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  • 平成31年4月|

年金特別会計及び年金積立金管理運用独立行政法人で管理運用する年金積立金の状況等について


3 検査の状況

(1) 年金積立金の運用状況等

ア 年金積立金の運用状況

前記のとおり、年金積立金は年金特別会計が管理している分とGPIFが管理している分がある。

図表1-1のとおり、29年度末における特会国年勘定の年金積立金は7兆2935億余円であり、このうち7兆0328億余円がGPIFに寄託されており、残りの2607億円が特会国年勘定内で繰替使用されている。この繰替使用されている額に、29年度における歳入歳出の決算剰余金のうち30年7月末までに年金積立金に積み立てることとなる196億余円(特会国年勘定132億余円及び年金特別会計業務勘定63億余円)を合わせた2803億余円が特会国年勘定が管理している年金積立金である。

同様に、29年度末における特会厚年勘定の年金積立金は110兆3320億余円であり、このうち104兆4320億余円がGPIFに寄託されており、残りの5兆9000億円が特会厚年勘定内で繰替使用されている。この繰替使用されている額に、29年度における歳入歳出の決算剰余金のうち30年7月末までに年金積立金に積み立てることとなる1兆5974億余円(特会厚年勘定1兆5881億余円及び年金特別会計業務勘定93億余円)を合わせた7兆4974億余円が特会厚年勘定が管理している年金積立金である。

これらの特会国年勘定及び特会厚年勘定が管理している年金積立金を合わせた計7兆7777億余円が29年度末において年金特別会計が管理している年金積立金である。

一方、GPIFが管理運用している29年度末における年金積立金は、28年度末においてGPIFが管理運用している残高144兆9033億余円に、29年度中の収益額10兆0810億余円を加えるなどした計156兆3831億余円である。

そして、特会国年勘定及び特会厚年勘定並びにGPIFが管理している29年度末における年金積立金の合計額は計164兆1609億余円となっている。

図表1-1 特会国年勘定及び特会厚年勘定における年金積立金の状況(平成24年度末から29年度末まで)

(単位:百万円)
区分 平成24年度末 25年度末 26年度末 27年度末 28年度末 29年度末
年金特別会計 特会国年勘定   各年度末における年金積立金 7,234,180 7,003,977 7,094,516 7,196,485 7,258,278 7,293,580
GPIFへの寄託金 6,867,180 6,683,977 6,800,916 6,915,085 6,987,878 7,032,880
繰替使用(A) 367,000 320,000 293,600 281,400 270,400 260,700
  決算剰余金のうち年金積立金に積み立てる額(B) 44,697 90,538 101,968 126,793 60,301 19,625
  特会国年勘定が管理している年金積立金(C)=(A)+(B) 411,697 410,538 395,568 408,193 330,701 280,325
特会厚年勘定   各年度末における年金積立金 104,624,833 102,835,445 103,173,745 104,950,028 107,224,022 110,332,050
GPIFへの寄託金 99,874,833 98,085,445 96,873,745 99,650,028 102,124,022 104,432,050
繰替使用(D) 4,750,000 4,750,000 6,300,000 5,300,000 5,100,000 5,900,000
  決算剰余金のうち年金積立金に積み立てる額(E) 410,612 338,300 1,776,283 2,273,993 3,108,028 1,597,460
  特会厚年勘定が管理している年金積立金(F)=(D)+(E) 5,160,612 5,088,300 8,076,283 7,573,993 8,208,028 7,497,460
  特別会計が管理している年金積立金(G)=(C)+(F) 5,572,309 5,498,838 8,471,852 7,982,186 8,538,730 7,777,786
GPIF   運用資産額(H) 120,465,272 126,577,093 137,476,917 134,747,473 144,903,379 156,383,159
  収益額 11,222,217 10,220,673 15,292,856 △5,309,665 7,935,566 10,081,025
計(G)+(H) 126,037,582 132,075,932 145,948,769 142,729,659 153,442,109 164,160,946
  • 注(1) GPIFの運用資産額は、年金特別会計からの寄託金のほかに、前年度までにGPIFが行った運用による収益額等も含まれるため、年金特別会計からGPIFへの寄託金の額の合計は、GPIFの運用資産額とは一致しない。
  • 注(2) 特会国年勘定の「決算剰余金のうち年金積立金に積み立てる額(B)」には、当該年度の翌年度の7月末までに年金特別会計業務勘定から特会国年勘定に組み入れられる分が含まれている。特会厚年勘定の「決算剰余金のうち年金積立金に積み立てる額(E)」についても同様である。
  • 注(3) GPIFの収益額は、財務諸表上の資産運用損益であり、管理運用手数料等控除前の額である。ここで、「管理運用手数料」は、資産管理機関に対して支払う管理手数料及び運用受託機関に対して支払う運用手数料の合計であり、「管理運用手数料等」は、管理運用手数料及びGPIFの業務運営費の合計である(以下、図表において同じ。)。

また、平成29年度年金特別会計財務書類(以下「特会財務書類」という。)における年金積立金の表示についてみると、特会国年勘定が管理している年金積立金2803億余円のうち繰替使用額2607億円と特会国年勘定の決算剰余金のうち年金積立金に積み立てる額である132億余円を合わせた2740億余円が、特会国年勘定の貸借対照表の資産の部に現金・預金として計上されており、特会厚年勘定が管理している年金積立金7兆4974億余円のうち繰替使用額5兆9000億円と特会厚年勘定の決算剰余金のうち年金積立金に積み立てる額である1兆5881億余円を合わせた7兆4881億余円が、特会厚年勘定の貸借対照表の資産の部に現金・預金として計上されている(図表1-2参照)。

他方、年金積立金は、将来の年金給付財源に充てるために保有していることが明確な資産であることから、負債の部において公的年金預り金の科目で負債計上することになっている。そして、特会財務書類の特会国年勘定の貸借対照表の負債の部に計上されている公的年金預り金は7兆7861億余円であり、特会厚年勘定の貸借対照表の負債の部に計上されている公的年金預り金は、112兆3243億余円である。

図表1-2 年金特別会計財務書類の貸借対照表(平成29年度末)

(単位:百万円)
区分 特会国年勘定 特会厚年勘定 区分 特会国年勘定 特会厚年勘定
<資産の部>     <負債の部>    
現金・預金 274,005 7,488,109 公的年金預り金 7,786,106 112,324,386
未収保険料 1,194,898 2,595,182 負債合計 8,410,548 119,354,037
運用寄託金 7,032,880 104,432,050 <資産・負債差額の部>    
      資産・負債差額 15,989 190,956
資産合計 8,426,537 119,544,993 負債及び資産・負債差額合計 8,426,537 119,544,993

(注) 特会財務書類の貸借対照表から抜粋

イ 年金特別会計における年金積立金の運用状況等

(ア) 年金特別会計における年金積立金の運用状況

前記のとおり、年金特別会計において、支払上現金に余裕がある場合には、特会法に基づき、財政融資資金に預託して運用しており、厚生労働省は、余裕金を年金給付に支障が生じない範囲内で、おおむね1か月以上3か月未満の期間で財政融資資金に預託している。そこで、24年度から29年度までの各年度における財政融資資金への預託状況についてみると、図表1-3のとおり、特会国年勘定の預託平均残高は、24年度に対して、26年度は714億余円(24年度に対する増加率45.6%)、28年度は766億余円(同48.9%)それぞれ増加して、26年度は2280億余円、28年度は2332億余円となっていたが、29年度は24年度に対して264億余円減少(24年度に対する減少率16.8%)して1301億余円となっていた。一方、特会厚年勘定の預託平均残高は、26年度から28年度までの間は、24年度に対して増加しており、28年度には3兆1723億余円増加(24年度に対する増加率203.6%)して4兆7303億余円となっていたが、29年度は前年度から減少して3兆2234億余円(同106.8%)となっていた。そして、29年度の両勘定の合計は24年度に対して1兆6389億余円増加(同95.5%)して、3兆3535億余円となっていた。

また、預託利子額については、年度によって増減の差異はみられるものの、預託平均残高が増加傾向にあるにもかかわらず、金利の低下に伴い、減少傾向となっていた。

図表1-3 年金特別会計の各勘定における財政融資資金への預託状況(平成24年度から29年度まで)

(表)

(単位:百万円)
区分 平成24年度 25年度 26年度 27年度 28年度 29年度
特会国年勘定 預託平均残高 156,589 158,030 228,049 179,128 233,216 130,145
  24年度に対する増減額 1,441 71,460 22,539 76,627 △26,444
預託利子額 156 127 84 17 23 13
  24年度に対する増減額 △28 △72 △138 △133 △143
特会厚年勘定 預託平均残高 1,558,024 1,506,463 2,194,478 3,460,026 4,730,377 3,223,405
  24年度に対する増減額 △51,561 636,454 1,902,002 3,172,352 1,665,381
預託利子額 1,558 1,156 726 346 473 322
  24年度に対する増減額 △401 △831 △1,212 △1,084 △1,235
預託平均残高 1,714,613 1,664,493 2,422,528 3,639,155 4,963,594 3,353,550
  24年度に対する増減額 △50,120 707,914 1,924,541 3,248,980 1,638,936
預託利子額 1,714 1,284 810 363 496 335
  24年度に対する増減額 △429 △903 △1,350 △1,218 △1,379
  • 注(1) 預託平均残高は、当該年度中の日別の預託残高の平均であり、会計検査院が試算したものである。
  • 注(2) 預託利子額は、当該年度の4月1日から3月31日までの間に実際に収納された利子額であり、決算書上の収納済歳入額と一致している。

(グラフ)
【特会国年勘定】

 画像

【特会厚年勘定】

 画像

(イ) 年金特別会計の基礎年金勘定の積立金と剰余金の状況

年金特別会計の基礎年金勘定は、基礎年金事業の収支(業務勘定に係るものを除く。)を経理するもので、特会国年勘定及び特会厚年勘定からの受入金並びに共済組合からの拠出金を主な財源として、基礎年金給付費等の支出を行うものである。

昭和61年3月以前、被用者年金の被保険者の被扶養配偶者は、国民年金に任意加入できることとされていたが、同年4月の基礎年金制度の創設に伴い、元任意加入者が納付した保険料は、従来の国民年金勘定から切り離し、基礎年金勘定の積立金として管理されることになり、その一部分は各被用者年金の保険者の基礎年金給付に要する費用に充てることができるとされた。会計検査院は、24年報告において、同制度の創設時から、「7246億円の積立金が基礎年金給付に充てられず、積み立てられたままとなっていた。また、当該積立金、共済組合から概算で受け入れた拠出金等を翌々年度に精算するまでの預り金等から生じた運用益について、同様に基礎年金給付に充てられておらず、基礎年金勘定に生じた剰余金を積立金に積み立てるための根拠規定がないことから、この剰余金は、平成22年度末で、1兆0731億円に累増している」と記述している。そして、24年報告の所見において、「年金特別会計の基礎年金勘定の積立金等については、長期間にわたって、それらの具体的な取扱いについて結論が出されていないことなどから、被用者年金一元化法の成立を契機として、速やかに今後の具体的な取扱いを検討し結論を出すなどして、年金給付に充てるなどの活用を図ること」と記述している。

そこで、上記に対する厚生労働省の対応状況を検査したところ、27年に「被用者年金制度の一元化等を図るための厚生年金保険法等の一部を改正する法律の施行に伴う厚生労働省関係省令等の整備に関する政令」(平成27年政令第342号)が施行され、「国民年金法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置に関する政令」(昭和61年政令第54号)が改正されたことを受けて、同省は、年金特別会計の基礎年金勘定の積立金等のうち、26年度の決算時点の額である1兆5528億余円を、27年度から36年度までの10年間の各年度に基礎年金の給付に要する費用に充当(各年度1552億余円)することとし、各充当時期までを約定期間として財政融資資金に預託している。そして、27年度から29年度までの各年度に1552億余円をそれぞれ充当していた。

(ウ) 独立行政法人福祉医療機構における承継債権の管理回収の状況

独立行政法人福祉医療機構(以下「機構」という。)は、独立行政法人福祉医療機構法(平成14年法律第166号)に基づき、年金住宅資金貸付等に係る債権の管理回収業務を行っている。これは、GPIFの設立以前に公的年金の管理運用を行っていた年金資金運用基金(以下「旧基金」という。13年3月以前は年金福祉事業団)が財政融資資金(13年3月以前は資金運用部資金)からの長期借入金を財源として年金被保険者等が住宅を取得する際に必要な資金等を貸し付けていたものについて、18年4月の旧基金の解散に伴い、機構が、貸付けに係る債権の管理回収業務を旧基金から継承したものである。上記の貸付けは、いずれも機構の承継時までに新規の貸付けを終了していて、機構は、債権の管理回収に係る業務のみを実施している。

そして、機構は、同法等によれば、回収した承継債権の元本の金額を四半期ごとに(26年度以前は、毎年度、翌年度の7月10日までに)年金特別会計に納付することとされており、機構が元本を納付したときは、承継債権の元本に相当する金額を機構の資本金から減少させることとされている。また、承継債権管理回収勘定の損益計算等の結果、積立金がある場合には、当該積立金に相当する金額を翌年度の7月31日(26年度以前は7月10日)までに年金特別会計に納付することとされている。

会計検査院は、24年報告の所見において、機構が行っている年金住宅資金貸付等に係る債権の管理回収業務について、「機構の承継債権の財源は被保険者等からの保険料等であり、かつ、納付金として回収された元本等は将来の年金給付の財源となるものであることから、今後とも機構が行う承継債権の回収状況等について適切に把握し管理すること」と記述している。

そこで、上記に対する厚生労働省の対応状況を検査したところ、同省は、機構から債権の回収状況等に係る報告を毎年度受けるなどして、債権の回収状況等について把握し、管理していた。また、23年度から29年度までの間の年金特別会計への納付等の状況をみると、図表1-4のとおり、納付金は計1兆7845億余円、回収元本額は計1兆2229億余円、積立金に相当する金額は計2559億余円となっていた。

図表1-4 機構における承継債権の推移と年金特別会計への納付等の実績(平成23年度から29年度まで)

(単位:百万円)
年度 承継債権 積立金に相当する金額 回収元本額 年金特別会計への納付金 資本金 貸倒償却
件数 残高
平成 23 335,321 1,489,181 56,600 245,753 380,919 1,733,006 647
24 295,987 1,273,566 48,243 215,042 302,354 1,487,252 497
25 263,002 1,093,699 41,251 179,019 263,286 1,272,210 965
26 236,425 943,774 33,727 148,168 220,270 1,093,191 2,305
27 213,265 806,682 29,911 136,842 252,060 874,857 283
28 189,968 671,766 25,346 134,627 166,251 738,517 315
29 169,521 508,067 20,879 163,480 199,432 564,431 234
255,961 1,222,933 1,784,575 5,250
  • 注(1) 「年金特別会計への納付金」の額は、前年度の「積立金に相当する金額」に前年度の「回収元本額」を加えた金額である。
  • 注(2) 「資本金」の額は、前年度の「資本金」から前年度の「回収元本額」を除いた金額である。
  • 注(3) 平成27年度以降は、独立行政法人福祉医療機構法の改正により、回収元本部分の国庫納付を年1回から年4回に変更し、当該年度の回収元本の一部を当該年度に納付することとされたことから、注(1)及び注(2)の式とはならない。

ウ GPIFにおける年金積立金の運用状況等

前記のとおり、GPIFは、年金特別会計から寄託を受けた年金積立金を債券、株式等に投資して運用している。

24年度から29年度までの間のGPIFにおける年金積立金の運用状況についてみると、図表1-5のとおり、収益額は、株価の下落等により△5兆3098億余円となった27年度を除いて、7兆9363億余円から15兆2922億余円までの間で推移しており、収益率も、これに応じて、27年度の△3.81%を除いて、5.86%から12.27%までの間で推移していた。その結果、運用資産額は、27年度末を除いて増加しており、29年度末では156兆3831億余円となっている。

なお、GPIFが公表している30年度の四半期別の速報値によると、図表1-5のとおり、第1、第2四半期は収益が上がっているものの、第3四半期は株価の下落等により収益額は△14兆8039億円、収益率は△9.06%となり、運用資産額は29年度末の156兆3831億余円から150兆6630億円に減少している。

図表1-5 GPIFにおける年金積立金の運用状況(平成24年度から30年度第3四半期まで)

(単位:百万円、%)
区分 平成24年度 25年度 26年度 27年度 28年度 29年度
収益額 11,222,217 10,220,671 15,292,229 △5,309,814 7,936,343 10,081,025
収益率 10.23 8.64 12.27 △3.81 5.86 6.90
運用資産額(年度末) 120,465,272 126,577,093 137,476,917 134,747,473 144,903,379 156,383,159
(単位:億円、%)
区分 30年度(速報値)
(第1四半期)
30年度(速報値)
(第2四半期)
30年度(速報値)
(第3四半期)
収益額 2兆6227 5兆4143 △14兆8039
収益率 1.68 3.42 △9.06
運用資産額(四半期末) 158兆5800 165兆6104 150兆6630
  • 注(1) 平成24年度から29年度までの分については各年度の業務概況書等に基づき、また、30年度分については四半期別の「運用状況(速報)」に基づき、それぞれ会計検査院が作成した。
  • 注(2) 収益額は、業務概況書における時価による収益額であり、管理運用手数料等控除前の額である。
  • 注(3) 収益率は管理運用手数料等控除前の計数であり、小数点第3位を四捨五入して表示している。

年金特別会計からの寄託及び国庫納付の実績、GPIFにおける基本ポートフォリオ等の状況等は、次のとおりとなっている。

(ア) 年金特別会計からの寄託及び国庫納付の実績等

前記のとおり、GPIF厚年勘定及びGPIF国年勘定の積立金から厚生労働大臣が定める額を控除してなお残余がある場合は、年金特別会計における資金需要に対応するために、その残余の額を翌年度の3月31日までに年金特別会計に納付しなければならないとされており、24年度から29年度までの間の各年度の翌年度(25年度から30年度まで)に年金特別会計に納付された納付金の累計額は、図表1-6のとおり、計7兆4869億余円となっている。

そして、24年度から29年度までの間における特会国年勘定及び特会厚年勘定とGPIFとの間の資金の流れをまとめると、図表1-6のとおり、特会国年勘定においては、GPIFへの寄託額よりもGPIFからのキャッシュアウト額が上回っており、また、特会厚年勘定においては、24年度から26年度までの間は特会国年勘定と同様の傾向が見られたが、27、28両年度は、特会厚年勘定の収支が、解散等した厚生年金基金からの納付金や厚生年金保険の適用事業所の拡大による保険料収入の増加等により改善したため、GPIFからのキャッシュアウトが発生していない状況となっている。

図表1-6 年金特別会計とGPIFとの間の資金の流れ(平成24年度から29年度まで)

(単位:百万円)
勘定 年度 年金特別会計からGPIFへの寄託額 GPIFから年金特別会計への寄託金償還額等(キャッシュアウト) 差引
  寄託金償還額 納付金
(A) (B)=(C)+(D) (C) (D) (A)-(B)
特会国年勘定 平成24 638,255 1,128,770 1,094,600 34,170 △490,515
25 91,697 448,045 274,900 173,145 △356,348
26 116,938 270,903 270,903 △153,965
27 114,168 275,000 275,000 △160,831
28 137,793 355,704 65,000 290,704 △217,910
29 70,001 354,644 25,000 329,644 △284,642
1,168,854 2,833,068 1,459,500 1,373,568 △1,664,213
特会厚年勘定 24 1,563,143 5,416,394 4,821,500 594,894 △3,853,251
25 410,612 4,138,459 2,200,000 1,938,459 △3,727,847
26 338,300 4,550,055 1,550,000 3,000,055 △4,211,754
27 2,776,283 2,776,283
28 2,473,993 2,473,993
29 3,108,028 1,380,000 800,000 580,000 1,728,028
10,670,360 15,484,909 9,371,500 6,113,409 △4,814,548
合計 11,839,215 18,317,978 10,831,000 7,486,978 △6,478,762

(注) 「年金特別会計からGPIFへの寄託額」は当該年度中にGPIFに寄託された額である。

(イ) GPIFにおける年金積立金の運用に係る基本ポートフォリオ等の状況

前記のとおり、厚生労働大臣は財政検証の結果を踏まえてGPIFが達成すべき中期目標を定め、GPIFは中期目標を達成するために中期計画において基本ポートフォリオを定めている。

また、27年10月の被用者年金制度の一元化以降は、GPIF、KKR、地共連及び私学事業団(以下、これらを「運用主体」という。)がそれぞれの基本ポートフォリオを定めるに当たって参酌すべき積立金の資産の構成の目標(以下「モデルポートフォリオ」という。)が定められることとなった。

モデルポートフォリオ及びGPIFの基本ポートフォリオの策定の状況は、次のとおりとなっている。

a モデルポートフォリオの策定

被用者年金制度の一元化に際しては、各運用主体の主務大臣により「積立金の管理及び運用が長期的な観点から安全かつ効率的に行われるようにするための基本的な指針」(平成26年総務省、財務省、文部科学省、厚生労働省告示第1号。以下「積立金基本指針」という。)が定められており、積立金基本指針において、運用主体は共同してモデルポートフォリオを定めること、モデルポートフォリオは財政検証に示される積立金の実質的な運用利回りを長期的に確保する構成とすることなどが定められている。

運用主体は、27年3月に、積立金基本指針に適合するように、共同して、モデルポートフォリオを図表1-7のとおり策定している。そして、各運用主体は、このモデルポートフォリオを参酌して、それぞれの基本ポートフォリオを定めることとされており、27年10月の被用者年金一元化法施行までに、モデルポートフォリオと整合した基本ポートフォリオを策定している。

図表1-7 モデルポートフォリオにおける資産構成割合と中心値範囲

(単位:%)
資産区分 国内債券 国内株式 外国債券 外国株式
資産構成割合 35 25 15 25
中心値範囲(注) 上記±10 上記±9 上記±4 上記±8

(注) 「中心値範囲」とは、各運用主体が定める基本ポートフォリオにおける各資産の中心値が含まれるべき範囲のことである。

モデルポートフォリオに関する連絡会議の事務局を務めたGPIFは、市場への影響を考慮して、同会議の開催要綱において、同会議は非公開、資料及び議事録は公表しないことを定めたとしている。また、積立金基本指針によれば、運用主体は、財政検証が行われるなど必要があるときは、共同して、モデルポートフォリオについて検討して変更することとされているが、変更が必要となる場合の具体的な基準や手続が特に整備されていない状況となっていた。この点について、GPIFは、運用利回りが名目賃金上昇率を下回る確率(以下「下方確率」という。)、予定積立金額を下回る確率等の指標を複合的にみる必要があること、経済の動向等も含めて総合的に判断する必要があることなどから、変更が必要となる場合の具体的な基準を事前に定めることは困難であるとしている。

しかし、各運用主体が策定する基本ポートフォリオは運用成績を左右する重要な要因とされており、各運用主体が基本ポートフォリオを策定する際にモデルポートフォリオを参酌すべきとされていることに鑑みれば、モデルポートフォリオの策定過程の事後的な検証可能性が確保されることは重要であると考えられる。市場への影響については、一定期間を経過した後に公表するなどとすれば影響の度合いを抑えることができると考えられることから、モデルポートフォリオの策定過程を事後的に検証できるように、議事録等を一定期間経過後に公表することについて、モデルポートフォリオに関する連絡会議の構成員である他の運用主体と協議するなどして検討することが必要である。また、モデルポートフォリオの変更を適時適切に行うことができるように、その変更に係る具体的な手続を整備することについて他の運用主体と協議するなどして検討することが必要である。

b GPIFの基本ポートフォリオ

厚生労働大臣がGPIFに示した中期目標は、第1期は平成18年4月から22年3月までの4年間、第2期は22年4月から27年3月までの5年間、第3期は27年4月から32年3月までの5年間を目標期間としている。

中期目標における実質的な運用利回りの提示について、会計検査院は、24年報告において、「第2期の中期目標においては、21年の財政検証等の経済前提、運用利回りなどの数値目標は示されていない。そして、今後年金制度の抜本的な見直しを予定していることなどから、暫定的に安全、効率的かつ確実を旨とした基本ポートフォリオを定め、これに基づき管理を行い、その際は、市場に急激な影響を与えないようにすることとされている。このため、GPIFは、第2期の中期計画において、第1期の基本ポートフォリオを暫定的に利用することとしているが、年金制度の在り方については、社会保障と税の一体改革として引き続き検討を行うこととされていることから、この暫定期間は、既に2年以上に及んでいる。また、暫定ポートフォリオが安全、効率的かつ確実かなどについては、中期目標期間中に定期的に検証されることにはなっていなかった」と記述している。そして、24年報告の所見において、「暫定ポートフォリオが安全、効率的かつ確実かなどについて、中期目標期間中に定期的に検証することを検討するとともに、暫定の期間が既に2年以上に及んでいることから、暫定ポートフォリオのリターンとリスク等がどのような状況になるまでこれを利用するのかについて検討すること」と記述している。

そこで、上記についての厚生労働省及びGPIFの対応状況を検査したところ、同省は、会計検査院の所見を踏まえて検討を行って、24年10月にGPIFに対して「基本ポートフォリオの定期的検証等について」を発出し、ポートフォリオの定期的な検証を求めていた。そして、GPIFは、毎年度、ポートフォリオの検証を行うこととして、25年6月に新たな基本ポートフォリオを策定した。

その後、厚生労働省は、26年6月に公表された26年の財政検証の結果等を踏まえて同年10月31日に第2期中期目標を変更し、GPIFに対して、年金積立金の運用目標として、長期的に実質的な運用利回り1.7%を最低限のリスクで確保することを示した。そして、GPIFは、変更後の第2期中期目標を踏まえて第2期中期計画を変更し、26年10月31日に基本ポートフォリオを再度変更した。その後示された第3期中期目標についても同じ1.7%が実質的な運用利回りとして定められている。

これまでの基本ポートフォリオの変遷を示すと図表1-8のとおりであり、25年6月の変更においては、基本ポートフォリオにおける国内債券の構成割合が67%から60%に減少する一方で、国内株式と外国株式を合わせた構成割合が20%から24%に増加するなどした。また、26年10月の変更においては、国内債券の構成割合が60%から35%へと大きく減少し、国内株式と外国株式を合わせた構成割合が24%から50%に増加するなどしており、この変更が基本ポートフォリオの構成割合の変化幅としては最も大きなものとなっている。なお、27年3月にモデルポートフォリオが策定されているが、26年10月変更後の基本ポートフォリオの中心値がモデルポートフォリオの資産構成割合と一致していることから、基本ポートフォリオの変更は行われていない。

図表1-8 GPIFの基本ポートフォリオ及び資産区分別の構成割合の実績(平成18年度から29年度まで)

(単位:%)
基本ポートフォリオ及び実績 資産区分別の構成割合
国内債券 国内株式 外国債券 外国株式 短期資産
基本ポートフォリオ
(平成18年4月1日から25年6月6日まで)
中心値
かい離許容幅
許容範囲
67
(±8)
59~75
11
(±6)
5~17
8
(±5)
3~13
9
(±5)
4~14
5
-
-
実績 24年度末 59.60 14.05 9.44 11.91 5.00
25年4月末 57.61 15.34 9.76 12.28 5.00
25年5月末 57.46 14.93 9.82 12.80 5.00
基本ポートフォリオ
(25年6月7日から26年10月30日まで)
中心値
かい離許容幅
許容範囲
60
(±8)
52~68
12
(±6)
6~18
11
(±5)
6~16
12
(±5)
7~17
5
-
-
実績 25年度末 53.43 15.88 10.66 15.03 5.00
26年6月末 51.91 16.79 10.76 15.54 5.00
26年7月末 51.54 17.04 10.99 15.43 5.00
26年8月末 50.42 16.91 11.34 16.33 5.00
26年9月末 48.39 17.79 11.84 16.98 5.00
基本ポートフォリオ
(26年10月31日以降)
中心値
かい離許容幅
許容範囲
35
(±10)
25~45
25
(±9)
16~34
15
(±4)
11~19
25
(±8)
17~33

