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  • 国会及び内閣に対する報告(随時報告)|
  • 会計検査院法第30条の2の規定に基づく報告書|
  • 平成29年3月|

各府省等における研究開発事業の実施状況等について


4 所見

(1) 検査の状況の概要

我が国は、科学技術創造立国を目指して科学技術の振興を強力に推進していくため、8年度から基本計画に基づいて各種の科学技術施策を実施しており、多額の科学技術関係予算を毎年度投入している。特に、近年は、我が国の経済社会の活力の向上及び持続的発展を図るためには、科学技術の振興を通じたイノベーションの創出を促進することが重要であるとの基本的な考え方の下で、CSTIの司令塔機能の強化、総合戦略の策定等が行われている。このような状況の下、研究開発事業を実施する内閣府等の10府省等においては、引き続き、第5期基本計画に基づき、取り組むべき研究開発課題等の決定から目標の達成、成果の利活用まで適切に実施するとともに、適切な評価を行い、優れた研究開発を効果的・効率的に推進すること、また、科学技術政策の司令塔であるCSTIにおいては、科学技術関係予算の適切な配分の検討に資する情報を適切に収集し、司令塔機能の強化に努めることが重要である。

そこで、各府省等における研究開発事業の実施状況等について、正確性、合規性、経済性、効率性、有効性等の観点から、研究開発事業経費の執行、配分等の状況はどのようになっているか、CSTIは科学技術関係予算の適切な配分の検討に資する情報を適切に収集しているか、実施する研究開発課題等は適切に決定されているか、研究開発はその進捗状況に応じ、適切に評価が行われているか、研究開発は所期の目標が達成されているか、研究開発の成果は適切に活用が図られるなどしているかなどに着眼して検査を実施した。

ア 研究開発事業経費の執行、配分等の状況

(ア) 研究開発事業経費の執行状況等

CSTI及び各府省等において、一部の事業を除き、研究開発事業経費の執行状況を把握又は算出することとはしていないとしていた。そこで、26、27両年度に実施した研究開発事業515事業について府省等別の研究開発事業経費の執行状況を整理すると、支出額は計1兆6689億余円(26年度401事業7986億余円、27年度389事業8702億余円)、翌年度繰越額は26年度920億余円、27年度264億余円、不用額は26年度255億余円、27年度210億余円となっていた。また、研究開発事業における支出額全体の81.7%が資金配分事業によるものとなっていた(9016_3_1_1リンク参照)。

(イ) CSTIにおける科学技術関係予算の適切な配分の検討に資する情報の収集状況

CSTIが研究開発事業515事業の研究開発事業経費の執行状況を把握しているかをみると、490事業(515事業の95.1%、支出額計1兆6177億余円)については把握することとしていなかった(9016_3_1_3リンク参照)。

資金配分機関が26年度に実施した競争的資金制度に係る研究開発事業128事業に関するe-Rad上の事業の区分である136区分について、資金配分機関におけるe-Rad上の開示承認手続の実施状況をみると、CSTIからの依頼に基づいて27年7月末までに開示承認手続を行っていたものは、7区分(136区分の5.1%)にとどまっており、大部分の事業では期限までに開示承認手続が行われていなかった。また、期限の1年後である28年7月末までに開示承認手続が行われていない区分が特に多い資金配分機関は、厚生労働省(20区分)であった(9016_3_1_3_2リンク参照)。

イ 研究開発課題等の決定等の状況

(ア) 研究開発課題等の公募及び決定の状況

研究開発課題等の決定に当たり、26、27両年度に新規採択された研究開発事業342事業について、資金配分事業では328事業のうち308事業が公募により、直接実施事業の14事業の全てが各府省等で公募によらずに決定されていた(9016_3_2_1リンク参照)。

(イ) 研究開発課題等の決定におけるe-Radを活用した不合理な重複及び過度の集中の確認状況

26年度に実施された競争的資金制度に係る研究開発事業128事業について、資金配分機関による採択結果及び交付・配分決定の情報のe-Radへの登録状況をみると、採択結果の情報については、登録の対象となるe-Rad上の事業の区分計120区分のうち、全ての情報が期限までに登録されていたものは、23区分(120区分の19.1%)にとどまっており、大部分の事業の区分で登録が遅れるなどしていた。登録することとされている期限から1年以上経過した28年7月末においても全ての情報が登録されていない区分が特に多い資金配分機関は、厚生労働省(10区分)であった。また、交付・配分決定の情報については、登録の対象となるe-Rad上の事業の区分計138区分のうち全ての情報が期限までに登録されていたものは、21区分(138区分の15.2%)にとどまっており、大部分の事業の区分で登録が遅れるなどしていた。登録することとされている期限から1年以上経過した28年7月末においても全ての情報が登録されていない区分が特に多い資金配分機関は、厚生労働省(16区分)であった。

