平成23年3月の東日本大震災は、被害が甚大であり、かつ、被災地域が広範にわたるなどしているが、特に、福島は、地震及び津波による被害のみならず、それらに伴う原子力災害により、放射性物質による深刻かつ多大な被害を受けた。国は、東日本大震災に伴う東京電力株式会社(注1)の福島第一原子力発電所(以下「福島第一原発」という。)の事故発生後、原子力災害対策特別措置法(平成11年法律第156号)に基づき直ちに内閣府に原子力災害対策本部を設置し、同本部の決定に基づき避難指示区域を設定した。
24年4月に、原子力災害に対する取組として、東日本大震災復興基本法(平成23年法律第76号)における基本理念に則した東日本大震災からの復興の円滑かつ迅速な推進と活力ある日本の再生に資することを目的とする福島復興再生特別措置法(平成24年法律第25号。以下「福島特措法」という。)が施行され、国は、同年7月に、福島特措法に基づき「福島復興再生基本方針」を閣議決定して、福島全域での復興及び再生と、避難指示が全て解除された区域並びに避難指示解除準備区域(注2)、居住制限区域(注3)及び帰還困難区域(注4)(以下、これらの区域を合わせて「避難解除等区域等」という。)の復興及び再生という二つの観点から、各々に必要な取組の基本的な方針を定めた。
その後、国は、25年12月に、「原子力災害からの福島復興の加速に向けて」を策定して、早期帰還支援と新生活支援の両面で福島を支え、原子力災害からの復興再生に向けて全力を挙げて取り組むこととしている。
復旧・復興に係る財政面の取組として、23年12月に、集中復興期間中に実施する施策に必要な財源を確保するための特別措置について定めた「東日本大震災からの復興のための施策を実施するために必要な財源の確保に関する特別措置法」(平成23年法律第117号)が施行された。
そして、国は、東日本大震災の復旧・復興事業の実施に当たり、東日本大震災復旧・復興関係経費に係る予算(以下「復旧・復興予算」という。)を、23年度については、一般会計の補正予算(第1号から第3号まで)において措置している。また、24年4月には、特別会計に関する法律(平成19年法律第23号)が改正され、東日本大震災からの復興に係る国の資金の流れの透明化を図るとともに、復旧・復興事業に関する経理を明確にすることを目的として東日本大震災復興特別会計(以下「復興特会」という。)を設置し、復興特会に計上された予算により復旧・復興事業を実施している。
復興庁等によると、東日本大震災による福島県全体の避難者数は24年5月に最も多い約16万4000人となっていたが、その後徐々に減少し、31年4月現在では約4万3000人となった。
避難指示区域が設定され、又は避難指示が解除されるなどした区域が所在する12市町村(注5)(以下「避難指示・解除区域市町村」という。)のうち、広野町を除く11市町村(以下「避難指示・解除区域11市町村」という。)を対象として、復興庁、福島県及び各市町村が共同で、避難者の早期帰還・定住に向けた環境整備、長期避難者の生活拠点の具体化等のための基礎情報収集を目的とした住民意向調査を24年度以降毎年度実施しており、この調査の調査項目の一つに帰還に関する意向を設けている。国は、この住民意向調査を踏まえるなどして、避難者の帰還支援等に向けた取組を実施している。
国は、平成25年度当初予算において長期避難者生活拠点形成交付金及び福島定住等緊急支援交付金(以下、両交付金を合わせて「前身交付金」という。)を、平成25年度補正予算において福島再生加速化交付金(以下「新交付金」という。)を創設した(以下、前身交付金と新交付金を合わせて「加速化交付金」という。)。新交付金は、それまで別々であった上記二つの交付金を、それぞれ「長期避難者生活拠点形成」「福島定住等緊急支援」として、加速化交付金の交付対象事業を目的別に分類した項目(以下「交付対象項目」という。)に整理し、一括化した。
また、国は、平成24年度当初予算において創設した福島避難解除等区域生活環境整備事業(29年度からは福島避難解除等区域等生活環境整備事業。以下「生活環境整備事業」という。)及び平成24年度補正予算において創設した福島原子力災害避難区域等帰還・再生加速事業(以下「帰還・再生事業」という。)を平成27年度当初予算において統合し、福島生活環境整備・帰還再生加速事業を創設した(以下、福島生活環境整備・帰還再生加速事業並びに26年度まで実施した生活環境整備事業及び帰還・再生事業を合わせて「環境整備等委託事業」という。)。福島生活環境整備・帰還再生加速事業では、委託対象事業を目的別に分類した項目(以下「委託対象項目」という。)として、帰還・再生事業及び生活環境整備事業を設けている。