実績 26年10月末 47.39 18.34 12.37 18.06 3.84
26年度末 39.39 22.00 12.63 20.89 5.08
27年度末 37.55 21.75 13.47 22.09 5.14
28年度末 31.68 23.28 13.03 23.12 8.89
29年度末 27.50 25.14 14.77 23.88 8.70
  • 注(1) 平成26年10月30日までの基本ポートフォリオは、年金積立金全体のうち年金特別会計及びGPIFが保有する短期資産を合わせて5%とし、残りの4資産の合計を95%とする形で策定されている。また、資産構成割合の実績についても同様に、短期資産を5%の固定割合であるとみなし、残りの4資産の合計が95%となる形で計算されている。
  • 注(2) 平成26年10月31日以降の基本ポートフォリオでは、短期資産の構成割合は設けられていないが、短期資産は、短期資産以外の各資産をそれぞれのかい離許容幅の範囲内に収まるように維持した上で、管理することとされている。また、26年10月末以降の資産構成割合の実績は、当該月末又は年度末時点での年金特別会計及びGPIFが保有する実際の短期資産の額に基づき構成割合が計算されている。なお、各年度末の構成割合の計算の基となっている年金特別会計の短期資産保有額は3月末の計数であり、決算剰余金の積立て等の前であるため、決算額とは異なる。
  • 注(3) 基本ポートフォリオの許容範囲は、基本ポートフォリオの中心値に、基本ポートフォリオからのかい離を許容する範囲であるかい離許容幅を加減算した値である。
  • 注(4) 資産構成割合の実績は、小数点第3位で四捨五入して表示しているため、各資産の割合を合計しても100%にならない場合がある。
  • 注(5) 各年度中の資産構成割合の実績については、基本ポートフォリオのかい離許容幅を超過した資産がある月末分のみ示しており、下線付きゴシック体で示したものがかい離許容幅を超過していた資産である。

GPIFの基本ポートフォリオ等に関する事項を時系列でまとめると、図表1-9のとおりである。

図表1-9 中期目標と基本ポートフォリオ等の対応関係

中期目標 年度 基本ポートフォリオ等 その他関連事項
第1期 平成18 基本ポートフォリオの策定
19
20 21年の財政検証の結果公表(21年2月)
21
第2期 22 暫定ポートフォリオの使用
23
24 24年報告の公表(会計検査院)(24年10月)
25 基本ポートフォリオの変更(25年6月)
26   26年の財政検証の結果公表(26年6月)
積立金基本指針策定(26年7月)
第2期
(変更)
基本ポートフォリオの変更(26年10月)
モデルポートフォリオの策定(27年3月)
 
第3期 27 被用者年金一元化法施行(27年10月)

基本ポートフォリオの変更によるGPIFの運用への影響をみると、24年度から29年度までの各年度末等における資産構成割合の実績は、図表1-8の「実績」のとおり、26年10月の基本ポートフォリオの変更を受けて、国内債券の構成割合が24年度末の59.60%から29年度末の27.50%へと減少し、国内株式や外国株式の構成割合が上昇するなどしている。

GPIFは、基本ポートフォリオからのかい離について日々管理しており、資産構成割合が基本ポートフォリオからかい離した場合には、資産の入替え等を行い、これを解消することとなるが、時価の変動等により小規模なかい離が生ずるたびに入替え等を行うことは、売買コストの面等から非効率であるため、基本ポートフォリオからのかい離を許容する範囲であるかい離許容幅を定めている。基本ポートフォリオのそれぞれの期間の各年度末等における基本ポートフォリオからのかい離の状況をみると、図表1-8のとおり、基本ポートフォリオ変更の前後で一時的に所定のかい離許容幅を超過していた月は存在したものの、それ以外の期間は所定のかい離許容幅の範囲内に収まっていた。

GPIFの基本ポートフォリオの変更に当たっては、そのリスクの考え方についても見直しが行われている。ここで用いられる「リスク」とは、長期的に平均値としての実現が期待される期待収益率の振れを指し、その大きさは予想される期待収益率のばらつき具合(標準偏差)によって表される。第1期中期目標期間における基本ポートフォリオは、リスク水準を国内債券による市場運用のリスクと同程度に抑えるという考え方で策定され、その期待収益率は3.37%、リスク(標準偏差)は5.55%であるとGPIFは公表していた。

一方、26年10月に変更された第2期中期目標及び第3期中期目標に基づく基本ポートフォリオにおいては、前記のとおり、国内株式と外国株式を合わせた構成割合が24%から50%に増加するなどしており、当該基本ポートフォリオの期待収益率は「経済中位ケース(注14)」の場合で4.57%、リスク(標準偏差)は12.8%などと公表された。このような基本ポートフォリオとなったことについて、GPIFは、厚生労働大臣から示された変更後の第2期中期目標において、運用目標として実質的な運用利回り1.7%が、また、制約条件として基本ポートフォリオ策定に当たり下方確率が全額国内債券運用の場合を超えない(注15)ことがそれぞれ示されたことなどを踏まえて検討を行い、①運用目標を満たしつつ、②下方確率が全額国内債券運用の場合を下回り、かつ、③名目賃金上昇率を下回るときの平均不足率が最も小さいポートフォリオを基本ポートフォリオとして選定したためであるとしている。

(注14)
経済中位ケース  GPIFは、平成26年の財政検証におけるケースEに該当するケースを「経済中位ケース」と称している(注2参照)。
(注15)
下方確率が全額国内債券運用の場合を超えない  基本ポートフォリオに基づいて運用した場合の運用利回りが名目賃金上昇率を下回る確率と、仮に全額を国内債券で運用した場合の運用利回りが名目賃金上昇率を下回る確率とを比較して、前者が後者を超えないことを意味する。

また、GPIFは、基本ポートフォリオで長期間運用した場合に年金財政が予定している積立金を確保できない確率についても検証しており、それによれば、26年10月に変更された基本ポートフォリオでは、想定運用期間(注16)の最終年度(平成51年(2039年))において年金財政が予定している積立金を確保できない確率は、「経済中位ケース」では約40%、「市場基準ケース(注17)」では約25%であり、一方、比較のため全額国内債券運用の場合で同様のシミュレーションを行ったところ、いずれのケースにおいても、ほぼ予定している積立金を確保することはできないという結果になったとしている。

これらのことから、GPIFは、26年10月に変更された基本ポートフォリオは、必要な積立金を確保しつつ、名目賃金上昇率を下回るときの平均不足率の最小化を図った最も効率的なポートフォリオといえるとしている。

このように、基本ポートフォリオの変更は年金財政上必要な収益を得ることを目的として実施されるものであるが、26年10月の基本ポートフォリオの変更によりポートフォリオのリスク(標準偏差)が大きくなり、単年度での収益率の振れ幅も大きくなっていると考えられる。

(注16)
想定運用期間  GPIFは、平成26年の財政検証においては、積立金の水準がしばらく低下した後、一旦上昇に転じ、おおむね25年後に最も高くなった後継続的に低下していく見通しとなっているとして、51年(2039年)までの25年間を現行基本ポートフォリオの想定運用期間としている。
(注17)
市場基準ケース  GPIFは、平成26年の財政検証におけるケースGに該当するケースを「市場基準ケース」と称している。35年度までは参考ケースとして、36年度以降は労働力率を「労働市場への参加が進まないケース」、全要素生産性の上昇率を0.7%として設定したケースである(注2参照)。
(ウ) GPIFにおける年金積立金の運用状況
a GPIFの各資産区分等別の運用資産額

GPIFにおける年金積立金の運用については、その中期計画において、リスク・リターン特性の異なる複数の資産に分散投資すること、また、運用手法については、原則としてパッシブ運用とアクティブ運用(注18)を併用することなどが定められている。

GPIFの運用資産額については、図表1-1のとおり、24年度から29年度にかけて増加傾向にあるが、24年度から29年度までの間におけるGPIFの資産区分別・運用手法別の運用資産額の推移をみると、図表1-10のとおり、国内債券の残高が減少し、国内株式、外国債券及び外国株式の残高が増加している。

(注18)
アクティブ運用  業績予想、株価動向、市場見通しなどを踏まえた運用を行って、市場の動きを上回る運用実績を目指す運用

図表1-10 GPIFの資産区分別・運用手法別の運用資産額の推移(平成24年度末から29年度末まで)

(表)

(単位:百万円)
区分 平成24年度末 25年度末 26年度末 27年度末 28年度末 29年度末
国内債券 パッシブ運用 57,710,120 55,916,109 44,506,406 40,722,956 36,693,597 33,599,663
アクティブ運用 6,072,845 6,120,335 7,185,123 8,635,850 9,529,964 10,021,725
63,782,965 62,036,444 51,691,529 49,358,806 46,223,562 43,621,388
国内株式 パッシブ運用 13,831,634 18,279,579 27,462,882 24,928,379 31,878,038 36,807,595
アクティブ運用 3,725,863 2,567,057 4,207,548 5,652,527 3,300,363 3,891,953
17,557,498 20,846,636 31,670,430 30,580,906 35,178,401 40,699,549
外国債券 パッシブ運用 8,323,078 10,035,717 12,700,588 12,298,149 11,983,222 14,819,636
アクティブ運用 3,466,505 3,960,347 5,480,920 6,640,606 7,698,465 9,091,288
11,789,583 13,996,064 18,181,509 18,938,756 19,681,687 23,910,924
外国株式 パッシブ運用 12,903,363 17,634,780 26,483,240 26,145,898 30,193,962 33,372,828
アクティブ運用 1,972,399 2,097,808 3,593,918 4,925,451 4,732,270 5,290,113
14,875,762 19,732,588 30,077,158 31,071,350 34,926,232 38,662,941
短期資産 1,783,784 1,842,179 844,127 1,355,441 7,246,325 8,591,987
財投債 10,675,678 8,123,180 5,012,161 3,442,211 1,647,169 896,367
合計 120,465,272 126,577,093 137,476,917 134,747,473 144,903,379 156,383,159
  • 注(1) 財投債の額は、償却原価法による簿価額に未収収益を含めた額である。
  • 注(2) 短期資産及び財投債を除く資産区分別・運用手法別の運用資産額の推移については、別図表1参照

(グラフ)

図表1-10 GPIFの資産区分別・運用手法別の運用資産額の推移(平成24年度末から29年度末まで) 画像

b GPIFの各資産区分等別の収益額

GPIFの業務概況書における収益額は、実現収益額に資産の時価評価による評価損益を加味することにより時価に基づく収益把握を行った総合収益額で表示されており、売買損益、利息・配当金収入に加えて、評価損益の増減及び未収収益の増減が含まれている。

24年度から29年度までの間のGPIFの運用による収益額の推移をみると、図表1-11のとおり、26年度は15兆2922億余円の収益が得られたものの、27年度は国内株式、外国債券及び外国株式の収益額がマイナスとなったため、5兆3098億余円の損失となっていた。28年度は、国内債券及び外国債券の収益額がマイナスとなっていたが、その他の資産区分では収益額がプラスとなっていたために収益が改善し、7兆9363億余円の収益が得られた。そして、29年度は、短期資産を除く全ての資産区分で収益額がプラスとなっていたため、10兆0810億余円の収益が得られた。なお、GPIFが公表しているこれらの収益額は、管理運用手数料等の控除前の額である。

また、24年度から29年度までの間の各年度における収益額について、利息・配当金収入であるインカムゲインと価格変動による損益(実現損益及び評価損益)であるキャピタルゲインに分類してその推移をみると、図表1-11のとおり、インカムゲインである利息・配当金収入については、24年度以降おおむね増加傾向となっており、29年度は24年度と比較して8049億余円増加(24年度に対する増加率40.7%)していた。

一方、キャピタルゲインのうち評価損益については、年度によって大きな差異がみられ、10兆1377億余円の評価益があった26年度の翌年度の27年度には9兆2453億余円の評価損が計上されていた。そして、27年度収益額の内訳をみると、利息・配当金収入及び売買益が計3兆8956億余円あったものの、上記の評価損(9兆2453億余円)が多額であったため、前記のとおり、5兆3098億余円の損失となっていた。また、キャピタルゲインのうち実現損益については、年度によって大きな差異がみられ、26年度には2兆8378億余円の売却益があったが、28年度には1096億余円の売却損が計上されていた。

また、29年度の収益額は10兆0810億余円であり、その内訳として、評価損益が5兆9423億余円(収益額に占める割合58.9%)、実現損益が1兆3496億余円(同13.3%)、利息・配当金収入が2兆7789億余円(同27.5%)となっていた。このように、単年度の収益額は、利息・配当金収入と価格変動による損益である実現損益及び評価損益との合計額となっているが、その過半を占めているのは、未実現損益である評価損益となっていた。

図表1-11 資産区分別の収益額、インカムゲイン及びキャピタルゲインの内訳(平成24年度から29年度まで)

(単位:百万円)
区分 平成24年度 25年度 26年度 27年度 28年度 29年度
国内債券 収益額注(1) 2,126,336 365,261 1,595,684 2,009,435 △395,830 362,192 6,063,081
  インカムゲイン(利息・配当金収入) 785,912 795,974 737,451 594,258 525,984 472,954 3,912,535
キャピタルゲイン 実現損益(売買損益) 284,061 100,012 843,153 343,196 83,947 26,036 1,680,406
評価損益 1,061,647 △532,638 37,680 1,082,473 △998,074 △127,981 523,107
未収収益増減 △5,273 1,923 △22,575 △10,482 △7,676 △8,801 △52,886
その他注(2) △10 △10 △25 △9 △11 △15 △82
国内株式 収益額注(1) 3,331,378 3,185,455 6,910,516 △3,489,524 4,554,637 5,507,594 20,000,057
  インカムゲイン(利息・配当金収入) 324,813 366,615 445,745 607,549 684,328 782,437 3,211,490
キャピタルゲイン 実現損益(売買損益) △357,159 327,528 212,672 335,950 102,533 654,990 1,276,517
評価損益 3,356,771 2,455,279 6,193,372 △4,479,773 3,740,134 4,015,953 15,281,738
未収収益増減 7,983 36,378 59,111 47,121 28,215 54,607 233,418
その他注(2) △1,031 △346 △386 △372 △574 △395 △3,106
外国債券 収益額注(1) 1,821,821 1,777,726 1,888,421 △660,048 △596,206 673,523 4,905,237
  インカムゲイン(利息・配当金収入) 320,005 383,842 420,376 490,448 517,767 628,173 2,760,614
キャピタルゲイン 実現損益(売買損益) 26,751 578,447 852,784 480,856 △352,569 79,327 1,665,597
評価損益 1,465,758 801,882 603,786 △1,642,396 △758,747 △10,442 459,841
未収収益増減 9,966 14,387 12,552 12,796 2,743 27,427 79,875
その他注(2) △660 △833 △1,078 △1,754 △5,401 △50,963 △60,690
外国株式 収益額注(1) 3,761,959 4,738,746 4,786,281 △3,245,134 4,327,293 3,514,506 17,883,655
  インカムゲイン(利息・配当金収入) 360,351 438,069 530,042 771,446 753,394 869,857 3,723,161
キャピタルゲイン 実現損益(売買損益) 281,545 469,841 929,582 193,205 56,507 589,322 2,520,004
評価損益 3,118,522 3,826,334 3,302,878 △4,205,614 3,514,804 2,064,786 11,621,711
未収収益増減 3,157 6,512 28,742 1,631 7,676 △3,440 44,280
その他注(2) △1,616 △2,010 △4,964 △5,802 △5,088 △6,019 △25,502
短期資産 収益額注(1) 3,410 1,283 1,520 659 6 △4 6,875
  インカムゲイン(利息・配当金収入) 447 260 1,905 665 33 48 3,362
キャピタルゲイン 実現損益(売買損益) 3,335 1,032 △334 △23 △73 3,935
評価損益 △394 △11 19 △386
未収収益増減 21 △9 △50 △6 7 0 △35
その他注(2) △0 △0 △0
財投債 収益額注(1) 177,310 152,196 109,804 74,796 46,443 23,213 583,764
  インカムゲイン(利息・配当金収入) 182,410 156,383 117,643 78,067 51,903 25,430 611,838
キャピタルゲイン 実現損益(売買損益)
評価損益
未収収益増減 △5,100 △4,186 △7,839 △3,270 △5,459 △2,217 △28,073
その他注(2)
合計 収益額注(1) 11,222,217 10,220,671 15,292,229 △5,309,814 7,936,343 10,081,025 49,442,672
  インカムゲイン(利息・配当金収入) 1,973,940 2,141,146 2,253,165 2,542,436 2,533,411 2,778,902 14,223,002
キャピタルゲイン 実現損益(売買損益) 238,534 1,476,861 2,837,858 1,353,208 △109,604 1,349,602 7,146,462
評価損益 9,002,306 6,550,857 10,137,718 △9,245,311 5,498,105 5,942,336 27,886,013
未収収益増減 10,754 55,006 69,941 47,790 25,506 67,576 276,576
その他注(2) △3,318 △3,199 △6,454 △7,939 △11,075 △57,393 △89,382
  • 注(1) 収益額は、管理運用手数料等控除前の額である。また、合計欄の収益額は、業務概況書における時価による収益額である。
  • 注(2) その他は、消費税、手数料等である。
  • 注(3) GPIFは、「実現損益(売買損益)」には、ファンド間での資産の移替え(売買)の際に発生した実現損益が含まれていることから、資産の運用状況を正確に示すものではないとしている。
c GPIFの各資産区分等別の収益率

GPIFの資産区分別・運用手法別の収益率の推移をみると、図表1-12のとおり、資産全体及び各資産区分別の収益率は、27年度を除く年度においてプラスとなっており、収益額と同様の傾向となっている。

また、国内債券、国内株式、外国債券及び外国株式について、運用手法別に時間加重収益率(注19)の推移をみると、市場の動きと同程度の運用実績を目指すパッシブ運用と市場の動きを上回る運用実績を目指すアクティブ運用の収益率の推移は同様な傾向を示しているが、28年度の外国債券において、パッシブ運用の収益率△5.37%に対してアクティブ運用の収益率が0.50%とその差が大きくなっている。この点について、GPIFは、アクティブ運用について米ドル建て債券及びユーロ建て債券の銘柄選択が奏功したことや、ユーロ建て債券の時価構成割合がベンチマーク(注20)に比べて低めになっていたことなどがプラスに寄与したとし、また、パッシブ運用については、おおむねベンチマーク並みの収益率であったなどとしている。なお、28年度の外国債券に係るベンチマーク収益率は△5.41%(図表1-15参照)である。

(注19)
時間加重収益率  時価に基づく運用収益に基づき、運用機関が自ら決めることができない運用元本の流出入の影響を排除して求めた収益率
(注20)
ベンチマーク  運用成果を評価する際に相対比較の対象となる基準指標であり、ベンチマークの騰落率(いわゆる市場平均収益率)をベンチマーク収益率という。また、各運用資産のベンチマーク収益率を、基準となる資産構成割合で加重平均して算出したものを複合ベンチマーク収益率という。

図表1-12 GPIFの資産区分別・運用手法別の収益率の推移(平成24年度から29年度まで)

(単位:%)
区分 収益率の種別 平成24年度 25年度 26年度 27年度 28年度 29年度
資産全体 収益率 10.23 8.64 12.27 △3.81 5.86 6.90
  市場運用分 修正総合収益率 11.33 9.27 12.88 △3.98 5.94 6.94
  国内債券 時間加重収益率 3.68 0.60 2.76 4.07 △0.85 0.80
  パッシブ運用 時間加重収益率 3.64 0.58 2.71 4.07 △0.87 0.65
アクティブ運用 時間加重収益率 3.92 0.78 3.10 4.06 △0.76 1.34
国内株式 時間加重収益率 23.40 18.09 30.48 △10.80 14.89 15.66
  パッシブ運用 時間加重収益率 23.77 18.08 30.61 △10.95 14.65 15.44
アクティブ運用 時間加重収益率 22.19 18.48 29.56 △9.90 17.30 17.91
外国債券 時間加重収益率 18.30 14.93 12.70 △3.32 △3.22 3.71
  パッシブ運用 時間加重収益率 17.85 15.21 12.20 △2.70 △5.37 4.47
アクティブ運用 時間加重収益率 19.41 14.25 13.89 △3.66 0.50 2.55
外国株式 時間加重収益率 28.91 32.00 22.27 △9.63 14.20 10.15
  パッシブ運用 時間加重収益率 28.83 32.34 22.22 △9.67 14.63 9.73
アクティブ運用 時間加重収益率 29.39 29.61 22.59 △9.17 11.98 12.85
短期資産 時間加重収益率 0.10 0.07 0.06 0.05 0.00 △0.00
財投債 収益率 1.45 1.58 1.63 1.75 1.77 1.82
  • 注(1) 収益率は、いずれも管理運用手数料等控除前の数値であり、小数点第3位を四捨五入して表示している。
  • 注(2) 資産全体の収益率は、市場運用分と財投債の投下元本平均残高等で加重平均により算出している。
  • 注(3) 修正総合収益率は、収益及び投下元本に時価の概念を導入して算定した収益率であり、次の計算式により算出している。
    (計算式)修正総合収益率={売買損益+利息・配当金収入+未収収益増減+評価損益増減}/(投下元本平均残高)
  • 注(4) 時間加重収益率は、次の計算式により日次の収益率から月次の収益率を算出し、n期間の収益率を算出したものである。
    (計算式)
    • ①日次の収益率={当日時価総額/(前日時価総額+(当日の資金追加額-当日の資金回収額))}-1
    • ②月次の収益率=(1+r1)×(1+r2)×…×(1+rn)-1  r=日次収益率
    • ③n期間の収益率=(1+R1)×(1+R2)×…×(1+Rn)-1 R=月次収益率
d 中期目標とGPIFの収益率

GPIFの中期目標では、前記のとおり、財政検証の結果を踏まえて、運用の目標として、長期的に確保すべき積立金の実質的な運用利回り1.7%が示されている。この実質的な運用利回りに対するGPIFの運用実績による実質的な運用利回りの状況についてみると、図表1-13のとおり、27年度において△4.31%と単年度では目標を下回った年度があるものの、第2期中期目標が変更された26年度から29年度までの間におけるGPIFの運用実績による実質的な運用利回りの平均年率は、4.61%となっており、中期目標における実質的な運用利回り1.7%を上回っていた。

GPIFは、上記運用の目標と実績との関係について、年金積立金の運用状況は長期的に判断することが必要であり、中期目標において「長期的に積立金の実質的な運用利回り(中略)1.7%を最低限のリスクで確保することを目標」としていることから、この1.7%は必ずしも現在の中期目標期間において確保しなければならないものではなく、また、単年度ごとに確保することを求めているものでもないとしている。

図表1-13 中期目標における実質的な運用利回りとGPIFの運用実績の推移(平成24年度から29年度まで)

(単位:%)
区分 平成24年度 25年度 26年度 27年度 28年度 29年度 26~29年度の平均年率
(~10月30日) (10月31日~)
中期目標における実質的な運用利回り 第2期 第2期
(変更後)
第3期
1.7 1.7
実績 実質的な運用利回り 9.98 8.48 11.14 △4.31 5.79 6.43 4.61
  名目運用利回り 10.21 8.62 12.24 △3.84 5.82 6.86 5.11
名目賃金上昇率 0.21 0.13 0.99 0.50 0.03 0.41 0.48
  • 注(1) GPIFの業務概況書の計数等を基に会計検査院が作成した。
  • 注(2) GPIFの運用実績に係る計数は小数点第3位で四捨五入して表示している。
  • 注(3) 中期計画に実質的な運用利回りの目標が明記されたのは、平成26年10月31日の中期目標変更以降である。
  • 注(4) 実質的な運用利回りは、{(1+名目運用利回り/100)/(1+名目賃金上昇率/100)}×100-100で算出している。
  • 注(5) 名目運用利回りは、GPIFの管理運用手数料等控除後の収益率である。
  • 注(6) 名目賃金上昇率は、厚生労働省「平成29年度年金積立金の運用状況について」による。また、名目賃金上昇率について日割りした数値が存在しないため、平成26年度の実績は年度の計数としている。

上記の実質的な運用利回りに加えて、GPIFの中期目標では、運用資産全体については、各資産のベンチマーク収益率をポートフォリオにおける各資産構成比率により加重平均で算出した複合ベンチマーク収益率によるリスク管理を行うことが、また、個々の資産については、各年度において資産ごとのベンチマーク収益率として設定された市場平均収益率を確保するよう努めるとともに、中期目標期間において各々のベンチマーク収益率を確保することがそれぞれ定められている。そこで、24年度から29年度までの間におけるGPIFの運用資産全体の収益率と複合ベンチマーク収益率との差である超過収益率(注21)の確保状況についてみると、図表1-14のとおり、26年度の基本ポートフォリオ変更以降29年度までの間に、僅かにプラスとなった27年度を除いて、プラスの超過収益率を確保した期間はない状況となっていた。また、各資産の収益率と各々のベンチマーク収益率との差である超過収益率の確保状況についてみると、図表1-15のとおり、24年度から29年度までの6か年度中で超過収益率を確保できなかったのは、国内株式で4か年度、外国債券及び外国株式で3か年度、国内債券(市場運用分)で2か年度となっていた。この理由について、GPIFは、当該資産区分において、当該年度に価格が下落した特定の業種、銘柄等の資産構成割合がベンチマークと比較して高めになっていたり、逆に価格が上昇した業種、銘柄等の資産構成割合が低めになっていたりしたことなどによるものであるとしている。

なお、28年度の各資産では超過収益率が大きくマイナスとなったものはないにもかかわらず(図表1-15参照)、資産全体では超過収益率がマイナスとなっている(図表1-14参照)理由について、GPIFは、基本ポートフォリオと実際の資産構成割合との差による要因(資産配分要因)、すなわち、複合ベンチマーク収益率よりもベンチマーク収益率の高かった国内株式及び外国株式の資産構成割合が基本ポートフォリオよりも平均的に低かったことや、複合ベンチマーク収益率よりも収益率の低かった短期資産の保有比率が高めとなったことなどによるものであるとしている。

(注21)
超過収益率  実績による収益率が、株価指数や債券インデックス等の市場の動きを表す指標であるベンチマークを超過した収益率

図表1-14 GPIFの資産全体の超過収益率等の状況(平成24年度から29年度まで)

(単位:%)
区分 収益率の種別 平成
24年度
25年度 26年度 27年度 28年度 29年度
10/30まで 10/31以降
資産全体 収益率 10.23 8.64 3.97 8.19 △3.81 5.86 6.90
複合ベンチマーク収益率 9.00 7.74 3.50 9.98 △3.81 6.22 7.26
超過収益率 1.24 0.90 0.46 △1.78 0.00 △0.37 △0.37
  • 注(1) 収益率は管理運用手数料等控除前の数値であり、小数点第3位を四捨五入して表示している。
  • 注(2) 超過収益率がマイナスとなった年度又は期間について網掛けをしている。

図表1-15 GPIFの各資産の超過収益率等の状況(平成24年度から29年度まで)

