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チンパンジー用大型ケージ等の整備に当たり、霊長研教員が取引業者に架空の取引を指示するなどして虚偽の内容の契約関係書類を作成させ、架空の取引に係る購入代金を京都大学に支払わせたり、会計規程等の趣旨等に反して契約を意図的に分割したりするなど不適正な会計経理を行うなどしていたもの[国立大学法人京都大学](204)


科目
経常費用
部局等
国立大学法人京都大学
会計経理の内容
大学が設置した研究所等におけるチンパンジー用大型ケージ等の整備に係る契約
チンパンジー用大型ケージ等の整備に係る契約金額
1,212,379,058円(平成23年度~29年度)
不適正な会計経理により支払われた経費の財源
(1) 研究拠点形成費等補助金(博士課程教育リーディングプログラム)
(2) 国立大学法人設備整備費補助金
(3) 運営費交付金
(4) 科学研究費補助金
(5) 最先端研究開発戦略的強化費補助金(最先端研究基盤事業)
(6) 外国人特別研究員(欧米短期)に係る調査研究費
(7) 寄附金
不適正な会計経理の額
(1) 4,710,960円(平成26年度)
(2) 99,303,000円(平成25、26両年度)
(3) 74,169,000円(平成23、24、27各年度)
(4) 47,082,240円(平成24年度~27年度)
(5) 851,724,191円(平成23年度~25年度)
(6) 641,581円(平成26年度)
(7) 50,601,000円(平成26年度)
 1,128,231,972円

1 チンパンジー用大型ケージ等の整備の概要

(1) チンパンジー用大型ケージ等の整備の概要

国立大学法人京都大学(以下「京都大学」という。)は、附置研究所等として愛知県犬山市に霊長類研究所を、熊本県宇城市に熊本サンクチュアリをそれぞれ設置している。そして、京都大学は、独立行政法人日本学術振興会(以下「振興会」という。)の最先端研究基盤事業等における「心の先端研究のための連携拠点(WISH)構築」事業の一環として、平成22年度から24年度までの間に、霊長類研究所及び熊本サンクチュアリにおいて、チンパンジー等を対象とした比較認知科学実験用大型ケージ設備(以下「チンパンジー用大型ケージ」という。)をそれぞれ2基ずつ、計4基を整備している。

また、京都大学は、上記の事業においてチンパンジー用大型ケージ4基を整備するほか、周辺施設等も整備する必要があるとして、22年度から29年度までの間に、文部科学省から交付された研究拠点形成費等補助金(博士課程リーディングプログラム)(以下「形成費等補助金」という。)、国立大学法人設備整備費補助金(以下「整備費補助金」という。)及び運営費交付金、振興会から交付された科学研究費補助金(以下「科研費補助金」という。)、最先端研究開発戦略的強化費補助金(最先端研究基盤事業)(以下「強化費補助金」という。)及び外国人特別研究員(欧米短期)に係る調査研究費(以下「調査研究費」という。)並びに民間企業からの寄附金(以下、形成費等補助金、整備費補助金、科研費補助金、強化費補助金及び調査研究費を合わせて「補助金等」という。)の多様な資金を財源として、23年度から29年度までの間に、取引業者8者との間で「比較認知科学実験用大型ケージ設備の購入」等の契約100件(契約金額計1,212,379,058円)を締結しており、それぞれの契約金額の全額を24年3月から30年4月までの間に支払っている。

(2) チンパンジー用大型ケージ等の整備に係る物品購入等手続等の概要

京都大学におけるチンパンジー用大型ケージ等の整備に係る物品の購入等の契約手続(以下「物品購入等手続」という。)は、国立大学法人京都大学会計規程(平成16年達示第92号。以下「会計規程」という。)等の定めるところにより、次のとおり行うこととなっている。

① 教員は、1品50万円以上又は総額500万円以上の物品を購入等するときは、各経理単位に置かれる経理責任者に対して契約依頼を行うことになっている。

② 経理責任者は、売買、貸借、請負その他の契約を締結する場合には、原則として公告して申込みをさせることにより一般競争入札を行う。ただし、予定価格が1000万円未満のものについては随意契約によることができる。

