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福島再生加速化交付金事業等の実施状況について


検査対象
(1) 内閣府、復興庁、総務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省、原子力規制委員会、46地方公共団体(1県、42市町村、3一部事務組合)
(2) 復興庁、12市町村、2一部事務組合
福島再生加速化交付金等
(1) 福島再生加速化交付金(平成26年2月以前は長期避難者生活拠点形成交付金、福島定住等緊急支援交付金)
(2) 福島生活環境整備・帰還再生加速事業(平成26年度以前は福島避難解除等区域生活環境整備事業、福島原子力災害避難区域等帰還・再生加速事業)
福島再生加速化交付金事業等の概要
(1) 地域の実情に即して、災害公営住宅や運動施設を整備するなどして、長期避難者への支援から早期帰還への対応までの施策を一括して支援する交付金により実施するもの(福島再生加速化交付金事業)
(2) 避難指示に起因して機能低下した公共施設等について、日常的又は定期的に清掃したり、施設設備の点検及び修繕をしたりするなどして、機能回復を図るなどのもの(環境整備等委託事業)
検査の対象とした福島再生加速化交付金等に係る支出済歳出額
(1) 3507億円 (平成25年度~29年度)
(2) 381億円 (平成24年度~29年度)

1 検査の背景

(1) 原子力災害に対する国の取組

平成23年3月の東日本大震災の発生後、同年6月に東日本大震災からの復興の円滑かつ迅速な推進と活力ある日本の再生を図ることを目的とする東日本大震災復興基本法(平成23年法律第76号。以下「復興基本法」という。)が施行され、同年7月には復興基本法に基づき「東日本大震災からの復興の基本方針」(以下「復興基本方針」という。)が定められて、国による復興のための取組の全体像が明らかにされた。復興基本方針では、復興期間は10年間とされ、当初の5年間が集中復興期間と位置付けられて、復興支援の体制、復興施策、事業規模、財源等に関する基本方針が定められた。

このうち復興支援の体制について、国は、災害対策基本法(昭和36年法律第223号)に基づき、被災後直ちに緊急災害対策本部を内閣府に設置して災害復旧や復興関連の対応を行ってきており、24年2月には内閣に復興庁を設置し、同本部の機能を同庁に引き継いだ。同庁は、東日本大震災からの復興に関する内閣の事務を助けるとともに、内閣総理大臣が政府全体の見地から管理することがふさわしい東日本大震災からの復興に関する行政事務の円滑かつ迅速な遂行を図ることを任務として設置され、被災地域における一元的窓口として、現場主義に立って、施策の推進の総合調整機能を果たしていくこととされた。また、同庁には、内閣総理大臣を議長とする閣僚級の組織として復興推進会議が設置された。

そして、27年6月に開かれた第13回復興推進会議において、国は、地震・津波被災地を中心に事業完了に向けた見通しが立ちつつあることを踏まえて、28年度以降の復興支援については、被災地の自立につながるものとしていく必要があるとし、28年度からの5年間を、被災地の自立につながり、地方創生のモデルとなるような復興を実現していく観点から「復興・創生期間」と位置付けた。

東日本大震災は、被害が甚大であり、かつ、被災地域が広範にわたるなどしているが、特に、福島は、地震及び津波による被害のみならず、それらに伴う原子力災害により、放射性物質による深刻かつ多大な被害を受けた。国は、この原子力災害への対応として、東日本大震災に伴う東京電力株式会社(注1)の福島第一原子力発電所(以下「福島第一原発」という。)の事故発生後、原子力災害対策特別措置法(平成11年法律第156号。以下「原災法」という。)に基づき直ちに内閣府に原子力災害対策本部を設置し、同本部の決定に基づき避難指示区域を設定した。そして、復興基本方針において、国は、福島第一原発の事故による原子力災害からの福島の復興・再生については、責任を持って取り組むこととした。