(単位:%)
区分 収益率の種別 平成24年度 25年度 26年度 27年度 28年度 29年度
国内債券
(市場運用分)
時間加重収益率 3.68 0.60 2.76 4.07 △0.85 0.80
ベンチマーク収益率 3.63 0.56 2.80 4.30 △0.90 0.74
超過収益率 0.04 0.04 △0.04 △0.23 0.05 0.06
国内株式 時間加重収益率 23.40 18.09 30.48 △10.80 14.89 15.66
ベンチマーク収益率 23.82 18.56 30.69 △10.82 14.69 15.87
超過収益率 △0.42 △0.47 △0.21 0.02 0.20 △0.21
外国債券 時間加重収益率 18.30 14.93 12.70 △3.32 △3.22 3.71
ベンチマーク収益率 17.86 15.09 12.67 △2.74 △5.41 4.23
超過収益率 0.44 △0.17 0.03 △0.58 2.19 △0.52
外国株式 時間加重収益率 28.91 32.00 22.27 △9.63 14.20 10.15
ベンチマーク収益率 28.78 32.09 22.31 △9.66 14.61 9.70
超過収益率 0.13 △0.10 △0.04 0.03 △0.41 0.46
  • 注(1) 収益率は管理運用手数料等控除前の数値であり、小数点第3位を四捨五入して表示している。
  • 注(2) 各資産の超過収益率がマイナスとなった年度について網掛けをしている。
(エ) 財政検証との比較

年金積立金の運用は、長期的な観点から安全かつ効率的に行うこととされており、運用実績の年金財政に与える影響についても、長期的な観点から評価することが重要であるとされている。そして、年金積立金の運用状況を評価するための指標の一つとされているのが、政府が作成している財政検証における各種数値である。

財政検証では、年金積立金の運用利回りを含む経済的要素のほか、人口学的要素等について一定の前提を置き、おおむね100年間の財政均衡期間の財政見通しを公表しており、直近の26年の財政検証のケースAからケースEまで(注22)については、所得代替率50%が確保できることが確認されたとされている。そして、実績がこれらの前提どおりに推移すれば、見通しどおりの給付水準を確保することができることから、厚生労働省の「年金積立金の運用状況について」等の報告書においては、経済再生ケースが前提としている運用利回りと実績の比較が行われている。

(注22)
ケースAからケースEまで  平成26年の財政検証において、35年度までは「経済再生ケース」として、36年度以降は労働力率を「労働市場への参加が進むケース」、全要素生産性を1.0%から1.8%までの間の5段階に場合分けしたものとして設定した各ケース(注2参照

財政検証との比較に当たっては、年金給付費が基本的に名目賃金上昇率に連動して増減するため、これに対応して財政検証を踏まえて設定された年金財政上必要な実質的な運用利回りを確保することが重要であるとされている。21年及び26年の財政検証においては、物価上昇率、賃金上昇率等について複数の経済前提を設定しており、21年の財政検証の基本ケース(24年度から26年度まで)並びに26年の財政検証の経済再生ケース及び参考ケース(27年度から29年度まで)における実質的な運用利回りは、図表1-16のとおりとされている。そして、同期間における実質的な運用利回りに関して、GPIFの実績及びこれに特別会計分を含めた年金積立金全体の実績を、上記財政検証の前提である実質的な運用利回りと比較すると、図表1-16のとおり、27年度においてGPIF分では△4.31%、年金積立金全体分では△4.12%と単年度では財政検証の前提を下回ったものの、その他の年度は財政検証で前提とした実質的な運用利回りを上回っている状況となっている。

図表1-16 GPIF及び年金積立金全体の実質的な運用利回りの実績と財政検証における前提との比較(平成24年度から29年度まで)

(単位:%)
区分 平成24年度 25年度 26年度 27年度 28年度 29年度
財政検証   名目運用利回り 2.03 2.23 1.34 1.88 2.17 2.57
1.61 1.88 2.13
名目賃金上昇率 2.81 2.60 1.00 2.47 2.52 3.56
1.63 2.27 2.86
実質的な運用利回り △0.76 △0.36 0.34 △0.59 △0.35 △0.99
△0.02 △0.39 △0.73
実績
(GPIF)
実質的な運用利回り 9.98 8.48 11.14 △4.31 5.79 6.43
実績
(年金積立金全体)
実質的な運用利回り 9.33 8.09 10.53 △4.12 5.45 6.09
  • 注(1) 財政検証の平成27年度以降は経済前提により値が異なるため分けて記載している。上段が経済再生ケース、下段が参考ケースである。
  • 注(2) GPIF及び年金積立金全体の実質的な運用利回りは管理運用手数料等控除後の数値である。
(オ) GPIF、KKR等の運用利回りなどの比較

前記のとおり、27年10月の被用者年金一元化法の施行により、国家公務員共済組合制度、地方公務員共済組合制度及び私立学校教職員共済組合制度のそれぞれの実施機関が保有している積立金のうち、厚生年金保険に係る分については、厚生年金保険制度における積立金の運用の目的に沿ってそれぞれの実施機関ごとに運用されることとなり、KKR、地共連及び私学事業団といった各運用主体において、積立金基本指針やモデルポートフォリオなどに沿って、厚生年金保険の積立金が管理運用されることとなった。

そして、各運用主体が27年10月の被用者年金一元化法施行までに定めた基本ポートフォリオは、図表1-17のとおりであり、各資産の資産構成割合についてはGPIF及びこれら三つの運用主体において同一のものとなっている。

図表1-17 各運用主体の基本ポートフォリオ

(単位:%)
運用主体 区分 国内債券 国内株式 外国債券 外国株式
GPIF 資産構成割合 35 25 15 25
かい離許容幅 ±10 ±9 ±4 ±8
KKR 資産構成割合 35 25 15 25
かい離許容幅 ±30 ±10 ±10 ±10
地共連 資産構成割合 35 25 15 25
かい離許容幅 ±15 ±14 ±6 ±12
私学事業団 資産構成割合 35 25 15 25
かい離許容幅 ±10 ±9 ±4 ±8

(注) 「平成29年度厚生年金保険法第79条の9第1項に基づく積立金の管理及び運用の状況に関する報告書」に基づき、会計検査院が作成した。

積立金基本指針では、各運用主体の主務大臣が共同して積立金全体の運用状況を評価・公表することとされており、31年3月には、厚生労働省、財務省、総務省及び文部科学省の連名で、「平成29年度厚生年金保険法第79条の9第1項に基づく積立金の管理及び運用の状況に関する報告書」が公表されている。この報告書に基づいて、29年度における厚生年金保険に係る各運用主体及び積立金全体の運用資産額、運用収益額及び運用収益率についてまとめると、図表1-18のとおり、各運用主体の役割、運用資産額の総額や内訳等が異なるため単純に比較することはできないものの、29年度は特別会計積立金のうちGPIFに係る運用収益率は地共連及び私学事業団と同程度となっている。

図表1-18 平成29年度における厚生年金保険に係る各運用主体別の運用資産額等

(単位:億円)
区分 特別会計積立金 KKR 地共連 私学事業団 厚生年金保険に係る積立金全体
  年金特別会計 GPIF
運用資産額 154兆9035 7兆4975 147兆4060 7兆2687 21兆3577 2兆2219 185兆7518
(内
国内債券 41兆9546
(27.1%)
-
(0.0%)
41兆9546
(28.5%)
3兆4833
(47.9%)
7兆3161
(34.3%)
6651
(29.9%)
53兆4192
(28.8%)
国内株式 38兆3660
(24.8%)
-
(0.0%)
38兆3660
(26.0%)
1兆5139
(20.8%)
5兆3724
(25.2%)
5614
(25.3%)
45兆8136
(24.7%)
外国債券 22兆5400
(14.6%)
-
(0.0%)
22兆5400
(15.3%)
4872
(6.7%)
2兆9075
(13.6%)
2783
(12.5%)
26兆2129
(14.1%)
外国株式 36兆4461
(23.5%)
-
(0.0%)
36兆4461
(24.7%)
1兆4318
(19.7%)
4兆5811
(21.4%)
5203
(23.4%)
42兆9794
(23.1%)
短期資産 15兆5968
(10.1%)
7兆4975
(100.0%)
8兆0994
(5.5%)
3525
(4.8%)
1兆1806
(5.5%)
1968
(8.9%)
17兆3266
(9.3%)
運用収益額 9兆4401 3 9兆4398 3626 1兆3744 1405 11兆3176
運用収益率 (記載なし) (記載なし) 6.90% 5.20% 6.83% 6.89% 6.50%
  • 注(1) 「平成29年度厚生年金保険法第79条の9第1項に基づく積立金の管理及び運用の状況に関する報告書」等に基づき、会計検査院が作成した。運用資産額及び運用収益額は億円単位未満を四捨五入して表示している。運用収益率の「(記載なし)」欄は同報告書に計数の記載がないものである。
  • 注(2) 運用資産額の内訳に示した括弧内の割合は、運用資産額に占める各資産の構成割合である。年金特別会計及びGPIFの構成割合は、報告書の億円単位の計数から会計検査院が計算し小数点第2位を四捨五入して表示している。
  • 注(3) 特別会計積立金は、年金特別会計及びGPIFが管理運用する年金積立金のうち厚生年金保険に係る分である。
  • 注(4) 特別会計積立金及びGPIFの運用資産額の内訳には、GPIFの未払金・未収金等も含まれている。
  • 注(5) 特別会計積立金及び年金特別会計の額は決算額である。
  • 注(6) 特別会計積立金及びGPIFの運用収益額は管理運用手数料等控除後である。また、国内債券のうち満期保有としている財投債は償却原価法により評価し、その他の資産は時価評価であり、財投債以外の各資産の収益額は総合収益額である。
  • 注(7) 特別会計積立金のうちGPIFの運用収益率は管理運用手数料等控除前の数値であり、財投債とその他の資産の投下元本平均残高等で加重平均により算出している。なお、GPIFの管理運用手数料等控除後の運用収益率は6.86%である。
  • 注(8) KKRの運用資産額のうち国内債券には、市場金利を参照して時価評価されている財政融資資金への預託金を含む。
  • 注(9) KKR、地共連及び私学事業団の運用収益額及び運用収益率は管理運用手数料控除後のものである。
  • 注(10)厚生年金保険に係る積立金全体の運用収益額は管理運用手数料控除後の数値である。また、厚生年金保険に係る積立金全体の運用収益率は、運用元本平均残高を「(H28年度末特別会計、KKR、地共連、私学事業団の積立金額+H29年度末特別会計、KKR、地共連、私学事業団の積立金額-H29年度特別会計、KKR、地共連、私学事業団の運用収益額)/2」で求め、これに対する収益率として算出している。
(カ) GPIFにおける年金積立金の管理運用に係る費用

独立行政法人の業務運営の財源の措置については、通則法によれば、政府は、予算の範囲内において、独立行政法人に対して、その業務運営の財源に充てるために必要な金額の全部又は一部に相当する金額を交付することができるとされている。

しかし、GPIFは、国から運営費交付金の交付を受けておらず、業務運営の財源は自己の収入を充てることとなっている。そして、GPIFの収入のほとんどが資産運用益であることから、GPIFが行っている管理運用業務及びこれに附帯する業務運営は、国から寄託された年金積立金の運用収益により賄われていることになる。

a GPIFの管理運用手数料等の推移

GPIFが毎年作成する業務概況書によれば、GPIFにおける年金積立金の管理運用に係る費用は、図表1-19のとおり、資産管理機関に対して支払う管理手数料及び運用受託機関に対して支払う運用手数料(以下「管理運用手数料」という。)並びにGPIFの業務運営費(以下、管理運用手数料とGPIFの業務運営費を合わせて「管理運用手数料等」という。)から構成されており、29年度においては520億余円となっている。そして、GPIFは、管理運用手数料等控除前の収益額10兆0810億余円から当該管理運用手数料等520億余円を減じた10兆0290億余円が29年度の総合勘定の損益額であり、これをGPIF厚年勘定及びGPIF国年勘定から受け入れた額を基準に各勘定に案分したとしている。

なお、GPIFの業務運営費は、27年度までは20億円程度であったが、新規システムの導入や人件費の増加等の理由により、近年、増加傾向にある。

図表1-19 GPIFの管理運用手数料等の推移(平成24年度から29年度まで)

(単位:百万円)
区分 平成24年度 25年度 26年度 27年度 28年度 29年度
管理運用手数料等(A) 23,952 26,844 30,959 40,488 43,048 52,023
  管理運用手数料 22,246 25,298 29,123 38,282 40,042 48,730
業務運営費 1,706 1,546 1,836 2,206 3,005 3,292
(参考)
収益額(B) 11,222,217 10,220,673 15,292,856 △5,309,665 7,935,566 10,081,025
運用上の損益(B)-(A) 11,198,264 10,193,828 15,261,896 △5,350,154 7,892,518 10,029,001

(注) 収益額(B)は、財務諸表上の資産運用損益であり、管理運用手数料等控除前の額である。

また、管理運用手数料等の大部分はGPIFが支払った管理運用手数料である。GPIFは、毎年作成する業務概況書において、管理運用手数料を「管理運用委託手数料」として公表している(各運用受託機関及び各資産管理機関に対する管理運用手数料については、別図表2参照)。

投資一任契約に関する協定書等によれば、管理運用手数料は、運用受託機関及び資産管理機関に係る委託額(時価)の月末平均残高に、当該残高に応じて決定される手数料率を乗じて算定することとされている。そして、この手数料率は、委託額の月末平均残高が大きくなるに従い徐々に低くなるように、階段状に設定されている。また、GPIFは、運用受託機関の見直し、運用受託機関の合併等の際に交渉を行うなどして、管理運用手数料の低減に努めているとしている。

そこで、GPIFが24年度から29年度までの間に支払った管理運用手数料及び管理運用手数料率の推移をみると、図表1-20のとおり、管理運用手数料については24年度の222億余円から29年度の487億余円に、管理運用手数料率については24年度の0.019%から29年度の0.031%に、それぞれ増加している。

図表1-20 管理運用手数料及び管理運用手数料率の推移(平成24年度から29年度まで)

(単位:百万円、%)
区分 平成24年度 25年度 26年度 27年度 28年度 29年度
月末平均残高 111,471,311 123,881,128 131,896,805 139,011,399 137,305,191 155,659,088
管理運用手数料 22,246 25,298 29,123 38,282 40,042 48,730
  管理手数料 1,469 1,734 2,239 2,765 2,643 2,935
運用手数料 20,776 23,563 26,883 35,517 37,398 45,795
管理運用手数料率 0.019 0.020 0.022 0.027 0.029 0.031

(注) 管理運用手数料率は、月末平均残高に対する管理運用手数料の割合であり、小数点第4位以下を切り捨てて表示している。

そして、管理運用手数料の大部分を占める運用手数料について、資産区分別の推移をみると、図表1-21のとおり、年度によって増減はあるものの、24年度と29年度を比較すると、国内債券以外の資産区分において増加していた。また、運用手数料率については、国内債券に比べて、国内株式、外国債券及び外国株式において高い傾向となっていた。

また、運用手法別の推移をみると、図表1-21のとおり、いずれの資産区分においてもパッシブ運用よりアクティブ運用の方が高くなっている。そして、24年度と29年度の運用手数料率を比較すると、国内株式、外国債券及び外国株式のパッシブ運用については、運用資産額が大幅に増えているが(図表1-10参照)、運用手数料率が月末平均残高が大きくなるに従い徐々に低くなるように設定されていることから、運用手数料率は減少している。

一方、外国債券のアクティブ運用については、パッシブ運用と同様に運用資産額が大幅に増えているが、28年度の運用が好調だった(図表1-12参照)ことにより、後述する「実績連動報酬制」による運用手数料が大幅に増加したため、運用手数料率は増加している。また、国内株式のアクティブ運用については、運用資産額はほぼ両年度末で同水準となっているが、28年度に運用手数料率が低い一部のファンドをパッシブ運用に区分替えしたこと(図表3-10参照)などから、運用手数料率は増加している。さらに、外国株式のアクティブ運用については、運用資産額が大幅に増えているが、上記外国債券のアクティブ運用の場合と比べて、実績連動報酬制による運用手数料の増加が限定的であったため、運用手数料率は微増にとどまっている。

図表1-21 運用手数料及び運用手数料率の資産区分別等の推移(平成24年度から29年度まで)

(単位:百万円、%)
区分 平成24年度 25年度 26年度 27年度 28年度 29年度
国内債券 運用手数料 4,572 3,468 3,589 3,509 3,698 3,779
運用手数料率 0.012 0.009 0.012 0.019 0.023 0.024
  パッシブ運用 運用手数料 969 444 394 236 220 212
運用手数料率 0.003 0.001 0.001 0.002 0.002 0.002
アクティブ運用 運用手数料 3,603 3,024 3,194 3,273 3,477 3,567
運用手数料率 0.042 0.049 0.051 0.051 0.050 0.050
国内株式 運用手数料 5,564 7,352 5,199 7,790 8,215 10,100
運用手数料率 0.040 0.036 0.020 0.024 0.025 0.025
  パッシブ運用 運用手数料 1,349 1,577 210 296 2,347 2,830
運用手数料率 0.012 0.009 0.000 0.001 0.008 0.007
アクティブ運用 運用手数料 4,214 5,774 4,989 7,493 5,868 7,270
運用手数料率 0.139 0.144 0.159 0.140 0.195 0.193
外国債券 運用手数料 5,143 6,191 7,751 8,373 11,758 16,413
運用手数料率 0.049 0.047 0.047 0.044 0.063 0.074
  パッシブ運用 運用手数料 332 378 433 303 186 214
運用手数料率 0.004 0.004 0.003 0.002 0.001 0.001
アクティブ運用 運用手数料 4,811 5,813 7,318 8,070 11,572 16,199
運用手数料率 0.159 0.155 0.152 0.128 0.171 0.193
外国株式 運用手数料 5,495 6,551 10,342 15,843 13,726 15,501
運用手数料率 0.041 0.038 0.042 0.049 0.043 0.040
  パッシブ運用 運用手数料 444 517 632 731 724 794
運用手数料率 0.003 0.003 0.002 0.002 0.002 0.002
アクティブ運用 運用手数料 5,050 6,033 9,710 15,112 13,001 14,706
運用手数料率 0.275 0.399 0.361 0.344 0.286 0.282
合計 運用手数料 20,776 23,563 26,883 35,517 37,398 45,795
  • 注(1) 運用手数料率は、各区分の月末平均残高に対する運用手数料の割合であり、小数点第4位以下を切り捨てて表示している。
  • 注(2) アクティブ運用の運用手数料には、トランジション・マネジメントに係る分が含まれている。
  • 注(3) 運用手法別の運用受託機関に対する運用手数料の推移については、別図表3参照
b 実績連動報酬制

GPIFは、25年度に、運用受託機関に対する超過収益獲得のための動機付けがより働くようにするためとして、運用手数料の支払のうちアクティブ運用のファンド(以下「アクティブファンド」という。)の一部に実績連動報酬制を導入している。実績連動報酬制は、アクティブファンドに対して支払う運用手数料額を、当該アクティブファンドのベンチマークに対する超過収益の程度に応じて変動させる方法である。GPIFが25年度に導入した実績連動報酬制は、図表1-22の実績連動報酬制(現行)のとおり、報酬率に下限と上限を設け、当該アクティブファンドが超過収益率を確保した程度に応じて報酬率を下限値から上限値へと緩やかに増加させるもので、報酬率を決定するための超過収益率には、原則として平均年率(3年)が使用されている。

図表1-22 実績連動報酬制と固定報酬制の概念図

図表1-22 実績連動報酬制と固定報酬制の概念図 画像

実績連動報酬制が適用されているアクティブファンド数についてみると、図表1-23のとおり、25年度の導入以降、適用されているファンド数は増加しており、29年度においては33ファンドとなっている。

図表1-23 実績連動報酬制が適用されているアクティブファンドの状況(平成24年度から29年度まで)

(単位:ファンド、百万円)
区分 平成24年度 25年度 26年度 27年度 28年度 29年度
国内債券 実績連動 ファンド数 - - - - - -
固定報酬 ファンド数 14 9 9 9 9 9
小計 ファンド数 14 9 9 9 9 9
国内株式 実績連動 ファンド数 - - 8 8 8 8
固定報酬 ファンド数 19 29 9 9 7 6
小計 ファンド数 19 29 17 17 15 14
外国債券 実績連動 ファンド数 - - - 20 20 21
固定報酬 ファンド数 7 7 7 2 - -
小計 ファンド数 7 7 7 22 20 21
外国株式 実績連動 ファンド数 - 3 4 4 4 4
固定報酬 ファンド数 20 20 12 11 10 8
小計 ファンド数 20 23 16 15 14 12
実績連動 ファンド数 - 3 12 32 32 33
時価総額 - 660,882 2,666,209 10,272,436 11,886,070 13,832,257
比率 - 4.4% 13.6% 43.1% 52.6% 54.9%
固定報酬 ファンド数 60 65 37 31 26 23
時価総額 15,237,124 14,079,719 16,927,041 13,507,293 10,670,441 11,327,299
比率 100.0% 95.5% 86.3% 56.8% 47.3% 45.0%
合計 ファンド数 60 68 49 63 58 56
時価総額 15,237,124 14,740,601 19,593,250 23,779,730 22,556,511 25,159,557
比率 100% 100% 100% 100% 100% 100%
  • 注(1) 「実績連動」は実績連動報酬制が適用されているアクティブファンド数を表す。
  • 注(2) 「固定報酬」は固定報酬制が適用されているアクティブファンド数を表す。
  • 注(3) 平成29年度の外国債券には、新しい実績連動報酬制が適用されている1ファンドを含む。
  • 注(4) 計欄の比率は、各区分の年度末時価総額の合計が年度末時価総額全体に占める割合である。
  • 注(5) ファンド数には当該年度中に解約されたファンドが含まれているため、ファンド数と年度末時価総額は必ずしも対応していない。

次に、アクティブファンドに係る報酬制別の運用手数料の支払状況についてみると、図表1-24のとおり、25年度以降、GPIFが支払うアクティブファンドに係る運用手数料全体に占める実績連動報酬制を導入したファンドに係る運用手数料(超過収益率が基本報酬率以下の場合にも支払われる基本報酬と超過収益率が基本報酬率を上回った場合に支払われる実績連動報酬との合計額)の割合は増加しており、29年度では64.0%となっている。

図表1-24 アクティブファンドに係る報酬制別の運用手数料の支払状況(平成24年度から29年度まで)

(単位:百万円)
区分 平成24年度 25年度 26年度 27年度 28年度 29年度
国内債券 実績連動 - - - - - -
固定報酬 3,603 3,024 3,194 3,273 3,477 3,567
小計 3,603 3,024 3,194 3,273 3,477 3,567
国内株式 実績連動 - - 1,719 2,425 2,832 3,985
固定報酬 4,214 5,774 3,269 5,063 3,033 3,274
小計 4,214 5,774 4,989 7,489 5,866 7,260
外国債券 実績連動 - - - 4,653 11,565 16,186
固定報酬 4,811 5,813 7,318 3,365 - -
小計 4,811 5,813 7,318 8,019 11,565 16,186
外国株式 実績連動 - 756 2,478 5,347 5,685 6,550
固定報酬 5,050 5,277 7,231 9,764 7,316 8,156
小計 5,050 6,033 9,710 15,112 13,001 14,706
実績連動(a) - 756 4,197 12,427 20,084 26,722
固定報酬 17,679 19,889 21,014 21,467 13,827 14,998
合計(b) 17,679 20,646 25,212 33,894 33,912 41,721
実績連動の割合(a)/(b) 0.0% 3.6% 16.6% 36.6% 59.2% 64.0%
  • 注(1) 「実績連動」には、実績連動報酬制が適用されているアクティブファンドに係る運用手数料(基本報酬と実績連動報酬との合計額)を計上している。また、年度中の下期から実績連動報酬制が適用されたファンドについては、下期の運用手数料のみ「実績連動」に計上し、上期分は「固定報酬」に含めている。
  • 注(2) 「固定報酬」は固定報酬制が適用されているアクティブファンドに係る運用手数料である。
  • 注(3) 平成29年度の外国債券には、新しい実績連動報酬制が適用されている1ファンドを含む。
  • 注(4) 各年度の運用手数料には、当該年度中に解約されたファンドに係る分も含まれている。

また、実績連動報酬制が導入された25年度から29年度までの各資産において、実績連動報酬制が適用されているアクティブファンドの実績連動報酬に係る支払状況についてみると、図表1-25のとおり、29年度においては、実績連動報酬制が適用されている33ファンドのうち実際に基本報酬以外に実績連動報酬が支払われたファンドは24ファンドであった。また、実績連動報酬制が適用されている33ファンドの運用手数料全体に占める実績連動報酬の割合は20.9%となっていた。

図表1-25 実績連動報酬制が適用されたアクティブファンドの実績連動報酬に係る支払等の状況(平成25年度から29年度まで)

(単位:百万円、ファンド)
区分 平成25年度 26年度 27年度 28年度 29年度
国内株式 基本報酬額 -(0) 1,639(8) 2,223(8) 2,404(8) 3,124(8)
実績連動報酬額 -(0) 79(3) 202(5) 428(5) 860(7)
運用手数料額計 - 1,719 2,425 2,832 3,985
実績連動報酬額の割合 - 4.6% 8.3% 15.1% 21.5%
外国債券 基本報酬額 -(0) -(0) 4,365(20) 8,920(20) 11,601(21)
実績連動報酬額 -(0) -(0) 287(6) 2,645(15) 4,585(15)
運用手数料額計 - - 4,653 11,565 16,186
実績連動報酬額の割合 - - 6.1% 22.8% 28.3%
外国株式 基本報酬額 568(3) 1,955(4) 4,115(4) 5,294(4) 6,399(4)
実績連動報酬額 187(2) 522(3) 1,231(3) 390(1) 150(2)
運用手数料額計 756 2,478 5,347 5,685 6,550
実績連動報酬額の割合 24.8% 21.0% 23.0% 6.8% 2.2%
基本報酬額 568(3) 3,595(12) 10,705(32) 16,619(32) 21,125(33)
実績連動報酬額 187(2) 602(6) 1,721(14) 3,464(21) 5,596(24)
運用手数料額計 756 4,197 12,427 20,084 26,722
実績連動報酬額の割合 24.8% 14.3% 13.8% 17.2% 20.9%

(注) 括弧書きは当該報酬を受けたファンド数を示す。

上記33ファンドのうち、超過収益を獲得できていないのにパッシブ運用を上回る報酬が支払われているものが5ファンド見受けられたが、GPIFは、30年度から、運用受託機関の目標達成への意欲をより高めて長期的に超過収益率の水準向上を図るためとして、報酬率の上限を撤廃し、超過収益を獲得できない場合はパッシブ運用並みの報酬となるようにした新しい実績連動報酬制(図表1-22参照)を、原則として全てのアクティブファンドに適用することとしており、これにより、アクティブ運用の受託機関の能力がより発揮される効果が期待できるとしている。

このように、GPIFは、30年度から本格的に新しい実績連動報酬制を適用することとしていることから、新しい実績連動報酬制の導入の効果について、一定期間後に検証を行うなどして、運用受託機関に対する超過収益獲得のための動機付けがより働くものとなるよう引き続き努めることが重要である。

c カストディ費用の低減

GPIFは、外国債券に係る運用資産の管理について、資産管理機関であるステート・ストリート信託銀行とファンドごとに特定運用信託契約を締結している。

ステート・ストリート信託銀行が、外国において有価証券の保管を業として営む金融機関であるグローバルカストディアンのA社に対して支払う外国における保管手数料(以下「カストディ費用」という。)に係る料率表は、全ての特定運用信託契約において同一となっており、この料率表は、19年11月にステート・ストリート信託銀行がGPIFに対して提出した提案書に基づいている。また、GPIFは、毎年度実施している資産管理機関の総合評価において、カストディ費用についても評価しており、資産管理機関に対する現地ヒアリングにおいて、カストディ費用の料率の妥当性について聞き取りを行って、当該資産管理機関とグローバルカストディアンとの間で取り決められているカストディ費用の料率が最も優遇されたものであることを確認しているとしている。

