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  • 国会及び内閣に対する報告(随時報告)|
  • 会計検査院法第30条の2の規定に基づく報告書|
  • 平成30年11月|

租税特別措置(中小企業等の貸倒引当金の特例)の適用状況及び検証状況について


2 検査の観点、着眼点、対象及び方法

(1) 検査の観点及び着眼点

繰入率特例は、貸倒実績率と法定繰入率とのいずれか高い率による引当金の繰入れを容認するものであることから、前記のとおり、法人課税小委員会報告において、法人によっては、適正な見込額を超え、過大な引当金の繰入れが行われているおそれがあると指摘されている。法定繰入率は、概算で繰入率を定めているという趣旨からすれば、常に貸倒実績率をしんしゃくしつつ、合理的に測定された適正なものにすることが必要であるとして、制度創設以降、随時、貸倒れの実績率とのかい離がある場合には引下げ等が行われてきたが、図表4のとおり、昭和60年度以降(金融保険業については56年度以降)、法定繰入率の見直しは行われていない。一方、平成元年4月に消費税が導入され、逐次税率が引き上げられる中で、期末一括評価債権額に含まれる損失とならない仮受消費税相当額が拡大していると思料される。

また、割増特例は、昭和41年度に2年間の時限措置として制度が創設されて以降、累次にわたる延長とともに、適用対象法人及び割増率の見直しを経て現在に至っている。そして、前記のとおり、27年度適用実態報告書において、業種別の適用実績(単体法人に限る。)をみると、図表7のとおり、金融保険業の全体に占める割合が、適用額では95.1%となっている。

そこで、会計検査院は、有効性等の観点から、①繰入率特例における繰入限度額は、貸倒実績率等をしんしゃくしつつ、合理的に測定された適正なものとなっているか、②期末一括評価債権額の算出は合理的なものとなっているか、③割増特例は、課税の公平原則に照らして国民の納得できる必要最小限のものとなっているか、④関係省庁及び財務省における中小企業等の貸倒引当金の特例(以下「貸倒引当金の特例」という。)の検証は適切に行われているかなどに着眼して検査した。

(2) 検査の対象及び方法

検査に当たっては、次の①及び②の法人に係る繰入率特例の適用状況を国税庁及び農林水産省から提出を受けた資料により検査するとともに、③の法人に係る期末一括評価債権額に含まれる仮受消費税相当額等の状況並びに④及び⑤の法人に係る割増特例の適用状況を法人税確定申告書等により検査した(別表参照)。

  • ① 平成23終了事業年度から27終了事業年度までにおいて、国税庁が実施した「会社標本調査」の対象(注7)となった延べ7,196,895法人のうち、貸倒引当金繰入額、貸倒損失等を損金の額に算入等した全法人延べ2,048,944法人
  • ② 会計実地検査等で農林水産省から提出を受けた資料において、27終了事業年度に繰入率特例を適用している農業協同組合等701法人
  • ③ 56税務署(注8)において、27年4月1日から28年3月31日までの間に開始する事業年度(以下「27開始事業年度」という。)に繰入率特例を適用している法人のうち100万円以上の貸倒引当金繰入額を損金の額に算入している中小企業(注9)1,618法人
  • ④ 27終了事業年度における信用金庫等全266法人、信用組合等全154法人及び労働金庫等全14法人並びに預貯金取扱金融機関である農業協同組合等全718法人、漁業協同組合等全111法人及び農林中央金庫、計1,264法人
  • ⑤ 計算証明規則(昭和27年会計検査院規則第3号)等に基づき、会計検査院に国税収納金整理資金徴収額計算書の証拠書類として提出されたe-Taxデータ(注10)による法人税確定申告書(以下「e-Taxデータ」という。)において、27終了事業年度に貸倒引当金繰入額を損金の額に算入している割増特例対象法人1,494法人

そして、関係省庁である金融庁、厚生労働省、農林水産省、経済産業省及び国土交通省(以下「5省庁」という。)において、政策評価に係る関係資料や要望書における貸倒引当金の特例の検証状況を確認するなどの方法により会計実地検査を行った。また、財務省において、貸倒引当金の特例の検証状況を確認するなどの方法により会計実地検査を行った。

(注7)
「会社標本調査」の対象  会社標本調査の対象には、公益法人等及び協同組合等は含まれていない。
(注8)
56税務署  札幌西、函館、帯広、釜石、仙台南、大河原、山形、郡山、宇都宮、前橋、所沢、春日部、越谷、松本、千葉西、松戸、麹町、神田、日本橋、京橋、芝、麻布、品川、四谷、新宿、本郷、江東西、大森、世田谷、渋谷、中野、杉並、豊島、板橋、横浜中、神奈川、川崎南、横須賀、小田原、福井、昭和、熱田、豊橋、一宮、北、東、南、堺、豊能、富田林、葛城、出雲、徳島、松山、西福岡、大分各税務署
(注9)
損金の額に算入している中小企業  繰入率特例を適用している中小企業を各税務署当たり貸倒引当金繰入額が高額なものから最大で30法人を抽出して、当該法人に係る法人税確定申告書等の提出を受けた。
(注10)
e-Taxデータ  国税電子申告・納税システム(e-Tax)により提出された法人税確定申告書のうち、計算証明規則等に基づき会計検査院に証拠書類として提出されたもので税務署の規模に応じて資本金の額や税額が一定額以上の法人税申告データ