24年4月に、原子力災害に対する取組として、復興基本法における基本理念に則した東日本大震災からの復興の円滑かつ迅速な推進と活力ある日本の再生に資することを目的とする福島復興再生特別措置法(平成24年法律第25号。以下「福島特措法」という。)が施行され、国は、同年7月に、福島特措法に基づき「福島復興再生基本方針」を閣議決定して、福島全域での復興及び再生と、避難指示が全て解除された区域並びに避難指示解除準備区域(注2)、居住制限区域(注3)及び帰還困難区域(注4)(以下、これらの区域を合わせて「避難解除等区域等」という。)の復興及び再生という二つの観点から、各々に必要な取組の基本的な方針を定めた。

その後、国は、25年12月に、「原子力災害からの福島復興の加速に向けて」を策定して、早期帰還支援と新生活支援の両面で福島を支え、原子力災害からの復興再生に向けて全力を挙げて取り組むこととしている。

また、「平成28年度以降の復旧・復興事業について」を決定して、原子力事故災害被災地域においては、避難指示の影響等により長期の事業が予想されるため復興期間である10年以内の復興完了は難しい状況にあることから、復旧から本格復興・再生の段階に向けて、国が前面に立って引き続き取り組むこととした。

さらに、復興基本法に基づき、28年3月に「「復興・創生期間」における東日本大震災からの復興の基本方針」を定め、原子力災害からの復興・再生について、遅くとも29年3月までに避難指示解除準備区域及び居住制限区域については、避難指示を解除できるよう環境整備に取り組むなどとした。

帰還困難区域については、原子力災害対策本部及び復興推進会議において、28年8月に「帰還困難区域の取扱いに関する考え方」を決定して、5年を目途に、放射線量の低下状況も踏まえて避難指示を解除し、居住を可能とすることを目指す「復興拠点」を各市町村の実情に応じて適切な範囲で設定し、除染等とインフラ整備を一体的かつ効率的に行うなどとした。

(注1)
東京電力株式会社  平成28年4月1日以降は東京電力ホールディングス株式会社
(注2)
避難指示解除準備区域  避難指示区域のうち、平成24年3月現在での空間線量率から推定された年間積算線量が20mSv(Sv(シーベルト)は人体の被ばくによる生物学的影響の大きさ(線量当量)を表す単位)以下となることが確実であることが確認された地域
(注3)
居住制限区域  避難指示区域のうち、平成24年3月現在での空間線量率から推定された年間積算線量が20mSvを超えるおそれがあると確認されていて、住民の被ばく線量を低減する観点から引き続き避難の継続を求める地域
(注4)
帰還困難区域  避難指示区域のうち、平成24年3月現在での空間線量率から推定された年間積算線量が50mSvを超えていて、事故後6年間を経過してもなお年間積算線量が20mSvを下回らないおそれがある地域

(2) 復興財源

復旧・復興に係る財政面の取組として、23年12月に、集中復興期間中に実施する施策に必要な財源を確保するための特別措置について定めた「東日本大震災からの復興のための施策を実施するために必要な財源の確保に関する特別措置法」(平成23年法律第117号)が施行された。

そして、国は、東日本大震災の復旧・復興事業の実施に当たり、東日本大震災復旧・復興関係経費に係る予算(以下「復旧・復興予算」という。)を、23年度については、一般会計の補正予算(第1号から第3号まで)において措置している。

また、国は、東日本大震災に係る災害復旧事業、復興事業その他の事業の実施のために特別の財政需要があることなどを考慮して、道府県及び市町村が実施する補助事業等の負担額等に対処するために、地方交付税の総額に係る特例措置を講ずる財政措置として震災復興特別交付税制度を創設し、23年度以降、被災自治体に交付している。

24年4月には、特別会計に関する法律(平成19年法律第23号)が改正され、東日本大震災からの復興に係る国の資金の流れの透明化を図るとともに、復旧・復興事業に関する経理を明確にすることを目的として東日本大震災復興特別会計(以下「復興特会」という。)を設置し、復興特会に計上された予算により復旧・復興事業を実施している。

