国立研究開発法人日本原子力研究開発機構は、国立研究開発法人日本原子力研究開発機構法(平成16年法律第155号)等に基づき、核燃料サイクル(注1)を確立するための高速増殖炉及びこれに必要な核燃料物質の開発を行うことなどを目的として、高速増殖原型炉もんじゅ(以下「もんじゅ」という。)の研究開発を実施している。
国は、資源の有効利用、廃棄物の減容等を図ることを目的として、これまで一貫して核燃料サイクルの推進を原子力政策の基本方針としている。そして、国は、核燃料サイクルを推進するために、①燃料を加工(注2)する燃料加工施設、②加工した燃料を使用して発電を行う発電用原子炉、③発電用原子炉で使用した使用済燃料を再処理(注3)する再処理施設等をそれぞれ整備することとしている(図表0-1参照)。
図表0-1 核燃料サイクルの仕組み
核燃料サイクルには、既存の原子力発電所に設置されている軽水炉(注4)を発電用原子炉とした軽水炉サイクルや、高速増殖炉を発電用原子炉とした高速増殖炉サイクルがある。そして、高速増殖炉は、原子炉の型式の一つであり、主に高速中性子を利用して臨界(注5)を維持し、かつ、その過程で、燃料として利用できる核分裂性物質の量が炉心で増殖していく原子炉である。高速増殖炉は、燃料としてプルトニウムとウランの混合酸化物が、冷却材(注6)としてナトリウムがそれぞれ使用され、また、減速材(注7)は使用されない。
国内の原子力の研究、開発及び利用に係る長期にわたる基本的かつ総合的な目標・方針等として、原子力委員会(注8)が昭和31年9月に策定した「原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画」(以下「原子力長期計画」という。)では、資源の有効利用の面から最も国情に適合するとして、高速増殖炉の国産に目標を置くとされていた。
また、42年4月に改定された原子力長期計画では、当面は軽水炉が原子力発電の主流となることが想定されていたが、資源の有効利用の面から、高速増殖炉が将来の原子力発電の主流となるべきものと位置付けて、その早期実用化を促進するとともに、核燃料サイクルの確立を図る必要があるとされていた。そして、高速増殖炉の開発を国のプロジェクトとして実施することとして、42年度から高速増殖炉の開発に本格的に着手し、実験炉で技術の基礎を確認し、原型炉で発電技術を確立して、必要に応じて経済性を見通す実証炉の段階を経て、商業炉として実用化を目指すとしており、このうち原型炉については、40年代後半に原子炉を建設し、50年代初期に運転を開始することとした。そして、もんじゅは、高速増殖炉の原型炉として、福井県敦賀市に建設されている研究開発のための発電用原子炉である。
もんじゅは、上記のとおり、高速増殖炉の原型炉であり、熱出力71万4000kW、電気出力28万kWの発電用原子炉である。
もんじゅのプラントは、主に炉心を収めた原子炉容器、炉心で発生した熱を移送し冷却するための1次冷却系設備及び2次冷却系設備、2次冷却系設備から移送された熱により発電を行う水・蒸気系設備、原子炉容器と1次冷却系設備を収めた原子炉格納容器により構成されている。
炉心で発生した熱は、1次冷却系設備を循環する冷却材のナトリウム(以下「1次冷却系ナトリウム」という。)によって中間熱交換器まで移送され、中間熱交換器において、2次冷却系設備を循環する冷却材のナトリウム(以下「2次冷却系ナトリウム」という。)に移送される。そして、2次冷却系ナトリウムによって蒸発器・過熱器まで移送され、蒸発器・過熱器において、水・蒸気系設備を循環する水に移送される。これにより、水は蒸気に変化し、この蒸気がタービンを回転させることで発電が行われる。そして、蒸気は復水器において再び水に変化し、水・蒸気系設備を循環する(図表0-2参照)。
図表0-2 もんじゅのプラントの主な設備
