我が国における科学技術(人文科学のみに係るものを除く。以下同じ。)の振興に関する施策は、科学技術基本法(平成7年法律第130号)に基づいて行われており、同法において、国は、科学技術の振興に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、科学技術の振興に関する総合的な施策を策定し、及びこれを実施する責務を有するとされている。
政府は、同法において、科学技術の振興に関する基本的な計画(以下「基本計画」という。)を策定しなければならないとされており、基本計画を策定するに当たっては、あらかじめ、内閣府設置法(平成11年法律第89号)に基づいて内閣府の「重要政策に関する会議」の一つとして設置されている総合科学技術・イノベーション会議(平成26年5月18日以前は総合科学技術会議。以下「CSTI」という。)の議を経なければならないとされている。
基本計画には、研究開発(基礎研究(注1)、応用研究(注2)及び開発研究(注3)をいい、技術の開発を含む。以下同じ。)の推進に関する総合的な方針等を国が定めることとされており、23年度から27年度までを計画期間とする第4期基本計画(平成23年8月閣議決定)によれば、科学技術イノベーション(注4)に係る政策の一体的展開等を科学技術政策の基本方針とし、計画期間中の政府としての研究開発に対する投資額を対GDP比率1%、総額約25兆円にすることを目指すこととされている。
我が国の科学技術政策は、科学技術政策の司令塔として我が国全体の科学技術を俯瞰(ふかん)し、各府省等より一段高い立場から科学技術の総合的かつ計画的な振興を図るための基本的な政策の企画立案及び総合調整を行うCSTI、科学技術の振興に関する施策を実施する各府省等、各府省等から研究開発に対する投資を受けるなどして研究開発を実施する国立研究開発法人、国立大学法人等の大学、民間企業等の研究開発の実施主体により実施されている。
CSTIは、内閣総理大臣等の諮問に応じて、科学技術の総合的かつ計画的な振興を図るための科学技術に関する予算(以下「科学技術関係予算」という。)等の資源の配分の方針その他科学技術の振興に関する重要事項等について調査審議することなどを所掌事務としている。
CSTIは、重点を置くべき取組、科学技術関係予算の配分方針等について調査審議を行い、科学技術イノベーション総合戦略(以下「総合戦略」という。)を策定し、内閣総理大臣に対して答申している。具体的には、各府省等が行う次年度の予算の概算要求に先立ち、各府省等が概算要求に向け構想している施策内容を聴取した上で、各施策間の重複排除、連携強化等の調整を行い、総合戦略に定める「重きを置くべき取組」の達成に大きく貢献する施策について、「重きを置くべき施策」として特定している。また、府省等の枠を超えた取組に対しCSTIが自らの予算を各府省等に配分し、研究開発の進捗管理等を行う「戦略的イノベーション創造プログラム」(以下「SIP事業」という。)を26年度予算から創設するなどしている。そして、CSTIは、各府省等に対して、科学技術関係予算に係る概算要求予算額等の調査を行い、その状況を取りまとめて公表している。
各府省等別の科学技術関係予算は、一般会計及び特別会計を合わせて26年度3兆6513億余円、27年度3兆4776億余円となっている。この科学技術関係予算のうち、主に、科学技術に関し研究開発を行うべき個別課題(以下「研究開発課題」という。)を決定し、実施する事業(以下「研究開発事業」という。)に要する経費(運営費交付金のうち、あらかじめ研究開発事業を行うものとして算定されている額を含む。以下「研究開発事業経費」という。)は、26年度計8286億余円(3兆6513億余円の22.6%)、27年度計8206億余円(3兆4776億余円の23.5%)となっている。
CSTIは、科学技術関係予算のうち、研究開発課題等を公募し、競争的資金(注5)等の研究開発の資金を研究者等に配分する制度(以下「公募型研究資金制度」という。)に関して、研究開発事業を実施する府省等に毎年度依頼し、府省を超えた国全体の公募型研究資金制度における資金の配分状況を分析し、科学技術関係予算の適切な配分の検討に資するために、研究開発課題ごとの研究内容、研究分野、実施する研究者、配分金額等の資金の配分状況に係る情報の提供を、各府省等から受けることとしている。そして、この情報提供は、文部科学省が主担当としてシステムの保守及び運用を担い、20年1月から運用を開始しているシステム(18年度から27年度までの間の開発・運用経費43億余円)である府省共通研究開発管理システム(以下「e―Rad」という。)を通じて行われることとなっている。