復興特会に計上された予算の財源は、時限的な税制措置である復興特別税(復興特別所得税、復興特別法人税)や税外収入、復興債の発行による収入等となっている。

(3) 福島再生加速化交付金等の創設等の経緯

ア 原子力災害による避難者の状況等

(ア) 避難指示区域等の変遷

国は、福島第一原発の事故発生直後に、原災法に基づき、福島第一原発から半径20km圏内の住民等に対して避難するよう指示し、福島第一原発の半径20kmから30km圏内の住民に対して屋内に退避するよう指示した。そして、23年4月には、福島第一原発から半径20㎞の区域で、災害応急対策に従事する者以外の者に対して当該区域への立入りの制限若しくは禁止を実施し、又は当該区域からの退去を命ずることができる区域を警戒区域に設定するとともに、福島第一原発から半径20㎞以遠の地域で事故発生から1年以内に年間積算線量が20mSvに達するおそれのある区域を計画的避難区域に、緊急時に避難のための立退き又は屋内への退避が可能な準備を行う必要がある区域を緊急時避難準備区域に設定した(以下、これらの区域を合わせて「避難指示等区域」という。)。

その後、国は、23年9月に緊急時避難準備区域を解除し、避難指示等区域が所在する12市町村(注5)のうち緊急時避難準備区域のみが所在する双葉郡広野町は、その全域が避難指示等区域から外れることとなった。また、同年12月には、福島第一原発の原子炉の冷温停止状態を確認したことなどから、原子力災害対策本部では福島第一原発の安全性が確認されたとして、上記の12市町村から広野町を除く11市町村の避難指示区域を避難指示解除準備区域、居住制限区域及び帰還困難区域に見直すことを開始して、25年8月に避難指示区域の見直しを全て完了した。

そして、26年4月以降、避難指示解除準備区域及び居住制限区域の避難指示は順次解除され、31年4月10日現在では、7市町村に帰還困難区域が、1町に避難指示解除準備区域が設定されている(図表1参照)。

(注5)
12市町村  田村、南相馬両市、伊達郡川俣、双葉郡広野、楢葉、富岡、大熊、双葉、浪江各町、双葉郡川内、葛尾、相馬郡飯舘各村

図表1 避難指示区域等の設定の状況(概念図)

図表1 避難指示区域等の設定の状況(概念図) 画像

(イ) 避難者の状況

復興庁等によると、東日本大震災による福島県全体の避難者数は 24年5月に最も多い約16万4000人となっていたが、その後徐々に減少し、31年4月現在では約4万3000人となった。このうち避難指示区域が設定されている7市町村からの避難対象者は約2万3000人となっていて、7市町村ではなお多くの被災者が避難生活を強いられている状況にあるとしている。

そして、避難指示区域が設定され、又は避難指示が解除されるなどした区域が所在する12市町村(以下「避難指示・解除区域市町村」という。)のうち、広野町を除く11市町村(以下「避難指示・解除区域11市町村」という。)を対象として、復興庁、福島県及び各市町村が共同で、避難者の早期帰還・定住に向けた環境整備、長期避難者の生活拠点の具体化等のための基礎情報収集を目的とした住民意向調査を24年度以降毎年度実施しており、この調査の調査項目の一つに帰還に関する意向を設けている。国は、この住民意向調査を踏まえるなどして、避難者の帰還支援等に向けた取組を実施している。

イ 帰還支援等に向けた取組としての加速化交付金等の変遷

(ア) 加速化交付金の変遷

国は、避難指示が解除された区域への帰還支援等の取組として、上記の調査結果を踏まえるなどして、原子力災害からの復興・再生事業として、図表2のとおり、平成25年度当初予算において長期避難者の生活拠点の形成を促進する長期避難者生活拠点形成交付金及び福島県の子育て世帯が安心して定住できる環境を整え地域の復興及び再生を促進する福島定住等緊急支援交付金をそれぞれ創設した(以下、両交付金を合わせて「前身交付金」という。)。そして、 25年8月の避難指示区域の見直しの完了を受けて、平成25年度補正予算において、長期避難者への支援から早期帰還への対応までの施策等を一括して支援する福島再生加速化交付金(以下「新交付金」という。)を創設した(以下、前身交付金と新交付金を合わせて「加速化交付金」という。)。新交付金は、それまで別々であった上記二つの交付金を、それぞれ「長期避難者生活拠点形成」「福島定住等緊急支援」として、加速化交付金の交付対象事業を目的別に分類した項目(以下「交付対象項目」という。)に整理し、一括化した。また、福島の復興・再生のための事業をそれぞれの地域が自主的、主体的に実施することを支援することを目的として、国からの委託事業として実施していた福島原子力災害避難区域等帰還・再生加速事業(平成24年度補正予算において創設。以下「帰還・再生事業」という。)の一部を移管するなどして、「再生加速化」を加速化交付金の交付対象項目とした。また、27年5月に、福島特措法を改正するとともに、国は、避難者の早期帰還の促進を図るために、平成27年度当初予算において上記「再生加速化」の交付対象項目を拡充して、項目名を「帰還環境整備」とし、その後、28年12月に「道路等側溝堆積物撤去・処理支援」、29年3月に「原子力災害情報発信等拠点施設等整備」、31年4月に「既存ストック活用まちづくり支援」を交付対象項目として追加するなどしている。

