国は、20年度から27年度までの間に、地方公共団体(都道府県及び市町村(特別区を含む。)。以下同じ。)が「経済危機対策」(平成21年4月「経済危機対策」に関する政府・与党会議、経済対策閣僚会議合同会議決定)等に対応した事業を円滑に実施して、地域活性化等の速やかかつ着実な実施を図ることを目的として、地方公共団体が作成した実施計画に基づく事業に要する費用のうち地方公共団体が負担する経費に充てるために、表1のとおり、十の交付金を交付している。
表1 交付金の名称、予算及び予算額
交付金の名称 | 予算 | 予算額 | ||
---|---|---|---|---|
地域活性化・緊急安心実現総合対策交付金 | 平成20年度 一般会計第1次補正予算 |
26,000 | ||
地域活性化・生活対策臨時交付金 | 平成20年度 一般会計第2次補正予算 |
600,000 | ||
地域活性化・公共投資臨時交付金 | 平成21年度 一般会計第1次補正予算 |
1,379,000 | ||
地域活性化・経済危機対策臨時交付金 | 平成21年度 一般会計第1次補正予算 |
1,000,000 | ||
地域活性化・きめ細かな臨時交付金 | 平成21年度 一般会計第2次補正予算 |
500,000 | ||
地域活性化交付金(きめ細かな交付金) | 平成22年度 一般会計補正予算 |
250,000 | ||
地域活性化交付金(住民生活に光をそそぐ交付金) | 平成22年度 一般会計補正予算 |
100,000 | ||
地域の元気臨時交付金(地域経済活性化・雇用創出臨時交付金) | 平成24年度 一般会計第1次補正予算 |
1,398,000 | ||
がんばる地域交付金(地域活性化・効果実感臨時交付金) | 平成25年度 一般会計補正予算 |
87,000 | ||
地域活性化・地域住民生活等緊急支援交付金 | 平成26年度 一般会計補正予算 |
420,000 | ||
うち地域消費喚起・生活支援型 | 250,000 | |||
計 | 5,760,000 |
これらの交付金のうち、平成26年度一般会計補正予算による地域活性化・地域住民生活等緊急支援交付金は、経済のぜい弱な部分に的を絞り、かつスピード感をもって対応を行うことで、経済の好循環を確かなものとすることなどを目指し、地域の実情に配慮しつつ、消費を喚起することなどを重点として取りまとめられた「地方への好循環拡大に向けた緊急経済対策」(平成26年12月閣議決定。以下「緊急経済対策」という。)に対応した事業を実施するための交付金であり、同補正予算において、地域活性化・地域住民生活等緊急支援交付金に必要な経費4200億円が計上されている。そして、緊急経済対策において、具体的施策として、プレミアム付商品券(注1)の発行支援等、地方公共団体が講ずる消費喚起・生活支援策に対する交付金による助成等を行うとされたことを受けて、上記4200億円のうち2500億円は、「地域活性化・地域住民生活等緊急支援交付金(地域消費喚起・生活支援型)」(以下「緊急支援交付金」という。)のための費用とされている。
内閣府が27年2月に定めた地域活性化・地域住民生活等緊急支援交付金(地域消費喚起・生活支援型)制度要綱(平成27年府地創第22号。以下「制度要綱」という。)によれば、緊急支援交付金は、地方公共団体が作成した地域活性化・地域住民生活等緊急支援交付金(地域消費喚起・生活支援型)実施計画(以下「実施計画」という。)に基づく事業に要する費用に対して交付することにより、緊急経済対策の速やかかつ着実な実施を図ることを目的とするとされている。
また、制度要綱によれば、緊急支援交付金の交付対象となる事業(以下「交付対象事業」という。)は、緊急経済対策が閣議決定された26年12月27日以降に地方公共団体の予算に計上され、実施計画に基づき実施される地方単独事業とされており、交付対象経費は、交付対象事業に要する費用のうち実施計画を作成した地方公共団体が負担する費用とされている。そして、緊急支援交付金の交付を受けようとする地方公共団体は、実施計画を作成して、内閣府に提出することとされている。
制度要綱等によれば、実施計画には交付対象事業の名称、交付対象事業に要する費用等を記載することとされている。そして、交付対象事業に要する費用は、プレミアム付商品券のプレミアム分の額やふるさと旅行券事業の旅行商品の割引額等に充当される助成費用と、商品券等の印刷・発行費用、人件費等の助成費用以外の経費(以下「事務費」という。)を記載することとされている。
