年金積立金は、29年度末における残高が164兆1609億余円に上っており、専ら国民年金及び厚生年金保険の被保険者の利益のために、長期的な観点から、安全かつ効率的に管理運用を行うこととされている。
会計検査院は、23年12月に参議院から国会法第105条の規定に基づく会計検査の要請を受けて、その検査結果を24年10月に24年報告として報告し、年金積立金の管理運用に係る業務の状況等について所見を記述している。
その後、GPIFは、26年10月に新たな基本ポートフォリオを策定したり、新たな投資手法の採用、インフラ投資等を対象とするオルタナティブ投資の拡大等を行ったりするなどしている。また、26年4月に厚生年金基金の特例的な解散制度が導入されたり、27年10月に被用者年金制度の一元化が実施されたりするなど、公的年金制度には大きな変化がみられる。さらに、28年2月に、日本銀行により、いわゆるマイナス金利政策が導入されるなど年金積立金の運用環境も大きく変化してきている。また、29年10月に28年改正法が施行され、GPIFにおけるガバナンスを強化するために、基本ポートフォリオ策定等の重要な意思決定について、従来の理事長による独任制から経営委員会による合議制に変更され、経営委員会が執行部の監督を行うこととするとともに、従来の監事に代えて監査委員会を設置して、経営委員会とは独立した立場・権限で監査等を行うこととされた。
そこで、厚生労働省及びGPIFにおける24年報告の所見に対する対応に留意しつつ、年金積立金の状況等について、合規性、経済性、効率性、有効性等の観点から、年金積立金の運用状況等はどのようになっているか、運用に係る基本ポートフォリオ等はどのように策定又は変更されているか、厚生年金基金の解散等、低金利政策の継続及びマイナス金利政策の導入等の運用環境の変化は年金積立金の運用にどのような影響を及ぼしているか、委託運用及び自家運用におけるファンドの運用実績はどのようになっているか、管理運用業務の委託先の評価等は適切に行われているか、GPIFにおけるガバナンスは組織改編後どのようになっているかなどの点に着眼して検査を実施した。
検査の結果の概要は、次のとおりである。
29年度末において、年金特別会計及びGPIFが管理している年金積立金の残高は、それぞれ7兆7777億余円、156兆3831億余円、計164兆1609億余円となっている。また、24年度から29年度までの間の各年度の翌年度(25年度から30年度まで)に、GPIFから年金特別会計に納付された納付金の累計額は、計7兆4869億余円となっている(2か所参照 リンク13019_3_1 23019_3_1_3_1)。
24年度から29年度までの間のGPIFにおける年金積立金の運用状況をみると、収益額は、株価の下落等により△5兆3098億余円となった27年度を除いて、7兆9363億余円から15兆2922億余円までの間で推移しており、収益率も、これに応じて、27年度の△3.81%を除いて、5.86%から12.27%までの間で推移していた。その結果、運用資産額は、27年度末を除いて増加しており、29年度末では156兆3831億余円となっている(3019_3_1_3リンク参照)。
厚生労働大臣は、財政検証の結果を踏まえてGPIFが達成すべき中期目標を定め、GPIFは中期目標を達成するために中期計画において基本ポートフォリオを定めている。また、27年10月の被用者年金制度の一元化以降は、GPIF、KKR等の運用主体がそれぞれの基本ポートフォリオを定めるに当たって参酌すべきモデルポートフォリオが定められることとなった。
モデルポートフォリオの策定過程について、モデルポートフォリオに関する連絡会議の事務局を務めたGPIFは、市場への影響を考慮して、同会議の開催要綱において、同会議は非公開、資料及び議事録は公表しないことを定めたとしている。また、積立金基本指針によれば、各運用主体は、財政検証が行われるなど必要があるときは、共同して、モデルポートフォリオについて検討して変更することとされているが、変更が必要となる場合の具体的な基準や手続が特に整備されていない状況となっていた。この点について、GPIFは、下方確率、予定積立金額を下回る確率等の指標を複合的にみる必要があること、経済の動向等も含めて総合的に判断する必要があることなどから、変更が必要となる場合の具体的な基準を事前に定めることは困難であるとしている。
