会計検査院は、独立行政法人改革等による制度の見直しに係る主務省及び独立行政法人の対応状況について、正確性、合規性、経済性、効率性、有効性等の観点から、独立行政法人が政策実施機能を発揮する上で、主務大臣の下での政策のPDCAサイクルを機能させるための主務大臣の目標策定及び評価の状況並びにセグメント情報等の評価への活用状況はどのようになっているか、独立行政法人の自律的なマネジメントの実現を図るための管理会計の考え方がどのように取り入れられているか、経営努力の促進等に係る取組はどのようになっているか、内部統制システムの整備等及び主務大臣による監事の任命、監事の機能強化等による独立行政法人の内部統制・ガバナンスの強化の状況等はどのようになっているかに着眼して検査した。
評価に財務情報であるセグメント情報を活用させるなどのために、目標指針において「一定の事業等のまとまり」ごとに目標を策定して評価を実施することとされた。また、会計基準において開示すべきとされたセグメント情報は、改訂前の会計基準では各独立行政法人において個々に定めるとされていたのに対し、改訂会計基準においては、目標策定及び評価に資する情報となる財務情報の有用性をより担保するために、開示すべきセグメント情報は、「一定の事業等のまとまり」ごとの区分に基づくものとされた。これにより、独立行政法人改革等による制度の見直し後は、評価単位とセグメントが対応することになった。
そこで、改正通則法に基づく中期目標等策定53法人の29事業年度の自己評価及び主務大臣評価における評価単位とセグメントの対応状況をみると、49法人においては評価単位とセグメントが全て対応していたものの、4法人においてはこれらの一部又は全部が対応していなかった(4023_3_1_1リンク参照)。
評価指針によれば、主務大臣評価は、独立行政法人が作成した自己評価書を十分に活用して行うとともに、中期目標等を設定した項目を細分化した単位で評価を行うことは妨げないとされている。そして、独立行政法人は、自己評価書の作成に当たっては、可能な限り最小の単位で評価を行うこと、当該単位を統合したものが主務大臣が行う評価単位と整合するよう留意することなどに努めるとされた。その後、31年3月に評価指針が改定され、中期目標管理法人及び行政執行法人については、事務・事業の特性に応じた適切な単位で評価を行い、主務大臣が行う評価にも活用できるよう留意することなどに努めるとされている。
そこで、改正通則法に基づく中期目標等策定53法人のうち、「一定の事業等のまとまり」と評価単位が対応していない医薬基盤・健康・栄養研究所を除いた52法人について、29事業年度の自己評価及び主務大臣評価における評価単位の状況をみると、一部又は全部の「一定の事業等のまとまり」を細分化した単位で評価を行っている独立行政法人は、自己評価において25法人、主務大臣評価において23法人となっていた。
そして、自己評価において「一定の事業等のまとまり」を細分化した単位で評価を行っている25法人について、細分化した単位での評価だけでなく「一定の事業等のまとまり」の単位での評価も行っているかをみると、評価を行っている独立行政法人が4法人ある一方で、行っていない独立行政法人が21法人となっていた。
また、主務大臣評価において「一定の事業等のまとまり」を細分化した単位で評価を行っている23法人については、「一定の事業等のまとまり」の単位での評価も行っている独立行政法人が4法人ある一方で、行っていない独立行政法人が19法人となっていた。
そして、この19法人の「一定の事業等のまとまり」を細分化した単位での主務大臣評価に係る評定をみると、それぞれの評定に異なる評定が混在しているなどのため、「一定の事業等のまとまり」の単位での評定が分からない状況となっていた(4023_3_1_2リンク参照)。
評価指針によれば、主務大臣は、「一定の事業等のまとまり」ごとのインプット情報に係るセグメント情報等を活用し、中期目標管理法人及び行政執行法人について、定量的な成果実績であるアウトプット情報と資源投入量である財務情報等のインプット情報との対比を行うことなどにより、また、国立研究開発法人について、研究開発活動に係る成果等とインプット情報との対比を行うことなどにより、効率性の観点等からも評価を行うなどして評価の実効性を確保することとされている。そして、主務大臣は、主務大臣評価において、目標・計画(予算)と実績(決算)の差異が生じたことの要因分析を実施することとされている。
