農林水産省は、都道府県等が実施する農村地域防災減災事業(以下「防災減災事業」という。)等に対して国庫補助金を交付している。また、同省は、豪雨、地震等により多くの農業用ため池(以下「ため池」という。)が被災していることなどを背景にして、都道府県等に対して、ため池の構造的危険度等を把握するための一斉点検の実施を要請するなどしている。さらに、一斉点検の結果に応じて豪雨又は地震に対するより詳細な調査(以下「詳細調査」という。)を実施し、詳細調査において対策工事が必要と判定されたため池(以下「要改修ため池」という。)については、対策工事を実施するまでの間のハザードマップの活用や監視・管理体制の強化等に係る対策(以下「ソフト対策」という。)を実施するよう努めることなどを周知している。しかし、都道府県等が防災減災事業により詳細調査を実施したため池について対策工事の必要性が適切に判定されていない事態、及び要改修ため池について対策工事が実施されるまでの間に適切なソフト対策が実施されていない事態が見受けられた。
したがって、農林水産大臣に対して令和元年10月に、会計検査院法第36条の規定により次のとおり改善の処置を要求した。
本院は、農林水産本省において、その後の処置状況について会計実地検査を行った。
検査の結果、農林水産省は、本院指摘の趣旨に沿い、2年3月までに次のような処置を講じていた。
ア 地方農政局等に通知を発したり、ため池の防災減災事業を実施する都道府県の担当者を対象とした会議(以下「担当者会議」という。)を開催したりするなどして、都道府県等に対して、ため池指針を参考とした詳細調査の考え方を示すとともに、詳細調査の実施に当たっては、この考え方に基づき、200年確率洪水流量等に基づく水理計算により、堤体の余裕高や洪水吐の規模等の照査を行ったり、規模等による目安だけではなく被災による影響を十分に検討して重要度区分を決定し、重要度区分に応じた耐震性能の照査を行ったりするなどした上で、ため池の対策工事の必要性を適切に判定するよう指導した。また、対策工事の必要性が適切に判定されていないため池について、必要な照査を改めて実施するなど、対策工事の必要性を把握するための方策を速やかに検討し、その結果を報告するよう指導した。
イ 地方農政局等に通知を発したり、担当者会議を開催したりするなどして、都道府県等に対して、監視・管理体制の強化等に係るソフト対策として実施すべき具体的な事項を示した上で、要改修ため池について、対策工事を実施するまでの間、詳細調査の結果に応じた適切なソフト対策を講ずるよう指導した。また、十分なソフト対策が講じられていない要改修ため池について、具体的な対策を検討し、その結果を報告するとともに、速やかに監視・管理体制を強化するよう指導した。