上記のように、資金配分機関による採択結果及び交付・配分決定の情報のe-Radへの登録が遅れており、他の資金配分機関に対するe-Radを通じた情報の提供が遅滞するなどしているため、資金配分機関は、研究開発課題等の決定に当たり行うこととされている不合理な重複及び過度の集中の排除にe-Radを十分に活用できない状況となっていた(9016_3_2_2リンク参照)。

e-Rad上のエフォートの登録状況をみたところ、研究者117人のe-Rad上のエフォートの合計値が100%を超えていて、当該研究者に係る研究開発課題494件(研究開発の資金の配分金額計23億余円)のe-Rad上のエフォートは、適切なものとなっていなかった。そして、117人の研究者の研究開発課題をみると、全ての研究者において科研費事業の研究開発課題が含まれていた。

e-Rad上のエフォートが適切なものとなっていなかったのは、各研究者において、各研究開発課題の応募の際に適切なエフォートが登録されていなかったこと、また、採択時又は採択後、e-Rad上でのエフォートの変更の届け出を行っていなかったことにもよるが、①各資金配分機関において、研究開発課題ごとのエフォートの確認が十分でなかったこと、②JSPSにおいて、研究者のエフォートの合計値が100%以下となっているかの確認が十分でなかったこと、③文部科学省において、科研費事業の研究開発課題等に関する情報を一括してe-Radに登録する際に、研究者のエフォートの合計値が100%以下となっているかの確認が十分でなかったことによると認められた。

当該研究者のエフォートについては、既に中止又は廃止された研究開発課題等に係る情報がe-Radに登録されたままとなっていたことなどにより、その合計値が100%を超えていたものであり、結果的には当該研究者は過度の集中に該当する者ではなかったものの、JSPS等の各資金配分機関において、研究開発課題等の決定に当たり、エフォートの合計値が100%以下となっているかの確認が十分に行われないまま採択されていたことになる。

このように、過度の集中の有無の確認に必要な情報が、正確に他の資金配分機関に提供されておらず、e-Radは、資金配分機関における研究開発課題等の決定に当たり、過度の集中の有無の確認に活用し過度の集中を排除することを支援するという本来の機能を十分発揮していない状況となっていた(9016_3_2_2_2リンク参照)。

ウ 研究開発の評価及び研究開発終了後の目標達成等の状況

(ア) 研究開発の中間評価の実施状況

26、27両年度に実施された研究開発事業515事業のうち、26、27両年度に中間評価を実施した研究開発課題がある研究開発事業は、26年度153事業、27年度178事業となっていた。

上記の事業における中間評価を実施した研究開発課題26年度2,272件、27年度2,293件のうち、26年度2,253件(2,272件の99.1%)、27年度2,265件(2,293件の98.7%)と大部分の研究開発課題が中間評価を経て研究開発を継続しており、中間評価の結果により中止された研究開発課題は、26年度19件(2,272件の0.8%、中止に係る返還額計1441万余円)、27年度28件(2,293件の1.2%、同8103万余円)となっていた。

中止された研究開発課題の評価結果をみると、研究開発終了までに目標達成が見込めなくなったなどの理由によるものであった(9016_3_3_2リンク参照)。

(イ) 研究開発の事後評価の実施状況

26、27両年度に実施された研究開発事業515事業のうち、26、27両年度に事後評価を実施した研究開発課題がある研究開発事業は、26年度146事業、27年度112事業となっていた。

事後評価においては、研究開発課題の目標の達成度合等に応じて、評価結果を点数で評価する場合は基準点を、また、A、B、C等の段階で評価する場合は基準段階をそれぞれ設定して、研究目標が達成されたとされる基準点以上又は基準段階以上を合格、基準点未満又は基準段階未満を不合格として評価する場合がある。上記の26年度146事業、27年度112事業における研究開発課題26年度2,508件、27年度1,560件のうち、研究目標が達成されたとされる場合の基準点又は基準段階が設定されていた研究開発課題26年度1,786件、27年度859件についてみると、基準点又は基準段階以上の研究開発課題は、26年度1,758件(1,786件の98.4%)、27年度844件(859件の98.2%)となっていて、大部分の研究開発課題が研究目標を達成したとしていた。

