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  • 平成28年度|
  • 第4章 国会及び内閣に対する報告並びに国会からの検査要請事項に関する報告等|
  • 第2節 国会からの検査要請事項に関する報告

<参考:報告書はこちら>

第2 東日本大震災からの復興等に対する事業の実施状況等について


要請を受諾した年月日
平成24年8月28日
検査の対象
国会、裁判所、内閣、内閣府、復興庁、総務省、法務省、外務省、財務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省、防衛省
検査の内容
東日本大震災からの復興等に対する事業の実施状況等についての検査要請事項
報告を行った年月日
平成29年4月12日

1 検査の背景及び実施状況

(1) 検査の要請の内容

会計検査院は、平成24年8月27日、参議院から、国会法第105条の規定に基づき下記事項について会計検査を行いその結果を報告することを求める要請を受けた。これに対し同月28日検査官会議において、会計検査院法第30条の3の規定により検査を実施してその検査の結果を報告することを決定した。

一、会計検査及びその結果の報告を求める事項

  • (一) 検査の対象

    国会、裁判所、内閣、内閣府、復興庁、総務省、法務省、外務省、財務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省、防衛省

  • (二) 検査の内容

    東日本大震災からの復興等に対する事業に関する次の各事項

    • ① 東日本大震災に伴う被災等の状況
    • ② 復興等の各種施策及び支援事業の実施状況

(2) これまでの会計検査の実施状況

東日本大震災の復旧・復興事業の実施に当たっては、東日本大震災復旧・復興関係経費に係る予算(以下「復旧・復興予算」という。)が、23年度については一般会計の補正予算において、24年度以降については東日本大震災復興特別会計(以下「復興特会」という。)の24年度から27年度までの予算において措置されている。

上記の要請により、東日本大震災からの復興等に対する事業に関して、合規性、効率性、有効性等の観点から、復旧・復興予算が措置されている16府省庁等を対象として、①東日本大震災に伴う被災等の状況、②復興等の各種施策及び支援事業の実施状況等について検査を実施し、これまでに、24年10月25日、25年10月31日、27年3月2日及び28年4月6日の4回、会計検査院長から参議院議長に対して報告している。

本院は、上記28年の報告において、東日本大震災に伴う被災等の状況とともに、復興等の各種施策及び支援事業の実施状況として、復旧・復興予算の執行状況、津波被害の大きかった青森、岩手、宮城、福島、茨城、千葉各県における復旧・復興事業の実施状況や復旧・復興事業の成果の状況、原子力災害からの復興再生の状況等を分析して報告している。そして、東日本大震災復興基本法(平成23年法律第76号。以下「復興基本法」という。)に基づき23年7月に定められた「東日本大震災からの復興の基本方針」(以下「復興基本方針」という。)等で定められた27年度までの集中復興期間が終了し、28年度から復興・創生期間として、復興は新たな段階を迎えたことから、引き続き被災の状況、復興事業の実施状況等について検査を実施して、その結果については、集中復興期間における復興事業の実施状況等の総括として取りまとめが出来次第報告することとした。

(3) 検査の観点、着眼点、対象及び方法

本院は、集中復興期間における復旧・復興事業の実施状況等の総括として、参議院から要請を受けた各事項について、合規性、効率性、有効性等の観点から、次のような点に着眼して検査を実施した。

ア 東日本大震災に伴う被災の状況はどのようになっているか、避難者数はどのように推移しているか、国は、東日本大震災からの復旧・復興を推進するためにどのような取組を行っているか。

イ 復興特会において措置された復旧・復興予算は、どのような経費に配分されているか、予算の執行は計画的、効率的に行われているか。また、復興債の発行及び償還は適時に行われているか、その償還財源として位置付けられている株式の売却等はどのようになっているか。

ウ 復興関連基金事業(国庫補助金等を原資として設置造成又は積増し(以下「設置造成等」という。)が行われる基金により復旧・復興事業として実施される事業。以下同じ。)及び復興交付金事業(東日本大震災復興交付金(以下「復興交付金」という。)を原資として基金の設置造成等を行うなどして実施される事業。以下同じ。)において、使用見込みのない余剰金が基金に滞留するなどしていないか。また、補助事業等、復興関連基金事業、復興交付金事業等の復旧・復興事業について、予算の執行は円滑かつ適切に行われているか。特に、復興関連基金事業や復興交付金事業は、計画に照らして適時に実施されているか。

エ 被災地のうち津波等により甚大な被害を受けた岩手、宮城、福島各県(以下「東北3県」という。)において、集中復興期間中に実施された復旧・復興事業によりどのような成果が得られているか。特に、国民生活の安全・安心の確保の面から、津波被害に対しては施設整備等のハード施策のみならず人命を重視した速やかな避難を可能とするソフト施策により、災害に強い地域づくりが図られているか。復旧・復興予算により整備した災害公営住宅等への入居等の促進により、地域における暮らしの再生が図られているか。各種産業に係る施設等の復旧・復興、資金繰り支援、企業立地支援等の復旧・復興事業により、地域経済活動の再生が図られているか。

オ 原子力災害からの復興再生について、各府省庁、福島県等が実施する事業は円滑かつ迅速に実施されているか。特に、除染等による放射能汚染対策、中間貯蔵施設の建設に向けた取組等の福島の再生加速化に資する事業等は計画に照らして適時に実施されているか。また、国から東京電力株式会社(28年4月1日以降は東京電力ホールディングス株式会社。以下「東京電力」という。)に対する求償は適切に行われているか。

本院は、28年次においては、復旧・復興予算が措置されている16府省庁等を対象として引き続き検査するとともに、東日本大震災による被害を受けた地方公共団体については、「東日本大震災に対処するための特別の財政援助及び助成に関する法律」(平成23年法律第40号)第2条第2項に規定する地方公共団体(以下「特定被災地方公共団体」という。)である青森、岩手、宮城、福島、茨城、栃木、千葉、新潟、長野各県並びに特定被災地方公共団体である市町村及びその区域が特定被災区域(同条第3項に規定する区域をいう。以下同じ。)内にある特定被災地方公共団体以外の市町村に、特定被災区域をその区域とする市町が所在する北海道及び埼玉県を加えた11道県及び227市町村(以下「特定被災自治体」という。)における被災状況、復旧・復興事業等の実施状況等について検査した。特に東北3県及び東北3県の127市町村に対して、国からの財政支援を受けて実施した復興関連基金事業や復興交付金事業の実施状況、成果等について検査した。また、株式会社日本政策金融公庫に対して、事業者等への資金繰り支援の成果等の状況について検査した。

検査に当たっては、14府省庁等の内部部局等並びに東北3県を含む4県及び東北3県の沿岸31市町村を含む4県の45市町村に対して270人日を要して会計実地検査を行うなどして、調書及び関係資料を徴したり担当者等から説明を聴取したりするなどして把握した内容等を基に調査分析を行った。