しかし、各運用主体が策定する基本ポートフォリオは運用成績を左右する重要な要因とされており、各運用主体が基本ポートフォリオを策定する際にモデルポートフォリオを参酌すべきとされていることに鑑みれば、モデルポートフォリオの策定過程の事後的な検証可能性が確保されることは重要であると考えられる。市場への影響については、一定期間を経過した後に公表するなどとすれば影響の度合いを抑えることができると考えられる(3019_3_1_3_2リンク参照)。
厚生労働省は、26年6月に公表された26年の財政検証の結果等を踏まえて同年10月31日に第2期中期目標を変更し、GPIFに対して、年金積立金の運用目標として、長期的に実質的な運用利回り1.7%を最低限のリスクで確保することを示した。そして、GPIFは、変更後の第2期中期目標を踏まえて第2期中期計画を変更し、26年10月31日に基本ポートフォリオを再度変更した。
26年10月の変更後の基本ポートフォリオにおいては、国内株式と外国株式を合わせた構成割合が24%から50%に増加するなどしており、基本ポートフォリオの期待収益率のばらつき具合であるリスク(標準偏差)が以前よりも大きくなっており、単年度での収益率の振れ幅も大きくなっているものと考えられる(3019_3_1_3_2_2リンク参照)。
GPIFの単年度の収益額は、利息・配当金収入と価格変動による損益である実現損益及び評価損益との合計額となっており、未実現損益である評価損益が、単年度の収益額の過半を占めている(3019_3_1_3_3リンク参照)。
24年度から29年度までの間における実質的な運用利回りに関して、GPIFの実績及びこれに特別会計分を含めた年金積立金全体の実績を、財政検証の前提として設定されている実質的な運用利回りと比較すると、27年度においてGPIF分では△4.31%、年金積立金全体分では△4.12%と単年度では財政検証の前提を下回ったものの、その他の年度は財政検証で前提とした実質的な運用利回りを上回っている状況となっている(3019_3_1_3_4リンク参照)。
(a) GPIFの管理運用手数料等の推移
GPIFが24年度から29年度までの間に支払った管理運用手数料等の推移をみると、管理運用手数料については24年度の222億余円から29年度の487億余円に、管理運用手数料率については24年度の0.019%から29年度の0.031%に、それぞれ増加している。
また、管理運用手数料の大部分を占める運用手数料について、資産区分別の推移をみると、国内債券以外の資産区分において増加していた。また、運用手数料率については、国内債券に比べて、国内株式、外国債券及び外国株式において高い傾向となっていた(3019_3_1_3_6_1リンク参照)。
(b) 実績連動報酬制
GPIFは、25年度に、アクティブファンドの一部に実績連動報酬制を導入しており、29年度において33ファンドに実績連動報酬制を適用している。また、25年度以降、GPIFが支払うアクティブファンドに係る運用手数料全体に占める実績連動報酬制を導入したファンドに係る運用手数料(基本報酬と実績連動報酬との合計額)の割合は増加しており、29年度では64.0%となっている。
上記33ファンドのうち、超過収益を獲得できていないのにパッシブ運用を上回る報酬が支払われているものが5ファンド見受けられたが、GPIFは、30年度から、運用受託機関の目標達成への意欲をより高めて長期的に超過収益率の水準向上を図るためとして、従来設けていた報酬率の上限を撤廃し、超過収益を獲得できない場合はパッシブ運用並みの報酬となるようにした新しい実績連動報酬制を、原則として全てのアクティブファンドに適用することとしている(3019_3_1_3_6_2リンク参照)。
(c) カストディ費用の低減
GPIFは、外国債券に係る運用資産の管理について、資産管理機関であるステート・ストリート信託銀行とファンドごとに特定運用信託契約を締結している。ステート・ストリート信託銀行が、グローバルカストディアンのA社に対して支払うカストディ費用に係る料率表は、全ての特定運用信託契約において同一となっている。また、GPIFは、毎年度実施している資産管理機関の総合評価においてカストディ費用についても評価しており、資産管理機関に対する現地ヒアリングにおいて、カストディ費用の料率の妥当性について聞き取りを行って、当該資産管理機関とグローバルカストディアンとの間で取り決められているカストディ費用の料率が最も優遇されたものであることを確認しているとしている。
