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  • 平成28年度|
  • 第6章 歳入歳出決算その他検査対象の概要

第1節 国の財政等の概況


第4 国の財政状況

歳入歳出決算等の検査対象別の概要は第2節に記述するとおりであるが、国の財政等のより的確な理解に資するために、決算でみた、その現状を述べると次のとおりである。

1 国の財政の現状等

我が国の財政状況をみると、財政法(昭和22年法律第34号)施行後しばらくは租税収入等の歳入で歳出を賄う収支が均衡した予算が続いていたが、昭和40年度に初めて歳入補塡のための国債が発行されて以来、41年度以降は建設国債(注1)が、50年度以降は平成2年度から5年度までの間を除き特例国債(注2)が、それぞれ毎年度発行されている。国債には、建設国債及び特例国債のほか、復興債(注3)、借換国債(注4)、財投債(注5)等がある。これらの国債のうち財投債以外の国債(以下「普通国債」という。)の利払・償還財源は、主として税財源により賄われる。そして、連年の国債発行により国債残高は増加の一途をたどり、28年度末における普通国債の残高は830.5兆円に達しており、28年度一般会計決算額における国債の依存度は38.9%、国債の償還等に要する国債費の一般会計歳出に占める割合は22.6%となっており、財政は厳しい状況が続いている。

こうした状況の中で、政府は、8年12月に「財政健全化目標について」を閣議決定するなど、「財政構造改革元年」と位置付けた9年度以降、財政の健全化のための目標を掲げ、目標達成に向けて毎年度の予算を作成するなどの取組を進めてきている。

そして、25年8月に閣議了解された「当面の財政健全化に向けた取組等について―中期財政計画―」においては、22年度の「国・地方を合わせた基礎的財政収支(注6)」(以下「国・地方PB」という。)の赤字の対名目GDP比(以下、名目GDPを「GDP」という。)を27年度までに半減し、国・地方PBを32年度までに黒字化、その後、「債務残高(注7)対GDP比」の安定的な引下げを目指すという財政健全化の目標(以下「25年財政目標」という。)を掲げている。なお、国・地方PBの赤字の対GDP比については、27年度において25年財政目標を達成している。

その後、政府は、29年6月に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2017」において、国・地方PBを32年度までに黒字化し、同時に債務残高対GDP比の安定的な引下げを目指すという財政健全化の目標を掲げている。

国・地方PBについては、内閣府が、半年ごとに経済財政諮問会議に提出している「中長期の経済財政に関する試算」(以下「内閣府試算」という。)において、14年度以降の実績額等を示している。

また、経済協力開発機構(OECD)は、財政収支対GDP比、債務残高対GDP比等の指標を用いて我が国を含めた各国の財政状況を公表しており、我が国の財政健全化のため債務を削減する必要性等について指摘している。

(注1)
建設国債  財政法第4条第1項ただし書の規定に基づき公共事業費、出資金及び貸付金の財源に充てるために、予算をもって国会の議決を経た金額の範囲内で一般会計において発行される公債
(注2)
特例国債  公債の発行の特例に関する各法律の規定に基づき租税収入等に加えて建設国債を発行してもなお不足する歳出の財源を調達するために、予算をもって国会の議決を経た金額の範囲内で一般会計において発行される公債
(注3)
復興債  「東日本大震災からの復興のための施策を実施するために必要な財源の確保に関する特別措置法」(平成23年法律第117号)第69条の規定に基づき復興施策に要する費用の財源を確保するために発行される公債
(注4)
借換国債  特別会計に関する法律(平成19年法律第23号)第46条及び第47条の規定に基づき国債を借り換えるために国債整理基金特別会計において発行される国債
(注5)
財投債  特別会計に関する法律第62条第1項の規定に基づき財政融資資金の運用の財源に充てるために財政投融資特別会計において発行される公債
(注6)
基礎的財政収支  内閣府が推計している国民経済計算を基に算出される、税等の収入から雇用者報酬、社会給付等の支出を差し引くなどした収支差(財政収支)に支払利子を加え、受取利子を差し引いた収支差
(注7)
債務残高  普通国債、地方債及び交付税及び譲与税配付金特別会計(以下「交付税特会」という。)の借入金の各残高の合計額

