調整対象需要額を過大に算定していたもの |
(161) | 同 | 島尻郡 八重瀬町 |
特別調整交付金(非自発的失業財政負担増特別交付金) | 24 | 1,696 | 1,347 | 非自発的失業による保険税軽減世帯に係る一般被保険者数に算定の対象とならない者を含めていたため調整基準額を過大に算定していたもの |
(133)―(161)の計 | 40,838,727 | 770,860 |