各府省等が基本計画、総合戦略等に基づき実施している研究開発事業は、その実施体制により、主として次の2種類に区分される。
上記の資金配分事業には、競争的資金の配分を行う制度(以下「競争的資金制度」という。)が含まれる。競争的資金制度では、同制度を実施する府省等が申し合わせて、公募方法等に関するルールの共通化を図っている。また、競争的資金の配分に当たり、基本計画によれば、研究費の有効活用のため、不合理な重複(注6)及び研究者個人の適切なエフォート(注7)を超えた過度の集中(注8)の排除を徹底する必要があることとされている。そして、資金配分機関は、資金配分の不合理な重複及び過度の集中を避けるため、研究機関に研究者のエフォートの管理の徹底を求めるとともに、e―Radを運用して競争的資金を適切かつ効率的に執行することとされている。
研究開発事業を実施しているのは内閣府等の10府省等(注9)であり、26、27両年度に10府省等が実施した研究開発事業の予算額の純計は計1兆7420億余円(26年度9163億余円、27年度9177億余円)となっている。そして、このうち約8割に相当する計1兆4183億余円(26年度7366億余円、27年度7349億余円)が資金配分事業に充てられており、各府省等の研究開発事業は主に資金配分事業となっている。
研究開発の評価は、各期の基本計画に基づいて国の研究開発全般に共通する評価の指針が定められており、その指針によれば、研究開発課題の評価はその実施時期により区分され、そのうち、事後評価は、研究開発課題の終了時に、目標の達成状況、成果の内容等を把握し、その後の研究開発課題の発展への活用等を行う終了時の評価とされている。
研究開発課題を実施する研究機関等は、研究開発を実施することにより得られた新しい技術、知見等の内容を権利化し、実用化に確実につなげることなどのために、自らの判断により、所属する研究者が職務上生み出した発明、考案、植物新品種、意匠等(以下「発明等」という。)について、研究者が有する特許等を受ける権利を承継するなどしてから特許出願等を行い、知的財産権(注10)を取得している。研究開発の成果として主に権利化されているものは特許権、実用新案権、育成者権及び意匠権(以下「特許権等」という。)である。国が特許権等を取得した場合は、国有財産法(昭和23年法律第73号)等によれば、国有財産として国有財産台帳に登録して管理することとされている。
そして、国の資金を原資とする委託契約による研究開発については、研究機関等において、発明等へのインセンティブを増加させ、研究開発活動を活性化するとともに、研究開発の成果の効率的な活用・普及を促進するために、産業技術力強化法(平成12年法律第44号)第19条の規定により日本版バイ・ドール制度が導入されている。この制度は、従来は委託者である国等に帰属することとしてきた研究開発の成果に係る特許権等を、一定の事項について受託者である研究機関等が約した場合に、国等が受託者から譲り受けないことが可能となっている。
我が国は、科学技術創造立国を目指して科学技術の振興を強力に推進していくために、8年度から基本計画に基づいて各種の科学技術施策を実施しており、多額の科学技術関係予算を毎年度投入し、近年は、CSTIの司令塔機能の強化、総合戦略の策定等が行われている。このような状況の下、研究開発事業を実施する各府省等においては、引き続き、第5期基本計画(平成28年1月閣議決定)に基づき、優れた研究開発を効果的・効率的に推進すること、また、科学技術政策の司令塔であるCSTIにおいては、科学技術関係予算の適切な配分の検討に資する情報を適切に収集し科学技術政策の司令塔機能の強化に努めることが重要である。
そこで、本院は、各府省等における研究開発事業の実施状況等について、正確性、合規性、経済性、効率性、有効性等の観点から、次の点に着眼して検査した。
ア 研究開発事業経費の執行、配分等の状況、特に研究開発事業経費の執行状況等はどのようになっているか。また、CSTIは、科学技術関係予算の適切な配分の検討に資する情報を適切に収集しているか。
イ 実施する研究開発課題等は適切に決定されているか。特に、資金配分事業において、研究開発課題等の決定に当たり、e―Radを活用するなどして審査が適切に行われているか。
ウ 研究開発はその進捗状況に応じ、適切に評価が行われているか。また、研究開発は所期の目標が達成されているか。