一方、GPIFは、災害時の事業継続計画の観点から資産管理機関との契約について見直しを検討しており、その一環として、資産管理機関に対して、現行の特定運用信託契約の対象となっている資産区分(注23)以外に参入の意向があるかを確認しており、参入の意思を示した資産管理機関から、提案書等の提出を受けている。

(注23)
現行の特定運用信託契約の対象となっている資産区分  GPIFは、国内債券、国内株式、外国債券及び外国株式の資産区分別に資産管理機関を集約している。資産区分ごとの資産管理機関は、国内債券は資産管理サービス信託銀行、国内株式は日本トラスティ・サービス信託銀行、外国債券(オルタナティブ資産を含む。)はステート・ストリート信託銀行、外国株式は日本マスタートラスト信託銀行となっている。

そこで、参入の意思を示したステート・ストリート信託銀行以外の資産管理機関から提出された外国債券の管理に係る提案の内容を確認したところ、B信託銀行は、29年6月に外国債券及び外国株式の管理に係る提案を行っており、このうち外国債券の管理については前記のA社をグローバルカストディアンとして採用することとして提案していた。そして、B信託銀行が提案した外国債券に係るカストディ費用の料率は、GPIFがステート・ストリート信託銀行と締結している現行の外国債券等に係る特定運用信託契約に基づくカストディ費用の料率よりも低くなっていた。

この点について、GPIFは、A社がB信託銀行に提示したカストディ費用の料率については、既存の外国債券に加えて、外国株式が新規追加となることで、預かり資産が現状よりも増加することが前提となっていることを確認しているとしている。

前提となる運用資産額が異なるため、単純な比較はできないものの、運用資産額の規模等によっては、現行のカストディ費用の料率よりも低い料率が適用される可能性があることから、GPIFは、年金積立金の経済的な運用を確保するために、資産管理機関との特定運用信託契約において適用されているカストディ費用の各種料率等について、最も優遇されたものであることを、当該資産管理機関の報告やその他の情報により継続的に確認していく必要がある。

(2) 運用環境の変化による影響

ア 厚生年金基金の解散等の影響

(ア) 厚生年金基金の解散等

厚生年金基金の解散等は、特会厚年勘定への最低責任準備金の納付を伴うことから、厚生年金保険の適用事業所の拡大による保険料収入の増加等の他の要因とも相まって、特会厚年勘定の収入を増加させることになり、GPIFのキャッシュアウトを軽減させたり、年金特別会計からGPIFへの寄託金を増加させたりする要因になる。一方、解散等に伴う年金給付の増加により、特会厚年勘定の支出を増加させたり、GPIFへの寄託金を減少させたりする要因にもなる。また、解散等を行った厚生年金基金からの最低責任準備金の納付は、基金によって記録の整理の状況が異なるなどの理由から、納付時期を正確に予測できないものとなっている。

25年改正法の施行を受けて、厚生年金基金の解散等が増加し、図表2-1のとおり、厚生年金基金の数は25年度末の531から29年度末の36に減少している。そして、特会厚年勘定への納付額は26年度以降高い水準で推移しており、28年度は4兆3844億余円、29年度は1兆6153億余円となっている。また、厚生労働省は、仮に29年度末に全ての厚生年金基金が解散等したとすると、約1.3兆円が年金特別会計に納付されることになるとしている。

図表2-1 厚生年金基金数及び最低責任準備金の納付額の推移(平成25年度から29年度まで)

区分 平成25年度 26年度 27年度 28年度 29年度
厚生年金基金数(年度末の数) 531 444 256 110 36
最低責任準備金納付額(百万円) 144,906 2,110,294 4,664,730 4,384,405 1,615,320
(イ) 年金特別会計における年金積立金への影響

上記のとおり、厚生年金基金の解散等により、最低責任準備金の特会厚年勘定への納付額は高い水準で推移している。

年金特別会計における年金保険料の徴収・納付は毎月行われるが、年金の支給は2か月に一度、偶数月に行われるため、偶数月の年金給付日から次の偶数月の年金給付日までの2か月の間において、同特別会計に余裕金が発生する。会計検査院は、24年報告において、22年4月15日から23年4月14日までの特会国年勘定及び特会厚年勘定における余裕金の発生状況について検査したところ、厚生労働省は、余裕金を財政融資資金に預託して運用しているが、これを除いても、両勘定に多額の余裕金(財政融資資金への預託分を除く。以下同じ。)が発生していた旨を記述している。そして、24年報告の所見において、「年金特別会計の国民年金勘定及び厚生年金勘定の積立金の取崩しに当たっては、多額の余裕金を保有し、長期資金として運用する機会を失うこととならないよう、年金収支の見通しを的確に把握して、積立金の取崩しを必要最小限の額にとどめ多額の余裕金を保有することのないように努めること」と記述している。

そこで、24年報告で記述した22年度の状況に加えて、23年4月の年金給付日(23年4月15日)から30年4月の年金給付日(30年4月12日)までの間の特会国年勘定及び特会厚年勘定における余裕金の状況をみたところ、図表2-2のとおり、特会国年勘定については、期間によって増減はあるものの、25年度以降は22年度と比較して減少していた。一方、特会厚年勘定については、23年度から27年度までの間において、22年度と比較して減少していたが、28年6月以降については増加していた。この理由について、厚生労働省は、解散等した厚生年金基金からの最低責任準備金や厚生年金保険の適用事業所の拡大による保険料収入はあらかじめ納付額や時期が定まらないが、これらの増加等の影響があるためとしている。

厚生労働省においては、今後とも、年金収支の見通しを的確に把握して、年金特別会計の積立金に属する現金の繰替使用の額や積立金の取崩し額を必要最小限にとどめて、特会国年勘定及び特会厚年勘定において、多額の余裕金を保有することがないように努めることが重要である。

図表2-2 特会国年勘定及び特会厚年勘定の余裕金の状況(財政融資資金への預託分を除く。)(平成22年4月15日から30年4月12日まで)

(単位:百万円)
期間 特会国年勘定 特会厚年勘定
日付注(1) 余裕金の額注(1) 日付注(1) 余裕金の額注(1)
平成22年4/15~6/14 4月28日 69,723 4月28日 292,931
6/158/12 7月9日 46,515 7月6日 236,358
8/13~10/14 8月13日 45,161 9月15日 421,499
10/15~12/14 11月4日 33,130 11月15日 293,695
12/15~23年2/14 1月5日 30,565 1月14日 246,592
23年2/15~4/14 4月5日 41,058 3月28日 220,590
平均注(2) 44,359 285,277
23年4/15~6/14 4月28日 46,730 4月28日 115,389
6/158/14 6月15日 48,832 6月15日 328,385
8/15~10/13 8月15日 46,912 9月28日 277,543
10/14~12/14 10月28日 43,526 10月28日 72,213
12/15~24年2/14 1月6日 43,283 12月28日 91,349
24年2/15~4/12 2月15日 43,632 4月11日 87,450
平均注(2) 45,486 162,055
24年4/13~6/14 4月13日 65,635 4月13日 103,405
6/158/14 7月13日 53,311 7月9日 172,750
8/15~10/14 9月4日 39,546 8月15日 355,540
10/15~12/13 12月6日 59,478 11月15日 117,111
12/14~25年2/14 1月8日 46,680 1月15日 122,370
25年2/15~4/14 3月4日 40,392 2月25日 117,311
平均注(2) 50,840 164,748
25年4/15~6/13 4月30日 76,651 4月15日 86,565
6/148/14 7月16日 32,289 6月14日 164,504
8/15~10/14 9月4日 32,433 8月15日 120,975
10/15~12/12 11月5日 43,706 10月21日 8,303
12/13~26年2/13 12月16日 38,725 12月16日 60,498
26年2/14~4/14 3月4日 21,644 2月24日 78,479
平均注(2) 40,908 86,554
26年4/15~6/12 4月30日 53,292 4月21日 103,028
6/138/14 7月29日 28,509 7月22日 15,612
8/15~10/14 9月3日 21,398 9月22日 49,502
10/15~12/14 11月5日 16,453 11月17日 86,559
12/15~27年2/12 1月13日 21,646 1月19日 71,435
27年2/13~4/14 2月16日 28,292 2月23日 54,326
平均注(2) 28,265 63,410
27年4/15~6/14 4月20日 37,998 4月17日 127,269
6/158/13 7月27日 33,258 7月27日 231,469
8/14~10/14 9月7日 29,930 8月17日 151,754
10/15~12/14 12月7日 30,478 11月13日 232,144
12/15~28年2/14 12月15日 31,862 1月25日 156,337
28年2/15~4/14 4月7日 39,980 2月15日 177,252
平均注(2) 33,918 179,371
28年4/15~6/14 4月18日 33,668 4月15日 94,644
6/158/14 7月25日 16,402 7月25日 356,272
8/15~10/13 9月2日 30,399 8月15日 283,795
10/14~12/14 11月2日 33,363 11月15日 279,318
12/15~29年2/14 2月13日 18,827 12月15日 293,220
29年2/15~4/13 3月2日 21,461 3月31日 482,743
平均注(2) 25,687 298,332
29年4/14~6/14 4月17日 33,062 4月14日 167,572
6/158/14 8月7日 36,428 7月7日 295,849
8/15~10/12 9月4日 38,566 8月21日 284,364
10/13~12/14 11月2日 31,378 11月15日 228,860
12/15~30年2/14 12月25日 22,048 1月15日 289,698
30年2/15~4/12 4月6日 10,206 3月26日 301,468
平均注(2) 28,615 261,302
  • 注(1) 「日付」は、2か月に1度行われる年金給付日から次の年金給付日の前日までの期間内で最も余裕金が少なかった日であり、「余裕金の額」は同日の余裕金の金額である。
  • 注(2) 「平均」は、年度ごとに6回分の「余裕金の額」を平均した値である。
(ウ) GPIFにおける年金積立金への影響
a 短期資産ファンドの運用状況

前記のとおり、GPIFは、流動性を確保するために、短期資産ファンドを設けて、自家運用による短期資産運用を行っている。短期資産ファンドは、譲渡性預金等による短期資産運用を行うもので、運用利回りが低く、29年度の時間加重収益率は△0.00%となっている(図表1-12参照)。

26年10月30日以前の基本ポートフォリオにおいては、年金特別会計及びGPIFが運用する短期資産の割合は、年金積立金全体の5%とされていた(図表1-8参照)。この5%の構成割合について、厚生労働省は年金特別会計の資金繰り上必要な金額を考慮して設定したとしている。しかし、年金特別会計における短期資産についてはGPIFのコントロールが及ばないことから、26年10月31日以降の基本ポートフォリオにおいては、短期資産としての独立した構成割合を設定せず、短期資産以外の各資産をそれぞれのかい離許容幅の範囲に収まるように維持した上で管理することに変更している。

24年度から29年度までの各年度末におけるGPIFの短期資産ファンド残高の推移をみると、図表2-3のとおり、28年度から著しく増加しており、29年度末で8兆5919億余円、年金特別会計分の短期資産を合わせた短期資産の額は14兆0843億余円(年金積立金全体の8.70%)となっており、26年10月30日以前の構成割合である5%を大きく超過する状況となっている。

図表2-3 短期資産ファンドの年度末残高等の推移(平成24年度から29年度まで)

(単位:百万円)
区分 平成24年度 25年度 26年度 27年度 28年度 29年度
GPIFの短期資産ファンド
(年度末残高)(A)
1,783,784 1,842,179 844,127 1,355,441 7,246,325 8,591,987
(A)に係る収益額 3,410 1,283 1,520 659 6 △4
年金特別会計分の短期資産
(年度末残高)(B)
3,727,726 3,575,818 6,473,969 5,879,660 6,190,127 5,492,378
短期資産 計
(年度末残高)(C)=(A)+(B)
5,511,510 5,417,997 7,318,096 7,235,101 13,436,453 14,084,365
年金積立金全体に占める(C)の構成比 4.43% 4.16% 5.08% 5.14% 8.89% 8.70%
  • 注(1) GPIFの短期資産ファンド(年度末残高)のうち平成28、29両年度末の残高には、28年度から開始されたGPIFの外貨建て短期資産ファンドがそれぞれ32億余円、22億余円含まれている。
  • 注(2) 平成29年度にGPIFの短期資産ファンドの収益額がマイナスとなった理由について、GPIFは、為替レートの変動によるとしている。
  • 注(3) 年金特別会計の短期資産(年度末残高)は、3月末の計数であり、決算剰余金の積立て等の前であるため、決算額とは異なる。

このようにGPIFの短期資産ファンドの額が増加したのは、解散等した厚生年金基金から最低責任準備金が年金特別会計に納付されるなどしたことにより、短期的に特会厚年勘定の収支が改善した(図表1-6参照)ことから、GPIFからのキャッシュアウトが必要なくなり、キャッシュアウト等対応ファンドの債券の満期償還金を国内債券等に再投資できるようになったものの、GPIFがマイナス金利政策下では国内債券への配分が困難であるなどと判断したため、当該償還金が実際には再投資されずに、短期資産ファンドとして保有されていることによると考えられる。

短期資産ファンドは運用利回りが低いことから、多額の短期資産を保有する状況となっていることについて国民に丁寧に説明することが重要である。

b キャッシュアウト等対応ファンドの運用状況

前記のとおり、GPIFは、将来のキャッシュアウトに備えて、キャッシュアウト等対応ファンドを設けており、原則として、資金が必要となる時期に対応した償還期間の国内債券を満期まで保有することにより運用している。GPIFは、23年8月にキャッシュアウト等対応ファンドとして9兆6285億余円分を設定し、その後、21年度から23年度までの実際のキャッシュアウト額が21年の財政検証の結果から見込んでいた額よりも上振れしていたことから、今後のキャッシュアウトに備えて資金を確実に確保する必要があるとして、24年度に8兆1536億余円を増額し、さらに、26年の財政検証の結果を踏まえて、26年度以降の10年間程度キャッシュアウトが見込まれるとして、26年度に15兆1314億余円を積み増していた。GPIFは、これらの積増しを委託運用の国内債券のパッシブファンドで保有する債券の現物を当該ファンドのベンチマークの銘柄構成割合のとおりに移管することにより実施しており、その結果キャッシュアウト等対応ファンドへの組入銘柄には、財政検証で想定されているキャッシュアウトの時期以降に満期を迎える債券も含まれている。

キャッシュアウト等対応ファンドの年度末残高の推移をみると、図表2-4のとおり年度によって増減しており、29年度末の残高は14兆6572億余円となっている。

図表2-4 キャッシュアウト等対応ファンドの年度末残高の推移(平成23年度末から29年度末まで)

(単位:百万円)
平成23年度末 24年度末 25年度末 26年度末 27年度末 28年度末 29年度末
残高(時価) 10,010,650 19,929,483 16,223,085 25,982,800 21,386,977 17,934,470 14,657,273

しかし、前記のとおり、短期的に特会厚年勘定の収支が改善したため、GPIFが想定していた27、28両年度中のキャッシュアウトが必要なくなるなど、キャッシュアウトが必要な時期及び金額が前記の見込みと異なる状況となっている。

また、GPIFは、26年度のキャッシュアウト等対応ファンドの積増しに当たって、その後の金利上昇に備えるなどのために、残存期間が10年を超えていて37年(2025年)4月以降に償還を迎える国債を順次売却することにした。しかし、図表2-5のとおり、30年3月末現在、37年度以降に償還を迎える国債がキャッシュアウト等対応ファンド内に2兆0885億余円(額面金額)残っており、将来のキャッシュアウトに使用される見込みの少ない残存期間の長い国債を多く保有している状況となっている。

図表2-5 キャッシュアウト等対応ファンドが保有する債券の満期までの期間別の額(平成30年3月末現在)

(単位:百万円)
償還を迎える時期 額面
国債 国債以外の国内債券
平成36年度以前 7,587,027 2,778,140 10,365,167
37年度以降 2,088,550 1,091,836 3,180,386
9,675,577 3,869,976 13,545,553

このようにキャッシュアウトに必要とされる資金の実際の金額や時期が見込みと異なる状況になっていることについて、GPIFは、キャッシュアウト等対応ファンドを現段階で機動的に見直したとしても、31年に行われる次期財政検証でキャッシュアウトの想定が大きく変わった場合には、債券の不必要な取引による費用で損失が発生するため、機動的に見直すことによる便益はほとんどないとしている。

GPIFは、今後のキャッシュアウトの見込み及び金利変動への備えを考慮して、将来の資金繰りに確実を期すとともに年金積立金のより効率的な運用を図るために、キャッシュアウト等対応ファンドについて、31年の次期財政検証の検討状況を踏まえながら適時に、ファンドの規模、償還期間別の国内債券の構成等を見直すことを検討する必要がある。

イ 低金利政策の継続及びマイナス金利政策の導入による影響

(ア) 利回りの推移

前記のとおり、日本銀行は、11年2月から12年8月までの間にゼロ金利政策を、13年4月から18年3月までの間に量的緩和政策をそれぞれ実施した後、25年4月に量的・質的金融緩和を、28年2月にマイナス金利政策をそれぞれ導入している。

このような日本銀行の金融政策を受けて、国債の利回りの水準を示すイールドカーブ(注24)は、図表2-6のとおり推移しており、国債の利回りの水準は26年3月末からマイナス金利政策導入後の28年6月末まで下落し、その後、上昇に転じたものの、30年3月末時点で、26年3月末の水準まで戻っていない。残存期間が10年の国債の利回りでみると、26年3月末に0.641%(残存期間10年)であったものが、28年2月から11月までの間にマイナスになり、その後、おおむね0.1%未満で推移していた。そして、30年7月から同年11月までにかけて0.1%を超えることもあったが、同年12月28日現在0.013%になっている(図表2-7参照)。

(注24)
イールドカーブ  横軸に残存期間、縦軸に利回りをとり、残存期間が異なる複数の債券の残存期間と利回りの関係を表した曲線

図表2-6 国債のイールドカーブの推移

図表2-6 国債のイールドカーブの推移 画像

図表2-7 年度末時点等における残存期間別の国債の利回りの状況(平成2年度から30年度まで)

(単位:%)
年度 基準日 国債利回り
1年 2年 3年 4年 5年 6年 7年 8年 9年 10年
平成2年度 H2.9.28 8.554 8.405 8.467 8.336 8.249 8.121 8.172 8.107 7.900 8.105
10年度 H11.2.1 0.500 0.696 1.003 1.262 1.471 1.661 1.849 1.958 2.018 2.118
H11.3.31 0.211 0.348 0.475 0.682 0.900 1.103 1.331 1.501 1.594 1.716
24年度 H25.3.29 0.056 0.057 0.066 0.107 0.131 0.184 0.282 0.395 0.491 0.564
25年度 H26.3.31 0.075 0.087 0.109 0.154 0.197 0.265 0.365 0.477 0.563 0.641
26年度 H27.3.31 0.030 0.037 0.057 0.093 0.131 0.149 0.173 0.261 0.326 0.398
27年度 H28.3.31 △0.154 △0.206 △0.229 △0.205 △0.190 △0.200 △0.183 △0.147 △0.104 △0.049
28年度 H29.3.31 △0.254 △0.204 △0.179 △0.148 △0.124 △0.093 △0.058 △0.009 0.026 0.067
29年度 H30.3.30 △0.134 △0.137 △0.118 △0.118 △0.108 △0.086 △0.063 △0.028 0.009 0.043
30年度 H30.12.28 △0.148 △0.139 △0.155 △0.158 △0.152 △0.151 △0.145 △0.114 △0.058 0.013
  • 注(1) 財務省が公表している「国債金利情報」に基づき、会計検査院が作成した。
  • 注(2) 年数は残存期間を示し、利回りは、平成2、30両年度を除き、各年度末(3月31日。同日が土曜日又は日曜日である場合は、その前の金曜日)時点の利回りである。2年度については残存期間が10年の国債の利回りが最も高い日の利回りを、30年度については12月末の利回りを示している。また、10年度についてはゼロ金利政策が導入された11年2月初日の利回りも示している。
(イ) 年金特別会計における年金積立金への影響

前記のとおり、日本銀行の金融政策を受けて、金利の低い状況が続いている。また、図表1-3のとおり、年金特別会計から財政融資資金への預託の平均残高は年度によってばらつきがある一方で、預託利子額は減少傾向にある。そこで、低金利による24年度から29年度までの特会国年勘定及び特会厚年勘定における財政融資資金への預託と利回りへの影響についてみると、図表2-8のとおり、24年度の利回りは0.099%、29年度の利回りは0.009%と低水準の状況が続いていて、29年度の利回りは24年度と比較して10分の1まで低下している。

図表2-8 年金特別会計の各勘定における財政融資資金への預託と利回りの状況(平成24年度から29年度まで)

(単位:百万円)
区分 平成24年度 25年度 26年度 27年度 28年度 29年度
特会国年勘定 預託平均残高 156,589 158,030 228,049 179,128 233,216 130,145
預託利子額 156 127 84 17 23 13
利回り 0.099% 0.080% 0.036% 0.009% 0.009% 0.009%
特会厚年勘定 預託平均残高 1,558,024 1,506,463 2,194,478 3,460,026 4,730,377 3,223,405
預託利子額 1,558 1,156 726 346 473 322
利回り 0.099% 0.076% 0.033% 0.009% 0.009% 0.009%
預託平均残高 1,714,613 1,664,493 2,422,528 3,639,155 4,963,594 3,353,550
預託利子額 1,714 1,284 810 363 496 335
利回り 0.099% 0.077% 0.033% 0.009% 0.009% 0.009%
  • 注(1) 預託平均残高は、当該年度中の日別の預託残高の平均であり、会計検査院が試算したものである。
  • 注(2) 預託利子額は、当該年度の4月1日から3月31日までの間に実際に収納された利子額であり、決算書上の収納済歳入額と一致している。
(ウ) GPIFにおける年金積立金への影響
a 保有資産の評価益への影響

債券価格は、金利の変化に伴い変化する。すなわち、金利が上昇すると、高い金利下で発行された債券の方が収益性が高くなるため、低い金利下で発行された債券は価値が下がり、債券価格が低下する。他方、金利が低下すると、債券価格は上昇する。したがって、金利が低下し続けている状況下においては、債券価格は上昇傾向にあることになる。

前記のとおり、我が国は低金利の状況下にあり、28年2月からはマイナス金利政策が導入されていることから、GPIFが27年3月末から29年3月末までの間に保有していた6,858件の国債(期間中に購入又は売却した国債及び物価連動債を除く。)の時価評価額(注25)をみると、図表2-9のとおり、マイナス金利政策の導入後の28年3月以降、金利水準が大きく低下したこと(図表2-6参照)により、残存期間が短い1年未満のもの及び1年以上3年未満のものを除いて、28年3月末及び28年6月末では、27年12月末と比較して時価評価額が増加したが、その後の金利水準の上昇により、28年9月末以降の時価評価額は減少傾向となっている。6,858件の国債全体の時価評価額について、マイナス金利政策導入前の27年12月末と比較すると、マイナス金利政策導入後の28年3月末時点では7850億余円増加(27年12月末に対する増加率2.9%)し、28年6月末時点では1兆2466億余円増加(同4.6%)していたが、その後、時価評価額は減少傾向となり、29年3月末では2112億余円の増加(同0.7%)となっていた。

(注25)
時価評価額  時間の経過による時価評価額の増加額又は減少額には、イールドカーブが上下にシフトすることによる時価評価額の減少額又は増加額だけでなく、イールドカーブが右肩上がり(残存期間が長いほど金利が高い。)の場合に、期間の経過とともに当該国債の残存期間が短くなることにより金利が低下(債券価格が上昇)することによる時価評価額の増加額が含まれる。

図表2-9 マイナス金利政策の保有資産の評価益への影響(平成27年12月末から29年3月末まで)

(単位:百万円)
平成29年3月末時点における国債の残存期間 購入払込額 区分 27年12月末 28年3月末 28年6月末 28年9月末 28年12月末 29年3月末
1年未満 3,853,317 時価評価額 3,884,927 3,883,823 3,876,488 3,863,047 3,847,346 3,833,167
27年12月末からの増減額 △1,104 △8,439 △21,879 △37,581 △51,760
1年以上3年未満 5,765,456 時価評価額 5,864,274 5,889,169 5,885,670 5,865,309 5,831,644 5,818,668
27年12月末からの増減額 24,894 21,396 1,034 △32,630 △45,606
3年以上5年未満 4,126,724 時価評価額 4,344,400 4,380,542 4,389,719 4,361,034 4,319,081 4,308,852
27年12月末からの増減額 36,142 45,319 16,634 △25,318 △35,547
5年以上10年未満 5,157,220 時価評価額 5,590,513 5,699,682 5,752,943 5,689,413 5,609,464 5,593,781
27年12月末からの増減額 109,168 162,430 98,899 18,950 3,268
10年以上25年未満 5,640,373 時価評価額 6,471,852 6,929,893 7,231,614 6,971,673 6,791,149 6,723,026
27年12月末からの増減額 458,040 759,762 499,821 319,297 251,173
25年以上 751,534 時価評価額 841,080 998,956 1,107,230 1,020,790 960,498 930,778
27年12月末からの増減額 157,876 266,150 179,710 119,418 89,698
25,294,627 時価評価額 26,997,048 27,782,066 28,243,666 27,771,269 27,359,185 27,208,274
27年12月末からの増減額 785,018 1,246,618 774,220 362,137 211,226
b 新規に購入する国内債券への影響

GPIFは、従来、GPIFが定めた運用に関するガイドラインにおいて、運用受託機関に対してマイナス利回りの債券の購入を禁止していたが、マイナス金利政策導入後は、図表2-7のとおり、残存期間が10年の国債まで利回りがマイナスとなる状況となった。そして、28年2月22日に開催された外部の有識者から構成される運用委員会において、パッシブ運用における運用の自由度を確保するために上記のガイドラインを改正して、運用受託機関がマイナス利回りの債券を購入することを認めた。

そこで、29年度中にマイナス金利による国債の購入が確認できた7ファンドについてみると、パッシブ運用については、ベンチマークを構成する銘柄を保有するために、また、アクティブ運用については、残存期間が短期から超長期までの国債の保有割合を柔軟に変更するなどして超過収益を獲得するために、それぞれのファンドの運用戦略に応じて、図表2-10のとおり、マイナス利回りの国債を購入していた。

なお、GPIFは、各運用受託機関の投資行動のモニタリングに当たっては、各ファンド全体のベンチマークに対する超過収益の獲得に主眼を置いていることから、マイナス利回りで購入した個々の国債に係る売却の状況については管理しておらず、個々の国債に係る収益の状況は把握していないとしている。

図表2-10 平成29年度中にマイナス利回りで購入した国債の状況

(単位:百万円)
運用手法 パッシブ運用 アクティブ運用
ファンド a b c d e f g
マイナス利回りで購入した国債 額面価額 1,111,280 2,844,860 339,100 244,010 577,571 2,532,230 1,141,900 8,790,951
購入価格 1,119,746 2,867,570 350,303 248,208 584,363 2,581,988 1,151,570 8,903,751

(注) 「マイナス利回りで購入した国債」の「額面価額」及び「購入価格」は、平成28年2月のマイナス金利政策導入以降、30年11月までの間に、マイナス利回りで購入した国債の額面金額及び約定金額をそれぞれ合計したものである。

