もんじゅの研究開発開始から廃止措置への移行決定までの間で、保存されている決算書等の関係書類で確認できた昭和46年度から平成28年度までの間の研究開発に要した経費の支出額についてみると、もんじゅの建設やその準備に要した経費(以下「建設関連費」という。)は少なくとも計5907億9103万余円、もんじゅの保守管理に要した経費(以下「保守管理費」という。)は少なくとも計4382億6432万余円、もんじゅの研究開発に従事した職員の人件費は少なくとも計590億4285万余円、もんじゅの施設等に係る固定資産税は少なくとも計432億6617万余円となっていて、総支出額は1兆1313億6439万余円に上っている(図表1-1参照)。
なお、機構は、前記のとおり、昭和43年度にもんじゅの予備設計を開始しているが、機構によれば、建設当時の関係書類が保存されていないことなどから、45年度以前の経費の額は明らかではないとしている。
図表1-1 廃止措置への移行決定までの研究開発に要した経費(累計額)
もんじゅの研究開発に要した経費のうち、建設関連費は、図表1-2のとおり、46年度から平成6年度までの間で、少なくとも計5907億9103万余円となっている。
図表1-2 もんじゅの建設関連費(昭和46年度~平成6年度)
年度 | 建設関連費 | 年度 | 建設関連費 | |
---|---|---|---|---|
昭和 46 | 3120万円 | 58 | 455億8429万円 | |
47 | 3億8247万円 | 59 | 392億1036万円 | |
48 | 6億1284万円 | 60 | 499億2003万円 | |
49 | 2億0744万円 | 61 | 677億6972万円 | |
50 | 4775万円 | 62 | 639億5886万円 | |
51 | 3億6520万円 | 63 | 692億2053万円 | |
52 | 4億4101万円 | 平成 元 | 703億3414万円 | |
53 | 5億2374万円 | 2 | 551億6989万円 | |
54 | 12億2222万円 | 3 | 366億0039万円 | |
55 | 24億0774万円 | 4 | 302億4302万円 | |
56 | 18億3206万円 | 5 | 262億1153万円 | |
57 | 73億6524万円 | 6 | 211億2924万円 | |
計 | 5907億9103万円 |
建設関連費について、前記のとおり、建設当時の関係書類が保存されていないこと、また、昭和54年度以前については、もんじゅの研究開発に要した経費とそれ以外の経費とを区分して経理していなかったことなどから、機構は、その内訳を明確にすることができないとしている。そこで、会計検査院において、もんじゅの固定資産管理データを基に、もんじゅの施設等が固定資産に計上された平成7年8月時点の固定資産の取得価額を勘定科目ごとに整理するなどして確認したところ、図表1-3のとおり、固定資産の取得価額は計6415億3743万余円と推計された。なお、この金額が建設関連費の計5907億9103万余円に比べて約500億円高くなっている理由は、関係書類が保存されていないため明確ではないものの、上記固定資産の取得価額には、保守管理費や人件費等が一部含まれていること、建設関連費5907億9103万余円は現時点で把握できる範囲の金額であり、実際にはそれ以上に支出が生じていたことなどが考えられる。
図表1-3 もんじゅの固定資産の取得価額(推計額)
区分 | 取得価額(推計額) |
---|---|
機械・装置 | 5284億1063万円 |
建物・建物附属設備 | 568億9319万円 |
構築物 | 372億5524万円 |
燃料(炉心装荷分) | 123億0495万円 |
土地 | 55億6647万円 |
工具・器具・備品 | 8億2217万円 |
車両運搬具 | 5687万円 |
無形固定資産 | 2億2788万円 |
計 | 6415億3743万円 |
そして、固定資産の大半を占める機械・装置について設備ごとの取得価額をみると、図表1-4のとおり、保全プログラムに基づく点検等の対象となる設備の取得価額は、原子炉容器784億5502万余円、1次冷却系設備747億9080万余円、2次冷却系設備804億0562万余円等と推計された。
図表1-4 もんじゅの設備の取得価額(推計額)
機械・装置 | 取得価額(推計額) | |
---|---|---|
点検等の対象となる機械・装置 | 4800億3360万円 | |
原子炉容器 | 784億5502万円 | |
1次冷却系設備 | 747億9080万円 | |
2次冷却系設備 | 804億0562万円 | |
水・蒸気系設備 | 157億6496万円 | |
原子炉格納容器 | 241億0980万円 | |
原子炉・タービン補助設備 | 282億1154万円 | |
燃料取扱・貯蔵設備 | 573億4398万円 | |
放射性廃棄物処理設備 | 212億3183万円 | |
換気空調設備 | 179億1702万円 | |
計測制御設備 | 138億0172万円 | |
電気設備 | 471億5961万 | |
その他 | 208億4163万円 | |
点検等の対象とならない機械・装置 | 483億7703万円 | |
計 | 5284億1063万円 |
なお、図表1-4に掲げたもんじゅの設備は、それぞれ据付け完了後に稼働を始めたものの、7年12月のナトリウム漏えい事故以降プラントが長期停止していることから、22年の性能試験再開時を除き、設備の一部が休止したり、規模を縮小して稼働したりしている。
このうち、1次冷却系設備及び2次冷却系設備は、プラントが長期停止中で原子炉が低温停止(注14)となっており通常稼働する必要がないことから、通常時と比べて、1次冷却系ナトリウム及び2次冷却系ナトリウムの温度を下げ、流量を約10%に減らすなどして稼働している。
水・蒸気系設備は、プラントが長期停止中で発電を行うことがないため、22年の性能試験再開時の機能確認試験等の実施時を除いて休止している。また、燃料取扱・貯蔵設備についてみると、燃料を貯蔵するための設備は稼働しているものの、燃料交換の際に使用する設備等、燃料を取り扱うための設備は性能試験再開に伴い燃料交換を実施した20年から22年までの間を除いて休止している。
そして、上記以外の設備は、原子炉が低温停止中でも稼働する必要があることから、ナトリウム漏えい事故以降も基本的に稼働している。
もんじゅの研究開発に要した経費のうち、保守管理費は、図表1-5のとおり、元年度から28年度までの間で、少なくとも計4382億6432万余円となっている。
図表1-5 もんじゅの保守管理費(平成元年度~28年度)
年度 | 保守管理費 | 年度 | 保守管理費 | |
---|---|---|---|---|
平成 元 | 9億8139万円 | 15 | 96億6673万円 | |
2 | 39億4761万円 | 16 | 133億0933万円 | |
3 | 138億7344万円 | 17 | 138億8381万円 | |
4 | 207億0468万円 | 18 | 209億1173万円 | |
5 | 201億4131万円 | 19 | 186億8439万円 | |
6 | 208億0050万円 | 20 | 183億8273万円 | |
7 | 186億7592万円 | 21 | 249億7077万円 | |
8 | 188億8563万円 | 22 | 170億3342万円 | |
9 | 175億5411万円 | 23 | 218億9159万円 | |
10 | 147億0729万円 | 24 | 163億0988万円 | |
11 | 114億6895万円 | 25 | 176億9779万円 | |
12 | 98億9111万円 | 26 | 182億2546万円 | |
13 | 96億3800万円 | 27 | 176億0083万円 | |
14 | 94億3009万円 | 28 | 189億9572万円 | |
計 | 4382億6432万円 |
もんじゅについては、前記のとおり、21年1月以降、保全プログラムに基づく保守管理を実施していくこととされた。
そこで、保全プログラムが導入された20年度から廃止措置への移行が決定された28年度までの間の保守管理費についてみると、その99%超を外注契約費が占めていた。
そして、上記の間の外注契約費のうち、各年度とも全体の約95%を占める支出決定済額が500万円以上の契約について、機構の予算科目の分類等を基に、内訳を示すと、図表1-6のとおり、保全プログラムに基づくもんじゅの設備の点検に係る経費(以下「点検費」という。)は計681億5827万余円、炉内中継装置の落下事故等の事故対応に係る経費(以下「事故対応費」という。)は計91億1198万余円、性能試験の準備作業等、もんじゅの運転に向けた取組に係る経費(以下「運転準備費」という。)は計15億9501万余円、23年原発事故を踏まえた緊急安全対策や新規制基準に適合するための対応等、もんじゅの安全対策に係る経費(以下「安全対策費」という。)は計151億3889万余円、その他電気代や設備更新等の維持費(以下「その他の維持費」という。)は計689億5231万余円となっていた。
図表1-6 支出決定済額が500万円以上の外注契約費の内訳(平成20年度~28年度)
年度 | 点検費 | 事故対応費 | 運転準備費 | 安全対策費 | その他の維持費 | 計 |
---|---|---|---|---|---|---|
平成
20 |
17億1413万円 | 44億3719万円 | 2億5778万円 | 11億1888万円 | 99億6424万円 | (95.8%) 174億9224万円 |
21 | 74億2613万円 | 10億0895万円 | 2億5654万円 | 18億4639万円 | 133億1992万円 | (96.1%) 238億5794万円 |
22 | 74億4435万円 | 5億2451万円 | 3億4253万円 | 3億8713万円 | 73億5526万円 | (94.8%) 160億5380万円 |
23 | 93億2022万円 | 20億5822万円 | 4億3166万円 | 19億1723万円 | 71億5745万円 | (95.7%) 208億8480万円 |
24 | 48億7952万円 | 9億9452万円 | 3億0648万円 | 23億6241万円 | 69億4227万円 | (95.4%) 154億8521万円 |
25 | 85億2362万円 | - | - | 27億2169万円 | 55億3432万円 | (95.3%) 167億7965万円 |
26 | 70億5735万円 | - | - | 36億3629万円 | 66億0846万円 | (95.2%) 173億0212万円 |
27 | 108億7813万円 | 8856万円 | - | 8億1952万円 | 50億5458万円 | (96.1%) 168億4081万円 |
28 | 109億1478万円 | - | - | 3億2931万円 | 70億1576万円 | (96.4%) 182億5986万円 |
計 | 681億5827万円 | 91億1198万円 | 15億9501万円 | 151億3889万円 | 689億5231万円 | (95.7%) 1629億5647万円 |
点検費は、設備の点検間隔に応じて点検の実施量が異なることから年度間で変動がある。そして、保全プログラムの導入初年度の20年度は、点検費の対象となる期間が短いため点検費が少額であり、性能試験に向けた点検を実施した23年度及び原子力規制委員会からの保安措置命令を受けて、それまで適切に実施されていなかった点検を再度実施するなどした27年度以降は、それぞれ点検費が増加していた。
事故対応費は、7年12月のナトリウム漏えい事故を踏まえた設備改造工事を実施した20年度及び22年8月に落下した炉内中継装置の引抜き作業等を実施した23年度は、それぞれ増加していた。
安全対策費は、23年原発事故を踏まえて、もんじゅの緊急安全対策等を実施したことなどにより、23年度から26年度までの間増加していた。
その他の維持費は、電気代等の固定的経費や設備更新・修繕等に係る経費が大半を占めている。そして、排気筒の支持構造に係る改良工事等の大規模工事を実施した21年度は他の年度に比べて多額となっていた。
もんじゅの研究開発に要した経費のうち、人件費及び固定資産税は、図表1-7のとおり、昭和49年度から平成28年度までの間に、人件費は少なくとも計590億4285万余円、固定資産税は少なくとも計432億6617万余円となっている。
このうち人件費について、機構は、もんじゅの研究開発を実施している職員に係るものとしており、26年度に大きく増加したのは、原子力規制委員会による保安措置命令に対応するために、同年度に、もんじゅに対する技術支援、技術調整等を担うもんじゅ運営計画・研究開発センターを新たに設置し、同センターに多くの職員を異動させたことなどによるものであるとしている。また、固定資産税について、機構は、もんじゅの研究開発を実施している施設等の固定資産に係る分としている。
図表1-7 人件費及び固定資産税(昭和49年度~平成28年度)
年度 | 人件費 | 固定資産税 | 年度 | 人件費 | 固定資産税 | |
---|---|---|---|---|---|---|
昭和
49 |
(7.0人) 1921万円 |
- | 8 | (243.5人) 20億4063万円 |
不明注(2) | |
50 | (7.0人) 2133万円 |
- | 9 | (253.3人) 21億5161万円 |
不明注(2) | |
51 | (7.0人) 2313万円 |
- | 10 | (251.2人) 21億7940万円 |
不明注(2) | |
52 | (11.0人) 4030万円 |
- | 11 | (248.6人) 21億3533万円 |
53億8134万円 | |
53 | (13.0人) 5009万円 |
- | 12 | (248.9人) 20億8822万円 |
46億9110万円 | |
54 | (15.0人) 6018万円 |
- | 13 | (208.9人) 18億3551万円 |
41億2971万円 | |
55 | (22.0人) 9540万円 |
- | 14 | (210.7人) 17億7643万円 |
36億5940万円 | |
56 | (34.0人) 1億5674万円 |
- | 15 | (214.8人) 17億6504万円 |
31億9751万円 | |