なお、加速化交付金の交付対象事業費のうち、被災自治体が事業実施主体として負担する経費については、当該事業実施主体の実質的な負担がなくなるよう震災復興特別交付税が措置されている。

(イ) 環境整備等委託事業の変遷

国は、原子力災害からの復興・再生について責任を持って取り組むこととしていることから、帰還支援等に向けた取組として、図表2のとおり、平成24年度当初予算において、避難指示に起因して機能低下した公共施設又は公益的施設(以下「公共施設等」という。)について、当該公共施設等の管理者である市町村長等の要請に基づき、国の費用負担により機能回復を行うことを目的とする福島避難解除等区域生活環境整備事業(29年度からは福島避難解除等区域等生活環境整備事業。以下「生活環境整備事業」という。)を創設した。また、平成24年度補正予算において、既存の制度等では対応が難しい地方公共団体のニーズにきめ細かに対応することなどを通じて、福島第一原発の事故に伴い避難を余儀なくされた区域の住民の帰還と当該区域の再生を図ることを目的とする帰還・再生事業を創設した。両事業は、地域の実情を詳細に把握している市町村等に委託して実施することが効率的かつ効果的であるとして、市町村等に対する委託事業として実施していた。その後、平成27年度当初予算において、両事業を統合し、福島生活環境整備・帰還再生加速事業を創設した。福島生活環境整備・帰還再生加速事業では、委託対象事業を目的別に分類した項目(以下「委託対象項目」という。)として、帰還・再生事業及び生活環境整備事業を設けている(以下、福島生活環境整備・帰還再生加速事業並びに26年度まで実施した生活環境整備事業及び帰還・再生事業を合わせて「環境整備等委託事業」という。)。

このように、原子力災害からの復興及び再生事業は、加速化交付金の交付を受けて国の交付金事業として実施される事業である福島再生加速化交付金事業(以下「加速化事業」という。)及び国の委託事業として実施される事業である環境整備等委託事業(以下、加速化事業と環境整備等委託事業を合わせて「福島再生加速化交付金事業等」という。)を福島の復興及び再生の柱として実施している。

図表2 加速化交付金等の変遷

図表2 加速化交付金等の変遷 画像

(4) 福島再生加速化交付金事業等の概要

ア 加速化事業の概要

(ア) 加速化交付金制度要綱等の概要

福島再生加速化交付金制度要綱(平成26年2月28日付け府政防第217号等。以下「交付金制度要綱」という。)によれば、加速化交付金は、地方公共団体が各交付対象項目に応じた交付対象事業から自主的に事業を選択して作成した各交付対象項目の事業計画の実施に要する費用に対して交付することにより、地域の実情に即した事業の的確かつ効率的な実施を図ることを目的とするものとされている。また、29年度末現在の交付対象項目は、長期避難者生活拠点形成、福島定住等緊急支援、帰還環境整備、道路等側溝堆積物撤去・処理支援及び原子力災害情報発信等拠点施設等整備の5項目となっており、交付対象項目ごとに別途実施要綱を定めるとされている。

交付金制度要綱に基づき定められた福島再生加速化交付金(長期避難者生活拠点形成)実施要綱(平成26年2月28日付け復本第271号等)等(以下、交付対象項目ごとに定められた実施要綱を「各実施要綱」という。)によれば、交付対象項目ごとに交付対象事業が定められており、図表3のとおり、29年度末現在で5交付対象項目の92事業が交付対象事業とされている。また、各実施要綱に交付対象事業を所管する大臣(以下「交付担当大臣」という。)が定められ、各交付対象事業の事業実施主体はいずれも福島県、同県内の市町村等(以下、これらを合わせて「福島県等」という。)とされている。