③ 経理責任者は、競争入札を行う場合又は随意契約を締結する場合、あらかじめ契約を締結しようとする事項の仕様書、設計書等によって、契約の目的となる物件又は役務について、取引の実例価格、需要の状況等を考慮して適正にその予定価格を決定する。予定価格が500万円未満の随意契約については、予定価格の内容を記載した書面(以下「予定価格調書」という。)の作成を省略することができる。

④ 経理責任者は、予定価格が500万円以上の随意契約を締結するときは、なるべく複数者から見積書を徴取するなどして見積合わせを行う。この場合において、必ずそれぞれの業者から見積書を徴取し、特定の業者に他者分も含めた見積書の取りまとめを依頼してはならない。

⑤ 経理責任者は、競争入札により落札者を決定したとき、又は随意契約の相手方を決定したときは、契約の目的、契約金額、履行期限に関する事項その他履行に関する必要な条項を記載した契約書を作成する。

⑥ 部局長は、当該部局の教職員から、物品購入における納品事実の確認、請負における請負完了の事実の確認等(以下「検収」という。)を行う者(以下「検収担当者」という。)を任命する。検収担当者は、物品が納入等されたときは、納品書に記載されている品名及び数量が現物と一致しているかについて検収を行い、納品書のとおりに納入等されていないときは改めて納入等するよう指示する。

⑦ 経理責任者等は、請負契約又は物件の買入れその他の契約について、その受ける給付の完了の確認をするため必要な検査(以下「納品検査」という。)を行う者(以下「検査担当者」という。)を任命する。⑥の検収において検収担当者が納品書のとおりに物品が納入されていることなどを確認した後、検査担当者は、契約書その他の関係書類に基づくなどして、当該給付の内容及び数量について納品検査を行う。

⑧ 検査担当者は、納品検査を行った結果、その給付が当該契約の内容に適合しないものであるときは、その旨及びその措置についての意見を経理責任者に報告する。この場合において、経理責任者は契約の相手方に対して指定する期間内に改めて物品を完納させ、納品検査を受けるよう指示をすることになっている。

⑨ 経理責任者は、⑦又は⑧の納品検査を終了した後、速やかに支払を行う。

(3) 政府調達に関する協定等の概要

京都大学は、政府調達に関する協定(平成7年条約第23号。平成26年条約第4号による改正前のもの。以下「調達協定」という。)等によれば、調達協定等の適用対象となる調達機関とされており、一定額以上の物品等の調達契約(以下「特定調達」という。)を締結する場合には、調達協定等に基づき必要な手続を行う必要がある。

そして、調達協定等によれば、調達機関は、予定される調達に係る仕様の策定及び市場価格に関する情報収集につき市場調査を行う場合には、公正性かつ無差別性を確保した上で供給者に対して情報提供を要請することとされている。また、調達機関は、公正性かつ無差別性が確保されている場合を除き、仕様の策定に直接関与した供給者を入札手続に参加させてはならないこととされており、特定調達の入札公告等においてその旨を示すこととされている。

また、京都大学は、「国立大学法人京都大学における大型設備等の調達に係る仕様策定等に関する取扱要領」(平成16年4月財務担当理事裁定。以下「仕様策定要領」という。)において、特定調達により設備を調達する場合には、当該設備の仕様の策定を行うために、仕様策定委員会を設けることなどを定めている。そして、仕様策定要領によれば、同委員会は、当該設備に関する関係資料等の収集に当たっては、可能な限り多数の供給者から幅広く、かつ、公平に関係資料等の収集を行うとともに、仕様内容については、教育研究上の必要性に配慮しつつも可能な限り必要最小限のものとし、競争性が確保されるような仕様を策定することなどとされている。