57 | (35.0人) 1億6737万円 |
- | 16 | (215.6人) 17億5960万円 |
28億3328万円 | |
58 | (40.0人) 1億9592万円 |
- | 17 | (239.8人) 19億9243万円 |
25億2307万円 | |
59 | (47.0人) 2億3990万円 |
- | 18 | (241.3人) 20億4686万円 |
22億0885万円 | |
60 | (52.0人) 2億7815万円 |
- | 19 | (238.2人) 19億7972万円 |
19億5880万円 | |
61 | (76.0人) 4億2620万円 |
- | 20 | (261.7人) 21億6808万円 |
17億7367万円 | |
62 | (100.0人) 5億7304万円 |
- | 21 | (257.6人) 21億3106万円 |
18億1006万円 | |
63 | (124.0人) 7億3141万円 |
- | 22 | (269.1人) 22億1687万円 |
16億8025万円 | |
平成
元 |
(149.0人) 9億2471万円 |
- | 23 | (267.4人) 21億6196万円 |
15億3956万円 | |
2 | (170.0人) 11億4354万円 |
- | 24 | (260.1人) 19億7186万円 |
13億6449万円 | |
3 | (187.0人) 13億3199万円 |
- | 25 | (322.3人) 23億1174万円 |
12億5809万円 | |
4 | (208.6人) 15億6154万円 |
- | 26 | (375.6人) 30億1785万円 |
11億6260万円 | |
5 | (217.0人) 17億0325万円 |
- | 27 | (355.3人) 28億6629万円 |
10億5474万円 | |
6 | (231.4人) 18億6850万円 |
- | 28 | (363.9人) 28億8427万円 |
10億3957万円 | |
7 | (237.2人) 19億4997万円 |
- | 計 | 590億4285万円 | 432億6617万円 |
もんじゅの施設等は、前記のとおり、7年8月に固定資産に計上され、8年度以降、固定資産税が課税されている。しかし、機構は、8年度から10年度までの間の固定資産税について、関係書類の保存年限が経過したことにより、その支払額が分かる書類が保存されておらず不明であるとしている。
そこで、会計検査院において、もんじゅの固定資産管理データ、11年度以降の固定資産税に係る償却資産申告書、土地・家屋名寄帳兼課税台帳等を基に、年度ごとに償却資産の勘定科目ごとの取得価額や課税標準額を算出するなどして8年度から10年度までの間の固定資産税を試算したところ、図表1-8のとおり、8年度78億6374万余円、9年度68億9812万余円、10年度61億2669万余円、計208億8856万余円と推計された。
図表1-8 平成8年度から10年度までの間の固定資産税(推計額)
年度 | 固定資産税(推計額) |
---|---|
平成 8 | 78億6374万円 |
9 | 68億9812万円 |
10 | 208億8856万円 |
計 | 208億8856万円 |
上記を含めた8年度から28年度までの間の固定資産税の合計 | 641億5474万円 |
機構は、前記のとおり、人件費について、もんじゅの研究開発を実施している職員に係るものとしているが、もんじゅ運営計画・研究開発センターの前身であるFBRプラント工学研究センター(注15)及びFBR安全技術センター(注16)(以下「両センター」という。)において、もんじゅの研究開発を実施していた職員に係る分は計上していない。
機構は、この理由について、両センターではもんじゅの研究開発に係る業務のほかに、高速増殖炉サイクルの実用化に向けた研究開発を実施していることから、もんじゅの研究開発に係る人件費を区分することが困難であったためとしている。
そこで、その全額がもんじゅの研究開発に係る分とはいえないものの、会計検査院において、両センターにおいてもんじゅの研究開発及び高速増殖炉サイクルの実用化に向けた研究開発を実施していた職員の人数を確認するなどして21年度から25年度までの間の人件費を試算したところ、計13億6174万余円と推計された。
一方、機構は、前記のとおり、固定資産税について、もんじゅの研究開発を実施している施設等の固定資産に係るものとしているが、人件費と同様の理由により、両センターに係る固定資産分は計上していなかった。また、もんじゅ運営計画・研究開発センターに係る固定資産分について、人件費と異なり、もんじゅの研究開発に要した経費に計上していなかった。機構は、この理由について、もんじゅのプラントに特化した固定資産分を計上することとして整理していたためとしている。
そこで、会計検査院において、両センター及びもんじゅ運営計画・研究開発センターに係る固定資産管理データを確認するなどして21年度から28年度までの間の固定資産税を試算したところ、計2億9177万余円と推計された。
保守管理費は、前記のとおり、21年1月に保全プログラムを導入した後も、また、22年8月の炉内中継装置の落下事故により性能試験を中断した後も高止まりの状況が見受けられることから、20年度以降のもんじゅの保守管理、炉内中継装置の落下事故等への対応、中断された性能試験の準備作業、新規制基準に適合するための対応等についてみたところ、次のとおりとなっていた。
機構は、もんじゅの保守管理について、7年12月のナトリウム漏えい事故以降、プラントが長期停止していることを踏まえて、保安規定に基づき、毎年度、長期停止中に実施が必要な設備点検の内容等を定めた年度計画を策定して、年度計画に基づく点検を民間業者に委託するなどして実施していた。また、もんじゅの性能試験の再開が見込まれた18年9月には、「長期停止プラント(高速増殖原型炉もんじゅ)の設備健全性確認計画書」を策定して、長期停止中に点検を実施してこなかった設備を含めた各設備について、必要な点検を民間業者に委託したり、過去の点検実績の確認やその技術的な評価をしたりして、同月以降、順次、設備の健全性を確認していた。
その後、機構は、前記のとおり、21年1月に保安規定を改訂して、保全プログラムを導入した。保全プログラムでは、もんじゅの具体的な保守管理の実施に関する計画(以下「保全計画」という。)として、通常必要となる設備の機器ごとの点検の方法、実施頻度、時期等を定めた「点検計画」を制定するとともに、地震、事故等により長期停止していた設備について特別な措置を定めた「特別な保全計画」、補修、取替え及び改造が必要な設備についてその方法、実施時期等を定めた「補修、取替え及び改造計画」をそれぞれ制定して、もんじゅの保守管理を実施することとした。
そして、機構は、図表2-1のとおり、もんじゅの性能試験を実施する期間を、①炉心確認試験を実施する供用前第1保全サイクル、②40%出力プラント確認試験を実施する供用前第2保全サイクル、③出力上昇試験を実施する供用前第3保全サイクルの三つに区分し、21年1月に供用前第1保全サイクル、22年7月に供用前第2保全サイクルに係る保全計画をそれぞれ制定した。なお、供用前第1保全サイクルと供用前第2保全サイクルは、もんじゅの長期停止の影響もあり、それぞれのサイクルに係る保全計画の目的や対象となる設備に大きな差異はなく、一連の性能試験の実施期間を示したものである。
図表2-1 性能試験の実施期間と保全サイクル
21年1月の保全計画制定後、機構は、保全計画に基づく機器の点検等を民間業者に委託するなどして実施するとともに、性能試験や点検の実績等を踏まえて、随時、その内容の見直しを行ってきた。
一方、機構は、24年11月に、供用前第2保全サイクルに係る保全計画に基づく機器の点検が点検期限を超過しているにもかかわらず実施されていなかった事態(以下、点検期限を超過しているにもかかわらず点検が全く実施されていない又は必要な点検が実施されていない事態を「機器の未点検」といい、その対象機器を「未点検機器」という。)を認識し、原子力規制委員会に報告した。そして、機構は、同年12月に、同委員会から未点検機器の早急な点検及び保全計画の見直しを行うよう、保安措置命令を受けた。これを受けて、機構は、25年1月に、保安措置命令への対応に係る結果報告(以下「対応結果報告」という。)を同委員会に提出した。
しかし、その後の保安検査において、新たな未点検機器があることなどを指摘され、機構は、同年5月に、原子力規制委員会から、保全計画の対象となる全ての機器の点検状況を正確に把握・管理できるよう保守管理体制の見直しなどを求められるとともに、これらの対応が完了したことを同委員会が確認するまでの間、プラントの安全確保のために必要な点検等を除いてもんじゅの使用前検査を進めるための活動を行わないこととする保安措置命令を受けた。これを受けて、機構は、同年9月及び同年11月に、同委員会に対応結果報告を提出したものの、その後も保安検査において、新たな機器の未点検や、機器の故障の放置等の保守管理の不備が指摘された。
こうした状況の中で、機構は、保全計画制定後、28年度末までの間、供用前第1保全サイクルに係る保全計画については7回、供用前第2保全サイクルに係る保全計画については24回改訂している。
点検計画では、機器ごとに必要な点検項目が登載されており、点検項目ごとに、点検の内容、実施頻度、時期等が定められている。そして、機器の中には、複数の点検項目が登載されているものがある。そこで、上記の保全計画のうち、点検計画に登載されている点検項目数についてみると、図表2-2のとおり、28,899項目から95,703項目までとなっていた。
このうち、供用前第1保全サイクルに係る保全計画の点検項目数が、第1次改訂版で13,311項目増加した理由は、初版時点では整理できなかったものを追加したことなどによるものである。また、供用前第2保全サイクルに係る保全計画の点検項目数が、供用前第2保全サイクル初版で5,981項目、第1次改訂版で32,041項目、第13次改訂版で8,853項目増加した理由は、主にそれまで複数の機器に係る点検項目を一つにまとめていたものを、機器ごとに区分したことによるものである。例えば、供用前第2保全サイクルに係る保全計画第12次改訂版では、放射線量当量率(注17)の測定に用いるアラームメータ495台の外観点検に係る点検項目をまとめて1項目として登載しているが、第13次改訂版では、これを機器ごとに区分したことにより、495項目に増加していた。このように、版ごとに増減はあるものの、供用前第1保全サイクルに係る保全計画第1次改訂版以降第16次改訂版までは、実質的に取り組む必要のある点検等の作業量に大きな変更はないと考えられる。
一方、供用前第2保全サイクルに係る保全計画第17次改訂版(平成26年12月改訂)以降は、点検項目数には大きな変動はないものの、保守管理の不備を踏まえた大幅な改訂となっていた。その改訂内容は、例えば、機器の外観を目視で確認することとしていた点検について機器を開放して内観も含めて確認する点検に変更したり、点検間隔を28か月から16か月に短縮したりするものなど、点検の内容や作業量の変更を伴う改訂となっていた。
なお、26年12月以降に改訂された保全計画は、点検業務の効率化を図るために25年11月に運用開始された保守管理業務支援システム(以下「保守管理システム」という。)を用いて策定されるようになった。また、供用前第2保全サイクルに係る保全計画第24次改訂版は、27年12月から28年6月までの間に、もんじゅの各設備を設計・製作した民間業者等の協力を得て設置した「オールジャパン体制」で検討、策定されたものであり、機構は、同改訂版において、安全重要度の低い機器を除いて保全計画上の課題は解決されたとして、同年8月に、最終的な対応結果報告を原子力規制委員会に提出している。
図表2-2 点検計画に登載されている点検項目数
区分 | 改訂 版 |
施行 年月日 |
点検 項目数 |
区分 | 改訂 版 |
施行 年月日 |
点検 項目数 |
|
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
初版 | 平成 21.1.1 |
28,899 | 9 | 24.10.3 | 83,979 | |||
供用前第1保全サイクルに係る保全計画 | 1 | 21.2.27 | 42,210 | 供用前第2保全サイクルに係る保全計画 | 10 | 25.1.29 | 83,979 | |
2 | 21.7.14 | 41,002 | 11 | 25.2.18 | 83,188 | |||
3 | 21.11.9 | 40,681 | 12 | 25.5.24 | 83,586 | |||
4 | 22.2.15 | 45,868 | 13 | 25.6.11 | 92,439 | |||
5 | 22.4.9 | 45,866 | 14 | 25.9.26 | 92,436 | |||
6 | 22.5.4 | 43,784 | 15 | 25.10.31 | 95,703 | |||
7 | 22.6.30 | 40,378 | 16 | 26.11.6 | 95,703 | |||
初版 | 22.7.23 | 46,359 | 17 | 26.12.17 | 93,643 | |||
供用前第2保全サイクルに係る保全計画 | 1 | 22.11.24 | 78,400 | 18 | 26.12.21 | 93,643 | ||
2 | 23.4.6 | 81,952 | 19 | 27.2.2 | 93,823 | |||
3 | 23.4.28 | 83,034 | 20 | 27.4.1 | 93,845 | |||
4 | 23.5.19 | 83,019 | 21 | 27.8.20 | 93,849 | |||
5 | 24.3.2 | 84,007 | 22 | 27.8.24 | 93,849 | |||
6 | 24.3.9 | 84,007 | 23 | 28.3.3 | 93,935 | |||
7 | 24.5.17 | 84,017 | 24 | 28.6.24 | 92,400 | |||
8 | 24.7.3 | 83,721 |
