リスクマネーの供給に係る業務は、機構が中心となって行ってきており、原則として開発会社を支援する体制となっているが、28年11月に機構法が改正されたことにより、開発会社が行う海外の資源会社の買収や資本提携への支援等として資源会社への出資を行ったり、産油国の国営石油企業の株式を取得したりすることができるようになった上、当該出資に必要な資金に、経済産業大臣の認可を受けて機構が借り入れた政府保証付長期借入金を充てることができることとされるなど、リスクマネーの供給に係る業務が拡充されることとなった。また、会計検査院は14年度報告において、公団資産の処理等について引き続き注視していくとしている。
そこで、会計検査院は、機構等によるリスクマネーの供給等について、正確性、合規性、経済性、効率性、有効性等の観点から、リスクマネーの供給に係る予算は適切に執行されているか、リスクマネーの供給に係る収支や損益はどのようになっているか、リスクマネーの供給によって取得した出資株式の売却により損失が生じていないか、リスクマネーの供給等を行っている権益に係る石油・天然ガスは、緊急時に我が国に持ち込めるようになっているか、リスクマネーの供給に係る審査は規程等に基づき適切に行われているか、リスクマネーの供給に係る機構の財務諸表の表示は適切なものとなっているか、14年度報告の後の公団の欠損金や公団資産の状況はどのようになっているかなどに着眼して検査したところ、次のような状況が見受けられた。
エネルギー特会から出資された出資金等の執行残額の推移をみたところ、国から出資を受けるなどしている17年度以降において、23年度、24年度及び27年度を除いて機構に多額の執行残額が生じており、28年度の執行残額は488億9734万余円に上っていた。
機構が、資産買収に係る出資を行っているプロジェクトについては、油田等の売却側の都合等により出資時期や出資額が左右されることにより、機構がプロジェクトの存在を認識してから出資が必要となるまでの期間が極めて短い上に、新規出資の際に多額の資金を要することになる場合もあることから、このようなプロジェクトへの出資に機動的に対応するために、ある程度の余裕資金を確保することは必要と考えられ、執行残額が生じている要因の一つとして、このような事情があると思料される。
しかし、機構において、エネルギー特会から出資された出資金等について多額の執行残額が生じていることは、適切な予算の執行管理の面からみて望ましいものではない。
したがって、機構は、技術協力等で培った産油国等との関係を活用するなどして、産油国等の情報収集に努めるとともに、開発会社の資金ニーズを的確に把握するなどして、資金の必要な時期や額の見通しをより適切に行った上で開発会社に対する出資を行っていく必要がある(6014_3_1_1リンク参照)。
財投特会から出資を受けることとなった24年度以降に財投特会に計上された機構に対する出資金の予算額等の状況をみると、歳出予算額計3880億円に対して、支出済歳出額は計1049億1959万余円であり、28年度からの翌年度繰越額1860億円を除いた970億8040万余円が財投特会における不用額となっていた。
機構が資産買収に係る出資を行ったプロジェクトについては、ガス田の売却側の都合等により出資時期や出資額が左右されることにより、機構がプロジェクトの存在を認識してから出資が必要となるまでの期間が極めて短い上に、新規出資の際に多額の資金を要することになる場合もあることから、このようなプロジェクトへの出資に機動的に対応するために、ある程度の予算額を計上することは必要と考えられ、不用額が生じている要因の一つとして、このような事情があると思料される。
財投特会からの出資金は、エネルギー特会からの出資金とは異なり、開発会社から必要資金の要請を受ける都度、財投特会から必要な金額が機構に出資されているが、予算の効率的な執行を図る観点から、機構は、技術協力等で培った産ガス国等との関係を活用するなどして、産ガス国等の情報収集に努めるとともに、開発会社の資金ニーズを的確に把握するなどして、財投特会から交付される資金の必要な時期や額の見通しをより適切に行っていく必要がある(6014_3_1_2リンク参照)。