もんじゅは、万一、冷却系設備を循環するナトリウムが、配管の破損等により水・蒸気系設備を循環する水や空気に触れた場合に激しく反応することを考慮し、その影響を直接炉心に与えないために、熱の移送に際して1次冷却系設備と水・蒸気系設備との間に2次冷却系設備を介している。また、原子炉容器と1次冷却系設備は、それぞれ炉心と放射化(注9)した1次冷却系ナトリウムを収めていることから、プラントの安全確保や放射性物質漏えいのリスクの低減を図るなどのため、原子炉格納容器に収められている。
なお、上記のほか、もんじゅの設備として、原子炉・タービン補助設備、燃料取扱・貯蔵設備、放射性廃棄物処理設備、換気空調設備、計測制御設備、電気設備等がある。
そして、国立研究開発法人日本原子力研究開発機構は、「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律」(昭和32年法律第166号。以下「原子炉等規制法」という。)、「研究開発段階発電用原子炉の設置、運転等に関する規則」(平成12年総理府令第122号。以下「研開炉規則」という。)等に基づき、もんじゅの安全確保のために、これらの各設備の点検、試験、検査、補修、取替え、改造その他必要な措置(以下、これらを合わせて「保守管理」という。)を実施することとなっている
発電用原子炉は、原子炉等規制法等に基づき、原子力規制委員会(注10)(平成13年1月6日から24年9月18日までは経済産業大臣、13年1月5日以前は内閣総理大臣)による設置許可を受けた後、設置に係る工事計画の認可を受けて着工し、工事の工程ごとに、工事計画との適合性等を確認する使用前検査を受け、これに合格するなどした上で、運転を開始できることとなっている。また、運転を終了する場合は、廃止措置に関する計画(以下「廃止措置計画」という。)を定め、同委員会の認可を受けて、廃止措置を講ずることとなっている。そして、28年12月時点で、もんじゅは原子炉の据付けは完了しているものの、使用前検査が完了していないことから、運転段階前の建設段階にある発電用原子炉として位置付けられている(図表0-3参照)。
図表0-3 発電用原子炉の各段階
国は、昭和41年5月に策定した動力炉開発の基本方針において、42年度を目途に、高速増殖炉の原型炉開発等を担当する機関を設立することとした。そして、42年10月に、動力炉・核燃料開発事業団法(昭和42年法律第73号)に基づき、高速増殖炉に関する自主的な開発等を計画的かつ効率的に行い、原子力の開発及び利用の促進に寄与することを目的として、原子燃料公社(注11)の組織を承継した動力炉・核燃料開発事業団(以下「動燃事業団」という。)を設立した。
動燃事業団は、原子力委員会が43年4月に策定した「動力炉・核燃料開発事業団の動力炉開発業務に関する第1次基本計画」等に基づき、原型炉であるもんじゅの設計・建設に取り組んできた。しかし、平成7年12月に2次冷却系設備の中間熱交換器出口付近にある配管に取り付けられている温度計部分から2次冷却系ナトリウムが漏えいする事故(以下「ナトリウム漏えい事故」という。)や9年3月に動燃事業団の茨城県所在の東海事業所のアスファルト固化処理施設における火災爆発事故が発生したり、これらの事故に関して虚偽報告がなされるなどの不祥事があったりしたことから、国は、動燃事業団の組織・体制について抜本的な改革を図る必要があるとして、10年10月に、動燃事業団を核燃料サイクル開発機構に改組して、核燃料サイクル開発機構において高速増殖炉の開発等を行うこととした。
その後、核燃料サイクル開発機構は、17年10月に、日本原子力研究所(注12)と統合して独立行政法人日本原子力研究開発機構に改組された。そして、独立行政法人日本原子力研究開発機構は、27年4月に、「独立行政法人通則法の一部を改正する法律」(平成26年法律第66号)等に基づき、一定の自主性及び自立性を発揮しつつ、中長期的な視点に立って執行することが求められる科学技術に関する試験、研究又は開発を主要な業務とする独立行政法人として、国立研究開発法人日本原子力研究開発機構に名称変更している(以下、動燃事業団、核燃料サイクル開発機構、独立行政法人日本原子力研究開発機構及び国立研究開発法人日本原子力研究開発機構を合わせて「機構」という。)。