交付対象事業については、地域における消費喚起を推進するための事業(以下「地域消費喚起型事業」という。)と、地域における消費喚起に直接効果を有する生活支援を推進するための事業(以下「生活支援型事業」という。)とがあり、地域における消費喚起効果の観点から、主に個人に対する直接の給付事業を対象とするとされている。
そして、地域消費喚起型事業は、消費者の自己負担を伴うことにより助成費用の数倍の消費を喚起することになるものであるとされており、内閣府は、消費喚起効果が高いものとしてプレミアム付商品券事業、ふるさと旅行券事業及びふるさと名物商品事業を行うことを推奨している。
地域消費喚起型事業のうちプレミアム付商品券事業を例にとると、緊急支援交付金の交付対象となるのは、主として発行されるプレミアム付商品券のプレミアム分であり、消費者は、プレミアム付商品券の購入時に販売価格分を支払い、その後、購入したプレミアム付商品券を利用してプレミアムの付いた券面額分の商品・サービスを購入することが想定されることから、国による支援よりも多くの消費がなされることになり、内閣府は、この消費喚起効果を直接的な消費喚起効果というとしている。一方、消費者がプレミアム付商品券を入手しない場合でも当該商品・サービスを購入する予定であったとすれば、もともと予定されていた消費の原資の一部を国が負担しただけとなり、新たな消費を喚起したことにはならないことから、プレミアム付商品券を入手したことにより、新たに商品・サービスが購入されることが重要であり、この消費喚起効果を新規の消費喚起効果というとしている。
また、生活支援型事業は、消費者の自己負担による消費喚起効果がないものであるとされており、多子世帯等支援策、低所得者等向け商品・サービス購入券事業、低所得者等向け灯油等購入助成事業等の自己負担を伴わない事業が例示されている。
内閣府は、27年1月から3月までの間に地方公共団体から寄せられた質問内容を踏まえるなどして随時改訂した「地域住民生活等緊急支援のための交付金に関するQ&A」(以下「交付金に関するQ&A」という。)等を地方公共団体に対して発出しており、交付金に関するQ&A等において、消費喚起効果の高い手法を地域の実情に合わせて最大限工夫するよう求めるなどしている。
そして、具体的には、交付金に関するQ&A等によれば、地域消費喚起型事業について、「域内で利用するパスカード等への助成は、新たな消費が喚起される効果が高くない場合には、一般的には推奨されない」「ふるさと名物商品・旅行券事業に求められるのは、既存の旅行需要等を割り引くことによる事業予算の消化ではなく、従来にない新規の消費喚起である」などとされるとともに、低所得者等向けである生活支援型事業においても、「電気・ガス・水道代などのエネルギー消費については、生活上の必要経費であり新規の消費誘発効果がなく、(中略)原則対象としない」などとされていて、いずれの事業においても特に新規の消費喚起効果を高めることに留意することが求められている。
また、「特定の者に高額な商品に対する支援が行われる商品券の設計は、公平性の観点からも一般的には望ましくない」などとされており、公平性等に留意するよう求めている。
制度要綱によれば、地方公共団体は、緊急支援交付金事業の実施に伴う効果について検証して、内閣総理大臣に報告することとされている。そして、内閣府は、緊急支援交付金事業の効果検証のために、27年5月に事務連絡を発出して、消費者向けのアンケートのひな形等を示すなどして、消費喚起効果の測定方法等について地方公共団体に周知している。この事務連絡によれば、消費喚起効果の測定の狙いは、緊急支援交付金事業が新規の消費誘発を目的としていることから、どのような手法が、どのような消費喚起効果を得たかといった、喚起した消費の実態について調査を行うことなどとされている。
そして、内閣府は、地域消費喚起型事業については、①直接的な消費喚起効果と②新規の消費喚起効果の二つの消費喚起効果を把握して報告するよう求めている。一方、生活支援型事業については、①直接的な消費喚起効果を把握して報告すればよいとし、②新規の消費喚起効果については必ずしも把握することを求めていない。
内閣府は、緊急支援交付金について、交付対象事業は国として推奨する施策等を例示するという形にとどめ、どのような事業をどのように組み合わせて実施していくかは、地域の実情等に応じた地方公共団体の判断に広く委ねることとしているなど、地方公共団体の裁量に委ねると同時に、効果検証等、事業・施策の実施責任を求めるものとしていることが大きな特徴であり、緊急支援交付金を通じて、回復の遅れる地方の消費の喚起等が各地方の実情に応じて的確に進められることを期待するものであるとしている。
