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  • 平成28年度|
  • 第4章 国会及び内閣に対する報告並びに国会からの検査要請事項に関する報告等|
  • 第1節 国会及び内閣に対する報告

<参考:報告書はこちら>

第3 各府省等における職員の研修の実施状況等について


検査対象
国会、裁判所、内閣、内閣府、復興庁、総務省、法務省、外務省、財務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省、防衛省、会計検査院
国家公務員に対する研修の概要
各府省等が、国家公務員法(昭和22年法律第120号)等に基づき職員に職務の遂行に必要な知識及び技能を習得させ、並びに職員の能力及び資質を向上させることなどを目的として実施するもの
研修の実施に要した経費の額
207億4291万円(平成27年度)

1 検査の背景

(1) 研修の概要

国会、裁判所、内閣、内閣府、復興庁、総務省、法務省、外務省、財務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省、防衛省及び会計検査院(これらに設置されている外局を含む。以下、これらを合わせて「各府省等」という。)は、職員に現在就いている官職又は将来就くことが見込まれる官職の職務の遂行に必要な知識及び技能を習得させ、並びに職員の能力及び資質を向上させることなどを目的とするなどして研修を実施している。

国家公務員の職は、国家公務員法(昭和22年法律第120号)により、一般職と特別職に大別されており、同法第2条に規定する特別職に属する職(注1)以外の国家公務員の職は一般職とされている。そして、国家公務員法は、このうち一般職の国家公務員にのみ適用されることから、一般職の国家公務員に対する研修は、原則として同法に基づいて実施され、特別職の国家公務員に対する研修は、所属する各府省等においてそれぞれ関係法令等に基づいて実施されている。

(注1)
特別職に属する職  政務を担当するもの(内閣総理大臣、国務大臣等)、権力分立の憲法原則に基づき、その人事制度の設計を立法部や司法部に委ねることに合理性があるもの(裁判所職員、国会職員等)、職務の性質上、別個の身分取扱いの基準によることが適当であるもの(防衛省職員)、その他職務の特殊性により、採用試験や身分保障等について一般職の国家公務員に係る原則を適用することが不適当なもの(各種審議会委員等)

(2) 一般職の国家公務員に対する研修

ア 内閣人事局及び人事院が行う研修に関する業務

前記のとおり、一般職の国家公務員に対する研修は、原則として国家公務員法に基づいて実施されている。同法によれば、研修の根本基準として、研修は、職員に現在就いている官職又は将来就くことが見込まれる官職の職務の遂行に必要な知識及び技能を習得させ、並びに職員の能力及び資質を向上させることを目的とするものでなければならないとされている。

そして、人事院、内閣総理大臣及び関係庁(各府省等のうち一般職の国家公務員に対する研修を実施する場合の府省等をいう。以下同じ。)の長は、この根本基準を達成するため、職員の研修について計画を樹立し、その実施に努めなければならないとされており、その計画は、研修の目的を達成するために必要かつ適切な職員の研修の機会が確保されるものでなければならないとされている。

また、同法によれば、内閣総理大臣及び人事院は中央人事行政機関として研修に関するそれぞれの事務を行うこととされており、内閣総理大臣が行う研修に関する事務は、①研修の根本基準の実施につき必要な事項を人事院の意見を聴いて政令で定めることに関すること、②幹部候補育成課程における各行政機関の課程対象者の政府全体を通じた育成又は内閣の重要政策に関する理解を深めることを通じた行政各部の施策の統一性の確保の観点から行う研修による職員の育成についての調査研究等、③内閣総理大臣が行う研修についての計画の樹立及び実施、④内閣総理大臣及び関係庁の長が行う研修についての計画の樹立及び実施に関する総合的企画及び関係各庁に対する調整とされている。

なお、①に関して、平成26年5月の国家公務員法の改正により、28年5月29日までは、人事院規則10―3(職員の研修)(以下「規則10―3」という。)が政令としての効力を有することとなった。そして、上記の内閣総理大臣が行う研修に関する事務を担当する内閣人事局は、その後の検討の結果、改正後の国家公務員法に研修の根本基準の実施に当たり必要な事項が規定されているとしており、規則10―3の失効後、政令は制定されていない。