各実施要綱等によれば、交付対象事業は、各実施要綱に基づき事業実施主体が作成する各事業計画に定められた目標を実現するための基幹的な事業として、各実施要綱で定めた事業(以下「基幹事業」という。)、基幹事業と一体となってその効果を増大させるために必要な事業又は事務(以下、長期避難者生活拠点形成では「避難者支援事業等」といい、それ以外の交付対象項目は「効果促進事業等」という。)とされている。基幹事業、避難者支援事業等及び効果促進事業等の主なものは、図表3のとおりである。

また、加速化事業の形態には、単年度で事業を実施するもの(以下「単年度型事業」という。)と、事業計画期間が複数年にわたる事業であって、各年度の所要額をあらかじめ見込み難いことなどから事業実施主体が基金を設置造成等し、事業計画期間内に事業年度ごとにあらかじめ計画された事業の実施に要する経費を取り崩して事業を実施するもの(以下「基金型事業」という。)とがある。各交付対象項目別にみると、図表3のとおり、道路等側溝堆積物撤去・処理支援及び原子力災害情報発信等拠点施設等整備の2項目については単年度型事業であり、長期避難者生活拠点形成、福島定住等緊急支援及び帰還環境整備の3項目については、基幹事業ごとに単年度型事業若しくは基金型事業又はその両方を選択して、それぞれ実施するなどとされている。

そして、各実施要綱によれば、単年度型事業を実施する場合には、同一の交付決定に係る単年度型事業の間において、また、基金型事業を実施する場合には、交付決定が同一か否かにかかわらず、同一の所管府省庁等に係る基金型事業の間において、それぞれ加速化交付金の流用を行うことができることとされている。このため、加速化交付金は、基幹事業間での流用、避難者支援事業等間又は効果促進事業等間での流用及び基幹事業と避難者支援事業等又は効果促進事業等との間での流用をそれぞれ行うことができることになる。

図表3 交付対象項目別の所管府省庁等、主な交付対象事業の状況(平成29年度末現在)

交付対象項目
(事業の形態)
  交付対象事業数(避難者支援事業等又は効果促進事業等数を含む。) 主な交付対象事業
(主な基幹事業の種類、避難者支援事業等又は効果促進事業等)
交付担当大臣 交付担当大臣が所管する関係行政機関
長期避難者生活拠点形成 30  
(単年度型、基金型) 国土交通大臣 国土交通省 7 災害公営住宅整備事業等
警察庁長官 警察庁 1 交通安全施設等整備事業
文部科学大臣 文部科学省 4 公立学校施設整備費国庫負担事業
厚生労働大臣 厚生労働省 15 認定こども園整備事業
農林水産大臣 農林水産省 1 「農」のある暮らしづくり事業
環境大臣 環境省 1 廃棄物処理施設改良・改修事業
避難者支援事業等との関連性を説明した基幹事業を所管する大臣 交付担当大臣が所管する関係行政機関 1 避難者支援事業等
福島定住等緊急支援 8  
(単年度型、基金型) 福島定住等緊急支援(注) 7  
  内閣総理大臣 復興庁 1 学校、保育所、公園等の遊具の更新
文部科学大臣 文部科学省 2 地域の運動施設の整備
国土交通大臣 国土交通省 3 地域の運動施設の整備
効果促進事業等との関連性を説明した基幹事業を所管する大臣 交付担当大臣が所管する関係行政機関 1 効果促進事業等
福島定住等緊急支援(福島健康不安対策事業)(注) 1  
  内閣総理大臣 復興庁 1 福島健康不安対策事業
帰還環境整備 49  
(単年度型、基金型) 国土交通大臣 国土交通省 13 災害公営住宅整備事業等
文部科学大臣 文部科学省 4 公立学校施設整備費国庫負担事業
総務大臣 総務省 1 エリア放送受信環境整備事業
内閣総理大臣 復興庁 2 生活環境向上支援事業
厚生労働大臣 厚生労働省 16 水道施設整備事業
内閣総理大臣 内閣府 3 避難区域内危険物・化学物質等処理促進事業
環境大臣 原子力規制委員会 1 放射線測定装置・機器等整備支援事業
農林水産大臣 農林水産省 6 農山村地域復興基盤総合整備事業
経済産業大臣 経済産業省 2 原子力災害被災地域産業団地等整備等支援事業
効果促進事業等との関連性を説明した基幹事業を所管する大臣 交付担当大臣が所管する関係行政機関 1 効果促進事業等
道路等側溝堆積物撤去・処理支援 2  
(単年度型) 内閣総理大臣 復興庁 1 道路等側溝堆積物撤去・処理支援事業
    1 効果促進事業等
原子力災害情報発信等拠点施設等整備 3  
(単年度型) 内閣総理大臣 復興庁 2 原子力災害情報発信等拠点施設整備事業
    1 効果促進事業等
92  