また、緊急支援交付金事業は、前記のとおり、緊急経済対策に対応して、地域における消費喚起を推進することなどが目的とされており、その実施に当たっては、緊急経済対策の速やかかつ着実な実施を図るとともに、新規の消費喚起効果を高めることに留意するよう求められているのが特徴となっている。
27年11月に内閣府が公表した緊急支援交付金事業の進捗状況によれば、緊急支援交付金の予算額2500億円のうち2495億円が同年9月30日までに交付決定されており、地域消費喚起型事業であるプレミアム付商品券事業及びふるさと旅行券事業又はふるさと名物商品事業で実施計画における事業費が予算額の大半を占めている。
地方公共団体は、前記のとおり、26、27両年度に、緊急経済対策に対応した地域における消費喚起等のために、緊急支援交付金によりプレミアム付商品券事業等を実施しており、これらの事業に要する費用に対して交付された緊急支援交付金の額も多額に上っている。国が交付する地域活性化等を目的とした交付金でプレミアム付商品券事業等を主な対象とするのは初めてであるが、地域における消費喚起のための事業においては、新規の消費が喚起されることが重要である。また、内閣府は、事業の実施方法等については地方公共団体の裁量に委ねると同時に、事業・施策の実施責任を求めるものとしており、地域における消費喚起効果等についての適切な検証が重要となっている。
そこで、本院は、合規性、経済性、効率性、有効性等の観点から、緊急支援交付金事業は制度要綱等の趣旨に沿って適切かつ効率的、効果的に実施されているか、効果検証として行われる消費喚起効果の測定は適切に実施されているかなどに着眼して検査した。
本院は、総務省が26、27両年度に409地方公共団体(21道府県(注2)及び22都道府県(注2)の388市町村)に対して交付した緊急支援交付金計917億2463万余円を対象として検査した。
検査に当たっては、内閣府本府、総務本省及び409地方公共団体において緊急支援交付金事業の実施状況について関係資料の提出や説明を受けるなどして、また、事業に要した費用の内訳やプレミアム付商品券の利用状況等について地方公共団体から緊急支援交付金事業に係る調書の提出を受けるなどして会計実地検査を行った。
409地方公共団体は、地域消費喚起型事業として716事業を実施しており、これらに要した事業費は計826億1650万余円(交付金交付額計804億9643万余円)となっていた。このうち、プレミアム付商品券事業(特定の商品・サービスを対象としたものなどを除く。)、宿泊費の助成を伴うふるさと旅行券事業及びふるさと名物商品事業(以下、これらを合わせて「3事業」という。)の状況についてみたところ、表2のとおり、407地方公共団体が553事業を実施しており、これらに要した事業費は計778億5489万余円(交付金交付額計761億2284万余円)となっていた。
表2 3事業の事業数等
事業名 | 事業数 | 事業主体数 | 事業費 | 交付金交付額 |
---|---|---|---|---|
プレミアム付商品券事業 | 414事業 | 393地方公共団体 | 539億2873万余円 | 523億3161万余円 |
ふるさと旅行券事業 | 81事業 | 64地方公共団体 | 192億5334万余円 | 191億4324万余円 |
ふるさと名物商品事業 | 58事業 | 44地方公共団体 | 46億7281万余円 | 46億4799万余円 |
3事業の計 | 553事業 | 407地方公共団体 | 778億5489万余円 | 761億2284万余円 |
3事業ごとに交付金交付額に対して事務費の占める割合(以下「事務費割合」という。)等についてみたところ、次のとおりとなっていた。
プレミアム付商品券事業に対する交付金交付額計523億3161万余円のうち、プレミアム分の助成費用に充当されたのは計430億3498万余円、事務費に充当されたのは計92億9662万余円となっており、プレミアム付商品券事業全体での事務費割合は17.7%となっていた。