このように、原子力災害からの復興及び再生事業は、加速化交付金の交付を受けて国の交付金事業として実施される事業である福島再生加速化交付金事業(以下「加速化事業」という。)及び国の委託事業として実施される事業である環境整備等委託事業(以下、加速化事業と環境整備等委託事業を合わせて「福島再生加速化交付金事業等」という。)を福島の復興及び再生の柱として実施している。
福島再生加速化交付金制度要綱(平成26年2月28日付け府政防第217号等)によれば、29年度末現在の交付対象項目は5項目となっており、長期避難者生活拠点形成等の交付対象項目ごとに別途実施要綱を定めるとされている。福島再生加速化交付金(長期避難者生活拠点形成)実施要綱(平成26年2月28日付け復本第271号等)等(以下、交付対象項目ごとに定められた実施要綱を「各実施要綱」という。)によれば、交付対象事業は、各実施要綱に基づき事業実施主体が作成する各事業計画に定められた目標を実現するための基幹的な事業として、各実施要綱で定めた事業(以下「基幹事業」という。)、基幹事業と一体となってその効果を増大させるために必要な事業又は事務(以下、長期避難者生活拠点形成では「避難者支援事業等」といい、それ以外の交付対象項目は「効果促進事業等」という。)とされている。また、加速化事業の形態には、単年度で事業を実施するもの(以下「単年度型事業」という。)と、事業計画期間が複数年にわたる事業であって、各年度の所要額をあらかじめ見込み難いことなどから事業実施主体が基金を設置造成等し、事業計画期間内に事業年度ごとにあらかじめ計画された事業の実施に要する経費を取り崩して事業を実施するもの(以下「基金型事業」という。)とがある。各交付対象項目別にみると、道路等側溝堆積物撤去・処理支援及び原子力災害情報発信等拠点施設等整備の2項目については単年度型事業であり、長期避難者生活拠点形成、福島定住等緊急支援及び帰還環境整備の3項目については、基幹事業ごとに単年度型事業若しくは基金型事業又はその両方を選択して、それぞれ実施するなどとされている。
福島生活環境整備・帰還再生加速事業制度要綱(平成27年4月9日付け。29年5月19日改正)によれば、29年度末現在の委託対象項目は、生活環境整備事業及び帰還・再生事業となっていて、委託対象項目ごとに定める実施要綱に委託対象事業を定めるとされている。
福島避難解除等区域等生活環境整備事業実施要綱(平成27年4月9日付け。29年5月19日改正)及び福島原子力災害避難区域等帰還・再生加速事業実施要綱(平成27年4月9日付け。29年5月19日改正)によれば、生活環境整備事業は2委託対象事業に、帰還・再生事業は5委託対象事業にそれぞれ区分され、実施対象事業数は計19事業とされている。
本院は、24年8月27日、参議院から、国会法(昭和22年法律第79号)第105条の規定に基づき、東日本大震災からの復興等に対する事業に関する事項について会計検査を行いその結果を報告することを求める要請を受けて、復旧・復興予算が措置されている16府省庁等(注6)を対象として、①東日本大震災に伴う被災等の状況、②復興等の各種施策及び支援事業の実施状況について検査を実施し、これまでに、同年10月25日、25年10月31日、27年3月2日、28年4月6日及び29年4月12日の5回、会計検査院長から参議院議長に対して報告している(以下、29年4月12日の報告を「29年報告」という。)。
そして、29年報告は、「東日本大震災からの復興の基本方針」(以下「復興基本方針」という。)等で定められた27年度までの集中復興期間が終了し、28年度から復興・創生期間として、復興は新たな段階を迎えたことから、集中復興期間における復興事業の実施状況等の総括として取りまとめたものであり、29年報告の中で、東日本大震災に伴う福島第一原発の事故による原子力災害からの復興及び再生の状況等について、その支援状況や原子力災害からの帰還支援等の取組状況等の概要を記述している。