(4) 競争的資金等の管理等の概要

京都大学は、19年10月以降、研究者が国等から交付を受けた競争的資金(注)等に関して、適正な運営及び管理並びにそれらに関するコンプライアンス教育に関し必要な事項を定め、教育研究機関としての説明責任を果たすことなどを目的として「国立大学法人京都大学における競争的資金等の適正管理に関する規程」(平成26年達示第38号。26年10月以前は平成19年達示第62号。以下「適正管理規程」という。)等を定めている。そして、適正管理規程によれば、教職員等は、競争的資金等の適正な運営及び管理に当たっては、関係法令、京都大学の諸規程その他の規範を遵守し、高い倫理性を保持し、清廉性をもって、行うよう努めなければならないとされている。

また、補助金等の交付要綱等によれば、補助事業者は、公正かつ最小の費用で最大の効果が上がるように経費を使用すること、補助金等を交付の目的以外に使用してはならないことなどとされているほか、科研費補助金については、各年度の事業に係る物品の納品、役務の提供等は当該事業を行う年度の3月31日までに終了しなければならないこととされている。

(注)
競争的資金  文部科学省等の配分機関が、広く研究開発課題等を募り、提案された課題の中から、専門家を含む多数の者による科学的及び技術的な観点を中心とした評価に基づいて実施すべき課題を採択し、研究者等に配分する研究開発資金

2 検査の結果

本院は、合規性等の観点から、チンパンジー用大型ケージ等の整備は、会計規程、適正管理規程等のほか、補助金等の交付要綱等に基づき適正に行われているかなどに着眼して、前記の契約100件(契約金額1,212,379,058円)を対象として、京都大学及びチンパンジー用大型ケージ等の整備に関する契約を締結した取引業者4者において会計実地検査を行った。検査に当たっては、見積書、契約書、仕様書、予定価格調書、納品書等の関係書類を確認したり、チンパンジー用大型ケージ等の整備、運用等の状況について関係教職員等から聴取したりするなどの方法により検査した。

京都大学は、30年12月の京都大学及び令和元年5月の取引業者Fに対する会計実地検査において、チンパンジー用大型ケージ等の整備に係る複数の契約について物品の納入等の事実がないものなどが確認されたことを受けて、同年6月に学内に調査委員会を設けるなどして調査を実施することとした。その後、京都大学は、2年6月にチンパンジー用大型ケージ等の整備に際して契約34件(これらの中には1件の契約について複数の不正使用があったとされているものがあり、その重複を除くと28件となる。)、支払額計506,697,056円について取引業者に架空の取引を指示するなどの不正使用があったとし、また、これに関与した霊長類研究所の教員(以下「霊長研教員」という。)は4名(霊長研教員A、霊長研教員B、霊長研教員C及び霊長研教員D)であったとする調査報告書を公表した。

本院が引き続き検査したところ、上記の取引業者に架空の取引を指示するなどの不正使用のほかに、平成23年度から27年度までの間に、会計規程等の趣旨等に反して、契約を意図的に分割するなどして一般競争入札が行われていなかったり、特定の取引業者にのみ事業予算額を伝えた上で一般競争入札に参加させるなどして一般競争入札が公正に行われていなかったりするなどしていた契約が27件、支払額計621,534,916円見受けられた。これらを合計すると、不適正な会計経理を行うなどしていた契約55件、支払額計1,128,231,972円となっていた。

上記の事態について、態様別に示すと次のとおりであり、(1)から(8)までの事態には、件数又は金額が重複しているものがある。なお、(2)、(4)、(6)及び(7)イの事態並びに(3)のうち特定の取引業者にのみ事業予算額を伝えた上で一般競争入札に参加させるなどしていた事態(契約27件621,534,916円)は、前記京都大学の調査報告書において不正使用があったと記述されている契約及びその支払額には含まれていない。

(1) 会計規程等に反して、取引業者に架空の取引を指示するなどして虚偽の内容の契約関係書類を作成させ、正規の契約手続や支払等が行われていなかった事態

契約15件 49,858,091円

霊長類研究所の経理責任者である同研究所の事務長(以下「霊長研経理責任者」という。)は、霊長研教員からチンパンジー用大型ケージ等の整備に係る契約の見積書、納品書、請求書等の提出を受けたことから、24年度から26年度までの間に取引業者に対してチンパンジー用大型ケージ等の整備に要した購入代金57,580,091円を支払っていた。