しかし、上記のような経緯で制定及び改訂されたもんじゅの保全計画の内容について、原子力規制委員会及び旧原子力安全・保安院は特段の確認を行っていないとしている。その理由として、原子力規制委員会は、もんじゅの保全計画は、機構自らが策定するものであり、その内容は原子力規制委員会及び旧原子力安全・保安院の審査等の対象ではないこと、25年7月以降、性能に係る使用前検査の申請の際、申請書類の一部として原子力規制委員会への提出が義務付けられたものの、もんじゅは同年同月以降、性能に係る使用前検査の申請を行っていないこと、保安検査は、機構が保全計画に定めた点検等が適切に実施されているかを確認するものであり、保全計画の内容の妥当性を確認するものではないことを挙げている。
また、機構が28年8月に原子力規制委員会に提出した対応結果報告について、同委員会は、保安措置命令は原子炉の稼働を前提としたものであることから、同年12月にもんじゅの廃止措置への移行が決定したことにより、保安措置命令は効力を失ったとして保安措置を完了したことの確認は行わないとしている。
図表1-6のとおり、点検費は、20年度から28年度までの間で、計681億5827万余円となっていた。そして、21年度から26年度までの間の点検費は、各年度48億7952万余円から93億2022万余円までとなっており、機器により点検間隔が異なるなどのため年度ごとに増減はあるものの、平均すると各年度74億円程度となっていた。一方、27、28両年度の点検費はそれぞれ108億7813万余円、109億1478万余円であり、26年度に比べて約38億円、21年度から26年度までの6か年度の平均額に比べて約34億円高くなっていた。契約関係書類等を確認したところ、27、28両年度には、保守管理の不備を踏まえて、適切に実施されていなかった点検を再度実施することとしたり、保全計画の改訂により変更された点検をその都度実施することとしたりしたことなどから、逐次、契約の変更や別途の契約を締結したりしていた。例えば、もんじゅの1次冷却系設備、2次冷却系設備、原子炉格納容器等の主要な設備の機器の点検等に係る業務委託契約についてみると、26、27両年度に民間業者との間で計5件の複数年度契約(当初契約額計177億4062万余円)を締結していたものが、契約を変更したり、新たに1件の契約を締結したりしたため、28年度末時点では、計6件の契約(契約額計249億4938万余円)となっており、26年度から28年度にかけての増加額は72億0876万余円に上っていた。
また、保守管理システムの導入・運用に係る業務委託契約は、23年度から28年度までの間で計16件(契約額計5億1729万余円)、オールジャパン体制により取り組んだ検討作業等に係る業務委託契約は、27、28両年度で計9件(契約額計9億4371万余円)となっていた。
もんじゅでは、前記のとおり、保全プログラムを導入した20年度以降、28年度までの間に681億5827万余円をかけて保全計画に基づく点検が実施されてきており、28年度の点検費109億1478万余円は保守管理費189億9572万余円の6割近くを占めている。一方、24年11月以降、機器の未点検を始めとする保守管理の不備等が度々確認され、これが27年11月の原子力規制委員会から文部科学省に対する勧告につながるなど、28年12月の廃止措置への移行決定に至った要因の一つとなっている。そこで、機器の未点検を始めとする保守管理の不備の状況、点検の基となる保全計画の内容及び改訂状況等についてみると、次のとおりとなっていた。
機構は、対応結果報告の中で未点検機器数を公表しているが、機器の未点検に対応する点検項目(以下「未点検項目」という。)数については公表していない。また、機器の未点検の態様は、判明した時点ごとに公表されているものの、その全体像は十分に整理されていない。
そこで、会計検査院において、機構からこれまでに判明した未点検機器の集計データを徴するなどして未点検項目数を確認したところ、図表2-3のとおり、①保全計画に定めた点検期限までに点検が実施されていなかった事態が12,657機器に係る20,163項目、②保全計画に定めた点検間隔、保全方式等が適切でなかったことにより、必要な点検が実施されていなかった事態等、保全計画に定めた点検の内容等が適切でなかったことにより、プラントの安全確保に必要な点検が実施されていなかった事態が6,985機器に係る8,983項目となっていた。そして、これらの未点検項目数が点検計画に登載されている全点検項目数に占める割合は、それぞれ①21.8%、②9.6%となっていた。また、これらの未点検項目の中には、もんじゅの原子炉が低温停止中でも機能維持が必要であり、機構が定めた安全上の重要度分類の中で最も重要度の高い機器として分類されている機器に係るものが含まれていた。
図表2-3 機器の未点検の状況
態様 | 未点検 項目数 |
全項目数に占める未点検項目数の割合 | 機器の未点検が生じていた時期 | |
---|---|---|---|---|
①保全計画に定めた点検期限までに点検が実施されていなかった事態 | (12,657) 20,163 |
21.8% |
供用前第1保全サイクル ~平成25年9月 |
|
②保全計画に定めた点検の内容等が適切でなかったことによ り、プラントの安全確保に必要な点検が実施されていなかった事態 |
保全計画に定めた点検間隔、保全方式等が適切でなかったことにより、必要な点検が実施されていなかった事態 | (3,218) 5,048 |
5.4% |
供用前第1保全サイクル ~28年4月 |
保全計画上点検の実施範囲が不明確であったり、点検実績と整合していなかったりしたことなどにより、必要な点検が十分に実施されていなかった事態 | (2,446) 2,436 |
2.6% |
||
プラントの安全確保に必要な点検が保全計画に登載されていなかった事態 | (1,456) 1,634 |
1.7% |
||
計 | (6,985) 8,983 |
9.6% |
機構は、21年1月に保全プログラムを導入して保全計画を制定するに当たり、点検対象となる機器の点検間隔について、20年9月時点における点検実績等を基に、各設備を設計・製作した民間業者が作成した機器の取扱説明書等を参考にするなどして定めていた。
そして、機構は、点検間隔の起点について、直近の点検を実施した日ではなく、保全プログラムを導入した21年1月1日としていた。このため、保全計画に基づく点検の中には、保全プログラム導入前の直近の点検実施日から、保全プログラム導入後最初の点検実施日までの期間が、保全計画上の点検間隔を超えているものが相当数見受けられた。
機構は、保全計画の点検間隔の起点を21年1月1日とした理由について、保全プログラム導入時点で、もんじゅの設備の健全性を確認していることから、導入時点の21年1月1日を点検間隔の起点としても安全性に問題がないと判断したためとしている。そして、上記のように保全計画上の点検間隔を超えているものが相当数あることについて、これまでの保安検査では特段問題とされておらず、機器の未点検として指摘されていないとしている。
しかし、前記のとおり、設備の健全性確認は、18年9月以降、順次、行われており、必ずしも21年1月に実施されたものではないことから、点検間隔の起点を21年1月1日とする理由としては合理的とはいえない。また、設備の健全性確認は、過去の点検実績の確認やその技術的な評価にとどまり、点検自体は実施していないものがあるなど、実施内容が保全計画に定める点検とは必ずしも一致していない。このため、技術的な根拠が十分に担保されないまま、保全プログラム導入時点において点検間隔が実質的に延伸されている状況となっていた。
上記について、事例を示すと次のとおりである。
<事例1> 保全プログラム導入時において、直近の点検実施日から点検間隔の起点である平成21年1月1日までの期間が、保全計画上の点検間隔を超えていたにもかかわらず、更に点検時期を延伸していたもの
機構は、燃料交換の際に用いる炉内中継装置等の機器を原子炉容器まで輸送するための原子炉機器輸送ケーシングの爪開閉ロッド(炉内中継装置をつかむ爪の開閉を行う装置)を分解して腐食、損傷等がないことを確認する点検(以下「分解点検」という。)を、供用前第1保全サイクルでは4年ごとに実施することとしていた。
しかし、保全プログラム導入前の直近の点検実績をみると、分解点検は平成15年6月及び同年7月に実施されていたことから、保全計画の点検間隔の起点である21年1月1日時点で、保全プログラム導入前の直近の点検実施日から5年半が経過しており、保全計画に定められた4年の点検間隔を1年半超過している状況となっていた。
さらに、機構は、21年1月に制定した保全計画初版において、分解点検を21年度中に実施するとしていたが、同年2月に改訂した第1次改訂版において、原子炉機器輸送ケーシングの操作盤の更新計画に合わせて分解点検を実施するとして、点検時期を22年度に延伸していた。
このため、炉内中継装置の落下事故が発生した22年8月の時点では保全プログラム導入前の直近の点検実施日から7年以上が経過しており、保全計画上の点検間隔を3年以上超過している状況となっていた(炉内中継装置の落下事故の原因となった原子炉機器輸送ケーシングの不具合については後述イ(イ)参照)。
機構は、前記保全計画の改訂による点検時期の延伸について、21年1月1日を点検間隔の起点とする場合、点検期限を超過しない範囲内での延伸であることから、当該延伸によりプラントの安全確保に支障がないことを担保する技術的根拠は必要ないとしていて、当該延伸に係る特段の技術的根拠は残されていないものとなっていた。
また、保全計画に定めのない点検を実施し、その結果が活用されていない事態が見受けられた。
上記について、事例を示すと次のとおりである。
<事例2> 保全計画に定めのない点検を実施し、その結果が活用されていなかったもの
機構は、平成7年12月のナトリウム漏えい事故を踏まえ、漏えい発生場所の状況の把握等を目的として、19年2月に、ナトリウムを内包する機器・配管のある場所に監視カメラ(以下「ITVカメラ」という。)を180台設置している。
機構は、ITVカメラについて、21年1月の保全プログラム導入以降、保全計画に基づき、目視により異常の有無を確認する外観点検及びカメラの映像や作動状況を確認する機能・性能試験(以下、これらを合わせて「外観点検等」という。)を民間業者に委託して実施している。そして、25年2月に、点検業者からITVカメラ14台の故障について報告を受け、その後も随時ITVカメラの故障を確認したものの、26年9月末時点で計56台のITVカメラの故障を放置しており、同月に実施された保安検査で、保安規定に違反しているとの指摘を受けていた。
一方、機構は、26年8月に締結した電気設備の点検に係る契約(当初契約額1億3176万円)の一部として、ITVカメラ180台の点検及び30台の交換を実施することとしていた。そして、上記の保安検査での指摘を受けて、同年11月に契約変更を行い、ITVカメラ180台全てについて交換を実施することとした上で、交換前に180台全ての外観点検等を実施していた。そして、同年11月から27年1月までの間に180台全てを交換していた。
交換が予定されている180台全てを点検対象とした理由について、機構は、保守管理の継続的な改善に資することを目的として、ITVカメラの外観点検等の有効性を評価する際に活用する使用中の機器及び構成部品の状態を把握するための「点検手入れ前データ」を取得するためとしている。
しかし、保全計画では、ITVカメラの外観点検等の点検内容等に点検手入れ前データの取得は定められておらず、前記の契約の仕様書においても同様に定められていなかった。
また、27年1月から同年2月までの間に機構が行ったITVカメラの有効性評価において、点検手入れ前データを活用した状況は見受けられなかった。なお、機構が作成した保全計画検討要領によれば、点検手入れ前データの取得は「分解点検」及び「開放点検」で実施することとされている。
以上のことから、点検手入れ前データの取得を目的とした交換前のITVカメラ180台の外観点検等は必要なかったと思料される。
機構は、21年1月の保全プログラム導入から28年12月の廃止措置への移行決定までの間に、供用前第2保全サイクルに係る保全計画初版の制定を含めて保全計画を計32回改訂していた。しかし、これらの改訂の中には、22年2月の改訂で追加した水・蒸気系設備に係る点検項目4,811項目が、同年5月及び同年6月の改訂で全て削除されているなど、保全計画を改訂した直後に再び改訂して元に戻したり、その後更に当初の改訂を繰り返したりしていて、改訂の妥当性に疑義のあるものが相当数見受けられた。
上記について、事例を示すと次のとおりである。
<事例3> 保全計画を改訂したものの、直後に再び改訂して元に戻したり、その後更に当初の改訂を繰り返したりしていたもの
機構は、平成22年6月に改訂した供用前第1保全サイクルに係る保全計画第7次改訂版において、1次冷却系ナトリウムを循環させるための電磁ポンプ2機器の点検項目に、機器に損傷等がないことを確認する外観点検を新たに追加していた。
しかし、機構は、この改訂の直後の同年7月に改訂した供用前第2保全サイクルに係る保全計画初版において、外観点検を点検項目から削除しており、さらに、25年2月に改訂した供用前第2保全サイクルに係る保全計画第11次改訂版において、外観点検を点検項目として再度追加していた。
機構は、改訂の理由について、当初、プラントの安全確保のために実施する必要があるとして外観点検を追加したものの、電磁ポンプが保温材に覆われており、外観の確認が困難であるとして点検項目から削除したが、その後、保温材の外側からでも損傷等がないことを確認する必要があるとして再度点検項目として追加したとしている。
しかし、22年6月に初めて外観点検を点検項目として追加することを検討した際に、あらかじめ電磁ポンプが保温材に覆われていることを認識した上で、保温材に覆われている状態での外観点検の必要性を検討していれば、その後に点検項目の追加・削除を繰り返す必要はなかったと思料される。
また、保全計画に基づく点検は、もんじゅの六つの課及び課内のチームごとに区分して管理されているが、それぞれの部署において、保全計画の様式や記載内容が区々となっているなど標準化されておらず、保守管理の継続的な技術継承や、保全計画全体を管理する部署において改訂すべき内容が保全計画に適切に反映されているかを統一的に確認することが困難となっていたり、保全計画の各改訂版における改訂内容や改訂理由が整理されていなかったりするなどの事態が見受けられた。