国は、福島再生加速化交付金事業等を福島全域及び避難解除等区域等における復興及び再生の柱として位置付け、毎年度多額の予算を措置している。
そこで、本院は、福島再生加速化交付金事業等について、合規性、有効性等の観点から、次の点に着眼して検査した。
ア 加速化交付金等の予算及び決算の推移はどのようになっているか、また、基金型事業の実施後の基金は効率的に管理されているか。
イ 各事業は事業計画等に照らして着実に進捗し、その効果が発現しているか。
ウ 避難者及び帰還者の状況と各事業の実施状況との関係はどのようになっているか。
検査に当たっては、25年度から29年度までの間に福島県、同県内の市町村等(以下、これらを合わせて「福島県等」という。)において実施された加速化事業を対象として、29年度末現在で加速化交付金の交付実績がある10府省庁等(注7)並びに事業実施主体である福島県及び避難指示・解除区域11市町村のうち3市村を含む22市町村(注8)において、交付申請書、実績報告書等の関係書類を確認するなどして会計実地検査を行うとともに、福島県及び当該22市町村並びに避難指示・解除区域11市町村以外の同県内の市町村等については、調書の提出を受けてその内容を確認するなどの方法により検査した。避難指示・解除区域11市町村のうち上記3市村を除く8市町村の事業の実施状況については、当該市町村の復興事業の推進を考慮して10府省庁等及び福島県から提出を受けた関係資料、調書等を確認するなどの方法により検査し、避難指示・解除区域11市町村の予算の執行状況については、27年度までを対象として検査した。
また、国が24年度から29年度までの間に避難指示・解除区域市町村、一部事務組合等に委託して実施した環境整備等委託事業を対象として、復興庁本庁、福島復興局並びに受託市町村等である5市町村及び2一部事務組合(注9)において、委託契約書、事業計画書等の関係書類を確認するなどして会計実地検査を行うとともに、復興庁本庁から調書の提出を受けてその内容を確認するなどの方法により検査した。
避難指示・解除区域市町村における避難者及び帰還者の状況については、住民登録数や居住者数等に関して、公表されている資料を確認したり、避難指示・解除区域市町村から調書の提出を受けてその内容を確認したりするなどの方法により検査した。
前身交付金のうち長期避難者生活拠点形成交付金の歳出予算額の累計額と予算決定後移替増減額の累計額の合計(以下「歳出予算額等の累計額」という。)は503億円、支出済歳出額の累計額は472億余円、執行率(歳出予算額等の累計額に対する支出済歳出額の累計額の割合をいう。以下同じ。)は93.8%、福島定住等緊急支援交付金の歳出予算額等の累計額は100億余円、支出済歳出額の累計額は80億余円、執行率は80.6%となっている。また、新交付金の歳出予算額等の累計額は4268億余円、支出済歳出額の累計額は2954億余円(前身交付金の支出済歳出額の累計額552億余円と合わせると加速化交付金の支出済歳出額は3507億余円)となっている。執行率及び不用率(歳出予算額等の累計額に対する不用額の累計額の割合をいう。)はそれぞれ69.2%、28.6%となっていて、歳出予算額等の累計額及び支出済歳出額の累計額が最も多いのは国土交通省、不用額の累計額が最も多いのは復興庁となっている。復興庁によると、不用額が多くなっている理由は、福島県等が事業計画を作成するに当たり、住民との合意形成に不測の日数を要したことなどによるとしている。
29年度末現在で加速化交付金の交付額は計2672億余円、執行額又は取崩額は計2222億余円となっている。主な交付対象項目について、29年度末現在の加速化交付金の執行状況等をみると、次のとおりである。
長期避難者生活拠点形成については、13事業実施主体により29交付対象事業のうち7交付対象事業において計308件の事業が実施され、交付額は1872億余円、執行額又は取崩額は1622億余円となっている。交付対象事業別にみると「災害公営住宅整備事業等」の事業実施件数、交付額及び執行額又は取崩額が最も多くなっている。
