一般職及び特別職の国家公務員に対する研修については、実施に係る根拠法令等の違いがあるものの、職員の能力及び資質を向上させるためには、いずれにおいても研修の実施は必要なものであり、各府省等は、職員に現在就いている官職又は将来就くことが見込まれる官職の職務の遂行に必要な知識及び技能を習得させることなどを目的とするなどして、研修を実施している。そして、研修の実施には、研修講師等に対する謝金、旅費、研修施設の維持管理費のほか、研修業務に従事している職員の人件費等の経費を要している。このため、各府省等においては、研修を効果的、効率的に実施することが重要となる。
また、内閣人事局及び人事院においては、それぞれの所掌事務に係る研修を自ら実施するほか、政府全体を通じて体系的で効果的な研修が実施されるよう、一般職の国家公務員に対する研修についての計画の樹立及び実施に関する総合的企画及び調整、監視等を行うこととされている。そして、基本方針によれば、内閣人事局及び関係各庁は、相互に連携・協力することにより、政府全体を通じて体系的で効果的な研修が実施されるよう努めることとされている。
一方、特別職の国家公務員に対する研修については、それぞれの根拠法令に基づき、それぞれの職務の特性に応じて実施されており、研修に関する国家公務員法の規定が適用されないため、研修についての計画の樹立及び実施に関しては内閣人事局及び人事院による総合的企画及び調整、監視等の対象外となっている。
そこで、各府省等における一般職及び特別職の国家公務員に対する研修の実施状況等について、合規性、経済性、効率性、有効性等の観点から、各府省等は、研修計画を策定して研修の機会を確保しているか、研修に要する経費を十分に把握し、経済性等を考慮して適切に研修を実施しているか、各府省等間で研修内容に関する情報を交換するなど連携・協力が図られているか、適時適切に効果測定や研修内容に関する評価を実施するなどして研修の効果を把握し、研修内容等の改善を行っているか、研修施設を適切かつ有効に活用して研修を実施しているか、各府省等間で研修施設の年間使用計画等に関する情報を共有するなど連携・協力が図られているか、内閣人事局は、関係各庁が一般職の国家公務員を対象に実施する研修について計画の樹立及び実施に関する総合的企画及び調整を適時適切に行っているか、人事院は、関係各庁が一般職の国家公務員を対象に実施する研修について、計画の樹立及び実施に関する監視等を適時適切に行っているかなどに着眼して検査した。
研修計画の内容については、国家公務員法等に統一的な定めや運用上のルールは規定されていない。このため、各府省等における個々の研修計画をみると、研修を実施する前に策定される研修要綱等や研修を委託する際に作成される仕様書も研修計画と位置付けている場合がある。また、特別職の国家公務員に対する研修に係る研修計画についても、統一的な定めや運用上のルールは規定されていない。27年度における各府省等の研修計画は一般職の国家公務員を対象としたものとして473研修計画、特別職の国家公務員を対象としたものとして146研修計画、計619研修計画が策定されていた(5007_3_1_1リンク参照)。
上記619研修計画の記載項目のうち、「研修時期」に具体的な時期を明示していないものが一般職の国家公務員に対する65研修計画、特別職の国家公務員に対する29研修計画、「対象者」を明示していないものが一般職の国家公務員に対する62研修計画、特別職の国家公務員に対する23研修計画となっていた(5007_3_1_2リンク参照)。
各府省等における研修の実施に要した経費は公表されておらず、会計検査院が研修講師や受講者の旅費、教材費・印刷製本費、研修会場の借料、留学費用、研修講師への謝金、研修施設の維持管理費等に要した経費について調書を基に集計し整理したところ、27年度の各府省等における研修施設の維持管理費は119億9247万余円、それ以外の経費は87億5044万余円、計207億4291万余円となっており、研修施設の維持管理費が最も多く、次いで、旅費43億9772万余円、庁費33億2820万余円等となっていた。
また、研修の実施には、これ以外にも、研修業務に従事する職員に係る人件費相当額や受講者の研修時間に係る機会費用が生じている(5007_3_2_1リンク参照)。
一般職及び特別職の国家公務員について、OJTを府省等全体で計画的に実施する体制になっているかについてみると、3庁等はそれぞれの人材育成制度に基づき、新規採用者の育成の目標を設定した上で継続的に指導を実施したり、OJTによる部下職員の指導・育成を育成指導者の業績目標に設定させ育成指導者の上司に指導状況を評価させたりするなど、新規採用者に対するOJTを組織的・計画的に実施する体制が整備されていた。一方、3庁等以外の府省等においてはOJTを府省等全体で計画的に実施する取組は行われていなかった(5007_3_2_2リンク参照)。
各府省等におけるOff-JTの実施状況は、27年度では、一般職の国家公務員に対する研修は、18,435研修、受講者数761,892人、特別職の国家公務員に対する研修は、817研修、受講者数17,526人となっていた。
26年5月の国家公務員法の改正により、関係各庁は、所属職員に対する研修だけでなく、他の行政機関の職員を対象とする研修の実施に努めることとされ、基本方針においても、政府全体を通じて体系的で効果的な研修が実施されるよう努めることとされている。
