防衛省は、23年12月20日の安全保障会議決定及び閣議了解に基づき、24年度以降に42機のF-35Aを取得することとしている。F-35Aは装備庁がFMS調達により合衆国政府から調達することとなったが、FMS調達は、合衆国政府から示された条件を受諾することにより防衛装備品等が提供されるものであり、アメリカ合衆国側の事情によって提供の内容や時期が変更されたり、価格等の詳細な内訳が提示されなかったりする場合があるなど、一般的な輸入等による調達とは異なるものである。
一方、F-35Aの調達に当たって、防衛省は、国内企業に外国企業の下請として参画を求める新たな取組を行っており、これを受けて装備庁は、国内企業と初度費契約を締結している。そして、この取組は、装備庁、合衆国政府、国内企業、外国企業といった多様な主体が複雑に関係するものであって、各主体はそれぞれの契約当事者に限定された情報しか得られないものである。また、装備庁は、F-35Aをプロジェクト管理重点対象装備品等として選定してプロジェクト管理を実施している。
そこで、F-35Aの調達等の実施状況について、正確性、合規性、経済性、効率性、有効性等の観点から検査したところ、次のような状況となっていた。
(ア) 23年12月の安全保障会議において決定され閣議了解されたF-35A42機のうち、23中期防及び26中期防においては34機について契約することとしている。装備庁は、このうち、28年度までに計22機について契約を締結していた(11017_3_1リンク参照)。
(イ) 28年度までのF-35Aに係る契約額の計は6256億余円であり、うちFMS調達は4456億余円(71.2%)、FMS調達以外は1799億余円(28.7%)であった(11017_3_1_1リンク参照)。
(ウ) 装備庁は、FMS調達に当たって、機体、エンジン、搭載機器等を機体等ケースで、搭載する弾薬を弾薬ごとの個別のケースでそれぞれ調達していた。そして、機体等ケースにおいて、合衆国政府の要請を踏まえて、複数年度にわたる複数の調達要求品目の調達が1ケースにまとめて行われている(11017_3_1_2リンク参照)。
(エ) F-35Aの円建ての1機当たり本体価格は、FMS調達が行われた24年度以降に支出官レートが一貫して円安に推移したことなどから増加傾向にある。また、装備庁は、25年度以降に国内企業の製造への参画が開始されたことも、1機当たり本体価格の変動要因であるとしているが、価格上昇の要因を定量的に把握することができていない状況となっていた(11017_3_1_3リンク参照)。
(オ) 装備庁は、FMS調達のほかに、F-35A関連施設の監視装置等に係る契約等(契約額計3億余円)を締結していた。また、東北防衛局等は、三沢基地等においてF-35A関連施設の整備等に係る契約(同計68億余円)を締結していた(11017_3_1_4リンク参照)。
(ア) 機体等ケースの前払金の支出決定額は、28年度末までの合計で1791億余円となっていた。(11017_3_2_1リンク参照)。
(イ) 機体等ケースの27調達要求品目に係る111細目のうち、28年度末までに提供の予定時期が到来していたものは8調達要求品目に係る31細目であり、8細目(うち1細目については一部のみ)を受領していたが、その他の23細目は引合受諾書に定められた予定時期が到来していたのに、合衆国政府から提供が行われていなかった。
また、装備庁は、28年度末までに受領したF-35Aについて、開発の遅れにより引合受諾書で要求したものとは異なるソフトウェアが搭載されたものを受領していた。
航空幕僚監部は、受領したF-35A4機について、1機当たり121億余円として国有財産台帳に登載していた(11017_3_2_2リンク参照)。
(ウ) F-35Aに係るケースの取扱いに関して、合衆国政府は我が国の予算年度と予算科目が同一の調達要求品目の提供が完了した後に計算書を送付した上で余剰金の返済を行うとしているが、今後、返済時期が到来した際の計算書の送付期限等の詳細が、28年度末現在、合衆国政府との間で具体的に定められていなかった(11017_3_2_3リンク参照)。
(ア) 国内企業は、機体の最終組立・検査に25年度から、エンジンの最終組立・検査に26年度から参画していた。また、25年度から28年度までの間に参画した各国内企業の下請製造部品の状況について、参画品目の累計は25年度は24品目、26年度は26品目、27、28両年度は29品目となっていた。製造への参画に必要な初度費契約について、25年度から28年度までの間の契約額の合計は1716億余円となっていた(11017_3_3リンク参照)。
(イ) 初度費契約に係る実施計画について、IHI及び三菱電機において、一部を除き、供給元認定の取得の時期が明確となっていなかったり、対応する機体に下請製造部品を供給する前提となっていなかったりしていた。また、両社は、一部を除き、下請製造部品等の供給時期を明確にしていなかった。
引合受諾書に基づき下請製造を行うこととしており、25年度機からIHI及び三菱電機の下請製造部品等を搭載するために、装備庁は、合衆国政府と調整し、各国内企業の下請製造の工程を確認すべきであったのに、これらを十分に行っていなかった。このため、各国内企業が作成した実施計画は、下請製造部品等を対応する機体に搭載することを前提とした整合性の取れたものとなっていなかった(11017_3_3_1_2リンク参照)。
(ウ) IHI及び三菱電機は、28年度末現在、下請製造部品に係る契約を締結しておらず、国内企業の製造への参画を通じた防衛生産・技術基盤の維持・強化についての効果は十分に発現していなかった(11017_3_3_1_2リンク参照)。
(ア) LCCについて、初年度である24年度算定において1兆9195億円であったものが、為替レートの変動や国内企業参画等により、最新の28年度見積りにおいて2兆2287億円に増加していた(11017_3_4リンク参照)。
(イ) 取得戦略計画策定時のLCCの見積りに当たり、装備庁は、見積計画を文書として作成していなかった。また、次回のLCCの見積りに当たり、見積計画を文書として作成していたものの、装備庁長官の決裁等を得ていなかった(11017_3_4_2リンク参照)。
(ウ) 感度分析について、その実施結果が取得戦略計画の中に示されておらず、また、その他F-35Aの取得プログラムに係る会議や各種報告のいずれにおいても、装備庁及び関係各組織で共有されていなかった(11017_3_4_2_3リンク参照)。
(エ) 取得プログラムの分析及び評価の結果について、装備庁は、28年度第1四半期の防衛大臣への報告を行っていなかったが、これは、取得戦略計画の策定が28年7月となったことなどのためであった。(11017_3_4_2_4リンク参照)。
装備庁において、今回の検査により明らかになった状況を踏まえて、F-35Aの調達等がより適切に行われるよう、次の点に留意することが必要である。
会計検査院としては、次期戦闘機(F-35A)の調達等の実施状況について、今後とも多角的な観点から引き続き検査していくこととする。