そこで、インプット情報が評価に活用されているかをみるために、改正通則法に基づく中期目標等策定53法人から前記の評価単位とセグメントが対応していない4法人を除いた49法人に係る29事業年度の主務大臣評価において評定を付している項目のうち、「一定の事業等のまとまり」の単位での評価を行っていて、評価項目がセグメントと対応している38法人172項目の主務大臣評価書のインプット情報についてみると、予算額の記載がないため、決算額と予算額の対比ができない項目が3法人8項目あった。
また、改訂会計基準Q&Aにおいて決算報告書の決算額が予算額に対して10%以上増減した場合を著しいかい離としていることを踏まえ、決算額が予算額に対して10%以上増減している項目をみたところ、上記の3法人8項目を除いた35法人164項目のうち24法人49項目において10%以上の増減が見受けられた。そして、これらの項目のインプット情報についてみると、評定の根拠を記載する欄等に、決算額と予算額の差異の理由を踏まえた評価等の明確な記載が見受けられず、インプット情報を主務大臣評価に活用しているかが確認できない状況となっていた。この中には、決算額が予算額に対して1.5倍以上となっており、当初の計画に比べて「一定の事業等のまとまり」に係る支出額が大幅に増加している項目も7法人7項目含まれていた。
さらに、前記の49法人について、主務大臣評価書に記載されているインプット情報に、評価単位に対応するセグメント情報等の数値が適切に記載されているかをみると、計数の転記誤りなどにより差異が生じている項目が、3法人3項目において見受けられた(4023_3_1_3リンク参照)。
運営費交付金の交付を受けている74法人の運営費交付金の交付状況をみると、29事業年度に運営費交付金の交付を受けた額は、計1兆5230億余円となっていた。
上記の74法人について、改訂会計基準の適用前後における収益化基準の採用状況をみると、改訂会計基準適用前の26事業年度は、50法人において全ての業務で費用進行基準を採用していた。これに対し、改訂会計基準適用直後の27事業年度は、全ての業務で期間進行基準を採用していた1法人を除く49法人において改訂会計基準第81に係る経過措置を適用して全ての業務で費用進行基準を採用していた。そして、改訂会計基準第81に係る経過措置適用終了後の28、29両事業年度は、上記の1法人を除く73法人において、少なくとも一部の業務を除き業務達成基準を採用していた。
また、業務達成基準を採用していた上記の73法人における収益化単位の業務ごとの業務完了の考え方や業務の進行状況の測定方法について、各独立行政法人の規程等により明文化されているかをみると、31法人においては、明文化されていなかった。
上記73法人の29事業年度における業務達成基準による運営費交付金収益への振替額及び業務達成基準を採用していた業務に係る運営費交付金債務の繰越しの状況をみると、73法人の業務達成基準による運営費交付金収益への振替額は計1兆2963億余円であり、うち42法人は、業務達成基準を採用していた業務において業務が未了であると判定したものがあったことから、当該業務に係る運営費交付金債務計1276億余円が30事業年度に繰り越されていた。また、上記の42法人に係る収益化単位の業務における業務の進行状況を測定する指標をみると、当該事業年度に業務が実施されていないなどにより運営費交付金配分額全額を翌事業年度に繰り越している業務を除き、全ての業務において投入費用が指標として設定されていた。そして、当該法人は、当該事業年度における当該収益化単位の業務に対する運営費交付金配分額から当該収益化した額を差し引いた残りを運営費交付金債務として翌事業年度に繰り越していた(4023_3_2_1リンク参照)。
「会計基準の改訂について」によれば、業務達成基準を採用するに当たり収益化単位の業務ごとの見積費用と実績費用の管理体制を構築することは、会計情報を用いたマネジメントの実現に貢献するものと考えるとされている。
そこで、29事業年度において、業務達成基準を採用していた73法人について、法人の長における事業年度途中の収益化単位の業務ごとの予算と実績等の財務情報の把握の状況をみると、57法人では、法人の長において事業年度途中における収益化単位の業務ごとの財務情報を把握していた。
一方、16法人では、法人の長において事業年度途中における収益化単位の業務ごとの財務情報を把握していなかった(4023_3_2_2リンク参照)。
