社会保障・税番号制度(以下「マイナンバー制度」という。)は、社会保障・税制度の効率性・透明性を高め、国民にとって利便性の高い公平・公正な社会を実現するために、複数の機関に存在する個人情報について同一人の情報であるということの確認を行うための社会基盤である。
マイナンバー制度においては、①最新の4情報(氏名、住所、性別及び生年月日)と関連付けられている国民一人一人に唯一無二となる個人番号(注1)(以下「マイナンバー」という。)を新たに付番する仕組み、②複数の機関が管理する情報とマイナンバーとの関連付けを行った上でこれを利用して相互に情報を活用するための仕組み及び③個人が間違いなく本人であることを証明するための本人確認の仕組みが設けられることとなっている。
そして、マイナンバー制度は、社会保障、税及び災害対策の各分野において導入されることとなっており、各分野においてマイナンバーが利用されることで、より正確な所得把握が可能となり社会保障や税の給付と負担の公平化が図られたり、災害時において真に手を差し伸べるべき者に対する積極的な支援に活用することが可能となったりするなどの効果が見込まれ、これにより、より公平・公正で、行政に過誤や無駄のない国民にとって利便性の高い社会が実現できるとされている。
国の行政機関、地方公共団体、独立行政法人等は、それぞれ社会保障、税等に係る情報システムの運用等を行っており、また、新たに情報提供ネットワークシステム(以下「情報提供NWS」という。)等の情報システムを開発している。そして、マイナンバー制度の実施のために、これらの情報システムの運用等を行うことになる。
そして、国の行政機関、地方公共団体、独立行政法人等は、自らが運用等を行う情報システムから情報提供NWSを通じて、他の行政機関、地方公共団体、独立行政法人等に対して、特定個人情報(注2)について情報照会を行い、これを受けた行政機関、地方公共団体、独立行政法人等は、自らが運用等を行う情報システムから情報提供NWSを通じて当該特定個人情報について情報提供を行うこととなっている(以下、これらの情報照会及び情報提供を合わせて「情報連携」という。)。
地方公共団体は、情報連携を行うために、情報連携の対象となる世帯情報、所得情報等の情報を保有する既存の住民基本台帳システム、地方税務システム及び生活保護システム等の社会保障関係システム(以下、これらの情報システムを総称して「地方既存システム」という。)について、それぞれ必要な整備(改修を含む。以下同じ。)を行った上で、情報提供NWSと接続することが必要となっている。地方既存システムのうち、住民基本台帳システムについては国等の多くの情報システムに先行して平成27年10月から、その他の地方既存システムについては28年1月から利用を開始しており、今後は、情報連携に向けて、総合運用テスト等が続くことになる。
地方公共団体情報システム機構(以下「機構」という。)は、地方公共団体情報システム機構法(平成25年法律第29号)に基づき、地方公共団体が共同して運営する組織として、住民基本台帳法(昭和42年法律第81号)、電子署名等に係る地方公共団体情報システム機構の認証業務に関する法律(平成14年法律第153号)及び「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」(平成25年法律第27号。以下「マイナンバー法」という。)の規定による事務並びにその他の地方公共団体の情報システムに関する事務を地方公共団体に代わって行うとともに、地方公共団体に対してその情報システムに関する支援を行い、もって地方公共団体の行政事務の合理化及び住民の福祉の増進に寄与することを目的とする法人である。そして、機構は、前身である財団法人地方自治情報センターの権利及び義務を26年4月1日に承継して設立された。
市町村長(特別区の区長を含む。以下同じ。)は、マイナンバー法に基づき、住民票に住民票コードを記載したときは、マイナンバーを指定して通知することとなっており、その指定及び通知は、次のとおり行われることとなっている。
① 市町村長は、マイナンバーを指定するときは、あらかじめ機構に対し、当該指定しようとする者に係る住民票に記載された住民票コードを通知するとともに、マイナンバーとすべき番号の生成を求める。
② 機構は、総務省との委託契約に基づき整備した個人番号生成システムにより、住民票コードを基にマイナンバーとすべき番号を生成し、市町村長へ通知を行う。
