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  • 国会及び内閣に対する報告(随時報告)|
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  • 令和元年12月|

福島再生加速化交付金事業等の実施状況について


4 所見

(1) 検査の状況の概要

国は、福島復興再生基本方針において、施策全般の着実な実施に必要な予算を確保し、福島の復興及び再生に向けて責任を持って臨むこととしている。そして、国は、福島再生加速化交付金事業等を福島全域及び避難解除等区域等における復興及び再生の柱として位置付け、毎年度多額の予算を措置している。

会計検査院は、福島再生加速化交付金事業等について、合規性、有効性等の観点から、加速化交付金等の予算及び決算の推移はどのようになっているか、基金型事業の実施後の基金は効率的に管理されているか、各事業は事業計画等に照らして着実に進捗しその効果が発現しているか、避難者及び帰還者の状況と各事業の実施状況との関係はどのようになっているかに着眼して検査した。

ア 加速化交付金等の執行状況等

(ア) 加速化交付金の予算及び決算の状況

前身交付金のうち長期避難者生活拠点形成交付金の歳出予算額等の累計額は503億円、支出済歳出額の累計額は472億余円、執行率は93.8%、福島定住等緊急支援交付金の歳出予算額等の累計額は100億余円、支出済歳出額の累計額は80億余円、執行率は80.6%となっている。また、新交付金の歳出予算額等の累計額は4268億余円、支出済歳出額の累計額は2954億余円となっている。執行率及び不用率はそれぞれ69.2%、28.6%となっていて、歳出予算額等の累計額及び支出済歳出額の累計額が最も多いのは国土交通省、不用額の累計額が最も多いのは復興庁となっている。復興庁によると、不用額が多くなっている理由は、福島県等が事業計画を作成するに当たり、住民との合意形成に不測の日数を要したことなどによるとしている(1019_3_1_1_1リンク参照)。

(イ) 加速化交付金の交付対象項目ごとの交付額とその執行状況
a 各交付対象項目の交付対象事業別の交付額とその執行状況

29年度末現在で加速化交付金の交付額は計2672億余円、執行額又は取崩額は計2222億余円となっている。主な交付対象項目について、29年度末現在の加速化交付金の執行状況をみたところ、次のとおりとなっていた。

長期避難者生活拠点形成は、13事業実施主体により29交付対象事業のうち7交付対象事業において計308件の事業が実施され、交付額は1872億余円、執行額又は取崩額は1622億余円となっている。交付対象事業別にみると「災害公営住宅整備事業等」の事業実施件数、交付額及び執行額又は取崩額が最も多くなっている。

福島定住等緊急支援は、28事業実施主体により7交付対象事業全てにおいて計223件の事業が実施され、交付額は161億余円、執行額又は取崩額は150億余円となっている。交付対象事業別にみると、事業実施件数については「学校、保育所、公園等の遊具等の更新」が、交付額及び執行額又は取崩額については「地域の運動施設の整備」が、それぞれ最も多くなっている。

帰還環境整備は、46事業実施主体により48交付対象事業のうち30交付対象事業において計579件の事業が実施され、交付額は621億余円、執行額又は取崩額は433億余円となっている。交付対象事業別にみると、事業実施件数については「個人線量管理・線量低減活動支援事業」が、交付額及び執行額又は取崩額については「農山村地域復興基盤総合整備事業」が、それぞれ最も多くなっている(1019_3_1_2_1リンク参照)。

b 単年度型事業及び基金型事業の別等の執行状況

29年度末現在で単年度型事業の事業実施件数は925件、交付額は610億余円、執行額又は取崩額は583億余円となっており、基金型事業の事業実施件数は236件、交付額は2060億余円、執行額又は取崩額は1639億余円となっている。基金型事業について交付対象項目ごとにみると、そのほとんどが長期避難者生活拠点形成及び帰還環境整備に係るものであり、長期避難者生活拠点形成で基金型事業の事業実施件数が151件、交付額が1730億余円、取崩額が1485億余円となっていて、帰還環境整備の事業実施件数84件、交付額317億余円、取崩額152億余円より多くなっている。事業執行率についても、長期避難者生活拠点形成が85.8%となっていて、帰還環境整備の47.9%より高くなっている。基幹事業と避難者支援事業等又は効果促進事業等の別にみると、基幹事業が事業実施件数、交付額、執行額又は取崩額の大半を占めている。既に事業が完了して事業費の取崩しが終了した後の残額を保有している基金型事業について29年度末現在で流用可能な加速化交付金の保有額をみたところ、福島県及び3市町村が保有する3省に係る165億余円となっていて、このうち、本宮市では同年度末現在で使用する見込みのない基金を保有している状況となっていた(1019_3_1_2_2リンク参照)。