また、人事院が行う研修に関する事務は、①国民全体の奉仕者としての使命の自覚及び多角的な視点等を有する職員の育成並びに研修の方法に関する専門的知見を活用して行う職員の効果的な育成の観点から行う研修による職員の育成についての調査研究等、②人事院が行う研修についての計画の樹立及び実施、③内閣総理大臣及び関係庁の長が行う研修についての計画の樹立及び実施に関する監視、④内閣総理大臣又は関係庁の長に対して計画に基づく研修の実施状況についての報告を求めること及び法令に違反して計画に基づく研修を行った場合の是正のための指示を行うこととされている。なお、人事院は人事行政を公正に行うために国家公務員法によって設置された中立第三者機関であることから、②の研修についての計画の樹立及び実施については、内閣総理大臣の所掌事務である研修についての計画の樹立及び実施に関する総合的企画及び調整の対象外とされている。

そして、人事院は、26年5月の国家公務員法の改正に伴い、同年同月に人事院規則10―14(人事院が行う研修等)を制定した。これによれば、人事院は、国家公務員法の規定による調査研究の結果に基づき、関係庁の長が行う研修についての計画の樹立及び実施の支援を行うこと、また、必要と認めるときは、同法の監視の権限に基づき、内閣総理大臣又は関係庁の長に対して、研修についての計画の樹立及び実施に関し調査を行うこと、人事院が同法の規定に基づき研修の実施状況について報告を求めたときは、内閣総理大臣及び関係庁の長は、研修の内容その他の事項を報告することなどとされている。

イ 国家公務員の研修に関する基本方針の策定

内閣総理大臣は、26年6月に、「国家公務員の研修に関する基本方針」(平成26年6月内閣総理大臣決定。以下「基本方針」という。)を策定した。

基本方針によれば、研修は、人材育成の観点から行われる職務付与(官職への任用、具体的な仕事の割振り等)と並び、人材育成において欠かせない重要な働きかけであるとされ、執務を通じての研修(On the Job Training。以下「OJT」という。)は、日常的に行われる中核的な研修であり、執務を離れての研修(Off the Job Training。以下「Off―JT」という。)は、OJTでは得られにくい能力・資質の向上を図るものであり、人材育成を効果的に行うためには、職務付与、OJT、Off―JTを相互に効果的に組み合わせることが重要であるとされている。そして、OJTをより効率的かつ効果的に実施していくため、関係各庁は、その所属職員の育成の観点から、職員の監督者に、職員に対するOJTを適時にかつ効果的に行う必要があることを日常的に意識させ、実行させるなどの措置を講ずることとされている。また、OJTを補完していく観点からOff―JTを充実していく必要があるとされ、内閣人事局は、全府省職員を対象とし、政府全体を通じた成果向上及び人材育成を狙いとした研修を実施することとされている。そして、関係各庁は、所管行政の推進を狙いとして、所属職員の育成の観点から又は全府省職員を対象に所掌事務について行う知識及び技能の付与の観点から研修を実施することとされており、内閣人事局及び関係各庁は相互に連携・協力することにより、政府全体を通じて体系的で効果的な研修が実施されるよう努めることとされている。さらに、内閣人事局及び関係各庁は、Off―JTの企画・運営を行うに当たって、研修効果を把握し研修内容の改善に努めることなどを重視することとされている。

(3) 特別職の国家公務員に対する研修

前記のとおり、特別職の国家公務員に対する研修は、所属する各府省等においてそれぞれ関係法令等に基づいて実施されている。その主な根拠法令等は次のとおりである。

国会職員に対する研修は、国会職員法(昭和22年法律第85号)に基づき、衆議院事務局、参議院事務局、国立国会図書館等においてそれぞれ実施されている。

また、裁判官に対する研修は、裁判所法(昭和22年法律第59号)に基づき、最高裁判所に司法研修所が置かれて実施されており、裁判官以外の裁判所職員に対する研修は、裁判所職員臨時措置法(昭和26年法律第299号)により準用される国家公務員法に基づき実施されている。