中期計画等に剰余金の使途が記載されている71法人の27事業年度から29事業年度までの当期総利益及び当期未処分利益の状況をみると、29事業年度は71法人のうち58法人が当期総利益計5929億余円を計上し、このうち55法人が当期未処分利益計5442億余円を計上していた。
また、当期未処分利益を計上している独立行政法人のうち、翌事業年度に経営努力認定額を目的積立金に計上したり経営努力相当額を繰越積立金に含めて計上したりしている独立行政法人の割合の推移をみると、27事業年度7.5%、28事業年度15.2%、29事業年度21.8%と年々増加していた。そして、これらの独立行政法人のうち、経営努力認定額及び経営努力相当額に運営費交付金で賄う経費の節減分が含まれる独立行政法人の割合の推移をみると、27事業年度は該当する独立行政法人がなく、28事業年度44.4%、29事業年度75.0%と同様に増加していた(4023_3_2_3リンク参照)。
改正通則法において、独立行政法人は、内部統制システムの整備に関する事項を業務方法書に記載しなければならないこととなっている。
検査の対象とした全87法人(26事業年度末時点では、27年4月に設立された日本医療研究開発機構を除く86法人)について、改正法施行前の26事業年度末時点及び施行後の29事業年度末時点における体制整備通知において業務方法書に具体的に記載することとされている106の具体的項目の業務方法書への記載状況をみると、26事業年度末時点においては、いずれの具体的項目も記載していない独立行政法人が66法人と全体の76.7%を占めていたが、29事業年度末時点では皆無となっていた。そして、29事業年度末時点では、全体の41.3%を占める36法人は、106の具体的項目のうち、独立行政法人の形態等により記載する必要のない具体的項目を除いた全ての具体的項目を業務方法書へ記載していた。一方で、全体の58.6%を占める51法人は、独立行政法人の形態等により記載する必要のない具体的項目以外にも業務方法書へ記載していない具体的項目が見受けられた。
そして、29事業年度末時点において、業務方法書に記載されていない具体的項目がある51法人のうち46法人は、その理由について、既に法人の規程等が整備されており必要ないためであるなどとしていた。一方、51法人のうち8法人は、業務方法書への記載を現在検討中であるとしていた具体的項目があった。
また、監事によるモニタリングに必要な措置に係る具体的項目の業務方法書への記載状況をみると、該当する全ての具体的項目を業務方法書に記載していた独立行政法人は、26事業年度末においては皆無であったが、29事業年度末においては84法人となっていた。
なお、これらの具体的項目が業務方法書等に記載されたことによって監事のモニタリングの実施に影響があったとしている独立行政法人は、具体的項目ごとに11法人から27法人までとなっていて、監事によるモニタリングに必要な措置に係る具体的項目が独立行政法人の業務方法書等に記載されたことによる一定の効果が見受けられた。一方、監事のモニタリングの実施に影響がなかったとしている独立行政法人は、具体的項目ごとに60法人から76法人までとなっていて、その理由は、業務方法書等に記載された事項については従来行っていたためであるなどとしていた(4023_3_3_1リンク参照)。
体制整備通知では、具体的項目の一つとして、「WBSなどの手法を用いた業務部門ごとの業務フローの認識及び明確化」が示されていることから、全87法人における29事業年度末現在のWBS等の手法を用いた業務部門ごとの業務フローの認識及び明確化の状況をみると、業務フローの認識及び明確化を行ったとしている独立行政法人は71法人となっていた。一方、WBS等の手法を用いて業務フローの認識及び明確化を行っていなかったとしている独立行政法人は16法人となっており、その理由については、WBS等の手法を用いて業務フローの認識及び明確化をどのように行えばよいか分からなかったり、組織規模が小さいため業務フローの認識及び明確化をしなくても柔軟で効率的な対応ができると判断したりしたためであるなどとしていた。
そして、各独立行政法人における29事業年度末のリスクの識別から対応までに係る2項目の業務方法書への記載状況についてみると、全87法人で2項目とも記載されており、リスクの識別から対応までについて取り組むことが定められていた。