福島定住等緊急支援については、28事業実施主体により7交付対象事業の全てにおいて計223件の事業が実施され、交付額は161億余円、執行額又は取崩額は150億余円となっている。交付対象事業別にみると、事業実施件数については「学校、保育所、公園等の遊具等の更新」が、交付額及び執行額又は取崩額については「地域の運動施設の整備」が、それぞれ最も多くなっている。
帰還環境整備については、46事業実施主体により48交付対象事業のうち30交付対象事業において計579件の事業が実施され、交付額は621億余円、執行額又は取崩額は433億余円となっている。交付対象事業別にみると、事業実施件数については「個人線量管理・線量低減活動支援事業」が、交付額及び執行額又は取崩額については「農山村地域復興基盤総合整備事業」が、それぞれ最も多くなっている。
29年度末現在で単年度型事業の事業実施件数は925件、交付額は610億余円、執行額は583億余円となっており、基金型事業の事業実施件数は236件、交付額は2060億余円、取崩額は1639億余円となっている。基金型事業について交付対象項目ごとにみると、そのほとんどが長期避難者生活拠点形成及び帰還環境整備に係るものであり、長期避難者生活拠点形成で基金型事業の事業実施件数が151件、交付額が1730億余円、取崩額が1485億余円となっていて、帰還環境整備の事業実施件数84件、交付額317億余円、取崩額152億余円より多くなっている。事業執行率(交付額に対する執行額又は取崩額の割合をいう。)についても、長期避難者生活拠点形成が85.8%となっていて、帰還環境整備の47.9%より高くなっている。基幹事業と避難者支援事業等又は効果促進事業等の別にみると、基幹事業が事業実施件数、交付額、執行額又は取崩額の大半を占めている。
既に事業が完了して事業費の取崩しが終了した後の残額を保有している基金型事業について29年度末現在で流用可能な加速化交付金の保有額をみたところ、福島県及び3市町村が保有する3省に係る165億余円となっていて、このうち、本宮市では同年度末現在で流用できる事業がなく、使用する見込みのない基金を保有している状況となっていた。
29年度末までに完了予定であったが完了せず、30年度以降も継続中の事業は、単年度型事業では41事業、基金型事業では24事業となっていて、特に単年度型事業では道路等側溝堆積物撤去・処理支援事業が27事業、基金型事業では災害公営住宅整備事業等が9事業と、他の交付対象事業と比べて多くなっている。
環境整備等委託事業の予算及び決算の状況を年度別にみると、24年度の支出済歳出額は4億余円で、年々増加して28年度には98億余円となったが、29年度は80億余円と減少している。年度執行率(歳出予算額に前年度繰越額、予備費使用額及び流用等増減額を加えた歳出予算現額に対する支出済歳出額の割合をいう。以下同じ。)は28年度に最大の73.1%となっているが、29年度は39.0%と減少している。復興庁によると、避難指示・解除区域市町村の避難指示の解除が進んだ状況を踏まえ29年度に歳出予算現額が増加した一方で、事業計画書の策定及び関係者間の調整に多くの日数を要したことなどから不用額が増加したことによるとしている。また、29年度までに全ての執行が完了している予算科目についてみると、歳出予算額の累計額は419億余円、支出済歳出額の累計額は194億余円、執行率は46.3%にとどまっている。
24年度から29年度までの環境整備等委託事業に係る委託費の支払額は計381億余円となっており、生活環境整備事業に係る支払額は計113億余円、帰還・再生事業に係る支払額は計268億余円となっている。
長期避難者生活拠点形成のうち執行額又は取崩額が1529億余円に上る災害公営住宅整備事業等における長期避難者向けの災害公営住宅(以下「復興公営住宅」という。)の整備の状況をみたところ、29年度末現在で整備計画戸数4,890戸のうち4,707戸が整備済みとなっていて、整備計画戸数に対する整備済戸数の割合(以下「整備率」という。)は96.2%となっていた。整備済みとなっていない183戸のうち60戸は整備中で、建設が保留されている123戸は今後の需要に応じて建設の保留を解除する方針としている。整備済戸数のうちの大部分は福島県が事業実施主体となって整備している復興公営住宅であり、主にいわき、南相馬、郡山、福島、二本松各市において整備されている。また、避難元市町村が自ら事業実施主体となって避難先市町村に復興公営住宅を整備しているものも見受けられる。