さらに、防衛省では、防衛省設置法(昭和29年法律第164号)等に基づき、自衛官に対する教育訓練や、事務官等に対する研修がそれぞれ実施されている。

(4) 研修の実施に要した経費の公表状況

各府省等における研修の実施に当たっては、研修講師や受講者の旅費、教材費・印刷製本費、研修会場の借料、留学費用、研修講師への謝金、研修施設の維持管理費等の経費を要しているが、これらの研修の実施に要した経費について公表された資料はない。

2 検査の観点、着眼点、対象及び方法

(1) 検査の観点及び着眼点

一般職及び特別職の国家公務員に対する研修については、実施に係る根拠法令等の違いがあるものの、職員の能力及び資質を向上させるためには、いずれにおいても研修の実施は必要なものであり、OJTに加えて、Off―JTの役割がより重要になってきている。そして、研修、特にOff―JTの実施には、研修講師等に対する謝金や旅費、研修施設の維持管理費のほか、研修業務に従事している職員の人件費等の経費を要している。このため、研修を実施する各府省等においては、研修を効果的、効率的に実施することが重要となる。

また、内閣人事局及び人事院においては、それぞれの所掌事務に係る研修を自ら実施するほか、政府全体を通じて体系的で効果的な研修が実施されるよう、一般職の国家公務員に対する研修についての計画の樹立及び実施に関する総合的企画及び調整、監視等を行うこととされている。そして、基本方針によれば、内閣人事局及び関係各庁は、相互に連携・協力することにより、政府全体を通じて体系的で効果的な研修が実施されるよう努めることとされている。

一方、特別職の国家公務員に対する研修については、それぞれの根拠法令に基づき、それぞれの職務の特性に応じて実施されており、研修に関する国家公務員法の規定が適用されないため、研修についての計画の樹立及び実施に関しては内閣人事局及び人事院による総合的企画及び調整、監視等の対象外となっている。

そこで、本院は、一般職及び特別職の国家公務員に対する研修の実施状況等について、合規性、経済性、効率性、有効性等の観点から、次のような点に着眼して横断的に検査した。

ア 各府省等は、研修計画を策定して研修の機会を確保しているか。

イ 各府省等は、研修に要する経費を十分に把握し、経済性等を考慮して適切に研修を実施しているか。また、各府省等間で、研修内容に関する情報を交換するなど連携・協力が図られているか。

ウ 各府省等は、適時適切に効果測定や研修内容に関する評価を実施するなどして研修の効果を把握し、研修内容等の改善を行っているか。

エ 各府省等は、研修施設を適切かつ有効に活用して研修を実施しているか。また、各府省等間で、研修施設の年間使用計画等に関する情報を共有するなど連携・協力が図られているか。

オ 内閣人事局は、関係各庁が一般職の国家公務員を対象に実施する研修について、計画の樹立及び実施に関する総合的企画及び調整を適時適切に行っているか。

カ 人事院は、関係各庁が一般職の国家公務員を対象に実施する研修について、計画の樹立及び実施に関する監視等を適時適切に行っているか。

(2) 検査の対象及び方法

25年度から27年度までの間に、一般職の国家公務員に対する研修を実施している15府省等(注2)及び特別職の国家公務員に対する研修を実施している5省等(注3)、計17府省等(注4)の本省、外局等を対象として、研修の実施状況等に関する調書の提出(注5)を求め、これを在庁して分析等するとともに、17府省等において、研修の実施状況等について、関係資料の提出や説明を受けたり、研修施設に赴いて研修の実施状況を確認したりするなどして会計実地検査を行った。

(注2)
15府省等  内閣、内閣府、復興庁、総務省、法務省、外務省、財務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省、防衛省、会計検査院
(注3)
5省等  国会、裁判所、外務省、厚生労働省、防衛省
(注4)
17府省等  一般職の国家公務員に対する研修を実施している15府省等と特別職の国家公務員に対する研修を実施している5省等の合計20府省等のうち、外務省、厚生労働省、防衛省が重複している。
(注5)
調書の提出  総務省の外局である消防庁については、熊本地震(平成28年4月14日)対応のため調書の提出を求めていない。