もんじゅの研究開発は、原子力委員会が策定した原子力長期計画(昭和31年9月から平成12年11月まで9度にわたって策定)、その後継の計画として策定された原子力政策大綱(平成17年10月原子力委員会決定)、原子力を含む国内のエネルギーの需給に関する基本的な計画として策定されたエネルギー基本計画(平成15年10月から26年4月まで4度にわたって閣議決定)、国内外の状況を踏まえてもんじゅの役割・位置付けを再整理した研究計画として策定されたもんじゅ研究計画(平成25年9月文部科学省策定)等、その時々の国の方針を踏まえ、プラントの建設、保守管理等を通じて取り組まれてきた。そして、機構は、もんじゅの研究開発を、敦賀事業本部(10年10月1日から26年9月30日までは敦賀本部、10年9月30日以前は敦賀事務所)、高速増殖原型炉もんじゅ(17年10月1日から26年9月30日までは高速増殖炉研究開発センター、昭和60年10月28日から平成17年9月30日までは高速増殖炉もんじゅ建設所、昭和57年10月1日から60年10月27日までは高速増殖炉もんじゅ建設準備事務所、51年8月1日から57年9月30日までは敦賀事務所、49年4月1日から51年7月31日までは高速原型炉建設準備事務所)及びもんじゅ運営計画・研究開発センター(平成25年4月1日から26年9月30日まではFBR安全技術センター、21年4月1日から25年3月31日まではFBRプラント工学研究センター)において実施してきた。
機構は、昭和43年9月にもんじゅの予備設計を開始し、58年5月に原子炉等規制法に基づく原子炉の設置許可を受け、60年10月に着工し、平成3年4月に原子炉の据付けを完了した。
その後、機構は、もんじゅの使用前検査を進めるとともに、建設段階の最終工程として、原子炉起動以降、定格出力までの全出力段階において、プラントの各設備の機能・性能の確認、稼働方法の妥当性の評価、試験データに基づく設備の設計裕度の評価、実証炉の開発に向けた実機データの測定等を目的としたもんじゅの性能全般に係る試験(以下「性能試験」という。)を実施することとして、4年12月から性能試験を開始し、6年4月に初臨界を達成した。
しかし、7年12月にナトリウム漏えい事故が発生したことから、もんじゅはナトリウム漏えい事故発生後22年5月までの14年5か月間にわたり、性能試験を中断した。ナトリウム漏えい事故発生後、機構は、8年10月から10年3月までの間、当時の主務官庁である科学技術庁により、もんじゅの安全性を確認する安全性総点検を受けた上で、もんじゅのナトリウム漏えい対策のための改造工事を実施するために、12年12月に改造工事に係る事前了解願を福井県及び敦賀市に提出し、17年2月に了解を得て、19年8月に改造工事を完了した。そして、改造工事完了後、21年8月まで、ナトリウム漏えい事故以降長期間停止していた設備を含めてプラント全体の健全性確認を進めてきた。
一方、16年8月に民間の原子力発電所において、配管の破損により運転中の発電用原子炉としては国内初となる死亡事故が発生したり、長期間運転している発電用原子炉の増加により、高経年化対策を充実させる必要性が高まったりしたことなどから、旧原子力安全・保安院は、発電用原子炉施設(発電用原子炉及びその附属施設をいう。以下同じ。)の保守管理の内容の充実を図るために、20年8月に、研開炉規則等を改正し、発電用原子炉施設に対して、保守管理の実施体制や実施計画等を具体的に定めたプログラムの導入を求めた。これを受けて、機構は、21年1月に、もんじゅの安全確保に必要な措置を定めた保安規定を改訂して、その中に、もんじゅの保守管理に係る計画、実施、評価及び改善の活動を行うために必要なプロセス等を具体化した保全プログラムを導入し、保全プログラムに基づく保守管理を実施していくこととした。