③ 市町村長は、機構から通知されたマイナンバーとすべき番号をその者のマイナンバーとして指定する。
④ 市町村長は、その者に対して、当該マイナンバーを通知カード(注3)により通知する。
また、市町村長は、当該市町村(特別区を含む。以下同じ。)が備える住民基本台帳に記録されている者に対して、その者の申請により、その者に係る個人番号カード(注4)(以下「マイナンバーカード」という。)を交付することとなっている。
そして、市町村長は、「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律の規定による通知カード及び個人番号カード並びに情報提供ネットワークシステムによる特定個人情報の提供等に関する省令」(平成26年総務省令第85号)に基づき、通知カード及びマイナンバーカードの作成等の事務(以下「通知カード・マイナンバーカード関連事務」という。)を機構に行わせることができることとなっており、実際にも、全ての市町村長が通知カード・マイナンバーカード関連事務を機構に行わせている。
マイナンバー制度については、27年10月からマイナンバーの付番及び通知カードによるマイナンバーの通知が、28年1月からマイナンバーの利用及びマイナンバーカードの交付がそれぞれ開始されており、今後のスケジュールについては、「世界最先端IT国家創造宣言工程表」(平成25年6月高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部決定。28年5月改定)において、29年7月から情報提供NWSの本格運用が開始されるなどとなっている。
そして、総務省は、25年8月に、地方公共団体に「地方公共団体における番号制度の導入ガイドライン」を示しており、当該ガイドライン等によれば、地方公共団体は、情報連携の本格運用に向けて、次のスケジュールで地方既存システム等の整備を進めることとされている。
① 住民基本台帳システムのうちマイナンバーの付番・通知に必要な機能に係る整備を主に26年度に行い、27年9月末までに個人番号生成システムとの連携テストを行う。
② マイナンバーの利用に必要な地方既存システム等の整備を27年12月末までに行う。
③ 整備を行った地方既存システム等について、地方公共団体内での連携テストを28年6月末までに行う。
④ 中間サーバーを介した地方既存システム等と情報提供NWSとの連携テスト並びに情報連携に係る業務運用の試行を行い業務運用の操作及び手順の正確性、業務効率等を確認する総合運用テストを29年6月末までに行う。
総務省及び厚生労働省は、26、27両年度に、マイナンバー制度の導入に必要な地方既存システム、団体内統合宛名システム、団体内統合利用番号連携サーバー及び中間サーバーの各情報システム(以下、これらの情報システムを総称して「補助対象システム」という。)の整備に要する経費を補助するために、社会保障・税番号制度システム整備費補助金(以下「整備費補助金」という。)を地方公共団体に交付しており、マイナンバー制度の導入に伴い直接的に必要となる機能に係る企画・開発費、設備費等を対象としている。
なお、「平成27年度政府情報システム投資計画」(平成27年7月各府省情報化統括責任者(CIO)連絡会議決定)によれば、マイナンバー制度に関する国のシステム投資額は、全体で26年度1353億円、27年度706億円、他の年度を含めた合計で2656億円とされており、そのうち、国以外のシステム整備に要する経費はそれぞれ26年度1149億円(84.9%)、27年度487億円(68.9%)、他の年度を含めた合計で1940億円(73.0%)とされていて、国以外のシステム整備に要する経費が高い割合となることが見込まれている。
また、総務省は、27年度に、市町村長が通知カード・マイナンバーカード関連事務を機構に行わせる場合に、これに要する経費に相当する金額として市町村が機構に交付する交付金を補助の対象とした個人番号カード交付事業費補助金(以下「事業費補助金」という。)や、市町村におけるマイナンバーカードの交付事務に必要な人件費等の経費を補助の対象とした個人番号カード交付事務費補助金(以下「事務費補助金」という。)をそれぞれ市町村に交付している。