エ 研究開発の成果は、適切に活用が図られるなどしているか。特に、日本版バイ・ドール制度は適切に運用されているか。特許権等は国有財産台帳に適正に登録されているか。
26、27両年度に10府省等が実施した研究開発事業計515事業(注11)を検査の対象とした。研究開発の成果の活用等のうち特許権等の状況については、27年度以前に実施した事業により10府省等及び資金配分先が28年4月1日時点で取得等をしていた特許権等を、また、研究開発の評価のうち、CSTIが実施する評価については、文部科学省、厚生労働省、農林水産省及び経済産業省が15年度から25年度までの間に実施し、CSTIが26、27両年度に事後評価を行った6事業を検査の対象とした。
検査に当たっては、研究開発事業の実施状況等について、10府省等及び資金配分機関である6法人(注12)から調書及び資料を徴し、在庁して分析等するとともに、関係府省等及び関係法人において、関係資料の提出や説明を受けたり、現地に赴いて確認したりなどして会計実地検査を行った。また、資金配分先である14法人(注13)において、資金配分事業による研究開発の成果の活用等の状況について会計実地検査を行った。
CSTIは、一部の事業を除き、調査審議等の対象が主に科学技術関係予算等の資源の配分が中心となっていることなどから、科学技術関係予算に対応する支出額、翌年度繰越額、不用額等の研究開発事業経費の執行状況を統一的に把握していないとしていた。各府省等においても、科学技術関係予算が自らの府省等の予算のうち科学技術に関するもののみを整理したものであり、予算の執行上管理しているものではないことなどから、研究開発事業経費の執行額を算出することとはしていないとしていた。そこで、26、27両年度に実施した研究開発事業計515事業における支出額、翌年度繰越額、不用額等の研究開発事業経費の執行状況を整理すると、支出額は計1兆6689億余円(26年度401事業7986億余円、27年度389事業8702億余円)、翌年度繰越額は26年度920億余円、27年度264億余円、不用額は26年度255億余円、27年度210億余円となっていた。また、研究開発事業における支出額全体の81.7%が資金配分事業によるものとなっていた。
CSTIの研究開発事業経費の執行状況の情報の把握をみると、自ら進捗管理等を行っているSIP事業計25事業(515事業の4.9%、支出額計511億余円)については執行状況を把握していた。しかし、SIP事業を除く計490事業(同95.1%、同1兆6177億余円)については、予算等に係る情報のみを把握することとしており、支出額、翌年度繰越額、不用額等の研究開発事業経費の執行状況の情報を把握することとしていなかった。
このため、CSTIは、翌年度繰越額に基づく事業の進捗状況の分析や、不用額に基づく予算の見積額の適否等の分析を行うことができないことから、CSTIが収集している情報は科学技術関係予算全体の適切な配分の検討に十分資するものとなっていないおそれがある。
公募型研究資金制度における研究開発の資金の配分状況に係る情報として、資金配分機関は、当年度の各研究開発事業に係る情報について、翌年度の7月末までにe―Rad上でCSTIへの提供を承認する手続(以下「開示承認手続」という。)を行うこととなっている。そこで、開示承認手続の実施状況をみると、26年度に実施した競争的資金制度に係る研究開発事業128事業に関するe―Rad上の事業の区分である136区分について、CSTIの依頼に基づいて27年7月末(開示承認手続を行う期限である翌年度の7月末)までに開示承認手続を行っていたものは、7区分(136区分の5.1%)にとどまり、大部分の事業では期限内に開示承認手続が行われていなかった。このうち、期限の1年後である28年7月末までに開示承認手続が行われていない区分は22区分(同16.1%)となっており、厚生労働省に多く見受けられた。このため、公募型研究資金制度における研究開発の資金の配分状況の分析等に必要な情報が適時適切にe―Radを通じてCSTIに提供されていない状況となっていた。
26、27両年度に研究開発課題を新規採択した研究開発事業342事業における研究開発課題等の公募の実施状況をみると、資金配分事業328事業については、308事業(328事業の93.9%)において公募により研究開発課題等が決定されていた。一方、直接実施事業14事業については、14事業全てにおいて公募によらず各府省等の評価委員会等を経て研究開発課題等が決定されていた。
