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雇用保険の特定求職者雇用開発助成金の支給が適正でなかったもの[厚生労働本省、6労働局](61)


会計名及び科目
労働保険特別会計(雇用勘定) (項)高齢者等雇用安定・促進費
部局等
厚生労働本省(支給庁)
6労働局(支給決定庁、支給庁)
支給の相手方
9事業主
不当と認める特定求職者雇用開発助成金
(1) 特定就職困難者コース助成金
(2) 生涯現役コース奨励金
特定求職者雇用開発助成金の支給額の合
(1) 13,150,000円(平成25年度~30年度)
(2) 1,500,000円(平成28、29両年度)
計 14,650,000円
不当と認める支給額
(1) 13,150,000円(平成25年度~30年度)
(2) 1,500,000円(平成28、29両年度)
計 14,650,000円

1 保険給付の概要

(1) 特定求職者雇用開発助成金

特定求職者雇用開発助成金は、雇用保険(「雇用保険の失業等給付金の支給が適正でなかったもの」参照)で行う事業のうちの雇用安定事業の一環として、雇用保険法(昭和49年法律第116号)等に基づき、60歳以上65歳未満の高年齢者や障害者等の就職が特に困難な求職者(以下「就職困難者」という。)、65歳以上の被保険者でない求職者等の雇用機会の増大及び雇用の安定を図るために、当該求職者を雇い入れた事業主に対して、当該雇用労働者の賃金の一部に相当する額を助成するもので、特定就職困難者コース助成金(平成29年3月31日以前は特定就職困難者雇用開発助成金。以下「就職困難者コース」という。)、生涯現役コース奨励金(同高年齢者雇用開発特別奨励金。以下「生涯現役コース」という。)等がある。

(2) 特定求職者雇用開発助成金の支給

ア 就職困難者コースの支給要件は、事業主が就職困難者を公共職業安定所等(以下「安定所等」という。)の紹介により新たに継続して雇用する労働者として雇い入れることなどとなっている。

イ 生涯現役コースの支給要件は、事業主が雇入れ日における満年齢が65歳以上の被保険者でない求職者を安定所等の紹介により、新たに1週間の所定労働時間が20時間以上かつ1年以上継続して雇用する労働者として雇い入れることなどとなっている。

また、就職困難者コース及び生涯現役コースのいずれにおいても、雇入れ日の前日から起算して3年前の日から当該雇入れ日の前日までの間に当該雇入れに係る事業所において就労したことがある者は、支給対象とならないこととなっている。

そして、支給額は、原則として、就職困難者コースの場合は表1、生涯現役コースの場合は表2に記載のとおりとなっている。

表1 就職困難者コースの支給額

区分
企業規模
第1期支給額 第2期支給額 第3期支給額 第4期支給額 第5期支給額 第6期支給額 支給総額 支給回数
短時間労働者以外 60歳以上65歳未満の高年齢者等 中小企業事業主以外の事業主 25万円 25万円         50万円 2回
中小企業事業主 45万円 45万円         90万円 2回
30万円 30万円         60万円 2回
身体障害者及び知的障害者 中小企業事業主以外の事業主 25万円 25万円         50万円 2回
中小企業事業主 45万円 45万円 45万円       135万円 3回
30万円 30万円 30万円 30万円     120万円 4回
重度障害者等 中小企業事業主以外の事業主 33万円 33万円 34万円       100万円 3回
中小企業事業主 60万円 60万円 60万円 60万円     240万円 4回
40万円 40万円 40万円 40万円 40万円 40万円 240万円 6回
短時間労働者 下記の区分に該当しない、労働時間が週20時間以上30時間未満の短時間労働者 中小企業事業主以外の事業主 15万円 15万円         30万円 2回
中小企業事業主 30万円 30万円         60万円 2回
20万円 20万円         40万円 2回
労働時間が週20時間以上30時間未満の障害者 中小企業事業主以外の事業主 15万円 15万円         30万円 2回
中小企業事業主 30万円 30万円 30万円       90万円 3回
20万円 20万円 20万円 20万円     80万円 4回
  • 注(1) 雇入れ日から起算した最初の6か月を第1期、以後6か月ごとに第2期、第3期、第4期、第5期、第6期とする。
  • 注(2) 中小企業事業主における各期支給額欄の上段は平成21年2月から27年4月までにおける額、下段は27年5月以降における額となっている。

表2 生涯現役コースの支給額

区分 企業規模 第1期支給額 第2期支給額 支給総額 支給回数
下記の区分に該当しない者 中小企業事業主以外の事業主 25万円 25万円 50万円 2回
25万円 25万円 50万円 2回
30万円 30万円 60万円 2回
中小企業事業主 45万円 45万円 90万円 2回
30万円 30万円 60万円 2回
35万円 35万円 70万円 2回
労働時間が週20時間以上30時間未満の短時間労働者 中小企業事業主以外の事業主 15万円 15万円 30万円 2回
15万円 15万円 30万円 2回
20万円 20万円 40万円 2回
中小企業事業主 30万円 30万円 60万円 2回
20万円 20万円 40万円 2回
25万円 25万円 50万円 2回
  • 注(1) 雇入れ日から起算した最初の6か月を第1期、次の6か月を第2期とする。
  • 注(2) 各期支給額欄の上段は平成21年2月から27年4月までにおける額、中段は27年5月から28年3月までにおける額、下段は28年4月以降における額となっている。