c 30年度以降も引き続き継続中の事業

29年度末までに完了予定であったが完了せず、30年度以降も引き続き継続中の事業は、単年度型事業では41事業、基金型事業では24事業となっていて、特に単年度型事業では道路等側溝堆積物撤去・処理支援事業が27事業、基金型事業では災害公営住宅整備事業等が9事業と、他の交付対象事業と比べて多くなっている(1019_3_1_2_3リンク参照)。

(ウ) 環境整備等委託事業の予算及び決算の状況

環境整備等委託事業の予算及び決算の状況を年度別にみると、24年度の支出済歳出額は4億余円で、年々増加して28年度には98億余円となったが、29年度は80億余円と減少している。年度執行率は28年度に最大の73.1%となっているが、29年度は39.0%と減少している。復興庁によると、避難指示・解除区域市町村の避難指示の解除が進んだ状況を踏まえ29年度に歳出予算現額が増加した一方で、事業計画書の策定及び関係者間の調整に多くの日数を要したことなどから不用額が増加したことによるとしている。また、29年度までに全ての執行が完了している予算科目についてみると、歳出予算額の累計額は419億余円、支出済歳出額の累計額は194億余円、執行率は46.3%にとどまっている(1019_3_1_3リンク参照)。

(エ) 環境整備等委託事業の委託対象項目ごとの委託費支払額

24年度から29年度までの環境整備等委託事業に係る委託費の支払額は計381億余円となっており、生活環境整備事業に係る支払額は計113億余円、帰還・再生事業に係る支払額は計268億余円となっている(1019_3_1_4リンク参照)。

イ 福島再生加速化交付金事業等の実施状況等

(ア) 加速化事業の実施状況
a 長期避難者生活拠点形成の実施状況

長期避難者生活拠点形成のうち、執行額が1529億余円に上る災害公営住宅整備事業等の復興公営住宅の整備の状況をみると、 29年度末現在で整備計画戸数4,890戸のうち4,707戸が整備済みとなっていて、整備率は96.2%となっていた。整備済みとなっていない183戸のうち60戸は整備中で、建設が保留されている123戸は今後の需要に応じて建設の保留を解除する方針としている。整備済戸数のうちの大部分は福島県が事業実施主体となって整備している復興公営住宅であり、主にいわき、南相馬、郡山、福島、二本松各市において整備されている。また、避難元市町村が自ら事業実施主体となって避難先市町村に復興公営住宅を整備しているものも見受けられる。

復興公営住宅への入居に当たり、コミュニティ維持等の観点から団地等ごとに市町村単位や親族同士等、ある程度のまとまりを持って入居することができるように配慮していることから、福島県では団地等の単位ごとに入居対象となる避難元市町村の長期避難者に対する配分を決めている。福島県が事業実施主体となって整備し、入居が開始された復興公営住宅についてその配分状況をみると、避難元市町村である7市町村に配分されている。

復興公営住宅の29年度末現在の入居状況をみると、福島県及び3市町村が整備した4,513戸のうち空室数は計590戸、空室率は13.0%となっている。空室となっている理由には、入居開始時には一旦満室となったものの、その後入居者が自宅を取得して転居するなどしたものが含まれている。復興公営住宅は、入居者の転居等に伴い定期的に入居者を募集しても空室が解消されない状況にある。

基幹事業と一体となって実施している避難者支援事業等についてみると、復興公営住宅の住民等が使用する駐車場整備事業が、全事業数の75.0%、全執行額の38.4%を占めている(1019_3_2_1_1リンク参照)。

b 福島定住等緊急支援の実施状況

福島定住等緊急支援のうち基幹事業に係る加速化交付金の執行額は29年度末現在で計135億余円となっていて、このうち子どもの運動機会の確保のための事業は96.5%を占める状況となっている。効果促進事業等をみると、ソフト事業であるプレイリーダー養成事業等のほか、運動施設に係る駐車場整備や運動施設の外構工事等が行われている(1019_3_2_1_2リンク参照)。