しかし、上記購入代金のうち49,858,091円については、実際には、霊長研教員が、取引業者に架空の取引を指示するなどして虚偽の内容の見積書、納品書、請求書等を作成させ、霊長研経理責任者に架空の取引に係る購入代金を支払わせていたものであった。

事例1

霊長研経理責任者は、霊長研教員Aからチンパンジー用大型ケージ(犬山第2ケージ)内の既設プラットホーム設備の溶接を改良する必要があるとする契約依頼を受けた。そして、霊長研経理責任者は、科研費補助金を財源として、平成26年11月に取引業者Gと「犬山第2 既設プラットホーム補強改良溶接」の契約(契約金額4,914,000円。以下「補強改良契約」という。)を締結し、同年12月に検収及び納品検査を合格したとして、取引業者Gに購入代金の全額を支払っていた。

しかし、補強改良契約は、別の契約において取引業者Fが施工することとされている仕様の内容に含まれていたのに、これとは別の工事であるかのように、霊長研教員Aが取引業者Gに架空の取引を指示して虚偽の内容の見積書や納品書等の関係書類を作成させていた。そして、霊長研経理責任者は、補強改良契約の内容を十分に把握しないまま霊長研教員Aからの契約依頼に基づいて取引業者Gと補強改良契約を締結し、購入代金を支払っていた。

(2) 会計規程等の趣旨等に反して、契約を意図的に分割するなどして一般競争入札が行われていなかったなどの事態

契約15件 52,481,521円

京都大学は、前記のとおり会計規程等において、原則として一般競争入札を行うこと、予定価格が1000万円未満のものについては随意契約によることができること、更に予定価格が500万円未満の随意契約は予定価格調書の作成を省略することができることとなっていることを踏まえて、契約の締結に当たり、契約依頼等の際に教職員から提出された契約関係書類に記載された範囲で作業内容、納入場所、納入時期等を総合的に判断して一括して発注することができるかについて留意する必要があるとしている。

霊長研教員は、チンパンジー用大型ケージ等の整備について、その進捗を踏まえて段階的に発注する必要があるとして、整備の進捗に合わせて契約を分割しており、チンパンジー用大型ケージ等の整備に係る契約件数は最終的に100件となっていた。

しかし、上記100件の契約の中には、作業内容、納入場所や納入期限が同一となっていて、段階的に発注する必要もなかったものなどが15件52,481,521円見受けられた。これらの契約は、霊長研教員又は霊長類研究所事務部の職員(以下「霊長研職員」という。)が霊長研経理責任者に対して契約依頼等を行う際に、一般競争入札等の対象とならない金額に分割するよう取引業者に指示して見積書等を意図的に分割するなどしていたものであって、霊長研経理責任者は作業内容等を総合的に判断して一括して一般競争入札等を行うべきであったのに、契約の内容を十分に確認しないまま、霊長研教員又は霊長研職員からの契約依頼等のとおりに契約を締結していた。

(3) 調達協定等に反して、特定調達等の仕様の策定に直接関与した取引業者を一般競争入札に参加させたり、特定の取引業者にのみ事業予算額を伝えた上で一般競争入札に参加させたりするなどして、一般競争入札が公正に行われていなかった事態

契約12件 970,195,500円

霊長研経理責任者は、チンパンジー用大型ケージ等の整備に当たって、12件の契約の予定価格が1000万円以上であることから、一般競争入札を行うこととした。一般競争入札に当たって、霊長研教員は、これらの仕様を仕様策定委員会に諮ることとし、これを受けて同委員会において可能な限り多数の取引業者から幅広く、かつ、公平に関係資料等の収集を行われるなどした上でこれらの仕様書が策定されたとしていた。そして、霊長研経理責任者等は、一般競争入札に際して、特定調達等の仕様の策定に直接関与した取引業者を競争入札に参加させれば、公正性及び無差別性を確保することができなくなるおそれがあることから、仕様の策定に直接関与していない者であることを競争参加資格として定めるとともに、競争資格のない者の入札は無効とすることとして入札公告を行った。その後、霊長研経理責任者等は、仕様書、見積書等を基に、前記のとおり、取引の実例価格、需要の状況等を考慮した上でそれぞれの契約の予定価格を決定し、その予定価格の範囲内において最も有利な条件を提示した取引業者を落札者として12件の契約(契約金額計970,195,500円)をそれぞれ締結していた。