債務保証限度額に対する実際に実施された債務保証の額の比率をみると、19年度以降は、おおむね30%から50%までの範囲内で推移していたが、26、27両年度には、保証債務損失引当金を計上していることから、仮に同引当金相当額を代位弁済していたとして信用基金残高から保証債務損失引当金累計を控除して同比率を算定すると、70%を超えることになる。しかし、28年度には、同比率は再び30%台に低下している。
機構は、債務保証を行う都度、保証債務残高が債務保証限度額を超えることがないかなどについて確認を行ってきているところであるが、保証債務残高に対して必要とされる信用基金の規模等に係る基準を定めることはしていない(6014_3_1_3リンク参照)。
機構は、16年度から28年度までの間に、リスクマネーの供給に5508億3620万余円を支出している一方で、951億9487万余円の収入を得ている。
そして、機構が、28年度末までに出資した開発会社は、探鉱段階のものが13社、開発段階のものが4社、生産段階のものが9社、事業終結したものが18社、清算結了したものが5社及び出資株式の売却により支援を終了したものが1社の計50社(出資額累計5463億7798万余円)となっている。このうち、事業終結した18社及び清算結了した5社の計23社は、探鉱事業の結果、商業開発の可能性が低いと判断されて開発段階に至らなかったものである。
また、同様に、債務保証を行った開発会社は、開発段階のものが6社、生産段階のものが5社及び支援を終了したものが16社の計27社(債務保証実行額累計1兆3655億0196万余円)となっている。このうち、機構が支援を終了した16社は、開発会社が借入金を完済するなどした15社及び機構が代位弁済を行った1社である(6014_3_1_4リンク参照)。
機構は、リスクマネーの供給に伴い16年度から28年度までの間に、計2518億7469万余円の費用を計上している一方で、計922億8558万余円の収益を計上しており、28年度末現在で1595億8911万余円の累積損失額を計上している。
機構がリスクマネーの供給によって取得した資産の状況についてみると、生産段階の開発会社のうち債務超過に陥っていない開発会社の出資株式について持分相当額を算定すると、出資累計額計1033億7696万余円に対して、28年度末現在で計1268億3322万余円となっており、計234億5626万余円の含み益が生じている状況となっている(6014_3_1_5リンク参照)。
機構が売却した出資株式の中には、売却したことに伴い為替差損が発生しているものが見受けられた。機構は、当該出資株式の売却について、機構省令に基づき経済産業大臣に認可申請を行い、処分等に係る財産の内容及び評価額等について認可を受けたことから、手続上の問題はないとしている。
しかし、機構は、業務方法書において、出資株式の処分の時期及び方法について、機構の業務目的の達成及び財政資金の効率的運用の見地から検討し処分することとなっているが、出資株式の売却に当たり、これらの両面の見地から為替変動による損失を容認するかどうかについて十分な検討を行っていなかった(6014_3_1_6リンク参照)。
25年度から28年度までの間における総合的支援割合は、第2期中期計画の最終年度である24年度の38.3%から28年度の45.3%と7.0ポイント上昇して、計画で定められた割合である2分の1に大きく近づいている。一方で、出資等支援割合をみたところ、24年度から28年度までの期間における上昇率は、同期間における総合的支援割合の上昇率7.0ポイントを上回っている。
機構は、出資等支援割合について、計画の達成状況を評価する上で直接必要となるものではないこと、また、出資等支援割合を明らかにすると、産油国等との契約等により公表することに制約がある開発会社の個別の権益量等について特定されるおそれがあるとして、開発会社に対する自主開発権益量の調査に当たり、石油・天然ガス別の自主開発比率、開発会社の個別の権益量等について開示しないこととして調査を実施していることから、当該割合を公表していない(6014_3_2_1リンク参照)。
機構出資等権益に係るガス田の状況についてみたところ、3件の天然ガスの権益に係るプロジェクトにおいて、当該プロジェクトに係る天然ガスの液化設備の設置計画が中止されていたり、遅延していたりしていた。これら3件の天然ガスの権益に係るプロジェクト(出資額計801億9999万余円、債務保証実行額計1475億5301万余円)について、機構は、天然ガスを液化して我が国に持ち込むことができるようにするための側面支援を実施してきているものの、29年度末時点において、緊急時も含めて当該天然ガスを直接我が国に持ち込むことができない状況となっている。したがって、これら3件のプロジェクトに係る天然ガスの権益相当量を緊急時に我が国に持ち込むためには、スワップを円滑に行うことができるようにすることが必要となっている(6014_3_2_2_1リンク参照)。