2 検査の観点、着眼点、対象及び方法

前記のとおり、政府は財政の健全化に向けて目標を掲げ、目標達成に向けて毎年度の予算を作成するなどの取組を続けているが、国の財政状況に実際に反映されるのは、これらの取組の結果としての決算である。本院は、平成27年度決算検査報告の第6章第1節第4「個別の決算等」において、国の財政状況はどのような状態にあるのかについて着眼して、国の一般会計の税収等(注8)から政策的経費(注9)を差し引いて算出した、決算額でみた国の一般会計の基礎的財政収支(以下「一般会計PB」という。)が、25年財政目標に用いられる国・地方PBと同じように推移する傾向にあることから、一般会計PBの推移等を分析し、その結果、昭和40年度から平成27年度までの間の大半の年度で税収等が政策的経費を下回っていること、2年度以降の一般会計PBの悪化要因は租税及印紙収入の減少と社会保障関係費の増加が大半を占めていること、また、債務残高対GDP比については、国・地方の公債等残高の大半を占める普通国債の残高が増加し続けていることなどから、26年度末において、依然として前年度を上回っていることなどを掲記した。

本院は、財政の健全化に向けた政府の動向を踏まえつつ、国の財政状況を継続して注視しており、29年次の検査においては、正確性、有効性等の観点から、昨年次に引き続き、国の財政状況はどのような状態にあるのかについて、25年財政目標や国際機関において用いられる、国・地方PB、財政収支対GDP比及び債務残高対GDP比の状況がどのようになっているかなどに着眼して検査した。

検査に当たっては、28年度の国の一般会計及び特別会計の決算額等を対象として、一般会計の歳入決算明細書及び歳出決算報告書並びに特別会計歳入歳出決定計算書の決算額のほか、国の債務に関する計算書等の債務の額を分類及び集計するなどして分析するとともに、内閣府本府、財務本省及び厚生労働本省において関係書類を確認するなどして会計実地検査を行った。

(注8)
税収等  公債金及び翌年度への繰越歳出予算財源等を一般会計の歳入から差し引いた額
(注9)
政策的経費  国債費と決算不足補てん繰戻を合算した支出を一般会計の歳出から差し引いた額

3 国の財政状況

(1) 国・地方PB

ア 国・地方PBと一般会計PB

国・地方PBは、国民経済計算(注10)における基礎的財政収支を基に算出されるものであり、内閣府試算により公表されている。国・地方PBは、国民経済計算の作成基準等に従い各種の基礎統計を利用して推計しているものであるが、詳細な内訳等は公表されていない。

一方、一般会計PBは、税収等と政策的経費から直接算出されるものであり、計算の基礎となる詳細な決算額を歳入決算明細書や歳出決算報告書等により把握することが可能である。

国・地方PBには国の特別会計や独立行政法人、地方公共団体等の決算が計算対象に含まれており、一般会計PBには含まれていないなどの点で相違があるが、内閣府試算で示されている14年度以降について、国・地方PB、地方の基礎的財政収支(以下「地方PB」という。)及び一般会計PBの推移を示すと図1のとおりであり、国・地方PBと一般会計PBは28年度までおおむね同じように推移している。これは、地方財政計画を通じて国から地方に交付される地方交付税交付金等により地方の財源が保障される仕組みなどにより、地方PBがほぼ均衡して推移していることなどによる。そして、一般会計PBは、24年度以降は改善する傾向であったが、28年度になると前年度に比べて赤字が3.4兆円拡大して15.5兆円となっている。

(注10)
国民経済計算  内閣府が我が国の経済の全体像を国際比較可能な形で体系的に記録することを目的に、国際基準に基づいて作成している統計であって、国の一般会計、特別会計、独立行政法人、地方公共団体等の決算の額等を用いて推計している。

図1 国・地方PBと一般会計PBの推移

図1 国・地方PBと一般会計PBの推移 画像

そこで、9年度から28年度までの税収等及び政策的経費の推移を示すと図2のとおりであり、全ての年度において政策的経費が税収等を上回っている。そして、24年度以降についてみると、24年度は税収等の伸びが政策的経費の伸びより大きく、25年度から27年度までの間は税収等が増加傾向であり、政策的経費が減少傾向であることから、前記のとおり、一般会計PBの赤字は改善する傾向にあったが、28年度になると前年度に比べて税収等が3.7兆円減少し、政策的経費が0.3兆円減少したことから、一般会計PBの赤字は拡大している。