(注) 福島定住等緊急支援及び福島定住等緊急支援(福島健康不安対策事業)は、実施要綱が分かれているため、区分して記載している。

(イ) 交付対象項目の概要
a 長期避難者生活拠点形成

長期避難者生活拠点形成は、長期避難者向けの災害公営住宅(以下「復興公営住宅」という。)の整備を中心に、長期避難者を受け入れている避難先市町村等の基盤整備等のハード施策を推進するとともに、コミュニティの維持等の避難者を支援するためのソフト施策を一体的に実施することにより、長期避難者のための避難先における生活拠点の形成を促進することを目的とするものである。主な基幹事業は、国土交通省所管の「災害公営住宅整備事業等」である。

b 福島定住等緊急支援

福島定住等緊急支援は、福島第一原発の事故により減少した子どもの運動機会の確保のための施設整備、公的な賃貸住宅の整備その他の取組を支援することにより、長期にわたる避難生活を余儀なくされている子育て世帯が早期に帰還し、安心して定住できる環境を整え、地域の復興の促進を図ることなどを目的とするものである。主な基幹事業は、復興庁所管の「学校、保育所、公園等の遊具の更新」である。

c 帰還環境整備

帰還環境整備は、住民が避難したことなどにより復興及び再生に遅れが生じている地域に対して、各地域が復興及び再生のための生活拠点整備等の事業を自主的、主体的に実施することを支援することにより、避難住民の早期帰還を促進し、地域の再生を加速化させることを目的とするものである。主な基幹事業は、農林水産省所管の「農山村地域復興基盤総合整備事業」である。

d 道路等側溝堆積物撤去・処理支援

道路等側溝堆積物撤去・処理支援は、道路等側溝堆積物の処分が放射性物質を含んでいることを理由に困難になったこと、住民が避難したことでそれまで行われていた住民による清掃活動を中止したことなどにより、通常の道路等側溝の維持管理活動を中断している地域に対して、1回に限り道路等側溝堆積物の撤去及び処理を支援する復興庁所管の「道路等側溝堆積物撤去・処理支援事業」を実施することにより、通常の道路等側溝の維持管理活動を再開させ、原子力災害からの復興及び再生を加速化させることを目的とするものである。

e 原子力災害情報発信等拠点施設等整備

原子力災害情報発信等拠点施設等整備は、①原子力災害に係る情報発信等拠点施設の整備を行い、原子力災害に係る福島の経験と教訓等を踏まえた資料展示や関連調査、研修等の実施を通じ、その経験や教訓等を国内外に発信することを支援する復興庁所管の「原子力災害情報発信等拠点施設整備事業」及び②福島・国際研究産業都市構想の具現化に向けて、生活周辺環境整備や交流人口拡大、構想に関係する多様な関係者の連携強化と構想への参画を促す取組を行うことを支援する同庁所管の「拠点周辺等環境整備等事業」を実施することにより、同構想の加速化並びに地元の復興及び再生に寄与することを目的とするものである。