資金配分機関は、応募された研究開発課題の採択結果をその公開日までに、交付・配分決定の情報を採択結果のe―Rad上での公開日から原則として1か月以内等までに、それぞれe―Radに登録することとなっている。
なお、科学研究費助成事業(以下「科研費事業」という。)では、公募等による応募、交付・配分決定等に係る申請の受付について、独立行政法人日本学術振興会(以下「JSPS」という。)が運用している科研費事業の申請手続等のための科研費電子申請システム(以下「科研費システム」という。)を利用している。このため、科研費システムに登録された科研費事業の研究開発課題等に関する情報については、文部科学省が特定の時期に一括してe―Radに登録して、e―Radを通じて他の資金配分機関に提供され、活用されることとなる。
そこで、26年度に実施された競争的資金制度に係る研究開発事業128事業について資金配分機関による採択結果及び交付・配分決定の情報のe―Radへの登録状況をみると、採択結果の情報については、登録の対象となるe―Rad上の事業の区分計120区分のうち、期限までに登録されていたものは23区分(120区分の19.1%)にとどまっており、大部分の事業の区分で登録が遅れるなどしていた。このうち、登録することとされている期限から1年以上経過した28年7月末においても全ての情報が登録されていなかったものが12区分(同10.0%)となっており、厚生労働省に多く見受けられた。
また、交付・配分決定の情報については、登録の対象となるe―Rad上の事業の区分計138区分のうち、期限までに登録されていたものは、21区分(138区分の15.2%)にとどまっており、大部分の事業の区分で登録が遅れるなどしていた。このうち、登録することとされている期限から1年以上経過した28年7月末においても全ての情報が登録されていなかったものが28区分(同20.2%)となっており、厚生労働省に多く見受けられた。
このように、資金配分機関による採択結果及び交付・配分決定の情報のe―Radへの登録が遅れるなどしているため、資金配分機関は、研究開発課題等の決定に当たり行うこととされている不合理な重複及び過度の集中の排除にe―Radを十分に活用できない状況となっていた。
e―Radを利用している事業については、応募もe―Rad上で受付が行われ、採択結果及び交付・配分決定の情報の入力もその都度行われている。
また、研究者、研究機関等は、エフォートの管理を徹底することとされており、研究開発課題の採択の可否、研究計画等の変更により、エフォートが変更となる場合には、研究者、研究機関等は資金配分機関に対して変更の届出を行って、e―Rad上のエフォートを変更する必要がある。そして、e―Rad上ではエフォートの合計値が100%以下でなければ採択等の処理ができないこととなっている。
そこで、e―Radを通じてCSTIに提供された26年度のエフォートの情報について、エフォートの変更がある場合は適時に修正され適切なエフォートが登録されて、研究者のエフォートの合計値が100%以下となっているかをみたところ、研究者117人のe―Rad上のエフォートの合計値が100%を超えていて、当該研究者に係る研究開発課題494件(研究開発の資金の配分金額計23億余円)のe―Rad上のエフォートは、適切なものとなっていなかった。そして、117人の研究者の研究開発課題をみると、全ての研究者において科研費事業の研究開発課題が含まれていた。
このような事態が生じていたのは、各研究者において、各研究開発課題の応募の際に適切なエフォートが登録されていなかったこと、採択時又は採択後、e―Rad上でのエフォートの変更の届出を行っていなかったことにもよるが、①各資金配分機関において、研究開発課題ごとのエフォートの確認が十分でなかったこと、②JSPSにおいて、研究者のエフォートの合計値が100%以下となっているかの確認が十分でなかったこと、③文部科学省において、科研費事業の研究開発課題等に関する情報を、e―Radに一括して登録する際に、研究者のエフォートの合計値が100%以下となっているかの確認が十分でなかったことによると認められた。当該研究者のエフォートについては、既に中止又は廃止された研究開発課題等に係る情報がe―Radに登録されたままとなっていたことなどにより、エフォートの合計値が100%を超えていたものであり、結果的には当該研究者は過度の集中に該当する者ではなかった。
このように、過度の集中の有無の確認に必要な情報が、正確に他の資金配分機関に提供されておらず、e―Radは、資金配分機関における研究開発課題等の決定に当たり、過度の集中の有無の確認に活用し過度の集中を排除することを支援するという本来の機能を十分発揮していない状況となっていた。