2 検査の結果

(1) 東日本大震災に伴う被災等の状況

ア 被害等の状況

(ア) 人的被害及び建物被害の状況

人的被害は死者15,893人、行方不明者2,556人等となっており、建物被害は全壊121,739戸、半壊279,088戸等となっている。

(イ) 公共施設等の被災の状況

各府省庁が所管する公共施設等の被災の状況は、基盤整備関係では被災地区海岸数677海岸、交通関係では道路(県及び市町村管理区間)における被災路線数6,293路線、農林水産業関係では津波により被災した農地面積21,480ha等となっている。また、全壊等の被害を受けた施設は、医療施設4,158施設、福祉施設1,626施設、学校施設等12,150施設等となっている。

(ウ) 避難の状況

29年2月13日現在の避難者数は、全国でなお123,168人に上っており、このうち東北3県の各県内の避難者数は、計77,946人となっていて全体の63%を占めている。

イ 国の復旧・復興への取組

(ア) 復旧・復興に向けた主な取組

復興基本方針では、復興期間は10年間とされ、当初の5年間が集中復興期間と位置付けられて、復興支援の体制、復興施策、事業規模、財源等に関する基本方針が定められた。このうち復興支援の体制について、国は、24年2月に復興庁を設置し、同庁に復興推進会議を設置した。復興施策については、住宅再建・復興まちづくりの加速化のためのタスクフォースの検討の下に、用地取得手続の迅速化、技術者・技能者の確保、資材の円滑な確保等の加速化措置等を実施したり、産業復興の推進に関するタスクフォースの検討の下に、26年6月に「東日本大震災被災地域の産業復興創造戦略」を策定したりなどした。

さらに、27年6月の第13回復興推進会議において、集中復興期間終了後の28年度からの5年間が「復興・創生期間」と位置付けられて、復興基本法に基づき、28年3月に「「復興・創生期間」における東日本大震災からの復興の基本方針」が定められた。同方針では、原子力事故災害からの復興再生について、遅くとも29年3月までに避難指示解除準備区域及び居住制限区域の避難指示を解除できるよう環境整備に取り組むことなどとされた。

(イ) 原子力災害からの福島の復興再生に向けた主な取組
a 復旧・復興に向けた主な取組

24年3月に福島復興再生特別措置法(平成24年法律第25号)が施行され、国は、同法に基づき福島復興再生基本方針を閣議決定して、住民の安全のための除染等による放射能汚染対策を始めとする各種対策を計画的に講ずることとした。除染等による放射能汚染対策について、「平成二十三年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措置法」(平成23年法律第110号。以下「放射性物質汚染対処特措法」という。)に基づき、環境省等は、放射性物質により汚染された土壌等の除染等(以下「汚染土壌等の除染等」という。)、放射性汚染廃棄物処理事業(以下「汚染廃棄物処理事業」という。)及び中間貯蔵施設の整備等(以下「中間貯蔵施設事業」といい、これらの3事業を合わせて「特措法3事業」という。)を実施している。

b 帰還支援等に向けた取組

国は、避難指示が解除された区域への帰還支援等の取組として24年度に福島避難解除等区域生活環境整備事業(以下「生活環境整備事業」という。)及び福島原子力災害避難区域等帰還・再生加速事業(以下「帰還・再生事業」という。)を市町村等に対する委託事業としてそれぞれ創設した。そして、25年度に長期避難者生活拠点形成交付金及び福島定住等緊急支援交付金をそれぞれ創設した。さらに、25年8月の避難指示区域の見直しの完了を受けて、長期避難者支援から早期帰還までを一括して支援する福島再生加速化交付金を創設して、25年度に創設した2交付金により実施する事業及び帰還・再生事業の一部を移管するなどして創設した「再生加速化事業」を国庫補助事業として実施することとした。また、国は、27年5月に再生加速化事業を拡充して「帰還環境整備事業」とした。さらに、帰還・再生事業と生活環境整備事業を合わせて福島生活環境整備・帰還再生加速事業として再編し、福島再生加速化交付金事業の3事業と同事業を福島の復興再生の柱として実施している。

(ウ) 復興財源フレーム

国は、復興期間10年間に係る事業規模と財源の見込みを32兆円程度の規模とする32兆円フレームを示した。32兆円フレームでは、27年度までの集中復興期間に係る事業費を25.5兆円程度、28年度からの復興・創生期間に係る事業費を6.5兆円程度と見込んでいる。

集中復興期間に係る事業費として見込んだ25.5兆円及び25兆円フレームにおける計上済財源の27年度末現在の状況について、事業規模をみると、23年度から27年度までの支出済歳出額(以下「支出済額」という。)27.6兆円程度と28年度への繰越額1.4兆円程度の計29.0兆円程度から、復興財源フレームの対象外経費等を除くなどした事業費は24.6兆円程度となっている。また、財源をみると、27年度末までに復興特別税収が3.4兆円、歳出削減・税外収入等が11.3兆円程度、日本郵政株式会社(以下「日本郵政」という。)の株式の売却収入が1.4兆円、それぞれ確保されている。

(2) 復興等の各種施策及び支援事業の実施状況

ア 復旧・復興予算の執行状況等

(ア) 集中復興期間における復旧・復興事業に係る歳出予算とその執行状況
a 復旧・復興予算の歳出予算額及び執行状況

集中復興期間において各年度に措置された予算現額(歳出予算額(当初予算額、補正予算額及び予算移替額の合計)に予備費使用額及び流用等増減額を加減したものであり、前年度から繰り越された額は含まない。)の合計額33兆4922億余円の27年度末現在における執行状況は、支出済額27兆6231億余円、翌年度繰越額1兆4111億余円、不用額4兆4579億余円(うち27年度の執行における不用額5118億余円)であり、集中復興期間5か年度全体の執行率(支出済額の予算現額に対する割合。以下同じ。)、繰越率(翌年度繰越額の予算現額に対する割合)、不用率(不用額の予算現額に対する割合)をみると、それぞれ82.4%、4.2%、13.3%となっている。

b 経費項目別の執行状況

集中復興期間における復旧・復興予算について経費項目別の支出済額をみると、「災害対応公共事業関係費」「施設費災害復旧費等」「公共事業等の追加」及び「復興関係公共事業等」の4経費項目で計4兆0144億余円となっている。また、特措法3事業の実施に係る経費項目については、「原子力災害復興関係経費」2兆5087億余円となっていて、累計執行率は、他の経費項目と比べておおむね低くなっている。