復興公営住宅への入居に当たり、コミュニティ維持等の観点から団地等ごとに市町村単位や親族同士等、ある程度のまとまりを持って入居することができるように配慮していることから、福島県では団地等の単位ごとに入居対象となる避難元市町村の長期避難者に対する配分を決めている。福島県が事業実施主体となって整備し、入居が開始された復興公営住宅についてその配分状況をみると、避難元市町村である7市町村に配分されている。
復興公営住宅の29年度末現在の入居状況をみると、福島県及び3市町村が整備した4,513戸のうち空室となっている戸数(以下「空室数」という。)は計590戸、整備済戸数に対する空室数の割合(以下「空室率」という。)は13.0%となっている。空室となっている理由には、入居開始時には一旦満室となったものの、その後入居者が自宅を取得して転居するなどしたものが含まれている。復興公営住宅は、入居者の転居等に伴い定期的に入居者を募集しても空室が解消されない状況にあるが、復興庁によると、福島県は募集対象者の範囲を拡大するなど、復興公営住宅の一層の活用を図っているとしている。
基幹事業と一体となって実施している避難者支援事業等についてみると、復興公営住宅の住民等が使用する駐車場整備事業が、全事業数の75.0%、全執行額の38.4%を占めている。
福島定住等緊急支援のうち基幹事業に係る加速化交付金の執行額は29年度末現在で計135億余円となっていて、このうち子どもの運動機会の確保のための事業は96.5%を占める状況となっている。効果促進事業等についてみると、ソフト事業であるプレイリーダー養成事業等のほか、運動施設に係る駐車場整備や運動施設の外構工事等が行われている。
帰還環境整備のうち農山村地域復興基盤総合整備事業については、復興整備実施計画が21事業、農地整備事業が19事業となっていて、両事業で大半を占めている。29年度末現在における農山村地域復興基盤総合整備事業の進捗状況をみたところ、47事業のうち25事業が継続中となっていて、このうち12事業については復興・創生期間が終了した後の令和3年度以降も事業を継続することとしている。福島県によると、事業で策定した復興整備実施計画の活用状況及び整備した農地の利用状況について、全21事業のうち復興整備実施計画を策定済みの16事業では、各地区の事業実施のための計画として使用しているとしており、ほ場の大区画化等を実施する農地整備事業では、事業が完了した1事業及び継続中の事業のうち7事業で、事業が完了した区画において営農が再開されているとしている。
帰還環境整備のうち避難区域内危険物・化学物質等処理促進事業については、福島県が事業実施主体となっていて、交付対象事業の実施状況をみたところ、執行額は計58億余円となっており、帰還困難区域に所在する事業者が保有する危険物、化学物質等3,887t等が処理された。
帰還環境整備のうち個人線量管理・線量低減活動支援事業について、避難指示・解除区域11市町村を除いて対象事業ごとの実施状況をみたところ、福島県、34市町村等で計180件の事業が実施され、執行額は計28億余円となっていた。このうち実施件数が110件、執行額が19億余円といずれも最も多くなっている「被ばく線量低減対策」の事業内容をみると、「内部被ばくの可能性のある食品の線量測定」の実施件数が50件、執行額が9億余円と最も多くなっている。
道路等側溝堆積物撤去・処理支援に係る事業は、平成29年度末現在、福島県及び12市町村が事業実施主体となっていて、新交付金の交付額は計14億余円となっている。避難指示・解除区域11市町村を除く各市町村の事業の実施状況をみたところ、撤去等に係る側溝延長及び撤去数量はそれぞれ192.3km、5,831.2m3となっていた。撤去数量のうち3,715.4m3が仮置場に保管されて、このうち2,319.0m3は29年度末までに最終処分場において処理されたが、残りの1,396.4m3は29年度末までに処理されなかった。道路等側溝堆積物の撤去及び処理が完了した地区のうち復興庁への実績報告の時点で維持管理が再開されていない地区の状況をみたところ、事業実施主体となっている市町村において実績報告後の維持管理の再開状況を把握していなかった事態が見受けられた。