26、27両年度に実施された研究開発事業515事業のうち、26、27両年度に事後評価を実施した研究開発課題がある事業は、26年度146事業、27年度112事業となっていた。事後評価においては、研究開発課題の目標の達成度合等に応じて、評価結果を点数で評価する基準点、または、A、B、C等の段階で評価する基準段階を設定して、研究目標が達成されたとされる基準点以上又は基準段階以上を合格として評価する場合がある。上記の事業における研究開発課題26年度2,508件、27年度1,560件のうち、研究目標が達成されたとされる場合の基準点又は基準段階が設定されていた研究開発課題26年度1,786件、27年度859件についてみると、基準点又は基準段階以上の研究開発課題は、26年度1,758件(1,786件の98.4%)、27年度844件(859件の98.2%)となっていて、大部分の研究開発課題が研究目標を達成したとしていた。
そして、基準段階未満となった研究開発課題が見受けられた9事業の状況をみると、基準段階未満となったのは、全研究開発課題1,064件のうちの43件であり、全研究開発課題の大部分を占める残りの1,021件(1,064件の95.9%)は基準段階以上となっていたことから、目標を達成したとしていた。
また、この9事業のみが基準段階以上と未満の両方の評価ができた理由は、全て応用研究又は開発研究を対象に含む研究開発事業であり、事業計画書等において研究開発の実施予定項目とその達成すべき目標が実施予定時期と関連付けられて設定されていたことから、目標の達成度合が明確に判定できたと考えられる。
直接実施事業を実施する6省等(11部局等)(注14)における特許権等の取得及び活用の状況をみると、国内外で特許出願等を行い、28年4月1日時点で979件が登録され、意匠権4件を除き全て特許権となっていた。そして、特許権等の活用の状況は、特許を受けている発明(以下「特許発明」という。)の実施をする権利(以下「実施権」という。)の許諾を行ったものが28件(979件の2.8%)、自ら特許発明を実施しているものが17件(同1.7%)となっていた。また、特許権等979件について、権利の存続期間の満了までの年数は、存続期間が10年以上223件(979件の22.7%)、満了まで5年以上10年未満297件(同30.3%)、5年未満459件(同46.8%)となっていた。我が国における特許権は、権利の存続期間が特許出願の日から20年とされているが、大部分の特許権等が存続期間の満了まで10年未満となっていた。そのような特許権等を多く保有している理由としては、特許権を維持するためには原則として毎年特許料を特許庁に納付する必要があるが、国が保有する特許権は特許料の納付が免除されているため、費用面から活用の見込みなどの維持の要否を判断する必要がないことなどが考えられる。
資金配分機関は、日本版バイ・ドール制度に基づき、研究開発の成果が得られた場合の報告等の義務を資金配分先に課すことを条件として、研究開発の成果に係る特許権等を資金配分先に帰属させる条項(以下「バイ・ドール条項」という。)を委託契約書に設け、資金配分先と委託契約を締結している。そして、研究開発の成果の効率的な活用・普及を促進するためには、資金配分機関において、資金配分先における特許権等の取得及び活用の状況を適切に把握して、その上で、資金配分機関が特許権等の効率的な活用・普及の促進の検討を行う必要がある。そこで、資金配分先14法人のうち、26年度に国の資金を原資とした委託契約の成果について特許権の登録、実施権の許諾、特許権の移転又は廃棄のいずれかを行っていた12法人におけるバイ・ドール条項に基づく報告又は承認の状況をみたところ、4法人は全て適切に報告等を行っていた。しかし、8法人の特許権計203件のうち165件(特許権に係る研究開発を行った委託契約68件、支払額計226億余円)は、資金配分機関への報告が、特許権の登録等から1年以上経過しているのに行われていなかった。このため、資金配分機関は、資金配分先における特許権の取得及び活用の状況を把握できない状況となっていた。
そして、8法人において報告を行っていなかった理由は、バイ・ドール条項に基づく報告義務等がある特許権であることを把握した上での特許権の管理及び法人内の特許権の管理部門と研究開発の実施部門との間の情報共有等が十分でないことによるものが5法人、法人内の特許権の管理部門と研究開発の実施部門との間の情報共有等が十分でないことによるものが2法人、法人においてバイ・ドール条項に基づく報告義務があることについての理解が十分でないことによるものが1法人となっていた。
