農林水産省は、土地改良法(昭和24年法律第195号)等に基づき、昭和58年度以降、国営かんがい排水事業、農業農村整備事業等により小水力発電施設等の導入を図っている。小水力発電施設のうち国庫補助事業等として整備された発電施設を管理する者(以下「発電施設管理者」という。)は、売電収入等の収益が発電に関する管理運営に必要な費用(以下「発電施設運営経費」という。)及び発電施設管理者が管理する発電施設以外の土地改良施設の操作に必要な費用の合計額を上回る場合において、その差額(以下「国庫納付対象額」という。)に国庫補助事業の実施に係る国の補助率を乗じた額(以下「国庫納付額」という。)を国庫に納付することなどとされている。また、国庫納付対象額の算定に当たっては原則として農林水産省が作成した手引に従って行うことなどとされ、発電施設運営経費は、発電事業に要する費用のほか、公営電気事業に準じて、未処分利益剰余金から任意に積み立てられる建設改良積立金等の積立額から成るとされている。しかし、土地改良区が発電施設管理者として管理している発電施設について国庫納付額算定の前提となる発電施設運営経費の妥当性が確認できない事態、渇水準備引当金(注)の取扱いについて公営電気事業に準ずるなどした見直しが行われていない事態、建設改良積立金を国庫補助事業の自己負担分に充当できることによる財政援助効果により農業農村整備事業等の枠組みにおける公平性を損なうおそれがあったり、建設改良積立金が発電施設の更新等に要する資金需要を勘案して計画的に積み立てられていなかったりしている事態が見受けられた。
したがって、農林水産大臣に対して平成30年9月に、次のとおり是正改善の処置を求め、並びに改善の処置を要求し及び意見を表示した。
本院は、農林水産本省において、その後の処置状況について会計実地検査を行った。
検査の結果、農林水産省は、本院指摘の趣旨に沿い、次のような処置を講じていた。
ア 31年2月に地方農政局等に対して通知を発するなどして、発電事業に係る運営状況に関する資料を土地改良区から定期的に提出させるなど、発電事業に係る運営状況を適切に把握して、必要に応じた指導ができる体制の整備を行うとともに、令和元年5月に地方農政局等に対して事務連絡を発するなどして、土地改良区に対して、新たに作成した手引に従った会計処理により国庫納付対象額の算定を適切に行うよう指導させた。
イ 平成31年2月に地方農政局等に対して通知を発するなどして、小水力発電施設に係る会計上の取扱いを見直して、渇水準備引当金については、発電施設運営経費から除外することとして廃止した。
ウ 31年2月に地方農政局等に対して通知を発するなどして、建設改良積立金については、農業農村整備事業等の制度の枠組みと整合するよう、更新等事業費に充当する場合の取扱いを見直して、発電施設の更新等を行う場合には、同積立金から優先的に支出することとするとともに、発電施設の更新時期を考慮した資金需要等を勘案した同積立金の積立てが計画的に行われるよう、積立限度額を設けるなどして発電施設運営経費とする範囲等を見直したり、発電施設管理者に積立計画を作成させたりなどすることとした。
そして、渇水準備引当金及び建設改良積立金の見直しにより、過大に引き当て又は積み立てた金額が算出される場合は、他の積立金等に充当した上で、なお生ずる余剰額については国庫納付対象額とすることとした。