厚生労働省は、労働者災害補償保険法(昭和22年法律第50号)に基づき、業務上の事由又は通勤により負傷し又は疾病にかかった労働者(以下「傷病労働者」という。)に対して、療養の給付として、都道府県労働局長の指定する医療機関又は労災病院等(以下、これらを合わせて「指定医療機関等」という。)において、診察、処置、手術等(以下「診療」という。)を行っており、当該指定医療機関等に対して診療に要した費用(以下「労災診療費」という。)を支払っている。労災診療費の算定においては、「労災診療費算定基準について」(以下「算定基準」という。)等により、傷病労働者をできる限り早く治癒に導き、社会復帰をさせる必要があるため、これに適した治療計画を策定する必要があることを考慮して、「診療報酬の算定方法」の別表第一医科診療報酬点数表(以下「健保点数表」という。)等にはない、労災診療費独自の算定項目として、労災治療計画加算が定められている。労災治療計画加算については、指定医療機関等において、傷病労働者の入院の際に、医師、看護師等が共同して総合的な治療計画を策定し、医師が労災治療計画書又はこれに準ずる文書を傷病労働者に交付して、傷病名及び傷病の部位、症状、治療計画等について、入院後7日以内に説明を行った場合、所定の点数を入院基本料又は特定入院料(以下「入院基本料等」という。)に加算できることとされている。しかし、大多数の指定医療機関等では改めて労災治療計画書を作成せず、健保点数表等に基づいて作成した入院診療計画書をもって労災治療計画書に代えていたり、労災治療計画書の書式と入院診療計画書の書式とで多くの記載項目が同一であったりするなどしているのに、算定基準等に労災診療費独自の算定項目として労災治療計画加算を定めて、入院基本料等に労災治療計画加算を行っている事態が見受けられた。
したがって、厚生労働省において、労災診療費の算定における労災治療計画加算について、労災治療計画書の作成の実態等を踏まえて、労災治療計画加算を設けた趣旨をいかした運用が可能であるか改めて検討し、その結果を踏まえて廃止を含めた抜本的な見直しを行うよう、厚生労働大臣に対して平成30年9月に、会計検査院法第36条の規定により意見を表示した。
本院は、厚生労働本省において、その後の処置状況について会計実地検査を行った。
検査の結果、厚生労働省は、本院指摘の趣旨に沿い、労災診療費の算定における労災治療計画加算について、労災治療計画書の作成の実態等を踏まえて、労災治療計画加算を設けた趣旨をいかした運用が可能であるか改めて検討した結果、そのような運用は困難であるとの結論に至り、令和2年3月に通達を発して、同月末をもって労災治療計画加算を廃止する処置を講じていた。