3 検査の状況

(1) 各府省等における研修計画の策定状況等

ア 研修計画の策定状況

研修計画の内容については、国家公務員法等に統一的な定めや運用上のルールは規定されていない。このため、各府省等における個々の研修計画をみると、研修を実施する前に策定される研修要綱等や研修を委託する際に作成される仕様書も研修計画と位置付けている場合がある。また、特別職の国家公務員に対する研修に係る研修計画についても、統一的な定めや運用上のルールは規定されていない。

27年度における各府省等の研修計画は、一般職の国家公務員を対象としたものとして473研修計画、特別職の国家公務員を対象としたものとして146研修計画、計619研修計画が策定されていた。

イ 研修計画の記載項目

上記619研修計画の記載項目のうち、「研修時期」に具体的な時期を明示していないものが一般職の国家公務員に対する65研修計画、特別職の国家公務員に対する29研修計画、「対象者」を明示していないものが一般職の国家公務員に対する62研修計画、特別職の国家公務員に対する23研修計画となっていた。

そして、「対象者」の範囲が明確になっていないため、必修の研修とされているにもかかわらず、監督者等が受講の要否を適切に判断することが難しく、対象となるべき職員の研修の機会の確保に支障を及ぼすおそれのある事態が見受けられた。

(2) 各府省等における研修の実施に要した経費、研修の実施状況等

ア 研修の実施に要した経費

各府省等における研修の実施に要した経費は公表されておらず、本院が調書を基に集計し整理した(注6)ところ、27年度の各府省等における研修施設の維持管理費は119億9247万余円、それ以外の経費は87億5044万余円、計207億4291万余円となっており、研修施設の維持管理費が最も多く、次いで、旅費43億9772万余円、庁費33億2820万余円等となっていた。

また、研修の実施には、これ以外にも、研修業務に従事する職員に係る人件費相当額や受講者の研修時間に係る機会費用が生じている。

(注6)
本院が調書を基に集計し整理した  研修とそれ以外の業務における経費を合理的な方法により案分できないものも含まれている。

イ OJTの実施状況等

一般職及び特別職の国家公務員について、OJTを府省等全体で計画的に実施する体制となっているかについてみると、公正取引委員会、国税庁及び特許庁は、それぞれの人材育成制度に基づき、新規採用者の育成の目標を設定した上で継続的に指導を実施するなど、新規採用者に対するOJTを組織的・計画的に実施する体制が整備されていた。一方、上記3庁等以外の府省等においてはOJTを府省等全体で計画的に実施する取組は行われていなかった。

ウ Off―JTの実施状況等

各府省等におけるOff―JTの実施状況は、27年度では、一般職の国家公務員に対する研修は、18,435研修、受講者数761,892人、特別職の国家公務員に対する研修は、817研修、受講者数17,526人となっていた。

全府省等の職員を対象として実施する全府省研修について、25年度から27年度までの間に実施された一般職及び特別職の国家公務員に対する全府省研修の実施状況をみると、研修数は、25年度270研修、26年度283研修、27年度279研修、受講者数は、25年度22,660人、26年度45,235人、27年度81,694人となっていた。

各府省等がその所属職員を対象として実施する自府省研修について、25年度から27年度までの間に各府省等が実施する自府省研修のうち、実際に他府省等の職員が受講している研修数をみると、一般職の国家公務員に対する研修の研修数は、25年度の152研修から27年度の173研修、他府省等の職員の受講者数は、25年度の797人から27年度の994人となっていた。また、特別職の国家公務員に対する研修の研修数は、25年度の4研修から27年度の6研修、受講者数は25年度の50人から27年度の42人となっていた。27年度に他府省等の職員が受講している179研修のうち20時間以上の研修125研修について、各府省等への情報提供の状況をみると、当該研修を実施する研修施設等のホームページで情報提供しているものが72研修、過去に受講した実績のある一部の府省等へ個別に情報提供しているものが53研修となっていて、関係各庁の研修担当官が出席する研修連絡会議等で研修の実施時期や研修内容等の情報提供がされている全府省研修と異なり、他府省等の職員に対して受講対象としている研修について十分に情報提供されていない状況が見受けられた。

派遣研修について、留学中又は留学終了後の在職期間が5年に達するまでの期間に離職した者(以下「償還義務者」という。)の留学費用相当額の償還状況についてみると、27年度末時点では、償還中の者が16人、償還残額が41,633,893円となっていた。