また、国内債券について、24年度から29年度までの間の資金の配分額及び回収額をみると、GPIFの基本ポートフォリオにおける国内債券の構成割合が26年10月30日までの60%(かい離許容幅±8%)から、26年10月31日以降の35%(かい離許容幅±10%)に低下したことを受けて、図表2-11のとおり、資金配分額と資金回収額の差である純資金配分額は、26年度に11兆9705億余円減少しており、その後も28年2月のマイナス金利政策の導入等により継続的に減少して、29年度には資金回収額の方が2兆9643億余円多い状況となっていた。そして、国内債券の構成割合は、27.50%(30年3月末現在)となっていて、構成割合の許容範囲の下限とされている25%近くまで低下していた。

図表2-11 国内債券における純資金配分額の状況(平成24年度から29年度まで)

(単位:百万円)
資産区分 平成24年度 25年度 26年度
資金配分額 資金回収額 純資金配分額 資金配分額 資金回収額 純資金配分額 資金配分額 資金回収額 純資金配分額
(A) (B) (A)-(B) (A) (B) (A)-(B) (A) (B) (A)-(B)
国内債券 7,254,637 4,076,503 3,178,134 1,680,000 3,791,782 △2,111,782 1,125,000 13,095,599 △11,970,599
資産区分 27年度 28年度 29年度
資金配分額 資金回収額 純資金配分額 資金配分額 資金回収額 純資金配分額 資金配分額 資金回収額 純資金配分額
(A) (B) (A)-(B) (A) (B) (A)-(B) (A) (B) (A)-(B)
国内債券 1,195,500 5,537,658 △4,342,158 1,060,000 3,799,413 △2,739,413 1,606,885 4,571,251 △2,964,366

(注) 他の資産区分及び運用手法(パッシブ運用・アクティブ運用)別の内訳については、別図表4参照

c 短期資産ファンドの管理運用に係る費用に対する影響

GPIFは、短期資産ファンドの管理を、資産管理機関である資産管理サービス信託銀行に行わせており、短期資産ファンドの運用額は、図表2-3のとおり、最近増加傾向にある。

短期資産ファンドの運用状況についてみると、マイナス金利政策導入前は、国庫短期証券、譲渡性預金等により運用されていたが、マイナス金利政策導入後は、運用の方法が非常に限られてきたことから、資産管理サービス信託銀行は、管理している資金のうち運用先がない部分を自社の普通預金として引き受けて、その大部分を日銀当座預金に預けている。そして、日銀当座預金のうち政策金利残高(GPIF以外の顧客の分も含む。)に対しては、マイナス0.1%の金利が適用されている。これに伴う金利負担のうちGPIFに係る分については、資産管理サービス信託銀行が負担しているが、資産管理サービス信託銀行は当該金利負担分を短期資産ファンドに転嫁し、GPIFが負担することを求める要望を行っている。

また、GPIFは、29年12月、短期資産ファンドを複数の資産管理機関に管理させて、資産の集中を防止するとともに、より効率的な短期資産の運用方法の提案を広く求めるために、短期資産ファンドを扱う資産管理機関を公募した。そして、GPIFは、資産管理サービス信託銀行及び日本マスタートラスト信託銀行を資産管理機関として選定し、30年7月の経営委員会に報告した。

(3) 各ファンドの運用状況等

前記のとおり、GPIFによる年金積立金の運用には、委託運用と自家運用とがある。図表1-10で示した29年度末におけるGPIFの運用資産額156兆3831億余円の内訳をみると、図表3-1のとおり、オルタナティブ投資分を除いて、委託運用分は92ファンド118兆6056億余円、自家運用分は7ファンド37兆5631億余円となっている。また、オルタナティブ投資分については、委託運用分が3ファンド581億余円、自家運用分が2ファンド1548億余円となっている(運用受託機関等別の年度末時価総額の推移については、別図表5参照)。

図表3-1 資産区分別、運用手法別の委託運用、自家運用等の状況(平成29年度末)

(単位:ファンド、百万円)
区分 委託運用(オルタナティブ投資分を除く。)
(a)
自家運用(オルタナティブ投資分を除く。)
(b)
オルタナティブ投資
(c)
(d)=(a)+(b)+(c) その他
(e)
平成29年度末時価総額計
(d)+(e)
(委託運用分) (自家運用分)
ファンド数 時価総額 ファンド数 時価総額 ファンド数 時価総額 ファンド数 時価総額 ファンド数 時価総額 時価総額
国内債券 パッシブ運用 5 8,446,056 3 25,153,606 - - - 8 33,599,663 - 33,599,663
アクティブ運用 9 7,093,609 1 2,921,230 6,885 - - 10 10,021,725 - 10,021,725
14 15,539,666 4 28,074,837 6,885 - - 18 43,621,388 - 43,621,388
国内株式 パッシブ運用 15 36,807,595 - - - - - 15 36,807,595 - 36,807,595
アクティブ運用 14 3,890,737 - - 1,215 - - 14 3,891,952 1 3,891,953
29 40,698,332 - - 1,215 - - 29 40,699,547 1 40,699,549
外国債券 パッシブ運用 10 14,819,636 - - - - - 10 14,819,636 - 14,819,636
アクティブ運用 20 8,910,011 - - 33,973 1 146,693 21 9,090,678 609 9,091,288
30 23,729,647 - - 33,973 1 146,693 31 23,910,314 609 23,910,924
外国株式 パッシブ運用 8 33,372,807 - - - - - 8 33,372,807 20 33,372,828
アクティブ運用 11 5,265,199 - - 16,094 1 8,198 12 5,289,491 621 5,290,113
19 38,638,006 - - 16,094 1 8,198 20 38,662,299 642 38,662,941
短期資産 - - 2 8,591,987 - - - 2 8,591,987 - 8,591,987
財投債 - - 1 896,367 - - - 1 896,367 - 896,367
合計 92 118,605,653 7 37,563,192 3 58,167 2 154,891 104 156,381,906 1,253 156,383,159
  • 注(1) オルタナティブ投資(委託運用分)の3ファンドの時価総額については、GPIFにおける各資産区分への案分額に従って記載している。なお、GPIFは、今後の運用に影響を及ぼすおそれがあるとして、個別のファンドに係る案分額は開示していない。
  • 注(2) オルタナティブ投資(委託運用分)に係るファンド数については合計にのみ計上しているため、ファンド数の合計とその内訳は一致しない。
  • 注(3) 「その他」欄では、トランジション・マネジメント及び解約ファンドに係る未収金に係る分を合算して示している。トランジション・マネジメントとは、運用機関の間で資産の配分、回収を実施する際に、配分対象ファンドと回収対象ファンドとの間で円滑に資産を移管する目的で実施するものであり、解約ファンドに係る未収金とは、GPIFが解約したファンドに係る配当等に係る未収金等である。
  • 注(4) 平成29年度末におけるGPIFの運用資産額156兆3831億余円のうち、委託運用に係る分は、図表の「委託運用(オルタナティブ投資分を除く。)」、オルタナティブ投資の「(委託運用分)」及び「その他」を合わせた118兆6650億余円であり、自家運用に係る分は 、「自家運用(オルタナティブ投資分を除く。)」及びオルタナティブ投資の「(自家運用分)」を合わせた37兆7180億余円である。
  • 注(5) 運用手法別のファンド数の推移(委託運用分)については、別図表6参照

ア 委託運用における各ファンドの運用状況

GPIFの委託運用分(オルタナティブ投資分を除く。)について、資産区分別のファンド数と時価総額をみると、図表3-1のとおり、29年度末において、国内債券14ファンド(時価総額15兆5396億余円)、国内株式29ファンド(同40兆6983億余円)、外国債券30ファンド(同23兆7296億余円)、外国株式19ファンド(同38兆6380億余円)、計92ファンド(同118兆6056億余円)となっている。

また、上記の委託運用分92ファンドについて、29年度末までの運用年数をみると、図表3-2のとおり、運用期間が3年未満のファンドが27ファンド(同14兆5007億余円)、3年以上のファンドが65ファンド(同104兆1048億余円)であり、3年以上のファンドのうち5年以上のものが42ファンド(同90兆4657億余円)となっている。

同じ委託運用分について、運用手法別の内訳をみると、全体ではパッシブファンド38ファンド(同93兆4460億余円)、アクティブファンド54ファンド(同25兆1595億余円)であり、ファンド数ではアクティブファンドの方が多いものの、時価総額ではパッシブファンドが全体の78.7%を占めている。

図表3-2 委託運用のファンドの運用期間別内訳(平成29年度末)

(単位:ファンド、百万円)
区分 委託運用ファンド
(平成29年度末)
左の運用期間別の内訳
3年未満 3年以上
うち5年以上
ファンド数 時価総額 ファンド数 時価総額 ファンド数 時価総額 ファンド数 時価総額
国内債券 パッシブ運用 5 8,446,056 0 0 5 8,446,056 5 8,446,056
アクティブ運用 9 7,093,609 0 0 9 7,093,609 9 7,093,609
14 15,539,666 0 0 14 15,539,666 14 15,539,666
国内株式 パッシブ運用 15 36,807,595 4 1,537,914 11 35,269,681 4 27,435,216
アクティブ運用 14 3,890,737 0 0 14 3,890,737 2 1,041,163
29 40,698,332 4 1,537,914 25 39,160,418 6 28,476,379
外国債券 パッシブ運用 10 14,819,636 6 6,618,023 4 8,201,613 4 8,201,613
アクティブ運用 20 8,910,011 15 6,240,538 5 2,669,472 5 2,669,472
30 23,729,647 21 12,858,562 9 10,871,085 9 10,871,085
外国株式 パッシブ運用 8 33,372,807 2 104,300 6 33,268,507 6 33,268,507
アクティブ運用 11 5,265,199 0 0 11 5,265,199 7 2,310,086
19 38,638,006 2 104,300 17 38,533,706 13 35,578,594
パッシブ計 38 93,446,096 12 8,260,238 26 85,185,858 19 77,351,393
アクティブ計 54 25,159,557 15 6,240,538 39 18,919,018 23 13,114,331
合計 92 118,605,653 27 14,500,777 65 104,104,876 42 90,465,725

(注) 委託運用分の資産区分ごとの運用手法の割合の推移については、別図表7①参照

さらに、資産区分別の内訳をみると、国内債券については委託運用の14ファンド全ての運用期間が5年以上となっている一方で、外国債券については30ファンド(23兆7296億余円)のうち、21ファンド(70.0%)、12兆8585億余円(54.1%)が運用期間が3年未満の比較的新しく委託運用が開始されたものとなっていた。これは、GPIFがそれぞれの資産区分に係る運用受託機関構成を見直して比較的大規模なファンドの入替えを行った時期による影響であり、国内債券については24年度に運用受託機関構成の見直しを行ってから大きな見直しを行っていないこと、外国債券については27年度に運用受託機関構成の見直しを行って複数のファンドの解約や選定を行ったことなどによる。

(ア) 委託運用のアクティブファンド

GPIFの委託運用については、中期目標及び中期計画において、原則としてパッシブ運用とアクティブ運用を併用し、アクティブ運用に取り組むことにより超過収益の獲得を目指すものとすること、ただし、アクティブ運用については、過去の運用実績も勘案し、超過収益が獲得できるとの期待を裏付ける十分な根拠を得ることを前提に行うことなどと定められている。

GPIFの委託運用のうち、29年度末時点で3年以上の運用実績があるアクティブファンドは、国内債券9ファンド(7兆0936億余円)、国内株式14ファンド(3兆8907億余円)、外国債券5ファンド(2兆6694億余円)、外国株式11ファンド(5兆2651億余円)、計39ファンド(18兆9190億余円)となっている。これら39ファンドの超過収益率の確保の状況についてみると、図表3-3のとおり、25年度から29年度までの平均年率(最長5年)で超過収益率を確保していたのは、国内債券9ファンド(100.0%)、国内株式9ファンド(64.2%)、外国債券5ファンド(100.0%)及び外国株式7ファンド(63.6%)、計30ファンド(76.9%)となっていた。同じ39ファンドについて、27年度から29年度までの平均年率(3年)で超過収益率を確保していたのは、国内債券9ファンド(100.0%)、国内株式11ファンド(78.5%)、外国債券4ファンド(80.0%)、外国株式8ファンド(72.7%)、計32ファンド(82.0%)であり、平均年率(最長5年)とほぼ同様の傾向であった。また、27年度から29年度までの3期間で1期も超過収益率を確保できなかったファンドが外国株式で1ファンドあった。

図表3-3 委託運用のアクティブファンドに係る超過収益率の確保状況

(単位:ファンド)
期間 資産区分 超過収益率を確保したファンド数 超過収益率を確保できなかったファンド数
平成25年度から29年度までの平均年率(最長5年) 国内債券 9 (100.0%) 0 (0.0%) 9 (100%)
国内株式 9 (64.2%) 5 (35.7%) 14 (100%)
外国債券 5 (100.0%) 0 (0.0%) 5 (100%)
外国株式 7 (63.6%) 4 (36.3%) 11 (100%)
30 (76.9%) 9 (23.0%) 39 (100%)
27年度から29年度までの平均年率(3年) 国内債券 9 (100.0%) 0 (0.0%) 9 (100%)
国内株式 11 (78.5%) 3 (21.4%) 14 (100%)
外国債券 4 (80.0%) 1 (20.0%) 5 (100%)
外国株式 8 (72.7%) 3 (27.2%) 11 (100%)
32 (82.0%) 7 (17.9%) 39 (100%)
27年度から29年度までの3期間で少なくとも1期以上 国内債券 9 (100.0%) 0 (0.0%) 9 (100%)
国内株式 14 (100.0%) 0 (0.0%) 14 (100%)
外国債券 5 (100.0%) 0 (0.0%) 5 (100%)
外国株式 10 (90.9%) 1 (9.0%) 11 (100%)
38 (97.4%) 1 (2.5%) 39 (100%)
  • 注(1) 運用期間1年を1期としている。
  • 注(2) 平成25年度から29年度までの平均年率(最長5年)には、運用期間が3年以上5年未満のファンドを含んでおり、各ファンドの運用期間により平均している年数が異なっている。
  • 注(3) 平成27年度から29年度までの平均年率(3年)は、39ファンドに係る27年4月から30年3月までの運用実績を用いて集計している。
  • 注(4) 「平成25年度から29年度までの平均年率(最長5年)」、「27年度から29年度までの平均年率(3年)」及び「27年度から29年度までの3期間で少なくとも1期以上」の「超過収益率を確保できなかったファンド数」から、重複分を除くと、国内株式5ファンド、外国債券1ファンド、外国株式5ファンド、計11ファンドとなる。

また、39ファンドの運用実績について、27年度から29年度までの各年度の各資産区分別に時間加重収益率及び超過収益率の最大値及び最小値をみると、図表3-4のとおり、一般に収益率の振れ幅が大きいとされる国内株式及び外国株式において、いずれの年度においても最大値と最小値の差が10ポイント以上となるなど、国内債券及び外国債券と比較して実際に振れ幅が大きい傾向となっていた。

図表3-4 委託運用のアクティブファンドに係る時間加重収益率及び超過収益率の最大値及び最小値(平成27年度から29年度まで)

(単位:%)
年度 資産区分 時間加重収益率 超過収益率
最大値
(A)
最小値
(B)
最大値と最小値の差
(A)-(B)
最大値
(C)
最小値
(D)
最大値と最小値の差
(C)-(D)
平成27年度 国内債券 6.10 5.33 0.77 0.69 △0.08 0.77
国内株式 15.71 △16.57 32.28 17.52 △2.57 20.09
外国債券 △5.39 △6.28 0.89 0.24 △0.64 0.88
外国株式 △3.21 △17.70 14.49 8.81 △1.42 10.23
28年度 国内債券 0.06 △1.35 1.41 0.53 0.05 0.48
国内株式 28.57 13.76 14.81 11.54 △0.94 12.48
外国債券 △0.81 △2.77 1.96 2.24 0.28 1.96
外国株式 23.94 7.41 16.53 7.73 △7.01 14.74
29年度 国内債券 1.95 1.05 0.90 1.05 0.15 0.90
国内株式 59.27 12.43 46.84 36.88 △2.77 39.65
外国債券 4.91 1.65 3.26 2.55 △0.52 3.07
外国株式 21.52 8.31 13.21 13.13 △4.50 17.63
  • 注(1) 各年度の業務概況書に基づき、会計検査院が作成した。
  • 注(2) 収益率は運用手数料控除前の数値であり、小数点第3位を四捨五入して表示している。
  • 注(3) 時間加重収益率の差と超過収益率の差で数値が異なるのは、各資産区分において、複数のファンド間でベンチマークが異なっているためである。

図表3-3のとおり、25年度から29年度までの平均年率(最長5年)等の基準でみて超過収益率を確保できなかったファンドが、国内株式5ファンド、外国債券1ファンド、外国株式5ファンド、計11ファンドある。これらのファンドが超過収益率を確保できていないことについて、GPIFは、当該ファンドの運用手法にとって近年の市場環境が運用実績を上げにくいものであったこと、当該ファンドが時価を割安と判断して構成割合をベンチマークよりも高めに保有していた業種で想定どおりの収益が出なかったことなどが原因であるとしている。

(イ) 委託運用のパッシブファンド

GPIFは、パッシブファンドの運用受託機関に対して、総取引費用の最小化等による収益の確保にも配慮しつつ、時間加重収益率をベンチマークの収益率に可能な限り追随させることを求めており、パッシブファンドについても超過収益率を確保できることが望ましいとしている。また、GPIFは、パッシブ運用の定量的な評価においても超過収益率の確保を最も重視するとしている。

図表3-2のとおり、29年度末時点で3年以上の運用実績があるパッシブファンドは、国内債券5ファンド、国内株式11ファンド、外国債券4ファンド、外国株式6ファンド、計26ファンド(29年度末の時価総額は85兆1858億余円)となっている。これら26ファンドについて、超過収益率の確保の状況をみると、図表3-5のとおり、25年度から29年度までの平均年率(最長5年)及び27年度から29年度までの平均年率(3年)で超過収益率を確保していたのは、それぞれ計17ファンド、計20ファンドとなっていた。

図表3-5 委託運用のパッシブファンドに係る超過収益率の確保状況

(単位:ファンド)
期間 資産区分 超過収益率を確保したファンド数 超過収益率を確保できなかったファンド数
平成25年度から29年度までの平均年率(最長5年) 国内債券 4 (80.0%) 1 (20.0%) 5 (100%)
国内株式 3 (27.2%) 8 (72.7%) 11 (100%)
外国債券 4 (100.0%) 0 (0.0%) 4 (100%)
外国株式 6 (100.0%) 0 (0.0%) 6 (100%)
17 (65.3%) 9 (34.6%) 26 (100%)
27年度から29年度までの平均年率(3年) 国内債券 5 (100.0%) 0 (0.0%) 5 (100%)
国内株式 6 (54.5%) 5 (45.4%) 11 (100%)
外国債券 4 (100.0%) 0 (0.0%) 4 (100%)
外国株式 5 (83.3%) 1 (16.6%) 6 (100%)
20 (76.9%) 6 (23.0%) 26 (100%)
  • 注(1) 平成25年度から29年度までの平均年率(最長5年)には、運用期間が3年以上5年未満のファンドを含んでおり、各ファンドの運用期間により平均している年数が異なっている。
  • 注(2) 平成27年度から29年度までの平均年率(3年)は、26ファンドに係る27年4月から30年3月までの運用実績を用いて集計している。

また、上記26ファンドの運用実績について、アクティブファンドと同様に、27年度から29年度までの各年度の各資産区分別に時間加重収益率及び超過収益率の最大値及び最小値をみると、図表3-6のとおり、時間加重収益率、超過収益率ともに、アクティブファンドよりもばらつきが小さい状況となっていた。

図表3-6 委託運用のパッシブファンドに係る時間加重収益率及び超過収益率の最大値及び最小値(平成27年度から29年度まで)

(単位:%)
年度 資産区分 時間加重収益率 超過収益率
最大値
(A)
最小値
(B)
最大値と最小値の差
(A)-(B)
最大値
(C)
最小値
(D)
最大値と最小値の差
(C)-(D)
平成27年度 国内債券 6.05 5.42 0.63 0.03 △0.04 0.07
国内株式 △10.80 △16.91 6.11 0.03 △0.05 0.08
外国債券 △2.12 △2.75 0.63 0.10 △0.01 0.11
外国株式 △9.63 △9.72 0.09 0.08 △0.00 0.08
28年度 国内債券 △0.13 △1.32 1.19 0.04 0.00 0.04
国内株式 17.66 12.93 4.73 0.08 △0.33 0.41
外国債券 △2.94 △5.34 2.40 0.07 0.05 0.02
外国株式 14.68 14.58 0.10 0.04 △0.06 0.10
29年度 国内債券 1.00 0.92 0.08 0.06 0.01 0.05
国内株式 15.89 12.70 3.19 0.14 △0.03 0.17
外国債券 4.47 4.33 0.14 0.24 0.10 0.14
外国株式 9.80 9.69 0.11 0.10 △0.01 0.11
  • 注(1) 各年度の業務概況書に基づき、会計検査院が作成した。
  • 注(2) 収益率は運用手数料控除前の数値であり、小数点第3位を四捨五入して表示している。
  • 注(3) 時間加重収益率の差と超過収益率の差で数値が異なるのは、各資産区分において、複数のファンド間でベンチマークが異なっているためである。

なお、図表3-2の運用期間が3年未満のパッシブファンドの中には、GPIFが先駆的な取組の一つとして29年度から開始したESG投資に係る国内株式4ファンド(29年度末時価総額1兆5379億余円)が含まれている。これらは、26年3月に示された社会保障審議会年金部会「年金財政における経済前提と積立金運用のあり方に関する専門委員会」の報告書や27年4月の第3期中期目標等において、ESGを含めた非財務的要素を考慮することについて検討するなどとされたことを踏まえて、GPIFが検討を進め、28年7月からESG指数(注26)の公募、審査等を行って3指数を選定した上で、29年7月からこれら3指数をベンチマークとする国内株式のパッシブファンドの運用を開始したものである。

(注26)
ESG指数  ESGの要素を加味した株価等の指数

GPIFは、ESG投資について、投資期間が長期にわたるほど、リスク調整後のリターンを改善する効果があるとしており、投資を開始するに当たって、採用するESG指数に基づいて過去5年間運用した場合の試算を行い、当該指数の作成の基となった親指数に基づく運用と比較してリターン及びリスクの双方が改善されることを確認するなどしたとしている。

なお、GPIFのESG投資に係る4ファンドについて、29年度末の時価総額等を示すと図表3-7のとおりである。

図表3-7 ESG投資に係る4ファンドの平成29年度末時価総額

(単位:百万円)
資産区分・運用手法 運用受託機関名等 ベンチマーク 平成29年度末時価総額
国内株式パッシブ運用 アセットマネジメントOne IV FTSE Blossom Japan Index 87,759
ブラックロック・ジャパン III FTSE Blossom Japan Index 438,880
三菱UFJ信託銀行 III MSCIジャパンESGセレクト・リーダーズ指数 622,886
三菱UFJ信託銀行 IV MSCI日本株女性活躍指数(WIN) 388,387
1,537,914
  • 注(1) GPIFの平成29年度業務概況書等に基づき、会計検査院が作成した。
  • 注(2) 4ファンドは平成29年度中に運用が開始されたため、29年度末までにおける運用期間はいずれも1年未満である。

GPIFは、ESG投資の効果が発現するまでには長期間を要するため、中長期的に投資の効果を確認しながら、新たなESG指数の活用やアクティブ運用なども含めてESG投資を拡大する方針であるとしている。したがって、GPIFによるESG投資が、専ら被保険者の利益のために、長期的な観点から安全かつ効率的に行われることにより、将来にわたって年金事業の運営の安定に資するという年金積立金の目的に適合するものとなっているかといった点から、ESG投資の中長期的な投資効果を継続的に確認していくことが重要である。

(ウ) 株主議決権の行使

会計検査院は、24年報告において、株主議決権について、「GPIFは、外国株式の運用を行っている運用受託機関に対して、シェア・ブロッキング制度(注27)を廃止した国の株式に係る株主議決権の行使を求めている。しかし、運用受託機関の中には、資産管理機関から参考情報として提供される報告書に記載されているシェア・ブロッキング制度の廃止等に関する情報を十分に活用していなかったり、同制度の廃止により実効的に株主議決権の行使が可能になったのかの確認に時間を要したりして、同制度が廃止された後に株主議決権を行使するのが遅れている運用受託機関があり、株主議決権の行使により経営の効率化を促すなどして企業価値を高めさせる機会を逸している事態が見受けられた」と記述している。そして、24年報告の所見において、「運用受託機関に対して、資産管理機関から提供される情報を十分に活用すること及びシェア・ブロッキング制度が廃止された際には速やかに株主議決権を行使するよう努めることについて指導管理を徹底すること」と記述している。

そこで、上記についてのGPIFの対応状況を検査したところ、GPIFは、運用受託機関に議決権行使ガイドラインを策定させるなどして、議決権行使の状況を管理していた。そして、運用受託機関から報告を受けて、株主議決権が行使されていることを確認していた。なお、24年報告後から30年11月までの間では、シェア・ブロッキング制度が廃止された事例はなかった。

(注27)
シェア・ブロッキング制度  株主総会が終了するまでの一定期間、議決権を行使する株主の株式売買が凍結される制度

イ 委託運用におけるファンドの評価及び選定・入替え等

GPIFは、年金積立金のより効率的な運用を図るために、運用受託機関の構成やファンドの資金配分が最適なものとなるよう、運用受託機関が運用する既存のファンドについては、毎年度総合評価を実施し、運用受託機関が提案する新規のファンドについては、申込期限を設定しない公募(以下「マネジャー・エントリー制」という。)により公募した上で、総合評価を行うなどして、運用受託機関の見直しを行っている。

(ア) 運用受託機関が運用する既存のファンドの評価

前記のとおり、現在の基本ポートフォリオは、国内株式と外国株式を合わせた構成割合が50%となっており、予想される期待収益率のばらつき具合(標準偏差)によって表されるリスクが増加している。そして、実際の収益の状況についてみると、委託運用のアクティブファンドのうち、25年度から29年度までの平均年率(最長5年)等の基準でみて超過収益率を確保していなかったのは、主として国内株式ファンドと外国株式ファンドとなっている(図表3-3参照)。また、委託運用のアクティブファンドのうち、国内株式ファンドと外国株式ファンドの時間加重収益率及び超過収益率のばらつきが、国内債券及び外国債券よりも大きくなっている(図表3-4参照)。同様に、委託運用のパッシブファンドにおいても、超過収益率を確保していなかったのは、株式のファンドが多い状況となっている(図表3-5参照)。

上記のように、委託運用における運用成績は、アクティブファンドを中心として、ファンドによって相当の差がある状況となっている。

GPIFの運用受託機関に対する評価は、中期計画において「運用実績等を定期的に評価し、資金配分の見直しを含め、運用受託機関を適時に見直す」と定められており、29年度の年度計画において「運用状況及びリスク負担の状況についての報告のほか、随時必要な資料の提出を求めるとともに、定期的に各運用受託機関とミーティングを行い、運用ガイドラインの遵守状況、運用状況及びリスク負担状況を把握し、運用受託機関に対し適切に管理、評価を行う」と定められている。そして、GPIFは、中期計画及び厚生年金保険法第79条の6第1項の規定に基づく管理運用の方針に従ってGPIFが定める年金積立金の管理及び運用に関する具体的な方針(以下「業務方針」という。)において、既存の運用受託機関について、資金の配分、一部回収又は解約の必要性等を判断するための総合評価を毎年度1回行うものとすると定めた上で、総合評価を実施するために、評価の詳細な基準を定める内規を整備し、当該内規に基づいて各資産区分、運用手法等の別に総合評価を実施している。