石油・天然ガスの自主開発権益を有する油田・ガス田からの輸送経路上に通常通過しなければならないチョークポイントがある場合には、当該チョークポイントを通過できない事態が生じた際に、当該油田・ガス田から我が国への石油・天然ガスの持込みに重大な制約が生ずることになる。そして、当該権益を利用したスワップを行おうとする場合にも、スワップの対象となる石油・天然ガスの交換相手方への提供が困難になることにより上記のスワップも成立しないおそれがあることになる。このような地域に該当する湾岸諸国に機構出資等権益が4件(融資額31億0339万余円、出資額計997億0647万余円)存在している。
機構は、上記のとおり、湾岸諸国において、緊急時にスワップの対象となる石油・天然ガスの交換相手方への提供が困難となるおそれがあることから、機構と共に開発会社に出資している我が国企業が湾岸諸国以外に有する権益に係る石油・天然ガスと外国の開発会社が有する権益に係る石油・天然ガスとの間でスワップが行われることも想定しているところであり、緊急時に当該スワップを円滑に行うことができるようにすることが重要となっている(6014_3_2_2_2リンク参照)。
機構等が出資を行ったプロジェクトについては、覚書により、機構等が出資株式を売却した後も、石油・天然ガスの生産が終了するなどするまで持込み努力義務が継続するとされている。一方で、機構等の債務保証が行われたプロジェクトについては、機構等の債務保証の保証期間が終了した場合には、債務保証に係る契約の有効期間が終了することに伴い、持込み努力義務が消滅することとなっている。
そこで、機構等が債務保証のみを行ったプロジェクトについてみたところ、天然ガスの液化設備等の建設に対して公団が債務保証(16年度末の債務保証額58億5188万余円)を行い、機構が保証債務を承継したプロジェクト1件において、LNGの生産を行っていたが、債務保証の保証期間が終了したことに伴い、持込み努力義務が消滅していた。また、29年度末時点で生産を行っていないプロジェクトについてみたところ、天然ガスの開発及び液化に係るプロジェクト1件(債務保証実行額2020億5294万余円)は、機構が債務保証のみを行っており、機構等が出資を行っていないことなどから、債務保証の保証期間が終了した後に持込み努力義務が消滅することとなると考えられる(6014_3_2_3リンク参照)。
イ(イ)aのプロジェクト3件に係る審査状況を確認したところ、将来、天然ガスを液化して我が国に持ち込むことが期待されているプロジェクトにおいて、機構がリスクマネーの供給を行った開発会社はガス田の開発・生産事業のみを実施し、液化設備等の建設及び操業は操業会社が実施するものであったことから、液化設備等の建設及び操業に係る計画は審査の対象とはなっていなかった。また、機構は、プロジェクトの採択に当たり、液化をすることなく既に建設されているパイプラインを利用して現地で天然ガスを販売するとした開発会社の計画を基に審査を行っていた(リンク参照)。
イ(イ)bのプロジェクトのうち機構が審査を行ったプロジェクトについて、我が国への石油の持込みに係る審査状況を確認したところ、機構は、直接我が国への持込みが可能であることを確認した上で、スワップの相手方を確認して、当該権益に基づく引取量相当の石油の持込みが可能であることを他の地域におけるプロジェクトと同様に確認していたが、湾岸諸国における権益については、緊急時にスワップの対象となる石油・天然ガスの交換相手方への提供が困難となるおそれがあることから、機構は、機構と共に開発会社に出資している我が国企業が湾岸諸国以外に有する権益に係る石油・天然ガスと外国の開発会社が有する権益に係る石油・天然ガスとの間でスワップが行われることも想定している。しかし、機構は、審査の際に、当該スワップを用いて緊急時に石油・天然ガスを我が国に持ち込むことについて確認することとしていなかった(6014_3_3_2_2リンク参照)。