また、事務費の内訳について、金額を把握できた費目のうち主なものをみたところ、プレミアム付商品券等の印刷製本費計17億6733万余円(事務費に占める割合19.0%)、金融機関等へ支払った換金手数料計11億9105万余円(同12.8%)、宣伝広告費計10億0221万余円(同10.7%)、人件費計9億0216万余円(同9.7%)となっていた。
ふるさと旅行券事業に対する交付金交付額計191億4324万余円のうち、割引分等の助成費用に充当されたのは計144億4091万余円、事務費に充当されたのは計47億0232万余円となっており、ふるさと旅行券事業全体での事務費割合は24.5%となっていた。
また、事務費の内訳について、金額を把握できた費目のうち主なものをみたところ、宣伝広告費計20億9736万余円(事務費に占める割合44.6%)、人件費計5億0053万余円(同10.6%)、印刷製本費計1億2855万余円(同2.7%)となっていた。
ふるさと名物商品事業に対する交付金交付額計46億4799万余円のうち、割引分等の助成費用に充当されたのは計30億1851万余円、事務費に充当されたのは計16億2948万余円となっており、ふるさと名物商品事業全体での事務費割合は35.0%となっていて、プレミアム付商品券事業及びふるさと旅行券事業より高くなっていた。
ふるさと名物商品事業58事業のうち、事務費のみに緊急支援交付金を充当した1事業(事業費1,523,976円。交付金交付額同額)を除いた57事業について、事務費割合別の事業数をみたところ、事務費割合が50%未満のものが33事業(57事業に占める割合57.8%)、50%以上のものが24事業(同42.1%)となっており、このうち70%以上のものも14事業(同24.5%)あった。
また、事務費の内訳について、金額を把握できた費目のうち主なものをみたところ、宣伝広告費計6億5792万余円(事務費に占める割合40.3%)、人件費計2億4260万余円(同14.8%)、印刷製本費計8809万余円(同5.4%)となっていた。
上記事務費のうち主なものについて3事業間で比較すると、事務費に占める印刷製本費の割合は、プレミアム付商品券事業19.0%、ふるさと旅行券事業2.7%、ふるさと名物商品事業5.4%となっていて、プレミアム付商品券事業において割合が高くなっていた。また、事務費に占める宣伝広告費の割合は、プレミアム付商品券事業10.7%、ふるさと旅行券事業44.6%、ふるさと名物商品事業40.3%となっていて、ふるさと旅行券事業及びふるさと名物商品事業において割合が高くなっていた。
プレミアム付商品券の発行額、販売済額等についてみたところ、前記の414事業全体では、発行額計2643億3520万余円、販売済額計2642億2903万余円となっており、このうち商品等の購入に利用され換金された額(以下「利用額」という。)は、計2632億3914万余円(注3)(利用率(注4)99.5%)となっていた。
また、プレミアム率の設定状況についてみたところ、20%としているものが274事業と最も多く、30%が56事業、10%が37事業、25%が13事業、15%が8事業、40%が3事業となっていた。
そして、プレミアム率と販売済率(注5)及び利用率の状況についてみたところ、販売済率は99.8%及び99.9%、利用率は99.3%から99.7%となっていて、プレミアム率と販売済率又は利用率との関係に一定の傾向は見られなかった。
プレミアム付商品券の利用期限の設定状況についてみたところ、プレミアム付商品券の利用期限の設定が適切でなかったため、消費喚起効果の全てが必ずしも27年度中に発現しないことになり、緊急経済対策の速やかかつ着実な実施を図ることを目的としている緊急支援交付金の趣旨に沿っていない事例が見受けられた。
プレミアム付商品券の初回販売時の販売方法についてみたところ、前記414事業のうち、先着順が208事業と最も多く、予約抽選制が132事業、1人当たりの購入数量を調節するなどしていたものが55事業等となっていた。
次に、プレミアム付商品券の購入限度額の設定状況についてみると、前記414事業のうち413事業で購入限度額を設けており、1事業で購入限度額を設けていなかった。そこで、特に先着順で販売していた208事業について購入限度額が設けられているかをみたところ、購入限度額を設けていた事業は207事業あった。そして、この207事業における購入履歴の把握及び記録の状況をみたところ、購入履歴を記録していたものは123事業、このうち購入履歴をデータベース化していたものは34事業であったが、これを利用して複数の販売所において購入限度額以内の購入かどうかを確認できるようにしていたものは4事業のみとなっていた。一方、購入限度額を設けたものの、購入履歴を把握していなかったものが84事業あり、これらの事業では、購入限度額以内の購入かどうかを確認できるようになっていなかった。