一方、GPIFは、災害時の事業継続計画の観点から資産管理機関との契約について見直しを検討しており、その一環として、資産管理機関に対して、現行の特定運用信託契約の対象となっている資産区分以外に参入の意向があるかを確認したところ、B信託銀行は、29年6月に外国債券及び外国株式の管理に係る提案を行っており、このうち外国債券の管理についてはA社をグローバルカストディアンとして採用することとして提案していた。そして、B信託銀行が提案した外国債券に係るカストディ費用の料率は、GPIFがステート・ストリート信託銀行と締結している現行の外国債券等に係る特定運用信託契約に基づくカストディ費用の料率よりも低くなっていた。
この点について、GPIFは、A社がB信託銀行に提示したカストディ費用の料率については、既存の外国債券に加えて、外国株式が新規追加となることで、預かり資産が現状よりも増加することが前提となっていることを確認しているとしている。
前提となる運用資産額が異なるため、単純な比較はできないものの、運用資産額の規模等によっては、現行のカストディ費用の料率よりも低い料率が適用される可能性がある(3019_3_1_3_6_3リンク参照)。
25年改正法の施行を受けて、厚生年金基金の解散等が増加し、解散等する厚生年金基金から特会厚年勘定への最低責任準備金の納付額は高い水準で推移している。特会厚年勘定における余裕金の状況についてみたところ、28年6月以降については増加していた。この理由について、厚生労働省は、解散等した厚生年金基金からの最低責任準備金や厚生年金保険の適用事業所の拡大による保険料収入はあらかじめ納付額や時期が定まらないが、これらの増加等の影響があるためとしている(3019_3_2_1_2リンク参照)。
(a) 短期資産ファンドの運用状況
GPIFが流動性を確保するために保有している短期資産ファンドは、運用利回りが低く、その残高は、28年度から著しく増加していて、29年度末で8兆5919億余円となっており、これに年金特別会計分の短期資産を合わせると14兆0843億余円(年金積立金全体の8.70%)となっている。このようにGPIFの短期資産ファンドの額が増加したのは、解散等した厚生年金基金から最低責任準備金が年金特別会計に納付されるなどしたことにより、短期的に特会厚年勘定の収支が改善したことから、GPIFからのキャッシュアウトが必要なくなり、キャッシュアウト等対応ファンドの債券の満期償還金を国内債券等に再投資できるようになったものの、GPIFがマイナス金利政策下では国内債券への配分が困難であるなどと判断したため、当該償還金が実際には再投資されずに、短期資産ファンドとして保有されていることによると考えられる(3019_3_2_1_3_1リンク参照)。
(b) キャッシュアウト等対応ファンドの運用状況
GPIFが将来のキャッシュアウトに備えて保有しているキャッシュアウト等対応ファンドは、原則として、資金が必要となる時期に対応した償還期間の国内債券を満期まで保有することにより運用している(29年度末の残高14兆6572億余円)。しかし、キャッシュアウト等対応ファンドについては、上記(a)のとおり、特会厚年勘定の収支が短期的に改善したため、GPIFが想定していた27、28両年度中のキャッシュアウトが必要なくなるなど、キャッシュアウトが必要な時期が26年度以降の10年間程度との見込みと異なる状況となるなどしており、また、将来のキャッシュアウトに使用される見込みの少ない残存期間の長い国債を多く保有している状況となっている。この点について、GPIFは、キャッシュアウト等対応ファンドを現段階で機動的に見直したとしても、31年に行われる次期財政検証でキャッシュアウトの想定が大きく変わった場合には、債券の不必要な取引による費用で損失が発生するため、機動的に見直すことによる便益はほとんどないとしている(3019_3_2_1_3_2リンク参照)。
29年度中にマイナス金利による国債の購入が確認できた7ファンドについてみると、パッシブ運用については、ベンチマークを構成する銘柄を保有するために、また、アクティブ運用については、残存期間が短期から超長期までの国債の保有割合を柔軟に変更するなどして超過収益を獲得するために、それぞれのファンドの運用戦略に応じて、マイナス利回りの国債を購入していた(3019_3_2_2リンク参照)。