(イ) 集中復興期間における復旧・復興事業に係る歳入の予算及び実績の状況
a 財源項目別の歳入の予算・決算

集中復興期間における復旧・復興事業の財源等の予算額及び決算額のそれぞれの計は、予算額が33兆3261億余円、決算額が36兆7576億余円となっている。

b 復興債の発行及び償還の状況

集中復興期間における復興債の発行状況をみると、発行計画額計17兆3535億円に対して発行実績額計14兆9932億余円となっている。25年度は復興債は発行されておらず、26年度においても発行計画額1兆0970億円に対して発行実績額1199億余円と計画の1割程度にとどまっている。27年度は発行計画額1兆9463億円に対して発行実績額1兆3199億余円と計画の約7割となっている。また、復興債の年度末現在額をみると、23年度末の11兆2574億余円から27年度末の7兆2612億余円に減少している。

(ウ) 復興債の償還財源として位置付けられている株式の売却等の状況

集中復興期間における復興財源フレームでは、政府出資等の有価証券である日本たばこ産業株式会社、東京地下鉄株式会社(以下「東京地下鉄」という。)及び日本郵政の各株式の売却による収入が4.7兆円程度見込まれているが、27年度末までの実績は計2兆4006億余円となっている。今後確保すべきフレーム計上額は計2.3兆円程度であるのに対して、売却による収入は売却時点の株価に応じて決まることになるが、復興債の償還財源となる日本郵政株式及び東京地下鉄株式の27年度末の残高は、計3兆2788億余円となっている。

イ 国から財政支援等を受けて地方公共団体等が実施する復旧・復興事業の状況等

(ア) 特定被災自治体に対する国からの財政支援の状況

集中復興期間中の5か年度に東日本大震災関係経費として国から交付された国庫補助金等及び地方交付税のうち、特定被災自治体である11道県及び227市町村に交付されたものは計13兆4117億余円であり、このうち東北3県及び沿岸31市町村に交付されたものが計11兆4867億余円となっていて全体の85.6%を占めている。また、国からの財政支援に係る類型ごとの交付額について、交付額の合計に占める割合をみると、補助事業等が32.9%と最も高く、次いで地方負担に係る地方財政措置としての震災復興特別交付税22.3%、復興交付金事業21.4%、復興関連基金事業19.4%の順となっている。

(イ) 補助事業等の実施状況

集中復興期間における特定被災自治体に対する国庫補助金等の交付決定額は計5兆7936億余円、国庫補助金等の交付決定額計から不用額計を控除した額に対する実際の交付額計の割合(以下「補助事業執行率」という。)は88.4%となっていて、このうち津波等により甚大な被害を受けた東北3県及び東北3県の127市町村への交付決定額は計5兆3267億余円と、特定被災自治体に対する交付決定額の9割以上を占めている。

特定被災自治体が実施している補助事業等について、事業区分ごとの実施状況をみると、「災害廃棄物処理」及び「被災者支援」の補助事業執行率はそれぞれ99.8%、100%と高くなっているが、「社会基盤施設」及び「漁業」の補助事業執行率はそれぞれ79.1%、77.8%となっている。

(ウ) 復興関連基金事業の実施状況
a 集中復興期間における復興関連基金事業の実施状況

復興関連基金事業157事業の実施状況をみると、国庫補助金等交付額は計4兆4483億余円、27年度末までの基金の取崩額は2兆7683億余円、国庫補助金等交付額に対する取崩額の割合(以下「基金事業執行率」という。)は62.2%、27年度末に保有している国庫補助金等相当額は1兆3746億余円となっている。

b 終了予定年度別及び終了予定年度の延長期間別の実施状況

終了予定年度別にみると、26年度を終了予定年度としている事業が23事業と最も多くなっている。また、集中復興期間の終了後も継続して実施するとしている事業は98事業(27年度末に保有している国庫補助金等相当額1兆3182億余円)となっている。一方、終了期限を定めていない24事業は、原子力災害からの復興再生が長期にわたると想定されている福島県に交付されたものや、除染事業等の原子力災害関係経費に係るものが多くなっている。

c 復興関連基金事業に係る国庫補助金等の国庫への返納状況等

復興関連基金事業157事業のうち77事業において、各基金団体(国からの国庫補助金等の交付を受けて基金を設置造成等した団体。以下同じ。)は27年度末までに3064億余円、28年度(28年8月末現在)に323億余円、計3387億余円の基金残額(運用益を含む。)を国庫に返納している。

d 集中復興期間内に事業が終了した復興関連基金事業のその後の状況

集中復興期間内に事業の終了期限が到来したり、国庫補助金等交付額の全額を取り崩したりするなどして事業が終了した59事業について終了後の同種事業の実施状況をみると、基金方式を採らずに実施していたもの(一般会計又は復興特会以外の特別会計から交付された国庫補助金等によるものを含む。)は12事業となっている。

(エ) 復興交付金事業の実施状況
a 復興交付金の交付等の状況

復興交付金事業について、集中復興期間において8道県及び96市町村に復興交付金2兆8720億余円が交付されていて、このうち約9割に当たる7県及び88市町村が基金を設置造成等してこれを取り崩して実施する事業(以下「基金型事業」という。)を選択していて、23年度から27年度までの5か年度の実施計画分に係る交付額は計2兆6415億余円、取崩額は計1兆6326億余円、基金事業執行率は61.8%となっている。

b 集中復興期間における復興交付金事業の完了等の状況

集中復興期間内に復興交付金事業計画に記載された復興交付金事業を全て完了している特定被災自治体数は3道県及び30市町村であり、復興交付金の交付を受けて事業を実施している全ての特定被災自治体8道県及び96市町村の31.7%となっている。27年度末現在において実施中である復興地域づくりに不可欠な基盤を整備することを目的とする40の基幹事業1,612事業のうち当初の復興交付金事業計画において完了予定時期を27年度末以前としていた1,297事業を対象に延長期間の状況をみると、3年以上延長している事業は479事業となっていて、5年以上延長している事業も134事業ある状況となっている。

c 集中復興期間における基金型事業の実施状況

基金型事業について、基幹事業、基幹事業と一体となってその効果を増大させるために必要な事業(以下「効果促進事業」という。)があり、効果促進事業をあらかじめ事業内容を定めて基幹事業ごとに個別に事業費が配分されるもの(以下「効果促進事業(個別配分)」という。)及びあらかじめ事業内容を定めることなく特定の基幹事業に係る事業費の一定割合を一括して先渡しで配分されるもの(以下「効果促進事業(一括配分)」という。)の別にみると、基金事業執行率はそれぞれ64.8%、67.9%及び31.2%、取崩しが行われずに基金に保有されている額(以下「取崩未済額」という。)はそれぞれ8158億余円、226億余円、1669億余円となっており、特に効果促進事業(一括配分)の基金事業執行率が低くなっている。

効果促進事業(一括配分)は、24年度から27年度までの4か年度の実施計画分に係る交付額計2429億余円のうち事業内容が未定の交付額が1099億余円あり、このうち計8億余円が事業内容の全てが未定となっている。また、上記の1099億余円の約2割の206億余円は交付されてから3年以上にわたり事業内容が未定のままとなっている。さらに、事業内容が決定していても実際には執行されていない状況も見受けられる。