業務方針では、運用受託機関に係る選定基準、配分基準及び一部回収・解約基準が定められており、各基準における総合評価に係る共通の評価項目は図表3-8のとおりとされている。そして、GPIFは、評価の詳細な基準を定める内規において、それぞれの評価項目に付す点数やウエイト付けを定めて、それに基づいて総合評価を実施している。なお、業務方針によれば、一部回収・解約基準及び配分基準における総合評価、すなわち既存の運用受託機関に係る総合評価は、毎年度全ての運用受託機関について行うこととされている。ただし、GPIFは、各資産に係る運用受託機関構成の見直し等により新規の運用受託機関に対して選定基準に基づく総合評価を実施する場合は、新規の運用受託機関との相対評価を行う中で、既存の運用受託機関に対する総合評価を実施しているとしている。

図表3-8 運用受託機関の総合評価の評価項目

評価項目 詳細
投資方針
投資方針がGPIFの方針と合致した形で、かつ、明確にされているか。
運用プロセス
投資方針と整合がとれた運用プロセスが構築されているか。
付加価値の追求方法(パッシブ運用機関にあっては、総取引費用の最小化等による収益の確保にも配慮しつつ、マネジャー・ベンチマークに追随する手法。アクティブ運用機関にあっては超過収益の追求方法)が合理的であり、運用実績を伴い、有効と認められるか。
組織・人材
投資方針が組織の中で徹底されているか。意思決定の流れや責任の所在は明確か。
経験を有し、投資環境を踏まえた対応が可能なことが運用実績により裏付けられたマネジャー等が十分に配置されているか。
運用成果と整合的な報酬等により、マネジャー等の動機付けがなされているか。
内部統制
法令等の遵守についての内部統制体制が整備されているか。また、内部検査及び外部監査体制は、整備されているか。
スチュワードシップ責任に係る取組
株式の運用受託機関にあっては、日本版スチュワードシップ・コード取組方針に基づき、建設的なエンゲージメント活動等を通じて投資先企業の企業価値の向上や持続的成長を促すとともに、株主利益を図るための利益相反の弊害防止体制を整備する等、適切な取組を行っているか。
事務処理体制
運用実績を報告する体制等が十分に整備されているか。
情報セキュリティ対策
情報セキュリティ対策を適正に実施する体制が整備されているか。
情報提供等
GPIFに対して投資環境や運用手法等に関する有益な情報提供等が実施され、又は期待できるか。
運用手数料
持続的に質の高いサービスが提供される観点から合理的か。
  • 注(1) スチュワードシップ責任とは、「「責任ある機関投資家」の諸原則≪日本版スチュワードシップ・コード≫」(平成29年5月。スチュワードシップ・コードに関する有識者検討会)における「機関投資家が、投資先企業やその事業環境等に関する深い理解に基づく建設的な「目的を持った対話」(エンゲージメント)などを通じて、当該企業の企業価値の向上や持続的成長を促すことにより、「顧客・受益者」(中略)の中長期的な投資リターンの拡大を図る責任」を意味している。
  • 注(2) 評価項目のうち「運用プロセス」及び「組織・人材」の評価に当たっては、定性評価の他に運用実績の指標を参考として用いる定量評価を行うこととされている。
(イ) 運用受託機関が提案する新規のファンドの選定

業務方針によると、新規の運用受託機関の選定については、特別の事情がある場合を除き、公募するものとされ、その方法は、原則としてマネジャー・エントリー制によること、また、運用手数料の評価を含む総合評価の結果及び運用受託機関構成を勘案して、運用受託機関を選定することなどとされている。

マネジャー・エントリー制は、様々な運用手法に関する情報収集を迅速に行い、より柔軟に運用受託機関の選定を行うことを目的として、運用受託機関を常時公募する制度であり、受託を希望する者は、GPIFが指定した情報提供の方法に従って、過去5年間の運用実績等をGPIFのデータベースに登録することとなる。GPIFは、28年4月以降、各資産区分・運用手法別に運用受託機関構成を見直す際に順次マネジャー・エントリー制を導入してきており、30年2月には全ての委託運用に導入した。

GPIFによる運用受託機関の選定及び評価は、各資産区分・運用手法別に行われ、第1次審査、第2次審査、第3次審査の3段階で実施される。第1次審査においては、マネジャー・エントリー制により応募されたファンドの中からGPIFが必要とする運用手法のファンドを抽出し、当該ファンドについて応募要件の確認等の書類審査が行われる。第2次審査においては、第1次審査を通過した運用受託機関を対象として、業務方針及びGPIFの内規に基づき、定性評価(評価項目の一部として定量評価を含む。29年10月以前は定性評価及び定量評価をそれぞれ別項目で評価していた。)による総合評価が行われる。ここで、定性評価とは、業務方針に定める「投資方針・運用プロセス」、「組織・人材」、「スチュワードシップ責任に関する取組」及び「情報提供等」の各項目についての評価を指し、定量評価とは、「運用プロセス」及び「組織・人材」の一部として行われる超過収益率等の過去5年の運用実績についての評価を指す。そして、第3次審査においては、第2次審査を通過した運用受託機関及び既存の運用受託機関に対して、定性評価、定量評価及び運用手数料の評価による総合評価が行われる。

会計検査院は、24年報告において、「運用受託機関を選定する際の審査過程において、審査結果書等に総合評価点は記載されていたものの、投資方針、運用プロセス、組織・人材等の評価事項ごとの評価点数が記載されていないものが多数見受けられるなど、選定の過程の妥当性を事後的に検証することが困難となっている事態が見受けられた。GPIFは、22年度以降は評価事項ごとの評価点及び評価の理由を記載した審査結果書を作成して運用委員会に提出しており、現在では選定の過程の妥当性を事後的に検証することが可能になっている」と記述している。そして、24年報告の所見において、厚生労働省及びGPIFにおいて、「22年度以降に行っている評価事項ごとの評価点及び評価の理由を記載した審査結果書を作成して運用委員会に提出する取組を今後とも徹底して、運用受託機関の選定の過程の妥当性を事後的に容易に検証できるようにすること」と記述している。

そこで、上記に対するGPIFの対応状況を検査したところ、運用受託機関の選定における審査過程については、GPIFは、評価事項ごとの評価点及び評価の理由を記載した審査結果書を作成する取組を継続して行っており、選定過程の妥当性を事後的に検証できるようにしていた。なお、29年10月以降は、運用委員会の廃止に伴い新たに設置された経営委員会において、管理運用業務に係る議決事項を審議するとともに、常勤の監査委員が出席する投資委員会において、審査結果書に基づいて運用受託機関の選定・評価、運用ファンドの資金配分及び回収等を審議している。

(ウ) ファンドに対する資金配分及び回収

GPIFが行う資金配分及び回収には、新規に寄託金を受けた際の資金配分、寄託金償還等への対応のための資金回収、基本ポートフォリオ維持のために行う異なる資産区分間での資金配分及び回収、運用受託機関構成の見直し又は総合評価に伴う同一資産区分内での資金配分及び回収等がある。

資金配分及び回収に係る具体的な基準については業務方針に定められており、配分の基準としては、総合評価が一定水準を満たす運用受託機関に資金を配分することとされている。また、一部回収・解約の基準としては、図表3-9のとおり、5区分が掲げられており、総合評価が一定水準に満たない場合は原則として当該運用受託機関に対して警告し、資金の一部回収を行い、総合評価が著しく低い場合は解約することができるなどとされている。なお、総合評価の結果に基づいて手数料率を見直すことは、原則として行われていない。

図表3-9 GPIFの業務方針における一部回収・解約の基準

区分 一部回収・解約の基準の概要
選定基準に合致しなくなった場合、解約する。
総合評価が一定水準に満たない場合、原則として当該運用受託機関に対して警告し、資金の一部回収を行う。総合評価が著しく低い場合は、解約することができる。
運用体制の変更等により、運用能力に問題が生じた場合、当該運用受託機関に対して警告し、資金の一部回収又は解約を行う。
運用ガイドライン違反の場合等には、当該運用受託機関に対して警告し、資金の一部回収又は解約を行う。
管理及び運用上必要がある場合は、資金の一部回収を行うものとし、又は解約することができる。

GPIFの29年度中のファンドの新規契約及び解約の状況についてみると、図表3-10のとおり、資産区分によって新規契約又は解約に係るファンド数が多い時期は異なっているが、主として、24年度の国内債券、25年度の国内株式及び外国株式、27年度の外国債券等、運用受託機関構成の大きな見直しが行われた年度にファンドの入替えが多い状況となっていた。

図表3-10 委託運用のファンドに係る新規採用及び解約の状況(平成24年度から29年度まで)

(単位:ファンド、百万円)
区分 平成24年度 25年度 26年度
新規採用 解約 新規採用 解約 新規採用 解約
国内債券 パッシブ運用 3
13,974,712
5
19,051,704
-
-
-
-
-
-
-
-
アクティブ運用 4
1,734,902
5
5,297,442
-
-
-
-
-
-
-
-
国内株式 パッシブ運用 -
-
1
1,384,213
5
351,856
1
2,044,503
-
-
-
-
アクティブ運用 -
-
1
317,417
11
1,454,231
15
2,950,264
3
389,448
-
-
外国債券 パッシブ運用 -
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
アクティブ運用 -
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
外国株式 パッシブ運用 -
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
アクティブ運用 7
111,973
3
373,260
6
1,085,925
8
1,182,247
1
283,410
1
8,041
オルタナティブ -
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
14
15,821,588
15
26,424,038
22
2,892,013
24
6,177,016
4
672,859
1
8,041
 
区分 27年度 28年度 29年度
新規採用 解約 新規採用 解約 新規採用 解約
国内債券 パッシブ運用 -
-
1
3,100,584
-
-
-
-
-
-
-
-
アクティブ運用 -
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
国内株式 パッシブ運用 -
-
-
-
2
3,260,618
1
4,077,919
4
1,537,914
-
-
アクティブ運用 -
-
-
-
-
-
3
2,941,327
-
-
-
-
外国債券 パッシブ運用 2
4,046,003
2
4,189,860
5
50,306
-
-
9
1,233,799
-
-
アクティブ運用 16
3,827,734
2
1,331,591
-
-
-
-
-
-
1
255,652
外国株式 パッシブ運用 -
-
-
-
-
-
-
-
4
104,300
-
-
アクティブ運用 -
-
1
35,909
-
-
2
404,173
-
-
1
107,828
オルタナティブ -
-
-
-
-
-
-
-
458,167 -
-
18
7,873,737
6
8,657,946
7
3,310,925
6
7,423,420
21
2,934,181
2
363,480
  • 注(1) 各年度の「新規採用」欄の上段は新規採用したファンド数、下段は新規採用したファンドに係る当該年度末の時価総額である。
  • 注(2) 各年度の「解約」欄の上段は解約したファンド数、下段は解約したファンドに係る前年度末の時価総額である。
  • 注(3) 平成28年度に計上されている国内株式のパッシブファンドの新規採用2ファンドはアクティブファンドとして取り扱っていたスマートベータファンドをパッシブファンドとして取り扱うこととしたものである。国内株式のアクティブファンドの解約3ファンドのうち2ファンドも同様である。なお、スマートベータとは、時価総額に基づいて銘柄の組入比率を定めているインデックス(市場全体を表す指標)ではなく、財務指標、株価の変動率等により組入比率を定めているインデックスを用い、中長期の視点でより効率的に超過収益の獲得やリスクの低減を目指す運用手法をいう。
  • 注(4) 新規採用ファンドには当該年度中に資金配分がされなかったため、年度末時点で運用資産がないものも含まれる。

委託運用のファンド数について、24年度から29年度までの推移をみると、図表3-11のとおり、全体では24年度末の75ファンドから29年度末の95ファンドに増加している。また、資産区分別の推移をみると、外国債券においてファンド数が大きく増加している。この理由について、GPIFは、27年度に行われた運用受託機関構成の見直しによって、米国、ユーロ等の地域別のファンドや新興国のファンド等、新規に採用されたファンド数が多かったなどのためであるとしている。

図表3-11 資産区分等別の委託運用のファンド数等の推移(平成24年度末から29年度末まで)

(単位:ファンド、百万円)
区分 平成24年度末 25年度末 26年度末 27年度末 28年度末 29年度末
国内債券 パッシブ運用 6
28,332,188
6
29,765,402
6
13,123,542
5
8,806,166
5
8,365,599
5
8,446,056
アクティブ運用 9
6,072,845
9
6,120,335
9
6,317,837
9
6,678,484
9
6,949,548
9
7,093,609
国内株式 パッシブ運用 6
13,831,634
10
18,277,443
10
27,462,882
10
24,928,379
11
31,870,398
15
36,807,595
アクティブ運用 18
3,725,814
14
2,564,019
17
4,207,548
17
5,652,267
14
3,300,139
14
3,890,737
外国債券 パッシブ運用 6
8,323,065
6
10,035,717
6
12,700,588
6
12,297,906
7
11,982,991
10
14,819,636
アクティブ運用 7
3,466,504
7
3,960,141
7
5,475,403
20
6,559,164
20
7,579,254
20
8,910,011
外国株式 パッシブ運用 6
12,903,229
6
17,634,502
6
26,483,149
6
26,145,807
6
30,193,882
8
33,372,807
アクティブ運用 17
1,971,960
15
2,096,105
15
3,592,461
14
4,889,812
12
4,727,569
11
5,265,199
オルタナティブ 3
58,167
75
78,627,242
73
90,453,666
76
99,363,414
87
95,957,989
84
104,969,384
95
118,663,821
  • 注(1) 各年度の上段はファンド数、下段は時価総額である。
  • 注(2) ファンド数には、新規採用されたが当該年度中に資金配分がされなかったため各年度末時点で運用資産がないファンドは含まない。

そして、29年度中の資金の追加配分及び一部回収の状況についてみると、図表3-12のとおり、国内債券に比べて他の資産区分への資金の配分が多い状況となっていた。

図表3-12 委託運用のファンドに係る資金の追加配分及び一部回収の状況(平成24年度から29年度まで)

(単位:ファンド、百万円)
区分 平成24年度 25年度 26年度
追加配分 一部回収 追加配分 一部回収 追加配分 一部回収
国内債券 パッシブ運用 3
3,172,000
4
1,838,400
3
1,260,000
-
-
-
-
3
6,033,700
アクティブ運用 9
326,000
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
国内株式 パッシブ運用 6
47,700
-
-
6
341,800
6
237,000
10
3,138,300
-
-
アクティブ運用 -
-
1
19,100
-
-
-
-
15
780,200
-
-
外国債券 パッシブ運用 3
26,700
-
-
6
554,600
6
126,000
6
1,392,000
-
-
アクティブ運用 2
11,000
-
-
-
-
-
-
6
899,000
-
-
外国株式 パッシブ運用 1
49,200
6
1,800,000
6
308,800
6
184,500
6
4,622,000
-
-
アクティブ運用 7
96,000
4
249,045
6
40,000
7
40,000
11
937,800
-
-
オルタナティブ -
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
31
3,728,600
15
3,906,545
27
2,505,200
25
587,500
54
11,769,300
3
6,033,700
 
区分 27年度 28年度 29年度
追加配分 一部回収 追加配分 一部回収 追加配分 一部回収
国内債券 パッシブ運用 -
-
3
220,000
-
-
-
-
-
-
-
-
アクティブ運用 -
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
国内株式 パッシブ運用 5
956,000
-
-
3
70,000
2
15,000
2
60,000
4
40,000
アクティブ運用 10
1,444,000
-
-
-
-
1
10,000
-
-
-
-
外国債券 パッシブ運用 5
57,000
-
-
4
241,100
-
-
7
2,330,185
-
-
アクティブ運用 19
1,300,000
1
15,000
12
1,077,751
-
-
12
1,150,442
-
-
外国株式 パッシブ運用 6
2,455,000
-
-
-
-
-
-
5
260,000
-
-
アクティブ運用 12
1,785,000
-
-
-
-
6
473,851
2
90,511
2
146,139
オルタナティブ -
-
-
-
-
-
-
-
3
64,600
2
4,800
57
7,997,000
4
235,000
19
1,388,851
9
498,851
31
3,955,739
8
190,940
  • 注(1) 委託運用のファンドのうち、異なる資産区分間で資金の追加配分及び一部回収が行われたものについて、追加配分額及び一部回収額を集計したものである。
  • 注(2) 各年度の「追加配分」欄の上段は追加配分が行われたファンド数、下段は当該ファンドに係る追加配分額である。
  • 注(3) 各年度の「一部回収」欄の上段は一部回収が行われたファンド数、下段は当該ファンドに係る一部回収額である。

GPIFは、業務方針に基づき、総合評価で一定の水準に達しなかったなどの運用受託機関に対して警告を行っており、当該運用受託機関に対して運用実績の改善のための方策の策定を求めたり、運用体制や運用実績を確認するためのミーティングを開催する頻度を増やしたりするなどしていた。そして、資金の回収を行う際には、警告を与えたファンドから一部を回収したり、警告を与えた後に運用実績の改善が図られないファンドについては解約したりするなどの対応を執っていた。

例えば、GPIFは、28年度に、89ファンドについて総合評価を実施しており、その結果、外国株式1ファンドについて解約していた。また、国内債券2ファンド、国内株式7ファンド、外国債券4ファンド、外国株式3ファンド、計16ファンドに対して警告を与えており、このうち、国内債券2ファンド、国内株式5ファンド、外国債券4ファンド、外国株式2ファンド、計13ファンドから資金の一部を回収することとしていた。

同様に、29年度に、90ファンドについて総合評価を実施しており、その結果、外国債券1ファンド、外国株式2ファンド、計3ファンドについて解約していた。また、国内株式2ファンド、外国債券4ファンド、外国株式5ファンド、計11ファンドに対して警告を与えており、このうち、国内株式1ファンド、外国株式3ファンド、計4ファンドから資金の一部を回収することとしていた。

なお、前記の25年度から29年度までの間に平均年率(最長5年)等で超過収益率を確保できなかった国内株式5ファンド、外国債券1ファンド、外国株式5ファンドの計11ファンド(図表3-3参照)のうち、契約終了を見込んでいたため、総合評価を実施していない外国株式1ファンドを除く計10ファンドについて、上記29年度の総合評価の結果をみると、国内株式2ファンド、外国債券1ファンド、外国株式2ファンド、計5ファンドに対して警告を与えていた。

運用受託機関の見直しは、新たな運用受託機関を選定して、評価等が劣る運用受託機関と入れ替えることにより、運用の効率性を向上・維持させる極めて重要な機会である。前記のとおり、委託運用における運用成績は、特にアクティブファンドを中心として、ファンドによって相当の差がある状況となっていることから、年金積立金のより効率的な運用を図るために適時適切に運用受託機関の評価を行って、運用受託機関の構成やファンドの資金配分が最適なものとなるよう運用受託機関の見直しを引き続き行うことが重要である。

また、会計検査院は、24年報告において、委託運用における各運用受託機関のアクティブ運用の運用実績について、23年度末時点で3期以上アクティブ運用の運用実績がある48ファンドについて分析を行ったところ、23年度までの平均年率(最長5年)で超過収益率を確保していないファンドは22ファンドとなっており、21年度から23年度までの3期全てにおいて超過収益率を確保していないファンドが4ファンドあったと記述している。そして、24年報告の所見において、「アクティブ運用については、市場を上回る運用実績を目指す手法であることから、直近3期全てにおいて超過収益率を確保していないファンド及び3期以上の平均において超過収益率(平均年率)を確保していないファンドについては、超過収益率が低迷していることについて、引き続き原因の分析に努めるとともに、総合評価を適切に行うことにより、継続の是非等について検討すること」と記述している。

そこで、上記に対するGPIFの対応状況を検査したところ、上記の22ファンドについて総合評価の結果に基づき継続の是非等の検討を行い、20ファンドについて解約していた。そして、残りの2ファンドのうち1ファンドについては、29年度の総合評価の結果、警告を与えて資金の一部を回収した上で、当該ファンドに係る改善計画が評価できるとして、また、他の1ファンドについては、上記の総合評価の結果が良好であるとして、それぞれ30年11月現在においても委託を継続している。

(エ) 総合評価の方法の変更

前記のとおり、GPIFは、29年10月以前は運用受託機関に係る総合評価を定性評価及び定量評価により行っていたが、29年11月以降の定性評価においては、従来の定量評価の指標となっていた超過収益率等を定性評価を行う際の参考指標として評価することとしている。GPIFは、この評価方法の見直しによる定量評価の位置付けの変化について、過去の運用実績を単純に評価することはやめ、運用戦略と整合がとれた運用プロセス、組織・人材等の定性評価に重点を置き、定量評価は定性評価の裏付けとして分析に活用することとしているため、定量評価に係る決まったウエイトはなくなったとしている。

GPIFは、上記総合評価の方法の変更について、将来の超過収益獲得可能性を高めるために実施したとしているが、変更したことによる影響等についてはまだ分析できていないとしている。

したがって、GPIFにおいて、運用受託機関の総合評価の方法を従来の定性評価及び定量評価から定性評価(評価項目の一部として定量評価を含む。)に変更した効果等について、その実績を踏まえて検証して、必要に応じて見直しを行うなどすることが重要である。

ウ 自家運用における各ファンドの運用状況

GPIFが自家運用しているファンドは、オルタナティブ投資分を除くと、図表3-13のとおり、29年度末において、国内債券のパッシブファンド3(時価総額25兆1536億余円)、国内債券のアクティブファンド1(同2兆9212億余円)、短期資産ファンド2(同8兆5919億余円)及び財投債ファンド1(同8963億余円)、計7ファンド(同37兆5631億余円)となっている。

図表3-13 GPIFの自家運用のファンドの状況(平成29年度)

(単位:百万円、%)
区分 ファンド名等 平成29年度末
時価総額
29年度
収益率
国内債券パッシブ運用 自家運用I(BPI総合型ファンド) 1,341,004 0.96
自家運用II(BPI国債型ファンド) 9,155,329 0.99
自家運用III(キャッシュアウト等対応ファンド) 14,657,273 0.27
小計 25,153,606
国内債券アクティブ運用 自家運用(物価連動国債ファンド) 2,921,230 1.44
短期資産 自家運用I(短期資産ファンド) 8,589,742 0.00
自家運用II(外貨建て短期資産ファンド) 2,244 △3.58
小計 8,591,987
財投債 自家運用(財投債ファンド) 896,367 1.82
37,563,192
  • 注(1) GPIFの平成29年度業務概況書等に基づき、会計検査院が作成した。
  • 注(2) 収益率は運用手数料控除前の数値であり、小数点第3位を四捨五入して表示している。
  • 注(3) BPI総合型ファンドは、国内債券市場全体を対象とする指標(NOMURA-BPI)から資産担保証券(ABS)を除いた指標をベンチマークとするパッシブファンドである。
  • 注(4) BPI国債型ファンドは、国内債券のうち日本国債を対象とする指標(NOMURA-BPI国債)をベンチマークとするパッシブファンドである。
  • 注(5) 時価総額(財投債は償却減価法による簿価に未収収益を含めたもの)は単位未満を切捨てで表示しているため、内訳と計が合わないものがある。
  • 注(6) 自家運用分の資産区分ごとの運用手法の割合の推移については、別図表7②参照

上記7ファンドのうち、委託運用しているファンドとベンチマークが同一の指標となっている国内債券パッシブ運用の自家運用I及びIIの運用実績について、業務概況書において公表された時間加重収益率を基に、25年度から29年度までの5年間の平均年率及び27年度から29年度までの3年間の平均年率を委託運用のファンドと比較すると、図表3-14のとおり、自家運用と委託運用との間で超過収益率に大きな差はない状況となっている。ただし、GPIFが開示している収益率は、自家運用分については証券貸付運用の収益を含めて算定されている一方、委託運用分については、証券貸付運用の収益を含まないことから、両者の運用実績を厳密に比較することは困難な状況となっている。

したがって、GPIFは、自家運用における収益の状況をより適切に評価するために、ベンチマークが同一の指標となっている自家運用及び委託運用によるファンドについて同一の条件に基づいて算出した収益率を示すなどして、自家運用によるファンドの収益について国民に丁寧に説明することが重要である。

図表3-14 BPI総合型及びBPI国債型ファンドの運用実績(平成29年度までの平均年率)

(単位:%)
ベンチマーク 運用受託機関名等 3年間の平均年率 5年間の平均年率
時間加重収益率
(A)
ベンチマーク収益率
(B)
超過収益率
(A)-(B)
時間加重収益率
(C)
ベンチマーク収益率
(D)
超過収益率
(C)-(D)
NOMURA-BPI「除くABS」
(BPI総合型ファンド)
自家運用I 1.74 1.68 0.06 1.89 1.86 0.03
委託運用 アセットマネジメントOne(旧みずほ信託) 2.03 2.02 0.01 1.82 1.83 △0.01
ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズ 2.04 2.02 0.02 1.83 1.83 0.00
三井住友信託銀行I 2.05 2.02 0.03 1.84 1.83 0.01
NOMURA-BPI国債
(BPI国債型ファンド)
自家運用II 1.87 1.84 0.03 1.86 1.84 0.02
委託運用 三井住友信託銀行II 1.86 1.84 0.02 1.85 1.84 0.01
三菱UFJ信託銀行 1.76 1.74 0.02 1.79 1.79 0.01
  • 注(1) GPIFの平成29年度業務概況書に基づき、会計検査院が作成した。
  • 注(2) 収益率は運用手数料控除前の数値であり、小数点第3位を四捨五入して表示している。
  • 注(3) BPI総合型ファンドは、国内債券市場全体を対象とする指標(NOMURA-BPI)から資産担保証券(ABS)を除いた指標をベンチマークとするパッシブファンドである。
  • 注(4) BPI国債型ファンドは、国内債券のうち日本国債を対象とする指標(NOMURA-BPI国債)をベンチマークとするパッシブファンドである。
  • 注(5) GPIFが開示している収益率は、自家運用分については証券貸付運用の収益を含めて算定されている一方、委託運用分については、証券貸付運用の収益は含んでいない。

また、会計検査院は、24年報告において、自家運用及び委託運用における国内債券のパッシブファンドの手数料率等について、「運用成績に大きな差が生じないパッシブ運用においては、自家運用の割合を大きくすることによって運用に要する費用の低減を図る方が経済的になると思料される」と記述している。そして、24年報告の所見において、「国内債券のパッシブ運用については、自家運用の割合を高めて経済的な運用を行うことについて、運用資産残高、自家運用に要する費用、運用受託機関に支払う手数料率の水準等を総合的に勘案して検討すること。また、その際に、運用受託機関に委託したり自家運用を行ったりする運用資産の規模が適切なものとなっているのかについて、1ファンド当たりの資産規模を大きくした場合の運用委託手数料の低減の可能性や運用資産の規模を大きくする際の懸念事項を考慮した上で、適時に検討すること」と記述している。

そこで、上記に対するGPIFの対応状況を検査したところ、パッシブ運用については、自家運用の固定経費の試算を行い、当該固定経費の有効活用、運用手数料の削減、資産の入替え等における機動性の向上等を目的として、24年度に9.0兆余円、26年度に11.1兆余円、27年度に4.6兆余円の計約24.8兆円を、運用受託機関への委託から自家運用に変更していて、29年度末の自家運用の額は23年度末の17.3兆余円から25.1兆余円に増加し、29年度の国内債券パッシブ運用の運用資産額における自家運用の割合は、23年度の36.4%から74.8%に上昇していた。