機構は、探鉱段階の開発会社に係る出資株式については、独法会計基準に基づき一般に公正妥当と認められる企業会計の基準である「金融商品に係る会計基準」等に準拠して定めたとしている評価内規により、毎年度、開発会社ごとに機構の出資残高の2分の1を時価として評価し、当該評価額を関係会社株式として貸借対照表に計上することとしている。その上で、機構は、残りの2分の1については評価損として損益計算書に計上し、当該評価損相当額を翌期首に関係会社株式に戻し入れている。
28年度末の機構の財務諸表をみると、評価内規に基づき出資残高の2分の1に相当する額を貸借対照表に計上している出資株式は13社あり、これらに対する出資額は計1734億5175万余円、貸借対照表計上額は計886億1748万余円となっている。
そこで、上記の13社に係る出資株式について、機構の貸借対照表計上額と持分相当額等とを比較したところ、機構の貸借対照表計上額(886億1748万余円)が、持分相当額等(862億4240万余円)を23億7508万余円上回っていた。
そして、個別の開発会社についてみると、貸借対照表計上額が持分相当額等を上回っているものが8社、下回っているものが5社あり、その差額はマイナス212億5750万円からプラス93億6700万円まで、かい離率はマイナス96.3%からプラス100.0%までとなっているなど、機構の貸借対照表計上額が持分相当額等と相当程度かい離していた(6014_3_4リンク参照)。
公団資産の公団解散後から28年度末までの処理状況についてみると、国が公団から承継した24社の28年度末時点における株式の状況は、全部保有を継続しているものが13社、一部売却して保有を継続しているものが1社、全部売却したものが4社、清算結了したものが6社となっていた。
そして、28年度末までに確定している公団資産に係る収益は、出資株式の売却益が計1179億1030万余円、会社清算に伴う残余財産分配損が計13億9733万余円、減資に伴う収益の確定分が計55億7669万円、受取配当金累計額が計2973億2180万余円、その他利息収入等が計195億5032万余円、合計4389億6178万余円となっている。また、国が承継した出資株式のうち、28年度末時点で保有を継続している出資株式の資産価額は計5736億7490万余円となっており、公団解散時の資産価額等との差引きで4552億7269万余円の含み益が生じている。
以上を踏まえると、公団解散時における欠損金残高5243億5453万余円については、上記の収益の確定分4389億6178万余円及び含み益4552億7269万余円を考慮すれば既に欠損金を解消し、なお3698億7994万余円の含み益があることになるが、当該含み益は今後の経済動向等によっては変動する可能性があることから、これを考慮せずに欠損金の状況をみると、853億9275万余円が現在も解消されていないことになる。
また、国が承継した公団の貸付債権818億9458万余円は、国が融資資金の回収を続けたことにより、28年度末時点でその全額を回収していた(6014_3_5リンク参照)。
機構によるリスクマネーの供給は、石油・天然ガスの安定的かつ低廉な供給に資することを目的として、2030年(平成42年)に石油・天然ガスを合わせた自主開発比率を40%以上に引き上げるために実施される施策の一つであり、極めて重要なものである。
ついては、資源エネルギー庁及び機構は、今後のリスクマネーの供給に当たって、次の点に留意するなどして実施していく必要がある。
機構は、財務諸表における探鉱段階の出資に係る株式評価額の表示に当たって、出資株式を適時適切に評価し、機構の資産等の状況を適時適切かつ国民に分かりやすい形で情報開示するために、探鉱段階の関係会社株式の評価方法について、現在の評価方法に改善を加えるなどしてより適切なものとすることを検討すること
資源エネルギー庁は、公団解散時における欠損金残高5243億5453万余円のうち現在も解消されていない853億9275万余円について、現在保有している公団資産の含み益が28年度末の時点で4552億7269万余円となっていることを踏まえて、エネルギーの安定供給の効率的な実現等に留意しつつ、売却等を含めて当該公団資産を適切に活用することにより、解消していくよう努めること
会計検査院としては、28年11月に機構法が改正され、リスクマネーの供給に係る業務が大幅に拡充されたことを踏まえて、機構等によるリスクマネーの供給について、今後とも多角的な観点から引き続き検査していくこととする。