(オ) 福島再生加速化交付金事業の実施状況

集中復興期間における福島再生加速化交付金事業の実施状況をみると、長期避難者生活拠点形成事業(25年度から27年度までの実施計画分に係る交付額計1816億余円、執行額及び取崩額計639億余円)では、福島県及び12市町村が交付可能額(復興庁から特定被災自治体等に通知された復興交付金又は福島再生加速化交付金に係る交付申請の上限額。以下同じ。)の通知を受け、このうち福島県及び10市町村は国から福島再生加速化交付金の交付を受けて単年度で実施する事業(以下「単年度型事業」という。)により実施していて、交付額計108億余円、執行額計73億余円となっている。一方、福島県及び7市町村は基金型事業により実施していて、25年度から27年度までの3か年度分に係る交付額計1708億余円、27年度末までの取崩額計565億余円、基金事業執行率33.0%となっている。福島定住等緊急支援事業(25年度から27年度までの実施計画分に係る交付額計141億余円、執行額計117億余円)では、27市町村が事業を実施していて、交付額計141億余円、執行額計117億余円となっている。帰還環境整備事業(25年度から27年度までの実施計画分に係る交付額計302億余円、執行額及び取崩額計238億余円)では、福島県、29市町村及び2一部事務組合が交付可能額の通知を受け、このうち福島県、27市町村及び2一部事務組合は単年度型事業により実施していて、交付額計247億余円、執行額計219億余円となっている。一方、福島県及び7市町村は基金型事業により実施していて、25年度から27年度までの3か年度分に係る交付額計55億余円、取崩額計19億余円、基金事業執行率35.8%となっている。

(カ) 震災復興特別交付税に係る経費の執行状況

集中復興期間の交付税及び譲与税配付金特別会計における震災復興特別交付税に係る経費の執行状況をみると、累計繰入額3兆7642億余円に対する累計支出済額は3兆1884億余円(累計の執行率84.7%)となっている。

(キ) 国からの財政支援等による地方公共団体の財政への影響

集中復興期間における東北3県及び沿岸31市町村の普通会計に係る歳入歳出決算の状況についてみると、東北3県の歳入総額は、22年度の2兆4460億余円から、23年度に5兆6113億余円と大幅に増加した後、24年度から26年度までは減少が続き、27年度に微増に転じて4兆6037億余円と推移しており、23年度から27年度までの期間平均の対22年度比は200.8%となっている。沿岸31市町村の歳入総額は、22年度の9619億余円から、23年度1兆8428億余円、24年度3兆0304億余円と増加した後、25年度以降は減少が続いて、27年度2兆3574億余円と推移しており、同期間平均の対22年度比は256.6%となっている。

東北3県の歳出総額は、22年度の2兆3321億余円から、23年度に5兆2862億余円と大幅に増加した後、24年度から26年度までは減少が続き、27年度に微増に転じて4兆2447億余円と推移しており、23年度から27年度までの期間平均の対22年度比は193.8%となっている。沿岸31市町村の歳出総額は、22年度の9250億余円から、23年度1兆7214億余円、24年度2兆8117億余円と増加した後、25年度以降は減少が続いて、27年度2兆0814億余円と推移しており、同期間平均の対22年度比は242.0%となっている。

22年度から27年度までの各年度末現在における基金の状況をみると、東北3県及び沿岸31市町村の積立金現在額は、22年度がそれぞれ2974億余円、1897億余円であったのに対して、25年度にそれぞれ1兆6859億余円、1兆5617億余円に達している。

(ク) 地方公共団体等が実施する復旧・復興事業に係る個別の検査結果
a 復興関連基金事業

平成23年度一般会計補正予算(第3号)(以下「23年度第3次補正予算」という。)に計上された費用のうち国会の議決を受けた復興施策に要する費用(以下「復興費用」という。)に関する権利義務は、特別会計に関する法律の一部を改正する法律(平成24年法律第15号)附則第3条の規定に基づき、翌年度以降に繰り越して使用することとされたものを除き、復興特会に帰属することとなっているため、23年度第3次補正予算に復興費用として計上されて23年度内に交付された国庫補助金等について、使用する見込みのないなどの額を国庫に返納させる場合、国は、復興特会に返納させることとなる。しかし、国土交通省において、使用する見込みのない額83億8631万余円を誤って復興特会ではなく一般会計に返納させている事態が見受けられた。

一方、平成23年度一般会計補正予算(第1号)又は平成23年度一般会計補正予算(第2号)に計上された費用等のうち使用する見込みのないなどの額について、復興基本法、「東日本大震災からの復興のための施策を実施するために必要な財源の確保に関する特別措置法」(平成23年法律第117号)等で定める財源確保の趣旨から、国はこれまで、一般会計に返納させた後、その額を復興特会に繰り入れて復旧・復興事業の費用等の財源に充てられるように、その原因となった支出を把握するなどして復興税外収入として別途整理するなどの所要の措置を執ってきている。しかし、この措置が執られていない事態が、文部科学省(286万余円)及び農林水産省(42億5030万余円)で計42億5317万余円見受けられた。

b 復興交付金事業

復興庁が公表している第1回から第14回までの復興交付金に係る交付可能額の通知時における復興交付金配分計画表を確認するなどしたところ、27年2月に復興庁が岩手県陸前高田市に通知した交付可能額に算定の誤りがあり、同市も同様に算定を誤って復興交付金の交付申請を行った結果、8541万余円が過大に交付されていた事態が見受けられた。また、復興交付金の交付可能額の算定について、過年度の交付可能額の通知時において、東日本大震災復興交付金制度要綱(平成24年府復第3号等。以下「制度要綱」という。)で定められた効果促進事業(一括配分)に係る事業費の上限額を超えて交付可能額が算定されている事態が、2市分で計15億9946万余円見受けられた。

ウ 集中復興期間における復旧・復興事業の成果の状況

(ア) 施策項目別の成果の状況

東北3県及び沿岸31市町村における25の施策項目の公共土木施設災害復旧事業費国庫負担法(昭和26年法律第97号)等に基づく災害復旧事業に係る計画や復興交付金事業計画等における整備計画施設等数(以下「計画施設数」という。)に係る事業費(以下「計画事業費」という。)は、27年度末現在、計7兆2786億余円であり、これに対する完成している施設等数(以下「完成施設数」という。)に係る事業費(以下「完成分事業費」という。)は計2兆2452億余円(うち国庫補助金等計1兆8433億余円)となっている。施策項目別の計画施設数に対する完成施設数の割合(以下「完成率」という。)をみると、100%は「鉄道」「空港」「公営住宅」及び「養殖施設」の4項目であり、80%以上が「港湾」「造成宅地の滑動崩落防止」等の9項目、20%以下が「海岸(防潮堤)」(防潮堤の新設、改修等を計画し又は実施している海岸の整備)「海岸防災林」「上水道」及び「都市再生区画整理事業」の4項目である。20%以下の4項目は、津波により破壊され、流出した海岸保全施設、その背後地の市街地等の整備に関する施策項目となっている。