25年度から27年度までの間に各府省等が実施する自府省研修のうち、実際に他府省等の職員が受講している研修数をみると、一般職の国家公務員に対する研修の研修数は、25年度の152研修から27年度の173研修となっていた。そして、他府省等の職員の受講者数は、25年度の797人から27年度の994人となっていた。一方、特別職の国家公務員に対する研修の研修数は、25年度の4研修から27年度の6研修、受講者数は25年度の50人から27年度の42人となっていた。また、派遣研修における償還義務者の債権の管理状況についてみると、27年度末時点では、償還中の者が16人、償還残額が41,633,893円となっていた。
27年度の各府省等における委託研修は、一般職の国家公務員に対する研修1,220研修、委託研修に要した経費計9億0866万余円、特別職の国家公務員に対する研修361研修、委託研修に要した経費計1億6481万余円となっていた。そして、委託した主な理由をみると、委託研修として継続して実施してきたためとしているものが、一般職の国家公務員に対する研修において260研修(委託研修に要した経費計8311万余円、1,220研修の21.3%)、特別職の国家公務員に対する研修において95研修(委託研修に要した経費計1071万余円、361研修の26.3%)等となっていた。
25年度から27年度までの間に実施されたeラーニング研修の実施状況をみると、25年度は68研修、受講者数66,584人、26年度は80研修、受講者数77,051人、27年度は79研修、受講者数116,532人となっていて、受講者数は年々増加傾向にある。特に、26年度から27年度にかけて大幅に増加した主な理由は、内閣人事局で実施している人事評価(評価者向け)の研修対象者が本府省課室長相当職以上の職員から全評価者に拡大されたことによるものである。
さらに、eラーニング研修の実施状況をみると、自府省研修におけるeラーニング研修の推移は、ほぼ横ばいの状況となっている。また、27年度におけるeラーニング研修の1研修当たりの平均受講者数は、民間企業等のeラーニングシステムを利用しているものが1,337人、自府省等においてeラーニングシステムを開発、改良等して構築しているものが1,035人、研修教材を府省等内ホームページ等に掲載して職員の自席等で研修を受講するものが429人となっていて、eラーニング研修以外の他の研修に係る1研修当たりの平均受講者数33人と比べて多くなっている(5007_3_2_3リンク参照)。
各府省等が27年度に実施した20時間以上の研修の効果測定の実施状況をみると、3,081研修のうち2,696研修(3,081研修の87.5%)が効果測定を実施していた。Off-JTの実施形態別に効果測定の実施状況をみると、自ら実施する研修(2,507研修)では、効果測定を実施しているものが2,171研修(2,507研修の86.5%)となっていた。
また、各府省等の職員が他府省等で実施している20時間以上の研修に参加した場合、研修実施部局において効果測定を実施している延べ研修数は、1,198研修となっているが、各府省等において、他府省等の研修実施部局等から効果測定の結果に関する報告を受けていないとしているものは590研修(1,198研修の49.2%)となっていて、各府省等は、当該研修に所属職員を受講させているものの、当該研修において実施された効果測定の結果を把握しておらず、その研修の効果を十分に把握していない状況となっていた。そして、他府省等で実施している研修に参加している場合、各府省等における効果測定の結果の把握については、各府省等間の相互の連携・協力が十分に行われていない状況となっていた。
各府省等が27年度に実施したOff-JTのうち20時間以上の研修の研修内容に関する評価の実施状況をみると、3,081研修のうち2,816研修(3,081研修の91.3%)では、研修内容に関する評価を実施していて、265研修(同8.6%)では、研修内容に関する評価を実施していなかった。
また、受講者等からアンケート等により聴取した研修内容に関する評価を取りまとめた報告書が研修内容の改善につなげることができるものとなっていない状況が一部の府省等で見受けられた(5007_3_3_1リンク参照)。
各府省等が27年度に実施したOff-JTのうち20時間以上の一般職の国家公務員に対する2,694研修に係る研修記録の作成等の状況をみると、研修実施部局で研修記録の記載項目が一覧できる様式となっているものが2,174研修(2,694研修の80.6%)となっていた。また、これらに係る各記載項目ごとの記載状況をみると、⑩研修に要した経費及び⑪研修の計画に当たって特に配慮した事項、研修結果に対する所見等の2項目が記載されているものは、それぞれ651研修(2,174研修の29.9%)及び1,023研修(同47.0%)となっていた。
また、同様に特別職の国家公務員に対する387研修においては、研修実施部局で研修記録の記載項目が一覧できる様式となっているものが278研修(387研修の71.8%)となっていた。そして、これらに係る各記載項目ごとの記載状況をみると、一般職の国家公務員に対する研修と比べて各項目とも低い傾向となっていた(5007_3_3_2リンク参照)。
関係各庁は、研修効果を把握し、研修内容の改善に努めることとされているが、各府省等においては、効果測定を実施していなかったり、所属職員を他府省等の研修に参加させる場合においてその効果測定の結果に係る報告を受けていなかったり、研修内容に関する評価を実施していなかったりしていて、研修計画の見直しなどの改善につなげるための体制が整っていない状況が一部の府省等で見受けられた(5007_3_3_3リンク参照)。