原子力災害情報発信等拠点施設等整備のうち原子力災害情報発信等拠点施設整備事業は、福島県が事業実施主体となって、原子力災害に係る情報発信等拠点施設の整備等を実施するものであり、福島県は、29年度までに、当該施設の基本設計、実施設計等を実施しており、新交付金の執行額は29年度末現在で1億余円となっていた。
避難者支援事業等及び効果促進事業等については、単年度型事業では、福島県が実施した基幹事業のうち8.5%、市町村等が実施した基幹事業のうち9.5%において基幹事業と併せて実施されている。基金型事業では、福島県が実施した基幹事業のうち50.0%、市町村が実施した基幹事業のうち27.9%において避難者支援事業等又は効果促進事業等が実施されている。
生活環境整備事業の事業数は計444事業となっていて、このうち「清掃等の行為」に係る事業は436事業、「公共・公益的機能を回復させるために必要な行為」は8事業となっている。国と委託契約を締結した避難指示・解除区域市町村、一部事務組合等(以下「受託市町村等」という。)別に実施状況をみたところ、全ての受託市町村等が「清掃等の行為」に係る事業を、2市町が「公共・公益的機能を回復させるために必要な行為」に係る事業として社会福祉施設等の再開に必要な職員等の研修等を実施していた。24年度から29年度までの委託費の推移について避難指示等の解除との関係からみると、田村市では26年度までに市内の避難指示が解除されるなど早い段階で公共施設等の機能回復に取り組めたことから、委託費の総額は他の受託市町村等と比較して少なく、28年度以降は事業が実施されていなかったり、南相馬市及び川内村では多くの住民の居住地域となっていた区域の避難指示が28年度に解除されたが、その前年度の委託費が最も多くなっていたりしていて、避難指示の解除時期に応じて委託費の額が変動していた。
帰還・再生事業の事業数は計704事業となっていて、受託市町村等別では双葉郡浪江町の122事業が最も多く、委託対象事業別では、「その他」を除くと「避難区域の荒廃抑制・保全対策」の174事業が最も多くなっている。24年度から29年度までの事業数の推移について避難指示等の解除との関係からみると、田村市及び広野町では早い段階で帰還への環境が整えられたことから、事業数は他の受託市町村等と比べて少なくなっている。また、委託費が最も多くなっている「避難区域の荒廃抑制・保全対策」の委託対象事業についてみると、委託費総額135億余円のうち57億余円が「防犯・防災パトロール委託事業」となっていて、10市町村が実施している。
福島県が公表している「平成23年東北地方太平洋沖地震による被害状況即報」の第1752報(平成31年4月5日8時現在)によると、県内への避難者数は避難指示・解除区域市町村からの7,235人、46都道府県への避難者数は32,476人となっている。
避難指示・解除区域市町村における避難指示区域等の住民登録数についてみると、震災前は157,964人であったが、31年3月31日現在は132,499人となっており、減少率は16.1%と福島県全体の減少率8.6%を上回るものとなっている。避難指示・解除区域市町村のうち9市町村における住民登録数に対する居住者数の割合(以下「居住率」という。)をみると、震災前は99.1%であったが、31年3月31日現在は52.8%となっている。避難指示・解除区域市町村からの避難者数と復興公営住宅の整備済戸数をみたところ、29年度末現在、おおむね県内への避難者数に応じて復興公営住宅の配分又は整備が行われ、加速化交付金が執行されていた。
避難指示区域等内の避難者について、避難指示により避難して避難指示解除後に帰還した者(以下「帰還者」という。)の人数を把握している6町村における帰還者数と避難指示等解除区域の避難者数の合計人数に対する帰還者数の割合(以下「帰還率」という。)をみたところ、直近の避難指示解除が29年4月1日であり、避難指示解除後少なくとも2年を経過した時点において、49.2%となっていた。帰還率と環境整備等委託事業の施行状況等をみたところ、町村ごとに事業数及び委託費総額にばらつきがあるものの、各町村において避難者の早期帰還に向けた環境整備等委託事業が実施されていた。