さらに、25年11月の保守管理システム導入前に策定された保全計画において、①点検の内容等が同一であるにもかかわらず点検間隔が異なっている点検項目が複数登載されていた事態、②点検の内容が記述されていなかったり記述に矛盾があったりするなど実施すべき点検の内容が明確になっていなかった事態、③特定の版で、点検項目に対して斜線や取消線が付されていて、点検を実施すべきか判断できなくなっていた事態等が相当数見受けられた。
保守管理の不備は、前記のとおり、保全プログラムの導入当初から長期間にわたって見受けられている。
機構によれば、20年8月に研開炉規則等が改正され、保全プログラムの導入が求められた際、旧原子力安全・保安院によるヒアリングを通じて、建設段階であるもんじゅは運転開始までに必要な措置を執ればよいとの認識を得ていたが、同年9月に、もんじゅの安全上重要な設備である屋外排気ダクトに腐食孔が確認されたことなどから、同院から、建設段階が長期化しているもんじゅにおいても、21年1月までに運転段階と同等の詳細な保全計画を制定するよう指導を受けることになったとしている。そして、機構は、複数の原子炉で長期間にわたって運転実績のある軽水炉と異なり、運転段階に至っておらず十分な稼働実績がない国内唯一の高速増殖原型炉であるもんじゅについて、短期間に保全計画を策定したため、保全計画の実効性の検証が十分でなかったことが、その後の保守管理の不備につながったとしている。
しかし、21年1月に保全プログラムが導入されてから24年11月に保守管理の不備が認識されるまでに3年10か月が経過しており、その間、保全計画の内容が十分に見直されていなかったり、必要性に疑義のある改訂が行われていたりなどしている。さらに、保守管理の不備の多くは、高速増殖炉特有の技術課題に起因するものではなく、点検が保全計画に基づいて実施されていなかったり、保全計画が適切に整理されていなかったりするなどの管理上の問題に起因するものであった。
そこで、保全計画の内容や契約の状況等を確認したところ、次のような事態が見受けられた。
① 保守管理に従事する職員の中には、点検間隔に関する考え方等、保全計画の基本的な事項について十分に理解していなかったり、保全プログラム導入後も、保全計画ではなく、従来の発注仕様書に基づいて点検を実施すれば足りると考えていたりした者が見受けられるなど、保全計画に基づく点検を適切に実施する必要性についての認識が共有されていなかった。
② 保全計画の点検項目数が膨大であるにもかかわらず、点検時期、実績等が一元的に管理されていなかったり、点検期限の超過を予防するための特段の措置が講じられていなかったりするなど、保全計画に基づく点検を適切に実施する体制の整備が図られていなかった。
このように、保全プログラムの導入以降、もんじゅにおいて、保全計画の見直しを含めた適切な保全計画に基づく保守管理を実施する必要性の認識が共有されていなかったり、保守管理を実施する体制の整備が図られていなかったりするなど保守管理を実施する仕組みの構築に速やかに取り組めていなかったことが、保守管理の不備の原因であったと思料される。
文部科学省は、機構に対する原子力規制委員会からの保安措置命令を受けて、もんじゅの保守管理の不備に対して早急に必要な措置を講ずることなどを機構に命じるとともに、25年5月に文部科学大臣を本部長とする「日本原子力研究開発機構改革本部」を設置し、もんじゅの業務運営体制の在り方、具体的な改革方針等を検討して機構に示したり、同年7月に保守管理に際して民間の原子力発電所を運営する電気事業者の知識とノウハウを導入するために電気事業連合会に対して機構への支援を要請したりするなどしている。
これらを踏まえて、機構は、24年11月に保守管理の不備が確認されて以降、プラントの安全性への影響を考慮しながら未点検機器の点検を計画的に進めるとともに、各点検項目の点検内容等に係る有効性評価を実施して保全計画の見直しを行うなどして、保守管理の不備の解消に取り組んできた。
そして、前記のとおり、保守管理に従事する職員の間で保全計画に基づいて保守管理を実施する必要性についての認識が共有されていなかったことを踏まえて、25年10月から27年3月までの間に機構が実施した「もんじゅ集中改革」の中で、職員の育成計画を整備して計画的な研修の実施に取り組むなどしている。また、保全計画に基づく点検を実施できる体制の整備が図られていなかったことを踏まえて、前記のとおり、25年11月に保守管理システムの運用を開始して、保全計画に定めた点検の内容や点検実績を一元的に管理し、点検期限の超過を予防するための警報機能等を活用した保守管理を実施するとともに、26年12月に改訂された供用前第2保全サイクルに係る保全計画第17次改訂版以降の保全計画や、点検等を外注するための帳票について、保守管理システムを用いて作成するなど、機器の未点検を予防して保全計画の改訂を適切に行えるような体制の整備を図ってきた。さらに、前記のとおり、28年6月に、オールジャパン体制により供用前第2保全サイクルに係る保全計画第24次改訂版を策定して、保全計画に定めた点検の内容等が適切なものになるよう、その技術的根拠を整備した。
しかし、その後も、機構は、28年6月及び同年9月の保安検査において、保守管理システムの警報機能について、警報を監視する部署が定められていなかったため発信された警報を確認していなかったり、保守管理システムへの点検状況の反映について、権限のない課が当初から一括して作業したりしていたなどの指摘を受けて、その改善に取り組んでいる。また、供用前第2保全サイクルに係る保全計画第24次改訂版においても、一部の点検について点検実施範囲が明確でないままとなっていたり、安全上重要度の低い機器については点検内容に係る技術的な整備が完了していなかったりしていることから、引き続き見直しに取り組んでいる。このように、機構における保全計画に基づく保守管理を実施する仕組みの構築は途上にある。
一方、廃止措置においても、もんじゅの保守管理は引き続き実施することとされており、特に炉心に装荷されている燃料の取出しが終了するまでの間は、現在とほぼ同等の保守管理が必要になることが見込まれており、廃止措置に際しては、引き続き保守管理システムの運用体制の整備を行うなど、適切な保全計画に基づく保守管理を確実に実施する仕組みを早急に構築することが重要である。
機構は、原子炉等規制法等に基づき、もんじゅに関して安全上重要な機器等がプラントの安全確保のために必要な機能を有していないと認められた事象等(以下「法令報告事象」という。)が発生した場合は、原子力規制委員会、旧原子力安全・保安院等に対して法令報告事象の状況等を遅滞なく報告しなければならないとされている。そして、20年度以降に発生した法令報告事象は、図表2-4のとおり、炉内中継装置の落下事故を含めて4件となっている。
図表2-4 もんじゅに関する平成20年度以降の法令報告事象
法令報告事象 | 発生・確認 年月 |
対応完了 年月 |
対応経費 | 左記に係る補償の有無 |
---|---|---|---|---|
屋外排気ダクトの腐食孔 | 平成
20年9月 |
24年3月 | 22億4880万円 | 無 |
炉内中継装置の落下事故 | 22年8月 | 24年12月 | 24億4048万円 | 民事調停により1億円補償 |
非常用ディーゼル発電機のシリンダライナ部の傷 | 22年12月 | 23年6月 | 法令報告事象の原因が機構にないとして、対応経費の全額が点検を委託した民間業者により補償されたため、機構は、経費を負担していない |
|
非常用ディーゼル発電機のシリンダヘッドインジケータコックの変形 | 27年7月 |
27年12月 |
上記の法令報告事象のうち、法令報告事象の原因が機構にないとして、対応経費の全額が点検を委託した民間業者により補償された2件を除く2件の法令報告事象への対応についてみると、次のとおりとなっていた。
機構は、20年9月に、原子炉格納容器内、燃料取扱設備室等の排気を排気筒に導くための屋外排気ダクトの外面腐食に関する補修作業を実施していたところ、屋外排気ダクトに腐食孔(縦約1cm、横約2cm)を確認したことから、応急措置として腐食孔を塞ぐとともに、安全上重要な設備である屋外排気ダクトの機能が喪失したとして、旧原子力安全・保安院に報告した。そして、20年度から23年度までの間に、計19件の契約(契約額計22億4880万余円)を締結して、腐食環境を考慮した設備上の恒久対策として屋外排気ダクトの取替え作業等を実施していた(図表2-5参照)。
図表2-5 屋外排気ダクトの略図
機構は、腐食孔が発生した原因について、屋外排気ダクトに係る点検を年度計画に定めておらず、定期的に点検する体制となっていなかったこと、また、13年度以降、3回にわたり、安全衛生の意識高揚等を目的に職員ともんじゅで作業に従事する民間業者が共同で見回りを行った際、腐食孔の発生の前兆となる錆を目視で確認していたものの、腐食孔が発生するまでに特段の処置を講じていなかったことなどのためとしている。
このように、機構が適切な保守管理を実施していなかったことにより当該法令報告事象が発生したと認められる。
もんじゅの燃料交換は、炉心の使用済燃料を新燃料に一体ずつ交換して行われる。そして、炉心のある原子炉容器内にはナトリウムが充填されており、水や空気に触れて反応しないよう密閉されていることから、原子炉容器内外の燃料の移送は、原子炉容器上部に据え付けられた炉内中継装置を用いて行われる。炉内中継装置は、燃料交換時に機器を原子炉容器まで輸送するための原子炉機器輸送ケーシングを用いて原子炉容器内に吊り下ろされて据え付けられ、燃料交換が終了すると、原子炉容器から取り外され吊り上げられて保管される(図表2-6参照)。
図表2-6 もんじゅの燃料交換の流れ
機構は、22年8月に、炉心確認試験終了後の燃料交換終了時に、炉内中継装置の取外し作業を実施していたところ、原子炉機器輸送ケーシングを用いた吊上げの途中で炉内中継装置が落下する事故が発生したことから、旧原子力安全・保安院に報告した。そして、22年度から24年度までの間に、計27件の契約(契約額計24億4048万余円)を締結して、落下事故に関する調査・対策、原子炉容器内に残された炉内中継装置本体の引抜き作業等を実施していた。
機構は、落下事故の原因は、原子炉機器輸送ケーシングの爪開閉ロッド(炉内中継装置をつかむ爪の開閉を行う装置)の回転防止のための措置が施されていなかったため、爪開閉ロッドが回転し、爪が正常に開閉しなかったことにあるとしている。そして、機構は、15年に爪開閉ロッドを含むユニットを交換した際、回転防止のための措置が施されていなかったことについて確認しなかったとしており、このことについて、自らの設計管理、調達管理等も十分でなかったものの、爪開閉ロッドの設計・製作等の責任はメーカーにあるとして、25年8月に、東京地方裁判所に対して、メーカーを相手方として、事故対応経費について損害賠償を求める民事調停を申し立てた。しかし、機構とメーカーの主張には隔たりがあり、26年1月の民事調停の成立によりメーカーから1億円の支払を受けているものの、上記契約額の大部分を占める23億円を超える支出が生じることになった。
なお、事例1のとおり、原子炉機器輸送ケーシングの爪開閉ロッドを分解して腐食、損傷等がないことを確認する点検は、15年6月及び同年7月に実施されて以降、炉内中継装置の落下事故に至るまで実施されていないが、機構によれば、メーカーが爪開閉ロッドの回転防止のための措置を施していないことを想定していなかったことから、仮に上記の点検を実施していたとしても、炉内中継装置の落下事故の要因を排除することはできなかったとしている。
機構は、前記のとおり、22年5月に性能試験を開始した後、同年8月に炉内中継装置の落下事故が発生したことを受けて、性能試験を中断して落下事故に係る復旧作業を実施した。そして、復旧作業終了後に性能試験を速やかに再開するために、性能試験の準備作業として、40%出力プラント確認試験の実施に先立って必要となる水・蒸気系設備の機能確認試験や、40%出力プラント確認試験の試験計画書の作成等に取り組んでいた。
一方、23年原発事故を受け、23年5月以降、国が原子力政策の抜本的見直しを表明したことから、文部科学省は、同年9月に、機構に対して、40%出力プラント確認試験について、国の方針の方向性を受けてその実施を判断することとし、国の方針が定まるまでの間、もんじゅにおいては、プラントの保守管理、安全対策等の必要な取組に限って実施するよう指示している。これを受けて、機構は、同年10月に、国の方針が示されるまでの間、もんじゅにおける性能試験の実施を保留することとした。
また、24年6月に原子炉等規制法が改正され、新規制基準の導入が見込まれたことを受けて、原子力規制委員会による新規制基準への適合を確認する審査に合格して必要な安全対策を講じなければ原子炉を稼働できなくなったことから、機構は、当分の間、性能試験の再開は見込めなくなったとしている。
このような状況の中で、機構は、水・蒸気系設備の機能確認試験等を実施するために23年1月及び同年9月に締結した計2件の契約(当初契約額計1億8952万余円)については、同年10月に当該試験等を中止することとして、それぞれ契約変更又は契約解除を行い、契約額を計5412万余円に減額するなど、性能試験の実施が保留され、あるいは当分の間、性能試験の再開が見込めなくなったことを踏まえて、契約の見直しを行っている。
しかし、上記のとおり契約の見直しを行っている一方で、23年10月以降も、図表2-7のとおり、性能試験の準備作業に係る契約が継続又は新たに締結されたり、毎年度実施している放射線量当量率の測定等の業務委託契約に性能試験の準備作業の一部が含まれていたりするなど、国の原子力政策等をめぐる環境や状況の変化に応じた契約の見直しが十分に行われていない事態が見受けられた。
図表2-7 性能試験の準備作業等に係る契約と契約締結時の状況
上記について、事例を示すと次のとおりである。
<事例4> 性能試験の実施を保留した後に新たに契約を締結していたもの
機構は、平成24年4月及び25年4月に、もんじゅの安全対策に係る技術支援作業等の契約を、それぞれ当初契約額9712万余円及び1億0185万余円で締結している。そして、これらの契約の中には、①性能試験の工程、各試験項目の試験計画書の内容等の検討作業、②性能試験の実施に先立って必要となる水・蒸気系設備の機能確認試験の工程、各試験項目の課題等の検討作業が含まれていた。この理由について、機構は、国の方針が決定された後、可及的速やかに性能試験を再開するためとしている。
しかし、23年10月には性能試験の実施が保留され、24年6月に新規制基準の導入が見込まれたことを受けて、当分の間、性能試験の再開は見込めなくなっていたことを踏まえれば、適時に契約の見直しなどを検討する必要があったと思料される。