8法人と委託契約を締結している資金配分機関は、資金配分先向けの説明会を開催するなどして、委託契約の締結時等に資金配分先にバイ・ドール条項に基づく報告等の義務について周知しているとしている。
このように、資金配分機関が周知を行っているにもかかわらず、8法人が、適切に報告等を行っていない状況を踏まえると、資金配分機関において、日本版バイ・ドール制度を適切に運用するために、資金配分先に報告等の義務があることを委託契約の終了時にも周知したり、資金配分先の体制が適切に報告等を行うことができるものとなっているかについて十分確認したりなどする必要があると認められる。
直接実施事業を実施する各府省等において、発明等について所属する研究者から特許等を受ける権利を承継して特許出願等を行う場合には、承継等の手続を定めた職務発明規程を整備するなどして、発明等を行った旨の報告から審査、承継までの一連の手続を明確かつ適切に行う必要がある。そこで、6省等(11部局等)において、23年度から27年度までの間の特許出願等の状況及び特許等を受ける権利の承継手続に係る書類の作成状況をみると、警察庁は、職務発明規程を整備しておらず、承継手続に係る書類を作成していなかったため、承継手続が適切に行われたことが確認できない状況となっていた。
国有財産法等によれば、各府省等はその所属に属する特許権等について、国有財産台帳を備えて管理するとともに、取得、処分等があった場合には、直ちにこれを国有財産台帳に登録することとされている。また、特許権等に係る国有財産台帳価格は、購入価格等の取得価格又は見積価格とすることとされており、見積価格による場合で算定が困難な場合は一旦0円として登録し、実施権の許諾による収入があるなど見積価格の算定が可能となった場合は、年度末に収入額を基に価格改定を行うこととされている。
6省等(11部局等)が保有する特許権等の国有財産台帳への登録状況をみると、警察庁及び厚生労働省は、特許権計26件について、その取得から1年以上経過しているのに、28年4月1日時点で国有財産台帳に登録していなかった(国有財産台帳に登録した後の台帳価格計0円)。また、厚生労働省及び国土交通省は、23年度から27年度までの間に実施権の許諾による収入がある特許権のうち計11件について、年度末に収入額を基に価格改定を行っておらず、28年4月1日時点で0円(誤びゅう訂正後の台帳価格計1309万余円)のままとしていた。
CSTI及び各府省等において、一部の事業を除き、研究開発事業経費の執行状況を把握することとはしていないため、26、27両年度に実施した研究開発事業計515事業について整理すると、支出額は26年度401事業7986億余円、27年度389事業8702億余円、翌年度繰越額は26年度920億余円、27年度264億余円、不用額は26年度255億余円、27年度210億余円となっていた。また、研究開発事業における支出額全体の81.7%が資金配分事業によるものとなっていた。
また、CSTIが研究開発事業515事業の研究開発事業経費の執行状況を把握しているかをみると、計490事業(515事業の95.1%、支出額計1兆6177億余円)については把握することとしていなかった。そして、資金配分機関におけるe―Rad上の開示承認手続が期限内に行われないなどしているため、公募型研究資金制度における研究開発の資金の配分状況の分析等に必要な情報が適時適切にCSTIに提供されていない状況となっており、厚生労働省において28年7月末においても開示承認手続が行われていない区分が多く見受けられた。
資金配分機関による採択結果及び交付・配分決定の情報のe―Radへの登録が遅れるなどしているため、資金配分機関は研究開発課題等の決定に際して行う不合理な重複及び過度の集中の排除にe―Radを十分に活用できない状況となっており、厚生労働省において28年7月末においても全ての情報が登録されていない区分が多く見受けられた。
e―Rad上のエフォートの登録状況をみたところ、研究者117人のe―Rad上のエフォートの合計値が100%を超えていて、当該研究者に係る研究開発課題494件(配分金額計23億余円)のe―Rad上のエフォートは適切なものとなっていなかった。そして、117人は過度の集中に該当する者ではなかったものの、このように、過度の集中の有無の確認に必要な情報が、正確に他の資金配分機関に提供されておらず、e―Radは、資金配分機関における研究開発課題等の決定に当たり、過度の集中の有無の確認に活用し過度の集中を排除することを支援するという本来の機能を十分発揮していない状況となっていた。