(イ) 津波防災に関する施策における復旧・復興事業の成果
a 津波防災に関するハード施策に係る復旧・復興事業の状況

防潮堤の整備に係る復旧・復興事業は、27年度末現在、東北3県の沿岸31市町村に福島県の沿岸5市町を加えた36市町村に所在する576海岸において事業が計画されており、このうち集中復興期間における完成施設数は87海岸、完成率は15.1%となっている。計画事業費1兆3433億余円のうち27年度末までに投じられた事業費(以下「支出済事業費」という。)は4605億余円、計画事業費に対する支出済事業費の割合は34.2%、完成分事業費は332億余円(うち国庫補助金等302億余円)となっている。

県別にみると、計画施設数は、岩手県が111海岸、宮城県が370海岸、福島県が95海岸となっていて、それぞれの完成施設数及び完成率は、11海岸、9.9%、54海岸、14.5%、22海岸、23.1%となっている。また、市町村別にみると、27年度末現在、36市町村のうち計画施設数の全てが完成した市町村は1村、計画施設数のうち一部が完成した市町村は17市町村であり、18市町村では完成した防潮堤はない。

27年度末までに事業を実施している556海岸について、26年度末現在と27年度末現在の計画事業費を比較すると、増加したものが184海岸、減少したものが123海岸となっている。また、556海岸から27年度末現在までに完成した87海岸を除く469海岸の完成(予定)年度をみると、26年度末現在の見込みより延長されたものが299海岸と約6割を占め、このうち7海岸は3か年度以上延長されている。

b 津波防災まちづくりに係る復旧・復興事業の状況

被災市街地復興土地区画整理事業(以下「復興土地区画整理事業」という。)及び津波復興拠点整備事業による市街地の整備状況をみると、復興土地区画整理事業では計画面積1,532ha、実績面積319ha、整備率20.8%となっており、津波復興拠点整備事業では計画面積260ha、実績面積145ha、整備率55.7%となっている。また、両事業のかさ上げに係る計画面積及び実績面積は、それぞれ761haのうち169ha、143haのうち90haであり、整備率はそれぞれ22.3%、62.9%となっている。

市町村別に全体の整備状況をみると、復興土地区画整理事業について、20市町村のうち整備が完了したものが1村、整備率が80%を超えているものが1町、整備率が20%以下のものが10市町となっている。津波復興拠点整備事業については、整備を実施している16市町のうち整備が完了したものが4市町、整備率が80%を超えているものが1市、整備率が20%以下のものが4市となっている。

c 津波防災に関するソフト施策に係る復旧・復興事業の状況

沿岸31市町村の住民等の生命及び身体の安全を確保するための避難対策について定めた計画(以下「津波避難計画」という。)の策定状況をみると、27年度末現在、津波避難計画を策定しているのは21市町村で、このうち、東日本大震災前に津波避難計画を策定していたのは5市町となっており、16市町村は東日本大震災後に策定している。

津波情報等の収集・伝達手段の確保に係る機器等の整備状況について、津波監視カメラの整備状況をみると、沿岸31市町村のうち整備が完了したものが14市町、整備中のものが1村、整備していないものが16市町村となっている。また、情報伝達手段の確保に係る通信機器等の整備等の実施状況をみると、沿岸31市町村のうち整備等が実施済みとなっている市町村数は、システムの耐災害性の強化が27市町村、Jアラート(注1)による自動起動対象の拡大が28市町村、緊急速報メールの一括送信が29市町村、防災行政無線の整備のうち同報系システム(注2)が全ての市町村、移動系システム(注3)が24市町村、難聴区域の解消が21市町村となっている。

沿岸31市町村における避難施設の指定の状況をみると、全ての市町村が避難所、緊急避難場所等の避難施設を指定しており、27年度末現在の指定数は、2,313施設となっていて、東日本大震災前の2,266施設から47施設増加している。しかし、東北地方太平洋沖地震による津波で浸水した地域等に所在する避難施設が緊急避難場所で49施設、避難所で56施設、耐震性の有無を把握していない避難施設が津波避難ビルで4施設、避難所で168施設となっている。また、住民等が避難施設に移動するための誘導標識等が設置されていないものが緊急避難場所で684施設、津波避難ビルで11施設、避難所で630施設となっている。

避難所等の装備の状況をみると、非常用電源が備えられていない避難施設が津波避難ビルで25施設、避難所で497施設、ラジオ等の情報機器がない避難施設が津波避難ビルで62施設、避難所で369施設、備蓄倉庫がない施設が津波避難ビルで56施設、避難所で485施設となっている。備蓄倉庫が設置されている避難所460施設について、避難者を支援するための備蓄物資の状況をみると、27年度末現在、食事の供与が全くできないものが145施設あり、1日以下が255施設、1日超3日以下が52施設等となっている。また、毛布が不足するものが349施設、非常用電源がないため停電時に照明等の電気製品が使えないものが48施設、石油ストーブが備蓄されていないため暖房を使えないものが234施設となっている。

(注1)
Jアラート  全国瞬時警報システム。弾道ミサイル情報、大津波警報、緊急地震速報等の緊急情報を人工衛星を用いて国(内閣官房又は気象庁から消防庁を経由)から送信し、市町村の防災行政無線や携帯メール、コミュニティFM等を自動起動させるもので、国から住民まで緊急情報を瞬時に伝達するシステム
(注2)
同報系システム  屋外拡声器や戸別受信機を介して、市町村等から住民等に対して直接・同時に防災情報や行政情報を伝えるシステム
(注3)
移動系システム  車載型や携帯型の移動局と市町村、消防、警察等の関係機関が相互に通信を行うシステム
(ウ) 住宅の供給等に関する復旧・復興事業の成果
a 被災者等に対する応急仮設住宅の供与