なお、25年5月の保安措置命令により、プラントの安全確保のために必要な点検等を除いて、もんじゅの使用前検査を進めるための活動を行わないこととされたことから、機構は、25年度の契約について、同年7月に契約変更を行い、前記の検討作業を中止した。
<事例5> 性能試験の実施が見込まれなくなったにもかかわらず、これについて仕様書を見直さないまま、毎年度契約を締結していたもの
機構は、平成21年度から28年度までの間、毎年度、一般競争入札又は指名競争入札により、同一の民間業者との間で、もんじゅの敷地内における放射線量当量率の測定等計8件の契約(契約額計10億7033万余円)を締結していた。これら放射線量当量率の測定等の中には、①仕様書に「性能試験助勢」として定められた、性能試験の実施に伴って必要となる放射線量当量率等の測定(以下「性能試験時の測定」という。)、②仕様書に「燃料搬出入測定」として定められた、燃料交換等の実施に伴う新燃料又は使用済燃料の運搬時の輸送容器の放射線量当量率等の測定(以下「燃料運搬時の測定」という。)が含まれている。
しかし、23年10月以降、性能試験の実施が保留されており、燃料交換についても、22年8月の性能試験の中断以降、燃料交換の実施計画は立てられていなかった。このため、性能試験時の測定及び燃料運搬時の測定については、同年同月以降、いずれも実施されていなかった。
一方、機構は、22年8月以降、仕様書の「性能試験助勢」として、性能試験中断中の放射線量当量率の変化の状況を定期的に把握することを目的とした放射線量当量率の測定等を実施していた。また、仕様書には記載がないものの、21年度以降、燃料運搬時の測定に付随する作業として、国際原子力機関の査察に伴い必要となる燃料の放射線量当量率の測定を、仕様書上の協議事項として民間業者との協議により実施していた。
このように、性能試験の実施が見込まれなくなり、実施されていない業務が存在していたり、毎年度継続して実施している業務があったりしているにもかかわらず、これらについて長期間にわたって仕様書の見直しが行われていなかった。
国は、23年原発事故において、津波の影響により原子炉の電源供給機能や炉心冷却機能が失われたことなどを踏まえて、各電気事業者等に対して、これらの機能が失われた場合であっても、放射性物質の放出をできる限り回避しつつ、電源供給機能や炉心冷却機能等を回復することを可能にするための緊急安全対策等、各種の安全対策を実施することを求めた。
これを受けて、機構は、23年度から28年度までの間に、図表2-8のとおり、計40件の契約(契約額計35億3800万余円)を締結して、緊急時に電源を確保するための電源車の配備等の緊急安全対策のほか、設計上の想定を超える外部事象に対するもんじゅの頑健性に関する総合的な評価(ストレステスト)及びもんじゅの敷地内の破砕帯(注18)に係る調査を実施した。
図表2-8 23年原発事故を踏まえたもんじゅの安全対策
区分 | 契約件数 | 契約金額 | 契約年度 |
---|---|---|---|
緊急安全対策 | 16件 | 13億3097万円 | 平成23、24 |
もんじゅの頑健性に関する総合的な評価 | 10件 | 14億9824万円 | 23、24 |
敷地内の破砕帯に係る調査 | 14件 | 7億0878万円 | 24~28 |
計 | 40件 | 35億3800万円 |
もんじゅの安全規制については、前記のとおり、23年原発事故を踏まえて24年6月に原子炉等規制法が改正され、これを受けて、25年7月に新規制基準が導入されている。
また、もんじゅの新規制基準は、同年同月に施行された軽水炉を対象とした「実用発電用原子炉及びその附属施設の位置、構造及び設備の基準に関する規則」(平成25年原子力規制委員会規則第5号)等に準じて策定されたものであり、原子力規制委員会は、もんじゅの新規制基準の導入に先立ってパブリックコメントを募集したものの、この基準が適用される研究開発のための発電用原子炉はもんじゅに限られること、また、もんじゅにおいては保安措置命令への対応が最優先と認識していたことなどから、後日、もんじゅの新規制基準への適合を確認する審査を行うまでに改めて検討し、見直すこととして、パブリックコメントを踏まえた修正を行わなかった。そして、原子力規制委員会は、25年10月に、機構に対して新規制基準の見直しに当たり考慮すべき重大事故対策等について検討を依頼した。
これらを踏まえて、機構は、もんじゅの新規制基準に適合するための対応や、原子力規制委員会からの依頼を踏まえた検討等に取り組んでおり、24年度から28年度までの間に、新規制基準に係る各種検討作業等の契約計83件(契約額計39億0050万余円)を締結した。
しかし、機構は、原子力規制委員会からの依頼に対しては、26年7月にもんじゅに関する重大事故を含む安全確保の要求事項等を取りまとめた「高速増殖原型炉もんじゅの安全確保の考え方」を報告するなどしていたものの、もんじゅの新規制基準に適合するための対応については、その方針の検討にとどまり、具体的な工程の策定や安全対策等は実施していなかった。機構は、この理由について、原子力規制委員会による保安措置命令を受けて、保安措置命令への対応に注力する必要があったため、また、上記のパブリックコメントや報告を踏まえた新規制基準の見直しが行われてから、具体的な工程の策定等を実施することとしていたためとしている。
また、これまでの機構の検討作業を踏まえて、文部科学省が28年10月に行った試算によれば、仮にもんじゅの全ての設備について、運転段階への移行を前提とした新規制基準への適合が必要となる場合、新規制基準対応工事には、7年の期間と1300億円以上の費用が必要になることが見込まれるとされた。
このように、新規制基準に適合するために要する時間的・経済的コストの増大が明らかになったことも、廃止措置への移行決定に至った要因の一つになっている。
機構は、前記のとおり、その時々の国の方針を踏まえて、もんじゅの研究開発に取り組んでいる。
昭和31年9月に策定された原子力長期計画では、高速増殖炉の国産に目標を置くとされ、42年4月に改定された原子力長期計画では、42年度から高速増殖炉の開発に本格的に着手し、40年代後半に原型炉の建設、50年代初期に運転を開始することとされていた。これらを踏まえて、機構は、43年9月にもんじゅの予備設計を開始し、平成3年4月に原子炉の据付けを完了した。その後、6年6月に改定された原子力長期計画では、もんじゅの性能試験を着実に進め、7年末の運転開始を目指すとされた。7年12月のナトリウム漏えい事故から17年9月のナトリウム漏えい対策のための改造工事の着工までの間、9年12月には、もんじゅの研究開発について継続の方針が示され、12年11月に改定された原子力長期計画では、もんじゅが国内の高速増殖炉サイクル技術の研究開発の場の中核として位置付けられ、早期の稼働再開を目指すこととされた。また、15年10月に閣議決定されたエネルギー基本計画では、もんじゅの研究開発が原子力に関する技術における重点的施策として位置付けられていた。
そして、17年10月に策定された原子力政策大綱においては、もんじゅの研究開発について、10年程度以内を目途に発電プラントとしての信頼性の実証及び運転経験を通じたナトリウム取扱技術の確立という所期の目的を達成した後、高速増殖炉の実用化に向けた研究開発等の場として活用・利用することとされた。これを受けて、機構は、17年10月に第1期中期計画(17年10月~22年3月)を、22年3月に第2期中期計画(22年4月~27年3月)をそれぞれ策定して、原子力政策大綱において設定されたもんじゅの研究開発に係る所期の目的を達成するために、性能試験を実施し、運転を開始するとともに、性能試験及び運転を通じて得られる各種データや技術的知見に基づく研究開発を進め、実証炉に向けた技術移転への準備を行い、その後、高速増殖炉の実用化に向けた研究開発等の場としてもんじゅを活用するための準備を行うこととした。
しかし、もんじゅは、22年8月に炉内中継装置の落下事故が発生して以降、性能試験が中断されており、また、23年原発事故を踏まえて策定された革新的エネルギー・環境戦略(平成24年9月エネルギー・環境会議決定)において、高速増殖炉の開発に係る成果の取りまとめ、廃棄物の減容・有害度の低減を目指した研究等を行うこととされたことから、年限を区切った研究計画を策定し、実行して、成果を確認の上、研究開発を終了することとされた。
このような状況を踏まえて、文部科学省は、25年9月に従来のもんじゅの研究開発に係る目標を再整理してもんじゅ研究計画を策定しており、この中で、もんじゅにおいて、発電システムを備えるプラント技術を実証し、運転・保守経験を通じた技術の確立・継承が行えるよう研究開発の成果を取りまとめるとしていた。また、高速増殖炉の実用化に向けた研究開発等の場として活用・利用という目標が除かれる一方で、廃棄物の減容・有害度の低減等を目指した研究開発のほかに、23年原発事故を踏まえた安全技術体系の構築を目指した研究開発が新たに目標として追加された。そして、26年4月に閣議決定されたエネルギー基本計画では、もんじゅを、廃棄物の減容・有害度の低減等のための国際的な研究拠点と位置付けるとともに、もんじゅ研究計画に示された研究の成果を取りまとめることを目指すとされていた。
これらを受けて、機構は、27年2月に第2期中期計画を変更し、また、同年4月に第3期中長期計画(27年4月~34年3月)を策定して、もんじゅ研究計画で示された目標を達成することを目指すとした。
しかし、28年12月にもんじゅの廃止措置への移行が決定されたことにより、もんじゅの稼働再開を前提にしたもんじゅ研究計画はその役割を終え、29年4月に変更された第3期中長期計画においては、もんじゅ研究計画に基づく研究開発に代わり、もんじゅの安全かつ着実な廃止措置の実施への対応が目標として掲げられている。
もんじゅは、前記のとおり、建設段階の発電用原子炉として位置付けられており、運転を開始していない。そして、プラントが稼働していたのは性能試験を実施していた期間にとどまっており、その稼働日数は、4年12月の性能試験開始から7年12月のナトリウム漏えい事故までの間に205日、22年5月の性能試験再開から同年8月の炉内中継装置の落下事故までの間に45日、計250日となっている。
そこで、もんじゅの稼働期間における研究開発の進捗状況を把握するために、性能試験で実施を予定していた試験項目数とその実施状況を確認したところ、次のとおりとなっていた。
もんじゅの性能試験は、もんじゅの炉心の特性を確認する「炉心特性試験」、原子炉容器周辺部等の放射線が適切に遮へいされていることを確認する「しゃへい特性試験」、原子炉の起動中のプラントの特性等を確認する「プラント特性試験」の三つに大別される。
機構は、性能試験を開始するに当たり、原子炉の起動前のプラントの特性を確認する「プラント特性予備試験」を実施した上で、試験の工程を、①初臨界炉心の解析等を行う臨界試験、②臨界を制御するための制御棒を引き抜いた状態で原子炉が適切に停止できるかなどを確認する炉物理試験、③炉心で発生した熱による設備の昇温に伴う各種制御特性を確認する核加熱試験、④熱出力を40%、75%、100%と段階的に上昇させ、総合的な性能を確認する出力試験の4段階に区分し、各段階を通じて、炉心特性試験、しゃへい特性試験及びプラント特性試験の各試験項目を実施していくこととしていた。
そして、機構は、4年12月にプラント特性予備試験を開始した後、順次、臨界試験、炉物理試験、核加熱試験を実施した。しかし、7年12月に、40%出力試験の実施中にナトリウム漏えい事故が発生したことから、性能試験を中断した(以下、4年12月から7年12月までの間に実施した性能試験を「第1回性能試験」という。)。
このため、第1回性能試験においては、図表3-1のとおり、実施を予定していた試験項目142項目のうち完了した試験項目は50項目にとどまった。
図表3-1 第1回性能試験における試験項目の実施状況
試験分類 | 実施を予定していた試験項目数 | 完了した試験項目数 | |
---|---|---|---|
プラント特性予備試験 | 21 | 21 | |
炉心特性試験 | 28 | 17 | |
しゃへい特性試験 | 10 | 3 | |
プラント特性試験 | 系統運転特性 | 47 | 5 |
計測制御特性 | 14 | - | |
異常模擬運転特性 | 11 | 2 | |
化学分析評価 | 6 | - | |
その他 | 5 | 2 | |
計 | 142 | 50 |
その後、機構は、性能試験の再開を目指すに当たり、もんじゅが長期間稼働していない状態にあること、長期停止中に炉心の燃料の組成が変化してアメリシウム(注19)が多く生成されていたことなどを考慮して、炉心、設備等の安全性等を確認するために、第1回性能試験では4段階で実施していた試験工程を見直して、炉心確認試験、40%出力プラント確認試験及び出力上昇試験の3段階に区分し、各段階を通じて炉心特性試験、しゃへい特性試験及びプラント特性試験をそれぞれ実施することとした。そして、第1回性能試験において実施済みの試験項目50項目のうち、再度実施する必要がないと判断した試験項目38項目を除外し、新たな測定手法の開発、設計及び解析手法の妥当性評価等に係る試験項目13項目を加えて、実施すべき試験項目117項目を選定して、22年5月に性能試験を再開した。
しかし、炉心確認試験終了後、同年8月に炉内中継装置の落下事故が発生したため、40%出力プラント確認試験及び出力上昇試験は実施されていない(以下、同年5月から同年8月までの間に実施した性能試験を「第2回性能試験」という。)。
このため、第2回性能試験においては、実施を予定していた試験項目117項目のうち20項目については炉心確認試験段階まで進捗したものの、図表3-2のとおり、完了した試験項目はなかった。
図表3-2 第2回性能試験における試験項目の実施状況
試験分類 | 実施を予定していた試験項目数 | 完了した試験項目数 | |
---|---|---|---|
炉心特性試験 | 20 | - | |
しゃへい特性試験 | 7 | - | |
プラント特性試験 | 系統運転特性 | 48 | - |
計測制御特性 | 15 | - | |
異常模擬運転特性 | 12 | - | |
化学分析評価 | 6 | - | |
その他 | 9 | - | |
計 | 117 | - |
文部科学省及び機構は、28年10月から同年12月にかけて今後の高速炉(注20)開発の進め方について検討するために開催された高速炉開発会議において、もんじゅの研究開発を通じて得られた重要な成果として、次のような知見があるとしている。