内閣官房は、マイナンバー制度を導入するために必要な事業の推進を支援するためのツール(以下、このツールを「デジタルPMO」という。)を26年5月から運営している。デジタルPMOは、国、地方公共団体等の間で、マイナンバー制度に関する情報を共有することを目的としたポータルサイトである。そして、地方公共団体等は、デジタルPMOに掲載された情報を活用して、仕様書の作成や、業者から徴取した見積書の精査等を行うことになる。また、地方公共団体は、補助対象システムの整備の進捗状況をデジタルPMOに登録し、総務省及び厚生労働省は、この状況を確認することで、地方公共団体における整備の進捗管理を行い、進捗が遅れている地方公共団体に対しては個別に原因の確認や課題解決のアドバイス等を行うこととしている。
総務省は、「個人番号付番等に係る業務委託契約」(以下「付番等業務委託契約」という。)を機構と締結している。機構は、付番等業務委託契約に基づき、マイナンバーとすべき番号を生成するなどの個人番号生成システム、マイナンバーカードの発行に必要な情報を作成する個人番号カード発行委託システム、マイナンバーカードの運用状況を管理するなどの個人番号カード管理システム(以下、個人番号カード発行委託システム及び個人番号カード管理システムを合わせて「カード管理等システム」という。)等の開発等の業務を行っており、これらのシステムを運用してマイナンバーカードの発行等の業務を行っている。そして、28年1月から3月までの間に、機構が運用しているシステムの一部において障害が発生していた。
地方公共団体は、総務省及び厚生労働省から整備費補助金の交付を受けて、26年度からマイナンバー制度の導入に必要な補助対象システムの整備を開始しており、整備費補助金の交付額の総額は、国が行うマイナンバー制度に係る情報システムの整備に要する経費の総額と比較しても多額となることが見込まれている。
また、地方公共団体は、前記のとおり、国が示すスケジュールに沿って、住民基本台帳システムについては国等の多くの情報システムに先行して27年10月から、その他の補助対象システムについては28年1月から利用を開始しており、今後は、情報連携に向けて、総合運用テスト等が続くことになる。
さらに、市町村は、総務省から事業費補助金及び事務費補助金の交付を受けて、27年10月からマイナンバーの付番及び通知カードによるマイナンバーの通知を行い、28年1月からマイナンバーの利用及びマイナンバーカードの交付を開始していた。しかし、交付に係る人員体制等の確保が十分でなかったり、機構の情報システムに障害が発生したりしたこと、さらに、マイナンバーカードの交付の本格化と3月から始まる住民の異動に係る繁忙期が重なったことなどの複合的な要因により、マイナンバーカードの交付に遅れが生じていた。
そこで、本院は、これらの状況等を踏まえて、地方公共団体が行うマイナンバー制度の導入に係る補助事業の実施状況等について、合規性、経済性、有効性等の観点から、次の点に着眼して検査した。
ア 補助対象システムの整備は国が示すスケジュールどおりに進捗しているか。また、地方公共団体における補助対象システムの整備に当たり、仕様書の記載内容や徴取した見積書は適正なものとなっているか。
イ 事業費補助金及び事務費補助金により行われる通知カード及びマイナンバーカードの交付事業は遅滞なく適切に実施されているか。また、市町村においてマイナンバーカードの利活用の検討が行われているか。機構の情報システムにおいて発生した障害はどのような状況であり、これに対して適切な措置が講じられているか。
26、27両年度において、総務省及び厚生労働省から交付された整備費補助金により906地方公共団体(21都道府県(注5)、管内の852市町村、15一部事務組合、18広域連合)が整備した8,692システム(総務省分2,550システム、厚生労働省分6,142システム。これらに係る契約7,916件、契約金額922億余円、国庫補助金相当額500億余円)、27年度において総務省から交付された事業費補助金及び事務費補助金により852市町村が実施した通知カード及びマイナンバーカードの交付事業(事業費152億余円、国庫補助金交付額131億余円)並びに総務省が25年9月に機構と締結した付番等業務委託契約(支払額94億3801万余円)を対象として検査した。
検査に当たっては、内閣官房、総務省及び厚生労働省において、マイナンバー制度の導入に係る補助事業に関する地方公共団体への支援の状況等について確認するなどの方法により会計実地検査を行った。