(ウ) 加速化事業の事務手続等

加速化交付金の交付手続等は、各実施要綱及び各交付担当大臣が定めた加速化交付金の交付要綱(以下「交付要綱」という。)等に基づき、次のとおりとなっている。

① 事業実施主体は、各交付対象項目に係る事業の事業計画を作成して復興庁に提出し、同庁が算定した交付可能額通知を受ける。

② 同通知を同庁から受けた事業実施主体は、同通知による交付可能額の範囲内で交付担当大臣に交付申請を行い、交付担当大臣から交付決定を受けて、事業計画で定めた各事業を実施する。

③ 交付決定後に概算払又は精算払により事業実施主体に対して加速化交付金が交付される。

④ 事業実施主体は、交付対象項目に係る事業計画で定めた全事業が完了した場合、事業計画で定めた各事業の目標達成状況等に関する調査・分析を行い、当該計画の実績に関する評価を行って地域の復興の促進を図ることなどのために、当該事業の終了した年度の翌年度の12月末日までに評価結果を公表する。

各実施要綱及び交付要綱等によれば、基幹事業に係る加速化交付金の交付額は、交付対象事業費に基幹事業ごとに交付担当大臣が定めた基本となる国費率を乗じて得られた額と、基幹事業の交付対象事業費から上記の額及び事業実施主体以外の者が負担する額を減じた額に、2分の1を乗じて得られた額の合計額とされている。また、避難者支援事業等及び効果促進事業等に係る加速化交付金の交付額は、交付対象事業費に10分の8を乗じて得られた額とされている。

イ 環境整備等委託事業の概要

前記のとおり、避難指示が解除された区域への帰還支援等の取組を支援するために平成24年度当初予算において創設していた生活環境整備事業及び同年度補正予算において創設していた帰還・再生事業は、平成27年度当初予算において環境整備等委託事業として統合され、復興庁が実施している。

福島生活環境整備・帰還再生加速事業制度要綱(平成27年4月9日付け。29年5月19日改正。以下「委託制度要綱」という。)によれば、29年度末現在の委託対象項目は、図表4のとおり、生活環境整備事業及び帰還・再生事業となっていて、委託対象項目ごとに定める実施要綱に委託対象事業を定めるとされている。

福島避難解除等区域等生活環境整備事業実施要綱(平成27年4月9日付け。29年5月19日改正)及び福島原子力災害避難区域等帰還・再生加速事業実施要綱(平成27年4月9日付け。29年5月19日改正。以下、これらを合わせて「委託実施要綱」という。)によれば、生活環境整備事業は2委託対象事業に、帰還・再生事業は5委託対象事業にそれぞれ区分され、実施対象事業数は計19事業とされている。

そして、各委託対象項目に係る委託対象事業は、いずれも避難指示・解除区域市町村、一部事務組合等が、国からの委託事業として実施している。

図表4 環境整備等委託事業の事業内容(平成29年度末現在)

委託対象項目 委託対象事業 実施対象事業数 主な実施対象事業の内容 委託者 受託者
生活環境整備事業 清掃等の行為 1 学校教育施設、社会インフラ施設等に係る点検、試験、清掃、軽微な修理及び修繕 市町村(避難指示・解除区域市町村)、一部事務組合及び広域連合
  公共・公益的機能を回復させるために必要な行為 3 社会福祉施設等の再開に必要な職員等の募集、研修
帰還・再生事業 生活基盤施設・サービスの代替・補完 4 医療・高齢者福祉施設等立ち上げ支援委託事業
  地域コミュニティ機能の維持・確保 2 地域コミュニティ維持のための交流イベント等の開催委託事業
避難区域の荒廃抑制・保全対策 4 区域の防災・防犯対策委託事業
住民の一時帰宅支援 4 一時帰宅バス運行委託事業
横断的事項 1 仮設代替処理施設運営委託事業
19  
  • 注(1) 帰還・再生事業には、上記に示した委託対象事業以外であっても住民の帰還等に資する事業について個別に実施の可否を協議して実施しているものがある。
  • 注(2) 主な実施対象事業の内容で示している施設等について、対象となる具体的な施設等は別表4参照
(ア) 委託対象項目の概要
a 生活環境整備事業