そして、高速炉開発会議の議論を踏まえて国が決定した「「もんじゅ」の取扱いに関する政府方針」(平成28年12月原子力関係閣僚会議決定)においても、もんじゅの研究開発の重要な成果は、国内技術に基づき設計・建設がなされ、40%出力試験まで行われたことにより、高速増殖炉の燃料、各種機器・システム、ナトリウム取扱技術、安全評価等に係る様々な知見が獲得されたことであるとされている。また、実証炉以降の将来炉に向けた、新たな保守管理技術及び安全技術が獲得されるとともに、ナトリウム漏えい事故等、様々なトラブル等への対策を通じた保守管理の知見も蓄積されたとされている。
前記のとおり、もんじゅは、発電技術を獲得し、次の段階の実証炉の実用化を目指す原型炉として、稼働を通じた発電プラントとしての信頼性の実証及び運転経験を通じたナトリウム取扱技術の確立を所期の目的としている。しかし、もんじゅの稼働日数は250日間にとどまり、運転段階に移行していない。
そこで、もんじゅの研究開発を通じて得られた成果のうち、もんじゅの性能試験開始後における成果の達成度についてみると、次のとおりとなっていた。
文部科学省は、24年5月の第19回新大綱策定会議に提出した参考資料において、もんじゅの性能試験開始後における技術成果の達成度について、もんじゅの後の実証炉の開発に対して有用かどうかの観点から抽出した試験等項目を基に試算し数値化している。これは、もんじゅの稼働再開後10年間で実証炉の開発に有用な技術成果が得られることを見込んだ上で、図表3-3のとおり、24年5月時点、稼働再開から2年後、10年後等における技術成果の達成度を割合で示したものであり、具体的には次の手順に従って算出される。
① もんじゅの研究開発のうち実証炉の開発に対して有用な試験・取組として、性能試験において実施する前記試験項目のうち実証炉の開発に対して有用ではないと判断したものや実施内容が重複しているものを除外して抽出した試験項目53項目と、運転段階移行後に実施を予定している試験項目や、機器の継続的な稼働データを取得したり運転・保守経験を蓄積したりするための取組37項目、計90項目を選定する。
② 各試験等項目から得られる技術成果について、それぞれ重要度に応じて8点、6点又は4点と点数を設定した上で、その点数を24年5月までに得られた分、稼働再開から2年後又は10年後までに得られると見込まれる分等に振り分ける。
③ 試験等項目を「機器・システム試験関連」、「炉心試験・照射関連」及び「運転・保守関連」の三つに分類する。
④ 24年5月時点、稼働再開から2年後、10年後等の各時点において、それぞれ得られた又は得られると見込まれる試験等項目の点数を三つの分類ごとに集計して総点数に占める達成度を算出し、三つの分類の達成度を平均することで全体の達成度を計算する。
図表3-3 もんじゅの性能試験開始後における技術成果の達成度
分類 | 平成24年5月時点の技術成果の達成度 | 性能試験終了時の達成度見込 (2年後) |
運転開始後8年の達成度見込 (10年後) |
---|---|---|---|
機器・システム試験関連 | 16% | 69% | 100% |
炉心試験・照射関連 | 31% | 73% | 100% |
運転・保守関連 | 0% | 3% | 100% |
全体 | 16% | 48% | 100% |
文部科学省は、上記達成度の算出の前提となる試験等項目及び点数について、図表3-4のとおり、機器・システム試験関連で全58項目、計358点、炉心試験・照射関連で全21項目、計140点、運転・保守関連で全11項目、計76点と設定していた。
また、24年5月時点で機器・システム試験関連の30項目、炉心試験・照射関連の15項目の技術成果として、それぞれ56点、44点が得られたとした上で、達成度をそれぞれ16%及び31%と算出しており、これらについては、全て第1回性能試験及び第2回性能試験で成果が得られたとしていた。一方、運転・保守関連に係る試験等項目については、継続的な運転・保守管理を実施することによって成果が得られるものであることから、24年5月時点で点数は得られておらず、達成度を0%としていた。そして、機器・システム試験関連、炉心試験・照射関連及び運転・保守関連の三分類の達成度を踏まえて、もんじゅの研究開発全体の達成度を16%と算出していた。
図表3-4 技術成果の達成度の算出の前提となる試験等項目及び点数
分類 | 試験等項目数 | 点数 | 平成24年5月時点の技術成果の達成度 | ||
---|---|---|---|---|---|
点数の得られた試験等項目数 | 得られた点数 | 達成度 | |||
機器・システム試験関連 | 58 | 358 | 30 | 56 | 16% |
炉心試験・照射関連 | 21 | 140 | 15 | 44 | 31% |
運転・保守関連 | 11 | 76 | 0 | 0 | 0% |
計 | 90 | 574 | 45 | 100 | 16% |
そこで、前記の試験等項目、重要度、点数等と同じ条件を用いて、会計検査院において、もんじゅの研究開発の成果を7年12月のナトリウム漏えい事故から28年12月の廃止措置への移行決定までの間の各時点において定量的に表す指標として、性能試験開始後における技術成果の達成度を試算したところ、次のとおりとなった。
なお、文部科学省が試算した技術成果の達成度の対象となる範囲は、もんじゅの性能試験開始後における研究開発であり、前記の「「もんじゅ」の取扱いに関する政府方針」において示されているもんじゅの研究開発の成果の範囲との関係を示すと、図表3-5のとおりである。
図表3-5 もんじゅの研究開発の成果と技術成果の達成度の試算の関係(概念図)
前記の試験等項目について、第1回性能試験の中断時点である7年12月までの達成状況をみると、図表3-6のとおり、点数が得られた試験等項目数は機器・システム試験関連で29項目、炉心試験・照射関連で12項目となっており、これらの項目で得られた点数の合計は、それぞれ最大で55点、38点となっていた。
また、第2回性能試験の中断時点である22年8月までの達成状況は、22年8月から24年5月までの間に性能試験を実施していないことから、文部科学省が算出した24年5月時点と変わっていなかった。
さらに、もんじゅの廃止措置への移行が決定した28年12月時点までの達成状況も、24年5月以降に性能試験が実施されていないこと、また、プラントの稼働に伴う機器の稼働データ等が取得されていないことから、新たに達成された試験等項目がなく、24年5月時点と変わっていなかった。
図表3-6 もんじゅの性能試験開始後の各時点において実施された試験等項目
分類 | 全試験等項目数(点数) | 各時点で点数が得られた試験等項目数(点数) | |||
---|---|---|---|---|---|
平成7年12月のナトリウム漏えい事故時点 | 22年8月の炉内中継装置の落下事故時点 | 24年5月時点 | 28年12月の廃止措置への移行決定時点 | ||
機器・システム試験関連 | 58(358) | 29(55) | 30(56) | 30(56) | 30(56) |
炉心試験・照射関連 | 21(140) | 12(38) | 15(44) | 15(44) | 15(44) |
運転・保守関連 | 11(76) | 0(0) | 0(0) | 0(0) | 0(0) |
計 | 90(574) | 41(93) | 45(100) | 45(100) | 45(100) |
上記を踏まえて、文部科学省が24年5月時点における達成度を算出した方法に倣って、もんじゅの性能試験開始後の各時点における技術成果の達成度を算出したところ、図表3-7のとおり、7年12月時点で最大で14%、22年8月時点で16%、28年12月時点で16%となった。そして、水・蒸気系設備等の長期的な稼働データの取得、高速増殖炉の運転経験の蓄積、高速増殖炉用保守管理プロセスの確立等、もんじゅの継続的な運転・保守管理を前提とする試験等項目については達成されておらず、28年12月の廃止措置への移行決定時点で達成している試験等項目は、もんじゅのプラントの稼働日数250日の間に実施した性能試験の実施項目のみであった。
図表3-7 もんじゅの性能試験開始後の各時点における技術成果の達成度
分類 | 平成7年12月のナトリウム漏えい事故時点 | 22年8月の炉内中継装置の落下事故時点 | 24年5月時点 | 28年12月の廃止措置への移行決定時点 |
---|---|---|---|---|
機器・システム試験関連 | 15% | 16% | 16% | 16% |
炉心試験・照射関連 | 27% | 31% | 31% | 31% |
運転・保守関連 | 0% | 0% | 0% | 0% |
全体 | 14%(最大) | 16% | 16% | 16% |
機構は、もんじゅの研究開発を通じて得られた知見の蓄積として、28年度末時点で、もんじゅの設計・建設の過程で作成された工事関係図書、機器図等を含む設計・建設関連図書約19万件を保有している。なお、これらの情報は、設計等に従事した民間業者のノウハウ等が含まれているため、公開されていない。
また、機構は、もんじゅの研究開発を通じて取得した技術的知見等について、原子力に関する研究分野を持つ学会等における論文若しくは口頭発表又は機構自ら編集した研究開発報告書として発表している。これらの情報は、ホームページ上の「研究開発成果検索・閲覧システム」を通じて一般に公開されている。当該システムに登録されている論文等の情報のうち、著者の所属先が確認できた17年10月から29年3月までの間の論文等について、高速増殖原型炉もんじゅ及びもんじゅ運営計画・研究開発センターに所属する職員が発表した論文等の数を確認したところ、学会誌等掲載論文175件、学会での口頭発表283件、研究開発報告書33件、計491件となっていた。そして、上記の学会誌等掲載論文175件のうち、学会が論文の質について客観的に一定の担保を付すために行われる査読を経たものは127件となっていた。
また、機構によれば、もんじゅが初臨界を達成した6年4月から17年9月までの間に、高速増殖原型炉もんじゅ及びもんじゅ運営計画・研究開発センターの前身組織に所属した経験のある職員が発表した論文等の数は、学会誌等掲載論文117件、研究開発報告書146件、計263件であったとしている。
そして、機構が公開している論文等の内容は、もんじゅの性能試験を通じて取得した各種データの分析、もんじゅの保守管理に関する検討、法令報告事象への技術的な対応、新規制基準への適合を含む安全対策に係る対応等となっている。
上記のほか、機構は、もんじゅの研究開発を通じて取得した技術的知見等を基にコンピュータ・プログラム、解析コード等(以下「プログラム等」という。)の開発・整備を行っており、その件数は24件となっていた。このうち、もんじゅの設計等で得られたデータを基準として用いて高速炉の設計プロセスを学習するコンピュータ・プログラム等、一部のプログラム等の概要等については、機構のホームページ上の「コンピュータプログラム等検索システム」を通じて一般に公開されている。また、これらのプログラム等は、所定の手続を行った上で、有償又は無償で希望者に提供されている。
機構は、もんじゅの研究開発を通じて得られたこれらの成果が実証炉以降の高速炉開発等に貢献するものになるよう、廃止措置に係る技術成果と共に集大成を行うとしていることから、これを着実に進めて適切に成果の情報提供等を行う必要がある。
国は、高速増殖炉の開発については、図表3-8のとおり、実験炉、原型炉及び実証炉の各段階を経て、商業炉として実用化することを目指すとしている。
図表3-8 高速増殖炉の実用化の段階
高速増殖炉は、当初、昭和60年代(1980年代後半)初期の実用化が目標とされていたが、実用化までには相当の期間が見込まれるとも予測されており、原子力長期計画が改定されるたびに、実用化の目標時期が延期されてきた。
平成6年6月に改定された原子力長期計画においては、高速増殖炉は、燃料の加工、再処理等の研究開発との整合性のとれた開発を進め、核燃料サイクルの確立を目指すこととされたが、実用化が想定される時期は42年(2030年)頃までとされた。
そして、17年10月に策定された原子力政策大綱では、もんじゅが長期停止している状況下で、もんじゅの研究開発の成果等に基づいた実用化への取組を踏まえつつ、62年(2050年)頃から商業ベースでの高速増殖炉の導入を目指すとされていた。
上記に基づいて、国は、高速増殖炉サイクルの適切な実用化像や商業炉の導入に至るまでの研究開発計画を検討するために、開発目標、設計要求等を満足する実証炉及び商業炉の概念設計を得ることを目的とした「高速増殖炉サイクル実用化研究開発」(以下「FaCT」という。)を開始するに当たり、機構を研究開発の実施主体とすることとした。FaCTにおいては、18年度から22年度までの間に、革新的な技術の実証炉及び商業炉への採用可能性等を検討し、その検討結果を踏まえ、23年度以降、実証炉の概念設計等を行うとともに、もんじゅの性能試験等を通じて得られた成果を上記の概念設計等に反映するとしていた。
しかし、23年原発事故を受けて、国の原子力政策が抜本的に見直されることになったことに伴い、23年9月以降、FaCTは事実上凍結されたため、現在に至るまで研究開発は進捗しておらず、実証炉及び商業炉の概念設計等は実施されていない。また、25年9月に策定されたもんじゅ研究計画や26年4月に閣議決定されたエネルギー基本計画においても、実証炉及び商業炉の導入時期等の実用化目標は示されていない(図表3-9参照)。
図表3-9 高速増殖炉の実用化に係る国の目標
目標設定時期 | 国の計画等 | 実用化の目標時期等 |
---|---|---|
昭和 40年代 | 原子力長期計画 | 昭和60年代(1980年代後半) |
50年代 | 昭和70年代(1990年代後半)~平成22年(2010年)頃 | |
60年代 | 平成32年(2020年)~42年(2030年)頃 | |
平成6年6月 | 平成42年(2030年)頃 | |
12年11月 | 言及されていない(柔軟かつ着実に検討) | |
15年10月 | エネルギー基本計画 | 言及されていない |
17年10月 | 原子力政策大綱 | 平成62年(2050年)頃 |
19年3月 | エネルギー基本計画 | 平成62年(2050年)よりも前 |
22年6月 | 平成62年(2050年)よりも前 | |