その後、機構は、22年5月に、炉心確認試験、40%出力プラント確認試験及び出力上昇試験の3段階から成る性能試験を再開したが、炉心確認試験終了後、同年8月に炉心の燃料を交換する際に使用する炉内中継装置の落下事故が発生したことから、再び性能試験を中断した。そして、復旧作業中の23年3月に発生した東北地方太平洋沖地震及びこれに伴う津波の際に、旧東京電力株式会社の福島第一原子力発電所において重大な事故(以下「23年原発事故」という。)が発生し、これを受けて、同年5月以降、国が原子力政策の抜本的見直しを表明したため、機構は、文部科学省の指示により、同年10月に、国の方針が示されるまでの間、性能試験の実施を保留することとした。
また、24年11月にもんじゅの保守管理の不備が確認されたことから、同年12月及び25年5月に原子力規制委員会から保安措置命令を受けて、機構の保安措置が完了し同委員会の確認が完了するまでの間、性能試験の再開準備を進めるための活動を行わないこととされたが、その後も、保安検査(注13)等において、新たな保守管理の不備が複数確認された。そして、同委員会は、27年11月に主務官庁である文部科学省に対して、機構はもんじゅの稼働を安全に行う主体として必要な資質を有していないとして、機構に代わるもんじゅの運営主体を具体的に特定し、特定が困難な場合は、もんじゅの在り方を抜本的に見直すよう勧告を行った。これを受けて、同省が同年12月に設置した「もんじゅの在り方に関する検討会」において、機構の組織的問題に加えて、同省についても、機構に対して保守管理の不備を自律的に解決に向かわせるに足りる指導ができていなかったことが示されるなど、もんじゅに関する主な問題が整理されるとともに、もんじゅの特性を踏まえた保守管理の実施計画の策定や、同計画に基づく保守管理の遂行に係る能力を有することなど、もんじゅの運営主体が備えるべき要件が抽出された。しかし、同省において、機構に代わる具体的な運営主体の特定には至らなかった。
一方で、23年原発事故を踏まえて原子炉の安全確保の一層の向上を図るために、24年6月に原子炉等規制法が改正され、これを受けて、25年7月に「研究開発段階発電用原子炉及びその附属施設の位置、構造及び設備の基準に関する規則」(平成25年原子力規制委員会規則第9号)及び「研究開発段階発電用原子炉及びその附属施設の技術基準に関する規則」(平成25年原子力規制委員会規則第10号)が施行されるなど、炉心の損傷等の重大事故を防止するための基準が強化されるとともに、万一重大事故が発生した場合に対処するための基準が新設されたことから、もんじゅについても、稼働前に、これらの基準(以下「新規制基準」という。)に適合するための対応が求められることとなった。
このように、もんじゅは原子炉の据付け完了後、複数の事故が発生したり、保守管理に係る安全上の問題及び課題が多数生じたりしたことなどから、長期間にわたって稼働できない状況となっていた。
そして、保守管理の不備を踏まえた原子力規制委員会の勧告を受けたものの、機構に代わる具体的な運営主体の特定には至らなかったこと、新規制基準に適合するための対応に相当の時間と費用を要すると見込まれることなどを踏まえて、国は、28年12月に、もんじゅを運転を開始することなく廃止措置に移行することを決定した。
もんじゅの研究開発における運営主体、主な事象、主務官庁等の変遷は図表0-4のとおりである。
図表0-4 もんじゅの研究開発における主な事象等の変遷
会計検査院は、平成7年度決算検査報告に「高速増殖原型炉もんじゅのナトリウム漏えい事故について」を特定検査対象に関する検査状況として掲記し、ナトリウム漏えい事故の原因とされた2次冷却系設備の温度計さやの設計の審査については必ずしも十分ではなかったと思料される旨を記述している。
また、23年11月に、会計検査院法第36条の規定により、機構に対して、もんじゅの研究開発に要した経費の全体規模が把握できるように公表すべき範囲や内容を見直し、当該経費を今後必要になると見込まれる経費とともに適時適切に把握して公表するなどするよう意見を表示している。機構は、これを受け、以前から公表していたもんじゅの研究開発に係る事業費の予算額に加えて、もんじゅの施設等に係る建設費、固定資産税等の支出額を公表するとともに、今後必要となると見込まれる経費については、職員の人件費や固定資産税を含めて予算額を公表し、その後も予算の認可や決算の承認に応じて適宜公表している。