c 帰還環境整備の実施状況

帰還環境整備のうち農山村地域復興基盤総合整備事業は、復興整備実施計画の21事業、農地整備事業の19事業の両事業で大半を占めている。29年度末現在における農山村地域復興基盤総合整備事業の進捗状況をみると、47事業のうち25事業が継続中となっていて、そのうち12事業は復興・創生期間が終了した後の令和3年度以降も事業を継続することとしている。福島県によると、事業で策定した復興整備実施計画の活用状況及び整備した農地の利用状況について、復興整備実施計画の全21事業のうち策定済みの16事業は、各地区の事業実施のための計画として使用しているとしており、ほ場の大区画化等を実施する農地整備事業では、事業が完了した1事業及び継続中の事業のうち7事業の事業が完了した区画で営農が再開されているとしている。

避難区域内危険物・化学物質等処理促進事業の事業実施主体は福島県となっていて、対象事業の実施状況をみたところ、計58億余円が交付されており、帰還困難区域に所在する事業者が保有する危険物、化学物質等3,887t等が処理された。

個人線量管理・線量低減活動支援事業について、避難指示・解除区域11市町村を除いて対象事業ごとの実施状況をみたところ、福島県、34市町村等で計180件の事業が実施され、執行額は計28億余円となっていた。このうち実施件数が110件、執行額が19億余円と最も多くなっている「被ばく線量低減対策」の事業内容をみると、内部被ばくの可能性のある食品の線量測定の実施件数が50件、執行額が9億余円と最も多くなっている(1019_3_2_1_3リンク参照)。

d 道路等側溝堆積物撤去・処理支援の実施状況

道路等側溝堆積物撤去・処理支援は、平成29年度末現在、福島県及び12市町村が事業実施主体となり、新交付金の交付額は計14億余円となっている。避難指示・解除区域11市町村を除く各市町村の事業の実施状況をみると、撤去等に係る側溝延長及び撤去数量はそれぞれ192.3km、5,831.2m3となっている。撤去数量のうち3,715.4m3が仮置場に保管されて、このうち2,319.0m3は29年度末までに最終処分場において処理されたが、残りの1,396.4m3は29年度末までに処理されなかった。道路等側溝堆積物の撤去及び処理が完了した地区のうち復興庁への実績報告の時点で維持管理が再開されていない地区について、事業実施主体となっている市町村において実績報告後の維持管理の再開状況を把握していなかった事態が見受けられた(1019_3_2_1_4リンク参照)。

e 原子力災害情報発信等拠点施設等整備の実施状況

原子力災害情報発信等拠点施設等整備のうち原子力災害情報発信等拠点施設整備事業は、福島県が事業実施主体となって、原子力災害に係る情報発信等拠点施設の整備等を実施するものであり、福島県は、29年度までに、当該施設の基本設計、実施設計等を実施しており、新交付金の執行額は29年度末現在で1億余円となっていた(1019_3_2_1_5リンク参照)。

f 避難者支援事業等及び効果促進事業等の実施状況

避難者支援事業等及び効果促進事業等については、単年度型事業では、福島県が実施した基幹事業のうち8.5%、市町村等が実施した基幹事業のうち9.5%において基幹事業と併せて実施されている。基金型事業では、福島県が実施した基幹事業のうち50.0%、市町村が実施した基幹事業のうち27.9%において避難者支援事業等又は効果促進事業等が実施されている(1019_3_2_1_6リンク参照)。

(イ) 環境整備等委託事業の実施状況
a 生活環境整備事業の実施状況

生活環境整備事業の事業数は計444事業となっていて、このうち「清掃等の行為」に係る事業は436事業、「公共・公益的機能を回復させるために必要な行為」は8事業となっている。受託市町村等別に実施状況をみると、全ての受託市町村等が「清掃等の行為」に係る事業を、2市町が「公共・公益的機能を回復させるために必要な行為」に係る事業を実施している。24年度から29年度までの委託費の推移について避難指示等の解除との関係からみると、田村市は26年度までに市内の避難指示が解除されるなど早い段階で公共施設等の機能回復に取り組めたことから、委託費の総額は他の受託市町村等と比較して少なくなっており、28年度以降は事業が実施されていないなどしていて、避難指示の解除時期に応じて委託費の額が変動している(1019_3_2_2_1リンク参照)。

b 帰還・再生事業の実施状況

帰還・再生事業の事業数は計704事業となっていて、受託市町村等別では浪江町の122事業が最も多く、委託対象事業別にみると、「その他」を除いては「避難区域の荒廃抑制・保全対策」の174事業が最も多くなっている。24年度から29年度までの事業数の推移について避難指示等の解除との関係からみると、田村市及び広野町は早い段階で帰還への環境が整えられたことから、事業数は他の受託市町村等と比べて少なくなっている。また、委託費が最も多くなっている「避難区域の荒廃抑制・保全対策」の委託対象事業についてみると、委託費総額135億余円のうち57億余円が「防犯・防災パトロール委託事業」となっていて、10市町村が実施している(1019_3_2_2_2リンク参照)。