先着順で販売し、購入限度額を設けていた207事業のうち、本人に代わってプレミアム付商品券を購入する代理購入を認めていたものが51事業あり、このうち27事業については委任の状況を確認する体制がとられていなかった。そして、この27事業について代理できる人数を制限しているかをみたところ、代理できる人数を制限しているものが5事業、制限していないものが22事業となっていた。
上記のように、特に先着順による販売では、購入限度額以内の購入かどうかを確認できるようになっていなかったり、委任の状況を確認する体制がとられておらず人数の制限のない代理購入が認められたりしている事業の場合、特定の者が購入限度額を超えて多額のプレミアム付商品券を購入することが可能となり、国の緊急支援交付金を原資とする支援が特定の者に集中することになって、公平性の面で問題が生ずる可能性もある。
プレミアム付商品券の店舗別の利用額を把握していた308事業について店舗別の利用状況をみたところ、プレミアム付商品券の取扱店舗として登録されていたのは計214,356店舗、このうち実際にプレミアム付商品券の利用があったのは計154,135店舗であった。また、50店舗以上で利用実績がある事業において、利用額の多い上位5店舗の利用額の合計が事業における総利用額の5割を超える事業も複数あり、事業によってはプレミアム付商品券の利用が集中する店舗も見受けられた。
上記店舗別の利用額を把握していた308事業(利用額計2131億5626万余円)について、日常生活用品の取扱いが多い食品スーパー、ドラッグストア及びコンビニエンスストアでの利用額をみると、それぞれ計790億2526万余円(308事業全体の利用額に占める割合37.0%)、計122億8462万余円(同5.7%)及び計24億2009万余円(同1.1%)となっていた。
そして、本院が、プレミアム付商品券により購入された商品・サービスの内容を確認するために、248地方公共団体に対してプレミアム付商品券の取扱店舗の一部への聞き取り調査等を依頼して、その回答により確認できた範囲では、プレミアム付商品券の一部が自動車の車検費用、プロパンガスの使用料、医療保険の適用のある診察料や薬代の自己負担分、司法書士等への報酬、家賃や月極め駐車場代等の支払に利用されていた事態が見受けられた。
これらの事態は、新規の消費喚起を推進することを目的とした緊急支援交付金の趣旨に沿っていないものと考えられる。
内閣府は、たばこの小売販売は、法律上、小売定価以外による販売が禁止されていることから、プレミアム付商品券の利用対象に含めることができないなどとしている。しかし、前記248地方公共団体の聞き取り調査等によれば、8地方公共団体でプレミアム付商品券がたばこの購入に利用されていた事態が見受けられた。
プレミアム付商品券の利用限度額についてみたところ、46事業においては1回の支払におけるプレミアム付商品券の利用限度額を設けていたが、368事業においては1回の支払における利用限度額を設けていなかった。
そして、高額な商品に対するプレミアム付商品券の利用状況についてみたところ、前記248地方公共団体の聞き取り調査等によれば、1回の支払における利用限度額を設けていなかった33地方公共団体では、1回の支払で100万円以上のプレミアム付商品券が利用されたとされており、これらの中には、1回の支払で数百万円から1千万円を超える額のプレミアム付商品券が利用されている事態も見受けられた。これらの支払で購入された商品・サービスの内容をみると、自動車が多く、次いで住宅リフォームとなっていた。
ふるさと旅行券事業における旅行商品等の販売方法についてみたところ、主なものとして、コンビニエンスストアに設置されている端末等で、宿泊券を助成額分割り引いて販売するなどして、利用者が購入した宿泊券を宿泊施設での支払の際に利用することで宿泊費の割引が受けられるなどとしているもの(以下「実券発行」という。)が39事業で採用されていた。
前記の81事業における割引分の助成費用について、実施計画上の額と実績額(注6)を確認したところ、81事業全体の実施計画上の額は計150億3481万余円であるのに対して実績額は計144億4984万余円となっており、実施計画上の額に対する実績額の割合(以下「計画実績比」という。)は96.1%となっていた。事業別の計画実績比をみると、計画実績比が50%以上のものが74事業、計画実績比が50%未満のものが7事業となっていた。
