ページトップ
  • 平成30年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第8 厚生労働省|
  • 不当事項|
  • 補助金

(6) 国民健康保険の財政調整交付金が過大に交付されていたもの[10道県](82)―(105)


24件 不当と認める国庫補助金 224,268,000円

国民健康保険(「国民健康保険の療養給付費負担金が過大に交付されていたもの」参照)については各種の国庫助成が行われており、その一つとして、国民健康保険法(昭和33年法律第192号)に基づき、市町村(特別区、一部事務組合及び広域連合を含む。以下同じ。)が行う国民健康保険について財政調整交付金が交付されている(注1)。財政調整交付金は、市町村間で医療費の水準や住民の所得水準の差異により生じている国民健康保険の財政力の不均衡を調整するために交付されるもので、普通調整交付金と特別調整交付金がある。

(注1)
平成30年4月に国民健康保険法が改正され、同月以降、都道府県は、当該都道府県管内の市町村とともに保険者として国民健康保険を行うこととされ、国は、国民健康保険の財政運営の責任主体となった都道府県に対して財政調整交付金を交付することとされた。

普通調整交付金は、被保険者の所得等から一定の基準により算定される収入額(以下「調整対象収入額」という。)が、医療費等から一定の基準により算定される支出額(以下「調整対象需要額」という。)に満たない市町村に対して、衡平にその満たない額を埋めることを目途として交付されるもので、医療費等に係るもの(以下「医療分」という。)、後期高齢者支援金(注2)等に係るもの(以下「後期分」という。)及び介護納付金(注3)に係るもの(以下「介護分」という。)の合計額が交付されている。そして、普通調整交付金の額は、「国民健康保険の調整交付金の交付額の算定に関する省令」(昭和38年厚生省令第10号。平成30年4月1日以降は「国民健康保険の調整交付金等の交付額の算定に関する省令」。以下「算定省令」という。)等に基づき、医療分、後期分及び介護分のいずれも、それぞれ当該市町村の調整対象需要額から調整対象収入額を控除した額に基づいて算定することとなっている。

(注2)
後期高齢者支援金  高齢者の医療の確保に関する法律(昭和57年法律第80号)の規定により、各医療保険者が社会保険診療報酬支払基金に納付する支援金
(注3)
介護納付金  介護保険法(平成9年法律第123号)の規定により、各医療保険者が社会保険診療報酬支払基金に納付する納付金

特別調整交付金は、市町村について特別の事情がある場合に、その事情を考慮して交付されるもので、結核性疾病及び精神病に係る医療給付費等が多額である場合に交付される交付金(以下「結核・精神病特別交付金」という。)等がある。そして、特別調整交付金の額は、算定省令等に基づいて算定することとなっている。

財政調整交付金の交付手続については、①交付を受けようとする市町村は、都道府県に交付申請書及び事業実績報告書を提出し、②これを受理した都道府県は、その内容を添付書類により、また、必要に応じて現地調査を行うことにより審査し確認した上で厚生労働省に提出し、③厚生労働省は、これに基づき交付決定及び交付額の確定を行うこととなっている。

本院は、26都道府県の228市区町村において、25年度から29年度までの間に交付された財政調整交付金について、会計実地検査を行った。その結果、10道県の24市町村において、普通調整交付金の調整対象需要額を過大に算定したり、調整対象収入額を過小に算定したり、特別調整交付金のうち結核・精神病特別交付金等を過大に算定したりするなどしていたため、財政調整交付金の交付額計10,691,941,000円のうち計224,268,000円が過大に交付されていて、不当と認められる。

このような事態が生じていたのは、24市町村において財政調整交付金の交付額の算定に当たり、制度の理解が十分でなかったり、確認が十分でなかったりしていたこと、10道県において事業実績報告書の審査及び確認が十分でなかったことなどによると認められる。