しかし、上記の一般競争入札を行うに当たり、契約7件442,428,000円については、霊長研教員が事前に行ったチンパンジー用大型ケージ等に係る仕様の内容の調整に直接関与した取引業者が一般競争入札に参加するなどしていたのに、霊長研経理責任者等は当該取引業者からの入札を入札公告に基づき無効とすることなく一般競争入札を行って、多くの場合に当該取引業者を落札者として契約を締結するなどしていた。

また、契約11件852,595,500円については、霊長研教員が特定の取引業者にのみ事業予算額をあらかじめ伝えていたにもかかわらず、当該取引業者を一般競争入札に参加させるなどしており、公正な入札が行われたとはいえない状況となっていた。

(4) 会計規程等の趣旨に反して、特定の取引業者に他者の見積書を徴取させていたのに複数者から見積書を直接徴取したように偽っていて、適正な見積合わせが行われていなかった事態

契約18件 75,269,310円

霊長研経理責任者は、チンパンジー用大型ケージ等の整備に係る契約のうち、予定価格が1000万円未満のものについては会計規程等に基づき随意契約により締結することとし、その際には、会計規程等の趣旨を踏まえて予定価格が100万円以上となる契約については複数者から直接見積書を徴取することとしていた。そして、霊長研経理責任者は、それぞれの取引業者から徴取した見積書を比較するなどして、その中から最も有利な条件を提示した者と18件の契約(契約金額計75,269,310円)をそれぞれ締結したとしていた。

しかし、上記の複数者から直接徴取したとする見積書は、霊長研教員又は霊長研職員が特定の取引業者に他者の見積書を徴取するよう指示して当該取引業者を通じて他者の見積書を徴取させていたのに、複数者から見積書を直接徴取したように偽っていたものであり、適正な見積合わせが行われたとは認められない状況となっていた。

事例2

霊長研経理責任者は、霊長研教員Eからチンパンジー用大型ケージ内で使用するポリカーボネート板を購入するよう契約依頼を受けた。そして、霊長研経理責任者は、平成27年2月に霊長研教員Eから、取引業者F等2者から直接徴取したとする見積書の提出を受けて、見積合わせを行い、このうち最も有利な条件を提示した取引業者Fと寄附金を財源としてポリカーボネート板の購入契約(契約金額2,595,000円)を締結していた。

しかし、本件見積書は、霊長研教員Eが、取引業者Fに見積書を取りまとめて徴取するよう指示し、取引業者Fが見積金額等を調整した上で提出されたものであった。

(5) 会計規程等に基づく契約条項に反して、使用材料の数量が減少するなど契約内容に重要な変更が生じていたのに契約金額を減額する契約変更等が行われていなかった事態

契約9件 624,235,500円

霊長研経理責任者は、23年5月から25年6月までの間に、チンパンジー用大型ケージ等の整備に係る9件の契約(契約金額計624,235,500円)を取引業者とそれぞれ締結していた。そして、霊長研教員は、契約締結後の打合せなどにおいて、仕様書で定めたチンパンジー用大型ケージ等の組立てに必要な鋼材等の使用数量を当初の予定数量より減らすなどするよう取引業者に指示し、取引業者は指示に従い納入していた。その後、検査担当者である霊長研教員は、納入された物品が仕様を満たしているとして納品検査を合格とし、霊長研経理責任者は、26年4月までに契約金額の全額を取引業者に支払っていた。