GPIFによる年金積立金の運用には、委託運用と自家運用がある。29年度末におけるGPIFの運用資産額156兆3831億余円の内訳をみると、オルタナティブ投資分を除いて、委託運用分92ファンド、118兆6056億余円、自家運用分7ファンド、37兆5631億余円となっている。また、オルタナティブ投資分については、委託運用分3ファンド、581億余円、自家運用分2ファンド、1548億余円となっている(3019_3_3リンク参照)。
上記の委託運用分92ファンドのうち、パッシブファンドは38ファンド、93兆4460億余円、アクティブファンドは54ファンド、25兆1595億余円となっている。
アクティブファンド54ファンドのうち、29年度末時点で3年以上の運用実績がある39ファンドの超過収益率の確保の状況についてみると、25年度から29年度までの平均年率(最長5年)及び27年度から29年度までの平均年率(3年)で超過収益率を確保していたのは、それぞれ計30ファンド、計32ファンドとなっていた。また、27年度から29年度までの3期間で1期も超過収益率を確保できなかったファンドが1ファンド(外国株式)あった。
また、パッシブファンド38ファンドのうち、29年度末時点で3年以上の運用実績がある26ファンドの超過収益率の確保の状況についてみると、25年度から29年度までの平均年率(最長5年)及び27年度から29年度までの平均年率(3年)で超過収益率を確保していたのは、それぞれ計17ファンド、計20ファンドとなっていた。
さらに、GPIFは、先駆的な取組の一つとして、29年度からESG指数に基づく国内株式のパッシブ運用を開始している(29年度末時価総額1兆5379億余円)。GPIFは、ESG投資について、投資期間が長期にわたるほど、リスク調整後のリターンを改善する効果があるとしており、中長期的に投資の効果を確認しながら、新たなESG指数の活用やアクティブ運用なども含めてESG投資を拡大する方針であるとしている(3019_3_3_1リンク参照)。
GPIFは、年金積立金のより効率的な運用を図るために、運用受託機関の構成やファンドの資金配分が最適なものとなるよう、運用受託機関が運用する既存のファンドについては、毎年度総合評価を実施し、運用受託機関が提案する新規のファンドについては、マネジャー・エントリー制により公募した上で、総合評価を行うなどして、運用受託機関の見直しを行っている。
現在の基本ポートフォリオは、国内株式と外国株式を合わせた構成割合が50%となっており、予想される期待収益率のばらつき具合(標準偏差)によって表されるリスクが増加している。そして、実際の収益の状況についてみると、委託運用のアクティブファンドのうち、25年度から29年度までの平均年率(最長5年)等の基準でみて超過収益率を確保していなかったのは、主として国内株式ファンドと外国株式ファンドとなっている。また、委託運用のアクティブファンドのうち、国内株式ファンドと外国株式ファンドの時間加重収益率及び超過収益率のばらつきが、国内債券及び外国債券よりも大きくなっている。同様に、委託運用のパッシブファンドにおいても、超過収益率を確保していなかったのは株式のファンドが多い状況となっている(3019_3_3_2_1リンク参照)。
GPIFは、29年10月以前は運用受託機関に係る総合評価を定性評価及び定量評価により行っていたが、29年11月以降の定性評価においては、従来の定量評価の指標となっていた超過収益率等を定性評価を行う際の参考指標として評価することとしている。
GPIFは、上記総合評価の方法の変更について、将来の超過収益獲得可能性を高めるために実施したとしているが、変更したことによる影響等についてはまだ分析できていないとしている(3019_3_3_2_4リンク参照)。
自家運用における国内債券パッシブ運用について、業務概況書において公表された時間加重収益率を基に、ベンチマークが同一の指標となっている委託運用分と比較すると、超過収益率に大きな差はない状況となっているが、GPIFが開示している収益率は、自家運用分については証券貸付運用の収益を含めて算定されている一方、委託運用分については、証券貸付運用の収益を含まないことから、両者の運用実績を厳密に比較することは困難な状況となっている(3019_3_3_3リンク参照)。