26、27両年度に事後評価を実施した研究開発事業は、26年度146事業、27年度112事業となっており、その事業における事後評価を実施した研究開発課題26年度2,508件、27年度1,560件のうち、基準点又は基準段階が設定されていた研究開発課題26年度1,786件、27年度859件の評価結果は、26年度1,758件、27年度844件と大部分の研究開発課題が研究目標を達成したとしていた。また、9事業のみが基準段階以上と未満の両方の評価を行っており、それができた理由は、応用研究又は開発研究を対象に含む研究開発事業であり、事業計画書等において研究開発の実施予定項目とその達成すべき目標が実施予定時期と関連付けられて設定されていたことから、目標の達成度合が明確に判定できたと考えられる。
8法人は、26年度中に国の資金を原資とした委託契約の成果に係る特許権の登録等が行われた特許権計203件のうち165件(委託契約68件、支払額計226億余円)について、特許権の登録等から1年以上経過しているのにバイ・ドール条項に基づく資金配分機関への報告を行っていなかった。そして、資金配分先8法人において報告を行っていなかった理由は、バイ・ドール条項に基づく報告義務等がある特許権であることを把握した上での特許権の管理が十分でなかったり、法人内の特許権の管理部門と研究開発の実施部門との間の情報共有等が十分でなかったり、バイ・ドール条項に基づく報告義務があることについての理解が十分でなかったりしたことによるものであった。
このように、資金配分機関が委託契約の締結時等に周知を行っているにもかかわらず、バイ・ドール条項に基づいて資金配分先が行うこととされている資金配分機関への報告が適切に行われておらず、資金配分機関において資金配分先における特許権等の取得及び活用の状況を十分把握できないため、資金配分機関がバイ・ドール条項の適用のある特許権等の効率的な活用や普及の促進の検討を十分に行うことができないおそれがある状況となっていた。
警察庁は、特許等を受ける権利の研究者からの承継手続に係る書類を作成しておらず、承継手続が適切に行われたことが確認できない状況となっていた。
また、警察庁及び厚生労働省は、特許権計26件について、その取得から1年以上経過しているのに28年4月1日時点で登録していなかった(国有財産台帳に登録した後の台帳価格計0円)。また、厚生労働省及び国土交通省は、実施権の許諾による収入がある特許権のうち計11件について、年度末に収入額を基に価格改定を行っていなかったため、28年4月1日時点で0円(誤びゅう訂正後の台帳価格計1309万余円)のままとしていた。
科学技術の水準の向上を図り、我が国の社会経済の発展と国民の福祉の向上を図ることは、科学技術イノベーションに係る政策に一貫して求められている。このため、研究開発事業を実施する内閣府等の10府省等においては、CSTIによる科学技術の総合的かつ計画的な振興を図るための基本的な政策の企画立案及び総合調整の下、引き続き、第5期基本計画に基づき、取り組むべき研究開発課題等の決定から目標の達成、成果の活用等まで適切に実施するとともに、適切な評価を行い、優れた研究開発を効果的・効率的に推進することが重要である。また、科学技術政策の司令塔であるCSTIにおいては、科学技術関係予算の適切な配分の検討に資する情報をより適切に収集し、司令塔機能の強化に努めることが重要である。
したがって、CSTI及び各府省等において、次の点に留意して、研究開発事業の実施等を行うことが必要である。
ア 科学技術関係予算の適切な配分の検討に資する情報の収集について、
イ 研究開発課題等の決定等について、
ウ 応用研究又は開発研究を対象に含む研究開発事業を実施する各府省等において、目標の達成度合を明確に判定できるよう事業計画書等であらかじめ研究開発の実施予定項目とその達成すべき目標を実施予定時期と関連付けて設定して、研究開発の評価の効果的な実施に努めること
エ 研究開発の成果の活用等について、
オ CSTIにおいて、アからエまでの事項について、科学技術の総合的かつ計画的な振興を図るための基本的な政策の立案及び総合調整事務等の一環として調査審議の参考にするなどして、引き続き科学技術政策の司令塔としての機能の強化に努めること
本院としては、今後とも各府省等における研究開発事業の実施状況等について、引き続き注視していくこととする。