我が国は、科学技術創造立国を目指して科学技術の振興を強力に推進していくため8年度から科学技術基本計画に基づいて各種の科学技術施策を実施しており、多額の科学技術関係予算を毎年度投入している。そして、国立研究開発法人は、科学技術イノベーションに係る主要な実施主体であり、国家的又は国際的な要請に基づき、民間では困難な研究開発に取り組む法人となっている。
また、会計検査院は、平成23年度決算検査報告に特定検査対象に関する検査状況として「研究開発法人の業務の状況について」を掲記しており、独立行政法人に対する見直しの状況や社会経済情勢の変化等に留意しつつ、法人の研究開発等の状況について、多角的な観点から引き続き検査していくこととしている。
そこで、国立研究開発法人における研究開発の実施状況について、正確性、合規性、経済性、効率性、有効性等の観点から、法人ごとの研究開発に係る収支の状況はどのようになっているか、特に、研究費の確保のため、外部資金の獲得は進んでいるか、研究開発の目的が法人に与えられたミッションに沿ったものとなっているかを確認する体制は整備されているか、研究開発に対する評価は適切に行われているか、研究開発の評価結果は翌年度以降の年度計画や業務運営の改善に適切に反映されているか、研究開発力強化法に定められた人材活用等に関する方針は適切に作成され、公表されているか、若年研究者の人材の活用の状況はどのようになっているか、研究開発成果は、法人の財産として管理され、特に、研究開発成果の一つである特許権は財務諸表において適切に表示されているか、公的研究費に係る不正の防止に係る体制は適切に整備されているかに着眼して検査した(8001_1_1リンク参照)。
国立研究開発法人31法人の27年度の収入額は計1兆5700億余円となっており、23年度と比べて1013億余円増加(23年度に対して6.8%増加)していた。収入額のうち、運営費交付金は8817億余円となっており、収入全体の過半を占めているものの、23年度と比べて362億余円減少(同4.0%減少)していた。27年4月に設立され又は統合されたため比較ができない2法人を除く29法人の運営費交付金の状況を法人別にみると、27年度の運営費交付金が23年度と比較して増加している法人は4法人であり、25法人は運営費交付金が減少していて、このうち7法人については、23年度から年々減少していた。国立研究開発法人31法人の27年度の支出額は計1兆5758億余円となっており、23年度と比べて1443億余円増加(同10.0%増加)していた。支出額のうち、研究費は5730億余円となっており、23年度と比べて165億余円増加(同2.9%増加)していた。また、資金配分額は3838億余円となっており、1443億余円増加(同60.2%増加)していた。
研究実施法人28法人のうち比較ができない1法人を除く27法人において、27年度の外部資金の獲得額が23年度と比べて増加している法人は18法人であり、残りの9法人については外部資金の獲得額が減少していた(8014_3_1リンク参照)。
主務大臣は、中長期目標の策定において、国立研究開発法人の目的である「研究開発成果の最大化」と「適正、効果的かつ効率的な業務運営」との両立に資するよう目標を定め、中長期目標の期間における法人のミッション等を具体的かつ明確にする必要があるとされている。
国立研究開発法人は、研究費の確保のため外部資金獲得を促進するとされている一方、主務大臣から示されたミッションに沿って研究開発を行う必要があることから、外部資金を獲得する際、その研究目的が当該法人のミッションに沿ったものとなることが求められる。
そこで、研究実施法人28法人において、外部資金を獲得する際、その研究目的が法人のミッションに沿ったものになっているかを確認する旨の規程等を設けているかをみたところ、一部又は全部の外部資金による研究開発について確認する旨の規程等を設けていない法人は12法人となっていた。また、外部資金を獲得する際、研究者のエフォートや研究機器等の利用等の面で法人の業務遂行に支障を来さないかを確認する旨の規程等が整備されているかをみたところ、一部又は全部の外部資金による研究開発について確認する旨の規程等を設けていない法人は15法人となっており、このうち、一部の外部資金による研究開発について確認を行っていない法人は1法人となっていた(8014_3_2_1リンク参照)。
国立研究開発法人31法人における研究開発課題等の実施状況をみたところ、27年度の研究開発課題等の件数及び当該課題等に係る研究費の執行又は配分の額は、12,535件及び1兆0575億余円となっており、27年4月に日本医療研究開発機構が新たに設立され、26年度まで国が実施していた事業の一部が同機構に移管されたことなどにより、23年度と比較してそれぞれ34.0%及び30.4%増加していた(8014_3_2_2リンク参照)。