また、21都道府県、管内395市町村等において、補助対象システムの整備に係る契約並びに通知カード及びマイナンバーカードの交付事業等について、契約書、見積書等の関係書類を確認するなどして会計実地検査を行うとともに、21都道府県管内の残りの490市町村等についても調書の作成及び提出を求めるなどして検査した。
さらに、機構において、付番等業務委託契約について、契約書、実績報告書等の関係資料を確認するなどして会計実地検査を行うとともに、機構が地方公共団体の負担金により行っている中間サーバーの拠点である自治体中間サーバー・プラットフォームの整備等及び市町村が機構に行わせている通知カード・マイナンバーカード関連事務について、機構に依頼して関係資料の提出を受けるなどして調査した。
総務省の整備費補助金の26年度歳出予算現額は720億余円となっており、26年度中に250億余円が支出され、また、27年度歳出予算現額は590億余円となっており、27年度中に452億余円が支出されている。また、厚生労働省の整備費補助金の26年度歳出予算現額は185億余円となっており、26年度中に21億余円が支出され、また、27年度歳出予算現額は309億余円となっており、27年度中に227億余円が支出されている。
総務省が示す地方公共団体の団体規模別及び整備を行う情報システムの類型別の事業費(以下「想定事業費」という。)と各地方公共団体が補助対象システムの整備に実際に要した事業費(以下「実整備費」という。)との関係を補助対象システムごとにみたところ、総務省分の2,550システムのうち、1,233システム(48.4%)において実整備費が想定事業費以上となっていた一方、1,317システム(51.6%)において実整備費が想定事業費未満となっていた。
また、厚生労働省の基準額(内示額)と実整備費との関係を国民年金システム及び特別児童扶養手当システムの両システムを除いた①一般分と②国民年金システム及び特別児童扶養手当システムの両システム分の基準額(内示額)の区分ごとにみたところ、基準額(内示額)の区分の①の区分1,734システム(注6)のうち1,278システム(73.7%)、②の区分1,609システムのうち1,158システム(72.0%)において実整備費が基準額(内示額)以上となっていた一方、基準額(内示額)の区分の①の区分456システム(26.3%)、②の区分451システム(28.0%)において実整備費が基準額(内示額)未満となっていた。
総務省及び厚生労働省の整備費補助金により整備を行った(27年度に交付申請を行ったものの契約締結に至らなかったものを含む。)総務省分の2,550システム及び厚生労働省分の6,142システムについて、マイナンバーの利用に必要な補助対象システムの整備の状況をみたところ、27年12月末までに整備が終了していなかったものが総務省分で530システム(20.7%)、厚生労働省分で1,489システム(24.2%)あったが、整備の進捗の遅れは、28年6月末までには相当程度解消されていた。また、地方公共団体内での連携テストの状況をみたところ、28年6月末までに連携テストが終了していなかったものが総務省分で136システム(5.3%)、厚生労働省分で385システム(6.2%)、計521システムあった。
地方公共団体内での連携テストまでのスケジュールについては、スケジュールどおりに補助対象システムの整備を進めることが求められているものの、その遅れが直ちにマイナンバー制度全体に影響を及ぼすものではない。しかし、補助対象システムは、29年7月から中間サーバーを介して情報提供NWSと接続して情報連携を行うことを目指すこととなっている。そして、総合運用テスト等のうち地方公共団体間で行うものについては、28年11月から29年4月までの間に3グループに分けて実施されることとなっているが、今後、29年6月末までの期限内にテストを進めないと、予定されている情報連携を適切に行うことができなくなるおそれがある。
地方公共団体がマイナンバー制度に対応するための整備を行うに当たり仕様書を作成していた補助対象システムのうち、26、27両年度の契約で作業を分けて整備を行っていた総務省分の3,704システム(注7)及び厚生労働省分の5,910システムについて、26年度と27年度の仕様書の記載内容を比較したところ、26年度と27年度で全く同じ作業内容になっていたものが、総務省分で170システム(4.6%)、厚生労働省分で326システム(5.5%)の計496システムあった。