委託実施要綱によれば、生活環境整備事業は、国の避難指示により学校施設、公民館や体育館といった社会教育施設等を日常的又は定期的に清掃したり、施設設備の点検及び修繕をしたりすることなどができなかったことに起因して機能低下した避難指示・解除区域市町村の公共施設等を対象に、清掃その他の当該公共施設等の機能回復を行うことにより、避難解除等区域等において住民が日常生活及び社会生活を円滑に営むために必要な環境整備を図ることとされている。生活環境整備事業は、当該公共施設等の管理者である市町村長等の要請に基づき、国の費用負担により行われている。

b 帰還・再生事業

委託実施要綱によれば、帰還・再生事業は、既存の制度では対応が難しい自治体のニーズにきめ細かに対応することなどを通じて、福島第一原発の事故に伴い避難を余儀なくされた区域の住民の帰還と当該区域の再生を図ることを目的として実施するものとされている。そして、避難指示・解除区域市町村における医療・介護サービスが不足している状況や、将来の帰還に向けて避難先での地域コミュニティを維持していく中で、既存の制度等では生活基盤施設・サービスの代替・補完、地域コミュニティ機能の維持・確保が難しい事項について、避難指示・解除区域市町村、一部事務組合等からの要請に基づき、国の費用負担により行われている。具体的には、避難指示・解除区域市町村、一部事務組合等がこれらのニーズにきめ細かに対応して、医師の派遣や通院等バスの運行といった医療・介護サービスの提供、避難者のためのコミュニティ維持のための交流イベント等の開催等を実施している。また、避難指示・解除区域市町村において直ちに帰還できない住民の将来の帰還を円滑にするために、当該区域の防犯・防災対策、除草作業等の荒廃抑制・保全対策等もこの事業により実施している。

(イ) 環境整備等委託事業の事務手続等

環境整備等委託事業の事務手続等は、委託実施要綱に基づき、次のとおりとなっている。

① 避難指示・解除区域市町村、一部事務組合等は、対象事業に係る事業計画書を作成し、復興庁福島復興局(以下「福島復興局」という。)に提出する。

② 福島復興局は、事業計画書の内容について事前に調整し承認した上で、避難指示・解除区域市町村、一部事務組合等と委託契約を締結する(以下、委託契約を締結した避難指示・解除区域市町村、一部事務組合等を「受託市町村等」という。)。

③ 受託市町村等は、委託対象事業が完了したときは、その内容及び実際に要した経費等を記載した事業実績報告書を作成して福島復興局に提出し、福島復興局による検査及び委託費の額の確定を受けた上で、復興庁本庁から委託費の支払を受ける。

(5) これまでの会計検査の実施状況

会計検査院は、24年8月27日、参議院から、国会法(昭和22年法律第79号)第105条の規定に基づき、東日本大震災からの復興等に対する事業に関する事項について会計検査を行いその結果を報告することを求める要請を受けて、復旧・復興予算が措置されている16府省庁等(注6)を対象として、①東日本大震災に伴う被災等の状況、②復興等の各種施策及び支援事業の実施状況について検査を実施し、これまでに、同年10月25日、25年10月31日、27年3月2日、28年4月6日及び29年4月12日の5回、会計検査院長から参議院議長に対して報告している(以下、29年4月12日の報告を「29年報告」という。)。

そして、29年報告は、復興基本方針等で定められた27年度までの集中復興期間が終了し、28年度から復興・創生期間として、復興は新たな段階を迎えたことから、集中復興期間における復興事業の実施状況等の総括として取りまとめたものであり、29年報告の中で、東日本大震災に伴う福島第一原発の事故による原子力災害からの復興及び再生の状況等について、その支援状況や原子力災害からの帰還支援等の取組状況等の概要を記述している。

このほか、会計検査院は、24年8月27日、参議院から、同法同条の規定に基づき、東京電力株式会社に係る原子力損害の賠償に関する国の支援等の実施状況に関する事項について会計検査を行いその結果を報告することを求める要請を受けて、その結果を25年10月、27年3月及び30年3月にそれぞれ報告するなどしている。

(注6)
16府省庁等  国会、裁判所、内閣、内閣府、復興庁、総務、法務、外務、財務、文部科学、厚生労働、農林水産、経済産業、国土交通、環境、防衛各省