しかし、全87法人の29事業年度末現在におけるリスクの識別から対応までに係る2項目の進捗状況についてみると、未着手段階法人が5法人、途中段階法人が21法人、実施段階法人が61法人となっていた。リスクの識別から対応までが完了していない理由をみたところ、未着手段階法人においては、全ての独立行政法人で、作業計画を作成していないとしており、途中段階法人においては、作業に従事する職員が足りず、作業が停滞したとしている独立行政法人(21法人中15法人)が最も多くなっていた(4023_3_3_2リンク参照)。
改正通則法では、主務大臣は、監事を任命しようとするときは、必要に応じ、公募の活用に努めなければならず、公募によらない場合であっても、透明性を確保しつつ、候補者の推薦の求めその他の適任と認める者を任命するために必要な措置を講ずるよう努めなければならないとする監事の任命方法に係る規定が追加され、また、監事補佐体制について、監事の機能強化通知が発出されている。
改正法施行後の28事業年度又は29事業年度に任期が開始した66法人延べ130人の監事のうち73人は再任された者であり、初めて任命された者は57人となっていた。そして、初めて任命された57人について任命状況をみると、公募によらない場合としている割合は96.4%となっており、このうち外部有識者の意見を聴取するなどの方法により任命したとしている「推薦以外」の割合が高くなっていた。
また、任命された監事の経歴についてみると、常勤監事は民間企業出身者が、非常勤監事は公認会計士・税理士の占める割合が、それぞれ高くなっていた。
そして、全87法人について、監事の人数及び常勤・非常勤の構成をみると、27年4月に設立された日本医療研究開発機構を除いた86法人について改正法施行前の26事業年度末の状況と施行後の29事業年度末における状況を比較すると、監事の人数、構成に変化があったのは4法人となっていて、残りの82法人において変化は見受けられなかった。
また、全87法人の監事補佐体制についてみると、26事業年度末に対して29事業年度末に監事を補助する専属の職員が改正法の施行等に伴い増加したとしている独立行政法人(16法人21人増)がある一方で、組織又は業務の見直しにより減少したとしている独立行政法人(3法人3人減)も見受けられた。
そして、29事業年度末に監事を補助する専属の職員が皆無であるとしている独立行政法人は64法人(この中には、役職員数が1,000人以上である24法人のうち13法人が含まれている。)となっていて、多くの独立行政法人が監事の補助業務と内部監査業務等を兼務する職員を配置していた(4023_3_3_3リンク参照)。
独立行政法人制度は、制度創設から10年以上が経過し、それまでの制度見直しに係る議論を改めて総括・点検し、独立行政法人の制度・組織両面にわたる独立行政法人改革を行うこととされ、25年12月に基本的な方針が閣議決定された。
基本的な方針によれば、独立行政法人改革等の目的は、独立行政法人制度を導入した本来の趣旨にのっとり、主務大臣から与えられた明確なミッションの下で、法人の長のリーダーシップに基づく自主的・戦略的な運営、適切なガバナンスにより、国民に対する説明責任を果たしつつ、独立行政法人の政策実施機能の最大化を図ることなどであるとされている。
上記の目的を達成するために、独立行政法人改革等においては、独立行政法人を事務及び事業の特性に応じて分類した上で主務大臣が中期目標等を策定し、自ら評価を行うこと、中期目標等に定められた「一定の事業等のまとまり」ごとの区分に基づくセグメント情報を作成して評価にセグメント情報を活用すること、運営費交付金の収益化基準を原則、業務達成基準として経営努力の促進を図ること、内部統制・ガバナンスの強化等の業務運営を改善する仕組みを構築することなどが求められている。
そして、独立行政法人改革等を進めるために、通則法が改正されるとともに、会計基準等が改訂されている。
したがって、主務省及び独立行政法人は、独立行政法人が効果的かつ効率的に業務運営を行うという理念の下、制度導入の本来の趣旨にのっとり、国民に対する説明責任を果たしつつ、政策実施機能を最大限発揮できるよう、次の点に十分留意することが必要である(各項目に該当する主務省及び独立行政法人は、別表1参照)。
会計検査院としては、独立行政法人改革等による制度の見直しに係る主務省及び独立行政法人の対応状況について、今後とも多角的な観点から引き続き注視していくこととする。