情報システムの調達に係る給付の完了の確認に当たっては、設計書、テスト計画書、テスト結果報告書等の成果物に基づき、当該システムが要件定義書等において求める要件及び品質を満たしているかを適切に確認する必要がある。そこで、仕様書を作成していた総務省分の4,182システム及び厚生労働省分の11,453システムについて、仕様書に成果物として必要なものが記載されていたかをみたところ、仕様書に成果物が記載されていた総務省分の3,009システム及び厚生労働省分の8,252システムのうち、総務省分の1,971システム(65.5%)、厚生労働省分の5,315システム(64.4%)で仕様書においてテスト計画書が成果物として記載されていなかった。また、総務省分の1,548システム(51.4%)、厚生労働省分の4,023システム(48.8%)でテスト結果報告書が成果物として記載されていなかった。
さらに、総務省分の1,173システム(28.0%)、厚生労働省分の3,201システム(27.9%)、計4,374システムで成果物が仕様書に全く記載されていなかった。
予定価格の算定の際に業者から見積書を徴して予定価格を算定していた総務省分の2,970システム及び厚生労働省分の8,353システムについて、適正な見積書を徴しているか確認したところ、作業項目ごとに作業工数の記載がなく、かつ、作業項目ごとに人件費単価の記載がない見積書により予定価格を算定していたものが、総務省分で745システム(25.0%)、厚生労働省分で3,029システム(36.2%)あり、このうち、「一式」とのみ記載されているなど、見積書における作業項目が全く細分化されていない見積書により予定価格を算定していたものが、総務省分で198システム(6.6%)、厚生労働省分で1,030システム(12.3%)あった。
事業費補助金は、27年度歳出予算額として656億余円が計上され、27年度中に355億余円が支出されている。また、事務費補助金は同年度の歳出予算額として105億余円が計上され、27年度中に28億余円が支出されている。
事業費補助金が充当される市町村の交付金により機構が行った通知カード・マイナンバーカード関連事務の27年度の総額は394億余円となっていた。
検査対象である852市町村が28年3月末までに送付した通知カードの送付の状況をみたところ、送付した通知カードの総数は34,139,408通となっていた。
また、通知カードの送付に当たっては、住民票に記載をすべきものとされている氏名、住所等の事項についての調査を行うことが有効であるとされているが、518市町村(60.7%)において、時間がなかったことや人手が不足していたことなどの理由で、マイナンバー法の施行までの時期に当該調査を実施していなかった。
検査対象である852市町村について通知カードの返戻の状況をみたところ、28年3月までの間に返戻された通知カードは852市町村で3,624,609通となっていた。
市町村は、返戻された通知カードについて、住民票記載事項の確認や調査を行うこととなっており、居住実態が確認された場合は、受取人に対して市町村の窓口に取りに来るように促す通知等を行うなど通知カードの確実な交付に努めることが求められている。そこで、検査対象である852市町村について、28年3月末時点における返戻された通知カードの状況をみたところ、840市町村において、交付等ができないまま保管されている通知カードが1,399,132通(本院の試算による通知カードの送付等に係る事業費補助金相当額6億0162万余円)となっていた。このように交付等ができないまま保管している通知カードについて理由別にみると、受取人による受取拒否等のほかに、市町村が返戻後に住民票記載事項の確認や調査を実施していないものが209市町村で350,513通(本院の試算による通知カードの送付等に係る事業費補助金相当額1億5072万余円)となっていた。そして、返戻後に確認や調査を実施できていない理由を該当市町村に確認したところ、人手不足や他の業務で多忙のためなどとなっていた。