24年9月 | 革新的エネルギー・環境戦略 | 言及されていない |
25年9月 | もんじゅ研究計画 | 言及されていない |
26年4月 | エネルギー基本計画 | 言及されていない |
発電用原子炉の使用済燃料を再処理して、ウラン、プルトニウム等の資源を再利用する核燃料サイクルは、資源の有効利用、廃棄物の減容等を図ることを目的に、国の原子力政策の基本方針として推進されてきている。そして、高速増殖炉は、軽水炉に比べて資源の利用効率を飛躍的に向上させることが見込まれるとして、高速増殖炉の燃料の加工及び使用済燃料の再処理を含めた高速増殖炉サイクルに係る研究開発に取り組むとされてきた。
また、7年12月のもんじゅのナトリウム漏えい事故以降も、原子力長期計画等の策定過程で核燃料サイクルの再検討を行いながら、核燃料サイクルを維持するとともに、その中心的存在である高速増殖炉及び高速増殖炉サイクルに係る研究開発を実施することの意義がその都度表明されてきた。例えば、国は、16年に原子力委員会が設置した新計画策定会議において、今後の核燃料サイクルの進め方について集中的に検討し、使用済燃料の直接処分は経済性の観点では優位性があるものの、廃棄物の抑制と資源等の循環的な利用推進を通じて環境への負荷の低減を図る循環型社会の理念とは整合しないなどとして、経済性の面では劣るものの、当面は再処理を行うこととし、再処理能力を超えて発生する使用済燃料については、再処理施設に搬入するまでの間、専用施設に一時的に貯蔵・管理する中間貯蔵を実施する方針をまとめた。そして、高速増殖炉サイクルが実用化されれば、エネルギーの安定供給の観点からは、軽水炉によるプルトニウム利用と比べて資源の利用効率が格段に高まるとともに、循環型社会との適合性の観点からは、高速増殖炉の使用済燃料を再処理することにより廃棄物の減容が可能であるとされ、原子力政策大綱において、様々な観点に留意しつつ、使用済燃料の再処理を国内で行うことを原則とするとされた。
その後、原子力委員会は、24年9月に策定された革新的エネルギー・環境戦略の策定に当たりエネルギー・環境会議の指示を受けて、直接処分、再処理及び両者の併存の三つの選択肢について検討した上で、高速増殖炉の研究開発については、全量直接処分の場合は基礎基盤研究以外の研究開発を中止し、それ以外の場合は実用化を前提とした、あるいは実用化の可否を判断するために必要な研究開発を実施することを提案するとともに、廃棄物処理技術としての高速炉の位置付けの検討等についても提案した。
これを受けて、文部科学省は、25年9月に、将来にわたって持続的なエネルギーの選択肢及び廃棄物の負担軽減に係る技術的な選択肢を確保し、資源の獲得競争や価格高騰のリスク、廃棄物処理に係る課題を将来に先送りしないとの視点に立ってもんじゅ研究計画を策定した。この中で、従来の高速増殖炉という記述に高速炉が併記され、「高速増殖炉/高速炉」の開発の再定義が行われた。具体的には、「高速増殖炉/高速炉」の利用は、原子力利用が長期に続く場合には燃料の増殖に重点が置かれ、原子力利用が将来に向け収束していく場合には廃棄物対策の中でもプルトニウム等の消費が着目されると分析しており、もんじゅについては、廃棄物の減容に重点を置くとされた。そして、図表3-10のとおり、「高速増殖炉/高速炉」に係る再処理は、直接処分に比べて、廃棄物の処分体積を1/7に低減でき、直接処分では使用済燃料の有害度が天然ウランと同程度になるまでに必要な期間が約10万年とされているが、再処理することにより約300年に短縮できる可能性があるとして、廃棄物の処理・処分に関する有効な技術的選択肢を確保する観点から、「高速増殖炉/高速炉」を用いた廃棄物の減容・有害度の低減等のための研究の意義が示されている。
そして、26年4月に閣議決定されたエネルギー基本計画においても廃棄物の減容・有害度の低減等や資源の有効利用等に資する高速炉開発を進めることとされ、もんじゅの廃止措置への移行決定とともに策定された高速炉開発の方針(平成28年12月原子力関係閣僚会議決定)においても、上記の方針は踏襲された。
図表3-10 使用済燃料の直接処分と再処理(概念図)
核燃料サイクルの確立を目指す上で、高速増殖炉の開発は、燃料の加工及び再処理の技術と整合性のとれた開発を進めることが重要であるとされてきた。
もんじゅについては、研究開発開始から廃止措置への移行決定までの間、40%出力試験までは実施したものの、当初目標としていた運転段階に移行しておらず、原型炉の運転・保守経験等を通じて取得する予定であったデータ、技術的知見等を十分に取得することができなかった。
また、もんじゅの廃止措置への移行決定までの高速増殖炉サイクルを担う施設等の状況をみると、燃料加工施設について、機構は、昭和57年にもんじゅなどにおいて使用する燃料を製造するために、東海事業所内にプルトニウム燃料第三開発室の建設を開始し、63年に操業を開始した。もんじゅの燃料の加工は、平成元年から始まったが、その後のもんじゅの長期停止の影響や、新規制基準への適合に係る対応等のため、同開発室は、23年以降、操業を停止している。
再処理施設について、機構は、昭和62年度から東海再処理施設の軽水炉燃料再処理技術等をベースに、高速増殖炉から発生する使用済燃料を用いて、再処理施設で使用する機器の研究開発を実施する施設として、リサイクル機器試験施設の概念設計を開始し、平成7年7月に東海事業所内で建設を開始したが、同年12月のナトリウム漏えい事故等を受けて、12年7月以降、建設を中断している。これらのことから、もんじゅの長期停止は高速増殖炉並びに高速増殖炉の燃料の加工及び使用済燃料の再処理に係る研究開発の進捗にも影響を及ぼしてきたと思料される。
もんじゅの廃止措置への移行が決定した28年12月時点において、図表3-11のとおり、もんじゅに係る燃料加工施設は操業しておらず、再処理施設については整備を中断していることから、もんじゅを発電用原子炉とする高速増殖炉サイクルは成立していなかった。
図表3-11 もんじゅを発電用原子炉とする高速増殖炉サイクルの開発状況(平成28年12月時点)
なお、12年11月に改定された原子力長期計画においては、民間事業者が5年4月から建設中の軽水炉の使用済燃料の再処理工場に続き、高速増殖炉の使用済燃料の再処理も可能とすることも想定した新たな再処理工場の建設について、22年頃から検討を開始することが適当とされていた。また、19年3月に閣議決定されたエネルギー基本計画においては、新たな再処理工場について、57年(2045年)頃の操業開始を目指して必要な技術開発を実施することとされていた。しかし、我が国の原子力による商業発電が始まってから約50年が経過しており、この間に使用済燃料の保有量が増加している中で、建設中の再処理工場自体の完成は遅延しており、その後に閣議決定されたエネルギー基本計画においては、新たな再処理工場の操業開始時期の見込みは明示されていない。
前記のとおり、もんじゅを発電用原子炉とする高速増殖炉サイクルが成立していない中で国は、28年12月にもんじゅの廃止措置への移行を決定する一方、併せて高速炉開発の方針を策定して、引き続き核燃料サイクルを推進するとともに、核燃料サイクルによって期待される廃棄物の減容等の効果をより高める高速炉についても、その開発の意義は変わらないとして、高速炉開発に取り組む方針を決定している。
そして、もんじゅが運転を開始することなく廃止措置へ移行されることから、国は、これまでもんじゅの研究開発により取得することを見込んでいた技術的知見等について、もんじゅの稼働によらない新たな方策によって取得を図るとして、今後、その具体的な方策を検討するために、28年12月に高速炉開発会議に設置した戦略ワーキンググループにおいて、今後10年程度の開発作業を特定する「戦略ロードマップ」を、30年を目途に策定するとしている。また、廃止措置への移行が決定されたもんじゅにおいても、今後、もんじゅの稼働によらない新たな方策によって得られた知見を活用した高速炉研究や実証炉に向けた技術開発等が実施されることになっている。
このような状況の中、機構は、これまでのもんじゅの研究開発を通じて、既に相応の技術的知見等が得られており、これらを活用することによって、実証炉の建設段階に向けた開発作業に着手することは十分に可能であるとし、もんじゅの運転を通じて得ることを見込んでいた技術的知見等についても、高速炉開発における国際協力を活用するなどして、もんじゅの稼働によらない新たな方策によって取得できるとしている。例えば、26年5月に日本とフランスの間で締結された政府機関間取決め等に基づき、フランスで建設が予定されている高速炉ASTRID(Advanced Sodium Technological Reactor for Industrial Demonstration)に係る設計及び研究開発への協力を通じて成果を得ていくなどとしている。そして、機構として、高速炉開発を含めた核燃料サイクル政策を推進していく必要があるとの立場から、もんじゅの廃止措置への移行決定が、核燃料サイクル政策の推進に大きな影響を与えることのないよう努めていくとしている。
しかし、前記のとおり、もんじゅの性能試験開始後の技術成果の達成度は28年12月の廃止措置への移行決定時点で16%となっており、達成された試験等項目はもんじゅのプラントの稼働日数250日の間に実施した性能試験の実施項目に限られていて、原型炉の運転・保守経験等を通じて取得する予定であったデータ、技術的知見等については十分に取得されていない。そして、核燃料サイクルの推進は、長期間にわたり重要な原子力政策の一つとして位置付けられてきた一方、実証炉開発の目標時期は、もんじゅの長期停止の影響もあり、現時点では具体的に示されていない状況にあり、29年1月に原子力委員会が発表した「高速炉開発について(見解)」においても、もんじゅの研究開発の最も重要な反省点は、様々なトラブルによって研究開発期間が当初の想定以上に長期に及ぶとともに、23年原発事故以降、高速炉の実現やその商業化に向けた道筋が不明確になったこととされている。
これらを踏まえると、今後、高速炉開発を含めた核燃料サイクルに係る研究開発が継続される際には、十分には取得できなかった原型炉の運転・保守経験等の取得を目的としたもんじゅの稼働によらない新たな方策も含めた様々な課題があると思料される。
原子炉等規制法等によれば、発電用原子炉設置者は、発電用原子炉を廃止しようとするときは、発電用原子炉施設の解体、保有する核燃料物質の譲渡し、核燃料物質による汚染の除去、核燃料物質に汚染された物の廃棄等の廃止措置を講じなければならないとされている。そして、廃止措置を講ずるに当たり、発電用原子炉設置者は、あらかじめ廃止措置段階における保安規定及び廃止措置計画を定め、それぞれ原子力規制委員会の認可を受けなければならないとされている。廃止措置計画の認可の基準は、炉心から燃料が取り出されていること、核燃料物質の管理及び譲渡しが適切なものとなっていること、核燃料物質又は核燃料物質によって汚染された物の管理、処理及び廃棄が適切なものとなっていること、廃止措置の実施が災害防止上適切なものとなっていることなどとされている。
原子力規制委員会の認可後、発電用原子炉設置者は、廃止措置計画等に基づいて廃止措置を実施することとされ、発電用原子炉施設について、運転を前提とした技術上の基準に適合するよう維持する必要がなくなるとされている。また、廃止措置の実施状況に応じて年4回以内、原子力規制委員会の保安検査を受けることとされている。そして、廃止措置が終了したときは、廃止措置の結果について同委員会の確認を受けることとされており、当該確認により、発電用原子炉は原子炉等規制法の適用対象外となる。
なお、29年12月時点で、廃止措置を講じている発電用原子炉には、日本原子力発電株式会社の東海発電所、機構の新型転換炉原型炉ふげんなど10基がある。また、これまでに廃止措置が終了した発電用原子炉には、機構の動力試験炉がある。
国は、前記のとおり、28年12月に、発電用原子炉であるもんじゅを運転を開始することなく廃止措置に移行する方針を決定した。
上記の方針を受けて、機構は、同年同月に、もんじゅの廃止措置に係る当面の取組として、29年4月を目途に廃止措置に関する基本的な計画を策定し、安全かつ着実に廃止措置を実施するための体制を整備するとともに、その後速やかに廃止措置計画を原子力規制委員会に申請すること、もんじゅの安全上のリスクを低減する観点から、炉心の燃料について、廃止措置に関する基本的な計画の策定からおおむね5年半で取り出すことなどを目指すこととした。また、文部科学省は、28年12月に、同委員会に対して、廃止措置計画等の早期の申請を可能にするための必要な取組の実施を要望した。
これを踏まえて、原子力規制委員会は、安全上のリスクを低減するためには、炉心の燃料を速やかに取り出す必要があり、また、廃止措置を前提とするもんじゅについて、運転を前提とする新規制基準をそのまま適用することは合理的でないとした。そして、29年4月に研開炉規則等を改正して、炉心の燃料の取出しが終了していることを前提とする廃止措置について、もんじゅについては、燃料の取出し前に廃止措置計画の申請・認可を行えるようにした。また、新たに、廃止措置段階で性能を維持すべき設備(以下「性能維持施設」という。)を選定して、新規制基準に適合するよう維持することを求めた上で、これにより難い場合には、認可を受けた廃止措置計画に定めるところにより維持することとした。
また、原子力規制委員会は、29年1月に、もんじゅの廃止措置の実施状況に応じた規制を行うことなどを目的として、もんじゅ廃止措置安全監視チームを設置し、同年12月までに9回、会合を開催している。
そして、国は、29年5月に、政府一体の指導・監督の下、もんじゅの廃止措置を安全かつ着実に進めることを目的として、「もんじゅ」廃止措置推進チームを設置して、同年6月に、機構が廃止措置に関する基本的な計画を策定するに当たって準拠すべき基本方針を決定している。具体的には、機構任せにすることなく、政府として主体的に検討・調整を行うとの立場から、「もんじゅ」廃止措置推進チーム等が廃止措置の進捗状況を確認し、文部科学省に設置された「もんじゅ」廃止措置評価専門家会合が、廃止措置の進捗状況に対する第三者評価等を行うなどとした。また、機構においては、廃止措置に取り組む部門を創設すること、廃止措置に関する基本的な計画の策定からおおむね5年半で炉心の燃料の取出し作業を終了し、廃止措置計画の認可からおおむね30年で、安全確保を最優先にした廃止措置の完了を目指すこと、廃止措置を通じて得られる知見の収集・蓄積を行うことなどとされた(図表4-1参照)。