特定求職者雇用開発助成金の支給を受けようとする事業主は、当該助成金に係る支給申請書及び支給要件を満たした労働者に係る出勤簿等の添付書類を都道府県労働局(以下「労働局」という。)に提出することとなっている。そして、労働局は、支給申請書等に記載されている当該労働者の氏名、生年月日、雇用年月日、賃金の支払、事業主の過去の不正受給の有無等を審査した上で支給決定を行い、これに基づいて厚生労働本省又は労働局は、特定求職者雇用開発助成金の支給を行うこととなっている。また、労働局は、偽りその他不正の行為により本来受けることのできない支給を受け、又は受けようとした事業主に対して、支給した助成金の全部若しくは一部の支給決定を取り消して返還の手続を行い、又は不支給とすることなどとなっている。

2 検査の結果

(1) 検査の観点、着眼点、対象及び方法

本院は、合規性等の観点から、事業主に対する特定求職者雇用開発助成金の支給決定が適正に行われているかに着眼して、全国47労働局のうち、12労働局において会計実地検査を行い、25年度から30年度までの間に特定求職者雇用開発助成金の支給を受けた事業主から199事業主を選定して、特定求職者雇用開発助成金の支給の適否について検査した。

検査に当たっては、事業主から提出された支給申請書等の書類により会計実地検査を行い、適正でないと思われる事態があった場合には、更に当該労働局に調査及び報告を求めて、その報告内容を確認するなどの方法により検査した。

(2) 検査の結果

検査の結果、6労働局管内において25年度から30年度までの間に特定求職者雇用開発助成金の支給を受けた9事業主は、雇入れ日の前日から起算して3年前の日から当該雇入れ日の前日までの間に当該雇入れに係る事業所において就労したことがある者を雇い入れているのに当該者を支給対象に含めていたり、既に雇い入れている者に形式的に公共職業安定所の紹介を受けさせて、その紹介により雇い入れたこととしたりして、特定求職者雇用開発助成金の支給を申請するなどしており、これら9事業主に対する特定求職者雇用開発助成金の支給額計14,650,000円(就職困難者コース13,150,000円、生涯現役コース1,500,000円)は支給の要件を満たしていなかったもので支給が適正でなく、不当と認められる。

このような事態が生じていたのは、事業主が誠実でなかったり、制度を十分に理解していなかったりしていたため、支給申請書等の記載内容が事実と相違していたのに、上記の6労働局において、これに対する調査確認が十分でないまま支給決定を行っていたことによると認められる。

前記の事態について、事例を示すと次のとおりである。

<事例>

東京労働局は、事業主Aから、就職困難者B及びCを平成27年3月に、就職困難者Dを同年4月に、就職困難者Eを同年5月に、いずれも東京労働局管下の上野公共職業安定所の紹介を受け、就職困難者Fを同年3月に、埼玉労働局管下の草加公共職業安定所の紹介を受けて、就職困難者B、C、D及びFを同年4月に、就職困難者Eを同年6月にそれぞれ雇い入れたとする支給申請書の提出を受けて、これに基づき、就職困難者コース計8,350,000円の支給決定を行っていた。

しかし、実際には、就職困難者B、C、D及びFは26年4月から、就職困難者Eは同年9月からそれぞれ複数回にわたり就労しており、事業主Aは雇入れ日の前日から起算して3年前の日から当該雇入れ日の前日までの間に当該雇入れに係る事業所において就労したことがある就職困難者B、C、D、E及びFを雇い入れていた。したがって、就職困難者B、C、D、E及びFは就職困難者コースの対象とならず、就職困難者コース8,350,000円の全額が支給の要件を満たしていなかった。

なお、これらの適正でなかった支給額については、本院の指摘により、全て返還の処置が執られた。

これらの適正でなかった支給額を労働局ごとに示すと次のとおりである。

労働局名
本院の調査に係る事業主数 不適正支給に係る事業主数 左の事業主に支給した特定求職者雇用開発助成金(注) 左のうち不当と認める特定求職者雇用開発助成金(注)
      千円 千円
岩手
13 1 600
600
埼玉
1 1 1,200
1,200
東京
28 1 8,350
8,350
三重
10 1 2,000
2,000
広島
36 2 600
400
600
400
宮崎
28 3 400
1,100
400
1,100
116 9 13,150
1,500
13,150
1,500
合計
    14,650 14,650

(注) 「左の事業主に支給した特定求職者雇用開発助成金」及び「左のうち不当と認める特定求職者雇用開発助成金」の上段は就職困難者コースに係る分、下段は生涯現役コースに係る分である。