農林水産省は、土地改良法(昭和24年法律第195号)等に基づき、農業農村整備事業を自ら実施するほか、都道府県等が事業主体として実施する場合に事業の実施に要する経費の一部を補助している。同事業の施行により事業地内の水道管等の既存公共施設等についてその機能の廃止等が必要となる場合であって、公益上、その機能回復を図ることが必要である場合は、「公共事業の施行に伴う公共補償基準要綱」、「公共補償基準要綱の運用申し合せ」及び「既存公共施設等の機能回復補償に係る建設費の細部運用について」(以下「細部運用」という。)に基づき、国、都道府県等の事業主体がその原因者として既存公共施設等の管理者(以下「被補償者」という。)に対して補償費を支払うこととなっている。これらによれば、代替施設の建設による場合の補償費(以下「移設補償費」という。)は、代替施設を建設するために必要な費用から既存公共施設等の機能の廃止の時までの財産価値の減耗分(以下「減耗分」という。)を控除するなどして算定することとされている。ただし、国、地方公共団体等が管理している既存公共施設等に関しては、被補償者において減耗分相当額を調達することが極めて困難な場合等やむを得ないと認められるときは、減耗分の全部又は一部を控除しないことができることとされている。しかし、一部の事業主体において、被補償者において減耗分相当額を調達することが極めて困難な場合等やむを得ないと認められるときには該当しないにもかかわらず、減耗分を控除せずに移設補償費を算定したため、移設補償費の支払額が過大となっている事態が見受けられた。
したがって、農林水産大臣に対して平成28年10月に、次のとおり是正の処置を要求し及び是正改善の処置を求めた。
本院は、農林水産本省において、その後の処置状況について会計実地検査を行った。
検査の結果、農林水産省は、本院指摘の趣旨に沿い、次のような処置を講じていた。
ア 前記の事態が見受けられた事業主体に対して、過大となっていた支払額又は国庫補助金等が返還されるよう被補償者と協議を行うよう指導した。その結果、29年3月までに過大となっていた支払額及び国庫補助金等の全額が国庫に返還された。
イ 適正な移設補償費の算定が行われるよう、同年2月に細部運用の一部を改正して、減耗分を控除しないことができる場合に該当するか否かについての判断方法及び判断基準を明示した。そして、事業主体に対して、同年2月から5月までの間に開催した会議等においてその内容を周知及び助言するなどした。