前記の事態について、態様別に示すと次のとおりである。

ア 普通調整交付金の調整対象需要額を過大に算定していた事態

普通調整交付金の調整対象需要額は、本来保険料(保険税を含む。以下同じ。)で賄うべきとされている額であり、そのうち医療分の調整対象需要額は、一般被保険者(退職被保険者及びその被扶養者以外の被保険者をいう。以下同じ。)に係る医療給付費等の合計額から療養給付費負担金、保険財政共同安定化事業交付金等の国庫補助金等を控除した額となっている。

このうち、保険財政共同安定化事業交付金は、都道府県内における市町村の保険料の平準化や財政の安定化を図るため、各都道府県に設置されている国民健康保険団体連合会が、市町村からの拠出金を財源とし、当該年度の前年度の1月1日から当該年度の12月31日までの間において市町村が支出負担行為をした一定額以上の医療給付費等に基づき算定される額を、当年5月から翌年4月までの12期に分けて市町村に交付するものである。そして、調整対象需要額の算定に当たっては、当該交付額の2分の1に相当する額(以下「保険財政共同安定化事業基準拠出対象額の2分の1相当額」という。)を国庫補助金等として控除することとなっている。

4県の8市町村は、普通調整交付金の実績報告に当たり、保険財政共同安定化事業基準拠出対象額の2分の1相当額を過小に算定するなどしており、調整対象需要額を過大に算定していた。このため、交付金計98,416,000円が過大に交付されていた。

イ 普通調整交付金の調整対象収入額を過小に算定していた事態

普通調整交付金の調整対象収入額は、医療分、後期分及び介護分それぞれについて、一般被保険者又は介護納付金賦課被保険者の数を基に算定される応益保険料額と、それら被保険者の所得を基に算定される応能保険料額との合計額となっており、本来徴収すべきとされている保険料の額である。

このうち、医療分及び後期分の応能保険料額は、一般被保険者の所得(以下「算定基礎所得金額」という。)に一定の方法により計算された率を乗じて算定することとなっている。そして、算定基礎所得金額は、保険料の賦課期日(毎年4月1日)現在において一般被保険者である者の前年における所得金額の合計額を基に算定することなどとなっている。

また、介護分の応能保険料額は、介護納付金賦課被保険者について上記と同様に算定することとなっている。

2道県の2市町は、普通調整交付金の実績報告に当たり、算定基礎所得金額を過小に算定しており、調整対象収入額を過小に算定していた。このため、交付金計2,756,000円が過大に交付されていた。

上記ア及びイの事態について、事例を示すと次のとおりである。

<事例1>

大分県別府市は、平成27年度の普通調整交付金の実績報告に当たり、保険財政共同安定化事業基準拠出対象額の2分の1相当額について、27年5月から28年4月までに交付される保険財政共同安定化事業交付金の交付額に基づいて算定すべきであったのに、誤って27年1月から12月までに交付された同交付金の交付額に基づいて過小に算定していたため、医療分の調整対象需要額を過大に算定していた。

その結果、適正な保険財政共同安定化事業基準拠出対象額の2分の1相当額等により算定した調整対象需要額に基づいて普通調整交付金の額を算定すると、37,930,000円が過大に交付されていた。

また、同市は、25年度の普通調整交付金の実績報告に当たり、一般被保険者である者の前年における所得金額の合計額を算定する際に、基礎資料からの転記を誤っていたため、算定基礎所得金額を過小に算定しており、調整対象収入額を過小に算定していた。