地方公共団体が行う緊急支援交付金事業の効果検証の中で報告されたふるさと旅行券を利用した宿泊者のうち初めて当該宿泊施設に宿泊したなどの新規顧客の割合についてみたところ、前記81事業のうちこれを把握していた75事業では平均で43%程度となっていた。
また、緊急支援交付金事業は新規の消費喚起を目的としていることから、上記効果検証の報告により、出張等の仕事での利用者の割合についてみたところ、同割合について把握していた72事業のうち、60%となっているものが1事業見受けられた。
ふるさと名物商品事業における割引販売の方法についてみたところ、主なものとして、ふるさと名物商品をウェブサイト上で助成額分割り引いて販売するウェブサイト販売が41事業で採用されていた。
前記57事業の割引分の助成費用について、実施計画上の額と実績額を確認したところ、57事業全体の実施計画上の額は計38億5974万余円であるのに対して実績額は計30億2231万余円となっており、計画実績比は78.3%となっていて、前記のふるさと旅行券事業81事業全体の計画実績比96.1%に比べて低くなっていた。事業別の計画実績比をみると、計画実績比が50%以上のものが36事業、50%未満のものが21事業となっていた。計画実績比が50%未満である21事業のうち17事業は事務費割合が50%を超えており、このうち事務費割合が70%を超えていたものが14事業あった。ふるさと名物商品事業の事務費については、商品の販売が実施計画での想定より低調となったが、商品の販売状況によらず支払額が固定している宣伝広告費等があるため、相対的に事務費割合が高くなってしまっているものもあると考えられる。そして、ふるさと名物商品の販売が低調であったため結果として事務費割合が高くなっていた事業も見受けられた。
なお、実店舗での販売を行った事業は、実店舗での販売を行わなかった事業と比べて計画実績比が高い傾向となっていた。
このほか、地方公共団体が委託により実施しているふるさと名物商品事業(以下「委託事業」という。)についてみたところ、委託先の団体が、委託事業と委託事業以外に当該団体が行っている事業(以下「自主事業」という。)を一体的に行っているにもかかわらず、委託事業と自主事業の間で人件費を適切に案分していなかったため、緊急支援交付金が緊急支援交付金事業以外の経費に充当されていた事例が見受けられた。
プレミアム付商品券、実券発行により発行されたふるさと旅行券及びふるさと名物商品の購入に利用できる商品券については、販売されても最終的に消費者に利用されずに換金されないものもあり、プレミアム付商品券等を消費者に販売した際の販売代金のうち未換金相当分は、プレミアム付商品券等の発行者である商工会等に残ることになり、これが余剰金となる。これについて、内閣府は、28年2月に地方公共団体に対して発出した「地域活性化・地域住民生活等緊急支援交付金(地域消費喚起・生活支援型)における余剰金等の扱いについて」の事務連絡において、「余剰金については、本交付金によるものではなく、地域住民等購入・利用者の負担によって発生していることから、国に返納を求めるものではありません。ただし(中略)国民に理解の得られるよう適切な取扱を願います。」としている。
前記のプレミアム付商品券事業414事業で事業終了時に余剰金が生じていたものは408事業計4億9187万余円となっており、当該余剰金の処理状況についてみたところ、事業費全体の収支の中で精算しているものが137事業(計1億5642万余円)、地域住民等のための事業費として活用したものが65事業(計7782万余円)ある一方で、地方公共団体に留保しているものが81事業(計1億3356万余円)、補助先に留保しているものが114事業(計1億1641万余円)、委託先に留保しているものが11事業(計765万余円)あった。
また、ふるさと旅行券事業で事業終了時に余剰金が生じていたものは30事業計6790万余円、ふるさと名物商品事業で事業終了時に余剰金が生じていたものは11事業計1193万余円となっており、余剰金は3事業全体で計5億7171万余円となっていた。
162地方公共団体における生活支援型事業250事業(事業費計135億1743万余円、交付金交付額計112億2820万余円)の実施状況についてみたところ、次のとおりとなっていた。