27年度の各府省等における委託研修は、一般職の国家公務員に対する研修1,220研修、委託研修に要した経費(注7)計9億0866万余円、特別職の国家公務員に対する研修361研修、委託研修に要した経費計1億6481万余円となっていた。そして、委託した主な理由をみると、委託研修として継続して実施してきたためとしているものが、一般職の国家公務員に対する研修において260研修、委託研修に要した経費計8311万余円、特別職の国家公務員に対する研修において95研修、委託研修に要した経費計1071万余円等となっていた。

25年度から27年度までの間に実施されたeラーニング研修の実施状況をみると、25年度は68研修、受講者数66,584人、26年度は80研修、受講者数77,051人、27年度は79研修、受講者数116,532人となっていて、受講者数は年々増加傾向にある。また、自府省研修におけるeラーニング研修の推移は、ほぼ横ばいの状況となっており、27年度におけるeラーニング研修の1研修当たりの平均受講者数は、民間企業等のeラーニングシステムを利用しているものが1,337人、自府省等においてeラーニングシステムを開発、改良等して構築しているものが1,035人、研修教材を府省等内ホームページ等に掲載して職員の自席等で研修を受講するものが429人となっていて、eラーニング研修以外の他の研修に係る1研修当たりの平均受講者数33人と比べて多くなっている。

(注7)
委託研修に要した経費  民間企業等に一括して委託して実施した研修に要した経費。自ら実施する研修の一部カリキュラムを委託したものに要した経費は除外している。

(3) 各府省等の研修に係る評価、改善の状況等

ア 研修に係る評価の状況

各府省等が27年度に実施したOff―JTのうち20時間以上の研修の効果測定の実施状況をみると、3,081研修のうち2,696研修が効果測定を実施していた。そして、Off―JTの実施形態別に効果測定の実施状況をみると、自ら実施する研修2,507研修のうち2,171研修、委託研修574研修のうち525研修が効果測定を実施していた。

また、各府省等の職員が他府省等で実施している20時間以上の研修に参加した場合、研修実施部局において効果測定を実施している延べ研修数は、1,198研修となっているが、各府省等において、他府省等の研修実施部局等から効果測定の結果に関する報告を受けていないとしているものは590研修となっていて、各府省等は当該研修に所属職員を受講させているものの、当該研修において実施された効果測定の結果を把握しておらず、その研修の効果を十分に把握していない状況となっていた。

各府省等が27年度に実施したOff―JTのうち20時間以上の研修の研修内容に関する評価の実施状況をみると、3,081研修のうち2,816研修では、研修内容に関する評価を実施していて、265研修では、研修内容に関する評価を実施していなかった。

イ 研修記録の作成・保管の状況

各府省等が27年度に実施したOff―JTのうち20時間以上の一般職の国家公務員に対する2,694研修に係る研修記録の作成等の状況をみると、研修実施部局で研修記録の記載項目が一覧できる様式となっているものが2,174研修となっており、これらに係る各記載項目ごとの記載状況をみると、「研修に要した経費」及び「研修の計画に当たって特に配慮した事項、研修結果に対する所見等」の2項目が記載されているものは、それぞれ651研修及び1,023研修となっていた。また、同様に特別職の国家公務員に対する387研修においては、研修実施部局で研修記録の記載項目が一覧できる様式となっているものが278研修となっており、これらに係る各記載項目ごとの記載状況をみると、一般職の国家公務員に対する研修と比べて各項目とも低い傾向となっていた。

ウ 研修計画の改善状況等

各府省等においては、Off―JT終了後に効果測定を実施していなかったり、所属職員を他府省等の研修に参加させる場合においてその効果測定の結果に係る報告を受けていなかったり、研修内容に関する評価を実施していなかったりしていて、研修計画の見直しなどの改善につなげるための体制が整っていない状況が一部の府省等で見受けられた。

(4) 研修施設の保有状況等

ア 研修施設の保有状況

各府省等には、研修所等の研修施設を保有している府省等と、研修施設を保有しておらず、研修実施の都度、庁舎内外の会議室等を確保している府省等がある。各府省等の研修施設の保有状況をみると、27年度末現在で、136研修施設を保有していて、136研修施設のうち90研修施設は宿泊施設が併設されている合宿研修施設となっていた。