図2 税収等及び政策的経費の推移

図2 税収等及び政策的経費の推移 画像

イ 主要な税収等の推移

28年度の一般会計PBにおける税収等は59.9兆円に上り、このうち主要な税目である所得税、法人税及び消費税の収納済歳入額の合計は45.1兆円となっていて、税収等の約7割を占めている。上記3税の収納済歳入額の9年度から28年度までの推移を、景気動向の推移と併せて示すと図3のとおりであり、所得税及び法人税の収納済歳入額は、おおむね、景気後退期に減少し、景気拡張期に増加しており、その推移は景気動向の推移と連動している。一方、消費税の収納済歳入額の推移は、所得税及び法人税と異なり、景気動向の推移とはほとんど連動しておらず、消費税率(地方消費税分を含む。)の改定(5%から8%)があった26年度を除き、安定的である。そして、28年度の所得税、法人税及び消費税の各収納済歳入額は、前年度からそれぞれ、0.1兆円、0.4兆円及び0.1兆円減少して、17.6兆円、10.3兆円及び17.2兆円となっており、一般会計PBの赤字の拡大要因となっている。

図3 所得税、法人税及び消費税の収納済歳入額と景気動向の推移

図3 所得税、法人税及び消費税の収納済歳入額と景気動向の推移 画像

ウ 社会保障関係費等の推移

28年度の一般会計PBにおける政策的経費は75.4兆円に上る。そして、このうち社会保障関係費の支出済歳出額は32.2兆円と政策的経費の約4割を占めており、政策的経費と税収等の差である一般会計PBの赤字の大きな要因となっている。社会保障関係費の支出済歳出額は既往4年度は一貫して増加を続けており、図4のとおり、我が国の高齢化率の上昇にほぼ連動しているが、制度改正を行った11年度(介護保険制度の円滑導入等)及び21年度(基礎年金国庫負担割合の引上げ等)については急増がみられる。そして、28年度の社会保障関係費の支出済歳出額の対前年度増加額は0.8兆円であり、一般会計PBの赤字の拡大要因となっている。

図4 社会保障関係費の支出済歳出額及び高齢化率の推移

図4 社会保障関係費の支出済歳出額及び高齢化率の推移 画像

(2) 財政収支対GDP比

ア 財政収支対GDP比と一般会計財政収支対GDP比

財政収支対GDP比は、国民経済計算における財政収支とGDPを基に算出され、国際機関や内閣府試算により公表されている。財政収支対GDP比は、国民経済計算の作成基準等に従い各種の基礎統計を利用して推計しているものであるが、詳細な内訳等は公表されていない。また、財務省は、29年4月に公表した「日本の財政関係資料」において、我が国の14年度以降の財政収支対GDP比について、OECDが28年11月に「Economic Outlook 100」として公表した財政収支対GDP比から日本道路公団等民営化の影響等の単年度限りの特殊要因等を除いた値として公表している(以下、財務省が公表している財政収支対GDP比を「公表されている財政収支対GDP比」という。)。

一方、税収等から財政経費(注11)を差し引いた収支差は、決算額でみた国の一般会計の財政収支(以下「一般会計財政収支」という。)を表すものとなるが、計算の基礎となる詳細な決算額を歳入決算明細書や歳出決算報告書等により把握することが可能である。

そして、一般会計財政収支を、各年度のGDP値で除した一般会計財政収支対GDP比は、国の特別会計や独立行政法人、地方公共団体等の決算を財政収支の計算対象に含まず、一方、公表されている財政収支対GDP比にはそれらを財政収支に含むなどの点で相違があるが、14年度から28年度までの推移を示すと図5のとおりであり、両者はおおむね同じように推移している状況となっている。これは、地方財政計画を通じて国から地方に交付される地方交付税交付金等により地方の財源が保障される仕組みなどにより、地方の財政収支がほぼ均衡して推移していることなどによる。また、同期間内において一般会計財政収支と一般会計PBの差である国債等の利払費等の金額の変動が少なかったため、一般会計財政収支対GDP比と一般会計PB対GDP比についても同じように推移している。そして、一般会計財政収支対GDP比は、16年度から19年度までの間、22年度及び24年度から27年度までの間は継続して改善する傾向にあったが、28年度は悪化している。

(注11)
財政経費  国債等の償還に必要な経費を一般会計の歳出から差し引いた額

図5 公表されている財政収支対GDP比等の推移

図5 公表されている財政収支対GDP比等の推移 画像

イ 税収等、財政経費及びGDP成長率

一般会計財政収支の内訳となる税収等及び財政経費と、GDP成長率の9年度から28年度までの推移を示すと図6のとおりであり、一般会計財政収支対GDP比が改善する傾向にあった16年度から19年度までの間、22年度及び24年度から27年度までの間についてみると、おおむね、GDP成長率が継続してプラスのときに、税収等が増加し、財政経費が減少する傾向が見受けられる。しかし、28年度の税収等は、GDP成長率がプラスにもかかわらず前年度から減少している。