しかし、契約条項等によれば、契約締結後に、仕様を変更する必要が生じたときには、霊長研経理責任者は、契約金額を増減するなどの契約変更を行うことなどについて契約の相手方と協議することとされているのに、霊長研教員は、使用材料の数量が減少するなど契約内容に重要な変更が生じたことを霊長研経理責任者に連絡していなかった。このため、霊長研経理責任者は、契約金額から上記使用材料等の減少に係る金額を減額するための協議を行っておらず、契約金額を減額する契約変更等を行っていなかった。また、京都大学において、上記使用材料等の減少に係る金額を算定するための関係資料が作成されていなかったなどのため、契約金額と適正な支払額との差額を確認することができない状況となっている。

(6) 会計規程等に反して、納入された物品が仕様書等で定めた内容と異なっていたり、仕様書等で定めた部品を使用していなかったりしていたのに、納品検査等に合格したとして購入代金を支払っていた事態

契約2件 60,837,480円

霊長研教員又は霊長研職員は、チンパンジー用大型ケージ内に設置して使用する物品を購入する2件の契約(契約金額計60,837,480円)について、納品検査等を行った結果、機能的に問題ないなどとして納品検査等を合格とした。この結果を受けて、霊長研経理責任者は購入代金の全額を取引業者に支払っていた。

しかし、霊長研教員又は霊長研職員は、取引業者が納入した物品は一部の部品が取り付けられていないなど仕様書等と内容が異なっていたのに、仕様書等と現物が相違していることを看過して納品検査等を合格としていた。このため、霊長研経理責任者は、仕様書等と内容が異なっている部分に係る金額を含んだ購入代金の全額を支払っていた。また、京都大学において、上記仕様書等と内容が異なっている部分に係る金額を算定するための関係資料が作成されていなかったなどのため、購入代金と適正な支払額との差額を確認することができない状況となっている。

(7) 会計規程等に反して、物品が前年度以前に納入されていたり、翌年度に納入されていたりしていたのに、関係書類に実際の納品日と異なる日付を記載することなどにより、物品が現年度に納入されたこととして購入代金を支払わせていた事態

契約3件 54,979,050円

ア 適正管理規程等に反して、前年度以前に物品が納入されていたのに、関係書類に実際の納品日より後の日付を検査日等として記載することなどにより、契約締結後に物品が納入されたこととして購入代金を支払わせていたもの

契約2件 4,999,050円

霊長研経理責任者は、霊長研教員Bからチンパンジー用大型ケージ(犬山第2ケージ)内の6階の実験スペースに安全対策のための扉を、1階に資材を搬入するための搬入口を設置する必要があるとする契約依頼を受けた。これを受けて、霊長研経理責任者は、25年4月に実験スペースの安全対策のための扉の購入契約(契約金額2,100,000円。以下「扉購入契約」という。)を取引業者Gと、同年5月に資材を搬入するための搬入口の購入契約(契約金額2,899,050円。以下「搬入口購入契約」という。)を取引業者Fとそれぞれ締結した。そして、霊長研経理責任者は、同年8月までにそれぞれ物品が納入され、検収及び納品検査を合格したとして購入代金の全額を支払ったとしていた。

しかし、実際には、扉購入契約については24年度に、搬入口購入契約については23年度にいずれも霊長研教員Bが取引業者F及び取引業者Gに対して口頭による発注を行い、それぞれ年度内に物品が納入されていた。そして、霊長研教員Bは、25年4月から同年7月までの間に、虚偽の日付を記載した関係書類等を霊長研経理責任者に提出するなどして、扉購入契約及び搬入口購入契約はいずれも25年度中に発注から物品の納入まで行われたように偽装していた。

イ 会計規程等に反して、翌年度に物品が納入されていたのに、関係書類に実際の納品日より前の日付を検査日として記載することなどにより、物品が現年度に納入されたこととして購入代金を支払わせていた事態

契約1件 49,980,000円

霊長研経理責任者等は、23年11月に取引業者Fと「大型類人猿用連結型ケージ設備(熊本サンクチュアリ)一式」の契約(契約金額49,980,000円)を締結し、24年3月に給付が完了したとして同年4月に購入代金の全額を支払っていた。

