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  • 平成28年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
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  • (1) 補助金が過大に交付されていたなどのもの

除染作業等に係る事業費の算定が実際の作業量に基づいていなかったため、補助金が過大に交付されていたもの[環境本省](280)


(1件 不当と認める国庫補助金 59,440,600円)

  部局等 補助事業者等
(事業主体)
補助事業等 年度 事業費
(国庫補助対象事業費)
左に対する国庫補助金等交付額 不当と認める事業費
(国庫補助対象事業費)
不当と認める国庫補助金等相当額
          千円 千円 千円 千円
(280) 環境本省 栃木県那須塩原市 放射線量低減対策特別緊急 24~26 7,106,317
(5,048,588)
5,048,588 59,440
(59,440)
59,440

この補助事業は、那須塩原市が、東日本大震災による原子力災害に伴う放射線が人の健康等に及ぼす影響を減少させるために、除染作業等を平成24年度から26年度までの間に事業費計7,106,317,500円(補助対象事業費計5,048,588,200円、国庫補助金交付額同額)で実施したものである。

上記の除染作業等は、同市が24年4月に策定した那須塩原市除染実施計画における除染対象区域(空間線量率が0.23μSv(注)/h以上の区域)に所在する住宅及び公共施設を対象として、住民からの除染実施の同意取得から、除染作業前の放射線モニタリング、設計図書の作成、除染作業(雨どいなどの清掃及び洗浄、除草、汚泥及び落葉の除去、表土除去等)、除染作業後の放射線モニタリングを実施し安全性を確認するまでの一連の作業を、業者に請け負わせて実施したものである。

(注)
Sv(シーベルト)  人体の被ばくによる生物学的影響の大きさ(線量当量)を表す単位。なお、1時間被ばくを受け続けた場合に、どの程度の線量当量を受けるかを表す線量率の単位が「Sv/h」である。
1日のうち屋外に8時間、屋内(遮へい効果(0.4倍)のある木造家屋)に16時間滞在したと仮定して、1年間の追加被ばく線量(自然界からの被ばく線量及び医療被ばくを除いた被ばく線量)1mSvを1時間当たりに換算すると0.19μSv/hとなり、これに自然界からの放射線のうち大地からの放射線に係る線量率0.04μSv/hを加えると、0.23μSv/hとなる。

 「放射線量低減対策特別緊急事業費補助金取扱要領」(環水大総発第111222001号平成23年12月環境事務次官通知)等によれば、除染作業のうち戸建て住宅等における雨どいなどの清掃及び洗浄、除草、汚泥及び落葉の除去等は補助対象とされているが、表土除去については、福島県外の同市が実施するものは補助対象とされていない。このため、同市は、表土除去については、比較的放射線の影響を受けやすいとされる18歳以下の子どもが居住する住宅に限り、同市の単独事業費により実施していた。

除染作業等に係る請負契約の特記仕様書によれば、同市は、一連の除染作業により発生した除去土壌等について、将来、同市が設置する予定の仮置場に搬出するまでの間、当該住宅等敷地内に保管穴を掘削して埋設保管することとしていた。そして、保管穴の掘削に係る作業は次の手順のとおり実施することとしていた。

① 除染作業により発生した除去土壌等を埋設保管するための保管穴を掘削し、その寸法(掘削幅、掘削長及び掘削深)を計測する。

② 保管穴に遮水シートを設置した上で、除去土壌等を保管穴に投入し、その上部から地表までの深さ(以下「覆土厚」という。)を計測した後、遮水シートで覆い、保管穴の掘削で発生した土砂(以下「掘削土」という。)により覆土を行い、除染作業後の放射線モニタリングを実施して安全性を確認する。

③ 保管穴の覆土及び表土除去後の復旧に使用してもなお余った掘削土は残土として敷地外の一般廃棄物処分場に運搬して処分する。

④ 保管穴の寸法を記載した精算設計図を住宅ごとに作成し、これに基づき保管穴の掘削量、除去土壌等の保管量、残土処分量等を計算した精算設計数量計算書を作成する。

同市は、上記の特記仕様書等において、発注者は実数量により設計数量及びそれに伴う契約金額を変更できるとされていることから、業務完了時に、請負業者から住宅ごとの精算設計図及び精算設計数量計算書(以下、これらを合わせて「精算設計図等」という。)に施工写真を添付させた上で提出させて、精算設計図等に記載された保管穴の掘削量、残土処分量等に基づき、掘削費、残土処分費等の直接工事費を再算定するなどして契約金額を確定し、これにより最終変更契約を締結していた。その後、同市は、精算設計図等を基に工事の出来形について寸法等の検査を実施したとして、契約金額を支払っていた。そして、補助対象事業費の算定に当たっては、補助事業及び市の単独事業それぞれの除染作業の内容や作業量を踏まえ、契約金額のうち補助対象事業費とすべき額を算定し、残額を市の単独事業費としていた。

しかし、本件除染作業等において掘削された保管穴12,014か所について、上記の請負業者から市に提出されていた施工写真により、実際の掘削量及び覆土量を確認したところ、3,683か所において、精算設計図等に記載されている掘削したとする土量や覆土したとする土量と比べて相当程度小さいものとなっているなどしており、掘削量等が過大となるなどしていた。また、表土除去後の復旧に当たっては、掘削土を用いているが、1,847か所における掘削土の残土処分量について、表土除去後の復旧に要した量を掘削土の残土処分量から控除していないなどの計算誤りがあり、残土処分量が過大となっていた。

上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。

<事例>

平成24年度に実施した家屋Aにおける除染作業において、請負業者は、精算設計図に、保管穴の寸法として、掘削幅1.3m、掘削長2.0m、掘削深1.0mと記載していた。そして、これに基づき、精算設計数量計算書において、覆土厚が0.5mとされていたことから埋戻し量を1.3m3、除去土壌等の保管量を1.3m3として、これらを合計した2.6m3を掘削量としていたほか、掘削量と埋戻し量の差である残土処分量を1.3m3と算出していた。

しかし、施工写真を確認したところ、除去土壌等の保管量に基づく実際の保管穴の寸法は、掘削幅が1.3m、掘削長が1.0m、掘削深が1.0mであり、覆土厚は0.45mとなっていた。

このため、実際の寸法等により再算定すると、埋戻し量は0.58m3、除去土壌等の保管量は0.71m3であり、掘削量が1.29m3、残土処分量が0.71m3となることから、埋戻し量が0.72m3、除去土壌等の保管量が0.59m3、掘削量が1.31m3、残土処分量が0.59m3、それぞれ過大に計上されていた。

したがって、実際の掘削寸法、覆土厚等により掘削量、残土処分量等を算出し、これらを基にして適正な契約金額を算定すると計6,967,818,900円となり、本件契約金額計7,106,317,500円はこれに比べて計138,498,600円過大となっていた。そして、適正な補助対象事業費は計4,989,147,600円となり、前記の補助対象事業費計5,048,588,200円との差額59,440,600円が過大となっており、これに係る国庫補助金相当額59,440,600円が過大に交付されていて不当と認められる。

このような事態が生じていたのは、同市において請負業者が誤った数量を記載した精算設計数量計算書を作成して同市に提出していたのに、これに対する検査が十分でなかったこと、環境本省において同市に対する助言が十分でなかったことなどによると認められる。

(「震災復興特別交付税の額の算定に当たり、算定の対象とならない経費を含めるなどしていたため、震災復興特別交付税が過大に交付されていたもの」参照)