エ オルタナティブ投資の状況

前記のとおり、GPIFは、オルタナティブ投資を26年2月から自家運用により実施している。

オルタナティブ投資は、国内債券等のいわゆる伝統的資産に代わる代替的な資産を意味するオルタナティブ資産に投資を行うが、第3期中期計画に定められたGPIFの基本ポートフォリオにおいては、「オルタナティブ資産(インフラストラクチャー、プライベートエクイティ、不動産その他経営委員会の議を経て決定するもの)は、リスク・リターン特性に応じて国内債券、国内株式、外国債券及び外国株式に区分し、資産全体の5%を上限とする」と定められている。29年度末までに経営委員会の議を経たその他の投資対象はないため、GPIFではインフラストラクチャー、プライベートエクイティ及び不動産(注28)の三つがGPIFにおいて投資することが可能なオルタナティブ資産となっている。

GPIFは、オルタナティブ投資について、伝統的な資産と異なるリスク・リターン特性を有しており、市場の価格変動の影響を受けにくく、流動性を犠牲にすることによるより高い利回りの獲得や分散投資による効率性の向上が期待できるとしている。

(注28)
インフラストラクチャー、プライベートエクイティ及び不動産  GPIFは、インフラストラクチャー投資については上下水道、発電所、送電網、有料道路、空港、港湾等を、プライベートエクイティ投資については(主に非上場の)株式、社債、転換社債、貸付債権等を、不動産投資についてはオフィスビル、商業施設、物流施設、住宅等をそれぞれ投資対象としている。

GPIFが行うオルタナティブ投資には、次の三つの形態がある。

① 投資信託を通じた機関投資家との共同投資の形態(自家運用)

自家運用による投資信託を通じた機関投資家との共同投資の形態については、26年2月からカナダ・オンタリオ州公務員年金基金(OMERS)及び日本政策投資銀行(DBJ)と実施しているインフラストラクチャー投資に係るものと、27年6月から国際金融公社(IFC)及び日本政策投資銀行と実施しているプライベートエクイティ投資に係るものがある。これらのスキームを示すと、図表3-15のとおりであり、いずれもGPIFは投資信託受益証券の購入という形で投資を行っている。このうち、インフラストラクチャー投資についてはインフラ事業を行う企業への投資信託を通じた共同投資という形になるのに対して、プライベートエクイティ投資は、末端の未公開企業に直接投資を行うファンド及びそれらを束ねるファンド・オブ・ファンズ(注29)を経由する二階層多いスキームとなっている。

(注29)
ファンド・オブ・ファンズ  複数の個別ファンドへの投資を行うことを目的としたファンド

図表3-15 投資信託を通じた機関投資家との共同投資(自家運用)のスキーム

図表3-15 投資信託を通じた機関投資家との共同投資(自家運用)のスキーム 画像

② 投資一任契約方式によるファンド・オブ・ファンズ等への投資の形態(委託運用)

投資一任契約方式によるファンド・オブ・ファンズ等への投資の形態は、GPIFが29年度から公募により開始したものであり、GPIFが運用受託機関を選定して投資一任契約を締結し、当該運用受託機関が、個別のファンドへの投資を実施するファンド・オブ・ファンズ等へ投資するものとなっている。

③ 投資事業有限責任組合への出資の形態(自家運用)

29年9月に年金積立金管理運用独立行政法人法施行令の一部を改正する政令(平成29年政令第244号)が施行され、GPIFは、投資事業有限責任組合(リミテッドパートナーシップ。以下「LPS」という。)への出資という形で、オルタナティブ投資が実施できることとなった。この形態では、運用受託機関を設けず、GPIF自らが、投資対象となるファンドを選定し、それらのファンドを通じてインフラストラクチャー、プライベートエクイティ、不動産等への投資を行うこととなる。GPIFは、この形態について、海外の年金基金等の機関投資家においてもオルタナティブ投資の際の一般的手法として導入されているものであり、従前の自家運用の形態と比較して投資対象との間の介在者を減らして手数料等の費用の削減を図ることができるとしている。GPIFは、この手法による投資についてはまだ体制整備の途中段階にあるとして、29年度末時点では開始していない。

29年度末までのGPIFのオルタナティブ投資の実績をみると、図表3-16のとおり、29年度末において、自家運用2ファンド(時価総額計1548億余円)、委託運用3ファンド(同581億余円)、計5ファンドで時価総額は計2130億余円となっており、オルタナティブ投資に係る資産の年金積立金全体に占める割合は0.13%となっている。また、オルタナティブ投資が開始された25年度から29年度までの各年度末の時価総額の推移をみると、図表3-16のとおり、毎年度新たに資金を投じていることなどにより、時価総額は増加傾向となっている。

図表3-16 オルタナティブ投資に係る時価総額の推移(平成25年度末から29年度末まで)

(単位:百万円)
区分 運用受託機関名等 平成25年度末 26年度末 27年度末 28年度末 29年度末
オルタナティブ(インフラストラクチャー) 委託運用 ゲートキーパー:
 野村アセットマネジメント
ファンド・オブ・ファンズ・マネジャー:
 Pantheon
10,741
ゲートキーパー:
 三井住友アセットマネジメント
ファンド・オブ・ファンズ・マネジャー:
 StepStone Infrastructure & Real Assets
39,326
自家運用 投資信託の運用者:ニッセイアセットマネジメント 205 5,516 81,408 96,429 146,693
オルタナティブ(プライベートエクイティ) 自家運用 投資信託の運用者:ニッセイアセットマネジメント 1,936 4,221 8,198
オルタナティブ(不動産) 委託運用 三菱UFJ信託銀行 8,100
205 5,516 83,345 100,650 213,059

(注) 平成29年度末における年金積立金全体の金額は164兆1609億余円であり、オルタナティブ投資2130億余円の年金積立金全体に占める割合は0.13%(小数点第3位四捨五入)である。

また、オルタナティブ投資に係る収益の状況についてみると、GPIFは業務概況書において運用開始から1年以上が経過した投資対象について収益率を記載しているが、委託運用による3ファンドについては、29年度末において運用開始から1年未満であるため収益率等は記載していない。一方、自家運用による2ファンドについては、図表3-17のとおり、インフラストラクチャー投資、プライベートエクイティ投資ともに運用開始後は内部収益率(注30)がマイナスで推移しているが、前者は29年度に収益が生じている状況となっている。この点について、GPIFは、投資の開始前に運用受託者と各ファンドの終期まで運用した際に期待できる内部収益率の水準について合意し、当該目標水準が合理的かどうかを確認しているとしており、当該収益の水準と比較して、現在までのところおおむね想定した収益が得られているとしている。収益がマイナスとなった主な要因は、投資信託の設定費用、運営費用、為替評価損失等が大きかったためとしている。また、オルタナティブ投資については、通常先行して費用が発生し、当初数年は関連する費用の支払等によりマイナスの収益が続くが、その後に分配が始まって収益が改善するといういわゆるJカーブ効果があるとしている。

(注30)
内部収益率  投資期間におけるキャッシュフローの規模やタイミングの影響を織り込んで求めた収益率。GPIFはオルタナティブ投資に係る評価の基準の一つとして各ファンドの内部収益率を計測している。

図表3-17 オルタナティブ投資に係る収益の状況(平成25年度末から29年度末まで)

(単位:%、億円)
区分 運用受託機関名等 内部収益率等 平成
25年度末
26年度末 27年度末 28年度末 29年度末
オルタナティブ(インフラストラクチャー) 自家運用
(投資信託の運用者: ニッセイアセットマネジメント)
内部収益率 (円建て) △11.04 △26.76 △0.20 △3.48 1.68
(米ドル建て) 5.39
収益額 △0 △7 6 △53 99
オルタナティブ(プライベートエクイティ) 自家運用
(投資信託の運用者: ニッセイアセットマネジメント)
内部収益率 (円建て) △47.89 △14.31 △9.57
(米ドル建て) △5.85
収益額 △5 △2 △3
  • 注(1) 内部収益率は小数点第3位を四捨五入して表示している。
  • 注(2) 内部収益率は運用開始以来の計数である。
  • 注(3) 自家運用による2ファンドの主要運用通貨は米ドルであり、GPIFは、オルタナティブ投資の本格的な開始に伴い、投資結果をより分かりやすく表記するため、平成29年度業務概況書から、主要運用通貨建てでの内部収益率の計測及び公表を開始した。
  • 注(4) 収益額は各年度に係る計数である。

上記の自家運用による2ファンドは、GPIF法で自家運用の投資対象として当時認められていた投資信託へ投資する形で、それぞれ25年度、27年度から運用が開始されたものである。 28年7月25日の第39回社会保障審議会年金部会(注31)の資料によれば、投資信託を活用する仕組みは機関投資家によるオルタナティブ投資としては特殊な方法であり、投資信託からファンド・オブ・ファンズに投資する場合には、高額な手数料が生じているなどの課題があるとされている。また、GPIFは、手数料を低減すべく別のスキームへの移行を検討したものの、スキームの変更は共同投資家の同意を必要とするものであり、変更の打診をしたが賛同を得ることができなかったとしている。

(注31)
社会保障審議会年金部会  平成29年3月に資金運用部会が設置(後掲(4)イ(ア)参照)されるまでは、年金積立金の管理運用に関する事項は年金部会において審議されていた。

また、オルタナティブ投資に係る費用についてみると、図表3-18のとおり、25年度から29年度にかけて増加傾向となっていた。

図表3-18 オルタナティブ投資に係る費用の推移

(単位:千円)
平成25年度 26年度 27年度 28年度 29年度
1 95 2,354 9,510 17,266
  • 注(1) 平成25年度から28年度までは自家運用に係る管理手数料であり、29年度は自家運用及び委託運用に係る管理手数料である。管理手数料は自家運用分と委託運用分とを分離して算出できないとされていることから、両者を合算した額を示している。
  • 注(2) 委託運用は平成29年度に開始されたが、29年度においては運用手数料は発生していないとされている。

オルタナティブ投資に係る費用には、自家運用及び委託運用について資産管理機関に対して支払っている管理手数料と委託運用について運用受託機関に対して支払っている運用手数料がある。このうち、管理手数料について、GPIFは、自家運用分及び委託運用分に係る信託財産の合計額に対して管理手数料率を乗じて算出されることから、自家運用分と委託運用分を分離して算出することができないとしている。また、オルタナティブ投資に係る運用手数料について、GPIFは、委託運用を29年度から開始しており、29年度にはまだ運用手数料の支払が発生していないとしている。なお、自家運用によるオルタナティブ投資に係る投資信託の財産から支払われている運営費用等については、内部収益率に反映されているとしている。

GPIFは、分散投資を推進するためにオルタナティブ投資を今後も拡大させていく方針としており、現在選定中の海外不動産等に係る運用受託機関を通じた投資を実行に移すとともに、政令改正により可能となったLPS方式についても、リスク管理やオペレーションの体制整備を行い、投資の検討を進めていくとしている。

したがって、GPIFにおいて、オルタナティブ投資について、おおむね想定した収益が得られているとしているものの、一部のファンドで収益がマイナスで推移しているなどの状況を踏まえて、オルタナティブ投資における透明性を確保するために、その収益、費用等の具体的な計数を含む運用状況について国民により丁寧に説明することが重要である。

オ 管理運用に関する情報開示の状況

GPIFにおける年金積立金の管理運用に関する情報開示については、27年4月から32年3月までの5年間に係る第3期中期目標において、「年金積立金の管理及び運用の方針並びに運用結果、(中略)運用手法、管理運用委託手数料、運用受託機関等の選定過程・結果等について、年度の業務概況書等の公開資料をより一層分かりやすいように工夫するとともに、国民に対する情報公開(中略)の在り方を検討し、その充実を図ること」と記載されている。そして、これを受けて、GPIFの第3期中期計画において、「年金積立金の管理及び運用に関して、各年度の管理及び運用実績の状況(運用資産全体の状況、運用資産ごとの状況及び各運用受託機関等の状況並びに(中略)運用手法、管理運用委託手数料、運用受託機関等の選定過程・結果を含む。)等について、(中略)公開資料をより一層分かりやすいように工夫するとともに、運用の多様化、高度化や国際化に対応した国民に対する情報公開(中略)の在り方を検討し、その充実を図る」などと記載されている。

GPIFによる年金積立金の管理運用に関する情報を適切に開示することは、「専ら被保険者の利益のために、長期的な観点から、安全かつ効率的に管理運用業務を行う」こととされているGPIFが、その業務の透明性の向上を図るとともに、業務内容に係る説明責任を果たすために重要である。

そこで、GPIFが、業務概況書において公表している運用に係る費用、リスク等について検査したところ、次のとおりとなっていた。

(ア) 運用受託機関及び資産管理機関における運用に係る費用

GPIFは、業務概況書において管理運用手数料を開示しているが、その額は、図表1-19のとおり、24年度の222億余円から29年度には487億余円と増加傾向となっており、29年度の管理運用手数料は、運用資産額が増加したなどのため前年度比86億余円の増加となっている。また、運用資産額の月末平均残高に対する管理運用手数料の割合である管理運用手数料率も増加傾向にあり(図表1-20参照)、29年度の管理運用手数料率は0.031%となっている。

上記管理運用手数料の内容等についてみたところ、GPIFが開示している管理運用手数料は、GPIFが投資一任契約及び特定運用信託契約をそれぞれ締結している運用受託機関及び資産管理機関に対して直接支払っている手数料であり、資産管理機関が管理する信託財産から引き去られる費用を含まないものであった。資産管理機関が管理する信託財産から引き去られている費用にはカストディ費用、アクティビティ費用(注32)その他ファンドの管理運用に伴う費用(以下、これらの費用を「カストディ費用等」という。)があり、図表3-19のとおり、29年度のカストディ費用等は計81億余円であり、そのほとんどが外国債券及び外国株式に係るものとなっていた。このうち、カストディ費用は、資産管理機関が、グローバルカストディアンから各信託財産で生じたカストディ費用の請求を受けて、その請求金額の妥当性を検証した上で、各信託財産からの引落しにより支払うものである。

したがって、GPIFが29年度に運用受託機関及び資産管理機関に対して実質的に負担している費用は、業務概況書で開示している487億余円に、上記のカストディ費用等81億余円を合わせた計568億余円(運用資産額に対する費用の割合0.036%)となっていた。

(注32)
アクティビティ費用  先物取引に係る手数料

図表3-19 資産管理機関が管理する信託財産から引き去られるカストディ費用等の推移(平成24年度から29年度まで)

(単位:百万円)
区分 平成24年度 25年度 26年度 27年度 28年度 29年度
国内債券及び国内株式 818 74 165 238 312 108
外国債券及び外国株式 1,939 2,555 4,944 7,165 6,378 8,027
2,758 2,629 5,110 7,404 6,690 8,136

(注) 各年度のカストディ費用等の金額は、1年分の金額を合算したものである。

カストディ費用等の金額を業務概況書において開示していない理由について、GPIFは、前記のとおり、GPIFが直接契約している相手方に対して支払っている手数料については管理運用手数料として開示しているが、カストディ費用等はGPIFが直接契約して支払っているものではないため開示していないとしている。しかし、信託財産から引き去られるカストディ費用等についても開示することにより、管理運用に係る全ての費用が明らかになり、GPIFが行う年金積立金の管理運用に係る透明性の向上に資すると考えられる。

したがって、GPIFは、現在、業務概況書において、運用受託機関及び資産管理機関に支払った管理運用手数料に限定して開示している管理運用に係る費用について、資産管理機関が管理する信託財産から引き去られている費用も合わせて開示することが重要である。

また、年金積立金の管理運用に係る費用については、GPIFが開示している管理運用手数料等や上記のカストディ費用等のほかに、証券貸付運用に係る費用がある。証券貸付運用は、保有する証券を証券会社等の相手方に貸し出すとともに担保を受け入れ、一定期間経過後に同種同量の証券の返還を受け、担保を返却する消費貸借契約であり、GPIFは、保有する証券を有効活用することにより品貸料を収益として得ることができることから、資産管理機関に対して証券貸付運用を認めているとしている。

GPIFの証券貸付運用には、国内債券の自家運用のファンドについて、GPIFが直接、資産管理機関と契約を締結して実施しているものと、外国債券及び外国株式の委託運用のファンドについて、GPIFの許可を受けた上で、資産管理機関が提供するサービスの一環として実施しているものがある。

このうち外国債券及び外国株式の委託運用分については、GPIFは、資産管理機関との間で、特定運用信託契約書とは別に各種の手数料等を規定した覚書を締結するなどして、資産管理機関に対して証券貸付運用の実施を認めている。実施に当たっては、資産管理機関が、貸付代理人と貸付授権契約を結んで当該貸付代理人に証券貸付取引に係る事務を委託しており、証券貸付取引に係る貸付料を収益としてファンドに振り込む際に、あらかじめ定められた覚書に規定された手数料率に従って、貸付代理人に支払う手数料及び資産管理機関に支払われる管理手数料を控除している。

また、国内債券の自家運用分については、GPIFが資産管理機関と直接契約を締結して証券貸付運用を実施し、GPIFが資産管理機関に対して管理手数料を別途支払っている。

24年度から29年度までの証券貸付運用に係る費用等の推移をみると、図表3-20のとおり、増加傾向となっており、29年度の費用総額は61億余円となっている。

そして、GPIFは、これらの費用のうち、外国債券及び外国株式の委託運用分について、GPIFが直接契約を締結していないとして、業務概況書等において開示していなかった。また、国内債券の自家運用分について、業務概況書において、他の管理手数料に含めて開示しており、他の管理手数料と分離して開示していなかった。しかし、これらの費用についても開示することにより、GPIFが行う年金積立金の管理運用に係る透明性の向上が更に図られると考えられる。

したがって、管理運用に係る全ての費用を明らかにするために、証券貸付運用に係る費用のうち外国債券及び外国株式の委託運用分について、業務概況書等において開示するとともに、国内債券の自家運用分について、他の管理手数料と分離して開示することが重要である。

図表3-20 証券貸付運用に係る費用等の推移(平成24年度から29年度まで)

(単位:百万円)
区分 平成24年度 25年度 26年度 27年度 28年度 29年度
国内債券 管理手数料及び貸付代理人手数料 105 81 187 311 204 203
外国債券 管理手数料及び貸付代理人手数料 - - - - 767 3,496
外国株式 管理手数料及び貸付代理人手数料 - - 931 3,185 2,777 2,457
105 81 1,118 3,496 3,748 6,157
国内債券 品貸料(ファンド収益) 1,258 975 2,165 3,599 2,361 2,351
外国債券 品貸料(ファンド収益) - - - - 3,358 14,432
外国株式 品貸料(ファンド収益) - - 3,940 14,433 12,400 11,409
1,258 975 6,105 18,033 18,120 28,193
  • 注(1) 各資産区分において証券貸付運用を実施しているファンドが複数存在するため、計数は費用、収益共に該当するファンドに係る合算額である。
  • 注(2) 国内株式については、証券貸付運用は実施されていない。
  • 注(3) 国内債券の「管理手数料及び貸付代理人手数料」については、GPIFが資産管理機関に対して直接支払っている。
  • 注(4) 外国債券及び外国株式の「管理手数料及び貸付代理人手数料」については、品貸料を収益としてファンドに振り込む際に資産管理機関が控除しており、「品貸料(ファンド収益)」は当該費用控除後の額である。

さらに、オルタナティブ投資に係る費用(図表3-18参照)のうち、管理手数料について、GPIFは、業務概況書において他の管理手数料と分離して開示していなかった。この点について、GPIFは、資産別ではなく支払先別に管理手数料を集計して開示していることから、オルタナティブ投資に係る管理手数料について、オルタナティブ投資に係る資産管理機関が他に管理している外国債券等に係る管理手数料と合わせて開示していたとしている。

また、前記のとおり、オルタナティブ投資に係る運用手数料について、GPIFは、委託運用を29年度から開始しており、29年度にはまだ運用手数料の支払が発生していないことから、業務概況書等において開示していないとしている。

しかし、前記のとおり、GPIFは、オルタナティブ投資について、運用の効率性の向上等の効果が期待できるとし、分散投資を推進するために今後も拡大させていく方針としていることから、オルタナティブ投資に係る費用を明らかにすることは、GPIFが行う年金積立金の管理運用に係る透明性の向上に資すると考えられる。

したがって、オルタナティブ投資に係る費用を明らかにするために、業務概況書等において、資産管理機関に対する管理手数料について他の管理手数料と分離して開示することを検討すること、また、運用受託機関に対する運用手数料について、支払が発生した場合には、他の運用手数料と分離して開示することが重要である。

(イ) 運用リスク情報

GPIFは、中期計画において、実質的な運用利回りを最低限のリスクで確保することとしており、運用資産のリスク保有状況について可視化し、注意深くモニタリングすることが重要であるとしている。そして、GPIFは、リスクをモニタリングするために、「バリュー・アット・リスク」(以下「VaR(注33)」という。)及び「コンディショナル・バリュー・アット・リスク」(以下「cVaR(注34)」という。)を計測したり、中長期のリスク管理に資する過去の事象及び仮想シナリオに基づくストレステスト(注35)を実施したりしている。また、前記のとおり、26年10月の基本ポートフォリオの変更により、国内株式と外国株式を合わせた構成割合が24%から50%に増加するなどしており、当該基本ポートフォリオのリスクが増加していることから、リスクのモニタリングの重要性は一層増しているものと考えられる。

(注33)
VaR  現在保有している資産を、将来のある一定期間保有すると仮定した場合に、ある一定の確率で、発生し得る最大損失を表したもの。例えば、95%の確率で発生し得る事象の中で損失額が最大のものを95%VaRという。
(注34)
cVaR  現在保有している資産を、将来のある一定期間保有すると仮定した場合に、VaRで想定する確率の範囲外で発生し得る損失額を平均したもの。例えば、95%VaRの場合、残りの5%で発生し得る平均損失額
(注35)
ストレステスト  市場の状況が悪化したなどの際に運用資産にどの程度の損失が生ずる可能性があるかなどについてシミュレーションを行うリスク管理手法

GPIFは、27年度の業務概況書に、リスク指標として、VaR及びcVaRの18年度から27年度までの間の各年度の平均値を初めて記載しているが、28年度の業務概況書では記載していない。VaRは、一定期間においてある確率で発生し得る最大損失額を表すリスク指標で、金融機関のリスク管理において標準的に利用されており、VaRやcVaRを測定することにより、現に運用している資産が市場リスクにさらされている程度や、どの程度の損失がどの程度の確率で発生し得るのかを簡潔に把握することができる。例えば、年金積立金のVaRが保有期間1年、信頼水準95%で15%ということは、1年間の運用による運用資産の損失割合が95%の確率で15%未満となることを意味している。

なお、GPIFは、長期投資家の視点からは、VaR等で計測される瞬間的な損失額より、その後どの程度回復するのかなどの方が重要であるとしている。

27年度の業務概況書にVaR及びcVaRを記載している一方で、28年度の業務概況書に記載していない理由について、GPIFは、27年度の業務概況書には、法人設立10年の節目であったことから過去10年間のVaR及びcVaRの実績を掲載したが、28年度の業務概況書には、29年度から新規のリスク管理システムへの切替えを計画しており、同システムによるVaR等の値が従来のシステムと計算の前提等が異なるため、計数の連続性を保てないことから記述しないことにしたとしている。

GPIFが27年度の業務概況書で公表していたVaR及びcVaRは、各資産区分の日次ベンチマークを基データとして、保有期間1年、観測期間13年1月以降、信頼水準95%という前提(観測期間には20年のリーマンショック以降の金融危機等が含まれている。)で、オルタナティブ資産を除く伝統的資産を対象に算出されたものである。当該業務概況書で公表された18年度から27年度までのVaR及びcVaRの計数並びに会計実地検査で提出を受けた28、29両年度の数値(29年度は参考値)をみると、図表3-21のとおりとなっており、24年度以降増加傾向となっていた。この理由について、GPIFは、26年10月の基本ポートフォリオの変更に伴い、主に価格変動の度合いの高い株式保有の割合が増加したことによるものであるとしている。

図表3-21 VaR及びcVaRの推移(平成18年度から29年度まで)

(単位:兆円)
区分
平成
18年度
19年度 20年度 21年度 22年度 23年度 24年度 25年度 26年度 27年度 28年度 29年度
(参考)
VaR 10.23 11.04 13.18 11.85 9.99 10.11 9.39 13.04 17.14 19.39 23.01 16.71
cVaR 12.77 13.78 16.46 14.80 12.48 12.63 11.72 16.28 21.40 24.21 28.73 20.87
  • 注(1) 保有期間1年、観測期間平成13年1月以降、信頼水準95%という前提で算出されている。
  • 注(2) 平成13年1月以降の各資産の日次ベンチマークデータに基づいて、各月末ごとに算出したVaR及びcVaR(%)をそれぞれ単純平均し、年度末の時価を乗じて算出した計数である。
  • 注(3) 平成26年10月以降は、年金特別会計の残高を含む実績構成比により算出されている。
  • 注(4) 参考として示した平成29年度の計数は、29年4月から7月までの計数を基に算出されている。

GPIFは、30年7月に公表した29年度の業務概況書において、29年度の各月のVaRの推移を記載している。これらのVaRの値は、新規のリスク管理システムを使用して、国内債券等のいわゆる伝統的資産にオルタナティブ投資を加えたGPIFの運用資産全体を対象として算出されたものである。その算出過程を確認したところ、27年度の業務概況書に記載されたものとは異なり、GPIFが実際に保有している資産のデータを基に、保有期間1年、観測期間2年、信頼水準84%という前提で算出されており、リスク量は損失額ではなく資産額に対する割合(単位:%)で表現されている。

この各月のVaRの値(%)と運用資産残高を用いて、各月のVaRの金額を算出したところ、図表3-22のとおり、29年度中を通じて減少傾向となっていた。この点について、GPIFは、市場の価格変動の度合いが低い環境が継続したためであるとしている。

図表3-22 平成29年度中のVaR等の推移(新しいリスク管理システムによる値)

区分 平成29.4 29.5 29.6 29.7 29.8 29.9 29.10 29.11 29.12 30.1 30.2 30.3
VaR
(%)
9.82 9.42 9.08 8.46 7.84 7.89 7.64 7.55 7.39 7.03 7.66 7.55
資産残高
(兆円)
146.3 147.8 149.2 153.0 153.4 156.9 160.2 160.9 162.7 163.7 157.9 156.4
VaR
(兆円)
14.3 13.9 13.5 12.9 12.0 12.3 12.2 12.1 12.0 11.5 12.0 11.8
  • 注(1) 「VaR(%)」は平成29年度業務概況書の折れ線グラフの基となった数値であり、保有期間1年、観測期間2年、信頼水準84%という前提で算出されている。したがって、図表の計数は84%VaRの推移を示しており、例えば84%VaRが10%ということは、1年間の運用による運用資産の最大の損失割合が84%の確率で10%未満となることを意味している。
  • 注(2) 「資産残高(兆円)」は各月におけるGPIFの運用資産の時価総額の平均値であり、小数点第2位以下を切り捨てて表示している。
  • 注(3) 「VaR(兆円)」は「VaR(%)」を金額で表したものであり、「VaR(%)」に資産残高を乗じて算出した計数を小数点第2位以下を切り捨てて表示している。

また、GPIFは、第3回経営委員会(29年11月)において、前記29年度の業務概況書に記載されたVaRの値が減少傾向にあるのは、直近のデータを使用して計算しているためではないかとの意見があったことなどを踏まえて、観測期間を5年とし、信頼水準を95%としたVaRの値についても算出してモニタリングしている。当該VaR等の推移をみると、図表3-23のとおり、29年度中を通じて増加傾向となっていた。