通則法に基づく法人評価は、原則、目標項目を評価単位とすることとされており、国立研究開発法人31法人の27年度における評価単位についてみたところ、いずれも中長期目標又はこれに基づき作成した中長期計画等において設定した目標項目となっていた。27年度における項目別評定の主務大臣評価及び各国立研究開発法人31法人の自己評価について、研究開発評価項目の評価結果をみたところ、計200項目のうち評価結果がB評価以上となっている項目がいずれの評価ともに198項目となっていた(8014_3_2_3リンク参照)。
主務大臣は、中長期目標の策定時に評価軸を設定し法人に提示することとされており、法人及び主務大臣は、評価軸を基本として評価を行うこととされている。国立研究開発法人31法人における研究開発評価項目について、評価軸と関連する指標等のうち、定量的な指標の設定状況をみると、27年度に中長期目標が策定されている10法人においては、1法人の1項目を除いた計41研究開発評価項目について定量的な指標の設定がされていた(8014_3_2_4リンク参照)。
独法評価指針において、主務大臣による評価手法の一つとして、研究開発活動に係る成果とインプットとの対比を行うなどにより、評価の実効性を確保するものとされており、評価書において、インプット情報として、評価項目ごとに予算額及び決算額、経常費用等を記載することが求められている。また、各評価項目のインプット情報は、対応するセグメント情報等を用いて記載されることが想定されている。しかし、中長期目標が策定されている10法人のうち、研究開発評価項目とセグメントとが適切に対応していない法人が1法人、研究開発評価項目とセグメントとが対応しているものの、セグメント情報等を適切に用いて評価書に記載していない法人が5法人見受けられた。また、当該10法人における主務大臣評価及び自己評価において、インプット情報を評価に活用していなかった(8014_3_2_5リンク参照)。
自己評価書は、主務大臣評価のための情報提供に資するものとなっており、その作成に当たっては、記載内容の客観性や信憑性に十分留意しつつ、外部評価の結果等を適切に活用し、自己評価に反映するよう努めることとなっている。国立研究開発法人31法人における外部評価の活用状況等をみると、21法人は項目別評定の実施に当たり外部評価を行っており、10法人は項目別評定の実施に当たり外部評価を行っていないものの、別途実施している研究開発課題等に対する外部評価の結果を項目別評定の評価に反映するとしている(8014_3_2_6リンク参照)。
独立行政法人は、評価結果を翌年度以降の年度計画や業務運営の改善に適切に反映させるとともに、毎年度、評価結果の反映状況を公表しなければならないこととされている。27年4月に設立された1法人を除く国立研究開発法人30法人における26年度評価結果の反映状況等をみると、いずれの法人も、翌年度以降の業務運営や予算配分等に評価結果を反映したとしていた。そして、その公表状況をみると、20法人においては、27年度の評価書に26年度評価結果の反映状況に係る項目を設けて記載したり、評価書とは別に反映状況を取りまとめた資料を作成したりすることにより評価結果の反映状況を明確にして公表していたが、10法人においては、これらの方法等により反映状況を明確にして公表していなかった。このうち、4法人においては、29年2月に評価書とは別に反映状況を取りまとめた資料を作成して公表しており、残りの6法人においては、今後公表する予定としている(8014_3_2_7リンク参照)。
研究開発力強化法によれば、国は、研究開発法人による若年研究者等の能力の活用の促進に必要な施策を講ずるものとされており、研究開発法人は若年研究者等の能力の活用を図ることについて努めることとされている。
国立研究開発法人31法人における27年度末の研究者は15,134人と23年度末と比べて3.3%の減少となっていた。また、研究者のうち、若年研究者の人数は4,258人と23年度末と比べて17.0%の減少となっており、全研究者に対する若年研究者の割合については、23年度が32.7%であるのに対し27年度が28.1%となっており低下していた。
また、研究実施法人28法人について、若年研究者が自ら研究代表者として27年度に獲得した競争的資金の状況をみたところ、若年研究者の獲得金額は、26億余円と23年度に比べて12.4%減少しているが、獲得件数は、1,106件と8.0%増加していた。そして、若年研究者の獲得金額は全研究者の獲得金額の13.7%を占めており、獲得件数は26.8%となっていた(8014_3_3_1リンク参照)。
国立研究開発法人は、人材活用等に関する方針を研究開発力強化法に基づき、内閣総理大臣の定める基準に沿って作成し、遅滞なく公表しなければならないとされている。