各府省等の研修施設の保有状況をみると、27年度末現在で、136研修施設を保有していた。また、136研修施設のうち90研修施設に宿泊施設がある合宿研修施設となっていた(5007_3_4_1リンク参照)。
27年度における136研修施設の教室等稼働率及び90研修施設の宿泊施設稼働率をみると、30研修施設の教室等で、また、58研修施設の宿泊施設で、それぞれ50%を下回っている状況であった(5007_3_4_2リンク参照)。
27年度における他機関等への使用承認等の状況をみると、136研修施設のうち14研修施設では使用承認等の実績があったものの、122研修施設では実績がなかった。
そして、他機関等に対する研修施設の教室等及び宿泊施設の使用承認等に関する周知の状況をみると、一部の研修施設について、貸出要綱等をメールで周知したり、過去に使用承認等の実績がある他機関等に対して電話で周知したりしているものが見受けられたが、ほとんどの研修施設では周知を行っていなかった。
このように、研修施設の宿泊施設の使用承認等については、セキュリティ等の面から施設の使用承認等を行う体制になっていないなどの課題を解消する必要がある。一方で、研修施設の教室等の使用承認等については、内部規程等を整備しているものの、他機関等への使用承認等に関する各府省等間における相互の連携が十分に図られておらず、各府省等が保有する研修施設の年間使用計画等の情報を各府省等間で共有できていない状況となっていた(5007_3_4_3リンク参照)。
内閣人事局は、研修の計画の樹立及び実施に関する総合的企画及び関係各庁に対する調整として、基本方針を策定するほか、研修計画の作成状況、研修の実施状況の記録・報告の状況、「国家公務員研修概況」の活用状況等に関するアンケート調査等を踏まえて、研修実施状況調査の報告項目等を内容とする基本方針の運用を策定した。Off-JTについて、内閣人事局及び関係各庁は、相互に連携・協力することにより、政府全体を通じて体系的で効果的な研修が実施されるよう努めることとされている。そして、内閣人事局は、毎年、関係各庁の研修担当官を集めて「研修担当官会議」を実施している。人事院は、研修実施状況調査における関係各庁からの報告を取りまとめる過程で、疑問点や矛盾点があれば関係各庁に質問して確認することが監視の前提となる調査に当たるとしている。そして、23年度以降、報告内容の確認作業以外の調査を行った実績はなく、報告を受けた研修の実施状況等の内容について、国家公務員法、人事院規則等に違反する事態や特段の問題はなかったとしている。
そして、研修計画等で対象者の範囲が明確になっていない事態、他府省等の職員も対象としている自府省研修について他府省等への研修実施の周知が十分でないなどの事態、研修施設の年間使用計画等の情報を関係各庁間で共有できていない事態等が見受けられた。
内閣人事局は、これらの事態の解消に資するような、関係各庁間の相互の連携・協力を図るための調整、研修を行うに当たり関係各庁間で研修施設の情報の共有に関する調整等は行っていないとしており、また、人事院は、研修計画等で対象者の範囲が明確になっていない事態は、報告内容には含まれていなかったため、把握していなかったとしている(5007_3_5リンク参照)。
各府省等においては、研修を効果的、効率的に実施することが重要である。
そして、内閣人事局においては、自ら研修の計画を樹立して研修を実施するとともに、政府全体を通じて体系的で効果的な研修が実施されるために、関係各庁の研修の実情を把握し、実施されている研修の改善につながるよう、必要に応じて、より広い視野からの総合的企画及び調整を行うことが求められている。また、人事院においては、国民全体の奉仕者としての使命の自覚等を有する職員の育成等の観点から行う研修の着実な実施を図るとともに、関係各庁が実施する研修についての的確な監視等を行うことが求められている。
このような中、今回の検査で、研修についての計画の樹立及び実施に関して内閣人事局による総合的企画及び調整並びに人事院による監視等の対象とされている一般職の国家公務員に対する研修において、研修を効果的、効率的に実施する際に研修計画等で対象者の範囲が明確になっていない事態、他府省等の職員も対象としている自府省研修について、他府省等への研修実施の周知が十分でないなどの事態、研修施設の年間使用計画等の情報を関係各庁間で共有できていない事態等が見受けられ、特別職の国家公務員に対する研修においても、研修を効果的、効率的に実施する際に同様の事態等が見受けられた。
したがって、各府省等、内閣人事局及び人事院において、次の点に留意して、研修の実施等を行うことが必要である。
ア 各府省等は、一般職の国家公務員に対して研修を実施する際には基本方針に沿った研修の実施に十分留意するとともに、特別職の国家公務員に対する研修を含め研修を実施する際には、
イ 内閣人事局は、基本方針の下、関係各庁が実施する研修について、
ウ 人事院は、関係各庁の研修の実態を把握して、現在まで培ってきた専門的知見を基に内閣人事局と連携して関係各庁の研修の計画策定及び実施に関し、必要に応じて監視の前提となる調査の充実を図ること
会計検査院としては、今後とも各府省等における職員の研修の実施状況等について引き続き注視していくこととする。