しかし、同年3月末時点では飼育棟と連結型ケージ設備の接続部分の一部等が完成していなかったにもかかわらず、連結型ケージ設備の整備担当者である霊長研教員C及び霊長研教員Dは、組立作業等が完了した部分のみを撮影して霊長研経理責任者に完成写真として提出するなどして連結型ケージ設備が23年度内に完成したかのように偽装していた。そして、検査担当者である霊長研教員Bはこれを承知した上で納品検査を合格とし、検収担当者である霊長研職員もこれを看過して同月22日に検収を合格したとして関係書類を作成していた。そして、取引業者Fの社内検査記録を確認したところ、実際に連結型ケージ設備の給付が完了したのは同年5月2日となっていた。

(8) 適正管理規程等に反して、最先端研究基盤事業で取得した物品を目的外に使用するなどしていた事態

契約1件 472,500円

霊長研教員Bは、チンパンジー用大型ケージ内にライブカメラを設置してチンパンジー等の安全対策を図るため、25年11月にライブカメラ2台(契約金額472,500円)を取引業者Fに自ら発注していた。そして、取引業者Fは26年3月にライブカメラ2台を納入し、霊長研職員は検収を合格とし、当該ライブカメラは霊長研教員Bに引き渡されていた。

しかし、霊長研教員Bに引き渡されたライブカメラ2台の設置状況を確認したところ、1台はチンパンジー用大型ケージ外のエリアに設置されていたり、別の1台は未使用のまま研究室に保管されていたりしていて、最先端研究基盤事業の目的に沿って使用されていなかった。

(1)から(8)までの事態は、取引業者に架空の取引を指示するなどして虚偽の内容の契約関係書類を作成したり、契約を意図的に分割するなど不適正な物品購入等手続を行っていたりするなどの不適正な会計経理を行うなどして、チンパンジー用大型ケージ等の整備に係る購入代金を支払っていたものであり、これらの重複分を差し引くと、前記のとおり、契約55件1,128,231,972円が不当と認められる。また、これらの事態を財源別に区分すると、のとおりである。

表 不適正な会計経理等の財源別・事態別の一覧

(単位:件、円)
財源
検査の結果における事態
純計
(1) (2) (3) (4) (5) (6) (7)ア (7)イ (8)
件数
金額
件数
金額
件数
金額
件数
金額
件数
金額
件数
金額
件数
金額
件数
金額
件数
金額
件数
金額
形成費等補助金 1 4,710,960 1 4,710,960
整備費補助金
2 96,060,000 1 3,243,000 1 39,900,000 1 56,160,000 3 99,303,000
運営費交付金
1 1,386,000 2 8,118,000 1 49,980,000 5 19,653,000 1 49,980,000 1 49,980,000 8 74,169,000
科研費補助金
4 15,174,000 5 12,436,440 4 15,972,750 1 4,677,480 2 4,999,050 14 47,082,240
強化費補助金
1 2,842,091 3 14,920,500 9 824,155,500 4 19,266,600 7 534,355,500 1 472,500 16 851,724,191
調査研究費
1 641,581 1 641,581
寄附金
9 30,456,000 4 16,365,000 3 12,423,000 12 50,601,000
15 49,858,091 15 52,481,521 12 970,195,500 18 75,269,310 9 624,235,500 2 60,837,480 2 4,999,050 1 49,980,000 1 472,500 55 1,128,231,972

このような事態が生じていたのは、霊長研教員において事実に基づく適正な会計経理を行うという基本的な認識が著しく欠けていたこと、霊長研職員及び霊長研経理責任者においてチンパンジー用大型ケージ等の整備に係る契約の内容の確認、検収等が十分でなかったこと、京都大学において霊長研教員、霊長研職員及び霊長研経理責任者に対し会計規程等に基づく適正な物品購入等手続を行うなどの指導が十分でなかったことなどによると認められる。

(本件の2(1)及び(7)アの事態については、「科学研究費補助金の経理が不当と認められるもの」参照。また、本件の2(1)、(3)及び(8)の事態については、「最先端研究開発戦略的強化費補助金(最先端研究基盤事業)の経理が不当と認められるもの」参照)