郵便局から市町村に返戻された通知カードは、受取人の居住実態の不明等により一定期間(3か月程度)経過しても交付ができない場合、廃棄することとされているが、東日本大震災の避難者等のように本人と連絡を取ることができないなど、通知カードの交付が困難な事態も想定されることから、総務省は、27年12月28日に、当該期間が経過した通知カードについて、28年3月31日まで保管するように市町村長に要請しており、また、同年3月23日に、更に保管期間を延長することを検討するように市町村長に要請している。そこで、検査対象である852市町村において通知カードの状況をみたところ、受取人の受取拒否や居住実態の不明により、上記要請の後に保管期間が一定期間(3か月程度)経過したことにより廃棄されていたものが、28年3月末時点において96市町村で8,656通(本院の試算による通知カードの送付等に係る事業費補助金相当額372万余円)となっていた。
検査対象である852市町村における28年3月末時点でのマイナンバーカードの交付の状況をみたところ、申請枚数6,002,486枚、発行して機構から市町村に送付した枚数5,384,085枚に対して、交付枚数は1,225,423枚となっていて、低調な状況となっていた。
マイナンバーカードが市町村に到着してから申請者へ交付通知書を送付するまでの状況について検査対象である852市町村に確認したところ、1か月以上要したものが1,700,831枚あった。このように送付までに一定の時間を要する状況が生じている理由について、市町村に確認したところ、交付が開始されてから間もないことから交付事務の処理に慣れるまで時間を要したり、交付事務に従事する職員数が不足していたり、後述のとおり、機構のカード管理等システムに障害が発生したことなどにより市町村において処理に時間を要したりしたことなどとなっていた。また、同年3月末時点で、806市町村において、あらかじめマイナンバーカードの交付計画を策定していなかった。
なお、総務省による進捗状況のフォローアップ調査結果によれば、28年11月末までに全市町村において交付通知書の送付の滞留が解消したとされている。
総務省は、マイナンバーカードの利活用方法として、一般的な本人確認手続における本人確認書類としての利用、コンビニエンスストア等での住民票の写しなどの交付等が挙げられるとしている。そこで、28年3月末時点における住民票の写しなどのコンビニエンスストアでの交付等によるマイナンバーカードの利活用の状況について、検査対象である852市町村に確認したところ、115市町村(13.5%)は既にマイナンバーカードの利活用を行っていた(行うことを決定していたものを含む。)が、737市町村(86.5%)はマイナンバーカードの利活用を行っておらず、このうち、157市町村は利活用を行うことについて検討していなかった。利活用を行っていない主な理由として、多くの市町村が、費用対効果が乏しいこと、住民のニーズがないことなどを挙げていた。
28年1月から3月までの間に、複数回にわたりカード管理等システムの中継サーバに障害が発生し、市町村はカード管理等システムに接続できない状態となった。機構は、28年4月27日及び6月22日に障害の状況を公表している。機構によれば、①中継サーバのCPU内の割り込み通知において処理順序の不整合が発生したこと、②中継サーバの業務アプリケーションにおいてメモリ領域の解放時に異常が発生したことにより、市町村がマイナンバーカードの交付事務を行う際に用いる統合端末からカード管理等システムに接続できない状態になったとしている。そして、機構は、これらの事象について対応策を講じたとしている。
機構は、上記の発生原因を、中継サーバを担当した業者による設計不備、適合性評価の不足等としており、契約の相手方5社の負担により、中継サーバを2台から4台に増設するなどした上で、障害の再現テストを繰り返すなどしてカード管理等システムの改修を進めて、28年4月に根本的な発生原因を取り除くなどの対応策を実施したとしている。また、発生原因の特定に長時間を要した要因として、事象の発生箇所である中継サーバの調査に関し、調査全体を取りまとめる立場の代表責任者であるエヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズ株式会社と中継サーバを担当した業者との間での連携が不足していたため、中継サーバを担当した業者において原因究明への主導的な対応が行われず、総合的な調査が行われるまでに時間を要したなどとしている。
なお、機構は、28年6月に、再発防止策として、システム統括室を設置したり、カード管理等システム等を総点検したりすることなどを公表して、同年10月にその対応状況を公表していた。