イ 研修施設の稼働状況

27年度における136研修施設の教室等稼働率(注8)及び90研修施設の宿泊施設稼働率(注9)をみると、30研修施設の教室等で、また、58研修施設の宿泊施設で、それぞれ50%を下回っている状況であった。

(注8)
教室等稼働率  平成27年度の研修実施可能日数243日に対する教室等稼働日数(1教室等以上が使用された日数)の割合を用いて算定している。
(注9)
宿泊施設稼働率  平成27年度年間宿泊可能人日数(宿泊可能日数187日に宿泊施設定員数を乗じたもの)に対する年間宿泊人日数の割合で算定している。ただし、宿泊施設稼働率については、当該研修施設において実施する最大規模の研修員数に応じた室数が確保されなければならないことに留意する必要がある。

ウ 研修施設の連携・融通の状況

27年度における、研修施設を保有していない他府省等や関連団体等(以下、これらを合わせて「他機関等」という。)に対する研修施設の使用承認又は使用許可(以下「使用承認等」という。)の状況をみると、136研修施設のうち14研修施設では使用承認等の実績があったものの、122研修施設では実績がなかった。そして、他機関等に対する研修施設の教室等及び宿泊施設の使用承認等に関する周知の状況をみると、一部の研修施設について、貸出要綱等をメールで周知したり、過去に使用承認等の実績がある他機関等に対して電話で周知したりしているものが見受けられたが、ほとんどの研修施設では周知を行っていなかった。

研修施設の宿泊施設の使用承認等については、セキュリティ等の面から施設の使用承認等を行う体制になっていないなどの様々な課題を解消する必要がある。一方で、研修施設の教室等の使用承認等については、内部規程等を整備しているものの、他機関等への使用承認等に関する各府省等間における相互の連携が十分に図られておらず、各府省等が保有する研修施設の年間使用計画等の情報を各府省等間で共有できていない状況となっていた。

(5) 内閣人事局による総合的企画及び調整並びに人事院による監視等の状況

内閣人事局によると、基本方針及び基本方針の運用に関し必要な事項を定めた「国家公務員の研修に関する基本方針の運用について」(平成28年1月内閣人事局長決定。以下「基本方針の運用」という。)の策定が国家公務員法に基づく研修についての計画の樹立及び実施に関する総合的企画及び調整に該当するとしている。

基本方針によれば、Off―JTについて、内閣人事局及び関係各庁は、相互に連携・協力することにより、政府全体を通じて体系的で効果的な研修が実施されるよう努めることとされている。そして、内閣人事局は、毎年、「研修担当官会議」を実施し、関係各庁の研修担当官を集めて、当該年度に内閣人事局が実施した研修の実施状況について説明するとともに、翌年度の内閣人事局の研修実施計画について説明及び質疑応答を行っているとしている。

また、人事院による監視の前提となる調査についてみると、人事院は、研修実施状況調査における関係各庁からの報告を取りまとめる過程で、疑問点や矛盾点があれば関係各庁に質問して確認することが広い意味での調査に当たるとしているが、23年度以降、報告内容の確認作業以外の調査を行った実績はなく、報告を受けた研修の実施状況等の内容について、国家公務員法、人事院規則等に違反する事態や特段の問題はなかったとしている。

前記のとおり、研修計画等で対象者の範囲が明確になっていない事態、他府省等の職員も対象としている自府省研修について他府省等への研修実施の周知が十分でないなどの事態、研修施設の年間使用計画等の情報を関係各庁間で共有できていない事態等が見受けられた。

内閣人事局は、これらの事態の解消に資するような、関係各庁間の相互の連携・協力を図るための調整、研修を行うに当たり関係各庁間で研修施設の情報の共有に関する調整等は行っていないとしており、また、人事院は、研修計画等で対象者の範囲が明確になっていない事態は、報告内容には含まれていなかったため、把握していなかったとしている。