上記250事業のうち、低所得者、子育て世帯等への支援として商品券を給付する事業(以下「低所得者等商品券事業」という。)を実施しているものは140事業となっていた。
そして、事業の実施方法についてみたところ、地域消費喚起型事業において販売されたプレミアム付商品券や既存の商品券を地方公共団体が購入したり、地方公共団体が当該事業のための新たな商品券を発行したりするなどして、これらの商品券を無償で給付していた。
前記の140事業について、低所得者等に給付した商品券の利用状況についてみたところ、給付した商品券の利用実績を把握していたものが113事業、利用実績を把握していなかったものが14事業等となっていた。
上記の14事業には、利用期限が設定されていない又は28年度以降に設定されている既存の商品券を購入して給付しているものなどがあり、給付した商品券の券面額や給付するために購入した商品券の券面額を交付対象としていた。これらの事業について利用実績をみたところ、27年度中に商品券が利用されなかったものも見受けられ、これらの事業に係る消費喚起効果は、その全てが必ずしも27年度中に発現しないものとなっており、緊急経済対策の速やかかつ着実な実施を図ることを目的としている緊急支援交付金の趣旨に沿っていないものとなっていた。
また、緊急支援交付金で購入したプレミアム付商品券のうち対象者に給付しなかった分で地方公共団体の備品を購入していた事例が見受けられた。
前記250事業のうち、アの事業を除く第3子以降の保育料の減免等を実施しているなどの110事業の実施状況についてみたところ、緊急支援交付金事業として実施したものと同じ事業を26年度以前においても毎年度地方単独事業として実施していて、27年度に緊急支援交付金の交付がなくても一般財源により当該事業を実施したとするものが39事業となっていた。このうち、26年度以前から実施していた事業と同規模のものが29事業となっており、これらは、26年度以前に地方単独事業として実施していたものの財源を、地方公共団体の一般財源から緊急支援交付金に変更したものにすぎないものとなっていた。
地域消費喚起型事業のうち、最も多くの地方公共団体において実施されたプレミアム付商品券事業の効果検証の実施状況についてみたところ、次のような事態が見受けられた。
プレミアム付商品券事業414事業のうち410事業における消費喚起効果の測定に係る消費者向けのアンケートの実施状況についてみたところ、内閣府が示したアンケートのひな形において「商品券の利用期間が残っていますので、予定を含めてお答えください」としていることもあり、実績に基づかない今後の利用予定も含めて回答させているものが247事業(60.2%)となっていた。
これらの247事業においては、消費者がアンケートに記載された利用予定のとおりにプレミアム付商品券を利用しなかった場合には、実際に生じた消費喚起効果を集計できていないことになる。
また、内閣府は、地方公共団体に対して、消費者向けのアンケートの実施に当たっては、原則として最低300の有効回答を確保するよう努めることを求めているが、回収したアンケートのうち有効回答として取り扱うことのできる基準については特段示していない。
そこで、各地方公共団体において、集計対象とする有効回答として取り扱う基準の状況を確認したところ、一部の質問において無回答のものや各質問項目間の回答の整合がとられていないものについては不備な回答として集計対象としていない地方公共団体がある。一方、購入した商品券の数量(金額)を商品券での支払額の計が上回っているものなど、各質問項目間で整合がとられていない回答も集計対象としている地方公共団体が見受けられており、アンケート結果の集計対象とする有効回答を選別するための取扱いが地方公共団体により異なっていて、集計データの均質化が図られていないことになり、消費喚起効果を正確に把握することができない状況となっていた。
また、アンケート項目の設定が適切でなく、新規の消費喚起効果額の把握が困難と考えられる事例が見受けられた。
低所得者等商品券事業のうち地方公共団体が商品券の利用実績を把握していない事業において、利用実績に基づく消費喚起効果額ではなく、給付した商品券の券面額や給付するために購入した商品券の券面額を直接的な消費喚起効果額として報告しているものが見受けられた。これらの事業においては、給付した商品券が必ずしも27年度中に利用されたとは限らないことから、実際に生じた消費喚起効果を集計できていないことになる。