また、上記の障害とは別に、市町村からカード管理等システムにつながりにくい状態等が発生していた。このような状態等に対して、総務省及び機構は、マイナンバーカードの交付に係る電子証明書の利用の設定等の処理を控えるよう事務連絡を発したり、情報システムの改修等を行ったりするなどの対策を講じたとしている。
(ア) 補助対象システムの整備の進捗状況についてみたところ、27年12月末までに整備が終了していなかった補助対象システムが総務省分で530システム、厚生労働省分で1,489システムあったが、整備の進捗の遅れは、28年6月末までには相当程度解消されていた。また、28年6月末までに地方公共団体内での連携テストが終了していなかった補助対象システムが総務省分で136システム、厚生労働省分で385システムあった。
(イ) 補助対象システムの整備に係る契約手続等の状況についてみたところ、仕様書において26年度と27年度で全く同じ作業内容になっていた補助対象システムが総務省分で170システム、厚生労働省分で326システムあった。さらに、仕様書においてテスト計画書が成果物として記載されていなかった補助対象システムが総務省分で1,971システム、厚生労働省分で5,315システム、テスト結果報告書が成果物として記載されていなかった補助対象システムが総務省分で1,548システム、厚生労働省分で4,023システム、成果物が仕様書に全く記載されていなかった補助対象システムが総務省分で1,173システム、厚生労働省分で3,201システムあった。また、予定価格の算定時に作業項目ごとに作業工数の記載がなく、かつ、作業項目ごとに人件費単価の記載がない見積書により予定価格を算定していた補助対象システムが総務省分で745システム、厚生労働省分で3,029システムあった。
28年3月末時点において、住民票記載事項の確認や調査を実施していないため、受取人に交付等ができないまま市町村に保管されている通知カードが209市町村で350,513通、保管期間が一定期間(3か月程度)経過したことにより廃棄されていた通知カードが96市町村で8,656通あった。マイナンバーカードについては、同月末時点での申請枚数6,002,486枚、機構から市町村に送付した枚数5,384,085枚に対して、交付枚数は1,225,423枚となっていて、低調な状況となっていた。また、同月末時点で、806市町村において、あらかじめマイナンバーカードの交付計画を策定していなかった。なお、総務省による進捗状況のフォローアップ調査結果によれば、28年11月末までに全市町村において交付通知書の送付の滞留が解消したとされている。さらに、同年3月末時点で、737市町村において、マイナンバーカードの利活用が行われておらず、このうち、157市町村は利活用を行うことについて検討していなかった。また、機構のカード管理等システムに障害が発生していたり、市町村からカード管理等システムにつながりにくい状態が発生していたりしていた。
マイナンバー制度については、情報連携の開始を目指して総合運用テスト等の作業が続くことになり、情報連携後には、制度の改正に伴い更なるシステム整備が行われることも想定されるところである。
また、市町村においては、今後も、通知カード・マイナンバーカード関連事務を機構に行わせるなどして、通知カードやマイナンバーカードの交付等を行っていくこととなる。そして、マイナンバー制度の普及のためにマイナンバーカードの利活用の推進等の取組が進められているところである。
ついては、内閣官房、総務省及び厚生労働省において、地方公共団体におけるマイナンバー制度に係る補助事業の実施等について、今後、次の点に留意して取り組んでいく必要がある。
通知カードについては、市町村が受取人に確実に交付できるよう、総務省において、今後も返戻された通知カードに関する調査等に関して、市町村に対して必要な助言を行うこと。また、マイナンバーカードについては、市町村が、交付事務に係る人員体制等の不備、機構の情報システムの障害等により滞留することがないように交付を行い、マイナンバーカードの利活用について速やかに検討し利活用を行うことができるよう、総務省において、今後もマイナンバーカードの交付や利活用に関して、市町村に対して必要な助言を行うこと
本院としては、マイナンバー制度が社会保障・税制度の効率性・透明性を高め、国民にとって利便性の高い公平・公正な社会を実現するための社会基盤であることを踏まえつつ、今後行われることとなる情報連携を含めたマイナンバー制度の実施状況等について、引き続き多角的な観点から検査していくこととする。