前身交付金のうち長期避難者生活拠点形成交付金の歳出予算額等の累計額は503億円、支出済歳出額の累計額は472億余円、執行率は93.8%、福島定住等緊急支援交付金の歳出予算額等の累計額は100億余円、支出済歳出額の累計額は80億余円、執行率は80.6%となっている。また、新交付金の歳出予算額等の累計額は4268億余円、支出済歳出額の累計額は2954億余円、執行率は69.2%となっている。
長期避難者生活拠点形成については、13事業実施主体により29交付対象事業のうち7交付対象事業において計308件の事業が実施され、交付額は1872億余円、執行額又は取崩額は1622億余円となっている。福島定住等緊急支援については、28事業実施主体により7交付対象事業の全てにおいて計223件の事業が実施され、交付額は161億余円、執行額又は取崩額は150億余円となっている。帰還環境整備については、46事業実施主体により48交付対象事業のうち30交付対象事業において計579件の事業が実施され、交付額は621億余円、執行額又は取崩額は433億余円となっている。
29年度末現在で単年度型事業の事業実施件数は925件、交付額は610億余円、執行額は583億余円となっており、基金型事業の事業実施件数は236件、交付額は2060億余円、取崩額は1639億余円となっている。既に事業が完了して事業費の取崩しが終了した後の残額を保有している基金型事業について29年度末現在で流用可能な加速化交付金の保有額をみたところ、福島県及び3市町村が保有する3省に係る165億余円となっていた。
29年度末までに完了予定であったが完了せず、30年度以降も継続中の事業は、単年度型事業では41事業、基金型事業では24事業となっている。
環境整備等委託事業の予算及び決算の状況を年度別にみると、24年度の支出済歳出額は4億余円で、年々増加して28年度には98億余円となったが、29年度は80億余円と減少している。年度執行率は28年度に最大の73.1%となっているが、29年度は39.0%と減少している。29年度までに全ての執行が完了している予算科目についてみると、歳出予算額の累計額は419億余円、支出済歳出額の累計額は194億余円、執行率は46.3%にとどまっている。
24年度から29年度までの環境整備等委託事業に係る委託費の支払額は計381億余円となっており、生活環境整備事業に係る支払額は計113億余円、帰還・再生事業に係る支払額は計268億余円となっている。
長期避難者生活拠点形成のうち執行額又は取崩額が1529億余円に上る災害公営住宅整備事業等における復興公営住宅の整備の状況をみたところ、29年度末現在で整備計画戸数4,890戸のうち4,707戸が整備済みとなっていて、整備率は96.2%となっていた。整備済みとなっていない183戸のうち60戸は整備中で、建設が保留されている123戸は今後の需要に応じて建設の保留を解除する方針としている。復興公営住宅の29年度末現在の入居状況をみると、福島県及び3市町村が整備した4,513戸のうち空室数は計590戸、空室率は13.0%となっている。
福島定住等緊急支援のうち基幹事業に係る加速化交付金の執行額は29年度末現在で計135億余円となっていて、このうち子どもの運動機会の確保のための事業は96.5%を占める状況となっている。
29年度末現在における農山村地域復興基盤総合整備事業の進捗状況をみたところ、47事業のうち25事業が継続中となっていて、このうち12事業は復興・創生期間が終了した後の令和3年度以降も事業を継続することとしている。農地整備事業により整備した農地の利用状況については、福島県によると、ほ場の大区画化等が完了した1事業及び継続中の事業のうち7事業で、事業が完了した区画において営農が再開されているとしている。
避難区域内危険物・化学物質等処理促進事業については、福島県が事業実施主体となっていて、交付対象事業の実施状況をみたところ、執行額は計58億余円となっており、帰還困難区域に所在する事業者が保有する危険物、化学物質等3,887t等が処理された。
個人線量管理・線量低減活動支援事業について、避難指示・解除区域11市町村を除いて対象事業ごとの実施状況をみたところ、福島県、34市町村等で計180件の事業が実施され、執行額は計28億余円となっていた。このうち実施件数が110件、執行額が19億余円といずれも最も多くなっている「被ばく線量低減対策」の事業内容をみると、「内部被ばくの可能性のある食品の線量測定」の実施件数が50件、執行額が9億余円と最も多くなっている。