図表3-23 平成29年度中のVaR等の推移(観測期間を5年間としたもの)

区分 平成29.4 29.5 29.6 29.7 29.8 29.9 29.10 29.11 29.12 30.1 30.2 30.3
VaR
(%)
17.15 17.16 17.32 17.10 17.08 17.24 17.53 17.80 17.99 18.24 18.62 18.28
資産残高
(兆円)
146.3 147.8 149.2 153.0 153.4 156.9 160.2 160.9 162.7 163.7 157.9 156.4
VaR
(兆円)
25.0 25.3 25.8 26.1 26.2 27.0 28.0 28.6 29.2 29.8 29.4 28.6
  • 注(1) 「VaR(%)」は、保有期間1年、観測期間5年、信頼水準95%を前提として、正規分布を仮定せず、過去の市場変動をそのまま参照した分布の下で、保有資産の最大損失を求めるヒストリカル法により算出されたものである。
  • 注(2) 「資産残高(兆円)」は各月におけるGPIFの運用資産の時価総額の平均値であり、小数点第2位以下を切り捨てて表示している。
  • 注(3) 「VaR(兆円)」は「VaR(%)」を金額で表したものであり、「VaR(%)」に資産残高を乗じて算出した計数を小数点第2位以下を切り捨てて表示している。

基本ポートフォリオの変更により株式の占める割合が増加していることなどから、基本ポートフォリオの期待収益率のばらつき具合であるリスク(標準偏差)が大きくなるなどしており、GPIFは、収益が減少するリスクについて国民に対して丁寧に説明を行っていく必要がある。VaR等は金融機関等ではよく知られたリスク指標であり、GPIFは、28年度の業務概況書において、運用資産のリスク保有状況についてVaR等を利用して可視化して、注意深くモニタリングすることが重要であるとしている。したがって、今後は、29年度の業務概況書に記載されている保有期間1年のVaRに加えて、ストレステストの結果等中長期のリスクについて業務概況書に継続して記載することが重要である。

また、GPIFは、価格変動等によりある資産区分の構成割合が基本ポートフォリオのかい離許容幅に抵触した場合、現行のルールでは、かい離許容幅の内側に戻す方向で資産の入替えを行う必要があるとしていることから、VaR等の記載に合わせて、長期投資家の視点からVaR等で示される短期的な損失の可能性に対してどのような対応を執ることとしているのかについて、過去の事象等によるストレステストや株価の変化に伴う損益シミュレーション等の結果を踏まえるなどして国民に丁寧に説明することが重要である。

(ウ) 資金運用事業等の損失

会計検査院は、24年報告において、年金福祉事業団が資金運用部資金から資金を借り入れ、借入金利を上回る有利な運用を図ることを目的として、資金運用をしていた事業等(以下「資金運用事業等」という。)について、「旧資金運用部からの長期借入金を全て償還した22年度末で2兆9907億円の損失となっており、GPIFは、この損失を、GPIF法等に基づき運用収益を原資とする利益剰余金、すなわち年金積立金を減額して処理している」と記述している。そして、24年報告の所見において、「資金運用事業等の損失については、その負債を年金積立金で処理することとなったこと及びこのような事態となった理由について、被保険者等に対して平易かつ明確に説明を行うことについて検討するとともに、資金運用事業の実施に当たり損失の増大を抑制するための仕組みが作られていなかったことなどを重く受け止め、今後同様な事態が発生することのないように努めること」と記述している。

そこで、上記に対する厚生労働省及びGPIFの対応状況を検査したところ、厚生労働省は、23年度以降の年金積立金運用報告書において、GPIFは業務概況書において、資金運用事業等の損失について、それぞれ説明を行っていた。また、厚生労働省は、支払利息により恒常的に損失が生ずることがないようにするなど、年金積立金の適切な管理運用に努めていくこととしていた。なお、厚生労働省は、現在は借入金による運用を行っていないことから、支払利息による損失が生ずることはないとしている。

(4) GPIFにおけるガバナンスの状況等

会計検査院は、24年報告において、GPIFの組織体制及び役職員の任命等の状況及びガバナンスの仕組みについて記述している。前記のとおり、28年改正法が施行されるなどして、ガバナンスを強化するための組織改編等が実施されてきていることから、今回、24年報告のフォローアップと合わせて、組織改編後のガバナンスの状況等について検査を実施した。

ガバナンス体制の見直し、組織改編等の状況は、次のとおりである。

ア ガバナンス体制の見直しの状況

従来、GPIFでは、通則法に基づき、GPIFの理事長が法人の長としてその業務を総理し、法人の全ての意思決定に責任を持つことになっていた。そして、理事長の下には、29年9月末まで、外部の有識者から構成される運用委員会が設置されていた。GPIF法等によれば、運用委員会は、基本ポートフォリオを含む中期計画の作成や変更等に当たりその内容等を審議するとともに、管理運用業務に関する重要事項について理事長の諮問に応じて意見を述べ、又は必要と認める事項について理事長に建議することができることとされていた。また、運用委員会は、執行部における年金積立金の運用状況その他の管理運用業務の実施状況を監視することとされていた。

しかし、運用委員会では専門的な見地から議論は行われているものの理事長の諮問機関であったことなどから、厚生労働省及びGPIFは、運用委員会の責任と権限の制度的位置付けなど、GPIFのガバナンスの在り方について有識者等による議論を行うなど検討を重ねてきた。そして、「独立行政法人改革等に関する基本的な方針」(平成25年12月閣議決定)において、「運用委員会について(中略)資金運用の重要な方針等について実質的に決定できる体制を整備する。」とされたことを受けて、GPIFは、26年の基本ポートフォリオの変更と並行して、26年8月に内規を改正するなどして、基本ポートフォリオを含む中期計画の作成又は変更等については、理事長による決定の前提として、運用委員会に対して事前に案を諮り、議決による承認を得なければならないこととした。そして、26年6月の財政検証の結果を踏まえた基本ポートフォリオの変更の検討に当たっては、運用委員会において7回審議を行った上で、7回目の審議を行った同年10月23日の第86回運用委員会において承認の議決を行っている。運用委員会の事前承認の仕組みは理事長による決定を前提としたものではあるが、運用委員会の役割を実質的に重くするものであった。

また、同回の運用委員会において、運用委員会は、基本ポートフォリオ策定後のガバナンス体制の強化について理事長に対して建議している。GPIFは、この建議を受けて、コンプライアンス・オフィサーを任命したり、管理運用業務に係る投資決定を統括する者としてCIO(最高投資責任者)を設置したりするなどしてガバナンス体制の見直しを行った(図表4-1参照)。

図表4-1 ガバナンス体制の見直しに関するGPIFの主な取組

年月 取組状況
平成26年8月 基本ポートフォリオのような資金運用の重要な方針等については、理事長による決定の前提として、運用委員会の議決による事前承認を必要とする仕組みを導入
26年10月 運用委員会の下にガバナンス会議を設置して、GPIFの「投資原則」、「行動規範」の策定及びその遵守状況の監視を行うこととした。
コンプライアンス・オフィサーを任命し、役職員のコンプライアンス遵守状況を監視する体制を整備
27年1月 運用に係る専門人材を理事として任命するとともに、管理運用業務に係る投資決定を統括する者としてCIOを設置して、当該理事に兼務させるとともに、投資決定を適切に行うために、CIOを委員長とし、理事長及び理事長が指名する者を委員とする投資委員会を設置

イ 28年改正法による組織改編の状況

(ア) 組織改編の概要

前記のとおり、GPIFにおける資金運用の重要な方針等については運用委員会の事前承認の仕組みが導入されたが、法律上は、理事長に意思決定権限が集約された独任制であり、運用委員会は理事長の諮問機関であった。

そして、年金積立金の運用の実施に当たってはGPIFが真の受託者責任を果たし得る体制を構築する必要があることなどを踏まえて、「日本再興戦略改訂2014」(平成26年6月閣議決定)において、GPIFのガバナンス体制の強化について「法改正の必要性も含めた検討を行うなど必要な施策の取組を加速すべく所要の対応を行う」こととされた。これを受けて、26年のガバナンス体制の見直しと並行して、厚生労働大臣の諮問に応じて社会保障に関する重要事項を調査審議するなどする社会保障審議会において議論するなどして更なるガバナンス体制の強化に関する検討が進められた。

その結果、28年改正法が29年10月に施行され、運用委員会に代わって経営委員会が設置されて、基本ポートフォリオを含む中期計画の作成又は変更等の重要事項等の意思決定を行うこととされた。これにより、GPIFのガバナンス体制は、理事長による独任制から経営委員会による合議制へと転換が図られた。また、経営委員会は、執行部の監督を行うこととされ、意思決定及び監督と執行が分離されることになった。そして、これと同時に、監事に代わって、常勤の委員を含む監査委員会を設置して、経営委員会とは独立した立場、権限により経営委員会及び執行部の監査・監視を行うこととした。

また、GPIFは、GPIF法により年金積立金の管理運用に関して受託者責任を負うが、運用の最終責任は厚生労働大臣にある。そこで、28年改正法の施行により、厚生労働大臣は、GPIFの中期目標の策定、基本ポートフォリオを含む中期計画の認可等を行おうとするときは、社会保障審議会に諮問しなければならないこととされた。また、28年改正法の施行に先立ち、29年3月に、社会保障審議会に年金積立金の管理運用について審議する専門の部会として資金運用部会が設置されて、年金積立金の管理運用における重要事項について審議することとされた。このように、中期計画の認可等の厚生労働大臣の意思決定に当たっても有識者等の審議を経ることとされて、厚生労働大臣においてもガバナンス体制を強化する仕組みが整備された(図表4-2参照)。

図表4-2 組織改編の概要

図表4-2 組織改編の概要 画像

(イ) 運用委員会と経営委員会の比較

前記のとおり、経営委員会は従前の運用委員会とは異なり、基本ポートフォリオを含む中期計画の作成又は変更等の重要事項等について自ら意思決定を行うこととなった。これに伴い、理事長は、経営委員会の定めるところに従ってGPIFの業務を総理することとされた。そして、経営委員会の議事は、委員長が出席し、経営委員会の委員長及び委員並びに理事長の総数の3分の2以上が出席している場合において、過半数をもって決し、可否同数のときは委員長が決することとされている。また、運用委員会の権限は管理運用業務に限定されていたが、経営委員会は、意思決定及び監督と執行の分離等を目的として設置されていることから、組織に関する重要事項等についても意思決定を行うこととされている。経営委員会の議決事項について、運用委員会当時の審議等の状況と対比して示すと図表4-3のとおりである。

図表4-3 経営委員会の議決事項と運用委員会における審議等の状況との比較

経営委員会の議決事項 【平成29年9月以前】
運用委員会における審議等の状況
1)業務方法書 審議、事前承認(事前承認は26年8月以降)
2)中期計画及び年度計画 審議、中期計画については事前承認
(事前承認は26年8月以降)
3)各年度の業務実績報告書 審議
4)財務諸表・事業報告書等 審議
5)会計規程 関与しない
6)役職員に対する報酬支給基準 関与しない
7)制裁規程 審議
8)業務概況書 審議
9)監査委員会の職務の執行のため必要な体制等 (監査委員会の設置は29年10月)
(10)内部統制体制 審議
(11)組織・定員に関する重要事項 審議
(12)モデルポートフォリオ・管理運用の方針 審議
(13)経営委員会規則、議事録作成・公表要領 審議(運用委員会規則)
(14)監査委員会による監視に関する事項 (監査委員会の設置は29年10月)
(15)理事(管理運用業務担当)の任命・解任の同意 関与しない
(16)理事(管理運用業務担当理事を除く。)の任命・解任の同意
関与しない
(17)理事長の欠格事由の認定 関与しない
(18)理事の欠格事由の認定 関与しない
(19)「経営委員会規則」別表に定める事項
○ 投資原則・行動規範

○ 役職員の職務に係る倫理及び規律の保持に関する事項
○ 委員長又は特定の委員若しくは理事長と金融事業者との関係性から、審議の中立性・公正性に疑念を生じさせるおそれがある場合の必要な措置
審議
(20)年度計画(予算)議決前の調達手続 関与しない
(21)総合評価に係る議決事項 審議
(22)「次期基本ポートフォリオ検討作業班(PT)」の設置について(案)
審議
(23)バンクローンの運用開始 (新規事項)
(24)インハウスのデリバティブ取引 (新規事項)
(25)オルタナティブ投資に係るLPSスキームの取組 (新規事項)
(26)国内債券の評価ベンチマークの変更 審議
(27)現行規程の点検プロジェクトの実行 (新規事項)
(28)基本ポートフォリオの定期検証 審議

また、従前の運用委員会は、厚生労働大臣が任命した委員11人以内で構成することとされており、委員は、GPIF法により、経済又は金融に関して高い識見を有する者その他の学識経験を有する者とされていたが、任命基準等については、特段設けられていなかった。また、年金積立金の管理運用に関しては、その原資である保険料の拠出者である労使の意思が働くガバナンス体制が求められることから、委員には労使団体の推薦者各1名を含めることにしていた。一方、経営委員会は、厚生労働大臣が任命した委員長及び委員8人並びに理事長で構成することとされており、委員長及び委員は、GPIF法により、経済、金融、資産運用、経営管理その他管理運用業務に関連する学識経験又は実務経験を有する者とされている。さらに、経営委員会の委員長及び委員の任命について、社会保障審議会の議論を踏まえて任命基準を定めている。当該任命基準において、厚生労働大臣は、GPIFの業務や組織に係る決定及び監督が適切になされるよう、各専門分野のバランスに配慮しつつ、委員長及び委員を任命することとされている。そして、経営委員会の構成は、おおむね次のとおりとすることとされている。

  • a 経済、金融その他管理運用法人の業務(資産運用及び経営管理を除く。)に関する学識経験又は実務経験を有する者 3人以上5人以内
  • b 資産運用の学識経験又は実務経験を有する者 2人以上3人以内
  • c 経営管理の学識経験者又は実務経験を有する者(弁護士、公認会計士、企業における実務経験者等) 2人以上3人以内

また、GPIF法において、厚生労働大臣が経営委員会の委員長及び委員を任命するに当たっては、厚生年金保険及び国民年金の被保険者の利益を代表する者並びに事業主の利益を代表する者各1名を任命することが明記されている。そして、厚生労働大臣は、29年10月1日付けで委員長1人及び委員8人を任命しており、委員8人のうち2人については、運用委員会からの継続となっている。また、委員長1人及び委員8人のうち監査委員を兼務している常勤の委員1人を除いた8人は非常勤となっている。

そして、委員等の義務、責任については、運用委員会の委員は、自主的に定めた行動規範等はあったものの、法令上は一般的な注意義務や守秘義務を負うとされていたのみであった。これに対し、経営委員会の委員長及び委員は、GPIF法等において、法人の役員として、慎重な専門家の注意義務、忠実義務、守秘義務等を負い、これらに違反し、法人に損害が生じた場合には賠償責任を負うこととされるなど、権限の強化とともに受託者責任や各種義務を負うこととされている(図表4-4参照)。

図表4-4 役割や組織構成等に関する経営委員会と運用委員会との比較

区分 経営委員会 運用委員会
委員会の役割
①以下の事項の議決
  • 業務方法書の変更
  • 中期計画及び年度計画の作成又は変更
  • 業務実績報告書の作成
  • 財務諸表並びに事業報告書及び決算報告書の作成、利益及び損失の処理その他の会計に関する重要事項
  • 会計規程の変更
②役員の職務の執行の監督
※②のうち管理運用業務の実施状況の監視は監査委員会で実施
①業務方法書の作成又は変更、中期計画の作成又は変更について審議及び事前承認(事前承認は平成26年8月以降)
②年金積立金の運用状況その他管理運用業務の実施状況を監視
③管理運用業務に関し、理事長の諮問に応じて重要事項について意見を述べ、又は必要と認める事項について理事長に建議
委員会の構成 委員長+委員8人以内(うち3人は監査委員を兼務)+理事長 委員11人以内
委員等の任命
  • 厚生労働大臣による任命
  • 社会保障審議会の議論を踏まえて作成する任命基準に基づき、経済、金融、資産運用、経営管理その他のGPIFの業務に関連する分野に関する学識経験又は実務経験を有する者を任命
※被保険者、事業主の利益を代表する者各1名を、関係団体の推薦に基づき任命
※監査委員である委員は、ほかの委員と区別して任命
厚生労働大臣が、経済又は金融に関して高い識見を有する者その他の学識経験を有する者のうちから任命
※被保険者の利益を代表する者、事業主の利益を代表する者各1名を、関係団体の推薦に基づき任命(法令上の規定なし)
委員等の任期 5年間 2年間
委員等の義務・責任 GPIFの役員として、
  • 受託者責任(慎重な専門家の注意義務、忠実義務)や各種義務(守秘義務、禁止行為等)を負い、
  • これらの義務に違反し、法人に損害が生じた場合には賠償責任を負う。
※第2回経営委員会(29年10月2日)において行動規範の変更について議決
一般的な注意義務や守秘義務を負う。
※自主的に定めた行動規範等あり

(注) 第1回社会保障審議会資金運用部会(平成29年4月21日開催)資料5「公的年金制度の持続可能性の向上を図るための国民年金法等の一部を改正する法律(GPIF改革関連)について」に基づき、会計検査院が作成した。

(ウ) 経営委員会の開催状況

経営委員会は、29年10月の設置以降、31年3月末までの間に20回開催され、従前の運用委員会では事前承認の上、理事長が決定することとされていた中期計画の変更及び業務方法書の変更や、従前の運用委員会では審議等を実施していたものの意思決定は飽くまでも理事長の専権事項であった管理運用の方針の変更、年度計画の変更等について意思決定を行っている(図表4-5参照)。また、従前の運用委員会が関与しなかった理事の任命に関する同意等の事項についても意思決定を行ったり、四半期ごとに監査委員会から報告を受けるなどして執行部の監督を行ったりしている。

図表4-5 経営委員会における主な議決事項

回号 開催日 主な議決事項
第1回 平成29年10月1日
  • 理事(管理運用業務担当)及び理事(管理運用業務担当理事を除く。)任命に関する同意について
第2回 29年10月2日
  • 業務方法書の変更について
  • 中期計画の変更について
  • 管理運用の方針の変更について
第6回 30年2月19日
  • オルタナティブ投資に係るLPSスキームの取組
第8回 30年3月30日
  • 平成30年度計画(案)について
第9回 30年4月26日
  • 基本ポートフォリオの定期検証について
第12回 30年6月28日
  • 平成29年度業務概況書(案)
  • 注(1) 経営委員会議事次第に基づき、会計検査院が作成した。
  • 注(2) 経営委員会の開催状況については、別図表8参照
(エ) 監査委員会

29年9月以前は、厚生労働大臣により任命された監事が執行部等の監査(監事監査)を行うとともに、運用委員会が執行部における年金積立金の運用状況その他の管理運用業務の実施状況の監視を行うこととされていた。その後、前記のとおり、同年10月に監査委員会が設置されて、経営委員会及び執行部の監査・監視を行うこととされた。監査委員会は常勤の監査委員1人と非常勤の監査委員2人により構成され、経営委員会及び委員の職務の執行状況、GPIFが中期目標等に基づき実施する業務全般、理事長の意思決定における忠実義務等の履行状況等についての業務監査、財務諸表等についての会計監査等を実施している(図表4-6参照)。

監査委員会は、29年10月に同年9月までの監事による監査結果の引継ぎを受けた上で、経営委員会及び執行部を対象として監査を行い、その方法及び結果を記載した29年度の「監査報告」を作成して、30年6月28日の第12回経営委員会において報告している。

図表4-6 監事監査と監査委員会監査との比較

区分 平成28年度監事監査 29年度監査委員会監査
実施体制 3人
(常勤監事、非常勤監事、監事付)
3人
(常勤監事、非常勤監事、監事付)
監査項目
(1) 年金積立金の管理運用業務と内部統 制システムに関する監査(業務監査)
①GPIFが中期目標及び中期計画並びに年度計画等に基づき実施する業務全般
②理事長の意思決定の状況(忠実義務等の履行状況)
③内部統制システムの構築・運用状況
(1) 年金積立金の管理運用業務と内部統 制システムに関する監査(業務監査)
①経営委員会及び経営委員の職務の執行の状況
②GPIFが中期目標及び中期計画並びに年度計画等に基づき実施する業務全般
③理事長の意思決定の状況(忠実義務等の履行状況)
④内部統制システムの構築・運用状況
(2) 決算監査(会計監査)
①財務諸表等の作成が、関係法令、独立行政法人会計基準等の関係諸規定に基づき適正に行われているか。
②財務諸表等に関する会計監査人の監査方法及び結果が相当であるか及び会計監査人の職務遂行が適正に行われるための体制が相当であるか。
(2) 決算監査(会計監査)
①財務諸表等の作成が、関係法令、独立行政法人会計基準等の関係諸規定に基づき適正に行われているか。
②財務諸表等に関する会計監査人の監査方法及び結果が相当であるか及び会計監査人の職務遂行が適正に行われるための体制が相当であるか。
(3)「独立行政法人整理合理化計画」等で定められた事項の監査(重点事項の監査)
①報酬・給与等の適正化、説明責任・透明性の向上
②調達の合理化
③情報公開の充実
(3)「独立行政法人整理合理化計画」等で定められた事項の監査(重点事項の監査)
①報酬・給与等の適正化、説明責任・透明性の向上
②調達の合理化
③情報公開の充実
監査の内容 (1) 業務監査(ヒアリング)
平成28年11月24日から29年2月23日までの間の10日間において11部署に対して実施
(1) 業務監査(ヒアリング)
平成29年12月18日から30年2月27日までの間の10日間において12部署に対して実施
(2) 決算監査(会計監査)
29年6月1日から同月21日までの間に実施
(2) 決算監査(会計監査)
30年6月1日から同月27日までの間に実施

(注) 「平成28年度監事監査計画」、「平成29年度監査委員会監査計画」、「平成28年度監事監査の実施体制、監査種別、内容」及び「平成29年度監査委員会監査の実施体制、監査種別、内容」に基づき、会計検査院が作成した。

GPIFにおけるガバナンスを強化するために設置された、経営委員会及び監査委員会が、執行部とそれぞれの役割を分担し、また、相互に牽制することにより、GPIFによる年金積立金の管理運用に係る受託者責任の履行を確保することが重要である。

ウ 役員等の任命等の状況

(ア) 役員等の任命

会計検査院は、24年報告の所見において、「理事長、理事及び運用委員会の委員の任命に当たっては、被保険者等が理事長等の適性を十分確認できるよう、任命後において必要な経歴等を積極的に公表するなどしてより一層の透明性を確保するための取組を検討すること」と記述している。

そこで、上記に対するGPIFの対応状況を検査したところ、GPIFは、24年11月から、GPIFのホームページにおいて、理事長、理事及び運用委員会の委員について、詳細な経歴を公表していた。また、GPIFは、29年10月に発足した経営委員会の委員長及び委員についても、同様に経歴を公表していた。

(イ) 役員の報酬等

役員の報酬等については、「独立行政法人改革等に関する基本的な方針」(平成25年12月閣議決定)において、高度で専門的な人材確保ができるよう、報酬水準の弾力化を検討することとされた。これを受けて、GPIFは、第三者的な観点から市場の報酬水準を勘案して見直しを行うために、専門のコンサルタント会社を活用しながら、他の公的金融機関、民間金融機関の報酬体系を含めた調査等を行った上で、27年1月に役員給与規程を改正して、報酬体系の見直しを実施した。この改正により、理事長の報酬等は約3100万円、27年1月に設置されたCIOの報酬等は約3000万円に設定された。

また、上記の報酬等に含まれる特別手当については、18年度のGPIF創設以降、業績評価の結果等により増減することができることとされていたが、27年1月の役員給与規程(平成18年規程第7号(注36))の改正により、上記に加えて、法人全体の運用目標(対ベンチマーク目標(注37)及び絶対収益率目標(注38)の両方)の達成又は不達成によりその支給割合を年間で0.06月分増減させる仕組み(いずれか一方の運用目標だけを達成した場合には増減なし。)が導入された。そして、27年度以降の特別手当の支給状況をみると、27、28両年度については、運用目標を達成していたことから0.06月分の上乗せ(6万余円から16万余円まで)を行っているが、29年度については、絶対収益率目標だけ達成していたことから、増減を行っていなかった。

(注36)
役員給与規程(平成18年規程第7号)は、当該規程の制定権者が理事長から経営委員会に変更となったことに伴い、平成31年1月に新たに役員給与規程(平成31年規程第1号)として制定された。
(注37)
対ベンチマーク目標  GPIFの資産全体の超過収益率が過去3年間の加重平均において0以上となること
(注38)
絶対収益率目標  GPIFの実質的な運用利回りと財政検証の前提である実質的な運用利回りとの差が過去3年間の加重平均において0以上となること
(ウ) 他の団体の役員との兼職

会計検査院は、24年報告の所見において、「GPIFの役員が契約相手先である団体の役員を兼職することは、被保険者等から、当該役員の職務の公正かつ中立な執行及び職務の信用の確保について疑念を抱かれるおそれがあることから、営利を目的としない団体であっても、GPIFの役員が利害関係のある団体の役員を兼職することを制限する内部規程を定めることについて検討すること」と記述している。

そこで、上記に対するGPIFの対応状況を検査したところ、GPIFは、「理事長等の兼職に関する規程」(平成25年規程第1号)を定めて、GPIFの理事長、理事及び監事(非常勤の者を除く。)が、営利を目的としない団体の役員を兼務する場合には、理事長の承認を要することとしていた。また、29年10月に経営委員会が設置され、同委員会の委員長及び委員も役員とされたことから、同規程の適用範囲に含めるとともに、名称を「役員の兼職等に関する規程(注39)」に変更した。

(注39)
役員の兼職等に関する規程(平成25年規程第1号)は、当該規程の制定権者が理事長から経営委員会に変更となったことに伴い、平成31年1月に新たに役員の兼職等に関する規程(平成31年規程第11号)として制定された。

エ 業務運営に係る契約の状況

会計検査院は、24年報告において、GPIFは、業務運営に係る契約について競争性のある契約方式への見直しを進めており、このうち企画競争については、企画の内容が優れていた者と契約を締結するものであり、必ずしも契約価格が契約者の選定の評価項目となっていないことから、契約価格の適正性を確保するためには、契約価格の基準となる予定価格を適切に算定することが重要となるが、「GPIFが企画競争により契約者を選定した委託調査研究契約に係る予定価格の算定について検査したところ、予定価格の算定の参考とするため徴取した参考見積りについて、それが市場の価格等を反映した妥当なものであるかを十分に検証することなく予定価格の算定に使用していて、予定価格の適正性に疑義があるものが一部見受けられた」と記述している。そして、24年報告の所見において、「企画競争に係る予定価格の算定において参考見積りを徴取する場合は、当該見積りが市場の価格等を反映した妥当なものであるのかを十分に検証することにより、算定の合理性の一層の向上を図ること。また、予定価格を算定する際に用いた根拠資料を保存して、予定価格が適切に算定されていたのか事後的に検証できるようにすること」と記述している。

そこで、上記に対するGPIFの対応状況を検査したところ、GPIFは、26年7月に「企画競争に係る予定価格について」(平成26年7月管理部長決裁)を定め、企画書の提出と同時に、見積書及びその内訳の提出を義務付けることとし、当該書類を文書管理規程に基づき保存することにより、予定価格が適切に算定されていたのか事後的に検証できるようにしていた。また、提出された見積りの内容に疑義が生じた場合等については、必要に応じて、見積りが市場の価格等を反映した妥当なものであるのかを十分に検証することとしていた。