その結果、適正な算定基礎所得金額により算定した調整対象収入額に基づいて普通調整交付金の額を算定すると、1,254,000円が過大に交付されていた。

ウ 特別調整交付金を過大に算定していた事態

特別調整交付金のうち、結核・精神病特別交付金は、市町村における一般被保険者の医療給付費等から療養給付費負担金相当額等を控除した額のうち結核性疾病及び精神病に係る額(以下「結核・精神病に係る実質保険者負担額」という。)の占める割合(以下「結核・精神病負担額割合」という。)が100分の15を超える場合に交付するものである。このうち、結核・精神病に係る実質保険者負担額は、傷病が結核性疾病又は精神病のみである場合の医療給付費及び結核性疾病又は精神病が主要疾病であると判定された場合の医療給付費から、年間平均一般被保険者数のうち結核性疾病又は精神病に係る一般被保険者数の割合により算出した額を控除するなどして算定することとなっており、結核性疾病又は精神病に係る一般被保険者数は、結核性疾病又は精神病の別に当該年度の前年度の1月から当該年度の12月までの間(以下「対象期間」という。)の各月末現在における結核性疾病又は精神病に係る一般被保険者数の合計を12で除して得た数とされている。

そして、結核・精神病特別交付金の額は、一般被保険者の医療給付費等から療養給付費負担金相当額等を控除した額に、結核・精神病負担額割合から100分の15を控除して得た割合を乗じて得た額の10分の8以内の額とすることとなっている。

2県の3市町は、結核・精神病特別交付金の実績報告に当たり、結核・精神病に係る実質保険者負担額を過大に算定していた。このため、交付金計39,422,000円が過大に交付されていた。

上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。

<事例2>

鹿児島県霧島市は、平成25年度から28年度までの間の結核・精神病特別交付金の実績報告に当たり、結核性疾病又は精神病に係る一般被保険者数について、対象期間の各月末現在における結核性疾病又は精神病に係る一般被保険者数を単純に合計した数を12で除して算定すべきであったのに、対象期間を通じて同一の一般被保険者の重複を除いて集計した数を12で除して算定していたため、結核性疾病又は精神病に係る一般被保険者数が過小となっており、結核・精神病に係る実質保険者負担額を過大に算定していた。

その結果、適正な結核性疾病又は精神病に係る一般被保険者数に基づいて結核・精神病特別交付金の額を算定すると、計34,038,000円が過大に交付されていた。

上記のほか、7道県の13市町は、特別調整交付金の実績報告に当たり、対象となる保険料調定総額や一般被保険者数を誤るなどしていた。このため、特別調整交付金のうち、離職者減免特別交付金(注4)38,464,000円、非自発的失業財政負担増特別交付金(注5)17,496,000円、非自発的失業軽減特別交付金(注6)11,307,000円、20歳未満被保険者財政負担増特別交付金(注7)8,587,000円、被扶養者減免特別交付金(注8)7,820,000円、計83,674,000円が過大に算定されていた。

(注4)
離職者減免特別交付金  一般被保険者又はその属する世帯の世帯主が経済状況の悪化に伴い離職したと保険者が認める者に対して条例に基づき保険料の減免を実施した場合に交付される交付金
(注5)
非自発的失業財政負担増特別交付金  保険料の賦課期日の翌日以降の非自発的失業者に係る保険料軽減措置による財政負担が多額になっている場合に交付される交付金
(注6)
非自発的失業軽減特別交付金  保険料の賦課期日現在における非自発的失業者に係る保険料軽減措置による財政負担が多額になっている場合に交付される交付金
(注7)
20歳未満被保険者財政負担増特別交付金  20歳未満の被保険者が多いことによる財政への影響がある場合に交付される交付金
(注8)
被扶養者減免特別交付金  被用者保険の被保険者が75歳到達により後期高齢者になったことに伴い、その被扶養者であった者に係る保険料の減免措置に要した費用がある場合に交付される交付金

