地方公共団体は、総務省及び厚生労働省から整備費補助金の交付を受けて、26年度からマイナンバー制度の導入に必要な補助対象システムの整備を開始しており、整備費補助金の交付額の総額は、国が行うマイナンバー制度に係る情報システムの整備に要する経費の総額と比較しても多額となることが見込まれている。また、地方公共団体は、国が示すスケジュールに沿って、住民基本台帳システムについては国等の多くの情報システムに先行して27年10月から、その他の補助対象システムについては28年1月から利用を開始しており、今後は、29年7月からの情報連携に向けて、総合運用テスト等が続くことになる。さらに、市町村は、総務省から事業費補助金及び事務費補助金の交付を受けて、27年10月から個人番号の付番及び通知カードによる個人番号の通知を行い、28年1月から個人番号の利用及び個人番号カードの交付を開始していた。しかし、交付に係る人員体制等の確保が十分でなかったり、J-LISの情報システムに障害が発生したりしたこと、さらに、個人番号カードの交付の本格化と3月から始まる住民の異動に係る繁忙期が重なったことなどの複合的な要因により、個人番号カードの交付に遅れが生じていた。
そこで、会計検査院は、地方公共団体が行うマイナンバー制度の導入に係る補助事業の実施状況等について、合規性、経済性、有効性等の観点から、906地方公共団体において、地方公共団体における補助対象システムの整備は国が示すスケジュールどおりに進捗しているか、補助対象システムの整備に当たり仕様書の記載内容や徴取した見積書は適正なものとなっているか、また、852市町村において、事業費補助金及び事務費補助金により行われる通知カード及び個人番号カードの交付事業は遅滞なく適切に実施されているか、個人番号カードの利活用の検討が行われているか、さらに、J-LISの情報システムにおいて発生した障害はどのような状況であり、これに対して適切な措置が講じられているかなどに着眼して検査したところ、次のような状況が見受けられた。
(ア) 補助対象システムの整備の進捗状況についてみたところ、27年12月末までに整備が終了していなかった補助対象システムが総務省分で530システム、厚生労働省分で1,489システムあったが、整備の進捗の遅れは、28年6月末までには相当程度解消されていた。また、28年6月末までに地方公共団体内での連携テストが終了していなかった補助対象システムが総務省分で136システム、厚生労働省分で385システムあった(6014_3_1_2リンク参照)。
(イ) 補助対象システムの整備に係る契約手続等の状況についてみたところ、仕様書において26年度と27年度で全く同じ作業内容になっていた補助対象システムが総務省分で170システム、厚生労働省分で326システムあった。さらに、仕様書においてテスト計画書が成果物として記載されていなかった補助対象システムが総務省分で1,971システム、厚生労働省分で5,315システム、テスト結果報告書が成果物として記載されていなかった補助対象システムが総務省分で1,548システム、厚生労働省分で4,023システム、成果物が仕様書に全く記載されていなかった補助対象システムが総務省分で1,173システム、厚生労働省分で3,201システムあった。また、予定価格の算定時に作業項目ごとに作業工数の記載がなく、かつ、作業項目ごとに人件費単価の記載がない見積書により予定価格を算定していた補助対象システムが総務省分で745システム、厚生労働省分で3,029システムあった(6014_3_1_3リンク参照)。
28年3月末時点において、住民票記載事項の確認や調査を実施していないため、受取人に交付等ができないまま市町村に保管されている通知カードが209市町村で350,513通、保管期間が一定期間(3か月程度)経過したことにより廃棄されていた通知カードが96市町村で8,656通あった。個人番号カードについては、同月末時点での申請枚数6,002,486枚、J-LISから市町村に送付した枚数5,384,085枚に対して、交付枚数は1,225,423枚となっていて、低調な状況となっていた。また、同月末時点で、806市町村において、あらかじめ個人番号カードの交付計画を策定していなかった。なお、総務省による進捗状況のフォローアップ調査結果によれば、28年11月末までに全市町村において交付通知書の送付の滞留が解消したとされている。さらに、同年3月末時点で、737市町村において、個人番号カードの利活用が行われておらず、このうち、157市町村は利活用を行うことについて検討していなかった。また、J-LISのカード管理等システムに障害が発生していたり、市町村からカード管理等システムにつながりにくい状態が発生していたりしていた(6014_3_2_3リンク参照)。
マイナンバー制度については、29年7月からの情報連携の開始を目指して総合運用テスト等の作業が続くことになり、情報連携後には、制度の改正に伴い更なるシステム整備が行われることも想定されるところである。
また、市町村においては、今後も、通知カード・個人番号カード関連事務をJ-LISに行わせるなどして、通知カードや個人番号カードの交付等を行っていくこととなる。そして、マイナンバー制度の普及のために個人番号カードの利活用の推進等の取組が進められているところである。
ついては、内閣官房、総務省及び厚生労働省において、地方公共団体におけるマイナンバー制度に係る補助事業の実施等について、今後、次の点に留意して取り組んでいく必要がある。
通知カードについては、市町村が受取人に確実に交付できるよう、総務省において、今後も返戻された通知カードに関する調査等に関して、市町村に対して必要な助言を行うこと。また、個人番号カードについては、市町村が、交付事務に係る人員体制等の不備、J-LISの情報システムの障害等により滞留することがないように交付を行い、個人番号カードの利活用について速やかに検討し利活用を行うことができるよう、総務省において、今後も個人番号カードの交付や利活用に関して、市町村に対して必要な助言を行うこと
会計検査院としては、マイナンバー制度が社会保障・税制度の効率性・透明性を高め、国民にとって利便性の高い公平・公正な社会を実現するための社会基盤であることを踏まえつつ、今後行われることとなる情報連携を含めたマイナンバー制度の実施状況等について、引き続き多角的な観点から検査していくこととする。