図6 税収等、財政経費及びGDP成長率の推移

図6 税収等、財政経費及びGDP成長率の推移 画像

(3) 債務残高対GDP比

ア 債務残高の推移

債務残高とその内訳について、9年度以降の推移を示すと図7のとおりであり、債務残高の大半を占める普通国債の残高は引き続き増加している。そして、普通国債の28年度末の残高は、前年度末から25.1兆円(対前年度比3.1%増)増加して、830.5兆円となっている。

図7 債務残高の推移

図7 債務残高の推移 画像

イ 債務残高と債務残高対GDP比の推移

債務残高と債務残高対GDP比の9年度から債務残高が計算できる27年度までの推移を、GDPの推移と併せて示すと図8のとおりである。債務残高が一貫して増加しているのに対して、GDPが500兆円前後で推移しているため、債務残高対GDP比は、債務残高とおおむね同じように推移している状況となっている。直近の26、27両年度の債務残高対GDP比は、それぞれ対前年度比2.2ポイント増、同1.4ポイント増と、前年度からの増加は比較的抑えられているものの、184.8%だったものが、186.2%になるなど依然として前年度を上回っている。

図8 債務残高と債務残高対GDP比の推移

図8 債務残高と債務残高対GDP比の推移 画像

ウ 普通国債の利払費等の推移

利払費は、債務残高と金利(利率)によって定まる。普通国債の利率加重平均(年度末の残高に係る表面利率の加重平均)の推移は、図9のとおり、17年度には1.4%まで下がり、その後、27年度には1.1%とおおむね横ばいとなっている。そして、普通国債の利払費は、17年度の6.9兆円以降、普通国債の利率加重平均の低下による影響を普通国債の残高の累増による影響が上回っていることから増加したが、28年度においては、28年度末の普通国債の残高が前年度と比べて25.1兆円増加して830.5兆円となっているものの、普通国債の利率加重平均が前年度1.1%と比べて更に低率の1.0%になったことなどから、前年度から0.1兆円減少の8.3兆円となっている。

図9 普通国債の残高、利払費、利率加重平均等の推移

図9 普通国債の残高、利払費、利率加重平均等の推移 画像

4 まとめ

(1) 国・地方PB

国・地方PBは、全ての年度において政策的経費が税収等を上回っている。国・地方PBは、一般会計PBとおおむね同じように推移する傾向にあることから、一般会計PBとその内訳について年度別の推移をみると、社会保障の制度改正等を行った21年度は大幅に悪化し、社会保障関係費が引き続き増加傾向にある一方、消費税率(地方消費税分を含む。)を5%から8%に引き上げた26年度は大幅に改善している。そして、28年度の一般会計PBは、前年度に比べて赤字が拡大しており、その要因についてみると、収入面では、税収等の約7割を占める所得税、法人税及び消費税の収納済歳入額が前年度からそれぞれ減少し、支出面では、政策的経費の約4割を占める社会保障関係費の支出済歳出額が前年度から増加している。

(2) 財政収支対GDP比

公表されている財政収支対GDP比は、一般会計財政収支対GDP比とおおむね同じように推移している。そして、一般会計財政収支と一般会計PBの差額となる利払費等の金額の変動が少なかったため、一般会計財政収支対GDP比と一般会計PB対GDP比も同じように推移している。そこで、一般会計財政収支対GDP比とその内訳について年度別の推移をみると、16年度から19年度までの間、22年度及び24年度から27年度までの間は改善する傾向にあり、この間、おおむね、GDP成長率が継続してプラスのときに、税収等が増加し、財政経費が減少する傾向が見受けられる。しかし、28年度の税収等は、GDP成長率がプラスにもかかわらず減少している。

(3) 債務残高対GDP比

債務残高の大半を占める普通国債の残高は増加しており、28年度末の普通国債の残高は、前年度末から25.1兆円(対前年度比3.1%増)増加して、830.5兆円となっている。

そこで、債務残高対GDP比についてみると、26、27両年度では前年度からの増加は比較的抑えられているものの、27年度は186.2%(26年度は184.8%)と依然として前年度を上回っている。

28年度末の普通国債の利払費は、28年度の普通国債の残高が前年度から増加しているものの、普通国債の利率加重平均が前年度から更に低率になったことから、前年度から減少している。

本院としては、これらを踏まえて、国の財政状況について引き続き注視していくこととする。