図表4-1 もんじゅの廃止措置に対する国の指導・監督等の体制
これを受けて、機構は、29年6月に「「もんじゅ」の廃止措置に関する基本的な計画」を策定し、その中で、敦賀地区に敦賀廃炉実証事業部門を新設するなど、廃止措置に向けた新たな体制を構築すること、廃止措置段階を「燃料体取出し期間」、「解体準備期間」、「廃止措置期間Ⅰ」及び「廃止措置期間Ⅱ」の四つに区分し、廃止措置の進捗状況を踏まえて各段階の廃止措置計画を具体化しながら、おおむね30年で廃止措置の完了を目指すこと、性能維持施設の範囲、保守管理の内容等について、上記廃止措置の各段階におけるプラントの状態を踏まえて設定すること、国内で初となる高速増殖炉の廃止措置を進める上で得られる様々な知見を整理し、蓄積していくことなどを定めている。
その後、機構は、もんじゅ廃止措置安全監視チームとの会合の中で、廃止措置の実施体制、技術課題等について確認を受けた上で、29年12月に、原子力規制委員会に対して、もんじゅの廃止措置計画に係る認可申請を行い、30年3月に認可を受けている。同廃止措置計画において、「「もんじゅ」の廃止措置に関する基本的な計画」等の内容が具体化されており、廃止措置の実施体制の構築の一環として、廃止措置を統括する敦賀廃止措置実証部門を設置するとされている。そして、図表4-2のとおり、廃止措置段階のうち燃料体取出し期間では、燃料の取出し、2次冷却系ナトリウムの抜取り、プラントにおける核燃料物質による汚染の分布に関する評価等を実施することとされており、具体的な作業の方法が記載されている。また、解体準備期間では、上記の汚染の分布に関する評価を継続するとともに、ナトリウム機器の解体準備及び水・蒸気系設備の解体撤去に着手すること、廃止措置期間Ⅰでは、水・蒸気系設備の解体撤去を継続するとともに、ナトリウム機器の解体撤去を行うこと、廃止措置期間Ⅱでは、建物の解体撤去等を行うこととされており、これらの具体的な作業の方法については、今後、解体準備期間までに廃止措置計画に反映して変更認可を受けることとされている。
図表4-2 廃止措置のスケジュール(平成30年3月時点)
一方、廃止措置段階における保守管理は、性能維持施設を対象とした保全計画に基づいて行うとされている。性能維持施設は、燃料が炉心にあること、ナトリウムを保持していることなどのもんじゅの廃止措置の特殊性を考慮して選定されており、稼働時に使用することを前提とする水・蒸気系設備等は除外されているものの、特に燃料の取出しが終了するまでの間は、大半の設備が性能維持施設とされている。そして、機構は、現行の建設段階の保全計画を基に、性能維持施設以外の設備に係る点検項目を除くなどして、廃止措置段階の保全計画を策定するとしており、安全上のリスクを早期に低減する観点から、炉心からの燃料の取出しが最優先であるとして、性能維持施設について、新規制基準に適合するよう維持することに代えて、上記の保全計画に基づく保守管理を実施するなどして維持していくとしている。また、大規模な自然災害等により大規模損壊が発生した場合の体制等を整備するとしている。
そして、もんじゅの燃料については、国内外の事業者に譲り渡すとされ、その具体的な計画及び方法については、燃料体取出し期間において検討するなどとされている。
したがって、機構は、性能維持施設に係る今後の新規制基準への適合に係る対応を含めた廃止装置を実施するために必要な安全確保上の措置等について、原子力規制委員会等の関係機関との間で十分な情報共有と調整を行い、廃止措置を着実に実施する必要がある。
もんじゅの廃止措置においては、安全上のリスクの低減を図る観点から、燃料の取出しが最優先に実施されるべき工程とされている。
もんじゅの燃料は、高速中性子を利用して臨界を維持するための炉心燃料と、燃料として利用できる核分裂性物質の量の増殖のために炉心燃料の周囲に配置するブランケット燃料で構成されており、もんじゅの炉心にはそれぞれ198体、172体を装荷する設計となっている。また、機構は、炉心燃料についてはプルトニウム燃料第三開発室で加工し、ブランケット燃料については民間業者に委託して加工しており、それぞれ加工したものをもんじゅまで輸送している。
一方、機構は、もんじゅの運転段階においては、当初半年に1回燃料交換を実施して、年2サイクルで運転を実施すること、また、1回の燃料交換では、炉心燃料約50体、ブランケット燃料約35体を交換することを想定して燃料の製造等を行っていたとしている。
そして、もんじゅの燃料は、28年度末時点で、図表4-3のとおり、炉心に装荷されている370体のほか、使用済みのもの、未使用のものを含めて計646体あり、そのほか、燃料に加工される前の材料が一定量保管されている。これらの取得価額は計265億3487万余円、28年度末における帳簿価額は計199億3524万余円となっており、もんじゅの廃止措置への移行が決定された時点で、減損の兆候(注21)が認められる資産の一部に挙げられている。そして、今後、国内外の事業者への譲渡しの具体的な計画及び方法が検討されていく中で、必要に応じて減損に係る会計処理が行われる見込みとなっている。
図表4-3 もんじゅの燃料の管理状況(平成28年度末)
種類 | 使用状態 | 数 | 取得時点 | 取得価額 | 帳簿価額 |
---|---|---|---|---|---|
炉心燃料 | 炉心装荷中 | 128体 | 平成
4年7月~7年12月 |
52億0154万円 | 34億1074万円 |
70体 | 20年5月~22年4月 | 30億0646万円 | 30億0646万円 | ||
使用済 | 117体 | 4年7月~6年3月 | 47億0171万円 | 11万円 | |
未使用又は再使用を予定していたもの(もんじゅで管理) | 8体 | 5年3月~7年12月 | 3億2271万円 | 3億2271万円 | |
1体 | 20年7月 | 3697万円 | 3697万円 | ||
未使用(プルトニウム燃料第三開発室で管理) | 42体 | 22年度 | 79億1501万円 | 79億1501万円 | |
小計 | 366体 | \ | 211億8442万円 | 146億9202万円 | |
ブランケット燃料 | 炉心装荷中 | 172体 | 3年4月 | 32億9673万円 | 32億4701万円 |
使用済 | 3体 | 3年4月 | 5750万円 | 0万円 | |
未使用又は再使用を予定していたもの(もんじゅで管理) | 39体 | 3年4月~7年6月 | 8億4815万円 | 8億4815万円 | |
未使用 (民間業者で管理) |
66体 | 7年度 | 11億4806万円 | 11億4806万円 | |
小計 | 280体 | \ | 53億5044万円 | 52億4322万円 | |
計 | 646体 | \ | 265億3487万円 | 199億3524万円 |
炉心燃料は、未使用又は再使用を予定していた分が51体あり、これは燃料交換1回分に相当する。同様に、ブランケット燃料は、未使用又は再使用を予定していた分が105体あり、これは燃料交換3回分に相当する。このうち未使用のブランケット燃料66体については、4年3月に、運転段階における第3サイクル(6年度下期)及び第4サイクル(7年度上期)で使用するとして、民間業者に委託して加工したものであり、機構によれば、ブランケット燃料は劣化の進行が遅いことから、あらかじめ余裕を見込み、当時の運転計画、燃料の加工期間等を考慮して準備したものであるとしている。
そして、7年12月のナトリウム漏えい事故により、もんじゅの運転段階への移行が見込めない状況となる中で、上記のブランケット燃料66体について、もんじゅでは燃料の輸送や保管に際して原子炉設置許可の変更申請等の手続が必要であるものの、稼働が見込めない状況では手続を進めることが困難であること、また、プルトニウム燃料第三開発室ではブランケット燃料の保管に係る許認可を有しておらず、保管のための設備改造等のためには多額の経費が必要となることなどから、機構内での保管場所が確保できないとしていた。このため、機構は、7年度以降、毎年度、民間業者に保管を委託しており、このうち20年度から28年度までの間の保管に係る契約は、計9件(契約額計9519万余円)となっている。また、23年原発事故以降、機構は、民間業者から上記ブランケット燃料66体の引取りを要請されてきたものの、保管場所が確保できないために引取りが行えていない状況となっていた。しかし、機構は、当該燃料について、もんじゅの廃止措置への移行決定により本来の用に供される見込みがなくなったことから、今後、将来的な取扱いについて検討することとしている。
もんじゅの廃止措置では、現在炉心に装荷されている炉心燃料198体及びブランケット燃料172体、計370体の取出しが行われることとなっている。そして、炉心に装荷された燃料は、隣接する燃料によって互いに支え合う構造となっているため、炉心から燃料を一部取り出した状態で地震が発生した場合、燃料の位置がずれ、燃料の取出しに支障が生じるおそれがあることから、廃止措置においては、図表4-4のとおり、燃料を1体取り出すごとに模擬燃料を1体装荷して、炉心に残った燃料の安定性を保ちながら、全ての燃料を模擬燃料と交換することとしている。
図表4-4 廃止措置における燃料の取出し及び模擬燃料の装荷(概念図)
そして、機構は、模擬燃料を28年度末時点で210体保有している。これは、炉心の仮組、燃料交換機の機能確認等に使用することを目的に製造されたものであり、原子炉の据付け完了後の3年5月から同年6月にかけて炉心に装荷された後、5年10月から6年5月までの間に燃料と交換されるなどしている。そして、模擬燃料のうち、13体はナトリウム中で保管されており、残りの197体は付着したナトリウムを洗浄して除去した後に水中又は大気中で保管されている。
機構は、廃止措置計画の策定に当たって、炉心の燃料の取出しの際に保管している模擬燃料を再使用することを検討したところ、ナトリウム中で保管している13体については使用可能であるものの、水中又は大気中で保管している197体については錆が付着していることから、再使用する場合は、剥離した錆が周辺設備に影響を及ぼさないよう、錆の除去が必要であるとした。
そして、機構は、上記197体の錆の除去、除去後の検査等には約1年半の期間を要し、5年半以内の燃料取出し工程への影響が懸念されることなどから、上記の197体については再使用はせず、必要な模擬燃料370体のうち、上記の13体及び模擬燃料に代替可能な非燃料体6体を除いた351体について、今後、燃料加工用に保管していた部材を有効利用するなどしてプルトニウム燃料第三開発室で製造するとともに、民間業者に委託して製造するとしている。
機構によれば、7年度に模擬燃料を洗浄した際、燃料より簡素な構造であることから、燃料に比べて洗浄時間を短縮したところ、化学反応により生じた錆が付着していることを確認したが、炉心から取り出した模擬燃料は廃棄処分の対象であり、その後の廃止措置段階において再使用することを想定していなかったため、錆の除去を行わなくても問題はないとして保管を続けていたとしている。
このため、結果として、新たに模擬燃料を製造したり、前記の210体に加え、新たに製造した模擬燃料を廃棄物として管理・処分する必要が生じたりしている。
もんじゅの燃料については、もんじゅの長期停止の影響もあり、これまで加工・保管のために多額の経費が発生している。そして、今後、炉心に装荷されている燃料だけでなく、使用済みのもの、未使用のもの及び模擬燃料についても、相当期間にわたって適切な管理・処分が必要となり、そのための費用が発生することが見込まれる。
国は、28年12月にもんじゅの廃止措置への移行を決定した際に、併せて廃止措置に要する費用についても試算し、公表している。
これによれば、もんじゅの廃止措置に要する費用は、廃止措置が終了するまでの期間を30年と想定した上で、施設の解体が完了するまでの維持管理費2250億円、施設の解体費1350億円、燃料の取出しやその準備に係る費用150億円、計3750億円と試算されている。また、そのほか、金額は算定できないものの、新規制基準に適合するための費用が発生することになるとされている。
このうち維持管理費については、29年度は170億円であり、燃料の取出し等が終了するまでの5年半の間は、廃止措置への移行前と同等の保守管理が必要であるとして、同程度の費用が見込まれており、それらが終了した後は、廃止措置の進捗に応じて漸減していくとされている。なお、燃料の取出しやその準備に係る費用には、前記の模擬燃料の製造費用21億円が含まれている。
そして、30年3月に機構が原子力規制委員会の認可を受けたもんじゅの廃止措置計画においては、もんじゅの廃止措置に要する費用の総見積額は、燃料の取出しやその準備に係る使用済燃料取出・廃止措置準備費150億円、施設の解体、ナトリウムの処理等に係る施設解体費870億円、廃棄物を処理するための設備の設置・稼働等に係る放射性廃棄物処理費240億円、廃棄物の処分に係る放射性廃棄物処分費240億円の計1500億円となっている。ただし、この金額には維持管理費及び新規制基準への適合に係る対応のための費用は含まれていない。そして、金額を算定できない新規制基準への適合に係る対応のための費用を除いた廃止措置に要する費用の総額は、28年12月の国の試算と同様、維持管理費を含めて3750億円と見込まれている(図表4-5参照)。
図表4-5 廃止措置に要する費用の総額
一方、廃止措置が終了するまでの間に必要となる職員の人件費や固定資産税については、上記の費用に含まれていない。また、もんじゅの燃料は、処理施設まで輸送し、適切な処分を行うなどの必要があるが、当該輸送・処分等の具体的な計画及び方法は燃料体取出し期間において検討するとされていることから、それらに要する費用については、現時点で見積もることができる範囲の費用のみが計上されている。さらに、ナトリウムの処理・処分に要する費用については、廃止措置の過程で処理等の方法を検討することとしているため、廃止措置の進捗に伴って変動する可能性がある。
このように、今後のもんじゅの廃止措置に要する費用については、高速増殖炉の廃止措置が国内で初めての取組となることもあり、廃止措置の過程で変動する可能性があるほか、廃止措置に要する期間が当初の想定の30年よりも長期化した場合には、費用が増加することが見込まれる。したがって、機構は国民に対する説明責任を果たすためにも、廃止措置の実施状況及びそれに要する費用について適時適切に明らかにしながら、廃止措置を進めることが重要である。