そして、事後評価において基準段階未満となった研究開発課題は、26年度4事業の28件(支払額計1億6094万余円)、27年度5事業の15件(同4億7547万余円)、計9事業の43件(同6億3642万余円)となっており、これらの大部分は、AMED及びJSTに係るもの(26年度2事業の25件、27年度5事業の15件、計7事業の40件)となっていた。

上記の基準段階未満となった研究開発課題が見受けられた9事業の状況をみると、基準段階未満となったのは、全研究開発課題1,064件のうちの43件であり、全研究開発課題の大部分を占める残りの1,021件(1,064件の95.9%)は基準段階以上となっていたことから、目標を達成したとしていた。

この9事業のみが基準段階以上と未満の両方の評価ができた理由は、全て応用研究又は開発研究を対象に含む研究開発事業であり、事業計画書等において研究開発の実施予定項目とその達成すべき目標が実施予定時期と関連付けられて設定されていたことから、目標の達成度合が明確に判定できたと考えられる(9016_3_3_3リンク参照)。

エ 研究開発の成果の活用等の状況

(ア) 特許権等の取得及び活用の状況

直接実施事業を実施する6省等(11部局等)における特許権等の取得の状況をみると、国内外で特許出願等を行い、28年4月1日現在で979件が登録されていた。これらは、意匠権4件を除き全て特許権であった。そして、特許権等の活用の状況は、実施権の許諾を行ったものが28件(979件の2.8%)、自ら実施しているものが17件(同1.7%)となっていた。また、特許権等979件の権利の存続期間の満了までの年数は、存続期間が10年以上あるものが223件(979件の22.7%)、満了まで5年以上10年未満のものが297件(同30.3%)、5年未満のものが459件(同46.8%)となっており、大部分の特許権等が特許出願等から時間が経過したものであった。これは、特許料の納付が免除されているため費用面から活用の見込みなどの維持の要否について判断する必要がないことなどが考えられる(9016_3_4_3_2リンク参照)。

資金配分機関が26、27両年度中に把握した研究開発課題延べ28,576件について、資金配分先における特許権等の取得及び活用の状況をみると、特許出願等を行っていたものが11,299件、特許権等として登録されていたものが1,790件となっていた。活用の状況については、特許発明の実施等又は実施権の許諾等を行っているものが502件、専用実施権の設定を行っているものが1件、他法人に権利を移転したものが175件となっていた(9016_3_4_3_3リンク参照)。

(イ) 日本版バイ・ドール制度の運用状況

会計検査院が会計実地検査を行った資金配分先14法人のうち、26年度中に国の資金を原資とした委託契約の成果について特許権の登録、実施権の許諾、特許権の移転又は廃棄のいずれかを行っていた法人は12法人となっていた。この資金配分先12法人について、バイ・ドール条項に基づく報告又は承認の状況をみたところ、4法人は適切に報告等を行っていたが、8法人は、特許権計203件のうち165件(特許権に係る研究開発を行った委託契約68件、支払額計226億余円)について、特許権の登録等から1年以上経過しているにもかかわらずバイ・ドール条項に基づき行うこととされている資金配分機関への報告を行っていなかった。そして、資金配分先8法人において報告を行っていなかった理由は、バイ・ドール条項に基づく報告義務等がある特許権であることを把握した上での特許権の管理及び法人内の特許権の管理部門と研究開発の実施部門との間の情報共有等が十分でないことによるものが5法人、法人内の特許権の管理部門と研究開発の実施部門との間の情報共有等が十分でないことによるものが2法人、法人においてバイ・ドール条項に基づく報告義務があることについての理解が十分でないことによるものが1法人となっていた。このように、資金配分機関が委託契約の締結時等に周知を行っているにもかかわらず、バイ・ドール条項に基づいて資金配分先が行うこととされている資金配分機関への報告が適切に行われておらず、資金配分機関において資金配分先における特許権等の取得及び活用の状況を十分把握できないため、資金配分機関がバイ・ドール条項の適用がある特許権等の効率的な活用や普及の促進の検討を十分に行うことができないおそれがある状況となっていた(9016_3_4_4リンク参照)。

(ウ) 国の特許権等に係る管理等の状況

直接実施事業を実施する6省等(11部局等)における23年度から27年度までの間の特許出願等の状況及び特許等を受ける権利の研究者からの承継手続に係る書類の作成状況をみると、特許出願等を行った実績がない環境省を除く5省等のうち、4省は承継手続に係る書類を作成していたが、警察庁は、承継手続に係る書類を作成しておらず、承継手続が適切に行われたことが確認できない状況となっていた(9016_3_4_5リンク参照)。