そこで、国立研究開発法人31法人の27年度末における人材活用等に関する方針の作成の状況をみたところ、19法人は人材活用等に関する方針を作成していた。また、その公表の状況をみたところ、19法人のうち18法人は公表していたが、1法人は公表していなかった。一方、12法人は人材活用等に関する方針を作成していなかった。そして、12法人のうち4法人は、各法人の中長期計画等に、内閣総理大臣の定める基準に規定されている事項の一部を盛り込んでいるとしているものの、8法人は、当該事項について盛り込んでいるものはなかった。なお、人材活用等に関する方針を作成しているものの公表していなかった1法人においては、会計検査院の検査を踏まえて、29年2月に公表した。また、作成していない12法人のうち、10法人は、29年2月末までに会計検査院の検査を踏まえるなどして作成して、公表しており、残りの2法人においては、今後、作成して、公表する予定としている(8014_3_3_2リンク参照)。
国立研究開発法人における研究開発成果は多岐にわたっており、その代表的なものとして、研究成果として発表される学術論文等が挙げられる。そこで、研究実施法人28法人において、査読付論文の発表数についてみたところ、27年度における査読付論文の発表数が23年度に対して30%以上増加している法人が5法人見受けられる一方、30%以上減少している法人が2法人見受けられた(8014_3_4_1リンク参照)。
研究実施法人28法人における特許権等の保有状況等をみたところ、27年度末時点で、22,328件の特許権等を保有し、27年度における特許権等に係る収入は15億4571万余円となっており、このうち、実施許諾収入が15億1759万余円となっていた。
そして、会計基準において、特許権等は独立行政法人の資産として位置付けられ、無形固定資産に属するものとされており、無形固定資産に属する資産は、特許権、実用新案権、意匠権等の当該資産を示す名称を付した科目をもって表示しなければならないとされている。しかし、27年度の貸借対照表に特許権を資産として計上していなかった法人が7法人見受けられ、また、資産として計上している21法人における表示科目をみると、「その他無形固定資産」に含めて表示している法人が5法人見受けられた(8014_3_4_2リンク参照)。
発注については、原則として事務部門が実施することとし、研究者による発注を認める場合は、一定金額以下のものとするなど明確なルールを定めた上で運用するとされている。そこで、研究実施法人28法人の規程等における発注権限の定めについて、27年度末の状況をみたところ、13法人については、事務部門が全て一元的に発注することとなっていた。また、15法人については、一定金額未満の消耗品の購入、緊急を要する場合等において研究部門が直接発注できることとなっており、このうち、研究部門が発注できる場合の条件を規程等で定めている法人は14法人となっていて、残りの1法人は条件を定めていなかった。なお、この1法人は、28年6月に発注を例外的に認める場合の条件を規程で明確に定めた(8014_3_5_1リンク参照)。
検収については、原則として事務部門が実施することとし、一部の物品等について事務部門の検収業務を省略する例外的な取扱いとする場合は、検収に専門的知識を要するものとするなど明確なルールを定めた上で運用し、定期的に抽出による事後確認を実施する必要があるとされている。そこで、研究実施法人28法人の規程等における検収を実施する部門に関する定めについて、27年度末の状況をみたところ、17法人については、事務部門が全て一元的に検収することとなっていた。また、11法人については、一部を研究部門が検収する場合があることとなっており、このうち、研究部門が検収を行うことができる条件を規程等で定めている法人は10法人となっていて、残りの1法人は条件を定めていなかった。また、11法人のうち6法人が事務部門による定期的な事後確認の方法を定めており、5法人は定めていなかった。なお、研究部門による検収を例外的に認める場合の条件及び事務部門による定期的な事後確認の方法を定めていなかった1法人は、28年6月にそれらを規程で明確に定めた(8014_3_5_2リンク参照)。
第4期基本計画によれば、科学技術イノベーションに係る政策の一体的展開、人材とそれを支える組織の役割の一層の重視及び社会とともに創り進める政策の実現の三つを科学技術政策の基本方針とし、第4期基本計画の計画期間中の政府としての研究開発に対する投資額(地方公共団体の分を含む。)を対GDP比率1%、総額約25兆円にすることを目指すこととされている。
国立研究開発法人は、科学技術イノベーションに係る主要な実施主体であり、国家的又は国際的な要請に基づき、民間では困難な研究開発に取り組み、研究開発の最大限の成果を確保することを目的として、中長期的な視点に立って業務を執行することが求められている。
したがって、国立研究開発法人において、効果的かつ効率的という業務運営の理念の下、研究開発の最大限の成果が確保されるよう、国立研究開発法人及び主務府省においては、次の点に十分留意することが必要である。
会計検査院としては、国立研究開発法人における研究開発の実施状況について、今後とも多角的な観点から引き続き注視していくこととする。