国は、26、27両年度に、地方公共団体が緊急経済対策に対応し、地域における消費喚起やこれに直接効果を有する低所得者等への生活支援を推進するための事業に要する費用に対して緊急支援交付金を交付しており、その額は多額に上っている。そして、地域における消費喚起のための事業においては、新規の消費が喚起されることが重要であり、また、地域における消費喚起効果等についての適切な検証が重要となっている。
そこで、緊急支援交付金事業は制度要綱等の趣旨に沿って適切かつ効率的、効果的に実施されているか、効果検証として行われる消費喚起効果の測定は適切に実施されているかなどに着眼して検査したところ、次のような状況が見受けられた。
ア 事務費割合は、プレミアム付商品券事業17.7%、ふるさと旅行券事業24.5%、ふるさと名物商品事業35.0%となっており、ふるさと名物商品事業では事務費に充当された緊急支援交付金の割合が他の事業より高くなっていた。
イ プレミアム付商品券事業については、プレミアム付商品券の利用率は全体で99.5%となっており、プレミアム率と利用率等との関係に一定の傾向は見られなかった。207事業においては購入限度額を設けた上で先着順で販売していたが、これらのうち購入限度額以内の購入かどうかを確認できるようになっていなかったものが多数見受けられた。また、プレミアム付商品券が新規の消費喚起を推進することを目的とした緊急支援交付金の趣旨に沿っていないものと考えられる自動車の車検費用やプロパンガスの使用料等の支払に利用されていた事態、1回の支払における利用限度額を設けていなかった33地方公共団体において一部の利用者がプレミアム付商品券を大量に入手して高額な商品の購入に充てていた事態等も見受けられた。
ウ ふるさと旅行券事業については、計画実績比は全体として96.1%となっていた。また、出張等の仕事での利用者の割合が60%となっていた事業も見受けられた。
エ ふるさと名物商品事業については、計画実績比は全体として78.3%とふるさと旅行券事業より低くなっており、中には、ふるさと名物商品の販売が低調であったため結果として事務費割合が高くなっていた事業も見受けられた。また、自主事業分の人件費に対して緊急支援交付金が充当されていた事例も見受けられた。
オ プレミアム付商品券等の販売代金のうち未換金相当分である余剰金は3事業全体で計5億7171万余円となっており、地方公共団体や補助先等に留保されているものもあった。
カ 生活支援型事業のうち低所得者等商品券事業で、27年度における利用実績が把握できなかったり、利用期限が設定されていない商品券を給付したため消費喚起効果の全てが必ずしも27年度中に発現しないものとなっていたりしているものや、その他の生活支援型事業で、26年度以前においても毎年度地方単独事業として実施していたものを緊急支援交付金事業として実施していた事態が見受けられた。
キ 効果検証として行われる消費喚起効果の測定のためのプレミアム付商品券事業に係る消費者向けのアンケートにおいて、アンケート結果の集計対象とする有効回答を選別するための取扱いが地方公共団体により異なっていたり、アンケート項目の設定が適切でなかったりなどしていて、消費喚起効果を正確に把握することができないなどの状況が見受けられた。
緊急支援交付金は、緊急支援交付金事業の実施方法等について地方公共団体の裁量に委ねると同時に、事業・施策の実施責任を求めることが特徴とされており、緊急支援交付金事業の効果検証等を行うことが求められている。
ついては、内閣府において、緊急支援交付金事業の効果について検証を行うとともに、今後同種の地域における消費喚起やこれに直接効果を有する生活支援を目的とする事業を実施する地方公共団体が負担する費用に対して支援を行う場合には、緊急支援交付金事業の実施結果を踏まえ、各地方公共団体の裁量を尊重しつつも、事業の実施に当たり、次の事項について、より具体的な方策を地方公共団体に対して示すなどして、地域における消費喚起等の推進に向けた事業が適切かつ効率的、効果的に実施されるよう、的確に支援を実施していくことが重要である。
本院としては、これまで数年度にわたり経済危機対策等に対応して地方公共団体が実施する事業に対して地域活性化等を目的とした交付金が交付されてきたことを踏まえて、今後、地方公共団体が実施する地域における消費喚起やこれに直接効果を有する生活支援を目的とする事業に要する費用に対して国が交付金を交付する際には、その実施状況について注視していくこととする。