道路等側溝堆積物撤去・処理支援に係る事業は、平成29年度末現在、福島県及び12市町村が事業実施主体となっていて、新交付金の交付額は計14億余円となっている。避難指示・解除区域11市町村を除く各市町村の事業の実施状況をみたところ、撤去等に係る側溝延長及び撤去数量はそれぞれ192.3km、5,831.2m3となっていた。撤去数量のうち3,715.4m3が仮置場に保管されて、このうち2,319.0m3は29年度末までに最終処分場において処理されたが、残りの1,396.4m3は29年度末までに処理されなかった。
福島県は、29年度までに、原子力災害情報発信等拠点施設の基本設計、実施設計等を実施しており、新交付金の執行額は29年度末現在で1億余円となっていた。
避難者支援事業等及び効果促進事業等については、単年度型事業では、福島県が実施した基幹事業のうち8.5%、市町村等が実施した基幹事業のうち9.5%において基幹事業と併せて実施されている。
生活環境整備事業の事業数は計444事業となっていて、このうち「清掃等の行為」に係る事業は436事業、「公共・公益的機能を回復させるために必要な行為」は8事業となっている。受託市町村等別に実施状況をみたところ、全ての受託市町村等が「清掃等の行為」に係る事業を、2市町が「公共・公益的機能を回復させるために必要な行為」に係る事業を実施していた。
帰還・再生事業の事業数は計704事業となっていて、受託市町村等別では浪江町の122事業が最も多く、委託対象事業別では、「その他」を除くと「避難区域の荒廃抑制・保全対策」の174事業が最も多くなっている。
避難指示・解除区域市町村における避難指示区域等の住民登録数についてみると、震災前は157,964人であったが、31年3月31日現在は132,499人となっており、減少率は16.1%と福島県全体の減少率の8.6%を上回るものとなっている。避難指示・解除区域市町村のうち9市町村における居住率をみると、震災前は99.1%であったが、31年3月31日現在は52.8%となっている。避難指示・解除区域市町村からの避難者数と復興公営住宅の整備済戸数をみたところ、29年度末現在、おおむね県内への避難者数に応じて復興公営住宅の配分又は整備が行われ、加速化交付金が執行されていた。
避難指示区域等内の避難者について、帰還者の人数を把握している6町村における帰還率をみたところ、直近の避難指示解除が29年4月1日であり、避難指示解除後少なくとも2年を経過した時点において、49.2%となっていた。帰還率と環境整備等委託事業の施行状況等をみたところ、町村ごとに事業数及び委託費総額にばらつきがあるものの、各町村において避難者の早期帰還に向けた環境整備等委託事業が実施されていた。
東日本大震災は、被災地域が極めて広範囲にわたる大規模なものであるとともに、地震、津波及び原子力発電施設の事故による複合的な未曽有の大災害である。このうち、福島は地震及び津波による被害のみならず、原子力発電施設の事故に伴う原子力災害により深刻かつ多大な被害を受けるとともに、住民は避難指示等によりふるさとを離れての避難生活を余儀なくされている状況である。
国は、福島の復興及び再生に向けて総力を挙げて取り組んでいるところであり、加速化交付金を始めとする様々な支援制度を設けて、長期避難者に対する安定した生活環境を確保したり、避難解除等区域等における生活再開に必要な環境整備を行ったりするなどして、福島全域及び避難解除等区域等における復興及び再生を推進している。
また、福島復興再生基本方針において、国は、原子力災害からの福島の復興及び再生に向けた取組に当たって、同方針に基づく施策全般の着実な実施に必要な予算を確保するとともに適正かつ効率的な事業執行に努めるとされている。
ついては、復興基本方針及び福島復興再生基本方針において、福島の復興及び再生には中長期的な対応が必要であり、復興・創生期間後も継続して国が前面に立って取り組むとしていることを踏まえ、国又は事業実施主体は、今後も引き続き、次の点に十分留意して原子力災害からの福島の復興及び再生がより効果的なものとなるよう取り組む必要がある。
本院としては、今後とも福島再生加速化交付金事業等の実施状況について、引き続き注視していくこととする。