東北3県が整備等を行った応急仮設住宅である建設型応急仮設住宅(整備戸数計52,822戸)及び市町村が民間住宅を借り上げるなどして被災者等に供与する応急仮設住宅である借上型応急仮設住宅(借上戸数計24,856戸)について、集中復興期間における整備費、維持管理費等をみると、建設型応急仮設住宅の整備費は計3370億余円、維持管理費は計574億余円、撤去費は計14億余円、借上型応急仮設住宅の維持管理費は計1449億余円となっている。建設型応急仮設住宅に係る維持管理費について、集中復興期間における年度別の状況をみると、震災直後の23年度が344億余円とピークとなっており、24年度以降、建設型応急仮設住宅の統廃合や廃止の進捗により減少傾向となっている。

b 恒久住宅等の整備に係る復旧・復興事業

災害公営住宅整備事業等は、東北3県及び沿岸31市町村のうち岩手、福島両県及び30市町村のほか、その他の22市町村において実施されており、集中復興期間における整備状況をみると、759地区における計画戸数29,575戸に対して16,747戸が完成(完成率56.6%)し、整備が完了した地区に係る整備額は4383億余円となっている。集中復興期間に整備された災害公営住宅の入居の状況等をみると、入居可能戸数15,617戸のうち14,754戸(94.4%)が入居済み又は入居手続中であり、863戸(5.5%)が入居者未定で空室となっている。国土交通省は、各事業主体が災害公営住宅を被災者等に提供するために様々な対策を講じたにもかかわらず入居者未定の空室が生じている場合、事業主体の判断により、災害発生から3年を経過した後、一般向け公営住宅に変更し、被災者等以外に貸与等を行うことはやむを得ないとの見解を示している。ただし、一般向け公営住宅整備事業は、一般会計予算に計上された国庫補助金により実施される事業であり、災害公営住宅整備事業等よりも補助率が低率となっている。

防災集団移転促進事業は、東北3県及び沿岸31市町村のうち22市町村のほか、その他の4市町において実施されており、集中復興期間における整備状況をみると、324地区における計画区画数の8,840区画に対して6,484区画が完成(完成率73.3%)し、整備が完了した地区に係る整備額は1252億余円となっている。集中復興期間に整備された宅地の分譲等の状況をみると、整備された宅地6,484区画のうち5,775区画(89.0%)が分譲等済み又は分譲等手続中であり、709区画(10.9%)が分譲等未定で空き区画となっている。

漁業集落防災機能強化事業は、東北3県及び沿岸31市町村のうち13市町村において実施されており、集中復興期間における整備状況をみると、36地区において計画区画数500区画に対して276区画が完成(完成率55.2%)し、整備が完了した地区に係る整備額は59億余円となっている。集中復興期間に整備された宅地の分譲の状況をみると、整備された宅地276区画のうち257区画(93.1%)が分譲済み又は分譲手続中であり、19区画(6.8%)が分譲未定で空き区画となっている。

都市再生区画整理事業は、東北3県及び沿岸31市町村のうち17市町村において実施されており、集中復興期間における整備状況をみると、50地区における計画区画数10,129区画に対して1,652区画が完成(完成率16.3%)し、整備が完了した地区に係る整備額は59億余円となっている。

(エ) 地域経済活動の再生に関する復旧・復興事業の成果
a 各種産業に係る施設等の復旧・復興事業の状況

27年度末現在の東北3県における農水産業に係る施設等の復旧・復興の状況をみると、農地については計画施設数38,718haのうち32,703haが完成(完成率84.4%)し、農業用施設については計画施設数4,838施設のうち3,914施設が完成(完成率80.9%)している。また、漁港施設については計画施設数2,636施設のうち1,645施設が完成(完成率62.4%)し、水産業共同利用施設については計画施設数4,922施設のうち4,637施設が完成(完成率94.2%)している。

グループ補助金(中小企業組合等共同施設等災害復旧費補助金)による事業の実績をみると、27年度末現在、交付決定を受けた延べ8,937事業者のうち延べ7,207事業者が事業を完了しているが、延べ202事業者が事業を廃止し又は取り消しているほか、延べ1,528事業者が事業を延期するなどしている。また、東北3県におけるリース補助事業(被災中小企業復興支援リース補助事業)の実績をみると、27年度末現在、集中復興期間に6,023件に対して35億余円が交付されており、このうち宮城県が4,361件、24億余円となっている。

b 農林漁業者、中小企業者等に対する資金繰り支援

農林漁業者等向けの融資制度として設けられた既存融資制度の特例(以下「農林漁業者等震災特例貸付」という。)及び中小企業者等向けの融資制度として創設された東日本大震災復興特別貸付(以下「復興特別貸付」という。)の22年度(23年3月)から27年度までの間の実績をみると、農林漁業者等震災特例貸付が3442億余円、復興特別貸付が3兆8614億余円、計4兆2057億余円となっていて、復興特別貸付の規模が大きいものとなっている。東北3県における貸付実績は、全国計4兆2057億余円のうち8914億余円であり、県別の計では、宮城県が4836億余円、福島県が2490億余円、岩手県が1587億余円となっている。

c 企業立地支援による復旧・復興の状況

集中復興期間に、津波・原子力災害被災地域雇用創出企業立地補助金(以下、この補助金による事業を「津波・原子力災害立地補助事業」という。)2090億円、地域経済産業復興立地推進事業費補助金(以下、この補助金による事業を「ふくしま立地支援事業」という。)2102億余円がそれぞれ国から基金団体に交付され、27年度末現在の基金の取崩額は、津波・原子力災害立地補助事業に係る基金が111億余円(基金事業執行率5.3%)、ふくしま立地支援事業に係る基金が1301億余円(基金事業執行率61.9%)となっている。

集中復興期間の採択、交付決定等の状況をみると、27年度末現在、津波・原子力災害立地補助事業は、採択件数512件、採択額1997億余円、交付決定件数200件、交付決定額868億余円となっていて、企業が立地される市町村数及び新規地元雇用者数のそれぞれの見込みは、69市町村、6,359人となっている。また、ふくしま立地支援事業は、採択件数446件、採択額3142億余円、交付決定件数338件、交付決定額1300億余円となっていて、企業が立地される市町村数及び新規地元雇用者数のそれぞれの見込みは、福島県の47市町村、4,394人となっている。両事業を合わせた採択事業者数、完了事業者数、辞退事業者数の状況をみると、採択事業者数は958事業者、完了事業者は407事業者、完了率は42.4%となっている一方で、辞退事業者数は232事業者、辞退率は24.2%となっている。

d 観光の復興状況

沿岸31市町村の観光誘客を目的とした大規模な祭り、催事等(以下「観光イベント」という。)について、東日本大震災の影響、集客等の状況をみると、東日本大震災前に実施していた67件のうち43件が震災の影響で取りやめとなっており、27年度末までに31件が再開されたものの12件はいまだ再開に至っていない。東日本大震災以後に復興に関するものとして実施されている新しい観光イベントは33件あり、このうち29件は27年度末現在、定期的に継続して実施されている。27年度末現在で実施されている観光イベントは、震災の影響がなかったもの24件、再開されたもの31件及び定期的に実施されている新しいもの29件を合わせて84件となっている。また、集客数については、25年度が約764万人、27年度が約829万人となっていて、25年度から27年度までの3か年度の間で20市町村において集客数が増加したとしている。

e 産業の回復の状況

産業の回復の状況に関する沿岸31市町村の認識についてみたところ、全体的に回復したとしている市町村数は、沿岸31市町村のうち21市町村となっている。業種ごとにみると、震災前の水準に回復したとする市町村数は、建設業では19市町村、観光業では16市町村と沿岸31市町村の半数以上を占めるが、農業、水産業ではそれぞれ8市町村、商業・サービス業では7市町となっている。また、震災前の水準に回復していないとする市町村数は、水産業では19市町村、農業では18市町村となっている。