なお、前記24市町村のうち6市町については事態の態様が重複している。

以上を部局等別・交付先(保険者)別に示すと、次のとおりである。

 
部局等
交付先
(保険者)
交付金の種類
年度
交付金交付額 左のうち不当と認める額
摘要
          千円 千円  
(82)
北海道
北斗市
特別調整交付金(非自発的失業軽減特別交付金等) 25~28 13,006 5,474 非自発的失業による保険料軽減世帯に係る保険料調定総額を過小に算定していたものなど
(83) 石狩郡当別町 特別調整交付金(非自発的失業財政負担増特別交付金等) 25~28 5,310 2,377 非自発的失業による保険料軽減世帯に係る一般被保険者数を過大に算定していたものなど
(84) 亀田郡七飯町 普通調整交付金 27 288,867 1,502 調整対象収入額を過小に算定していたもの
(85) 網走郡美幌町 特別調整交付金(非自発的失業財政負担増特別交付金) 25~28 7,328 3,603 賦課期日時点における保険料軽減世帯に係る一般被保険者数を過小に算定していたもの
(86) 標津郡標津町 特別調整交付金(20歳未満被保険者財政負担増特別交付金) 25 8,587 8,587 一般被保険者の一人当たり基準総所得金額を過小に算定していたもの
(87)
千葉県
銚子市
特別調整交付金(非自発的失業財政負担増特別交付金) 26 6,067 5,520 非自発的失業による保険料軽減世帯に係る一般被保険者数を過大に算定していたもの
(88) 神奈川県
秦野市
普通調整交付金 28 525,206 12,381 調整対象需要額を過大に算定していたもの
(89)
綾瀬市
特別調整交付金(被扶養者減免特別交付金) 25、26 6,198 2,001 被用者保険の被保険者の被扶養者であった者に係る保険料の減免額を過大に算定していたもの
(90) 足柄上郡松田町 普通調整交付金 28 53,786 8,273 調整対象需要額を過大に算定していたもの
(91)
静岡県
静岡市
特別調整交付金(非自発的失業軽減特別交付金等) 26~28 105,311 2,332 一般被保険者に係る保険料調定総額を過大に算定していたものなど
(92)
伊豆市
特別調整交付金(非自発的失業財政負担増特別交付金) 26 1,424 1,424 非自発的失業による保険料軽減世帯に係る一般被保険者数を過大に算定していたもの
(93)
愛知県
名古屋市 特別調整交付金(非自発的失業軽減特別交付金等) 28 117,269 4,768 非自発的失業による保険料軽減世帯に係る保険料調定総額を過小に算定していたものなど
(94)
犬山市
特別調整交付金(非自発的失業軽減特別交付金) 28 3,808 1,700 非自発的失業による保険料軽減世帯に係る保険料調定総額を過小に算定していたもの
(95)
兵庫県
姫路市
特別調整交付金(被扶養者減免特別交付金) 26~28 51,748 5,819 被用者保険の被保険者の被扶養者であった者に係る保険料の減免額を過大に算定していたもの
(96)
淡路市
特別調整交付金(離職者減免特別交付金) 25~28 38,464 38,464 離職を原因とする保険料減免世帯に係る一般被保険者数等を過大に算定していたもの
(97)
鳥取県
八頭郡若桜町 普通調整交付金 25 34,821 2,209 調整対象需要額を過大に算定していたもの
(98) 西伯郡日吉津村 26 18,466 4,659
(99) 西伯郡大山町 27、28 273,645 6,911
(100) 西伯郡南部町 26 94,515 20,360
(101)
島根県
益田市
特別調整交付金(結核・精神病特別交付金) 28 308,683 4,560 結核性疾病又は精神病に係る一般被保険者数を過小に算定していたもの
(102)
安来市
特別調整交付金(非自発的失業財政負担増特別交付金) 26、28 2,765 1,605 非自発的失業による保険料軽減世帯に係る一般被保険者数を過大に算定していたもの
(103) 邑智郡川本町 普通調整交付金、特別調整交付金(結核・精神病特別交付金) 26~28 100,580 6,517 調整対象需要額を過大に算定していたものなど
(104)
大分県
別府市
普通調整交付金 25、27 2,859,687 39,184 調整対象需要額を過大に算定していたもの、調整対象収入額を過小に算定していたもの
(105) 鹿児島県
霧島市
特別調整交付金(結核・精神病特別交付金) 25~28 5,766,400 34,038 結核性疾病又は精神病に係る一般被保険者数を過小に算定していたもの
(82)―(105)の計 10,691,941 224,268