GPIFは、26年2月からオルタナティブ投資を実施し、第3期中期計画において、オルタナティブ資産を年金積立金全体の5%を上限とすることにしており、29年度末における時価総額は2130億余円(オルタナティブ投資に係る資産の年金積立金全体に占める割合0.13%)となっている。また、投資信託受益証券を購入する形で自家運用によりオルタナティブ投資を行っている2ファンドに係る収益については、運用開始後は内部収益率がマイナスで推移しているが、1ファンドは29年度に収益が生じている状況となっている。この点について、GPIFは、投資の開始前に運用受託者と合意した内部収益率の水準と比較して、おおむね想定した収益が得られているとしている。また、オルタナティブ投資については、通常先行して費用が発生し、当初数年は関連する費用の支払等によりマイナスの収益が続くが、その後に分配が始まって収益が改善するといういわゆるJカーブ効果があるとしている。
また、投資信託の活用は、オルタナティブ投資としては特殊な方法であり、投資信託からファンド・オブ・ファンズに投資する場合には高額な手数料が生じているなどの課題があるとされている。
さらに、オルタナティブ投資に係る費用には、自家運用及び委託運用について資産管理機関に対して支払っている管理手数料と委託運用について運用受託機関に対して支払っている運用手数料があるが、GPIFは、管理手数料については、自家運用分及び委託運用分に係る信託財産の合計額に対して管理手数料率を乗じて算出されることから、自家運用分と委託運用分を分離して算出することができないとしている。また、オルタナティブ投資に係る運用手数料について、GPIFは、委託運用を29年度から開始しており、29年度にはまだ運用手数料の支払が発生していないとしている。
GPIFは、分散投資を推進するために、オルタナティブ投資を今後も拡大させていく方針としており、現在選定中の海外不動産等に係る運用受託機関を通じた投資を実行に移すとともに、政令改正により可能となったLPS方式についても、リスク管理やオペレーションの体制整備を行い、投資の検討を進めていくとしている(3019_3_3_4リンク参照)。
GPIFは、業務概況書において、29年度における管理運用手数料487億余円を開示している。しかし、この金額には、資産管理機関が管理する信託財産から引き去られているカストディ費用等81億余円が含められておらず、GPIFが運用受託機関及び資産管理機関に対して実質的に負担している費用は計568億余円(運用資産額に対する費用の割合0.036%)となっていた。上記のカストディ費用等の金額を業務概況書において開示していない理由について、GPIFは、投資一任契約に係る運用受託機関への運用手数料及び特定運用信託契約に係る資産管理機関への管理手数料については、GPIFが直接契約している相手方に対して支払っていることから、管理運用手数料として開示しているが、カストディ費用等はGPIFが直接契約して支払っているものではないため開示していないとしている。しかし、信託財産から引き去られるカストディ費用等についても開示することにより、管理運用に係る全ての費用が明らかになり、GPIFが行う年金積立金の管理運用に係る透明性の向上に資すると考えられる。
また、GPIFは、証券貸付運用に係る費用のうち、外国債券及び外国株式の委託運用分について、GPIFが直接契約を締結していないとして、業務概況書等において開示していなかった。さらに、国内債券の自家運用分について、業務概況書において他の管理手数料に含めて開示しており、他の管理手数料と分離して開示していなかった。しかし、これらの費用についても開示することにより、GPIFが行う年金積立金の管理運用に係る透明性の向上が更に図られると考えられる。
さらに、オルタナティブ投資に係る費用のうち、管理手数料について、GPIFは、業務概況書において他の管理手数料と分離して開示していなかった。この点について、GPIFは、資産別ではなく支払先別に管理手数料を集計して開示していることから、オルタナティブ投資に係る管理手数料について、オルタナティブ投資に係る資産管理機関が他に管理している外国債券等に係る管理手数料と合わせて開示していたとしている。また、運用手数料について、GPIFは、委託運用を29年度から開始しており、29年度にはまだ運用手数料の支払が発生していないことから、業務概況書等において開示していないとしている。しかし、GPIFは、オルタナティブ投資について、運用の効率性の向上等の効果が期待できるとし、分散投資を推進するために今後も拡大させていく方針としていることから、オルタナティブ投資に係る費用を明らかにすることは、GPIFが行う年金積立金の管理運用に係る透明性の向上に資すると考えられる(3019_3_3_5_1リンク参照)。