直接実施事業を実施する6省等(11部局等)が保有する特許権等の国有財産台帳への登録状況をみると、警察庁及び厚生労働省は、特許権計26件について、その取得から1年以上経過しているのに28年4月1日時点で国有財産台帳に登録していなかった(国有財産台帳に登録した後の台帳価格計0円)。また、厚生労働省及び国土交通省は、23年度から27年度までの間に実施権の許諾による収入がある特許権のうち計11件について、年度末に収入額を基に価格改定を行っておらず、28年4月1日時点で0円(誤びゅう訂正後の台帳価格計1309万余円)のままとしていた(9016_3_4_5_2リンク参照)。

(2) 所見

科学技術の水準の向上を図り、我が国の社会経済の発展と国民の福祉の向上を図ることは、科学技術イノベーションに係る政策に一貫して求められている。このため、研究開発事業を実施する内閣府等の10府省等においては、CSTIによる科学技術の総合的かつ計画的な振興を図るための基本的な政策の企画立案及び総合調整の下、引き続き、第5期基本計画に基づき、取り組むべき研究開発課題等の決定から目標の達成、成果の活用等まで適切に実施するとともに、適切な評価を行い、優れた研究開発を効果的・効率的に推進することが重要である。また、科学技術政策の司令塔であるCSTIにおいては、科学技術関係予算の適切な配分の検討に資する情報をより適切に収集し、司令塔機能の強化に努めることが重要である。

したがって、CSTI及び各府省等において、次の点に留意して、研究開発事業の実施等を行うことが必要である。

  • ア 科学技術関係予算の適切な配分の検討に資する情報の収集について、
    • (ア) CSTIにおいて、科学技術関係予算の全体像を把握して、科学技術関係予算の適切な配分の検討に資するために、研究開発事業経費の執行状況に係る情報を収集して、把握することを検討すること
    • (イ) 厚生労働省等において、研究開発に関して総括する部局等が開示承認手続の進捗状況を確認するなどして、CSTIの依頼に応じ、開示承認手続が適時適切に行われるようにすること
  • イ 研究開発課題等の決定等について、
    • (ア) 厚生労働省等において、他の資金配分機関が研究開発課題等を決定するに当たり、不合理な重複及び過度の集中の確認を効率的に実施できるように、研究開発に関して総括する部局等が採択結果等の情報のe-Radへの登録状況を把握するなどして、e-Radへの登録を速やかに行えるようにすること
    • (イ) 文部科学省において、研究開発課題等の決定に当たり、過度の集中を排除することを支援するというe-Radの本来の機能を十分発揮させるよう、科研費事業の研究開発課題に関する情報を一括してe-Radに登録する際に、登録、確認方法等を検討するなどして、エフォートの合計値が100%以下となっているかを十分確認できるようにすること
  • ウ 応用研究又は開発研究を対象に含む研究開発事業を実施する各府省等において、目標の達成度合を明確に判定できるよう事業計画書等であらかじめ研究開発の実施予定項目とその達成すべき目標を実施予定時期と関連付けて設定して、研究開発の評価の効果的な実施に努めること
  • エ 研究開発の成果の活用等について、
    • (ア) 委託事業を行う資金配分機関において、日本版バイ・ドール制度を適切に運用するために、資金配分先に対して、バイ・ドール条項に基づく報告等の義務があることを委託契約の終了時にも周知したり、資金配分先における体制が適切に報告等を行うことのできるものとなっているかを確認したりなどすることを検討すること
    • (イ) 警察庁において、今後の特許出願等を行う見込みなどを踏まえ、職務発明規程を整備するなどして特許等を受ける権利の承継手続を明確にすることを検討すること
    • (ウ) 警察庁及び厚生労働省において、取得した特許権の全てを国有財産台帳に適正に登録すること、厚生労働省及び国土交通省において、実施権の許諾による収入がある全ての特許権について、年度末に収入額を基に台帳価格の改定を行うこと
  • オ CSTIにおいて、アからエまでの事項について、科学技術の総合的かつ計画的な振興を図るための基本的な政策の立案及び総合調整事務等の一環として調査審議の参考にするなどして、引き続き科学技術政策の司令塔としての機能の強化に努めること

会計検査院としては、今後とも各府省等における研究開発事業の実施状況等について、引き続き注視していくこととする。