エ 原子力災害からの復興再生

(ア) 原子力災害関係の事業の執行状況
a 原子力災害関係経費の執行状況

集中復興期間における原子力災害関係経費の支出済額計3兆1334億余円のうち、特措法3事業に係る支出済額が1兆8227億余円と全体の58.1%を占めていて、その大部分は汚染土壌等の除染等の費用の1兆6337億余円となっている。そして、除染等による放射線量の低減対策に係る事業全体の支出は1兆8698億余円に上り、原子力災害関係経費の59.6%を占めている。

b 原子力災害関係経費以外の経費で実施している放射線量の低減対策に係る事業の執行状況

集中復興期間において、地方公共団体が単独事業として実施している表土の改善等の放射線量の低減対策に係る事業費に対して算定された震災復興特別交付税は7県138市町村の計54億余円、特別交付税は6府県177市町村の計14億余円となっている。また、農林水産省所管の東日本大震災農業生産対策交付金により実施された放射性物質の吸収抑制対策に係る事業費の総額は計61億余円となっている。

(イ) 特措法3事業の実施状況
a 汚染土壌等の除染等の実施状況

除染特別地域における汚染土壌等の除染等を総合的かつ計画的に講ずるための特別地域内除染実施計画に基づく除染等の措置の状況をみると、楢葉町等7市町村では28年3月までに終了しており、飯舘村等4市町村では29年3月までに終了するよう実施している。集中復興期間において除染特別地域で実施された汚染土壌等の除染等に係る支出済額は計7850億余円となっている。また、27年度末現在の除染特別地域における除染等の措置により生じた除去土壌及び除染廃棄物(以下「除去土壌等」という。)の仮置場等の箇所数及び保管量は264か所、596万m3となっており、仮置場等から中間貯蔵施設等に搬出した保管量は44万m3(仮置場等の保管量の7.4%)となっている。

汚染状況重点調査地域に指定された市町村の状況についてみると、福島県内で汚染状況重点調査地域に指定された39市町村のうち36市町村が、一方、福島県以外の7県内で汚染状況重点調査地域に指定された58市町村のうち57市町村が、それぞれ除染実施計画を策定して、同計画に基づき除染等の措置を実施している。そして、集中復興期間においてこれらの地域で実施された汚染土壌等の除染等に係る支出済額の合計は8475億余円となっている。

27年度末現在の福島県内の汚染状況重点調査地域における除去土壌等の保管箇所及び保管量は、除染した現場と仮置場の合計で142,161か所、518万m3であるのに対して、除去土壌等の仮置場等から中間貯蔵施設等への輸送量は現状ではまだ僅かな状況である。そして、除去土壌等の仮置場等における保管のため集中復興期間に要した維持管理費は、32市町村で計95億余円となっており、これらの維持管理費は、除去土壌等の中間貯蔵施設等への輸送が進み、同施設等において集中管理することにより逓減することが期待されるが、同施設等への輸送が進まない場合、長期にわたり発生し続けることになる。仮置場の設置箇所についてみると、市町村が定める津波の浸水区域に仮置場が設置されているため、除去土壌等が搬出されるまでの間、比較的頻度の高い一定程度の津波高を超える津波等の災害の発生時には保管した除去土壌等が流出し、除染等の措置による効果が減少するおそれが継続する状況となっているものが見受けられた。

b 汚染廃棄物処理事業の実施状況

27年度末現在の汚染廃棄物対策地域内における災害廃棄物等の処理状況をみると、推定量(帰還困難区域(注4)を除く。)116.6万tに対して、仮置場等への搬入量は81.6万tとなっている。また、搬入実施率が30%未満となっているのは3町村となっている。そして、福島県を含む12都県に保管されている指定廃棄物(放射能濃度が8,000Bq/kgを超え、特別な管理が必要な程度に汚染されたものとして環境大臣が指定した廃棄物。以下同じ。)の数量は、27年度末現在17.2万tとなっている。

放射性物質に汚染された廃棄物のうち農林業系廃棄物等についてみると、国や都道府県の指示、要請等で利用できなくなった結果、一般廃棄物等となり、市場に流通させずに保管されているものなどが10道県で計27.5万tとなっており、既存の焼却処理施設の能力が不足していることなどから減容化が進んでおらず、一時集積所の容量も不足していることなどから、各農家等で一時保管されている状況となっている。また、クリーンセンター等で焼却処理を行って焼却灰となった廃棄物についてみると、5県で計17.4万tとなっていて、これは引き続きクリーンセンター等に保管されているものである。

(注4)
帰還困難区域  避難指示区域のうち、平成24年3月時点での空間線量率から推定された年間積算線量が50mSvを超えていて、事故後6年間を経過してもなお年間積算線量が20mSvを下回らないおそれがある地域
c 中間貯蔵施設事業の実施状況

中間貯蔵施設に係る用地取得の状況をみると、環境省は、27年度末現在、当該用地の登記簿上の約2,400人の地権者(面積約1,600ha)のうち連絡先を把握している約1,480人(同約1,450ha)に連絡するなどしているが、土地の売買契約等の成立件数は83件(同約22ha)にとどまっている。

環境省は、26年11月に、「中間貯蔵施設への除去土壌等の輸送に係る基本計画」を策定し、27年3月から28年3月までの間にパイロット輸送が実施され、大熊町のストックヤードに23市町村計2.3万m3、双葉町のストックヤードに20市町村計2.2万m3、合計43市町村4.5万m3の除去土壌や放射能濃度が10万Bq/㎏を超える対策地域内廃棄物及び指定廃棄物が輸送され、同年3月に検証報告が取りまとめられている。また、同省は、28年3月に中間貯蔵施設に係る「当面5年間の見通し」を公表し、32年度までに500万m3から1250万m3程度の除染土壌等を搬入できる見通しであるとした。

(ウ) 原子力災害関係経費の求償の状況

特措法3事業については、集中復興期間における事業実施済額の計1兆5607億余円に対して、28年10月末現在の求償額は計1兆1932億余円、東京電力の支払額は計5062億余円となっている。また、放射性物質汚染対処特措法が施行される前から緊急的に実施されていた内閣府所管の「東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質の除染事業等」(以下「緊急実施除染事業」という。)については、集中復興期間における事業実施済額の計2098億余円に対して、28年10月末現在の求償額は計745億余円、支払額は計418億余円となっている。