GPIFが27年度の業務概況書にリスク情報として記載したVaR及びcVaRは、各資産区分の日次ベンチマークを基データとして、保有期間1年、観測期間13年1月以降、信頼水準95%という前提(観測期間には20年のリーマンショック以降の金融危機等が含まれている。)でオルタナティブ資産を除く伝統的資産を対象に算出されたものであり、両指標の値は、24年度以降増加傾向となっていた。この理由について、GPIFは、26年10月の基本ポートフォリオの変更に伴い、主に価格変動の度合いの高い株式保有の割合が増加したことによるものであるとしている。
一方、GPIFが29年度の業務概況書において記載したVaRは、上記の27年度のものとは異なり、GPIFが実際に保有している資産のデータを基に、保有期間1年、観測期間2年、信頼水準84%という前提で算出されており、リスク量は損失額ではなく資産額に対する割合(単位:%)で表現されている。また、GPIFは、第3回経営委員会(29年11月)において、上記29年度の業務概況書に記載されたVaRの値が減少傾向にあるのは、直近のデータを使用して計算しているためではないかとの意見があったことなどを踏まえて、観測期間を5年、信頼水準を95%としたVaRの値についても算出しており、当該VaR等の推移をみると、29年度中を通じて増加傾向となっていた。
また、GPIFは、価格変動等によりある資産区分の構成割合が基本ポートフォリオのかい離許容幅に抵触した場合、現行のルールでは、かい離許容幅の内側に戻す方向で資産の入替えを行う必要があるとしている(3019_3_3_5_2リンク参照)。
28年改正法が29年10月に施行され、従来の運用委員会に代わって経営委員会が設置されて、基本ポートフォリオを含む中期計画の作成又は変更等の重要事項等の意思決定を行うこととされた。これにより、GPIFのガバナンス体制は、理事長による独任制から経営委員会による合議制へと転換が図られた。また、経営委員会は、執行部の監督を行うこととされ、意思決定及び監督と執行が分離されることになった。そして、理事長は、経営委員会の定めるところに従って、GPIFの業務を総理することとされた。また、監事に代わって監査委員会が設置され、経営委員会とは独立した立場、権限により経営委員会及び執行部の監査・監視を行うこととされた(3019_3_4リンク参照)。
公的年金制度は、国民全体の連帯による世代間扶養の仕組みによって終身にわたる確実な所得保障を行い、国民の老後等の生活設計の柱としての役割を果たすものである。具体的には、年金給付に必要な費用を、その都度、被保険者からの保険料で賄っていく財政方式である賦課方式を基本としつつ、一定金額の年金積立金を保有し、その運用収入及び元本の取崩しを年金給付の財源の一部として活用することにより、将来の保険料水準や給付水準の平準化を図ることとしている。
29年度末における年金積立金の残高が164兆1609億余円に上っており、基本ポートフォリオの変更もあって、期待収益率のばらつき具合であるリスク(標準偏差)が大きくなるなどしていることから、年金積立金の管理運用については、年金積立金が国民から徴収された保険料の一部であり、かつ、将来の年金給付の貴重な財源となるものであることに特に留意し、専ら被保険者である国民の利益のために、長期的な観点から、安全かつ効率的に行うことにより、将来にわたって、公的年金制度の運営の安定に資することが、従来にも増して強く求められている。また、GPIFは、業務運営の財源に年金積立金の運用益等を充てていることから、その業務運営について規律の確保、透明性の向上及び経費の節減がより強く求められるものとなっており、ガバナンスの強化も図られている。
ついては、厚生労働省においては、次の各点に、また、GPIFにおいては、イ(ア)を除く各点にそれぞれ留意することとし、もって年金積立金の適切な管理運用に努める必要があると認められる。
会計検査院としては、今後とも、年金積立金の管理運用が運用環境の変化等に即して適切に実施されているかなどについて、多角的な観点から引き続き検査していくこととする。