4 所見

(1) 検査の状況の概要

ア 各府省等における研修計画の策定状況等

27年度における各府省等の研修計画は、一般職の国家公務員を対象としたものとして473研修計画、特別職の国家公務員を対象としたものとして146研修計画、計619研修計画が策定されており、このうち、記載項目の「研修時期」に具体的な時期を明示していないものが一般職の国家公務員に対する65研修計画、特別職の国家公務員に対する29研修計画、「対象者」を明示していないものが一般職の国家公務員に対する62研修計画、特別職の国家公務員に対する23研修計画となっていた。

イ 各府省等における研修の実施に要した経費、研修の実施状況等

各府省等における研修の実施に要した経費は公表されておらず、本院が調書を基に集計し整理したところ、27年度の各府省等における研修の実施に要した経費は計207億4291万余円となっており、研修施設の維持管理費が最も多く119億9247万余円、次いで、旅費43億9772万余円、庁費33億2820万余円等となっていた。

また、研修の実施には、これ以外にも、研修業務に従事する職員に係る人件費相当額や受講者の研修時間に係る機会費用が生じている。

公正取引委員会、国税庁及び特許庁以外の府省等においては、OJTを府省等全体で計画的に実施する取組は行われていなかった。

各府省等におけるOff―JTの実施状況は、27年度では、一般職の国家公務員に対する研修は、18,435研修、受講者数761,892人、特別職の国家公務員に対する研修は、817研修、受講者数17,526人となっていた。

25年度から27年度までの間に各府省等が実施する自府省研修のうち、実際に他府省等の職員が受講している研修をみると、一般職の国家公務員に対する研修では、25年度の152研修(他府省等の受講者797人)から27年度の173研修(同994人)となっていて、特別職の国家公務員に対する研修では、25年度の4研修(50人)から27年度の6研修(42人)となっていた。また、派遣研修における償還義務者の債権の管理状況についてみると、27年度末時点では、償還中の者が16人、償還残額が41,633,893円となっていた。

27年度の各府省等における委託研修は、一般職の国家公務員に対する研修1,220研修、特別職の国家公務員に対する研修361研修となっており、委託研修として継続して実施してきたためとしているものが、一般職の国家公務員に対する研修において260研修、特別職の国家公務員に対する研修において95研修となっていた。

また、25年度から27年度までの間に実施されたeラーニング研修の受講者数は年々増加傾向にあり、27年度におけるeラーニング研修の1研修当たりの平均受講者数は、他の研修に係る1研修当たりの平均受講者数と比べて多くなっている。

ウ 各府省等の研修に係る評価、改善の状況等

各府省等が27年度に実施した20時間以上の研修3,081研修のうち2,696研修が効果測定を実施していた。そして、各府省等の職員が他府省等で実施している20時間以上の研修に参加した場合、研修実施部局において効果測定を実施している延べ研修数は1,198研修となっているが、各府省等において、他府省等の研修実施部局等から効果測定の結果に関する報告を受けていないとしているものは590研修となっていて、その研修の効果を十分に把握していない状況となっていた。

また、上記3,081研修のうち265研修では、研修内容に関する評価を実施していなかった。

各府省等が27年度に実施した20時間以上の研修に係る研修実施部局で研修記録の記載項目が一覧できる様式となっている研修記録のうち、一般職の国家公務員に対する研修では、「研修に要した経費」及び「研修の計画に当たって特に配慮した事項、研修結果に対する所見等」の2項目が記載されているものは、それぞれ651研修及び1,023研修となっており、特別職の国家公務員に対する研修では、各記載項目の記載状況は一般職の国家公務員に対する研修と比べて各項目とも低い傾向となっていた。

エ 研修施設の保有状況等

各府省等は、27年度末現在で136研修施設を保有しており、このうち90研修施設が合宿研修施設となっていた。また、27年度において、30研修施設の教室等稼働率及び58研修施設の宿泊施設稼働率が、それぞれ50%を下回っている状況であった。

上記136研修施設のうち122研修施設では他機関等への研修施設の使用承認等の実績がなかった。また、研修施設の教室等の使用承認等については、内部規程等を整備しているものの、他機関等への使用承認等に関する各府省等間における相互の連携が十分に図られておらず、各府省等が保有する研修施設の年間使用計画等の情報を各府省等間で共有できていない状況となっていた。