(ウ) 帰還者の状況等

福島県被害状況即報の第1752報(平成31年4月5日8時現在)によると、県内への避難者数は避難指示・解除区域市町村からの7,235人、46都道府県への避難者数は32,476人となっている。

避難指示・解除区域市町村における避難指示区域等の住民登録数についてみると、震災前は157,964人であったが、31年3月31日現在は132,499人となっており、減少率は16.1%と福島県全体の減少率の8.6%を上回るものとなっている。避難指示・解除区域市町村のうち9市町村における居住率をみると、震災前の99.1%に対して31年3月31日現在の居住率は52.8%となっている。避難指示・解除区域市町村からの避難者数と復興公営住宅の整備済戸数をみたところ、29年度末現在、おおむね県内への避難者数に応じて復興公営住宅が配分又は整備され、加速化交付金が執行されていた。

避難指示区域等内の避難者について、帰還者の人数を把握している6町村における帰還率をみたところ、直近の避難指示解除が29年4月1日であり、避難指示解除後少なくとも2年を経過した時点において、49.2%となっていた。帰還率と環境整備等委託事業の施行状況等をみたところ、町村ごとに事業数及び委託費総額にばらつきがあるものの、各町村において避難者の早期帰還に向けた環境整備等委託事業が実施されていた(1019_3_2_3リンク参照)。

(2) 所見

東日本大震災は、被災地域が極めて広範囲にわたる大規模なものであるとともに、地震、津波及び原子力発電施設の事故による複合的な未曽有の大災害である。このうち、福島は地震及び津波による被害のみならず、原子力発電施設の事故に伴う原子力災害により深刻かつ多大な被害を受けるとともに、住民は避難指示等によりふるさとを離れての避難生活を余儀なくされている状況である。

国は、福島の復興及び再生に向けて総力を挙げて取り組んでいるところであり、加速化交付金を始めとする様々な支援制度を設けて、長期避難者に対する安定した生活環境を確保したり、避難解除等区域等における生活再開に必要な環境整備を行ったりするなどして、福島全域及び避難解除等区域等における復興及び再生を推進している。 また、福島復興再生基本方針において、国は、原子力災害からの福島の復興及び再生に向けた取組に当たって、同方針に基づく施策全般の着実な実施に必要な予算を確保するとともに適正かつ効率的な事業執行に努めるとされている。

ついては、復興基本方針及び福島復興再生基本方針において、福島の復興及び再生には中長期的な対応が必要であり、復興・創生期間後も継続して国が前面に立って取り組むとしていることを踏まえ、国又は事業実施主体は、今後も引き続き、次の点に十分留意して原子力災害からの福島の復興及び再生がより効果的なものとなるよう取り組む必要がある。

  • ア 国は、予算措置された加速化交付金等について、不用額が年度により増減して、府省庁等によっては一部の年度において不用額が多額となるなどの状況もあったことから、引き続き、事業実施主体における事業実施状況等を踏まえ、より着実な事業執行に努めること。また、事業実施主体が既に事業を完了して事業費の取崩しが終了した後の残額を保有している基金型事業において、当該残額を流用できる事業がないなどの場合には事業計画期間の期限の到来等による基金廃止等を待たずに国庫への返還を促すことに留意すること
  • イ 事業実施主体は、引き続き、福島再生加速化交付金事業等により整備した施設等を活用した事業効果について把握に努めるとともに、事業完了後の施設等の利用環境に変化が生じた場合は、施設等をより有効に活用するための適切な対応について検討すること
  • ウ 国は、各市町村における避難者及び帰還者の現状を踏まえ、避難指示・解除区域市町村、一部事務組合等の事業実施主体と今後も連携を図りつつ、復興及び再生に必要な措置について、引き続き検討すること

会計検査院としては、今後とも福島再生加速化交付金事業等の実施状況について、引き続き注視していくこととする。