3 検査の結果に対する所見

東日本大震災は、被災地域が極めて広範囲にわたる大規模なものであるとともに、地震、津波及び原子力発電施設の事故による複合的な未曽有の大災害である。

復興基本方針等で定めた23年度から27年度までの集中復興期間において、国は、東日本大震災からの復旧・復興のために、既存の制度の見直し、財政支援、自由度の高い交付金の創設等様々な施策を、その総力を挙げて取り組んできた。

集中復興期間において、国は、総額27兆6231億余円を支出した。そして、これに対する財源を、49年12月までの長期にわたって確保される復興特別税(復興特別所得税等)や歳出削減等により賄うとしているが、他方、多額の費用が限られた期間に生ずることから、事業の実施に当たり不足する資金を確保するために復興債等を発行している。また、復興予算の計上及び執行に当たり、各事業が被災地及び被災者の復興に真に必要かつ有効なものとなっているかなどの視点から議論がなされたことから、国は、復興予算について、不適切な使用であるなどの批判を招くことがないように使途を厳格化するなどの取組も行ってきた。

こうした国の取組や復旧・復興事業を中心となって実施する地方公共団体の総力を挙げての取組により、集中復興期間が終了した現在、事業の進捗とともにその成果も見受けられる一方、防潮堤やまちづくりなどに係る事業において、膨大な事業量や事業の実施に伴う地域住民や関係機関との調整、他事業との調整等の様々な困難から、被災者がひ益するに至っていないものも依然として見受けられる。

復旧・復興事業について、28年度以降も多くの事業が一刻も早い完了を目指して実施されているところであり、国は、地震・津波被災地域を中心に事業完了に向けた見通しが立ちつつあることを踏まえて、28年度以降の復興支援については、被災地の自立につながるものとしていく必要があるとし、28年度からの5年間を被災地の自立につながり、地方創生のモデルとなるような復興を実現していく観点から「復興・創生期間」と位置付けた。そして、復興・創生期間において、全国に共通する課題への対応という性質を併せ持つ事業については被災した地方公共団体においても一定の負担を行いつつ、国は、復興の新たなステージに応じた切れ目のない被災者支援を行うとともに、次なる災害に備えた住まいの再建や復興まちづくりなどを着実に進めるとしている。

ついては、復興庁及び関係府省等は連携して、国及び地方公共団体が行う施策が復興基本法に定める基本理念に即して更なる復旧・復興の進展につながるよう、今後も引き続き次の点に留意するなどして、復興施策の推進及び支援に適切に取り組む必要がある。

  • ア 復興・創生期間における復旧・復興事業について、国は、特定被災自治体等との緊密な連絡調整を行うことなどにより事業が迅速に実施されるようにするとともに、集中復興期間の各種事業の実績を踏まえて、円滑に実施されるように努めること
  • イ 国庫補助金等を交付して実施している事業について、国は、特定被災自治体の意向や要望、被災者の生活再建の見通しなどを十分に把握して、情報提供、助言その他の着実な執行に向けた取組を行っていくこと。また、復興関連基金事業について、国は、基金団体と十分に連携して適切な基金の執行管理を行うとともに、使用見込みのない余剰金等が生じている場合には、これを国庫に返納することを要請するなど、資金が適切かつ有効に活用されるよう努めること。特に、余剰金等の返納に当たっては、国庫補助金等が復興基本方針に定める復興財源を原資としていることに留意し、適正を期すること
  • ウ 復興交付金事業について、国は、情報提供、助言その他の必要な協力等を行い、事業の着実な実施に向けて支援を行っていくこと。基金型事業において取崩未済額が多額となっている状況等を踏まえて、国は、特定被災自治体による事業の執行状況に応じた適切な復興交付金の配分を行うとともに、事業が完了して生じた残余額等や効果促進事業(一括配分)における事業内容が未定の額について、基幹事業及び効果促進事業(個別配分)への流用等を一層進めるなどして着実な縮小を図ること。また、効果促進事業(一括配分)について、復興庁は、28年報告の会計検査院の所見等を踏まえて第15回及び第16回の配分を見送ることとしたものの、過年度の交付可能額の通知時において当時の制度要綱で定められた上限額を超えて交付可能額が算定されている事態も見受けられることから、制度要綱の適正な運用についても留意すること
  • エ 津波防災に関する復旧・復興事業の実施について、国は、復興基本方針において、被災しても人命が失われないことを最重視するとされていることなどを踏まえて、経済性及び効率性にも十分に配慮して、防潮堤等の各種施設や市街地の整備等の施策に関する助言等を着実に実施していくとともに、住民等の適切な避難を確保するための施策についても早期に適切な実施が図られるよう努めること。また、津波防災に関する事業の成果が確実にあがるよう努めること
  • オ 復興交付金事業等による住宅の供給等について、国は、空室及び空き区画の解消等に向けた助言等に努めること。災害公営住宅整備事業等において、各事業主体が空室の解消のための対策を講じてもなお空室が解消されないことが見込まれ、災害発生から3年を待たずして早期に当該災害公営住宅を有効活用しようとする場合には、一般向け公営住宅としての貸与等を行うことを可能とするなどの対策について検討すること。また、被災地の自立につながることを念頭に、地域経済活動の再生に関する事業の成果が確実にあがるよう努めること
  • カ 原子力災害からの復興再生のうち除染等の措置について、国は、除去土壌等が仮置場等に長期間保管されていて多額の維持管理費が発生するなどしていることを踏まえて、除去土壌等の保管場所である中間貯蔵施設の整備の促進に努めること。また、汚染廃棄物処理事業について、農林業系廃棄物等が各農家等に保管されていて大きな負担となっていることを踏まえて、仮設焼却施設の設置等による減容化等、汚染廃棄物の処理の促進に努めること。さらに、特措法3事業及び緊急実施除染事業に係る事業費について、放射性物質汚染対処特措法等に基づき関係原子力事業者が賠償すべき損害に係る賠償金が東京電力から確実に支払われるよう、求償を適切に行っていくこと
  • キ 国は、集中復興期間に実施された復旧・復興事業に係る課題やその解決策等に関する事例等の情報を蓄積して整理し、復興・創生期間に実施される事業に反映するとともに、今後想定される災害からの復旧・復興事業に活用していくこと

本院は、東日本大震災からの復興に向けた確実な歩みがなされている一方、復旧・復興の完了までに長期間を要するものもあることから、東日本大震災に伴う被災等の状況とともに、復興等の各種施策及び支援事業の実施状況として、復旧・復興予算の執行状況、被害の大きかった東北3県を中心に復旧・復興事業の実施状況や復旧・復興事業の成果の状況、原子力災害からの復興再生の状況等を分析して、計5回にわたり報告した。

本院としては、復興基本方針等で定められた集中復興期間が終了して、28年度から復興・創生期間として復興は新たな段階を迎えたことから、復興・創生期間における事業の実施状況についても、引き続き検査していくこととする。