オ 内閣人事局による総合的企画及び調整並びに人事院による監視等の状況

内閣人事局は、研修の計画の樹立及び実施に関する総合的企画及び関係各庁に対する調整として、基本方針及び基本方針の運用を策定した。また、内閣人事局は、毎年、関係各庁の研修担当官を集めて「研修担当官会議」を実施している。

人事院は、23年度以降、研修実施状況調査における関係各庁からの報告内容の確認作業以外の調査を行った実績はなく、報告を受けた研修の実施状況等の内容について、国家公務員法、人事院規則等に違反する事態や特段の問題はなかったとしている。

そして、内閣人事局は、他府省等の職員も対象としている自府省研修について他府省等への研修実施の周知が十分でないなどの事態等の解消に資するような、関係各庁間の相互の連携・協力を図るための調整等は行っていないとしており、人事院は、研修計画等で対象者の範囲が明確になっていない事態について、報告内容に含まれていなかったため、把握していなかったとしている。

(2) 所見

各府省等においては、研修を効果的、効率的に実施することが重要である。

そして、内閣人事局においては、自ら研修の計画を樹立して研修を実施するとともに、政府全体を通じて体系的で効果的な研修が実施されるために、関係各庁の研修の実情を把握し、実施されている研修の改善につながるよう、必要に応じて、より広い視野からの総合的企画及び調整を行うことが求められている。また、人事院においては、国民全体の奉仕者としての使命の自覚等を有する職員の育成等の観点から行う研修の着実な実施を図るとともに、関係各庁が実施する研修についての的確な監視等を行うことが求められている。

このような中、今回の検査で、研修についての計画の樹立及び実施に関して内閣人事局による総合的企画及び調整並びに人事院による監視等の対象とされている一般職の国家公務員に対する研修において、研修を効果的、効率的に実施する際に研修計画等で対象者の範囲が明確になっていない事態、他府省等の職員も対象としている自府省研修について、他府省等への研修実施の周知が十分でないなどの事態、研修施設の年間使用計画等の情報を関係各庁間で共有できていない事態等が見受けられ、特別職の国家公務員に対する研修においても、研修を効果的、効率的に実施する際に同様の事態等が見受けられた。

したがって、各府省等、内閣人事局及び人事院において、次の点に留意して、研修の実施等を行うことが必要である。

ア 各府省等は、一般職の国家公務員に対して研修を実施する際には基本方針に沿った研修の実施に十分留意するとともに、特別職の国家公務員に対する研修を含め研修を実施する際には、

  • (ア) 研修計画の策定に当たり、研修の時期や対象者を可能な限り明示して必要かつ適切な職員の研修の機会がより確保されるよう留意すること
  • (イ) Off―JTの実施に当たり、研修に要する経費を十分に把握して、特に委託研修及びeラーニング研修の実施に当たり、研修の効果に照らして、経済性等を考慮するなどして、効果的、効率的な研修の実施に努めること。また、他府省等の職員も研修の対象としたり、他府省等の職員も対象としている研修において他府省等への情報提供を十分に行ったりなどして、他府省等の職員をより研修に参加させるなど相互に連携・協力を図ること
  • (ウ) 研修内容に関する評価を適切に行ったり、研修の記録を適切に記録したりなどして、これらを研修の見直しなどに適切に反映すること。また、各府省等の職員が他府省等の研修に参加している場合においても、各府省等間の相互の連携・協力を図るなどして、研修の効果測定の結果を適切に把握すること
  • (エ) 研修施設の有効活用を図るため、可能な範囲で他機関等への施設の使用承認等を考慮して、各府省等間において連携・融通を図ること

イ 内閣人事局は、基本方針の下、関係各庁が実施する研修について、

  • (ア) 関係各庁が、研修を効果的、効率的に実施することができるよう、必要に応じて収集した情報を関係各庁に周知すること
  • (イ) 関係各庁における効果的な研修の実施に資するため、必要に応じて研修施設についての情報を関係各庁間で共有できるよう、働きかけを行うこと

ウ 人事院は、関係各庁の研修の実態を把握して、現在まで培ってきた専門的知見を基に内閣人事局と連携して関係各庁の研修の計画策定及び実施に関し、必要に応じて監視の前提となる調査の充実を図ること

本院としては、今後とも各府省等における職員の研修の実施状況等について引き続き注視していくこととする。